(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対物レンズを保持するレンズホルダーと、そのレンズホルダーの外側に配置された複数の駆動用コイルと、を備えており、前記レンズホルダーに設けられた磁極と前記駆動用コイルへの通電により発生する磁界との相互作用によって、前記レンズホルダーをフォーカス方向およびトラッキング方向に駆動させる対物レンズ駆動装置の磁石構造であって、
前記レンズホルダーは、その全体が略立方体形状のボンド磁石で構成されているとともに、前記対物レンズを搭載する面を除く四つの側面に、一つの側面あたり少なくとも二つの異なる磁極が形成されており、
前記駆動用コイルは、それぞれ前記四つの側面の磁極に向かい合うように配置されてなり、
前記レンズホルダーは、異方性の希土類-鉄-窒素ボンド磁石組成物から形成されており、
前記レンズホルダーの成形工程において、磁性粒子が所定の向きに配向されており、
前記成形工程の後、前記四つの側面を順番に着磁することにより前記磁極が形成されることを特徴とする対物レンズ駆動装置の磁石構造。
【背景技術】
【0002】
対物レンズ駆動装置は、光学式記録装置を構成する部品のひとつである。光学式記録装置は、光源から発生するレーザー光をコリメーターやミラー等の光学素子を介して対物レンズに導き、この対物レンズでレーザー光を収束させて、CDやDVDのような光ディスクの記録面にレーザー光を照射することで情報記録を行い、また、記録面で反射したレーザー光を光検出器で検出して情報再生を行うように構成されている。
【0003】
対物レンズの役割は、入射するレーザー光を収束させ収差の少ないレーザー光をディスクに供給することであり、レーザー光の焦点を記録面に合わせて、記録面に対してレーザー光を正確に走査することである。したがって、対物レンズを駆動させる対物レンズ駆動装置は、光ディスクの高速回転に伴う面振れに合わせて、フォーカス方向およびトラッキング方向に対して瞬時に対物レンズを追随させる応答性が求められる。
【0004】
この対物レンズ駆動装置の駆動原理は、フレミングの左手の法則に従った磁気と電気の相互作用によって、駆動力を生じさせるというものである。
図1は、ムービングコイル型と呼ばれる方式の対物レンズ駆動装置を示す。対物レンズ1を搭載したレンズホルダー2の4つの側面には、図示されたように、レンズホルダー2をトラッキング方向およびフォーカス方向それぞれに駆動させるための駆動用コイル3、4が接着剤で固定されている。フォーカス方向およびトラッキング方向それぞれに向かい合うように駆動用コイルがそれぞれ一対となって配置されている。すなわち、トラッキング方向に垂直な方向に、レンズホルダー2を挟んで一対のトラッキング方向駆動用コイル3が配置されており、フォーカス方向に垂直な方向に、レンズホルダー2を挟んで一対のフォーカス方向駆動用コイル4が配置されている。これらの駆動用コイル3、4を備えたレンズホルダー2は、金属ワイヤー(図示せず。)によって片持ち支持されている。一方、レンズホルダー2の外側には、それぞれの駆動用コイル3、4に向かい合うような位置に、磁界発生用の永久磁石5、6が配置されている。
【0005】
続いて、対物レンズ1がフォーカス方向およびトラッキング方向に動作する原理を説明する。永久磁石5、6が発生させる磁界が、トラッキング方向駆動用コイル3およびフォーカス方向駆動用コイル4に流れる電流に作用し、その結果、各駆動用コイル3、4には、フレミングの左手の法則に従って、トラッキング方向およびフォーカス方向に動くような駆動力が作用する。ここで、レンズホルダー2は、金属ワイヤーによって宙吊り状態で片持ち支持されているので、各駆動用コイルに流す電流の方向によって、レンズホルダー2は、その位置を自在に運動可能となる。
【0006】
ところで、対物レンズ駆動装置は、その駆動方式の違いによって、先に説明したムービングコイル型と、ムービングマグネット型との2つに分類することができる。
【0007】
ムービングコイル型は、
図1で説明したように、レンズホルダーに駆動用コイルを貼りつけたレンズユニットが動く方式である。一方、ムービングマグネット型は、レンズホルダーに磁界発生用の永久磁石を接着剤で貼り付けたレンズユニットが動く方式である。
【0008】
図2は、代表的なムービングマグネット型の対物レンズ駆動装置を示す。対物レンズ1を搭載したレンズホルダー2の4つ側面に、図示するように永久磁石5、6が接着剤で固定されている。レンズホルダー2は、金属ワイヤー(図示せず。)によって片持ち支持されている。一方、レンズホルダー2に固定された永久磁石5、6の外側には、トラッキング方向駆動用コイル3と、フォーカス方向駆動用コイル4とが配置されている。永久磁石5、6が作り出す磁界が、各駆動用コイル3、4に流れる電流に作用し、その結果、各駆動用コイル3、4には、フレミングの左手の法則に従って、トラッキング方向およびフォーカス方向に動くような駆動力が発生する。ここで、各駆動用コイルは固定されているため、作用・反作用の法則により、宙吊り状態で片持ち支持されたレンズホルダー2が、その位置を自在に運動可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようなムービングコイル型とムービングマグネット型とを比較すると、ムービングコイル型は、駆動用コイルそれ自身を含めた動作対象となるレンズユニットの軽量化が行いやすいため、これまで多くの対物レンズ駆動装置に採用されてきた。
【0011】
しかし、近年、光学式記録装置の再生速度の高速化に伴い、対物レンズの駆動にも高速化が求められるようになってきた。そのため、駆動用コイルに流す電流を大きくする必要がでてきた。しかし、駆動用コイルに大きな電流を流すと、駆動用コイルの発熱が大きくなり、その発熱により対物レンズ自体に歪みが発生し、信号の読取りエラーが問題となってしまう。さらに、ムービングコイル型の場合、駆動用コイル自体が稼動部品をなるため、駆動用コイルに接続する信号線がぶらぶらした宙吊り状態になっており、その組立て作業は非常に繊細なものとなり、組立て作業が極めて困難となる課題がある。
【0012】
一方で、ムービングマグネット型では、構造上このような問題が発生しない。すなわち、駆動用コイルはレンズホルダーと離れているために駆動用コイルの発熱は対物レンズに影響せず、信号線も固定側に配置されるので宙吊り状態にならない。このような理由から、ムービングマグネット型の対物レンズ駆動装置が注目を集めている。
【0013】
しかしながら、ムービングマグネット型は、
図2のようにレンズホルダー2に永久磁石を接着剤で貼り付ける方式であり、別の大きな問題点がある。それは、レンズホルダー2に永久磁石5、6を接着剤で固定する際に、接着の仕方次第で、レンズユニット全体の外形寸法が安定しないということである。そのため、駆動用コイルとの空間ギャップの設計を所望よりも大きく取らざるをえない。この空間ギャップが大きくなるため、駆動効率が低下してしまう。また、これまでの常識では、NdFeBを磁性材料とする焼結磁石を永久磁石として使うのが一般的である。しかし、NdFeBのような比重が大きい焼結磁石を永久磁石として使うと、駆動効率が悪いだけでなく、レンズホルダーとの一体化も困難である。
【0014】
このような課題を解決するため、特許文献1に開示されている対物レンズ駆動装置は、
図4に示すように、レンズホルダー自体を、樹脂と磁性材料とから構成された磁石すなわちボンド磁石で永久磁石を構成するようなムービングマグネット型の対物レンズ駆動装置である。
【0015】
このような対物レンズ駆動装置では、レンズホルダー自体を全て強磁性体で構成している。また、光ディスクの記録面と平行で、かつ、トラッキング方向と垂直となるように強磁性体を着磁することで、片方がN極、もう片方がS極となるように構成しており、フォーカス方向およびトラッキング方向への動きを可能にしている。すなわち、駆動用コイルに電流を流し、駆動用コイルが巻回されたヨークを磁化させ、レンズホルダーの磁極との吸引と反発を駆動原理としている。このように、レンズホルダーを強磁性体にて構成することにより、駆動用コイルと磁界発生用永久磁石のギャップを正確に設計できる。そのため、従来よりも空間ギャップを小さくできるので、駆動効率を高めることができる。また、焼結磁石と比べて比較的軽いボンド磁石を用いることにより、駆動効率が向上するだけでなく、レンズホルダーと永久磁石との一体化も容易となる。
【0016】
しかしながら、この対物レンズ駆動装置では、ヨークに巻回されたコイルに電流を流してヨークを磁化させ、その磁力と永久磁石の磁力との吸引および反発を利用している。そのため、ヨークを磁化させる際のいわゆるヒステリシス損の問題を考慮しなくてはならない。すなわち、フレミングの左手の法則に従った磁気と電気の相互作用によって直接駆動する対物レンズ駆動装置と比較して、応答性および駆動効率が低下してしまう。
【0017】
例えば、ヨークの材質を安価な鉄SS400とした場合を考える。鉄は、一般的に磁化容易軸に異方性を有する素材である。この磁化容易軸を、トラッキング方向およびフォーカス方向いずれかに、ヨークの磁化容易軸をそろえた場合、他方の磁化の立ち上がりに遅れを生じる。これにより、ヒステリシス損が大きくなってしまい、応答性および駆動効率が低下してしまう。ヨークの材質を、例えば、無方向性ケイ素鋼板のような、透磁率も高く、かつ、磁気的に等方的な素材を選定することでヒステリシス損を低減することもできる。しかし、この場合でもヒステリシス損が発生するだけでなく、材料費も比較的高価となってしまう。
【0018】
このようなヒステリシス損の問題を回避するため、
図3に示すような、レンズホルダーを強磁性体とし、かつ、駆動原理として、フレミングの左手の法則に従った電気と磁気の相互作用を利用した場合の対物レンズ駆動装置が考えられる。レンズホルダーを強磁性体で形成することにより、駆動用コイルと磁界発生用の永久磁石のギャップの精密な設計が容易となる。すなわち、駆動用コイルと磁界発生用の永久磁石のギャップを従来よりも小さくすることができるので、駆動効率を高めることができるだけでなく、磁気と電気の相互作用によって直接駆動するので応答性にも優れる。
【0019】
しかしながら、この対物レンズ駆動装置は、
図3示すように、2種類の駆動用コイルすなわち、フォーカス方向駆動用コイル4と、トラッキング方向駆動用コイル3と、をレンズホルダー7の側から順に並べて重ねた配置である。そのため、トラッキング方向駆動用コイル3は、フォーカス方向駆動用コイル4と比較して、レンズホルダー7(駆動用の永久磁石)から離れた位置に配置せざるを得ない。磁力は、永久磁石の表面から距離の二乗に反比例して減少していくため、トラッキング方向への駆動は、フォーカス方向への駆動と比較して、駆動効率が大幅に低下してしまうという問題が発生する。
【0020】
本発明は、上記のような背景に鑑みてなされてものであり、すなわち光学式記録装置用に使用可能で、駆動感度を飛躍的に高め、生産性に優れた対物レンズ駆動用のレンズホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以上の目的を達成するために本発明に係る磁石構造は、対物レンズを保持するレンズホルダーと、そのレンズホルダーの外側に配置された複数の駆動用コイルと、を備えており、上記レンズホルダーに設けられた磁極と上記駆動用コイルへの通電により発生する磁界との相互作用によって、上記レンズホルダーをフォーカス方向およびトラッキング方向に駆動させる対物レンズ駆動装置における磁石構造であって、上記レンズホルダーは、その全体が略立方体形状のボンド磁石で構成されているとともに、上記対物レンズを搭載する面を除く四つの側面に、一つの側面あたり少なくとも二つの異なる磁極が形成されており、上記四つの側面の磁極に向かい合うように上記駆動用コイルがそれぞれ配置されてなることを特徴とする対物レンズ駆動装置の磁石構造である。
【0022】
上記レンズホルダーは、射出成形によって成形されることが好ましい。上記レンズホルダーは、異方性の希土類-鉄-窒素ボンド磁石組成物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の磁石構造とすることにより、レンズホルダー全体をボンド磁石で形成しているので、従来の焼結磁石をレンズホルダーに接着固定したムービングマグネット型の対物レンズ駆動装置と比較してレンズユニットを軽量化することができる。
【0024】
また、レンズホルダー全体をボンド磁石で形成している。これにより、ボンド磁石の寸法精度はそれを成形する金型の寸法精度によるため、寸法精度の優れたレンズホルダーが成形品として得られる。このような本発明のレンズホルダーは、寸法精度に優れるため、駆動用コイルと永久磁石との間の距離を極限まで縮めることができ、駆動効率の向上のための最適な設計が行える。さらに、本発明は、略立方体形状のレンズホルダーの4つの側面全てに2極以上の磁極を与えており、かつ、各磁極面に対応した駆動用コイルをそれぞれの外側に配置している。これにより、
図3に記載された対物レンズ駆動装置の磁石構造と比較して、駆動用コイルと永久磁石との間の距離を小さくすることができるため、駆動効率の向上ができる。
【0025】
また、本発明では、レンズホルダーを構成するボンド磁石の原料として、異方性の希土類-鉄-窒素ボンド磁石組成物を用いることにより、所望の配向パターンかつ高い表面磁束密度の成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための対物レンズ駆動装置の磁石構造を例示するものであって、本発明は、対物レンズ駆動装置の磁石構造を以下に限定するものではない。
【0028】
また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0029】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0030】
すなわち、本発明は、いわゆるムービングマグネット方式の対物レンズ駆動装置において、略立方体形状のレンズホルダー全体をボンド磁石で構成し、レンズ搭載面を上面としたときに、その上面と下面を除く4つの側面の全てに磁極を形成させるとともに、それらの4つの側面には1つの側面あたりに異なる2極の磁極を形成し、かつ、該レンズホルダーの外側には、各レンズホルダー側面の磁極に対応するように駆動用コイルが配置されていることを特徴とする。
【0031】
また、対物レンズ駆動用のレンズホルダーは、射出成形によって成形されることが好ましい。また、対物レンズ駆動装置用のレンズホルダーは、異方性の希土類-鉄-窒素ボンド磁石組成物からなることが好ましい。
【0032】
以下、本形態の各構成について詳述する。
図5は、本発明の一実施の形態に係る対物レンズ駆動装置の斜視図を示す。レンズホルダー9は、対物レンズ1を保持するための支持部材であるとともに、トラッキング方向駆動用永久磁石とフォーカス方向駆動用永久磁石とを兼ねている。さらに、そのレンズホルダー9は、図示するように、その上端の中央部に対物レンズ1を備えている。この対物レンズ1は、光源から出射したレーザー光を収束する役割を果す。また、レンズホルダー9は、対物レンズ1を配置するための貫通孔以外の全体がボンド磁石で構成されており、図示するようにレンズ搭載面を上面としたときに、その上面と下面を除く4つの側面に磁極が形成されている。この4つの側面のうち対物レンズ1を対称軸にした2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が縦方向(すなわち、フォーカス方向)に半分ずつ形成されており、残る2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が横方向(すなわち、トラッキング方向)に半分ずつ形成された磁極構成となっている。なお、
図5では、レンズホルダー9を斜め方向から見ているため、磁極は、手前側の2つの側面、すなわち、N極とS極が縦方向に半分ずつ形成された1つの側面と、N極とS極が横方向に半分ずつ形成された1つの側面と、に形成されている様子が描かれている。
【0033】
レンズホルダー9は、図示されていない金属ワイヤーによって片持ち支持されている。このレンズホルダー9の外側には、4つの側面それぞれについて、
図5に示すように、トラッキング方向駆動用コイル3および、フォーカス方向駆動用コイル4がレンズホルダーに接触しないように間隔を空けて配置されている。
図6は、
図5の斜視図をトラッキング方向駆動用コイル3の側から視た正面図である。トラッキング方向駆動用コイル3は、
図6に示すように、レンズホルダー9の側面に形成されたN極とS極の上を一周するように配置されている。
図7は、
図5の斜視図をフォーカス方向駆動用コイル4の側から視た正面図である。また、フォーカス方向駆動用コイル4は、
図7に示すように、レンズホルダー9の側面に形成されたN極とS極の上を一周するように配置されている。
【0034】
次に、対物レンズ駆動装置の駆動原理を説明する。
図6に示すように、トラッキング方向駆動用コイル3に時計回り方向の電流が流れると、トラッキング方向駆動用コイル3に流れる電流とレンズホルダーの磁極から発生する磁界との間で、フレミングの左手の法則に従って、トラッキング方向駆動用コイル3にはトラッキング方向への駆動力が働き、トラッキング方向駆動用コイル3は、
図6で紙面に向かって左方向に動こうとする。ここで、トラッキング方向駆動用コイル3は、固定されているため、作用・反作用の法則により、宙吊り状態で片持ち支持されたレンズホルダー9が、
図6の紙面に向かって右方向に動くこととなる。一方、
図6に示す向きとは逆方向(反時計回り)に電流を流した場合は、レンズホルダー9は、
図6の紙面に向かって左方向に動くこととなる。
【0035】
一方、
図7に示すように、フォーカス方向駆動用コイル4に時計回り方向の電流が流れると、フォーカス方向駆動用コイル4に流れる電流と、レンズホルダー9の磁極から発生ずる磁界との間で、フレミングの左手の法則に従って、フォーカス方向駆動用コイル4には、フォーカス方向への駆動力が働き、フォーカス方向駆動用コイル4は、
図7で紙面に向かって下方向に動こうとする。ここで、フォーカス方向駆動用コイル4は、固定されているため、作用・反作用の法則により、宙吊り状態で片持ち支持されたレンズホルダー9が、
図7の紙面に向かって上方向に動くこととなる。一方、
図7に示す向きとは逆方向(反時計回り)に電流を流した場合は、レンズホルダー9は、
図7の紙面に向かって下方向に動くこととなる。
【0036】
以上のように、トラッキング方向駆動用コイル3とフォーカス方向駆動用コイル4とにそれぞれ電流を流し、その電流の流れる方向を制御することで、レンズホルダー9を、フォーカス方向またはトラッキング方向へ自在に制御することが可能となる。
【0037】
本発明の対物レンズ駆動装置は、対物レンズを配置するためのレンズホルダー9全体がボンド磁石で構成されており、しかも、4つの側面全てに磁極を持ち、かつ、1つの側面あたりに極性の異なる磁極が少なくとも2極形成されていることを特徴とする。
【0038】
このように対物レンズと一体的にレンズホルダーをボンド磁石により成形することにより、永久磁石をレンズホルダーに接着剤で貼り付けていた従来の構成と比較して、生産性に優れる上に、寸法精度も高くなる。そのため、駆動用コイルの配置設計が容易にできるという利点を有している。
【0039】
また、従来例として、
図3に示されるように、レンズホルダー本体を成形磁石で構成したムービングマグネット型の対物レンズ駆動装置も報告されている。しかしながら、その成形磁石は、光ディスクの記録面と平行、かつ、トラッキング方向と垂直となるように、一軸方向に着磁したものであり、磁極を利用しているのは2つの側面のみであった。
【0040】
一方、本発明では、4つの側面の全てに磁極を有することにより、1つの側面あたりに1つの駆動用コイルを割り当てて配置できる。そのため、
図3に示されるように、1つの側面あたりに2つの駆動用コイルを配置していた従来の構成と比較して、本発明は、全ての駆動用コイルについて、レンズホルダーの磁極と駆動用コイルとの距離を同じだけ縮めることが可能となり、駆動効率の大幅な向上に繋がる。さらに、
図6および
図7に示されるように、1つの側面あたりにN極とS極の2極を構成することで、無駄の少ないコイル配置が可能となる。
【0041】
本発明に用いる磁性材料には、異方性材料を採用することが好ましい。異方性材料は、異方化によって高い磁気特性が得られる素材である。異方性材料には、その粒子1個1個に磁気異方性があるので、異方化する方向すなわち磁気のある方向に結晶の向きを揃える必要がある。異方性材料には、希土類−鉄−窒素系すなわち異方性SmFeNや、希土類−鉄−ホウ素系すなわち異方性NdFeBなどがある。中でも異方性SmFeNは流動性に優れており、射出成形に適した材料であるので、本発明には最適である。
【0042】
一方、等方性材料の方が、磁石製造工程が簡単であり、異方化工程を経ずとも、着磁の調整で最終製品が得られるメリットは良く知られている。等方性材料には、希土類−鉄−ホウ素系の等方性NdFeBが良く知られており、幅広い分野で使用されている。
【0043】
ところが、本発明では状況が異なる。等方性材料を用いて、本発明にかかる略立方体形状のレンズホルダーの4つの側面の全てに2極以上の磁極を形成させる場合を考える。この場合、レンズホルダーの成形工程が終了した後で、4つ側面を順番に着磁していく着磁工程を行うこととなる。しかし、第1の側面のN極およびS極を着磁した後、続けて第1の側面と隣り合う第2の側面のN極とS極を着磁すると、その第2の側面の着磁の際に、最初に着磁した第1の側面の磁極配向パターンが、着磁の磁場の影響で乱れてしまう。
【0044】
これに対して、異方性材料を用いた場合には、ボンド磁石を成形する段階で、成形品の内部の磁性材料粒子の向きが既に所定の向きに配向されて固定されている。換言すると、所望の磁極配向パターンに癖がついており、第1の側面から第4の側面までを順番に着磁していっても磁極が乱れることはない。
【0045】
さらに、現時点で工業的に入手可能な等方性の射出成形永久磁石のBHmaxは、6〜9MGOe、等方性の圧縮成形永久磁石のBHmaxは、8〜11MGOeであり、異方性SmFeNや異方性NdFeBに代表される異方性の射出成形永久磁石のBHmax(12〜16MGe)と比べると低いので、得られる成形品の表面磁束密度も低くなる。
【0046】
図8は、本発明のレンズホルダーを成形する射出成形機の金型の内部、特にキャビティの部分を模式的に表した図である。キャビティ12は、レンズホルダーを成形する空間であり、その形状は、レンズホルダーの形状に対応している。そのキャビティ12の周囲には、レンズホルダーの側面に所望の磁極配向パターンが形成されるように、非磁性材からなる隔壁12を隔てて、レンズホルダーの4つの側面に対応して配向用永久磁石11が配置されている。
【0047】
配向用永久磁石11に用いる磁石の材料は、残留磁束密度:Brが1T以上のものが好ましく、例えば、NdFeB焼結磁石を用いることができる。磁力の大きい材料を使うと、キャビティ12に発生する磁力が強くなり、得られるボンド磁石成形品の磁力も強くなる。
【0048】
また、上述の射出成形金型で得られたボンド磁石成形品は、その後、磁極配向パターンに併せて、着磁を行うことが好ましい。着磁を行うことでボンド磁石成形品の磁力をさらに強力なものにできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明に係る実施例および比較例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
<実施例>
【0050】
図8は、本実施例に係る対物レンズ駆動装置の磁石構造において、レンズホルダーを射出成形するための金型を示す斜視図である。まず、
図8に示すような形状の射出成形金型14を用意した。レンズホルダーを成形するキャビティ12は、レンズホルダーに対物レンズを収納するための穴を設けるため、その中央部で中子が突出した構造になっている。キャビティ12は、その縦×横×高さが、6mm×6mm×6mmの立方体である。対物レンズを配置するための穴の直径は、3mmとした。キャビティ12の外周には、隔壁13を隔てて、四つの側面に配向用永久磁石11が配置されている。対物レンズを対称軸にした2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が縦方向に半分ずつ形成されており、残る2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が横方向に半分ずつ形成された磁極構成となるように配向用磁石を配置した。
【0051】
射出成形の材料であるコンパウンドには、日亜化学工業株式会社製の「A12材」(製品型番)を用いた。A12材は、異方性SmFeNと12ナイロンからなるボンド磁石組成物である。A12材のBHmaxは12.5MGOeである。射出成形時のバレル温度は、275℃とし、金型温度は、90℃とした。得られた成形品の寸法は、その縦×横×高さが6mm×6mm×6mmである。成形品の中央部には対物レンズ収納するための略円柱状の直径3mmの穴が空いている。磁極パターンは、対物レンズを収納するための穴を対称軸にした2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が縦方向に半分ずつ形成されており、残る2つの側面には、1つの側面あたりN極とS極が横方向に半分ずつ形成された磁極構成となっている。
【0052】
得られた成形品を、着磁ヨークを用いて、4つの側面について1つの側面(N極、S極)ずつ順番に着磁していった。着磁条件は、500μF、印加電圧1500Vとした。着磁品の磁極部分の最大表面磁束密度は、3000ガウスであった。この部分以外、4つの側面全ての磁極部分においても表面磁束密度は、3000ガウスであった。
<比較例1>
【0053】
市販の等方性NdFeBの圧縮成形品(10MGOe)から、実施例と同じ形状のもの(縦×横×高さが6mm×6mm×6mmの立方体)を形成させた。また、その中央部には対物レンズを収納するための円柱状の穴(直径3mm)を切削加工にて空けた。着磁ヨークを用いて、1つの側面(N極、S極)のみを着磁した。着磁条件は、500μF、印加電圧1500Vとした。着磁品の磁極部分の最大表面磁束密度は、2600ガウスであった。続けて、先ほど着磁した第1の側面と隣り合う第2の側面を(N極、S極)着磁した。第2の側面の磁極部分の最大表面磁束密度は、2600ガウスであったが、第1の側面の磁極部分の最大表面磁束密度は、1300ガウスに低下していた。
<比較例2>
【0054】
市販の等方性NdFeBの圧縮成形品(10MGOe)から、実施例と同じ形状のもの(縦×横×高さが6mm×6mm×6mmの立方体)を形成させた。また、その中央部には対物レンズを収納するための円柱状の穴(直径3mm)を切削加工にて空けた。空芯コイルを用いて、対物レンズの軸と垂直な一軸方向に着磁した。着磁条件は、1000μF、2500Vとした。磁極部分の最大表面磁束密度は、2400ガウスであった。
<比較例3>
【0055】
市販の等方性NdFeBの射出成形用コンパウンド(7MGOe)を原料にして、射出成形にて、実施例および比較例1、2と同じ形状の成形品を得た。この成形品について、1つの側面(N極、S極)のみを着磁した。着磁条件は、500μF、印加電圧1500Vとした。着磁品の磁極部分の最大表面磁束密度は、2000ガウスであった。続けて、先ほど着磁した第1の側面と隣り合う第2の側面(N極、S極)を着磁した。第2の側面の磁極部分の最大表面磁束密度は、2000ガウスであったが、第1の側面の磁極部分の最大表面磁束密度は、1000ガウスに低下していた。
【0056】
【表1】
【0057】
上述したように、本発明によれば、対物レンズ駆動装置を構成するレンズホルダーの材料に異方性のボンド磁石に採用し、4つの側面の全てにN極とS極を付与することで、十分な磁力を備える対物レンズ駆動装置用の、レンズホルダーを兼ねたトラッキング方向およびフォーカス方向駆動用の永久磁石を実現できることが分かった。