(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、成形されたガラス製品の品質を向上させるために、溶解炉で原料を溶解した溶融ガラスを成形装置で成形する前に溶融ガラス内に発生した気泡を除去する清澄工程が利用されている。
この清澄工程では、清澄剤を原料内に予め添加し、原料を溶融して得られた溶融ガラスを所定温度に一定時間貯留、維持することで、清澄剤によって溶融ガラス内の気泡を成長させて浮上させて除去する方法が知られている。また、減圧雰囲気内に溶融ガラスを導入し、この減圧雰囲気下、連続的に流れる溶融ガラス流内の気泡を大きく成長させて溶融ガラス内に含まれる気泡を浮上させ破泡させて除去し、その後減圧雰囲気から排出する減圧脱泡方法が知られている。
溶融ガラスから効率よく気泡を除去するためには、上記した二つの方法を組み合わせて実施すること、すなわち、清澄剤が添加された溶融ガラスを用いて減圧脱泡方法を実施することが好ましい。
【0003】
ガラスの清澄剤としては、As
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2等の酸化物系清澄剤、NaClなどのアルカリ金属の塩化物系の清澄剤、SO
3等が存在する。これらのうち、As
2O
3およびSb
2O
3、特にAs
2O
3は、環境への負荷が大きいため、その使用の抑制が求められている。
また、SnO
2は、酸素を放出する温度が1500℃以上と高く、清澄剤として有効に利用することが難しい場合がある。
また、アルカリ金属の塩化物は、清澄に十分な量を添加すると、無アルカリガラスにアルカリ金属が含有されることになるため、利用することができない清澄剤である。
このため、無アルカリガラスの清澄剤としては、SO
3が用いられる。SO
3は、投入原料の初期溶解性を向上させる効果も有するため、清澄剤として好ましい。
【0004】
減圧脱泡を実施する際の減圧脱泡槽内の圧力や温度といった条件は、特許文献1、2等に示されているが、同一の品種ガラス、具体的には、同じ無アルカリガラスであっても、組成が異なり粘性特性が異なる場合、減圧脱泡における清澄効果が異なり、意図した清澄効果が得られない場合がある。
溶解槽において、ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る際、ガラスの粘性に応じてガラスの溶解温度を調整する必要があり、溶解槽から減圧脱泡槽に供給される溶融ガラスの温度もガラスの粘性特性によって異なってくる。
この結果、減圧脱泡槽内の圧力や温度といった条件が、ある粘性のガラスに対して、優れた清澄効果を発揮する条件であったとしても、組成が異なり温度と粘性との関係が異なるガラスの場合、意図した清澄効果が得られない場合がある。
【0005】
特許文献3には、製造するガラスが水分を含有するソーダライムガラスの場合に、ガラスのβ−OH値、ガラスのSO
3の含有割合、および、溶融ガラスの温度から導き出される泡成長開始圧よりも減圧脱泡槽内の圧力を低くすることで、清澄剤をほとんど用いることなしに、製造後のガラスに泡を残留することなしに生産ができると記載されているが、ソーダライムガラスとは組成が全く異なる無アルカリガラスに特許文献3に記載の方法を適用しても、意図した清澄効果を発揮することはできないと考えられる。具体的には、無アルカリガラスは、ソーダライムガラスと比較してSO
3の溶解度が非常に小さいため、清澄効果に及ぼす影響が小さく、特許文献3の方法は適用できないと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の減圧脱泡方法を説明する。
図1は、本発明の減圧脱泡方法に用いる減圧脱泡装置の一構成例を示した断面図である。
図1に示す減圧脱泡装置1において、円筒形状をした減圧脱泡槽12は、その長軸が水平方向に配向するように減圧ハウジング11内に収納配置されている。減圧脱泡槽12の一端の下面には垂直方向に配向する上昇管13が、他端の下面には下降管14が取り付けられている。上昇管13および下降管14は、その一部が減圧ハウジング11内に位置している。
上昇管13は、減圧脱泡槽12と連通しており、溶解槽20からの溶融ガラスGを減圧脱泡槽12に導入する。下降管14は、減圧脱泡槽12に連通しており、減圧脱泡後の溶融ガラスGを次の処理槽(図示せず)に導出する。減圧ハウジング11内において、減圧脱泡槽12、上昇管13および下降管14の周囲には、これらを断熱被覆する断熱用レンガなどの断熱材15が配設されている。減圧脱泡槽12は、減圧吸引装置(図示せず)により、減圧ハウジング11に設けられた吸引孔(図示せず)を介して減圧されるようになっている。
【0012】
図1に示す減圧脱泡装置1において、減圧脱泡槽12、上昇管13および下降管14は、溶融ガラスの導管であるため、耐熱性および溶融ガラスに対する耐食性に優れた材料を用いて作製されている。一例を挙げると、白金製、白金合金製、または、白金もしくは白金合金に金属酸化物を分散させてなる強化白金製である。また、セラミックス系の非金属無機材料製、すなわち、緻密質耐火物製であってもよい。また、緻密質耐火物に白金または白金合金を内張したものであってもよい。
【0013】
本発明の減圧脱泡方法では、溶解槽20から供給される溶融ガラスGを所定の減圧度に減圧された減圧脱泡槽12を通過させて減圧脱泡を行う。溶融ガラスGは、減圧脱泡槽12に連続的に供給・排出されることが好ましい。なお、溶融ガラスの流量が2〜100トン/日であることが生産性の点から好ましい。
【0014】
本発明の減圧脱泡方法で用いる溶融ガラスGは、無アルカリガラスであり、清澄剤としてSO
3が添加されているものである。SO
3の添加量は、ガラス母組成原料100質量部に対して0.1〜0.45質量部(以下、「質量部」と記した場合、ガラス母組成原料100質量部に対する添加量を意味するものとする。)であることが好ましい。0.45質量部超であると、溶解槽での泡層が過剰となるおそれがある。また、0.1質量部未満であると清澄効果が不十分となるおそれがある。
SO
3の添加量は、0.2〜0.4質量部であることがより好ましい。
かかるSO
3は
、例えば、CaSO
4、MgSO
4、SrSO
4、BaSO
4などの化合物として、ガラス母組成原料に添加される。
【0015】
清澄剤として添加されたSO
3は、溶融ガラス中では下記式に示すように、SO
2とO
2に分解する。
SO
3 → SO
2+1/2O
2
溶融ガラスを均質化するために、溶解槽内の溶融ガラスの温度は高温に保持されている。このため、溶解槽内では溶融ガラス中のSO
2の一部は揮散する。
本願発明者らは、溶融ガラスの生産量が2〜100トン/日の規模の溶解槽であって、前記SO
3の添加量が0.1〜0.45質量部の場合、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3](ppm)と、溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)と、の間に
図2中の直線、すなわち、下記式(2)に示すような相関関係があることを実験的に見出した。
[SO
3] = −0.0775×T
max + 135.02 (2)
なお、溶解槽から出された後の溶融ガラスは、溶解槽内に比べて温度が低いため、SO
2の揮散がほとんどなく、溶解槽から出された時点の溶融ガラス中のSO
3濃度とほぼ同程度に維持される。したがって、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスのSO
3濃度も、溶解槽から出された時点の溶融ガラス中のSO
3濃度とほぼ同程度に維持される。
【0016】
溶融ガラスの最高温度T
max(℃)は、ガラス溶融槽内における溶融ガラスの最高温度であって、無アルカリガラスの組成や使用する溶解槽の構造や寸法によっても異なるが、溶融ガラスの均質化の観点から、溶融ガラスの粘度が10
2dPa・sとなる温度をT
2(℃)とするとき、T
2−120℃〜T
2−10℃、より好ましくはT
2−100℃〜T
2−30℃、さらに好ましくはT
2−90℃〜T
2−50℃をみたすように設定される。
また、溶融ガラスの最高温度T
maxが高すぎると炉材浸食が速く、溶解槽の寿命が短くなる。一方、溶融ガラスの最高温度T
maxが低すぎると、泡の除去が抑制される問題が生じる。これらの理由から、溶融ガラスの最高温度T
maxは、1400〜1700℃であることが好ましい。
【0017】
溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3](すなわち、溶融槽において溶融ガラスが上流から下流に向かって流れ、均質化された溶融槽の下流域における溶融ガラスの中のSO
3濃度であって、代表的には、
図1における上昇管13の下部に位置する溶融槽20内の溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3]である。)は、質量%表示で3〜40ppmであることが、清澄作用に優れることから好ましい。溶融ガラス中のSO
3濃度が3ppm未満だと減圧槽での清澄作用が不十分になるおそれがある。溶融ガラス中のSO
3濃度が40ppm超だと、製造時に溶融ガラスが再沸するなどして製造されるガラス中に気泡が残存するおそれがある。
溶融ガラス中のSO
3濃度は、3〜30ppmであることが好ましく、3〜20ppmであることがより好ましい。
【0018】
本願発明者らは、粘性や清澄剤としてのSO
3の添加量が異なる無アルカリガラスを用いて溶融ガラスの減圧脱泡処理を実施し、減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板中の泡欠点数(以下、単に「ガラス板中の気泡数」という場合もある。)を測定した結果、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度η(Pa・s)、および、該溶融ガラスのSO
3濃度[SO
3](ppm)と、ガラス板中の気泡数と、の間に相関関係があることを見出した。
ここで、ガラス板中の気泡数を測定したのは減圧脱泡処理後の溶融ガラスに残留する気泡数を測定することは困難であるからである。減圧脱泡処理後の溶融ガラスにおける気泡数の変動はほとんどないと看做してよいので、ガラス板中の気泡数の測定結果は減圧脱泡処理後の溶融ガラスに残留する気泡数とほぼ同程度である。
ここから、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度η(Pa・s)、および、該溶融ガラスのSO
3濃度[SO
3](ppm)と、減圧脱泡処理後の溶融ガラスに残留する気泡数と、の間も相関関係があることは明らかである。
本願発明者らは、この知見に基づいて鋭意検討した結果、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度η(Pa・s)および該溶融ガラスのSO
3濃度[SO
3](ppm)が下記式(1)を満たす条件で減圧脱泡を実施した場合に、減圧脱泡処理後の溶融ガラスに残留する気泡の数が極めて低減され、気泡の少ない高機能、高品質のガラスができることを見出した。
18.2 + 1003/η −1.05×[SO
3] ≧ 8
…(1)
図3は、粘度ηとSO
3濃度の条件を種々変化させた場合の、上記式(1)の左辺(以下、本明細書において、「式(a)」という。)と、ガラス板(試験サンプル)中の気泡数(泡密度)と、の関係をプロットしたグラフである。なお、
図3での各データの減圧度は、試験サンプル中の気泡の数が最小となる圧力とした。
図3には、上記式(1)を満たす場合にガラス板中の気泡数が極めて低減されることが示されている。
なお、図中の曲線は、横軸1目盛り間隔での平均値を3次の多項式で近似したものである。
ガラス板中の気泡数に対する要求は、製造するガラス板の用途によっても異なるが、液晶ディスプレイ基板の場合、0.25個/kg以下であることが好ましく、0.2個/kgであることがより好ましく、0.15個/kg以下であることがさらに好ましい。
【0019】
ここで、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラス中のSO
3濃度は、上述したように、溶解槽から出された時点の溶融ガラス中のSO
3濃度とほぼ同程度に維持される。そして、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3](ppm)と、溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)と、の間には、上記式(2)に示すような相関関係があるので、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラス中のSO
3濃度は、溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)によって決まってくる。
一方、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度η(Pa・s)は、ガラスの粘性特性と減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの温度によって決まってくる。
【0020】
したがって、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度ηおよび該溶融ガラスのSO
3濃度が上記式(1)を満たす条件で減圧脱泡を実施するには、以下のいずれかの手順を実施すればよい。
(a)ガラスの粘度特性に応じて減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの温度を調節することによって、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの粘度ηを調節する。
(b)溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)を調節することによって、式(2)により減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラス中のSO
3濃度を調節する。
(c)上記(a)および(b)の双方の実施。
【0021】
本発明の減圧脱泡方法では、ガラスの粘性特性に応じて減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの温度を調節することによって、上記式(1)を満たす条件で減圧脱泡を実施することができるため、粘性が異なるガラスに対して、最適な減圧脱泡条件を容易に設定することができる。
但し、減圧脱泡槽を形成する構造材の耐久性維持、及び構造体起因の欠点を抑制するなどの理由から、減圧脱泡槽を通過する際の溶融ガラスの温度は1300〜1600℃の温度範囲に保持することが好ましく、1350〜1550℃の温度範囲に保持することがより好ましく、1370〜1500℃の温度範囲に保持することがさらに好ましい。
【0022】
本発明の減圧脱泡方法では、式(1)の左辺(式(a))は、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0023】
本発明の減圧脱泡方法では、減圧脱泡槽内の減圧度が100mmHg(13.3kPa)〜400mmHg(53.3kPa)に保持されていることが好ましく、150mmHg(20kPa)〜300mmHg(40kPa)に保持されていることがより好ましい。本明細書において、減圧脱泡槽内の減圧度と言った場合、大気圧基準の減圧度、すなわち、減圧脱泡槽内の絶対圧力と大気圧との圧力差を意味する。減圧脱泡槽内の減圧度は、真空ポンプ等、真空減圧手段のゲージ圧力を調節することによって制御することができる。
【0024】
本発明の減圧脱泡方法に用いる無アルカリガラスは、下記酸化物換算の質量%表示で以下の成分を含有するガラスが好ましい。
SiO
2:50〜66%、
Al
2O
3:10.5〜22%、
B
2O
3:0〜12%、
MgO:0〜8%、
CaO:0〜14.5%、
SrO:0〜24%、
BaO:0〜13.5%、
MgO+CaO+SrO+BaO :9〜29.5%。
なお、上記した成分を有する無アルカリガラスは、上記した減圧脱泡方法を用いて製造されたガラス板についての組成である。前記上昇管の下部の溶融槽内の溶融ガラスの組成と、減圧脱泡槽を通して脱泡処理を施して製造されたガラス板の組成とは、上記した各成分に関して実質的に変動はないと看做してよい。溶融ガラス中のSO
3濃度とガラス板中のSO
3濃度についても同様である。
【0025】
SiO
2は、66%超ではガラスの溶解性が低下し、また失透しやすくなる。好ましくは64%以下、より好ましくは62%以下である。50%未満では比重増加、歪点低下、熱膨張係数増加、耐薬品性の低下が起こる。好ましくは56%以上、より好ましくは58%以上である。
【0026】
Al
2O
3はガラスの分相を抑制し、また歪点を高くする成分であり必須である。22%超では失透しやすくなり、耐薬品性の低下が起こる。好ましくは21%以下、より好ましくは18%以下である。10.5%未満ではガラスが分相しやすくなる、または歪点が低下する。好ましくは12%以上、より好ましくは15%以上である。
【0027】
B
2O
3は必須ではないが、比重を小さくし、ガラスの溶解性を高くし、失透しにくくする成分である。22%超では歪点が低下したり、耐薬品性が低下したり、またはガラス溶解時の揮散が顕著になりガラスの不均質性が増加する。好ましくは12%以下であり、より好ましくは9%以下である。1%未満の場合、比重が増加し、ガラスの溶解性が低下し、また失透しやすくなるため、2%以上が望ましく、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上である。
【0028】
MgOは必須ではないが、比重を小さくしガラスの溶解性を向上させる成分である。8%超ではガラスが分相しやすくなったり、失透しやすくなったり、または耐薬品性が低下する。好ましくは6%以下であり、より好ましくは5%以下である。MgOを含有する場合、1%以上含有させることが好ましい。特に溶解性を維持しながら比重を低下させるためには3%以上含有することが好ましい。
【0029】
CaOは必須ではないが、ガラスの溶解性を高め、失透しにくくするため、14.5%まで含有することができる。14.5%超では比重が増加し、熱膨張係数を大きくなり、また、かえって失透しやすくなる。好ましくは9%以下、より好ましくは7%以下である。CaOを含有する場合、2%以上含有させることが好ましい。より好ましくは3.5%以上である。
【0030】
SrOはガラスの分相を抑制し、失透しにくくする成分であり、必須である。24%超では比重が増加し、熱膨張係数が大きくなり、また、かえって失透しやすくなる。好ましくは12.5%以下、より好ましくは8.5%以下である。
【0031】
BaOはガラスの分相を抑制し、失透しにくくするため、13.5%まで含有することができる。13.5%超では比重が増加し、また、熱膨張係数が大きくなる。好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。特にガラス基板の軽量化を重視する場合には実質的に含有しないことが好ましい。
上記したMgO、CaO、SrO、およびBaOの合計量、すなわちMgO+CaO+SrO+BaOは、9〜29.9%の範囲が好ましい。この合計量が、29.9%超であると、比重が増大し好ましくなく、また合計量が、9%未満であると、溶解性が劣り好ましくない。本発明の好ましい態様の無アルカリガラスの組成の各成分について、上記したが、上記以外の成分、例えば、ZrO
2等を5%以下、含んでもよい。
【0032】
As
2O
3およびSb
2O
3は、不純物等として不可避的に混入するものを除き含有されないこと、すなわち実質的に含有されないことが好ましい。
【0033】
本発明の減圧脱泡方法において、SO
3以外の清澄剤を併用してもよい。この場合、併用可能な他の清澄剤としては、具体的には、例えば、フッ素化合物、塩素化合物、SnO
2等が挙げられる。これら他の清澄剤は、無アルカリガラスの中に2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下含有させることができる。これらのSO
3以外の清澄剤の式(1)に対する影響は、本願発明者らの別の実験によって実質的にないことを確認した。
【0034】
本発明の減圧脱泡方法に用いる減圧脱泡装置の各構成要素の寸法は、必要に応じて適宜選択することができる。減圧脱泡槽の寸法は、減圧脱泡槽が白金製若しく白金合金製、または緻密質耐火物製であるかによらず、使用する減圧脱泡装置に応じて適宜選択することができる。
図1に示す減圧脱泡槽12の場合、その寸法の具体例は以下の通りである。
・水平方向における長さ:1〜20m
・内径:0.2〜3m(断面円形)
減圧脱泡槽12が白金製若しくは白金合金製である場合、肉厚は0.5〜4mmであることが好ましい。
【0035】
減圧ハウジング11は、金属製、例えばステンレス製であり、減圧脱泡槽を収容可能な形状および寸法を有している。
上昇管13および下降管14は、白金製若しくは白金合金製、または緻密質耐火物製であるかによらず、使用する減圧脱泡装置に応じて適宜選択することができる。例えば、上昇管13および下降管14の寸法は以下のように構成することができる。
・内径:0.05〜0.8m
・長さ:0.2〜6m
上昇管13および下降管14が白金製若しくは白金合金製である場合、肉厚は0.4〜5mmであることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では下記組成の無アルカリガラスAを用いて、溶融ガラスの減圧脱泡を実施した。無アルカリガラスAは、組成がSiO
2:59.8%、Al
2O
3:17.2%、B
2O
3:7.8%、MgO:3.3%、CaO:4.1%、SrO:7.7%、BaO:0.1%で、溶融ガラスの粘度が10
2dPa・sとなる温度T
2が1657℃である。この無アルカリガラスAの組成は、製造されるガラス板の組成を示すものである。
【0037】
上記組成となるように調合したガラス母組成原料に清澄剤としてSO
3を添加したものを溶解槽に投入して溶融し、溶融ガラスを得た。なお、SO
3は、ガラス母組成原料100質量部に対して0.3質量部となる量、添加した。溶解槽は、溶融ガラスの生産量が20トン/日の規模の溶解槽であり、溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)は1574℃であった。この値と上記式(2)から、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3]は13.0ppmであると推算される。
上記の手順で得られた溶融ガラスを、内部の減圧度を21.3kPaに保持した減圧脱泡槽を通過させて減圧脱泡した。減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの温度は1420℃であり、減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの粘度ηは117Pa・sであった。
これらの結果から、上記式(1)の左辺の式(a)の計算値は13.1となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.11個/kgであった。
【0038】
(比較例1−1)
減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの温度を1330℃、減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの粘度ηは400Pa・sとした以外は実施例1と同様の手順を実施した。上記式(1)の左辺の式(a)の計算値は7.1となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.26個/kgであった。
【0039】
(比較例1−2)
溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)を1484℃とした以外は実施例1と同様の手順を実施した。この値と上記式(2)から、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3]は20.0ppmであると推定される。
上記式(a)の計算値は5.8となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.39個/kgであった。
【0040】
(実施例2)
本実施例では下記組成の無アルカリガラスBを用いて、溶融ガラスの減圧脱泡を実施した。無アルカリガラスBは、組成がSiO
2:59.5%、Al
2O
3:17.3%、B
2O
3:8.1%、MgO:4.7%、CaO:5.9%、SrO:4.5%、BaO:0%で、溶融ガラスの粘度が10
2dPa・sとなる温度T
2が1611℃である。この無アルカリガラスBの組成も同様に、製造されるガラス板の組成を示すものである。
【0041】
上記組成となるように調合したガラス母組成原料に清澄剤としてSO
3を添加したものを溶解槽に投入して溶融ガラスを得た。なお、SO
3はガラス母組成原料100質量部に対して0.3質量部となる量添加した。
実施例1と同一の溶解槽を使用し、溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)を1523℃とした。この値と上記式(2)から、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3]は17ppmであると推算される。
上記の手順で得られた溶融ガラスを、内部の減圧度を21.3kPaに保持した減圧脱泡槽を通過させて減圧脱泡した。減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの温度は1400℃であり、減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの粘度ηは91Pa・sであった。
これらの結果から、上記式(1)の左辺の式(a)の計算値は11.4となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.12個/kgであった。
【0042】
(比較例2−1)
減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの温度を1350℃、減圧脱泡槽通過時の溶融ガラスの粘度ηは176Pa・sとした以外は実施例1と同様の手順を実施した。上記式(1)の左辺の式(a)の計算値は6となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.36個/kgであった。
【0043】
(比較例2−2)
溶解槽内における溶融ガラスの最高温度T
max(℃)を1457℃とした以外は実施例1と同様の手順を実施した。この値と上記式(2)から、溶解槽から出される溶融ガラス中のSO
3濃度[SO
3]は22.1ppmであると推算される。
上記式(1)の左辺の式(a)の計算値は6.0となる。
減圧脱泡処理後の溶融ガラスを成形したガラス板について、ガラス板中の気泡数を測定したところ、0.36個/kgであった。