特許第5736594号(P5736594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736594低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫、あるいはその塗装外装材
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736594
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫、あるいはその塗装外装材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/147 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   F16L59/147
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2010-231988(P2010-231988)
(22)【出願日】2010年10月14日
(65)【公開番号】特開2012-82944(P2012-82944A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000244084
【氏名又は名称】明星工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】垣内田 洋
(72)【発明者】
【氏名】下野 和昭
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 圭右
(72)【発明者】
【氏名】垰本 敏江
(72)【発明者】
【氏名】矢野 宏和
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−276483(JP,A)
【文献】 特開2001−270031(JP,A)
【文献】 特開2009−228286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/00 − 59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温流体が流れるかまたは貯えられるための空間と、前記空間を囲う保冷材と、前記保冷材を覆っており、外装表面に塗膜を有する塗装外装材と、を有する低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫であって、
前記塗膜表面の凹凸の算術平均粗さRが7μmよりも大きく、凹凸の平均うねり間隔Sが60μmよりも大きい、低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫
【請求項2】
前記塗装外装材は塗装外装鋼板である、請求項1に記載の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫。
【請求項3】
日射反射率が0.2以上である、請求項1に記載の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫。
【請求項4】
低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫のための塗装外装材であって、
前記塗装外装材の外装表面に形成された塗膜表面の凹凸の算術平均粗さRが7μmよりも大きく、凹凸の平均うねり間隔Sが60μmよりも大きい、塗装外装材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫、あるいはそれに用いる塗装外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(Liquefied natural gas, 液化天然ガス)などの低温流体を輸送する配管や、それを貯蔵する貯蔵庫は、低温流体の流路または貯蔵空間11と、それを囲う保冷材21と、その周囲を覆う外装材31とを有する(図1(a)参照)。
【0003】
このような低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫は、野外に設置されることが多い。そのため、図1(b)に示すように、日中は日射を受けて外装材の温度が上がり、逆に夜間は内部流体が保冷材を通して外装材を冷却する。図1(b)における実線が外装材の温度を示し、点線は外気の温度を示す。
【0004】
日中の外装材の温度の上昇は、その内側の保冷材の僅かな熱伝導により、内部の低温流体を加温して蒸発損失させる可能性がある。そのため、内部流体の蒸発を許容できる温度の上限(温度T)以下に外装材の温度を抑える必要がある。
【0005】
一方、夜間は、逆に内部流体が保冷材を通して外装鋼板を冷却し、外気温度よりも外装材の表面温度が低くなる。そして外装材の表面温度が外気温度を一定量下回ったときに、外装材の表面で結露が生じるため、これは外装材(例えば外装鋼板)の腐食が速まる原因になる。この結露の発生は、特に外気無風状態において生じやすい。
【0006】
そのため、外装材の表面と外気との熱伝達の効率を高めて、外装材の表面の温度(図1(b)における実線)を、外気温度(図1(b)における点線)に近づけることが、施設保守という観点で重要である。この熱伝達の効率は、一般に「表面熱伝達率」という指標で表され、「放射熱伝達」と「対流熱伝達」の二つからの寄与に分類される。
【0007】
外装材の表面と外気との熱伝達の効率を高めるために、従来から、高放射率の塗装外装材を用いたり、さらには外装材の表面に放射率を向上させる微細な凹凸を形成したりして、赤外放射率を高めて「放射熱伝達率」を向上させることが報告されている(特許文献1〜4を参照)。
【0008】
また、他の従来技術として、金属管の内部にエッチングなどによって数ミクロン程度の凹凸をつけ、内部で強制流動する液体などと表面との間で行われる熱交換の効率を改善するといった技術が報告されている(特許文献5を参照)。さらに他の従来技術として、沸騰熱伝達を促進する表面形状について報告されている(特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-276483号公報
【特許文献2】特開2001-270031号公報
【特許文献3】特開2001-99497号公報
【特許文献4】特開2000-171045号公報
【特許文献5】特開昭55-152181号公報
【特許文献6】特開2002-228389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術(例えば、特開2004-276483号公報)では、外装材の表面の材料や形状を改良して、外装材の「放射率」を高めることで放射熱伝達を促進している。しかしながら、この場合、外装材の表面温度は熱伝達する対象物に依存する。そのため、外装材の「放射率」を高めても、外装材の表面温度は必ずしも周囲の外気温度に近づくとは限らず、その配置環境によっては周囲の外気温度に近づかない場合がある。これは、室温での放射エネルギーが高密度に分布する波長域(8〜13μm帯)が「大気の窓」と呼ばれ、大気からの放射率が極めて小さい領域であるために、外気と塗装表面との間で放射熱伝達が効率的には行われにくいからである。
【0011】
この「大気の窓」に関して、最も身近に見られるのが晴天時での「放射冷却現象」である。図2に示すように、多くの場合、配置された低温流体輸送配管1の周囲には、より高温の物体(例えば、図2における地面2、工場3など)がある。そのため、低温流体輸送配管1の外装材が高放射率を有していれば、周辺の物体から放射熱を受けて昇温しようとすることが多い。ところが、例えば平地や砂漠といった天空が開けた環境に配置された低温流体輸送配管の外装材は、逆に周辺へ熱放射し、場合によっては高放射率の外装鋼板の表面温度は、外気温度をより大きく下回ることがある。
【0012】
このように外装材の放射率を上げると、周囲から放射による影響を受けやすくなり、外装材の表面温度の変化は、その設置環境に強く依存するようになる。そのため、配置環境周辺に放射源がない場合には冷却されやすい。したがって、外装鋼板の放射率は、設置環境(設置場所や方向)を考慮しながら調整されなければならない。
【0013】
前述の通り、外装材の表面で生じる熱伝達には「放射」による寄与と「対流」による寄与とがある。「対流」は物体表面と接する周囲の外気で起こるため、「対流」による熱伝達を促すことで、表面温度は外気温度により近づこうとし、しかも、この現象は設置環境に係わらずに生じる。
【0014】
外装材の表面での結露が生じる重要な要因には、1)外気の気流速さと、2)外装材の表面と外気との温度差とがある。このうち、1)外気の気流速さの要因は設置環境に影響を受けるので;本発明は、どのような設置環境であっても結露が生じにくい外装材を提供するべく、結露が生じやすい外気無風状態あるいはそれに近い状態(自然対流が支配的な状態)を前提として、結露を抑制できる外装材の提供を検討する。つまり本発明は、従来技術(特開昭55-152181号公報,特開2002−228389号公報)で検討されている強制対流や、液体と気体とが混在する状態といった特殊な条件を前提とする技術と異なる。
【0015】
本発明は、設置環境に影響を受けない結露発生要因である2)外装材の表面と外気との温度差に着目して、外装材の表面の対流熱伝達率を高めることで、結露の発生を抑制しようとする。それにより、設置環境に係わらず、外装材表面での結露の発生、ひいては外装材の腐食を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上のとおり、本発明は、外装材の塗装表面において日中の日射吸収による表面の昇温をできるだけ抑え、かつ夜間における外装材の表面での結露、ひいては外装材の腐食を防止する技術を提供する。
【0017】
すなわち本発明の第一は、低温流体を輸送する配管または低温流体を貯蔵する貯蔵庫である。
[1]低温流体が流れるかまたは貯えられるための空間と、前記空間を囲う保冷材と、前記保冷材を覆っており、外装表面に塗膜を有する塗装外装材と、を有する低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫であって、
前記塗膜表面の凹凸の算術平均粗さをRとし、凹凸の平均うねり間隔をSとしたときに、S> 45μm であり、かつ下記式(1)により求められる対流熱伝達率h(W/m/K)が6.7以上である、低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫。
= 6.2793 + 0.0568R+ 0.000627S・・・(1)
【0018】
[2]前記塗装外装材は塗装外装鋼板である、[1]に記載の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫。
[3]日射反射率が0.2以上である、[1]に記載の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫。
【0019】
本発明の第二は、低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫のための塗装外装材である。
[4]低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫のための塗装外装材であって、
前記塗装外装材の外装表面に形成された塗膜表面の凹凸の算術平均粗さをRとし、凹凸の平均うねり間隔をSとしたときに、S> 45μm であり、かつ下記式(1)により求められる対流熱伝達率h(W/m/K)が6.7以上である、塗装外装材。
= 6.2793 + 0.0568R+ 0.000627S・・・(1)
【発明の効果】
【0020】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫によれば、夜間の外装材表面での表面結露が効果的に抑制される。しかも、その効果は低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫の配置環境に影響を受けずに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫が、日中には日射を受けて外装材の温度が上がり、夜間には逆に内部流体が保冷材を通して外装材を冷却する様子を説明する図である。
図2】低温流体輸送配管の配置環境の例を示す図である。
図3】外装材の表面と外気との境界で生じる、温度境界層を説明する図である。
図4】実施例で用いた実験装置を模式的に示す図である。
図5】FT-IRによって測定した空気の赤外分光透過率および放射率を示す。
図6】実施例における参考例H,参考例A,実施例Cの、レーザ顕微鏡で観察した表面形状を示す。
図7-1】参考例Gにおいて、放射率が高い放射制御板を用いた温調実験における、経過時間(X軸)と各部材の温度(Y軸)との関係を示す。
図7-2】参考例Nにおいて、放射率が高い放射制御板を用いた温調実験における、経過時間(X軸)と各部材の温度(Y軸)との関係を示す。
図8-1】参考例Gにおいて、放射率が低い放射制御板を用いた温調実験における、経過時間(X軸)と各部材の温度(Y軸)との関係を示す。
図8-2】参考例Nにおいて、放射率が低い放射制御板を用いた温調実験における、経過時間(X軸)と各部材の温度(Y軸)との関係を示す。
図9】全表面熱伝達率hseと、表面形状RおよびSとの関係を示す。
図10】各熱伝達率と赤外放射率との関係を示す。
図11】対流熱伝達率hと、算術平均粗さRおよび平均間隔Sと、の関係を示す。
図12】対流熱伝達率hと、(R,S)との関係を三次元的にプロットしたグラフである。
図13-1】日射反射率Rsolと、算術平均粗さRおよび平均間隔Sと、の関係を示す。
図13-2】日射反射率Rsolと、算術平均粗さRおよび平均間隔Sと、の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫は、低温流体が流れるかまたは貯えられるための空間と、前記空間を囲う保冷材と、前記保冷材を覆っている外装材と、を有する。通常は、低温流体が流れるかまたは貯えられるための空間と保冷材との間に、鋼板層が配置される。
【0023】
低温流体とは、典型的には液化天然ガス(LNG)であるが、液化石油ガス(LPG)、液体窒素、液体酸素、液体アンモニアなどの液化ガスなどあってもよい。
【0024】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫における保冷材は、断熱材とも称される。保冷材には、繊維系断熱材と、発泡系断熱材と、その他とがあるが、特に限定されない。発泡系断熱材の例には、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、ポリスチレンフォームなどがある。
【0025】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫における外装材は、基材と、外装表面に形成された塗膜とを有する。
【0026】
外装材の基材の例には、Alめっき鋼板、Znめっき鋼板,Zn-Alめっき鋼板, Zn-Al-Mgめっき鋼板、ステンレス鋼板などの鋼板や、アルミニウム板などが含まれる。Alめっき鋼板やステンレス鋼板は光沢度が高いので、外装表面にクリア塗膜を設けた場合には、日射反射率が高くなるので、好ましい場合がある。
【0027】
基材に、常法に従って脱脂、洗浄、置換処理、化成処理などの塗装前処理を施した後、樹脂塗膜を形成して外装材を得る。後述の通り、樹脂塗膜表面は、特定の凹凸の算術平均粗さRと、特定の凹凸の平均うねり間隔Sとを有する。そのような表面を有する樹脂塗膜は、例えば、縮み塗料または骨材分散塗料を塗布・焼付けして形成されうる。
【0028】
縮み塗料は、表面張力や硬化速度などが異なる2種以上の樹脂を混合した塗料である。縮み塗料を、適切な条件下で塗布・焼付けすることによって、所定の表面粗さをもつ樹脂塗膜が成膜される。塗料樹脂の樹脂種類は特に制限されないが、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などが使用されうる。焼付け条件は、焼付温度を180〜250℃とし、焼付時間を30〜120秒の範囲とすることが多い。
【0029】
骨材分散塗料とは、骨材が分散された樹脂塗料である。骨材分散塗料を塗布焼付けすることによって、塗膜中に分散している骨材によって所定の表面粗さに調整された樹脂塗膜が成膜される。骨材の例には、ガラスビーズ、シリカ粒子、ナイロンビーズ、ポリエステルビーズ、ポリアクリロニトリルビーズ、PTFE粒子、アクリルビーズなどがある。骨材の粒径などは、樹脂塗膜表面の形状が所望の形状になるように選択すればよい。
【0030】
所定粒径の骨材を、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂などに配合した塗料組成物を、基材に塗布し、例えば焼付け温度180〜250℃、焼付け時間30〜120秒で焼き付けると、所望の表面粗さを有する樹脂塗膜が形成されうる。
【0031】
形成される樹脂塗膜の厚みは、所望の表面形状が得られる限り特に限定されないが、通常は10μm〜50μmの範囲である。
【0032】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫は、その外装材の外装表面に形成された塗膜の表面形状に特徴を有する。つまり、塗膜の表面形状を適切に制御することで「対流熱伝達率h」を高めている。
【0033】
まず、外装材の表面と外気(例えば空気)との境界での対流について検討する。図3に示すように、外装材31の表面と外気41との境界では、温度が急激に変化する薄い温度境界層42が生じる。ここで、外装材の表面温度をθseとし、外気温度をθとする(この例ではθse>θであるが、θse<θにおいても同様に成り立つ)。温度境界層42の厚みをδとする。図3(a)の外装材31の外装表面は平滑であるが、図3(b)の外装材31の外装表面は粗面化されている。
【0034】
外装材31の表面温度θseと外気41の温度θとが平衡状態にある場合、境界で生じる対流による外装材から外気への伝熱qは、下記式(1)の通り、温度差の線形関数として近似的に表される。式(1)において、係数hは対流伝熱の起こりやすさの指標であり、「対流熱伝達率」と称される。
【数1】
【0035】
さらに、上記式(1)は、外気41の熱伝導率λを用いて、下記式(2)のように変形されうる。式(2)で示されるように、対流熱伝達率hは、温度境界層42の厚さδによって決定され、厚さδが小さくなると増加することがわかる。
【数2】
【0036】
外気41が空気である場合の温度境界層42の厚さδは、通常数ミリ程度であるが;厚さδは、対象となる外装材の表面の向き(水平方向または鉛直方向など)、あるいは対流速度によって変わるだけでなく、図3に示すように外装材31の表面の微細形状にも影響を受ける。外装材31の表面の微細形状によって、外気と接する外装材の表面の正味表面積が変化したり、微細凹凸による気流への影響が生じたりするからである。
【0037】
したがって、外装材31の外装表面の形状を調整することで、温度境界層42の厚さδ、ひいては対流熱伝達率hが制御可能であることがわかる。そこで、本発明の低温流体配管または低温流体貯蔵庫では、外装材31の外装表面の「凹凸の算術平均粗さR」と「凹凸の平均うねり間隔S」とを調整することで、温度境界層の厚さδを適切な範囲で小さくし、かつ対流熱伝達率hを適切な範囲で大きくしている。
【0038】
本発明の低温流体配管または低温流体貯蔵庫の外装材31は、外装表面に塗膜を有する。したがって、当該塗膜の表面の凹凸の「算術平均粗さR」と「平均うねり間隔S」とを調整することで、外装材31の外装表面を所望の状態とする。塗膜表面の形状の調整手段は、特に限定されないが、前述の通り、塗膜の形成に縮み塗料を用いたり、骨材分散塗料を用いたりすることで所望の塗膜表面形状を得ることができる。
【0039】
第一に、外装材31の外装表面の「凹凸の平均うねり間隔S」は45μmよりも大きいことが好ましく、60μmよりも大きいことがより好ましい。一方、「凹凸の平均うねり間隔S」の上限は特に制限されないが、塗装技術を含む生産技術の制限から、通常は200μmよりも小さいことが多い。「凹凸の平均うねり間隔S」は、JIS B0601:1994に準拠して、例えば表面形状測定レーザ顕微鏡(例えば、VK−8500,キーエンス社製)で測定されうる。
【0040】
次に、外装材31の表面の「凹凸の算術平均粗さR」は2μmよりも大きいことが好ましく、4μmよりも大きいことがより好ましく、7μmよりも大きいことがさらに好ましい。一方、「凹凸の算術平均粗さR」の上限は特に制限されないが、塗装技術を含む生産技術の制限から、通常は30μmよりも小さいことが多い。「凹凸の算術平均粗さR」は、JIS B0601:1994に準拠して、例えば表面形状測定レーザ顕微鏡(例えば、VK−8500,キーエンス社製)で測定されうる。
【0041】
凹凸の算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sが、対流熱伝達率hへ影響を及ぼすメカニズムは、それぞれ以下の通りに説明されうるが、そのメカニズムが限定されるわけではない。
【0042】
まず、外装材31の外装表面の凹凸の算術平均粗さRを高めると、外装材31の外装表面の表面積の増大に寄与する。つまり、凹凸の高低差を設けることで、外気と接する正味の表面積が増えるため、熱伝達が効率的に行われると考えられる。一方、平均うねり間隔Sの増大は、表面と接する気流に影響すると推察される。つまり、凹凸算術平均粗さ(R)が増えると、表面付近では対流が生じにくい形状になるが、凹凸の平均うねり間隔(S)が大きくなることで対流がスムーズに起きやすくなり、熱伝達が生じやすくなると考えられる。ただし、平均うねり間隔Sの増加で外気と接する正味の表面積が減少するため、一方的に熱伝達率が向上するわけではない。
【0043】
本発明は、外装材31の外装表面の「凹凸の平均うねり間隔S」と「凹凸の算術平均粗さR」とを高めることにより、対流熱伝達率hを高めることを特徴とするが;具体的に、対流熱伝達率h(W/m/K)は、以下の式(1)により求められ、かつ6.7以上であることが好ましく、6.8以上であることがより好ましく、7.0以上であることがさらに好ましい。
= 6.2793 + 0.0568R+ 0.000627S ・・・(1)
【0044】
上記式(1)は、後述の本願実施例のデータから導き出される関数であり、「凹凸の平均うねり間隔S」と「凹凸の算術平均粗さR」のいずれもが、対流熱伝達率hに寄与していることを示している。
【0045】
一方、従来の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫における外装板の外装表面は、赤外放射率を高めるため「凹凸の平均うねり間隔S」を一定以下にすることが必要であると考えられていた(特開2001−270031号公報などを参照)。事実、「凹凸の平均うねり間隔S」を一定以下にすると、赤外放射率を高めることには有効であるが;一方で、対流熱伝達率hを高めるという点からは、好ましくない場合があった。すなわち、対流熱伝達率hを十分に高めなければ夜間の外装表面での結露が抑制できない場合があり;しかも、対流熱伝達率hを十分に高めるには「凹凸の平均うねり間隔S」を高めることが有効である。このように本発明は、夜間の外装表面での結露という課題を解決しようとするものであり、それを解決するための主要手段の一つとして「凹凸の平均うねり間隔S」を高めている。
【0046】
また、本発明の低温流体配管または低温流体貯蔵庫の外装材の日射反射率は、0.2以上であることが好ましい。日射反射率は、凹凸の算術平均粗さRが大きくなるにしたがって、急激に低下しやすい。そのため、一定以上の日射反射率を得ようとすると、凹凸の算術平均粗さRを一定以下にしなければいけない場合がある。一方で、日射反射率は、凹凸の平均うねり間隔Sに依存しないか、または凹凸の平均うねり間隔Sが大きくなるにしたがって上昇する傾向がある。そのため、凹凸の平均うねり間隔Sを一定以上とすることで、日射反射率を下げることなく、対流熱伝達率hを高めることができる。
【0047】
また、日射反射率は、塗膜の材質などによっても調整され、また塗膜表面が過剰に粗いと低下する。日射反射率は、JIS K5602:2008に基づき、紫外可視光分光光度計(例えば、U−4100,日立ハイテクノロジーズ社製)で求めればよい。
【0048】
以下の実施例に示されるように、本発明者は様々な表面形状を有する試験体を作製し、加熱・冷却試験による温度測定から対流熱伝達率hを求めて、対流熱伝達率hが向上する凹凸形状を探索した。もちろん、日中の配管温度上昇の原因となる外装鋼板の日射吸収率が上がらないように考慮しながら、最終的な表面形状を決定することが好ましい。
【0049】
以上の通り、本発明は、対流熱伝達率hを高める表面微細形状を有する外装材と、それを含む低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫を提供する。
【実施例】
【0050】
図4に示す実験装置を準備した。図4(a)に示すように、実験装置の主な構成は、温調装置51、保冷材21、試験体(外装材)32、放射制御板61である。
【0051】
図4(b)に示すように、約200mm×200mmの貼合わせ面をもつ試験体32と保冷材21、および保冷材21と温調装置51の温調面とを注意深く貼り合わせて、均一かつ十分に熱接触させるようにした。貼合わせは、シリコンシート71(厚さ0.5mm、熱伝導率1W/m・K)を介して行い、シリコンシート71と保冷材21とは熱伝導性グリース72(熱伝導率2.2W/m・K)によって密着させた。保冷材21は、硬質ウレタンボード(厚さ10mm、熱伝導率0.032W/m・K)である。
【0052】
また、放射による熱伝達を制御するため、試験体32の表面から一定厚み(50mm)の空気層43を介して放射制御板61を対峙させた。放射制御板61として、高放射率(ε=0.92)の板を用いた。また、放射制御板61として低放射率(ε=0.04)の板を用いて、放射制御板の効果を確認するための参照実験を同様の手順にて行った。放射制御板61の板面サイズを500mm×500mmとした。それにより、放射制御板61以外の周辺からの試験体32への放射の影響をできるだけ抑制した。具体的には、その影響の小ささの指標となる形態係数(範囲0〜1で値をとる)が、0.9以上になるようにした。ここでの形態係数とは、試験体32の放射のやりとりの全てのうち、放射制御板61とのやりとりが占める割合を示す。形態係数に関するより具体的な説明は、「最新建築環境工学(田中俊六 他共著、井上書院)、pp.185-188」に記載されている。
【0053】
空気層43の温度を約20℃、湿度を50%に制御して、試験体32の表面が結露しない雰囲気を維持した。準備した実験装置で、表面熱伝達率hを求めるために必要な、1)温調装置51の温調表面の温度θsi、2)試験体32の外装表面温度θse、3)空気層43の温度θ、4)放射制御板61の温度θを計測した。温調装置51の温調面の温度θsiを、−20℃あるいは+60℃近傍で一定に制御しながら、保冷材21を通して冷却または加熱された試験体32の表面温度θseを測定した。
【0054】
次に、表面熱伝達率、熱流、温度の関係について述べる。全表面熱伝達率hseは、基本的に放射成分hと対流成分hcによる二つに分類され、下記式(3)の通り、近似的に足し合わせで表される。
【数3】
【0055】
試験体32の外装表面温度θse、温調装置51の温調温度(温調表面−保冷材間の温度)θsi、空気層43の温度θ、放射制御板61の温度θ(≒θ)で平衡状態に達している場合には、試験体32への熱の流入出は空気層43−試験体32の表面間と、保冷材21−試験体32の表面間で等しくなり、下記式(4)が成立する。
【数4】
【0056】
式(4)における左辺は、試験体32の表面と空気層43との間で生じる熱流であり、温度差と表面熱伝達率との積である。一方、式(4)における右辺は、試験体32の表面と温調装置51の温調面との間で保冷材21を通して生じる熱流である。ここで、λは保冷材の熱伝導率であり、dは保冷材の厚みである。
【0057】
式(4)を変形することで、全表面熱伝達率hseを求める式(5)が得られる。
【数5】
【0058】
一方、本実施例で放射制御板61の温度θと空気層43の温度θとが、絶対温度で見てほぼ同じ(θ≫θ)であるとすると、放射熱伝達率hを用いて、放射熱伝達は式(6)で表される。
【数6】
【0059】
式(6)における右辺の第一項は、空気層43と試験体32の表面との間で行われる正味の放射熱流であり;第二項は、放射制御板61と試験体32の表面との間で行われる正味の放射熱流である。ここで、εは試験体32の放射率、εは空気層43の放射率、εは放射制御板61の放射率である。σはステファン・ボルツマン定数である。式(6)の右辺は、試験体32の表面の放射熱伝達の相手が、空気層43と放射制御板61の二つあることを示している。
【0060】
図5には、FT-IRによって測定した空気(相対湿度50%,厚み2.4m)の赤外分光透過率と、それから見積もった本実施例の実験系における空気層43(厚み5cm)の赤外分光放射率とが示されている。また、図5における塗りつぶし領域は、室温での大気の放射エネルギー分布を示している。図5に示される測定結果から、大気層(本実験では厚み5cm)の放射率εは、ε=10−3しかないことがわかる。そのため、式(6)における右辺第一項は無視でき;その結果、放射熱伝達率hは下記式(7)で表され、各部材における測定温度と、試験体32の放射率および放射制御板61の放射率とから算出されうる。
【数7】
【0061】
本実施例では、冷却あるいは加熱試験で測定した各温度から式(5)と(7)を用いて、全表面熱伝達率hseと放射熱伝達率hをそれぞれ求め、これらの値を式(3)に適用して最終的に、対流熱伝達率hを求めた。
【0062】
表1には、試験体32として用意した試験体(外装材)A〜Nの作製条件を示す。
【0063】
試験体(外装材)A〜Mでは、板厚0.6mmの溶融アルミニウムめっき鋼板を基材として使用した。基材をアルカリ脱脂した後、クロメートフリー塗装前処理として、フッ化チタン酸アンモニウム20g/Lとタンニン酸5g/Lを含有する処理液を塗布し、水洗することなく乾燥して、Ti付着量10mg/mの処理皮膜をめっき表面に形成した。この処理皮膜上に、下塗り塗料をロールコーターにて塗装し、板面風速5m/秒の焼付けオーブン内に投入して、到達板温度200℃で30秒間焼き付けることで膜厚5μmの乾燥塗膜を得た。下塗塗料は、イソシアネート架橋型エポキシ変性ポリエステル樹脂をベースに、防錆顔料としてリン酸水素マグネシウム(塗料固形分中5重量%)、リン酸亜鉛(10重量%)およびトリポリリン酸アルミニウム(10重量%)を配合し、体質顔料として酸化チタン(15重量%)および硫酸バリウム(10重量%)を配合した塗料とした。
【0064】
(試験体A)
下塗り塗膜を形成した表面に、上塗り塗料としてポリエステル系縮み塗料を塗装した。100重量部のポリエステル樹脂(分子量3000)と、30重量部のメチル化メラミンと、ドデシルベンセンスルホン酸0.6重量部とジ-n-ブチルアミン2.4重量部とを室温で混合して得た反応混合物3重量部を有機溶剤に溶解してベース塗料(a)を得た。色調をグレーとするため、ベース塗料(a)に着色顔料を添加して分散し、ポリエステル系縮み塗料を得た。
添加した着色顔料には、塗料固形分中の比率で、酸化チタン(平均粒径 0.23μm)を38重量%、カーボンブラック(平均粒径 0.02μm)を0.5重量%、酸化鉄(黄)(平均粒径 0.09μm)を0.3重量%、フタロシアニンブルー(平均粒径 0.05μm)を0.1重量%となるよう配合した。
【0065】
得られたポリエステル系縮み塗料を、下塗り塗膜に塗布し、板面風速2m/秒の焼付けオーブン内に投入し、到達板温度220℃で50秒焼き付けることにより、平均膜厚22μmの縮み塗膜を形成し、試験体Aを作製した。
【0066】
(試験体E)
試験体Aの作製において、焼付け時の板面風速を7m/秒としたこと以外は、試験体Aと同様の手順で試験体Eを得た。板面風速を制御することで、異なる縮み柄を形成し、算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sを変えた(試験体Aと試験体Eとの比較など)。
【0067】
(試験体B〜DおよびF,G)
試験体Aに使用したグレー色のポリエステル系縮み塗料に、表1に示したように、さらに骨材を添加して塗料を調製した。骨材には、平均粒径30μmのポリアクリロニトリル粒子(東洋紡株式会社製 タフチックYK−30)、または平均粒径20μmのガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ株式会社製 EGB731)を使用した。焼付け時のオーブン内での板面風速は、表1に示す条件で実施した。塗膜の平均膜厚はいずれも22μmであった。
【0068】
(試験体H)
下塗り塗膜を形成した表面に、通常の平滑な塗膜を得るためのポリエステル系塗料を塗布した。100重量部のポリエステル樹脂(分子量3000)と、10重量部のメチル化メラミンおよび40重量部のブチル化メラミンを有機溶剤に溶解してベース塗料(b)を作製した。さらに、色調をグレーとするため、ベース塗料(b)に着色顔料を添加して分散し、ポリエステル系塗料を得た。添加した着色顔料の配合は、ベース塗料(a)に添加された着色顔料と同様とした。
【0069】
得られたポリエステル系塗料をロールコーターにて、下塗り塗膜に塗装し、板面風速5m/秒の焼付けオーブン内に投入して到達板温度220℃で50秒焼き付けることにより平滑な塗膜を形成した。塗膜の平均膜厚は、重量法により20μmと測定された。
【0070】
(試験体I〜K)
試験体Hに使用したグレー色のポリエステル系塗料に、表1に示したように、さらに骨材を添加して塗料を調製した。調製した塗料を、試験体Hと同様に、下塗り塗膜に塗布・焼付けて塗膜を形成した。骨材には、平均粒径30μmのポリアクリロニトリル粒子(東洋紡株式会社製 タフチックYK−30)を使用した。塗膜の平均膜厚は、20μmであった。
【0071】
(試験体L)
ベース塗料(b)に、平均粒径16μmのアルミフレーク(昭和アルミパウダー株式会社製 561ER)を、塗料固形分中の比率で11重量%添加し、シルバーの色調とした塗料を調製した。試験体Hと同様に塗布・焼付けて試験体Lを得た。平均膜厚は20μmであった。
【0072】
(試験体M)
ベース塗料(a)に、平均粒径16μmのアルミフレーク(昭和アルミパウダー株式会社製 561ER)を、塗料固形分中の比率で11重量%添加し、シルバーの色調とした塗料を調製した。試験体Aと同様に塗布・焼付けて試験体Mを得た。板面風速は2m/秒とした。平均膜厚は22μmであった。
【0073】
(試験体N)
試験体Nには、板厚0.2mmのアルミニウム板をそのまま使用した。
【0074】
【表1】
【0075】
各外装板の日射反射率、赤外放射率、試験体表面の凹凸の算術平均粗さ、および試験体表面の凹凸の平均うねり間隔が表2に示されている。形成された樹脂塗膜の表面粗さを表面形状測定レーザ顕微鏡(VK−8500,キーエンス社製)で測定し、凹凸の算術平均粗さR,凹凸の平均うねり間隔Sを求めた。また、赤外線放射率を、FTIR分光装置(GX1P, パーキンエルマー社製)で測定した。更に、紫外可視光分光光度計(U−4100, 日立ハイテクノロジーズ社製)で日射反射率を測定した。
【0076】
【表2】
【0077】
図6(a)から(c)には、用意した試験体のうちのそれぞれ参考例H,参考例A,実施例Cの表面形状のレーザ顕微鏡写真が示されている。
【0078】
例として、参考例Gと参考例Nについての前述の温調実験における、各部材の温度(Y軸)と経過時間(X軸)との関係を図7および図8に示す。つまり、高放射率(ε=0.92)の放射制御板61を用いた場合(図7)の結果と、低放射率(ε=0.04)の放射制御板61を用いた場合(図8)の結果とが示される。また、各実験について、温調装置51の温調表面の温度を−20℃または+60℃の二通りの設定で行った。
【0079】
温調装置51の温度θsiを一定に保持すると、徐々に試験体32の表面温度θseおよび放射制御板温度θが、それぞれ一定温度に近づき平衡に達する。本実験では、温調装置51の温調表面温度θsiが一定温度に到達してから10分以後に、全部材の温度が平衡に達した。
【0080】
図7に示すように、放射制御板61の放射率が高い場合には(ε=0.92)、放射率が比較的高い参考例Gでは、放射制御板61と試験体32の間で放射熱伝達が積極的に行われるため、θseはθに近い値となる(図7(a)および(b))。また、放射制御板61の温度θも放射熱伝達により僅かにθseに近づく傾向を示す。それに対して、放射率が比較的低い参考例Nでは、放射制御板との間で生じる放射熱伝達が比較的小さく、その結果、θseとθとの差は、図7(a)および(b)の場合に比べ大きくなる(図7(c)および図7(d))。
【0081】
一方、図8に示すように、放射制御板61の放射率が低い場合には(ε=0.04)、試験体32の放射率が高い参考例Gでも(図8(a)および図8(b))、放射率が低い参考例Nでも(図8(c)および図8(d))、放射制御板61の温度θbは試験体32の表面温度θseに近づかず、空気層43の温度θにほぼ一致したままとなる(θ≫θ)。
【0082】
図7および図8で示したように、放射制御板61を用いることで放射熱伝達の様子がはっきり見えるが、このように放射が制御された状況にして平衡状態に達した各部材の温度を正確に調べることで、放射および対流による熱伝達を明確に分けて決定することができ、対流熱伝達を求めることが可能となる。具体的には、平衡状態に達した後の各部材の温度を、式(5)、式(7)、式(3)に順次適用して、それぞれの表面熱伝達率hse、h、hを求めた。本実施例では、温調装置の設定温度θsiを−20、60℃と変えて測定を行ったが、それら温度の違いに拘らず得られた表面熱伝達率はほぼ同じ値であった。表3に各試験体での測定値を記載した。一般的に、熱伝達する互いの物体の温度やそれら物体間の温度差によって、表面熱伝達率は僅かに異なる値を取る傾向があり、一意に決めることは容易ではない。しかし、本実施例では、このように極端に温調装置の温度設定変えて外装表面温度と気温との差(θse−θ)を−12〜+12℃と変えても、一定の表面熱伝達率hse、h、hを求めるに至った。このことは、これら得られた表面熱伝達率の信頼性が高いことを示唆するものである。
【0083】
【表3】
【0084】
図9には、全表面熱伝達率hseと、凹凸の算術平均粗さRおよび凹凸の平均うねり間隔Sとの関係を示す(●参照)。図9には、参考のため、特開2001-270031の実施例に記載の結果から、JIS A9501の条件に準じて見積もったhseの結果も示す(○参照)。図9に示されるように、本実施例における結果は、総じて全表面熱伝達率hseが高く、特に、凹凸の平均うねり間隔Sが大きい(45μm以上)と、従来よりも明らかに表面熱伝達率hseが高まっている。
【0085】
図10には、各試験体の赤外放射率と、各熱伝達率(全表面熱伝達率hse、放射熱伝達率h、対流熱伝達率h)との関係を示す。赤外放射率を広範囲に亘って見た場合、赤外放射率と全表面熱伝達率hse(■)との関係を表す点線の傾きは、放射熱伝達率h(▲)の赤外放射率依存性を表す点線の傾きに一致している。よって、本熱試験の信頼性が確保できていると考えられる。なぜならば、全表面熱伝達率hseの傾きと放射熱伝達率hの傾きとが一致することは、従来の知見(特開2004-276483、特開2001-270031を参照)に一致するからである。
【0086】
このように、放射熱伝達率hは、全表面熱伝達率hseを決める一要因であり、周囲に比較的高温の対象物がある場合に限って表面の放射率を高めることが有効であることを示している。
【0087】
図10には、全表面熱伝達率hseと放射熱伝達率hとから、式(3)を用いて求めた対流熱伝達率h(■)の結果も示されている。本実験例において、対流熱伝達率hは、5.8〜7.4(W/m/K)の範囲の値を取り、それらは放射率に依存していないように見える。
【0088】
次に、図11に示すように、対流熱伝達率h(■)を、凹凸の算術平均粗さRおよび凹凸の平均うねり間隔Sごとにプロットした。つまり、図11(a)には、対流熱伝達率hと算術平均粗さRとの関係が示され;図11(b)には、対流熱伝達率hと平均うねり間隔Sとの関係が示される。算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sのいずれにおいても、数値の増加とともに対流熱伝達率hが増加しているのが確認される。
【0089】
外装表面は、様々なRとSの組み合わせの形状を有しているため、これらが対流熱伝達率hに及ぼす寄与を図11からは正確に見極められない。図12は、算術平均粗さRまたは平均間隔Sの増大により、対流熱伝達率hが増加することをより明確に示す。図12(a)には、対流熱伝達率hと、(R,S)との関係を三次元的にプロットした。これから、算術平均粗さRと平均うねり間隔Sの両者ともに、対流熱伝達率hの増加に寄与していることがわかる。図中のメッシュで示した平面は、本実施例の測定データを平面フィッティングした結果であり、この面の傾きから凹凸の算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sの対流熱伝達率hへの寄与の大きさが求められる。また、図12(b)は、このフィット平面を断面方向(図中の直線に対応)から見たときのデータを表している。
【0090】
図12(a)に示された平面の傾き、言い換えれば図12(b)の横軸のRとSの線形式の係数から、算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sの対流熱伝達率hへの影響は、それぞれ0.0568(W/m/K/μm)、0.000627(W/m/K/μm)と見積もられる。このように、外装材の外装表面に凹凸形状を形成する場合に、凹凸の算術平均粗さRを大きくすることで効率的にhを高めることができ、かつ平均うねり間隔Sを高めることで、緩やかであるがhを高める傾向が見られる。これら二つの形状因子が温度境界層厚さひいては対流熱伝達率に寄与していることが、本実施例で見出された。式(3)で明らかなように、外装材表面の対流熱伝達率hを高めることで、全表面熱伝達率hseを向上することができる。そしてこのことは、式(5)から期待されるように、保冷材厚dの低減、あるいは、より高い露点に対応した外装材の開発に繋がると言える。一方、従来例(特開2004−276483号公報、特開2001−270031号公報)では、赤外放射率の制御という本件と異なる目的であるが、表面形状(R、S)の制御が行われており、この例においても結果的に対流熱伝達率hは高められていたと考えられる。しかしながら、従来のRとSの制御範囲で見ると、Sm>45μmに限れば、h≦6.51(W/m/K)までの達成に留まっている。これはRとSの両者を同時に高くすることが難しかったためであり、本発明で外装材表面でこれを初めて実現した。
【0091】
上記のようにRとSを同時に高めることできれば、日中の日射吸収による外装鋼板内部昇温の問題を回避することができる。図13(a)には、日射反射率Rsolと算術平均粗さRとの関係が示されており;図13(b)には、日射反射率Rsolと平均うねり間隔Sとの関係が示されており;図13(c)には、日射反射率Rsolと、(R,S)との関係を三次元的にプロットした。図13(a)に示されているように、塗膜を構成する成分が基本的に同じ場合は、算術平均粗さRが上昇すると日射反射率Rsolが急激に低下することがわかる。一方で、図13(b)に示されるように、日射反射率Rsolは、平均うねり間隔Sに依存しないか、または平均うねり間隔Sが大きいと高まることがわかる。
【0092】
このように、対流熱伝達率hを高めながら、日射反射率Rsolを維持しようとする場合には、特に算術平均粗さRおよび平均うねり間隔Sの両方を高めることが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫は、外装材の外装表面の対流熱伝達率hが高く、夜間の外装材表面での表面結露が効果的に抑制される。しかも、その効果は配管または貯蔵庫の設置環境によらずに得られる。そのため、本発明の低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫は、種々の環境に設置しても、長期的に配管または貯蔵庫を腐食させることなく、LNGなどの低温流体を配送または貯蔵することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 低温流体輸送配管または低温流体貯蔵庫
2 地面
3 工場
11 流路または貯蔵空間
21 保冷材
31 外装材
32 試験体
41 外気
42 温度境界層
43 空気層
51 温調装置
61 放射制御板
71 シリコンシート
72 熱伝導性グリース
θsi 温調装置の温調表面温度
θse 試験体の外装表面温度
θ 空気層の温度
θ 放射制御板の温度
温調装置から試験体への熱流
ra 大気から試験体への放射熱流
rb 放射制御板から試験体への放射熱流
大気から試験体への対流伝熱
ε 外装材の赤外放射率
ε 大気の赤外放射率
ε 放射制御板の赤外放射率
λ 保冷材の熱伝導率
λ 大気の熱伝導率
se 全表面熱伝達率
放射熱伝達率
対流熱伝達率
sol 日射反射率
図1
図2
図3
図4
図5
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図6