特許第5736732号(P5736732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736732
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】クロマトカラム及びその可動栓
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   G01N30/60 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-246356(P2010-246356)
(22)【出願日】2010年11月2日
(65)【公開番号】特開2012-98168(P2012-98168A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年10月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】三輪 聡志
(72)【発明者】
【氏名】木下 譲
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−133059(JP,A)
【文献】 特表2006−515429(JP,A)
【文献】 特開昭63−173960(JP,A)
【文献】 特開昭62−43568(JP,A)
【文献】 特開2004−45416(JP,A)
【文献】 特開2004−219113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00〜30/96
F16L 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィーのカラム内に配置される可動栓において、
先端部が充填剤に対面し、可動栓の軸心部をカラムの軸心線方向に延在する可動栓コアと、
該可動栓コアの先端側の外周に外嵌した環状のスクレーパと、
該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、
該スクレーパと該ベースとの間に設けられたスクレーパ押圧手段と、
該可動栓コアを該ベースの該凹所に押し込む方向に引き付けるための引付手段と
を備えてなり、
該可動栓コアの先端側の外周部にフランジ部が設けられ、該スクレーパは該フランジ部に係合しており、
該スクレーパは、該スクレーパ押圧手段と該フランジ部とによって圧されたときに拡径方向に変形可能である可動栓であって、
前記フランジ部は、前記可動栓コアの先端側ほど拡径した形状となるテーパ面を有しており、
前記スクレーパの内周面は、該可動栓コアのテーパ面に重なるテーパ面を有しており、
前記スクレーパは、円筒面よりなる外周面と、前記テーパ面(22a)と、可動栓の軸心線に対し垂直な底面とを有し、スクレーパ(30)の周回方向と直交方向の断面形状が直角三角形であり、
前記可動栓コアは、前記フランジ部と該フランジ部の基端部に連なる円柱部とを有しており、
該円柱部は該フランジ部のテーパ面の基端部よりも小径となっており、該円柱部の先端部と該フランジ部のテーパ面の基端部との境界が段差部(22b)となっており、
前記スクレーパ(30)の基端部は、該段差部(22b)よりも該可動栓コアの基端側まで延在していることを特徴とする可動栓。
【請求項2】
請求項1において、前記引付手段は、前記ベースを貫通して前記可動栓コアに螺着されたボルトであることを特徴とする可動栓。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可動栓が内部に配置された液体クロマトグラフィーのカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー用のカラム(以下、クロマトカラムということがある。)に用いられる可動栓と、この可動栓を用いたクロマトカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、天然物や発酵生産物、遺伝子組み替え等による培養生産物、合成反応物中の目的物質を目的の純度、精製速度で分離精製する手段として広く用いられている。
【0003】
従来、液体クロマトグラフィー用カラムへの充填剤の充填は、第6図のような方法により行われている。
【0004】
即ち、まず、第6図(a)に示す如く、可動栓1を備えたカラム2を用い、第6図(b)に示す如く、このカラム2に充填剤を溶媒に混合して調製したスラリー3を投入する。そして、第6図(c)に示す如くカラム上部に溶媒流出口を備え、充填剤の流出を防止する多孔板を有した上蓋4を取り付け、可動栓1を押し上げることにより、溶媒を上蓋4の溶媒流出口から押し出し、第6図(d)に示す如く、充填剤の充填層5を加圧形成する。即ち、この可動栓1の移動により、可動栓と反対の側から均一な充填層を積層させてゆき、充填終了後は、この可動栓1による充填層5の加圧を維持する。この充填装置はアクシャルコンプレッション型カラムとして広く知られている。
【0005】
この可動栓とカラムの内周面との間には、密にシールして液体や充填剤が漏れないようにするためのシール構造が設けられている。
【0006】
可動栓とカラム内周面との間のシール構造体には、従来、例えばOリングシールや、可動栓が所定位置まで移動した後圧縮空気を抜いてシールするもの(特許第4098342号)などがある。
【0007】
ところが、上記のOリングシールは、Oリングシール部とカラム本体内壁面の間に空隙ができ、この空隙部分からの空気抜きが容易でないばかりでなく、充填剤や液だまりとなり、汚染や精製効率の低下の原因となる。
【0008】
また、上記特許第4098342号のシール構造は、圧縮媒体で加圧してシール部を後退させて緩めておいて、可動栓をカラム内の所定位置に移動させ、その後、圧縮媒体による加圧を除き、バネの押す作用力によってシール材を押しあてて密閉するものである。この方式では、シールを緩めておいて可動栓を移動させる為、カラム内にあらかじめ充填剤を充填している場合、可動栓を充填層表面に接触させた時、スラリー状の充填剤がシール部とカラム内壁面に毛管現象によって入り込み、シール状態が悪化するだけでなく、できた隙間が液だまりとなり、汚染原因となり、クロマト分離精製効率を低下させる。また、バネの押圧力は、バネ反発力の劣化によって経過時間によって変化し、一定のシール精度を保ちにくい。さらに、充填剤スラリーがシール部とカラム内壁面との間に入り込むことを防止するために、シールを緩めない又はほとんど緩めないで可動栓を移動させる場合、シールの移動が容易でない他、シール材の摩耗が激しく、シール材寿命が短くなり、頻繁に取り換えることが必要になるが、取り換え時期の予測が容易でなく、また、取り換えにかかる時間、労力、シール材費用などのコストが必要になり経済的でない。
【0009】
そこで先に本発明者らは、第7図に示す可動栓を出願した(特願2010−059392号)。第7図の可動栓110は、可動栓コア120と、環状のスクレーパ130と、該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所141を有するベース140と、可動栓コアの外周を取り巻いているパッキン150及びその上下両側のパッキンアダプタ151,152と、可動栓コア120を引き付けるボルト160とを備えてなり、可動栓コアのフランジ部122にスクレーパ130が係合している。スクレーパ130及び可動栓コア120のフランジ部122にテーパ面が設けられている。
【0010】
この第7図の可動栓110にあっては、ボルト160を回転させることにより、可動栓コア120がベース140側に引き付けられ、Vパッキン150がスクレーパ130とベース140との間で挟圧されて拡径方向に膨出する。このVパッキン150がクロマトグラフィー用カラムの内周面に当接することにより、Vパッキン150とカラムの内周面とのシールが行われる。
【0011】
ところが、第7図の可動栓110では、主にVパッキン150とカラムの内周面との間でシールを行うため、該Vパッキン150よりも上方におけるスクレーパ130とカラム内周面との間に充填剤や液が浸入するおそれがある。また、かかる浸入を防止し得る程度に、カラム挿入前のスクレーパ130の外径をカラムの内径よりも十分に大きいものとすると、可動栓10の移動が容易でない他、スクレーパ130の摩耗が激しく、スクレーパ130の寿命が短くなり、頻繁に取り換えることが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4098342号
【特許文献2】特願2010−059392号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、液体クロマトグラフィーの操作性、信頼性、経済性、分離精製効率を向上させることができる可動栓と、この可動栓を備えたクロマトカラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明(第1態様)の可動栓は、液体クロマトグラフィーのカラム内に配置される可動栓において、先端部が充填剤に対面し、可動栓の軸心部をカラムの軸心線方向に延在する可動栓コアと、該可動栓コアの先端側の外周に外嵌した環状のスクレーパと、該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、該スクレーパと該ベースとの間に設けられたスクレーパ押圧手段と、該可動栓コアを該ベースの該凹所に押し込む方向に引き付けるための引付手段とを備えてなり、該可動栓コアの先端側の外周部にフランジ部が設けられ、該スクレーパは該フランジ部に係合しており、該スクレーパは、該スクレーパ押圧手段と該フランジ部とによって圧されたときに拡径方向に変形可能であることを特徴とするものである。
【0015】
第2態様の可動栓は、第1態様において、前記フランジ部は、前記可動栓コアの先端側ほど拡径した形状となるテーパ面を有しており、前記スクレーパの内周面は、該可動栓コアのテーパ面に重なるテーパ面を有していることを特徴とするものである。
【0016】
第3態様の可動栓は、第2態様において、前記スクレーパ押圧手段の先端側には、前記挟圧時に前記フランジ部のテーパ面の基端側を受け入れる空間が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
第4態様の可動栓は、2又は3態様において、前記可動栓コアは、前記フランジ部と該フランジ部の基端部に連なる円柱部とを有しており、該円柱部は該フランジ部のテーパ面の基端部よりも小径となっており、該円柱部の先端部と該フランジ部のテーパ面の基端部との境界が段差部となっており、前記スクレーパの基端部は、該段差部よりも該可動栓コアの基端側まで延在していることを特徴とするものである。
【0018】
第5態様の可動栓は、第1ないし4のいずれか1態様において、前記スクレーパ押圧手段は、前記圧時に変形可能な柔軟性を有することを特徴とするものである。
【0019】
第6態様の可動栓は、1ないし5のいずれか1態様において、前記引付手段は、前記ベースを貫通して前記可動栓コアに螺着されたボルトであることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の液体クロマトグラフィーのカラムは、1ないし6のいずれか1態様に記載の可動栓が内部に配置されたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の可動栓及びこの可動栓を備えたクロマトカラムにおいては、可動栓コアをベースに引き付けることにより、スクレーパがスクレーパ押圧手段とフランジ部とによって圧され、スクレーパ自体が拡径してカラム内周面に接触する。これにより、カラム内の微粒子や微粒子スラリーが、該スクレーパとカラム内周面との間に入り込むことが阻止される。
【0022】
第2態様の可動栓にあっては、可動栓コアがベースに引き付けられた際に、スクレーパがフランジ部のテーパ面に沿って移動することにより、良好に拡径してカラム内周面に接触する。
【0023】
第3態様の可動栓にあっては、可動栓コアがベースに引き付けられた際に、フランジ部のテーパ面の基端側の一部がスクレーパ押圧手段の空間内に収容される。この収容が終了するまでの間、スクレーパ押圧手段は該フランジ部のテーパ面に阻害されることなく、スクレーパを確実に押圧することができる。
【0024】
第4態様の可動栓にあっては、スクレーパが段差部よりも可動コアの基端側に延在している。これにより、少なくともこの段差部から延在した距離にわたり、スクレーパ押圧手段は、該テーパ面に阻害されることなくスクレーパを確実に押圧することができる。
【0025】
スクレーパ押圧手段は、圧時に変形可能な柔軟性を有するものであってもよい。この場合、スクレーパ押圧手段は変形してスクレーパに良好に押圧力を付与することができる。
【0026】
可動栓コアをベース側に引き付ける手段は、ボルトであってもよい。図示していないが、可動栓コアとベースとの螺着であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
図2】第2の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
図3】第3の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
図4】第4の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
図5】第5の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
図6】従来例を示す断面図である。
図7】別の従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0029】
第1図(a)は第1の実施の形態に係る可動栓の軸心線方向の断面図、同(b)はこの可動栓の先端部に多孔質板を装着した状態の断面図である。
【0030】
この可動栓10は、可動栓コア20、スクレーパ30、ベース40、シールリング(スクレーパ押圧手段)50等を備えている。この可動栓10は、先端側(図の上端側)がカラム内の充填剤に接するように配置される。可動栓コア20は、可動栓10の先端から軸心線方向に延在する略々円柱状体よりなる。この可動栓コア20の中間から基端側(図の下端側)にかけては、等径の円柱部21である。この円柱部21よりも上側はフランジ部22である。
【0031】
このフランジ部22の下面は、上方ほど拡径するテーパ面22aとなっている。可動栓コア20の上端面には浅い円形の凹所23が設けられ、この凹所23の側周面の上部側には拡径段部24が形成されている。この段部24に係合することにより、多孔質板25が該可動栓コア20の先端面に装着され、多孔質板25と凹所23底面との間に、液の分配供給又は収集排出用の空室が形成される。
【0032】
凹所23の底面の中心部から可動栓コア20の底面の中心部にまで貫通するように液の供給又は排出用の連通孔26が設けられている。
【0033】
可動栓コア20の底面には、後述のボルト60が螺合する雌螺子穴27が可動栓10の軸心線と平行方向に設けられている。
【0034】
スクレーパ30は、このフランジ部22の外周に嵌合した環状部材である。スクレーパ30の外周面は等径の円筒面よりなる。スクレーパ30の内周面は、前記テーパ面22aと重なるテーパ面31からなる。スクレーパ30の底面は、可動栓10の軸心線に対し垂直となっている。この環状のスクレーパ30の周回方向と直交方向の断面形状は直角三角形となっている。このスクレーパ30の基端面はテーパ面22aの下端と同一高さとなっている。
【0035】
ベース40は、略円柱形状のものであるが、上面中央には可動栓コア20の下部が内嵌する凹部41が設けられている。この凹部41の底面からベース40の底面にまで環通する液流通孔42が設けられている。この実施の形態では、ベース40にボルト60の挿通孔43が設けられている。
【0036】
シールリング50は、スクレーパ30とベース40との間において可動栓コア20を周回するように設けられている。このシールリング50の断面形状には特に限定はなく、断面形状が円形又は楕円形のОリングであってもよく、断面形状が三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形であってもよく、星型、四葉型等であってもよい。シールリング50の形状はリング状(円形)に限らず、1本又は複数のひも形状を周回するように設けても良く、カラム直径が数m程度の大型カラムで実用的に使用できる。
【0037】
ボルト60は、挿通孔43を通って雌螺子穴27にねじ込まれている。ボルト60の頭部がベース40の底面に当接した後、さらにボルト60を回転させることにより、可動栓コア20がベース40側に引き付けられる。
【0038】
この可動栓10にあっては、上記引き付け前の状態において、カラム挿入前のスクレーパ30の外径をカラムの内径と等しいか、それよりもごく僅か大きいものとし、スクレーパ30の外周面をカラムの内周面に押し付けるようにするのが好ましい。具体的にはカラムの内径をdとし、スクレーパ30の外径(直径)をdとした場合、d−dが0よりも大きく且つdの3%以下特に2%以下とりわけ1%以下であることが好ましい。
【0039】
上記のスクレーパ30及びフランジ部22のテーパ面31,22aのテーパ角θ(第1図(a)参照)は5°以上90°未満特に15〜60°程度であることが好ましい。
【0040】
スクレーパ30の材料としては、上記シールリング(スクレーパ押圧手段)50とフランジ部22のテーパ面22aとによって圧されたときに拡径方向に変形可能なものが用いられる。このスクレーパ30の材料としては、天然ゴム、EPDMゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム等のゴムが好ましい。また、フッ素化樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンや、部分フッ素化樹脂、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルやフッ素化樹脂共重合体、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ素化エチレン共重合体などが好ましい。これらの他、フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体で被覆したゴムなども適用できる。
【0041】
可動栓コア20の材料は、ステンレス、チタン、ハステロイなどの耐食性金属が好ましいが、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、アクリル、メチルペンテンなどの合成樹脂であってもよい。
【0042】
ベース40の好ましい材料としては、可動栓コア20と同様のものが例示されるが、これに限定されない。ベース40の外径はカラムの内径dよりも小さいことが好ましく、またパッキンアダプタ52の内径と外径の中間値以上であることが好ましい。
【0043】
シールリング50の材料としては、スクレーパ30と同様のものが例示されるが、これに限定されない。
【0044】
このように構成された可動栓10をカラム内に装着する場合、該可動栓10をカラム内に挿入し、所望の位置に配置した後、ボルト60を回転させる。これにより、スクレーパ30がシールリング(スクレーパ押圧手段)50及び可動栓コア20のテーパ面22aによって挟圧され、該スクレーパ30が該テーパ面22aに沿って該テーパ面22aに対して相対的に上方に移動し、該スクレーパ30が拡径する。この拡径したスクレーパ30がカラムの内周面に押し付けられることにより、スクレーパ30とカラムの内周面とが強固にシールされる。これにより、スクレーパ30とカラム内周面との間に充填剤や液が侵入せず、液溜りも生じない。この結果、精製分離効率が向上する。
【0045】
なお、本実施の形態では、該ボルト60の回転時にシールリング50もスクレーパ30とベース40とによって挟圧され、拡径方向に変形する。この拡径したシールリング50がカラムの内周面に押し付けられることにより、シールリング50とカラムの内周面とも強固にシールされる。但し、該ボルト60の回転時に、シールリング50がカラムの内周面に押し付けられない構成にしてもよい。
【0046】
この可動栓10が内挿されたクロマトカラムにあっては、液が孔42,26及び多孔板25を通ってカラム内に導入又はカラムから流出する。カラム内の充填剤が可動栓10とカラム内周面との間に入り込まないので、クロマト分離精製効率が高い。
【0047】
この可動栓10にあっては、ボルト60を外してベース40と可動栓コア20とを分離することにより、スクレーパ30やシールリング50を容易に交換することができる。
【0048】
なお、シール中の可動栓10を充填剤側(第1図の上方)に移動させる場合、カラム内周面からの摩擦力により、スクレーパ30にテーパ面22aに沿って下方に移動する方向に力が加わる。しかしながら、スクレーパ30にはシールリング50から押圧力が加えられている。これら摩擦力と押圧力とが釣り合うことにより、充填剤がスクレーパ30とカラム内周面との間に浸入することが阻止されながら、可動栓10が充填剤側(第1図の上方)にスムーズに移動する。反対に、シール中の可動栓10を充填剤と反対側(第1図の下方)に移動させる場合、カラム内周面からの摩擦力により、スクレーパ30にテーパ面22aに沿って上方に移動する方向に力が加わる。しかしながら、スクレーパ30のテーパ面31はフランジ部22のテーパ面22aに支持され、該テーパ面22aから押圧力が加えられている。これら摩擦力と押圧力とが釣り合うことにより、充填剤がスクレーパ30とカラム内周面との間に浸入することが阻止されながら、可動栓10が充填剤と反対側(第1図の下方)にスムーズに移動する。
【0049】
第2図〜第5図を参照して第2〜第5の実施の形態に係る可動栓について説明する。
【0050】
第2図の可動栓11は、可動栓コア20の代わりに、軸方向に長い円柱部21Aを有した可動栓コア20Aを用い、また、スクレーパ30とベース40との間に、シールリング50、円板状の仕切板70及びシールリング50Aを、可動栓コア20Aを周回するように上側からこの順に設けたものである。
【0051】
このように2個のシールリング50,50Aが仕切板70で仕切られているため、各シールリング50,50Aが互いに接触することなく適切に変形する結果、スクレーパ30を良好に押圧することができる。また、シールリング50,50Aの各々が適切に拡径方向に変形してカラムの内周面に押し付けられるため、シールリング50,50Aとカラムの内周面とが強固にシールされる。これにより、第1図の可動栓10のように1個のシールリング50を用いた場合と比べて、シール性がより向上する。さらに、可動栓11をカラム内に移動させるときに、シールリング50,50A同士が重なり合ったり絡み合ったりすることが該仕切板70によって防止されるため、可動栓11がスムーズに移動する。
【0052】
この仕切板70の材料としては、天然ゴム、EPDMゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム等のゴムが好ましい。また、フッ素化樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンや、部分フッ素化樹脂、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルやフッ素化樹脂共重合体、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ素化エチレン共重合体などが好ましい。これらの他、フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体で被覆したゴム、ポリプロピレン、アクリル、メチルペンテン、ポリスルホンなどの合成樹脂なども適用できる。この仕切板70の厚さには特に限定はないが、シールリング50,50Aの径(第2図における上下方向高さ)の1/4〜3倍程度が好ましい。第2図では2個のシールリング50,50Aを用いたが、これは複数個のシールリングを用いた場合の一例であり、3個以上のシールリングを用いてもよく、この場合にも、各シールリングの間に仕切板を介在させる。シールリングの個数に限定はないが、4個以下特に2個以下が好ましい。2個以下であると、ベース40からの押圧力を、シールリング及び仕切板70を介して最上段のシールリングからスクレーパ30に良好に伝えることができる。
【0053】
第3図の可動栓12は、第2図の可動栓11において、シールリング50A及び仕切板70の代わりに、2枚のVパッキン53を積層状に配置したものの上下にそれぞれパッキンアダプタ(ウェアリング)51,52を配置した積層体を用いたものである。これらVパッキン53及びパッキンアダプタ51,52は、内径が可動栓コア20の外径と同一か又は若干大であり、外径がスクレーパカラムの内径よりも若干小である。パッキンアダプタ51の内周面の上部には、切欠き部51aが周設されており、この切欠き部51a内が空間となっている。これらVパッキン53及びパッキンアダプタ51,52は、シールリング50よりもスクレーパ30側(第3図の上側)に配置されている。
【0054】
この第3図の可動栓12において、ボルト60を回転させると、ベース40、シールリング50、パッキンアダプタ52及びVパッキン53を介してパッキンアダプタ51が上方に押し上げられる。このとき、切欠き部51aがフランジ部22のテーパ面22aの基端側(下端側)を受け入れることにより、該パッキンアダプタ51が可動栓コア20Aに対して相対的に上方に移動する。かかる移動がある程度進行すると、切欠き部51aに受け入れられるテーパ面22aの外径が大となり、これ以上の受け入れが不能となり、移動が停止する。
【0055】
このように該パッキンアダプタ51が可動栓コア20Aに対して相対的に上方に移動する際に、スクレーパ30が該テーパ面22aに沿って該テーパ面22aに対して相対的に上方に移動し、該スクレーパ30が拡径する。この拡径したスクレーパ30がカラムの内周面に押し付けられることにより、スクレーパ30とカラムの内周面とが強固にシールされる。上記の通り、該パッキンアダプタ51の可動栓コア20Aに対する相対的な上方移動が停止すると、該スクレーパ30の移動も停止する。このように、切欠き部51a付きパッキンアダプタ51は、スクレーパ30の移動距離限定機能を有する。また、Vパッキン53がスクレーパ30とベース40との間で挟圧されて拡径方向に膨出する。このVパッキン53がクロマトグラフィー用カラムの内周面に当接することにより、可動栓12とカラムの内周面とのシールが行われる。
【0056】
Vパッキン53の積層枚数は2枚以上、特に4〜8枚程度が好適である。パッキンの材料としては、フッ素樹脂、フッ素ゴム、EPDM、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素樹脂被覆合成ゴムなどが好適であるが、これに限定されない。
【0057】
パッキンアダプタ51,52の材料としては、フッ素化樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンや、部分フッ素化樹脂、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルやフッ素化樹脂共重合体、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ素化エチレン共重合体などが好ましい。これらの他、フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体で被覆したゴムや、フッ素ゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、EPDMなども適用できる。但し、上記のスクレーパ30の移動距離限定機能を発揮するためには、フッ素化樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンや、部分フッ素化樹脂、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルやフッ素化樹脂共重合体、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ素化エチレン共重合体等の硬質材料が好適に用いられる。
【0058】
なお、第3図の可動栓12では、ベース40とボルト60の頭部との間に皿バネ61を装着させている。このため、ボルト60の接続に弾力性が生じる。それにより、Vパッキン53やスクレーパ30に外力が生じたとき、Vパッキン53だけでなく、皿バネ61が収縮したり、伸びたりして、ボルト60の締めつけの程度が調節されて、Vパッキン53とカラム内壁面との間に漏れが生じることなく、かつ、Vパッキン53やスクレーパ30の劣化を軽減できる。第3図では、1枚の皿バネ61が設置されているが、枚数に制限はなく、例えば2〜12枚としてもよい。複数枚とする場合には、皿バネ61は、皿の凸部と凸部、または凹部と凹部が向き合うように重ねることにより、ボルト60の接続により弾力性が生じる。皿バネ61はボルト60により可動栓コア20をベース40に引き付ける態様であれば適用可能であり、他の態様(第1,2,4図の態様)においても適用できる。
【0059】
第4図の可動栓13は、第2図の可動栓11において、可動栓コア20Aの代わりに可動栓コア20Bを用い、仕切板70の代わりに、2枚のVパッキン53を積層状に配置したものの上下にそれぞれパッキンアダプタ(ウェアリング)51A,52Aを配置した積層体を用いたものである。この可動栓コア20Bは、可動栓コア20Aにおいて、フランジ部22のテーパ面の下端の径を円柱部21の径よりも大とし、これらテーパ面と円柱部21との境界に段差部22bを設けたものである。スクレーパ30の下部は、該段差部22bよりも下方にまで延在している。スクレーパ30の下部は、円柱部21の外周面に接しているが、離隔していてもよい。
【0060】
第4図の可動栓13にあっても、ボルト60を回転させることにより、スクレーパ30がシールリング50及び可動栓コア20Bのテーパ面によって挟圧され、該スクレーパ30が該テーパ面に沿って該テーパ面に対して相対的に上方に移動し、該スクレーパ30が拡径する。この拡径したスクレーパ30がカラムの内周面に押し付けられることにより、スクレーパ30とカラムの内周面とが強固にシールされる。また、シールリング50,50A及びVパッキン53が拡径してカラムの内周面に押し付けられることにより、シールリング50,50A及びVパッキン53とカラムの内周面とが強固にシールされる。
【0061】
この第4図の段差部22bは、他の態様(第1〜3図の態様)においても適用できる。例えば、第3図において、可動栓コア20Aの代わりに可動栓コア20Bを用い、切欠き部51aを省略してもよい。この場合、この段差部22bがスクレーパ30の移動距離限定機能を発揮する。具体的には、ボルト60を回転させると、パッキンアダプタ51は可動栓コア20Bに対して上方に移動するが、ある程度上方移動すると、該段差部22bが更なる上方移動を阻止する。このように、パッキンアダプタ51が所定距離だけ上方移動することにより、スクレーパ30が所定距離だけ上方移動し、該スクレーパ30が拡径してカラムの内周面に押し付けられる。なお、切欠き部51aを省略しない場合には、切欠き部51a及び段差部22bの両方が、スクレーパ30の移動距離限定機能を発揮する。
【0062】
第3図において、スクレーパ30とパッキンアダプタ51は一体に成形されていてもよい。そうすることにより、スクレーパ30とパッキンアダプタ51との間に液だまりができることがなく好ましい。
【0063】
第1図〜第4図の可動栓10〜13にあっては、フランジ部22の上面の周縁から直接にテーパ面22aが連なっていたが、第5図のように、フランジ部22の上面の周縁が、円筒状外周面22cを介して該テーパ面22aに連なるようにしてもよい。また、スクレーパ30にも、テーパ面31の上端に連なる円筒面32を設けてもよい。この円筒面32に対しフランジ部22の円筒状外周面22cが係合する。可動栓コア20の円筒状外周面22c及びスクレーパ30の円筒面32の高さhはカラムの内径dの1/400以上特に1/250以上であることが好ましい。また、hは20mm以下、特に10mm以下であることが好ましい。スクレーパ30の円筒面32部分の肉厚tはdの1/15以下、特に1/20以下が好ましい。
【0064】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。
【0065】
本発明の可動栓は、ステンレス等の金属製カラム及び透明アクリル等のプラスチック製カラム等に適用することができる。特に、プラスチック製カラムは金属製カラムと比べて加工精度が低く、内周面に凹凸が存在する場合があるが、本発明の可動栓によれば、かかる凹凸を有するプラスチック製カラムにおいても良好にシールを行うことができる。
【符号の説明】
【0066】
10〜13 可動栓
20,20A,20B 可動栓コア
22b 段差部
30 スクレーパ
40 ベース
50,50A シールリング
51,51A,52,52A パッキンアダプタ
51a 切欠き部
53 Vパッキン
60 ボルト
70 仕切板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7