特許第5736833号(P5736833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736833インクジェット記録用水性インクの調製のための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736833
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水性インクの調製のための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20150528BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20150528BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20150528BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20150528BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C09D11/326
   C09D17/00
   C09B67/46 A
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-35771(P2011-35771)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-172070(P2012-172070A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 崇
(72)【発明者】
【氏名】安井 健悟
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−067955(JP,A)
【文献】 特開昭63−097965(JP,A)
【文献】 特開2001−139863(JP,A)
【文献】 特開2006−282760(JP,A)
【文献】 特開2007−016075(JP,A)
【文献】 特開2002−138234(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/079569(WO,A1)
【文献】 国際公開第96/023032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/326
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 67/46
C09D 17/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基含有有機高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体と水とを含有し、前記高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体とが水に分散した、インクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体において、前記有機顔料及び有機顔料誘導体として、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有することを特徴とするインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体。
【請求項2】
ペリノン系橙色顔料(A)及び酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)として、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)の共存下で、ペリノン系橙色顔料(A)をソルベントソルトミリングして得られた有機顔料組成物を用いる請求項1記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
アニオン性基含有有機高分子化合物が、(メタ)アクリル酸エステル樹脂及びポリウレタン樹脂である請求項または記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
不揮発分の質量比で(メタ)アクリル酸エステル樹脂:ポリウレタン樹脂=10/90〜45/55である請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性顔料分散体。
【請求項5】
ペリノン系橙色顔料(A)と酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とが(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子とを含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性顔料分散体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性顔料分散体を、質量換算で、有機顔料と有機顔料誘導体の合計が含有率1〜8%となる様に希釈したインクジェット記録用水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Y(イエロー)M(マゼンタ)C(シアン)だけでなく、O(オレンジ)の少なくとも4色でフルカラー印刷するのに適した、貯蔵安定性に優れた、特別色(特色と呼ばれる場合もある)である前記O(オレンジ)のインクジェット記録用水性インクの調製のための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷システムは、低騒音、低ランニングコストを実現可能とする。更に簡略な構成の装置であっても高画質化が可能であり、各種のインクを印字できることから広い分野への普及が著しい。
そのなかでも一般消費者への普及が著しいインクジェット記録用インクとしてには、自然保護、環境保全、使用上の安全性に優れる水性インクが使用されている。また、印字物に対して耐候(光)性・耐水性などの堅牢性が重視されることから色材として顔料が用いられるようになった。
【0003】
しかしながら、YMCの基本3原色の顔料を用いて得た水性インクでは、染料を用いた水性インクに比べて色再現領域が狭いという欠点がある。この問題を解決すべく、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、オレンジ(O)、バイオレッド(V)などの基本3原色以外の色相を有する色材を用いたインク(特色インク)を追加し、色再現性領域を拡大させるという提案がある。オレンジインクに関しては、顔料にペリノン系橙色顔料を用いた水性インクや該インクを含むインクセットが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、有機顔料誘導体の共存下で、有機顔料をソルトベントソルトミリングして得られた有機顔料組成物を用いて、インクジェット記録用水性インクを調製すること、この有機顔料としてペリノン系橙色顔料を用いること、有機顔料誘導体として、第3級窒素原子を有する、どちらかと言うと塩基性基を有する有機顔料誘導体を用いることが記載されている。
【0005】
しかしながら、ペリノン系橙色顔料は、それ自体、その他の有機顔料に比べて有機溶剤に溶解しやすい性質があり、インクを調製できたとしても、経時的に結晶成長等を引き起こしてしまって、所期の目的が達成できないという欠点があった。
また、従来よく知られた有機顔料誘導体の共存下で、ペリノン系橙色顔料をソルトベントソルトミリングすることで有機顔料組成物自体は得られるが、水に分散した際に、高温で長期間での保存前後において、例えば分散粒子径変化が小さいといった、良好な貯蔵安定性を確保することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−139863公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温で長期間での保存前後において、分散粒子径変化が小さい、すなわち良好な貯蔵安定性を有する、特色であるO(オレンジ)のインクジェット記録用水性インクの調製のための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者等は鋭意検討の結果、用いる有機顔料毎に、結晶成長の抑制に能力を発揮しうる有機顔料誘導体は異なり、機能発現には厳然とした選択性があること、ペリノン系橙色顔料の場合には、酸性基を有する有機顔料誘導体を併用した水性顔料分散体とすることで、上記課題が解決されたるインクジェット記録用水性インクが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、アニオン性基含有有機高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体と水とを含有し、前記高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体とが水に分散した、インクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体において、前記有機顔料及び有機顔料誘導体として、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有することを特徴とするインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体を提供する。
【0010】
また本発明は、アニオン性基含有有機高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体と水とを含有し、前記高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体とが水に分散した、インクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体において、前記有機顔料及び有機顔料誘導体として、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有することを特徴とするインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体を、質量換算で有機顔料と有機顔料誘導体の合計が1〜8%となる様に希釈したインクジェット記録用水性インクを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性顔料分散体は、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有するので、高温で長期間での保存前後において、例えば分散粒子径変化が小さいといった、良好な貯蔵安定性の、インクジェット記録用水性インクを簡便に調製できるという格別顕著な技術的効果を奏する。
本発明のインクジェット記録用水性インクは、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有するので、高温で長期間での保存前後において、例えば分散粒子径変化も小さいといった、良好な貯蔵安定性の、インクジェット記録用水性インクを提供できるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体は、アニオン性基含有有機高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体と水とを含有し、前記高分子化合物と有機顔料と有機顔料誘導体とが水に分散した、インクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体において、前記有機顔料及び有機顔料誘導体として、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有することを特徴とする。
【0013】
ペリノン系橙色顔料(A)としては、例えば、C.I.Pigment Orange 43等が挙げられる〔以下、橙色顔料(A)という。〕。下記式のペリノン系橙色顔料が、C.I.Pigment Orange 43である。
【0014】
【化1】
【0015】
この様な橙色顔料(A)としては、一次粒子の平均粒子径が30〜150nmであるペリノン系橙色顔料が好ましい。
【0016】
一次粒子の平均粒子径は、次の様に測定される。まず透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子の50個につき、個々の粒子の内径の最長の長さ(最大長)を求める。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とする。
【0017】
橙色顔料(A)としては、例えばクラリアント社製NovopermOrange GRLや、有本化学(株)製Orange A−76等が挙げられる。
【0018】
もう一方は、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)である〔以下、誘導体(B)という。〕。この誘導体(B)は、少なくとも一つの酸性基がジアリーリドアゾ顔料に結合したアゾ化合物である。この際の酸性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等を挙げることが出来る。一方、ジアリーリドアゾ顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 55、同83、同87、同90、同114、同152等が挙げられる。
【0019】
誘導体(B)は、例えば、ジアリーリドアゾ顔料を製造するためのカップラー成分及び/又はベース成分として、カルボキシル基やスルホン酸基を含有する成分を用いてカップリングを行ったり、ジアリーリドアゾ顔料にカルボキシル基やスルホン酸基の様な酸性基を導入する等により得ることが出来る。
【0020】
誘導体(B)の市販品としては、例えば、酸性基を含有するC.I.ピグメントイエロー 83である、Solsperse22000(ルブリゾール社製)が挙げられる。
【0021】
本発明のインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体においては、有機顔料及び有機顔料誘導体として、橙色顔料(A)と誘導体(B)とが含有されていることが重要である。これらは、質量換算で両者合計を100%とした際に誘導体(B)が1〜10%、より微細としたり、より安定性を高めるため、中でも2〜7.5%となる様に含有していることが好ましい。
【0022】
本発明のインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体は、アニオン性基含有有機高分子化合物と橙色顔料(A)と誘導体(B)と水とを含有するものであり、これら高分子化合物と橙色顔料(A)と誘導体(B)とを水に分散させることで調製することが出来る。
【0023】
有機顔料とそれに対応する有機顔料誘導体との共存下に、ソルベントソルトミリングすることで、両者を含有する有機顔料組成物とする方法はよく知られている。本発明においては、こうしてソルベントソルトミリングで得られた、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを含有する有機顔料組成物を水に分散する方法、前記橙色顔料(A)と、前記誘導体(B)を用いると共に、水性顔料分散体の調製時に初めて、これらが接触するように水に分散する方法のいずれも採用し得る。
【0024】
上記した様なペリノン系橙色顔料は、水溶性有機溶剤としてジエチレングルコール等に対して、特異的に、比較的高い溶解性を有しているため、常法に従ってソルベントソルトミリングすると、顔料の微細化を目的に行ったにもかかわらず、逆に結晶成長を引き起こし、所期の目的が達成できない。本発明者等は、従来よく知られている塩基性基を有する有機顔料誘導体ではなく、むしろ酸性基を含有する有機顔料誘導体が、ペリノン系橙色顔料の微細化に特異的な効果があることを、この度見い出した。そして有機顔料誘導体の主骨格としては、赤味の黄色を発色することが多いジアリーリドアゾ顔料を採用すると、ペリノン系橙色顔料との併用で、同系統の色同士の混色となることから、混色時の色相変化を小さく抑制できることも合わせて見い出したのである。
【0025】
橙色顔料(A)と誘導体(B)とは、同時に水に分散させる様にしても良いし、予め混合してから水に分散させる様にしても良い。必要であれば、橙色顔料(A)は誘導体(B)は、予め混合前に、混合しながら、或いは、混合後に、ボールミリングやアトライター等の公知慣用の手段により摩砕して、好適な一次粒子の平均粒子径となる様にすることも出来る。
【0026】
しかしながら、より高い改良効果を発現させ、かつ好適な一次粒子の平均粒子径の顔料組成物を簡便に製造する方法がある。それが、上記した橙色顔料(A)と誘導体(B)とをソルベントソルトミリングする方法である。一次粒子の平均粒子径が例えば200〜400nmの橙色顔料(A)を誘導体(B)の共存下でソルベントソルトミリングすることで、好適な一次粒子の平均粒子径100nm以下、中でも最適な40〜80nmとすることが出来る。
【0027】
本発明においてソルベントソルトミリングとは、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを必須成分とする混合物を、無機塩と、有機溶剤とを混練摩砕することを意味する。この処理を行う場合には、橙色顔料(A)として粗顔料を用いることも出来る。
【0028】
このソルベントソルトミリング処理により、橙色顔料(A)と誘導体(B)の微細化が行われる。この処理により得られた顔料組成物からは、被着色媒体への分散性、その中での分散安定性がより向上し、高い着色力の着色物が得られる。
【0029】
ソルベントソルトミリングは、橙色顔料(A)と誘導体(B)と、無機塩と、それを溶解しない有機溶剤とを混練摩砕することが好ましい。
【0030】
ソルベントソルトミリングにおいて、橙色顔料(A)の結晶制御を充分に行うためには、誘導体(B)の優れた結晶成長抑制作用を利用することが好ましく、橙色顔料(A)に誘導体(B)が吸着することを阻害しない様にすることが好ましい。結晶制御が終了した後には、これら橙色顔料(A)や誘導体(B)等は、後記するアニオン性基含有有機高分子化合物等で被覆されても良い。
【0031】
ソルベントソルトミリングは、前記した各原料を混練機に仕込み、その中で混練摩砕することで行うことが出来る。この際の混練手段としては、例えば、ニーダーやミックスマーラー等の混練機が挙げられる。
【0032】
前記無機塩としては、水溶性無機塩が好適に使用出来、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を使用することが好ましい。また、平均粒子径が0.3〜70μmの無機塩を使用することがより好ましい。この様な無機塩としては、通常の無機塩を微粉砕することにより容易に得ることが出来る。
【0033】
このソルベントソルトミリングに当たっては、無機塩の使用量を、質量換算で、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを必須成分として含む混合物の合計1部当たり3〜30部、なかでも7〜30部、特に15〜30部とするのが好ましい。
【0034】
有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2ー(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール等を使用することが出来る。
【0035】
有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、質量換算で、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを必須成分として含む混合物の合計1部当たり0.01〜5部が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法においては、ソルベントソルトミリング処理をする際に、意図する色相に調色する目的で、必要であれば、その他の橙色か黄色の有機顔料や橙色か黄色の有機顔料誘導体を含有させることが出来る。
【0037】
ソルベントソルトミリングにおいて、前記した様な無機塩や有機溶剤は、最初の仕込段階で必要量全量を仕込んで以降そのまま、橙色顔料(A)と誘導体(B)を必須成分として含む混合物が、前記した必要な一次粒子の平均粒子径となるまで摩砕を行っても良いし、必要量の一部だけを仕込んで摩砕を開始し、途中で無機塩および/または有機溶剤の残量を、一括または分割して仕込む様にして摩砕を行う様にしても良い。
【0038】
ソルベントソルトミリング時の温度は、30〜150℃が好ましく、なかでも60〜120℃がより好ましい。また、ソルベントソルトミリング処理の時間は、3時間から36時間が好ましく、なかでも5〜24時間がより好ましい。
【0039】
ソルベントソルトミリング中の経時サンプリングから、橙色顔料(A)と誘導体(B)の混合物中の一次粒子の平均一次粒子径値等に基づいて、必要とする特性をもった、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを含有する顔料組成物を得るソルベントソルトミリングの条件を選定することが出来る。
【0040】
こうして、橙色顔料(A)と誘導体(B)とを含有する顔料組成物、無機塩、有機溶剤を主成分として含む混合物が得られるが、この混合物から有機溶剤と、無機塩とを除去し、固形物を洗浄、濾過、乾燥、粉砕等を行うことにより、顔料組成物の粉体を得ることが出来る。
【0041】
尚、この洗浄方法としては、水洗、湯洗のいずれをも採用することが出来る。水溶性無機塩および有機溶剤を用いた前記混合物の場合は、水洗することで容易に有機溶剤と無機塩を除去することが出来る。水性顔料分散体やインクジェット記録用水性インクの調製に当たっては、インクの比電導度に影響を及ぼす物質は、極力除去されていることが好ましい。特に、本発明の水性顔料分散体を調製するために用いる橙色顔料(A)と誘導体(B)は、比電導度50μS/cm以下、好ましくは20μS/cm以下となるまで洗浄を行うのが好ましい。
【0042】
前記した洗浄、濾過後の乾燥方法としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80〜120℃の加熱等により、液媒体を含んだ、橙色顔料(A)及び/又は誘導体(B)の脱水および/または脱溶剤をする回分式あるいは連続式で乾燥する方法等が挙げられる。またその際に使用する乾燥機としては、例えば、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等が挙げられる。
【0043】
乾燥後の粉砕は、橙色顔料(A)及び/又は誘導体(B)の比表面積を大きくしたり、一次粒子の平均粒子径を小さくするための操作ではなく、箱型乾燥機やバンド乾燥機を使用して乾燥する場合に、ランプ形状等のものとなった橙色顔料(A)及び/又は誘導体(B)を解して粉末化するために行うものであり、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕方法が挙げられる。
【0044】
本発明の水性顔料分散体は、アニオン性基含有有機高分子化合物と、橙色顔料(A)と誘導体(B)と水とを含有し、これらが水に分散したインクジェット記録用水性インク調製のための水性顔料分散体である。本発明の水性顔料分散体の調製に当たっては、橙色顔料(A)と誘導体(B)とをソルベントソルトミリングして得られた顔料組成物を用いることが、上記したことから好ましい。
【0045】
一方、本発明におけるアニオン性基含有有機高分子化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂を用いることが出来る。これらは、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルを必須成分として重合させたものを言う。本発明においては、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの両方を包含して(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶものとする。本発明においては、水性媒体中に(メタ)アクリル酸エステル樹脂を安定的に分散させるために、その構造中にアニオン性基を含ませることが好ましい。
【0047】
この様なアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、チオカルボキシル基等のアニオン性基を含有するエチレン性不飽和単量体の一種以上と、(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じてそれらと共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体とを共重合させた共重合体樹脂が挙げられる。
【0048】
原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基またはスルホン基を含有する共重合体樹脂が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂がさらに好ましい。最適な(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、アニオン性基がカルボキシル基およびカルボキル基の塩の両方を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂である。
【0049】
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメトリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。またスルホン酸基を含有するモノマーの例としてはアクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸4−スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキルまたはアリールエステル類:スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン−4−スルホン酸等のスルホスチレン類を挙げることができる。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0051】
共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;スチレン、α―メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン、等スチレン類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、等活性水素を有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示単量体中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0052】
本発明においては、アニオン性基含有有機高分子化合物が、(メタ)アクリル酸エステル樹脂及び後記するポリウレタン樹脂とから構成されていることが好ましい。
【0053】
前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、後記するポリウレタン樹脂との併用による着色画像の濃度と耐擦過性においてより高い効果が得られる点で、スチレンを重合単位として含有する様なスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂を選択するのが好ましい。中でもスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂は、後記する、好適な脂肪族または脂環式のポリーテル系ポリウレタン樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0054】
本発明において、カルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、例えば、架橋部分を有していてもいなくとも良い。架橋部分を有する前記樹脂は、架橋部分を有さない前記樹脂に比べて、耐熱性に優れるので、これを用いた水性インクは、インク液滴を加熱させて飛翔させる、後記する、吐出方式がサーマル方式のインクジェット記録装置での画像記録に適している。
【0055】
架橋部分を有する前記樹脂は、前記した様な単量体に、例えば(メタ)アクリル酸2,3−エポキシプロピルの様なグリシジル基含有のエチレン性不飽和単量体を併用して共重合させ架橋性を有する樹脂となしてから、水性顔料分散体を製造する任意の工程において、必要に応じて硬化促進剤を併用して架橋させることで得ることが出来る。
【0056】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸エステル樹脂の重量平均分子量は、分散体の粘度が低く、分散安定性も良好で、インクジェット記録用水性インクに適用した場合に長期間安定した印字を行わせることが容易な点で、2,000〜100,000の範囲にあることが好ましく、5,000〜50,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0057】
また本発明に用いられる(メタ)アクリル酸エステル樹脂の酸価およびガラス転移点はそれぞれ30〜220mgKOH/gおよび−20〜100℃の範囲、中でも80〜220mgKOH/gおよび0〜90℃にあることが、分散体の分散性や分散安定性が良好で、またインクジェット記録用水性インクに適用した場合の印字安定性が良く、画像の耐水性も良好な上、耐摩擦性、耐棒積み性等の画像保存性も良好となるので好ましい。
【0058】
本発明の水性顔料分散体中における(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、アニオン性基の少なくとも一部が塩基性物質によってイオン化された形態をとっていることが分散性、分散安定性の発現のうえで好ましい。アニオン性基のうちイオン化された基の最適割合は、通常30〜100%、特に40〜60%の範囲に設定されることが好ましい。このイオン化された基の割合はアニオン性基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の割合は100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0059】
このように、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、アニオン性基の少なくとも一部をイオン化するために用いられる中和剤(塩基性物質)としては、公知慣用のものが挙げられる。後記ポリウレタン樹脂の中和剤として例示したものがいずれも挙げられる。
【0060】
本発明における(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、後記するポリウレタン樹脂よりも大きな平均分散粒子径のものを選択することがより好ましい。本発明における平均分散粒子径は、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)によるもので、レーザードップラー型粒度分析計にて測定した体積平均粒子径(MV)をもって表す。
【0061】
本発明において橙色顔料(A)と誘導体(B)の合計に対する、アニオン性基含有有機高分子化合物の割合は特に制限されるものではないが、質量換算で橙色顔料(A)と誘導体(B)の合計100部に対して、アニオン性基含有有機高分子化合物の不揮発分を、通常は10〜100部、好ましくは20〜60部とするのが好ましい。
【0062】
アニオン性基含有有機高分子化合物としては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂のみを用いることでも、高温長時間での貯蔵前後での分散粒子径変化や吸光度比変化を抑制でき、貯蔵安定性を改良することが出来るが、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを併用することで、上記変化をより大きく抑制でき、貯蔵安定性を更に大きく改良することが出来る。
【0063】
本発明の水性顔料分散体において、アニオン性基含有有機高分子化合物として、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを併用する場合には、不揮発分の質量比で(メタ)アクリル酸エステル樹脂:ポリウレタン樹脂=25/75〜75/25であることが、吐出安定性に優れたものとなる点で好ましい。
【0064】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、一分子中にウレタン結合2以上を必須として含んだものである。このポリウレタン樹脂には、ウレタン結合だけでなく更に尿素結合を含んだポリウレタンポリ尿素樹脂等もふくまれる。
【0065】
ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂と、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂とがあるが、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルジオール部分が加水分解を受け難いので好ましい。
【0066】
ポリウレタン樹脂は、例えば有機ジイソシアネートとジオールとを必須成分として反応させることにより得ることが出来る。このジオールとしては、分子量800未満の低分子ジオールと、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の分子量800以上の高分子ジオールがある。
【0067】
この様なポリウレタン樹脂は、例えば、低分子ジオール又は高分子ジオールと有機ジイソシアネートとをイソシアネート基が過剰となる様に反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、第1級及び/又は第2級アミノ基を有するジアミン化合物、または前記アミノ基と水酸基、前記アミノ基とその他の活性水素官能基などのイソシアナート基と反応しうる二官能性化合物(鎖伸長剤)とを、水及び/又は有機溶媒中で鎖伸長反応させて得ることが出来る。
【0068】
本発明においては、水性媒体中にポリウレタン樹脂を安定的に分散させるために、その構造中にアニオン性基を含ませることが好ましい。分子内にアニオン性基を有するポリウレタン樹脂は、前記製造方法においてアニオン性基を含有する鎖伸長剤を用いることで得ることが出来る。この様な鎖伸長剤としては、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を含有しそれ以外の活性水素原子を2つ含有する活性水素化合物が特に制限なく使用できるが、例えば、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0069】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,4−ナフチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートや、これらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0070】
上記の有機ジイソシアネートの中では、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネート系ポリウレタン樹脂を形成するために耐光性に優れ皮膜の着色が少ない点で、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートの様な、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートが特に好ましい。
【0071】
低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、デカメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−n−ヘキサデカン−1,2−エチレングリコール、2−n−エイコサン−1,2−エチレングリコール、2−n−オクタコサン−1,2−エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネート、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0072】
鎖伸長剤として使用できるジアミン化合物としては、例えば、アンモニア、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、トリレンジアミン等の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンや、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のジアルカノールアミンが挙げられる。
【0073】
ポリウレタン樹脂中に含まれるアニオン性基を中和する中和剤(塩基性物質と呼ぶ場合もある)としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられる。
【0074】
本発明におけるポリウレタン樹脂としては、有機ジイソシアネートとジオールと必要に応じて二官能鎖伸長剤のみを反応させた線状の熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが、その皮膜特性に優れ取扱いが容易な点でも好ましい。中でも、アニオン性基を含有するポリエーテル系ポリウレタン樹脂、特に、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールをジオールとして製造したポリ(オキシテトラメチレン)構造を含有するポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールの様なその他のポリエーテルジオールを用いて得たポリエーテル系ポリウレタン樹脂に比べて、より耐加水分解性に優れ、より湿熱履歴後の着色画像の被記録媒体上での密着性やその光沢が低下し難いという特徴が顕著である。
【0075】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂は、それ自体が、水性媒体への分散性を有する、平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂であることが好ましい。この平均分散粒子径は、上記した(メタ)アクリル酸エステル樹脂のところに記載した方法と同様にして測定できる。
【0076】
ポリウレタン樹脂の平均分散粒子径は、例えば、ポリウレタン樹脂の分子量、アニオン性基の含有量及びそれらの中和率を調節することにより調製出来る。本発明では、市販されている平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂水性分散体がいずれも使用できるが、より好ましくは1〜30nm、更に好ましくは1〜20nmであるものを用いる。
【0077】
本発明で用いる前記ポリウレタン樹脂はその形態は問わず、水に分散しているもの(水分散液)が望ましいが、水可溶性の有機溶剤にポリウレタン樹脂を溶解または分散しているものであっても良い。その場合は、この有機溶剤を除く工程が別途必要となる。水性顔料記録液に使用される水溶性有機溶剤に前記ポリウレタン樹脂を溶解または分散させることも可能である。この場合は、別途の溶剤除去工程は必要ない。
【0078】
予め前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の水性顔料分散体とポリウレタン樹脂の水性顔料分散体を調製しておけば、本発明における水性顔料分散体は、これらと橙色顔料(A)と誘導体(B)とを均一に混合分散することで例えば調製することが出来る。
【0079】
本発明の水性顔料分散体における、そこに含まれる前記分散粒子は、前記橙色顔料(A)と、誘導体(B)と、アニオン性基含有有機高分子化合物に相当する前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子とポリウレタン樹脂粒子とが各々独立した粒子であっても良いが、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子との混合物であることが好ましい。また、複合粒子を含む水性顔料分散体においても、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記ポリウレタン樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子との混合物であるよりも、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子との混合物であるほうが、顔料分散性と耐擦過性の効果を存分に発揮させることが出来る点で好ましい。
【0080】
本発明における水性顔料分散体では、水性媒体に分散している粒子(分散粒子)が、平均分散粒子径が50〜200nmとなる様に水性媒体中に分散していることが好ましい。本発明における最適な水性顔料分散体である、分散粒子が、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子とからなる混合物の場合、前者複合粒子単独における平均分散粒子径がポリウレタン樹脂粒子単独のそれよりも大きくなる様にすることが、優れた耐擦過性を発現させる上で好ましい。
【0081】
本発明においてポリウレタン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子または複合粒子中の(メタ)アクリル酸エステル樹脂と化学的に結合していない方が、着色皮膜の耐擦過性がより良好となるので好ましい。
【0082】
本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子または前記複合粒子を含む水性顔料分散体は、例えば下記する様な1)〜4)の方法で製造することが出来る。
1)上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の水性分散体に、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもを機械的に強制分散する水性顔料分散体の製造方法。
2)前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもの存在下の水中で分散剤を用いて上記した各単量体を重合させ必要に応じて会合させる水性顔料分散体の製造方法。
3)前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもと上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂と有機溶剤の混合物を、水と塩基性物質を用いて徐徐に油相から水相に転相させてから脱溶剤して、顔料が上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
4)前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもと上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸を加えて酸析し析出物を洗浄後、この析出物を塩基性物質と共に水性媒体に分散させる、顔料が上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
【0083】
本発明における水性顔料分散液の製造方法では、上記いずれの製造方法をとるにせよ、前記橙色顔料(A)、誘導体(B)、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、塩基性物質および水からなる混合物を分散する工程を必須として含ませることが好ましい。この混合物には水溶性有機溶剤を含めるのが好ましい。より具体的には、少なくとも顔料、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、塩基性物質、水溶性有機溶剤および水からなる混合物を分散する工程(分散工程)を含ませることが好ましい。
【0084】
また、分散工程において水溶性有機溶剤を併用することができ、それにより分散工程における液粘度を低下させることができる場合がある。水溶性有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトンおよび炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液として用いられても良く、別途独立に分散混合物中に加えられても良い。
【0085】
分散工程において用いることのできる分散装置として、既に公知の種々の方式による装置が使用でき、特に限定されるものではないが、例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式、等の分散方式を採ることができる。
【0086】
本発明の水性分散体としては、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性の全ての面で、より優れた特性を発揮させるに当たっては、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子(即ち前記したマイクロカプセル型複合粒子)という形態で水性媒体中に分散していることが好ましい。
【0087】
このような状態を形成するため、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもが前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を含有する液媒体中に分散している状態において、前記の分散工程の後工程として、溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル樹脂で、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもの表面を被覆する工程を組み込むことが好ましい。
【0088】
溶解状態にある前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもの表面に被覆させる工程としては、塩基性物質の水溶液に溶解している前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を、溶液を酸性化することにより析出させる工程(酸析工程)が好ましい。
【0089】
蒸留工程の例には、分散工程において有機溶剤を使用した場合に、これを除去する工程、所望の固形分濃度にするため余剰の水を除去する工程等がある。
【0090】
酸析工程の例には、分散工程で得られた水性分散体に塩酸、硫酸、酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル樹脂を前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもの表面に析出させる工程等がある。この工程により、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂との相互作用を高めることができる。その結果、前記した様なマイクロカプセル型複合粒子が水性分散媒中に分散している形態を取らせることができ、水性分散体として、分散到達レベルや分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性の面で、より優れた特性を発揮させることができる。
【0091】
濾過工程の例には、前述した酸析工程後の固形分をフィルタープレス、ヌッチェ式濾過装置、加圧濾過装置等により濾過する工程等がある。再分散工程の例には、酸析工程、濾過工程によって得られた固形分に塩基性物質および必要により水や添加物を加えて再び分散液とする工程がある。それにより前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂中のイオン化したアニオン性基の対イオンを分散工程で用いたものから変更することができる。
【0092】
本発明においては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とが化学的に結合していないことが好ましいことを前記したが、さらに両者は物理的にも密着していないことがより好ましい。その意味で、前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を溶解する工程を前記ポリウレタン樹脂が存在しない状態で行い、前記した酸析工程以降に、前記ポリウレタン樹脂を、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)とのいずれもがアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子を含む水性顔料分散体に加える様にする方法が最適である。こうすることで、複合粒子の周囲がより小さいポリウレタン樹脂粒子で包囲された着色樹脂皮膜となり、着色皮膜の耐光性を保ったまま最も効果的に耐擦過性を向上させることが出来る。
【0093】
ペリノン系橙色顔料(A)粒子と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)粒子及びアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂の粒子の混合物、またはペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子を含む水性顔料分散体に、前記ポリウレタン樹脂を添加し、均一に攪拌混合することで、本発明の水性顔料分散体を得ることができる。均一に攪拌するために既に公知の前記した種々の方式による装置が使用できる。
【0094】
前記ポリウレタン樹脂と、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)との合計の割合は特に制限されるものではないが、前記ポリウレタン樹脂の不揮発分の質量換算で、前記橙色顔料(A)と誘導体(B)との合計100部に対し80〜120部の範囲から選択できる。インクジェット記録用水性インクとしては極力低い粘度であることが吐出特性を保つためには望まれるため、水性顔料分散体の粘度が低くなる様に上記した範囲から選択するのが好ましい。
【0095】
水性顔料記録液に使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、または、このアルコール類のアルキルエーテル、アリールエーテル、エステル、または、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、ピロリドン、2−メチルピロリドン、などの水溶性のある非プロトン性有機溶剤が使用可能である。これら水性顔料記録液に使用する有機溶剤の選定は、ヘッド方式に応じて行われ、添加量も限られるため、前記ポリウレタン樹脂の有機溶剤として使用することは可能ではあるが、水を溶媒、または分散媒として使用することが望ましい。
【0096】
こうして得られた本発明の水性顔料分散体は、例えば、水性インク、水性塗料等の各種着色用途において、被記録媒体上で、着色濃度が高く、耐擦過性に優れた着色皮膜を得ることが出来る。
【0097】
本発明の水性顔料分散体は、質量換算による前記橙色顔料(A)と誘導体(B)との合計の含有率が1〜8%となる様に希釈し水性顔料記録液とする。この際には、上記したのより濃厚な水性顔料分散体に対して必要に応じて水や水溶性有機溶剤加えて必要な分散粒子含有率となる様に希釈したり、湿潤剤及び防かび剤等の水性インクの調製に必要な各種添加剤を併用することが出来る。また得られた水性顔料記録液は、必要に応じてミクロフィルターにより濾過をすることにより、インクジェット記録用に適したノズル目詰まり等の極めて少ない水性顔料記録液とすることが出来る。
【0098】
本発明の水性顔料分散体や水性顔料記録液の被記録媒体としては、例えば普通紙、樹脂コート紙、合成樹脂フィルム等の公知慣用の被記録媒体が挙げられる。中でも、本発明の水性顔料分散体や水性顔料記録液は、表面処理がなされた被記録媒体であって、かつインクが着弾した際にそのインク液滴がその表面処理層を膨潤させることで着色画像が定着される機構を有する様な膨潤型被記録媒体の記録用に供することが好ましい。
【0099】
また、本発明のインクジェット記録用水性インクは、その組成を吐出方式に応じて適宜調製することにより、ピエゾ方式でもサーマル方式でもいずれの方式にも対応できる水性顔料記録液を得ることが出来る。
【実施例】
【0100】
次に、本発明を、実施例を挙げて更に具体的に説明する。尚、本明細書では特に断りのない限り、部および%は質量基準である。実施例および比較例の塗膜組成および評価結果を表1に示す。
【0101】
<実験例1>
(顔料組成物の調製)
ニーダーに、クラリアント社製Novoperm Orange GRL(C.I.ピグメントオレンジ43、一次粒子の平均粒子径300nm以上。) 100.0部、酸性基を有するC.I.ピグメントイエロー83からなるアゾ化合物(ルブリゾール社製Solsperse22000) 2.5部、塩化ナトリウム(水溶性無機塩) 1000.0部、ジエチレングリコール(水溶性有機溶剤) 約200部を仕込んだ。ニーダージャケット温度を40℃に調節したのち、6時間の混練(ソベントソルトミリング)を行った。混練物を防食性容器に取り出したのち、10Lの0.5%HCl水溶液を加え、攪拌し、NaClおよびDEGを完全に水溶させた。溶液をろ過し、残渣(顔料分)を採取した。この際、残渣にNaClおよびDEGが残存しないように、温水およびイオン交換水で、残渣の洗浄を行った。採取した残渣を90℃で32時間以上乾燥させ、完全に水分を取り除いた。乾燥物をジューサーで粉砕し、一次粒子の平均粒子径60nmの有機顔料組成物を得た。
【0102】
((メタ)アクリル酸エステル樹脂の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にイソプロピルアルコール1,200部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2-ヒドロキシエチル75.0部、メタクリル酸260.8部、スチレン400.0部、メタクリル酸ベンジル234.2部、メタクリル酸グリシジル30.0部、および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)80.0部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させた後、IPAの一部を減圧留去し、不揮発分を50%に調整し、酸価170の(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液を得た。
【0103】
(アニオン性基含有ポリエーテル系ポリウレタン樹脂の合成)
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を備えた4つ口フラスコに、数平均分子量2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール (n=27.5、PTMG2000)を480部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を282部、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)を0.007 部仕込み、窒素ガス雰囲気下100℃で1時間反応させた。その後、65℃以下に冷却し、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を118.0部、ネオペンチルグリコール(NPG)およびメチルエチルケトン(MEK)を447.8部添加し、80℃で16時間反応させた後、MEK408.1部、メタノールを加えて反応を停止し、酸価55、ポリスチレン換算で重量平均分子量33,000の直鎖状の酸基含有ポリエーテル系ポリウレタン樹脂溶液を得た(不揮発分42.5%)。このポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、ポリ(オキシテトラメチレン)構造を54%含有し、NPG(分岐構造を有する低分子ジオール)とIPDIとの重付加反応構造をも含有している。
【0104】
(水性顔料分散体の調製)
<水性顔料分散体A>
上記有機顔料組成物 450部
上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液 158部
25%水酸化カリウム水溶液 46部
イソプロピルアルコール 134部
イオン交換水 896部
【0105】
上記成分を配合し、乳化装置(IKA登録商標 LABOR-PILOT DR2000/4 IKA-WERKE GMBH&CO. KG社製)で混合した。得られた混合液に183.0部のイオン交換水を加え、直径0.3 mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)社製)に通し、循環方式(分散装置より出た分散液を混合槽に戻す方式)により2.5時間分散した。分散工程中は、冷却用ジャケットに冷水を通して分散液温度を30℃以下に保つよう制御した。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水1,500部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。
ガラス製蒸留装置に希釈分散液を入れ、イソプロピルアルコールの全量と水の一部を留去した。室温まで放冷後、攪拌しながら2%塩酸を滴下してpH3.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ウェットケーキを容器に採り、25%水酸化カリウム水溶液を加えてpH9.0に調製し、ディスパー(TKホモディスパー20型、特殊機化工業(株)製)にて再分散した。その後、遠心分離工程(6000G、30分間)を経て、さらにイオン交換水を加え不揮発分21.6%の水性顔料分散体Aを得た。
【0106】
この水性顔料分散体は、C. I. ピグメントオレンジ43と、酸性基を含有するC. I. ピグメントイエロー83(即ち上記有機顔料組成物)が(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子を含有する水性顔料分散体であった。
【0107】
上記水性顔料分散体を用いて、以下の様にして、C. I. ピグメントオレンジ43と、酸性基を含有するC. I. ピグメントイエロー83の合計換算で(即ち上記有機顔料組成物として)13.0部の最終の水性顔料分散体A2を作製した。
【0108】
<最終の水性顔料分散体>
上記水性顔料分散体A2 (A)+(B)換算で13.0部になる量
上記ポリウレタン樹脂溶液 12.2部
プロキセルGLX(S) (アーチケミカルズ社製防腐剤) 0.1部
イオン交換水 残部
【0109】
(インクの調製)
以下のインク組成に従い、インクジェット記録用水性インクを調製し、調製直後と、70℃の恒温槽で7日間貯蔵した後の各インクを用いて、インクの分散粒子の体積平均粒子径(MV)及び着色画像の色相(a)の測定を行った。
【0110】
<インクジェット記録用水性インク組成>
特開2010−121034公報を参考に、以下の様にした。
最終の水性顔料分散体 (A)+(B)換算で4.0部になる量
グリセリン 10.0部
1,2−ヘキサンジオール 5.0部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.5部
イオン交換水 残部
【0111】
(粒径変化評価)
貯蔵前後のインクを用い、レーザードップラ式粒度分析計(マイクロトラックUPA150型、リーズ&ノースロップ社製)で体積平均粒子径(MV)を測定した。
【0112】
(色相変化評価)
貯蔵前後のインクを市販のインクジェットプリンタ(EM-930C、セイコーエプソン(株)製)のカートリッジに充填した。メディアは写真用紙(GL-101、キヤノン(株)製)を用いて印字した。なお、Dutyは100%にて印字した。得られた印字物を分光光度計 (SPECTRA FLASH SF600 PLUS CT、米国dator color international社製)を使用して色相(a)の測色を行い、彩度(√(a*2+b*2)を求めた。
【0113】
<実験例2>
ルブリゾール社製Solsperse22000に代えて、同量のフタルイミドメチル化-3,10-ジクロロキナクリドンを用いる以外は上記実験例1と同様にして得た有機顔料組成物を同量となる様にして、最終の水性顔料分散体を調製すると共に、インクジェット記録用水性インクを調製し、各種評価を行った。
【0114】
表1に、各評価結果をまとめて示した。表中、分散粒子径の列の数値の上段は「調製直後」、下段は「70℃の恒温槽で7日間貯蔵した後」の平均分散粒子径を示す。彩度については「調製直後」での評価結果のみ示した。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1からわかる通り、併用する有機顔料誘導体によって、同じペリノン系橙色顔料から得た水性顔料分散体であっても、それらの貯蔵安定性と彩度は著しく異なり、ペリノン系橙色顔料(A)と、酸性基含有ジアリーリドアゾ化合物(B)とを含有する水性顔料分散体が、選択的かつ特異的に、貯蔵安定性及び彩度のいずれにも優れることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、Y(イエロー)M(マゼンタ)C(シアン)R(レッド)の少なくとも4色でフルカラー印刷するのに適した、貯蔵安定性に優れた、特別色(特色と呼ばれる場合もある)である前記O(オレンジ)のインクジェット記録用水性インクの調製のための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを提供できる。