特許第5737184号(P5737184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5737184インプリント用モールド、その製造方法、インプリント装置およびインプリント方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737184
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】インプリント用モールド、その製造方法、インプリント装置およびインプリント方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20150528BHJP
   B29C 33/40 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B29C59/04 BZNM
   B29C33/40
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-537267(P2011-537267)
(86)(22)【出願日】2010年10月19日
(86)【国際出願番号】JP2010068404
(87)【国際公開番号】WO2011049097
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2009-242392(P2009-242392)
(32)【優先日】2009年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】海田 由里子
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−307752(JP,A)
【文献】 特開2008−137282(JP,A)
【文献】 特開2009−107124(JP,A)
【文献】 特開2003−066733(JP,A)
【文献】 特開2003−066662(JP,A)
【文献】 特表2005−518202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/04
B29C 33/40
H01L 21/027
B29L 7/00
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムを、その端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、エンドレスベルト状にしたインプリント用モールドにおいて、樹脂フィルムの端部同士が突き合わされて融着され、接合された接合線を中心線とする10mmの幅の部分におけるモールドの厚さの最大値と最小値の差が20μm以下であり、前記微細パターンが、ピッチが平均で1nm〜10μmであり、高さが平均で1nm〜10μmである複数の凸部、およびまたはピッチが平均で1nm〜10μmであり、深さが平均で1nm〜10μmである複数の凹部を有する、インプリント用モールド。
【請求項2】
エンドレスベルト状にされた樹脂フィルムの外周面に微細パターンを有する、請求項に記載のインプリント用モールド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインプリント用モールドを製造する方法であって、
前記微細パターンの反転パターンを表面に有するマスターモールドの該反転パターンを樹脂フィルムの表面に転写して、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムを得る工程と、
微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムを、その端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、エンドレスベルト状にする工程と
を有する、インプリント用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記反転パターンが、前記微細パターンの凸部およびまたは凹部に対応した複数の凹部およびまたは凸部を有し、
該凹部およびまたは凸部のピッチが、平均で1nm〜10μmである、請求項に記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項5】
移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、
前記基材の表面に塗布された前記光硬化性組成物に接触する、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、
前記光硬化性組成物に前記モールドが接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有し、
前記エンドレスベルト状のモールドが、請求項1または2に記載のインプリント用モールドである、インプリント装置。
【請求項6】
複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、
前記モールドの表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、
移動する基材の表面に、前記モールドの表面に塗布された光硬化性組成物が接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有し、
前記エンドレスベルト状のモールドが、請求項1または2に記載のインプリント用モールドである、インプリント装置。
【請求項7】
移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する工程と、
前記基材の表面に塗布された前記光硬化性組成物に、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドを接触させる工程と、
前記光硬化性組成物に前記モールドが接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する工程とを有し、
前記エンドレスベルト状のモールドとして、請求項1または2に記載のインプリント用モールドを用いる、インプリント方法。
【請求項8】
複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドの表面に光硬化性組成物を塗布する工程と、
前記モールドの表面に塗布された前記光硬化性組成物に、移動する基材を接触させる工程と、
前記光硬化性組成物に前記基材が接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する工程とを有し、
前記エンドレスベルト状のモールドとして、請求項1または2に記載のインプリント用モールドを用いる、インプリント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のエンドレスベルト状のインプリント用モールド、その製造方法、該インプリント用モールドを用いたインプリント装置およびインプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止部材、ワイヤグリッド型偏光子等の光学部材等の製造において微細パターンを形成する方法として、該微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドを、基材の表面に塗布された光硬化性組成物に接触させた状態で、光硬化性組成物に放射線(紫外線等)を照射し、光硬化性組成物を硬化させることによって、基材の表面にモールドの反転パターンを転写して微細パターンを形成する、いわゆるインプリント法が知られている。特に、ナノオーダーの反転パターンを表面に有するモールドを用いる、いわゆるナノインプリント法は、リソグラフィやエッチングを用いる従来の方法に比べ、簡便な装置で、かつ短時間で微細パターンを形成できる点から注目されている。
【0003】
しかし、インプリント法に用いられるモールドは、非常に高価なものである。たとえば、ミクロンオーダーの反転パターンを表面に有するモールドは、通常、金属ロールの表面をダイヤモンドバイトにて切削加工して製造されるが、該加工には極めて高い精度および長い時間が要求されるため、数百万から数千万円の費用がかかる(特許文献1の段落[0005]参照)。ナノオーダーの反転パターンにいたっては、金属ロールの表面に切削加工で形成することは事実上不可能であり、通常、石英基板、シリコン基板等の表面に半導体素子の製造プロセスにおいて使用される電子線描画とエッチングとを組み合わせた方法や、リソグラフィとエッチングとを組み合わせた方法等によって反転パターンを形成しなければならない。そのため、ナノオーダーの反転パターンを表面に有するモールドの価格は、たとえば、100mm×100mmの大きさで1千万円を超える。また、いずれのモールドも反転パターンの形成に時間がかかるため、大面積化が困難である。
【0004】
そこで、高価なモールドをマスターモールドとし、インプリント法によってマスターモールドの該反転パターンを樹脂フィルムの表面に転写して、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムを得て、さらに該樹脂フィルムの端部同士を接合してエンドレスベルト状のモールドとすることで、モールドの低コスト化および大面積化を両立することが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−137282号公報
【特許文献2】特開2007−307752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂フィルムの端部同士を接合してエンドレスベルト状にする場合、樹脂フィルムの端部同士を上下に重ね合わせた状態で融着する必要があるため、接合部分には、樹脂フィルムの厚さに相当する段差が生じる。接合部分に段差があるエンドレスベルト状のモールドをインプリント法に用いた場合、モールドを光硬化性組成物に接触させた際に接合部分の段差に空気が取り残され、該部分における光硬化性組成物の硬化が、空気に含まれる酸素によって阻害される。その結果、基材やモールドの表面に未硬化の光硬化性組成物が残ってしまう。該未硬化の光硬化性組成物は、装置や製品の汚染の原因となる場合がる。
【0007】
本発明は、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムの端部同士を接合してエンドレスベルト状にしたインプリント用モールドであって、接合部分に生じる段差が小さくされたインプリント用モールドおよびその製造方法、ならびにエンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができるインプリント装置およびインプリント方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインプリント用モールドは、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、エンドレスベルト状にしたインプリント用モールドにおいて、樹脂フィルムの端部同士が突き合わされて融着され、接合された接合線を中心線とする10mmの幅の部分におけるモールドの厚さの最大値と最小値の差が20μm以下であり、前記微細パターンが、ピッチが平均で1nm〜10μmであり、高さが平均で1nm〜10μmである複数の凸部、およびまたはピッチが平均で1nm〜10μmであり、深さが平均で1nm〜10μmである複数の凹部を有することを特徴とする
また、前記微細パターンは、エンドレスベルト状にされた樹脂フィルムの外周面に有することが好ましい。
【0009】
本発明のインプリント用モールドの製造方法は、本発明のインプリント用モールドを製造する方法であって、前記微細パターンの反転パターンを表面に有するマスターモールドの該反転パターンを1枚または複数枚の樹脂フィルムの表面に転写して、微細パターンが表面に形成された1枚または複数枚の樹脂フィルムを得る工程と、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、エンドレスベルト状にする工程とを有することを特徴とする。
前記反転パターンは、前記微細パターンの凸部およびまたは凹部に対応した複数の凹部およびまたは凸部を有し、該凹部およびまたは凸部のピッチが、平均で1nm〜10μmであることが好ましい。
【0010】
本発明のインプリント装置は、移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、前記基材の表面に塗布された前記光硬化性組成物に接触する、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、前記光硬化性組成物に前記モールドが接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有し、前記エンドレスベルト状のモールドが、本発明のインプリント用モールドであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のインプリント装置は、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、前記モールドの表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、移動する基材の表面に、前記モールドの表面に塗布された光硬化性組成物が接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有し、前記エンドレスベルト状のモールドが、本発明のインプリント用モールドであることを特徴とする。
【0012】
本発明のインプリント方法は、移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する工程と、前記基材の表面に塗布された前記光硬化性組成物に、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドを接触させる工程と、前記光硬化性組成物に前記モールドが接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する工程とを有し、前記エンドレスベルト状のモールドとして、本発明のインプリント用モールドを用いることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のインプリント方法は、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドの表面に光硬化性組成物を塗布する工程と、前記モールドの表面に塗布された前記光硬化性組成物に、移動する基材を接触させる工程と、前記光硬化性組成物に前記基材が接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する工程とを有し、前記エンドレスベルト状のモールドとして、本発明のインプリント用モールドを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインプリント用モールドは、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合してエンドレスベルト状にしたインプリント用モールドであって、接合部分に生じる段差が小さくされる。
本発明のインプリント用モールドの製造方法によれば、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合してエンドレスベルト状にしたインプリント用モールドであって、接合部分に生じる段差が小さくされたインプリント用モールドを製造できる。
【0015】
本発明のインプリント装置によれば、エンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができる。
本発明のインプリント方法によれば、エンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができる。
【0016】
基材側に光硬化性樹脂を塗布する場合、エンドレスベルト状のモールドに段差があると、段差部分に接触する部分への塗布を中断することもあるが、本発明においては、モールドに段差がないため、基材に間欠塗布する必要がなく、生産性がよい。
また、モールド側に光硬化性樹脂を塗布する場合、エンドレスベルト状のモールドに段差があると、塗布手段をモールドから退避させる(離す)ことがあるが、本発明においては、モールドに段差がないので、塗布手段とモールドとのピッチを常に一定にでき、生産性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明における樹脂フィルムの接合の様子を示す断面図である。
図2】従来の方法による樹脂フィルムの接合の様子を示す断面図である。
図3】本発明のインプリント装置の第1の実施形態を示す概略図である。
図4】本発明のインプリント装置の第2の実施形態を示す概略図である。
図5】本発明のインプリント装置の第3の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<インプリント用モールド>
本発明のインプリント用モールドは、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して、微細パターンを有する側の表面が外周面となるようにエンドレスベルト状にしたものである。
【0019】
(微細パターン)
微細パターンは、複数の凸部およびまたは凹部を有する。
凸部としては、樹脂フィルムの表面に延在する長尺の凸条、表面に点在する突起等が挙げられる。
凹部としては、樹脂フィルムの表面に延在する長尺の溝、表面に点在する孔等が挙げられる。
【0020】
凸条または溝の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり形状等が挙げられる。凸条または溝は、複数が平行に存在して縞状をなしていてもよい。
凸条または溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。
突起または孔の形状としては、三角柱、四角柱、六角柱、円柱、三角錐、四角錐、六角錐、円錐、半球、多面体等が挙げられる。
【0021】
凸条または溝の幅は、平均で1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。凸条の幅とは、長手方向に直交する方向の断面における底辺の長さを意味する。溝の幅とは、長手方向に直交する方向の断面における上辺の長さを意味する。
突起または孔の幅は、平均で1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。突起の幅とは、底面が細長い場合、長手方向に直交する方向の断面における底辺の長さを意味し、そうでない場合、突起の底面における最大長さを意味する。孔の幅とは、開口部が細長い場合、長手方向に直交する方向の断面における上辺の長さを意味し、そうでない場合、孔の開口部における最大長さを意味する。
【0022】
凸部の高さは、平均で1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。
凹部の深さは、平均で1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。
【0023】
凸部の最小寸法は、1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。最小寸法とは、凸部の幅、長さおよび高さのうち最小の寸法を意味する。
凹部の最小寸法は、1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。最小寸法とは、凹部の幅、長さおよび深さのうち最小の寸法を意味する。
【0024】
凸部およびまたは凹部が密集している領域において、凸部または凹部のピッチは、平均で1nm〜10μmが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。凸部のピッチとは、凸部の中心(凸条の場合は断面幅方向の中心)からから隣接する凸部の中心までの距離を意味する。凹部のピッチとは、凹部の中心(溝の場合は断面幅方向の中心)から隣接する凹部の中心までの距離を意味する。
【0025】
本発明のインプリント用モールドは、ピッチが前記範囲である、すなわちナノオーダーの微細パターンを有する場合において、インプリント用モールドの低コスト化および大面積化の効果を最大限に発揮できるため、ナノインプリント用モールドとして特に有用である。
【0026】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルムの材料としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。具体的に使用される樹脂フィルムとしては、樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態での融着方法、融着条件に応じて、適合する樹脂フィルムが選ばれる。
【0027】
樹脂フィルムとしては、マスターモールドの反転パターンを転写して微細パターンを形成する際に用いる光硬化性組成物との密着性を高めるために、表面処理された樹脂フィルムを用いてもよい。表面処理としては、プライマー塗布処理、オゾン処理、プラズマエッチング処理等が挙げられる。プライマーとしては、ポリメチルメタクリレート、シランカップリング剤、シラザン等が挙げられる。
樹脂フィルムの裏面側には、インプリント用モールドの強度を向上させる点から、粘着剤付きの金属テープ、箔(アルミニウムテープ、アルミニウム箔等)、粘着剤付きのプラスチックフィルム等の裏打ちフィルムを貼り合わせていてもよい。かかる裏打ちフィルムによりエンドレスベルト状のインプリント用モールドの強度を向上させる場合には、裏打ちフィルムの接合部において、インプリント用モールドの外周面側に段差が生じないようにされる。
【0028】
(離型剤)
本発明のインプリント用モールドは、微細パターンを有する側の表面が離型剤によって処理されていてもよい。
離型剤としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
フッ素系離型剤:ゾニールTCコート(デュポン社製)、オプツールDSX、オプツールHD2100(ダイキン工業社製)、デュラサーフHD−2101Z(ダイキン工業社製)、サイトップCTL−107M(旭硝子社製)、サイトップCTL−107A(旭硝子社製)、ノベックEGC−1720(3M社製)等。
有機物系離型剤:シリコーン系樹脂(ジメチルシリコーン系オイルKF96(信越シリコーン社製)等)、アルカン系樹脂(アルキル系単分子膜を形成するSAMLAY(日本曹達社製)等)等。
【0029】
以上説明した本発明のインプリント用モールドにあっては、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着してエンドレスベルト状にしたものであるため、接合部分の段差がほとんどない、または段差があっても、樹脂フィルムの端部同士を重ね合わせた状態で融着したものに比べてわずかである。
【0030】
<インプリント用モールドの製造方法>
本発明のインプリント用モールドの製造方法は、下記の工程(I)〜(II)を有する方法である。
(I)マスターモールドの反転パターンを樹脂フィルムの表面に転写して、微細パターンが表面に形成された樹脂フィルムを得る工程。
(II)微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して、微細パターンを有する側の表面が外周面となるようにエンドレスベルト状にする工程。
【0031】
〔工程(I)〕
工程(I)について、以下に具体的に説明する。
(微細パターンの形成方法)
マスターモールドの反転パターンを樹脂フィルムの表面に転写して微細パターンを形成する方法としては、インプリント法(光インプリント法または熱インプリント法)が好ましく、反転パターンを効率よく、かつ精度よく転写できる点から、光インプリント法が特に好ましい。
【0032】
光インプリント法による微細パターンの形成方法としては、具体的には下記の工程(i)〜(iv)を有する方法が挙げられる。
(i)光硬化性組成物を樹脂フィルムの表面に塗布する工程。
(ii)マスターモールドを、反転パターンが光硬化性組成物に接するように、光硬化性組成物に押しつける工程。
(iii)マスターモールドを光硬化性組成物に押しつけた状態で光(具体的には、紫外線、可視光、あるいは電子線等の放射線など。本明細書においては、紫外線、可視光、あるいは電子線等の放射線などを含め、これらを光と総称する。)を照射して光硬化性組成物を硬化させて、反転パターンに対応する微細パターンを樹脂フィルムの表面に形成する工程。
(iv)樹脂フィルムとマスターモールドとを分離する工程。
熱インプリント法による微細パターンの形成方法としては、具体的には下記の2種類の工程が挙げられる。
1つ目は以下の工程(i)〜(iv)を有する方法である。
(i)熱可塑性樹脂フィルムを加熱して軟化させる工程。
(ii)マスターモールドを、反転パターンが熱可塑性樹脂フィルムに接するように、軟化した熱可塑性樹脂フィルムに押しつける工程。
(iii)マスターモールドを軟化した熱可塑性樹脂フィルムに押しつけた状態で冷却して熱可塑性樹脂フィルムを硬化させて、反転パターンに対応する微細パターンを熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成する工程。
(iv)熱可塑性樹脂フィルムとマスターモールドとを分離する工程。
2つ目は以下の工程(i)〜(iv)を有する方法である。
(i)マスターモールドを加熱する工程。
(ii)加熱されたマスターモールドを、反転パターンが熱可塑性樹脂フィルムに接するように、熱可塑性樹脂フィルムに押しつける工程。
(iii)マスターモールドを熱可塑性樹脂フィルムに押しつけた状態で冷却して熱可塑性樹脂フィルムを硬化させて、反転パターンに対応する微細パターンを熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成する工程。
(iv)熱可塑性樹脂フィルムとマスターモールドとを分離する工程。
【0033】
マスターモールドがロール状の場合、工程(i)〜(iv)は、帯状の樹脂フィルムを移動させ、かつ金属ロールを回転させながら連続的に行う。
マスターモールドが平板状の場合、工程(i)〜(iv)は、複数回繰り返し行う。
【0034】
(マスターモールド)
マスターモールドの材料としては、石英、ガラス、樹脂(ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂等)、シリコン、金属(ニッケル、銅、ステンレス、チタン等)、SiC、マイカ等が挙げられる。
【0035】
マスターモールドの反転パターンは、樹脂フィルムの表面の微細パターンに対応した反転パターンである。
反転パターンは、微細パターンの凸部およびまたは凹部に対応した複数の凹部およびまたは凸部を有する。
凹部および凸部の各寸法は、上述の微細パターンにおける凸部および凹部の各寸法に対応する。
【0036】
凹部およびまたは凸部が密集している領域において、凹部または凸部のピッチは、平均で1nm〜10μが好ましく、20〜1000nmがより好ましく、30〜600nmが特に好ましい。
本発明のインプリント用モールドの製造方法は、ピッチが前記範囲である、すなわちナノオーダーの反転パターンを有するマスターモールドを用いて樹脂製のエンドレスベルト状のインプリント用モールドを製造する場合において、インプリント用モールドの低コスト化および大面積化の効果を最大限に発揮できるため、ナノインプリント用モールドの製造方法として特に有用である。
【0037】
マスターモールドの表面に反転パターンを形成する方法としては、たとえば、電子線描画とエッチングとを組み合わせた方法、リソグラフィとエッチングとを組み合わせた方法等が挙げられる。
また、マスターモールドから、ニッケル電鋳等によって複製モールドを作製し、該複製モールドをマスターモールドとして用いてもよい。
【0038】
(光硬化性組成物)
光硬化性組成物としては、国際公開第2007/116972号パンフレットの明細書段落[0029]〜[0074]に記載の光硬化性組成物等、公知の光硬化性組成物を用いることができる。
(熱可塑性樹脂フィルム)
熱可塑性樹脂フィルムとしては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0039】
〔工程(II)〕
工程(II)について、以下に具体的に説明する。
(樹脂フィルムの接合方法)
本発明においては、図1に示すように、樹脂フィルム12の端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、エンドレスベルト状のインプリント用モールド10にすることに特徴がある。
樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着した場合は、図2に示すように、樹脂フィルム12の端部同士を重ね合わせた状態で融着した場合に比べ、接合部分の段差がほとんどない、または段差があってもわずかである。
【0040】
樹脂フィルムの接合方法としては、具体的には図1に示すように、樹脂フィルム12の端部同士を突き合わせた状態で、該端部およびその近傍を、加熱された一対のヒータ14で上下方向から挟み込み、加圧融着する方法が挙げられる。
ヒータ14の加熱温度は、樹脂フィルム12のガラス転移温度または融点以上が好ましい。
ヒータ14による加圧は、0.1MPa(ゲージ圧)〜10MPa(ゲージ圧)が好ましい。
【0041】
樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた際の端部と端部との間は、隙間がまったくない状態であってもよく、わずかに隙間がある状態であってもよい。端部と端部との間にわずかに隙間がある場合、該隙間の幅は、0.1mm以下が好ましい。
【0042】
1枚の樹脂フィルムからエンドレスベルト状のインプリント用モールドを製造する場合、1枚の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、微細パターンを有する側の表面が外周面となるようにエンドレスベルト状にする。
【0043】
2枚以上の樹脂フィルムからエンドレスベルト状のインプリント用モールドを製造する場合、2枚以上の樹脂フィルムが直列に接合されて1枚の長尺の樹脂フィルムとなるように、隣り合う樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、ついで該長尺の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合し、微細パターンを有する側の表面が外周面となるようにエンドレスベルト状にする。
【0044】
以上説明した本発明のインプリント用モールドの製造方法にあっては、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合しエンドレスベルト状にしているため、接合部分の段差がほとんどない、または段差があってもわずかであるインプリント用モールドを製造できる。
【0045】
<インプリント装置>
本発明のインプリント装置は、移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、前記基材の表面に塗布された前記光硬化性組成物に接触する、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、前記光硬化性組成物に前記モールドが接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有する。
また、本発明のインプリント装置は、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドと、前記モールドの表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段と、移動する基材の表面に、前記モールドの表面に塗布された光硬化性組成物が接触した状態で、前記光硬化性組成物に光を照射する光照射手段とを有する。
【0046】
そして、本発明のインプリント装置においては、エンドレスベルト状のモールドが、上述した、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着して接合しエンドレスベルト状にした、本発明のインプリント用モールドであることに特徴がある。
以下、本発明のインプリント装置の実施形態を説明する。
【0047】
〔第1の実施形態〕
図3は、本発明のインプリント装置の第1の実施形態を示す概略図である。
インプリント装置は、各ロールに沿って移動する帯状の基材20の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段22と;大ロール24および小ロール26に架け渡されたエンドレスベルト状のインプリント用モールド10と;大ロール24の下半分の表面にて、基材20の表面に塗布された光硬化性組成物にインプリント用モールド10が接触した状態で、光硬化性組成物に光を照射する光照射手段28と;基材20を介して塗布手段22に対向配置されたダイ下ロール30と;光硬化性組成物が塗布された基材20を、大ロール24の表面のインプリント用モールド10に押し付けるニップロール32と;大ロール24の表面のインプリント用モールド10から、微細パターンが表面に形成された基材20を剥離する剥離ロール34とを有して概略構成される。
【0048】
インプリント用モールド10は、上述した、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着してエンドレスベルト状にした、本発明のインプリント用モールドである。
【0049】
塗布手段22としては、ダイコータ、ロールコータ、グラビアコータ、インクジェット式塗布装置、スプレイコータ、スピンコータ、フローコータ、ブレードコータ、ディップコータ等が挙げられる。図示例における塗布手段22は、ダイコータである。
光照射手段28としては、たとえば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、紫外線蛍光灯、キセノン灯、炭素アーク灯、紫外線LED灯、可視光蛍光灯、可視光白熱灯、可視光LED灯等が挙げられる。
【0050】
大ロール24および小ロール26は、同じ方向に回転することによって、大ロール24の下半分の表面にてインプリント用モールド10が基材20の移動方向と同じ方向に移動するように、インプリント用モールド10を輪転させるものである。
また、ニップロール32および剥離ロール34は、大ロール24を挟むようにして配置されることによって、ニップロール32によって大ロール24の表面のインプリント用モールド10に押し付けられた基材20を、大ロール24の下半分の表面に沿って、インプリント用モールド10とともに移動させる。
【0051】
〔第2の実施形態〕
図4は、本発明のインプリント装置の第2の実施形態を示す概略図である。第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
インプリント装置は、各ロールに沿って移動する帯状の基材20の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段22と;上流側ロール36、下流側ロール38および冷却ロール40に架け渡されたエンドレスベルト状のインプリント用モールド10と;上流側ロール36と下流側ロール38との間にて、光硬化性組成物が塗布された基材20を表面に沿って移動させつつ、基材20の表面に塗布された光硬化性組成物をインプリント用モールド10に押し付けた状態で、光硬化性組成物に光を照射する光照射ロール42と;基材20を介して塗布手段22に対向配置されたダイ下ロール30と;光放射線照射ロール42から、インプリント用モールド10の微細パターンに対応する反転パターンが表面に形成された基材20を引き離すガイドロール44とを有して概略構成される。
【0052】
光照射ロール42は、内部に光照射手段が設けられたガラスロールである。
光照射ロール42は、基材20の表面に塗布された光硬化性組成物とインプリント用モールド10との接触面積が大きくなるように、光照射ロール42の下部が上流側ロール36の最も高い点と下流側ロール38の最も高い点とを結ぶ線よりも下側に位置するように、配置される。
【0053】
上流側ロール36、下流側ロール38および冷却ロール40は、同じ方向に回転することによって、上流側ロール36と下流側ロール38との間にてインプリント用モールド10が基材20の移動方向と同じ方向に移動するように、インプリント用モールド10を輪転させるものである。
また、冷却ロール40は、光の照射によって加熱されたインプリント用モールド10を冷却するものである。
【0054】
〔第3の実施形態〕
図5は、本発明のインプリント装置の第3の実施形態を示す概略図である。第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
インプリント装置は、略正三角形の頂点に配置された上ロール46、上流側下ロール48および下流側下ロール50の3つのロールに架け渡されたエンドレスベルト状のインプリント用モールド10と;インプリント用モールド10を介して上ロール46に対向配置され、インプリント用モールド10の表面に光硬化性組成物を塗布する塗布手段22と;上流側下ロール48と下流側下ロール50との間にて、各ロールに沿って移動する基材20に、インプリント用モールド10の表面に塗布された光硬化性組成物が接触した状態で、光硬化性組成物に光を照射する光照射手段28と;インプリント用モールド10よりも上流側にて基材20を支持する支持ロール52と;基材20を介して上流側下ロール48に対向配置された上流側ニップロール54と;基材20を介して下流側下ロール50に対向配置された下流側ニップロール56と;上流側下ロール48と下流側下ロール50との間にて、インプリント用モールド10を基材20の表面に塗布された光硬化性組成物に押し付ける3つの押し付けロール58とを有して概略構成される。
【0055】
上ロール46、上流側下ロール48および下流側下ロール50は、同じ方向に回転することによって、上流側下ロール48と下流側下ロール50との間にて、インプリント用モールド10が基材20の移動方向と同じ方向に移動するように、インプリント用モールド10を輪転させるものである。
【0056】
以上説明した本発明のインプリント装置にあっては、エンドレスベルト状のモールドが、接合部分に生じる段差が小さくされた本発明のインプリント用モールドであるため、該インプリント用モールドを光硬化性組成物に接触させた際に接合部分に取り残される空気が少なくなり、該部分における光硬化性組成物の硬化が阻害されにくい。その結果、エンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができる。
【0057】
なお、本発明のインプリント装置は、図示例の実施形態のものに限定はされない。たとえば、エンドレスベルト状のモールドを備えた公知のインプリント装置であっても、エンドレスベルト状のモールドとして、本発明のインプリント用モールドを備えることによって本発明の効果を奏することができる。
【0058】
<インプリント方法>
本発明のインプリント方法は、下記の工程(a)〜(d)を有する方法である。
(a)移動する基材の表面に光硬化性組成物を塗布する工程。
(b)基材の表面に塗布された光硬化性組成物に、複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドを接触させる工程。
(c)光硬化性組成物にモールドが接触した状態で、光硬化性組成物に光を照射して光硬化性組成物を硬化させて、モールドの微細パターンに対応する反転パターンを基材の表面に形成する工程。
(d)基材とモールドとを分離する工程。
【0059】
また、本発明のインプリント方法は、下記の工程(a’)〜(d’)を有する方法である。
(a’)複数のロールに架け渡されて輪転するエンドレスベルト状のモールドの表面に光硬化性組成物を塗布する工程。
(b’)モールドの表面に塗布された光硬化性組成物に、移動する基材を接触させる工程。
(c’)光硬化性組成物に基材が接触した状態で、光硬化性組成物に光を照射して光硬化性組成物を硬化させて、モールドの微細パターンに対応する反転パターンを基材の表面に形成する工程。
(d’)基材とモールドとを分離する工程。
【0060】
そして、本発明のインプリント方法においては、エンドレスベルト状のモールドとして、上述した、微細パターンを表面に有する1枚以上の樹脂フィルムの端部同士を突き合わせた状態で融着してエンドレスベルト状にした、本発明のインプリント用モールドを用いることに特徴がある。
【0061】
特に、インプリント用モールドとして、該モールドの接合部分の最大段差が基材の表面に塗布された光硬化性組成物の膜厚よりも低いものを用いることが好ましい。接合部分の段差が光硬化性組成物の膜厚よりも低ければ、接合部分の段差を、基材の表面に塗布された光硬化性組成物によって吸収できるため、段差が光硬化性組成物で埋まり、接合部分に取り残される空気が少なくなり、該部分における光硬化性組成物の硬化が阻害されにくくなる。その結果、エンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができる。
【0062】
また、インプリント用モールドとして、該モールドの接合部分(すなわち、突き合わせの位置を中心線とする10mmの幅の部分)において、1mm角の面積内のモールドの厚さの最大値と最小値との差が20μmを超える領域が存在しないこと、すなわち上記部分のどこの1mm角を見ても該差が20μm以下であることが好ましい。言い換えれば、上記インプリント用モールドにおいて、樹脂フィルムの端部同士が突き合わされて融着され、接合された接合線を中心線とする10mmの幅の部分におけるモールドの厚さの最大値と最小値の差が20μm以下であることが好ましい。かかる差は、15μm以下がより好ましく、10μ以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明のインプリント方法は、たとえば、上述した第1〜3の実施形態のインプリント装置の他、エンドレスベルト状のモールドを備えた公知のインプリント装置等を用いることによって実施できる。
【0064】
基材の材料としては、樹脂(たとえば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド、環状ポリオレフィン等)、ガラス、金属等が挙げられる。
【0065】
第1の実施形態のインプリント装置を用いる場合は、可撓性および光透過性が要求されることから、基材としては、透明樹脂基材が好ましい。第2の実施形態のインプリント装置を用いる場合は、可撓性および光透過性が要求されることから、基材としては、透明樹脂基材が好ましい。第3の実施形態のインプリント装置を用いる場合は、可撓性が要求されないことから、基材としてガラス基材を用いることもできる。
【0066】
光硬化性組成物としては、上述したインプリント用モールドの製造方法に用いた光硬化性組成物と同様のものを用いることができ、インプリント用モールドの製造方法に用いた光硬化性組成物と同一でも異なっていてもよい。
光硬化性組成物の塗布方法としては、ダイコート法、ロールコート法の他に、インクジェット法、ポッティング法、スピンコート法、キャスト法、ディップコート法、ラングミュラープロジェット法、真空蒸着法等が挙げられる。
光硬化性組成物は、基材の全面に配置してもよく、基材の表面の一部に配置してもよい。
【0067】
以上説明した本発明のインプリント方法にあっては、エンドレスベルト状のモールドとして、接合部分に生じる段差が小さくされた本発明のインプリント用モールドを用いているため、該インプリント用モールドを光硬化性組成物に接触させた際に接合部分に取り残される空気が少なくなり、該部分における光硬化性組成物の硬化が阻害されにくい。その結果、エンドレスベルト状のインプリント用モールドの接合部分の段差によって生じる未硬化の光硬化性組成物の残存を抑えることができる。
【0068】
<微細パターンを表面に有する物品>
本発明のインプリント装置およびインプリント方法によれば、微細パターンを表面に有する物品を製造できる。
微細パターンを表面に有する物品としては、下記の物品が挙げられる。
・光学素子:マイクロレンズアレイ、光導波路素子、光スイッチング素子(グリッド偏光素子、波長板等。)、フレネルゾーンプレート素子、バイナリー素子、ブレーズ素子、フォトニック結晶等。
・反射防止部材:AR(Anti Reflection)コート部材等。
・チップ類:バイオチップ、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)用のチップ、マイクロリアクターチップ等。
・その他:記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材、半導体(MEMSを含む。)、電解用のレプリカ等。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0070】
〔例1〕
(光硬化性組成物の調製)
撹拌機および冷却管を装着した1000mLの4つ口フラスコに、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業社製、NK エステル A−DPH)の60g、
ネオペンチルグリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、NK エステル A−NPG)の40g、
光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、IRGACURE907)の4.0g、
含フッ素界面活性剤(旭硝子社製、フルオロアクリレート(CH=CHCOO(CH(CFF)とブチルアクリレートとのコオリゴマー、フッ素含有量:約30質量%、質量平均分子量:約3000)の0.1g、
重合禁止剤(和光純薬社製、Q1301)の1.0g、および
シクロヘキサノンの65.0gを入れた。
【0071】
フラスコ内を常温および遮光にした状態で、1時間撹拌して均一化した。ついで、フラスコ内を撹拌しながら、コロイド状シリカの100g(固形分:30g)をゆっくりと加え、さらにフラスコ内を常温および遮光にした状態で1時間撹拌して均一化した。ついで、シクロヘキサノンの340gを加え、フラスコ内を常温および遮光にした状態で1時間撹拌して光硬化性組成物(1)を得た。
【0072】
(マスターモールド(複製)の作製)
複数の溝が、該溝間に形成される平坦部を介して互いに平行にかつ所定のピッチで形成された石英製モールド(面積:150mm×150mm、パターン面積:100mm×100mm、溝のピッチ:160nm、溝の幅:65nm、溝の深さ:200nm、溝の長さ:100mm、溝の断面形状:略二等辺三角形)を用意した。
【0073】
該石英製モールドからニッケル電鋳によって、複数の凸条が、該凸条間に形成される平坦部を介して互いに平行にかつ所定のピッチで形成されたニッケル製マスターモールド(面積:150mm×150mm、パターン面積:100mm×100mm、凸条のピッチ:160nm、凸条の底部の幅:65nm、凸条の高さ:200nm、凸条の長さ:100mm、凸条の断面形状:略二等辺三角形)を複製した。
【0074】
(樹脂フィルムの製造)
工程(i):
長さ150mm、幅150mm、厚さ100μmの高透過ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポン社製、帝人テトロンO3)の表面に、光硬化性組成物(1)をスピンコート法により塗布し、厚さ5μmの光硬化性組成物(1)の塗膜を形成した。
工程(ii):
前記ニッケル製マスターモールドを、凸条が光硬化性組成物(1)の塗膜に接するように、25℃にて0.5MPa(ゲージ圧)で光硬化性組成物(1)の塗膜に押しつけた。
【0075】
工程(iii):
工程(ii)によって得られた状態を保持したまま、PETフィルム側から、照射の光として、高圧水銀灯(周波数:1.5kHz〜2.0kHz、主波長光:255nm、315nmおよび365nm、365nmにおける照射エネルギー:1000mJ)の紫外線を15秒間照射し、光硬化性組成物(1)を硬化させて、ニッケル製マスターモールドの凸条に対応する複数の溝および該溝間の平坦部を表面の一部に有するPETフィルム(溝のピッチ:160nm、溝の幅:65nm、溝の深さ:200nm)を得た。
工程(iv):
PETフィルムからニッケル製マスターモールドをゆっくり分離した。
【0076】
以上の工程(i)〜(iv)を10回繰り返し行い、ニッケル製マスターモールドの凸条に対応する複数の溝および該溝間の平坦部を表面の一部に有する樹脂フィルム(1)10枚を得た。
【0077】
フッ素系離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX)をフッ素系溶媒(旭硝子社製、CT−Solv.100)に溶解させて、離型剤溶液(1)(フッ素系化合物の濃度:0.1質量%)を調製した。
樹脂フィルム(1)を離型剤溶液(1)にディップし、引き上げた後、直ちにフッ素系溶媒(旭硝子社製、CT−Solv.100)でリンスし、60℃、90%RHの恒温高湿槽中にて1時間キュアし、樹脂フィルム(1)の表面に離型剤処理を施した。
【0078】
(インプリント用モールドの製造)
離型剤処理した樹脂フィルム(1)の端部同士を突き合わせた状態で、突き合わせ部分を、250℃に加熱された幅10mmの一対のヒータで5MPa(ゲージ圧)で上下方向から挟み込み、加熱融着して接合し、エンドレスベルト状のインプリント用モールド(1)を得た。
接合部分の段差を、マイクロメータ(ミツトヨ社製)を用いて測定したところ、接合部分(突き合わせの位置を中心線とする10mmの幅の部分)において、1mm角の面積内のモールドの厚さの最大値と最小値との差が20μmを超える領域が存在しない。
【0079】
(光透過性基板の製造)
エンドレスベルト状のインプリント用モールド(1)を、図3に示すインプリント装置の大ロール24および小ロール26に架け渡した。
基材20として厚さ100μmの前記と同様のPETフィルムを用い、光硬化性組成物として前記と同様の光硬化性組成物(1)を用い、光照射手段28として前記高圧水銀灯を用いた。
基材20の移動速度1m/分、光硬化性組成物(1)の塗布膜厚10μmの条件でインプリントを実施し、インプリント用モールド(1)の微細パターンに対応する反転パターン(凸条のピッチ:160nm、凸条の底部の幅:65nm、凸条の高さ:200nm、凸条の長さ:100mm、凸条の断面形状:略二等辺三角形)を基材20の表面に有する、ワイヤグリッド型偏光子の光透過性基板を得た。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のインプリント用モールドは、反射防止部材、ワイヤグリッド型偏光子等の光学部材等をインプリント法、特にナノインプリント法にて製造する際のモールドとして有用である。
なお、2009年10月21日に出願された日本特許出願2009−242392号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0081】
10 インプリント用モールド
12 樹脂フィルム
20 基材
22 塗布手段
24 大ロール
26 小ロール
28 放射線照射手段
36 上流側ロール
38 下流側ロール
40 冷却ロール
42 放射線照射ロール
46 上ロール
48 上流側下ロール
50 下流側下ロール
58 押し付けロール
図1
図2
図3
図4
図5