特許第5737202号(P5737202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737202
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】半導体素子、及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20150528BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H01L21/265 H
   H01L21/324 X
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-16806(P2012-16806)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-157453(P2013-157453A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−087512(JP,A)
【文献】 特開2009−218620(JP,A)
【文献】 特開2000−053497(JP,A)
【文献】 特開2009−212537(JP,A)
【文献】 特開2000−277449(JP,A)
【文献】 特開2001−007220(JP,A)
【文献】 特開昭62−035617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に半導体素子を形成する方法であって、
窒素がドープされ空孔欠陥が形成された前記半導体基板をアニールする工程と、
該アニール後の半導体基板にスクリーン酸化膜を形成するに際し、雰囲気ガスとして使用する酸素ガスと窒素ガスを流量比が酸素ガス/窒素ガス=0.1〜1となるように混合して、前記スクリーン酸化膜を形成する工程と、
その後、前記半導体基板のスクリーン酸化膜形成面からイオン注入する工程とを有し、
前記アニール工程において、5×1012atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下の窒素がドープされた前記半導体基板をアニールし、
前記イオン注入工程において、ボロンをイオン注入することを特徴とする半導体素子の形成方法。
【請求項2】
前記アニール工程において、前記半導体基板を1150℃以上1200℃以下の温度範囲でアニールすることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子の形成方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の半導体素子の形成方法により形成されたものであることを特徴とする半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、及び半導体素子の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリ、LSI、CCD等の固体撮像素子等の半導体装置の微細化、高性能化に伴い、それらの製品歩留まりを向上させるために、材料としてのシリコンウェーハにも高品質化が要求され、これに対応した各種シリコンウェーハが開発されている。これらデバイスの性能・歩留まりにはシリコン基板品質が大きく影響し、特に、製品特性に直接影響を与えると推測されるウェーハ表層部の結晶性は重要である。
【0003】
表層品質の改善策として、1)不活性ガス又は水素を含む雰囲気中での高温熱処理、2)単結晶引き上げ条件の改善によるグロウ・イン(Grown−in)欠陥の低減、3)エピタキシャル成長したウェーハ等がある。
【0004】
また、各種デバイスを形成する上で、イオン注入技術は必須の技術である。しかしイオン注入は、注入(拡散)対象元素を加速器で加速しシリコン基板に文字通り注入する技術であり、注入量や拡散深さが正確に制御できる利点がある一方で、イオン注入に起因する欠陥が生成することが知られている。これを解消するため、イオン注入によりアモルファス化した層を高温でアニールすることで回復させることが行われている。
【0005】
しかし、イオン、特に、ボロンを、高濃度で注入すると欠陥が形成されることが知られており、例えばボロン高濃度層のウェル上にはゲート酸化膜を作りこむことができないという問題がある(非特許文献1,2,3)。
【0006】
そこで、ボロン等のイオン注入時に生じる欠陥を抑制できる半導体素子の製造プロセスが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Si中結晶欠陥制御によるゲート酸化膜寿命分布の改善」中嶋、渡辺、吉田、光嶋、豊田中央研究所R&DレビューVol35, No3(2000).51
【非特許文献2】Kolbesen.B.O et al., Nucl.Instrum.MethodsPhys.Res.B.55(1991),124
【非特許文献3】Chen.L.J.,J.Appl.,Phys.,52’1981),3310.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、イオン注入工程において、欠陥の発生を抑制できる半導体素子の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、半導体基板上に半導体素子を形成する方法であって、
窒素がドープされ空孔欠陥が形成された前記半導体基板をアニールする工程と、
該アニール後の半導体基板にスクリーン酸化膜を形成するに際し、雰囲気ガスとして使用する酸素ガスと窒素ガスを流量比が酸素ガス/窒素ガス=0.1〜1となるように混合して、前記スクリーン酸化膜を形成する工程と、
その後、前記半導体基板のスクリーン酸化膜形成面からイオン注入する工程とを有することを特徴とする半導体素子の形成方法。
【0010】
このような半導体素子の形成方法であれば、アニール工程により原子レベルでイオン注入において導入される過剰格子間シリコンを吸収できる残留空孔を形成でき、イオン注入工程において欠陥の発生を抑制することができる。
【0011】
また、前記イオン注入工程において、ボロンをイオン注入することが好ましい。
【0012】
このようにボロンを注入すれば、残留空孔とイオン注入において導入される過剰格子間シリコンとの対消滅が特に効率よく作用して、高歩留まりを期待できる。
【0013】
さらに、前記アニール工程において、5×1012atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下の窒素がドープされた半導体基板をアニールすることが好ましい。
【0014】
このような濃度で窒素がドープされていれば、効率よく空孔欠陥が形成され、かつ、アニール工程により、残留空孔を形成しつつ、半導体基板のデバイス活性領域の空孔欠陥を容易に消滅することが可能になる。
【0015】
また、前記アニール工程において、半導体基板を1150℃以上1200℃以下の温度範囲でアニールすることが好ましい。
【0016】
このような温度で熱処理することで、残留空孔を形成しつつ、半導体基板のデバイス活性領域の空孔欠陥を容易に消滅することが可能になる。
【0017】
さらに、本発明では、前述の半導体素子の形成方法により形成された半導体素子を提供する。
【0018】
このような半導体素子であれば、高品質なものとなる。特に、ボロン等のイオンの高濃度層のウェル上にもゲート酸化膜を作りこむことができる半導体素子となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の半導体素子の形成方法であれば、イオン注入工程、特にボロンを高濃度で注入した場合でも、欠陥の発生を抑制することが可能となる。これにより、高濃度ボロンウェル上にも信頼性の高いゲート酸化膜が形成できるような半導体素子の製造プロセスを提供することができる。さらに、本発明の構成により、メモリ、固体撮像素子、LSI等の高歩留まりが要求される製品に使用される高品質ウェーハのゲート酸化膜欠陥を制御することが可能であり、高い歩留まりにて、半導体素子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の半導体素子の形成方法のフロー図である。
図2】窒素をドープして空孔欠陥が形成された半導体基板上に形成した半導体素子における流量比(酸素ガス/窒素ガス)と不良率の相関を示す図である。
図3】窒素をドープせず空孔欠陥が形成されていない半導体基板上に形成した半導体素子における流量比(酸素ガス/窒素ガス)と不良率の相関を示す図である。
図4】TDDB測定の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1に本発明の半導体素子の形成方法のフロー図を示す。窒素がドープされ空孔欠陥が形成された半導体基板の作製方法としては、特に制限されないが、(I)単結晶育成工程として、チョクラルスキー法(CZ法)により窒素がドープされ空孔欠陥が形成された単結晶を育成し、(II)半導体基板作製工程において、育成された単結晶インゴットをスライスし、該スライスされた半導体基板に研磨等を施す方法が例示される。このように窒素をドープすることで結晶中に多数の空孔欠陥を作りこむことが可能になる。
【0022】
(III)アニール工程では、上記のようにして作製した半導体基板をアニールする。窒素がドープされ空孔欠陥が形成された半導体基板をアニールすることで、酸化膜耐圧に影響を及ぼさないように、このボイド(空孔欠陥)を、特に表層のデバイス活性領域において消滅させることができる。しかし、このアニール工程では、原子レベルでの完全な空孔の消滅は完了しておらず、空孔は残留している。この残留空孔によりこの後のイオン注入工程において導入される過剰格子間シリコンを対消滅させ、吸収することができる。
【0023】
アニール工程では、5×1012atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下の窒素がドープされた半導体基板をアニールすることが好ましい。このような濃度であれば、効率よく空孔欠陥を形成でき、かつ、アニール工程によりこれを消滅させ、残留空孔とすることができる。このような窒素濃度は、上記単結晶インゴットの育成において、窒素ドーパントの量を制御することにより製造することができる。また、半導体基板を1150℃以上1200℃以下の温度範囲でアニールすることが好ましい。このような温度であれば、原子レベルでイオン注入において導入される過剰格子間シリコンを吸収できる残留空孔を形成しつつ、半導体基板のデバイス活性領域の欠陥を容易に消滅することが可能になる。
【0024】
窒素をドープして空孔欠陥が形成された半導体基板上に形成した半導体素子におけるボロンのドーズ量(注入量)と不良率の相関を調べた結果、窒素をドープした場合にはボロンのドーズ量(注入量)が多くなっても不良率が低いことが分かった。
【0025】
窒素を添加することにより多数の空孔欠陥が形成され、ボイドが多数存在するウェーハとなるが、Arアニールにより少なくとも表面のボイド(空孔欠陥)は消滅し、原子レベルで残留空孔が残ることとなる。この残留空孔とイオン注入で生じた過剰格子間シリコンが対消滅することでTDDB特性(Time Dependent Dielectric Breakdown)の劣化を防いでいると考えられる。そのため、CZ法により窒素を添加して育成した単結晶をスライスして作製したウェーハをアニールしてイオン注入することで、ボロン等を高濃度に注入しても、TDDB特性の劣化を抑制できる。また、スクリーン酸化膜形成時の雰囲気にNを添加することで、TDDB特性の劣化を一層抑制できる。
【0026】
次に、(IV)スクリーン酸化工程では、アニール後の半導体基板にスクリーン酸化膜を形成するに際し、雰囲気ガスとして使用する酸素ガスと窒素ガスを流量比が酸素ガス/窒素ガス=0.1〜1となるように混合して、スクリーン酸化膜を形成する。これにより、この残留空孔による過剰格子間シリコンの吸収を効率よく機能させることができる。
【0027】
窒素をドープせず空孔欠陥が形成されていない半導体基板上に形成した半導体素子におけるスクリーン酸化膜形成工程の雰囲気と不良率の相関を調べた結果、流量比(酸素ガス/窒素ガス)が1未満であれば、TDDB特性が改善することが分かった。また、スクリーン酸化膜の形成時間短縮のために酸素ガス/窒素ガスが流量比0.1以上添加されていることが必要であることが分かった。
【0028】
(V)イオン注入工程では、半導体基板のスクリーン酸化膜形成面からイオン注入する。イオン注入では、ボロンをイオン注入することができる。ボロンを注入すれば、残留空孔とイオン注入において導入される過剰格子間シリコンとの対消滅が特に効率よく作用して、高歩留まりを期待することができる。
【0029】
なお、ボロンのドーズ量は特に制限されないが、5.0×1013atoms/cm以上1.0×1016atoms/cm以下であることが好ましい。
【0030】
最後に、(VI)その他の素子形成工程として、一般的に素子形成工程で行われるものを特に制限されず行うことができる。例えば、その他の素子形成工程として、半導体基板に対して、ゲート酸化膜の形成、該ゲート酸化膜上にポリシリコン層の形成、フォトリソグラフィ技術を用いたパターンニングとエッチングによるポリシリコン層除去、ウェーハ背面のシリコン酸化膜の除去等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
〔実施例〕
チョクラルスキー法により窒素を1×1015atoms/cmドープし、かつボロンを1×1015atoms/cmドープした直径200mmのシリコン単結晶を育成し、該シリコン単結晶をスライスして、P型半導体シリコンウェーハを試料として準備した。このP型半導体シリコンウェーハをPW加工(研磨加工)後、1200℃でAr雰囲気下1時間熱処理した。
【0033】
まずこの半導体シリコンウェーハをボートに載置して縦型熱処理炉に投入し、900℃で熱処理して厚さ10nmのスクリーン酸化膜を前記ウェーハ主表面に形成した。その際、酸素ガスに窒素ガスを混合し希釈酸化を行った。このときの混合する酸素ガスと窒素ガスの流量比(酸素ガス/窒素ガス)を1、0.5、0.1と変化させた。その後イオン注入装置にて、ボロンのドーズ量を1×1014atoms/cmとしてイオン注入した。このときのチルトは7°とし加速電圧は55KeVとした。イオン注入後に回復アニールとして1000℃/O/10minの処理を行ったのち、スクリーン酸化膜を除去し、RCA洗浄を行った。
【0034】
これらの半導体シリコンウェーハをボートに載置して縦型熱処理炉に投入し、900℃、乾燥酸素雰囲気下で熱処理して厚さ25nmのゲート酸化膜を前記ウェーハ主表面に形成した。次に、これらの半導体シリコンウェーハをCVD炉に投入し、リンをドープしながらゲート酸化膜上にポリシリコン層を成長させた。成長したポリシリコン層厚さは約300nm、抵抗値はシート抵抗にして約25Ω/sq.であった。続いてこれら半導体シリコンウェーハに、フォトリソグラフィ技術を用いたパターンニングとエッチングによるポリシリコン層除去を行い、ポリシリコン層を電極としたMOSキャパシタを半導体シリコンウェーハ面内に100個作製した。なお、フォトリソグラフィ後のポリシリコンエッチングは、フッ硝酸によるウエットエッチングで行った。最後に、半導体シリコンウェーハ背面に形成されているシリコン酸化膜を除去するために、該半導体シリコンウェーハ主表面にレジストを塗布し、希フッ酸によるウエットエッチングを行って該ウェーハ背面のシリコン酸化膜を除去した。
【0035】
次に、定電流TDDB法を用いて、図4のようにゲート酸化膜2に電界ストレスを印加することで不良率を判定した。具体的には、可変電源6、電圧計8、及び電流計9からなる絶縁破壊強度測定装置5を用い、ポリシリコン電極4とプローブ7を介して半導体シリコンウェーハ3上の半導体素子(MOSキャパシタ型半導体素子1)へ一定電流をゲート酸化膜2が破壊するまで印加した。印加した電流ストレスは0.01A/cmであり測定温度は測定時間短縮もあり100℃とした。測定には、フルオートプローバに接続したテスタを用いた。今回の電極面積は4mmであった。上記測定において5C/cm以下のものを不良としてカウントした。
【0036】
〔比較例1〕
スクリーン酸化膜形成の際の流量比(酸素ガス/窒素ガス)を2としたこと以外は、実施例と同様にしてMOSキャパシタを作製し、定電流TDDB法により評価した。
【0037】
〔比較例2〕
CZ法により窒素を添加せずボロンだけをドープした直径200mmのシリコン単結晶をスライスし、P型半導体シリコンウェーハを試料として準備したこと以外は、実施例と同様にしてMOSキャパシタを作製し、定電流TDDB法により評価した。
【0038】
その結果、実施例と比較例1は図2に示すような結果となり、比較例2は図3に示すような結果となった。窒素添加ウェーハであればボロン注入量が多くなっても非添加ウエーハに比べると、TDDB特性劣化が少なく、更にスクリーン酸化膜形成時に流量比(酸素ガス/窒素ガス)=0.1〜1とすることでほぼ完全に欠陥の発生を抑制し、TDDB特性が劣化しないことが分かった。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0040】
1…MOSキャパシタ型半導体素子、 2…ゲート酸化膜、 3…半導体シリコンウェーハ、 4…ポリシリコン電極、 5…絶縁破壊強度測定装置、 6…可変電源、 7…プローブ、 8…電圧計、 9…電流計
図1
図2
図3
図4