(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶融ステップにおいて前記反応容器内に導入する水蒸気は、180℃〜300℃の温度範囲、0.1MPa〜4MPaの圧力範囲の過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの油化方法。
前記溶融ステップにおいて前記反応容器内に導入する水蒸気は、180℃〜300℃の温度範囲の飽和水蒸気であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの油化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、触媒を使用するため、触媒のコストおよびメンテナンスが必要とされるのに加え、該方法により得られた分解生成物である炭化水素の混合物は、分子量分布が大きく、また、炭素数が多い長鎖の炭化水素を含んでいるため、液温低下時に固化する場合があり、動粘度も高い。したがって、燃料油として使用する場合、送液ポンプや配管に負荷がかかり、工業的な使用には問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、廃プラスチックを、触媒をたとえ用いなくても、簡易な方法で分解、分離して、工業的に実用可能な燃料油を得ることができる廃プラスチックの油化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、廃プラスチックを反応容器に導入する導入ステップと、前記反応容器内に水蒸気を導入し、前記反応容器内の材料温度を180℃〜300℃の温度範囲を維持するよう加熱しながら、前記廃プラスチックを溶融する溶融ステップと、
前記反応容器内に窒素ガスを導入することで前記反応容器内から水蒸気を排出し、前記反応器内の温度を350℃〜450℃の温度範囲に昇温して、溶融した前記廃プラスチックを熱分解する熱分解ステップと、前記廃プラスチックの熱分解生成物を前記反応容器から気体として排出し、冷却して液体として回収する回収ステップと、を含むことを特徴とする。
このように溶融ステップを設けることにより、設けない場合と比較して、熱分解生成物中の炭化水素の分子量をより小さくできる。
【0008】
また、本発明の廃プラスチックの油化方法は、上記発明において、前記溶融ステップにおいて前記反応容器内に導入する水蒸気は、180℃〜300℃の温度範囲、0.1MPa〜4MPaの圧力範囲の過熱水蒸気であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の廃プラスチックの油化方法は、上記発明において、前記溶融ステップにおいて前記反応容器内に導入する水蒸気は、180℃〜300℃の温度範囲の飽和水蒸気であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の廃プラスチックの油化方法は、上記発明において、前記溶融ステップは、前記反応容器内の温度を200℃〜250℃の温度範囲に加熱保持することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の廃プラスチックの油化方法は、上記発明において、前記熱分解ステップは、前記反応容器内の温度を380℃〜420℃の温度範囲に加熱保持することを特徴とする。
【0012】
前記溶融ステップは、前記反応容器内の温度を200℃〜250℃の温度範囲で1〜2時間加熱保持することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の廃プラスチックの油化方法は、上記発明において、前記廃プラスチックは、塩素含有プラスチックを除去した混合廃プラスチックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の廃プラスチックの油化方法は、廃プラスチックを水蒸気存在下で加熱、溶融した後、水蒸気を排出し、昇温して廃プラスチックを熱分解することにより、工業的に実用可能な炭化水素混合物からなる燃料油を、簡易に得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態に係る廃プラスチックの油化方法について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る廃プラスチックの油化装置100を示す概略図である。廃プラスチックの油化装置100は、廃プラスチックを導入して処理を行う反応容器としてのロータリーキルン1と、ロータリーキルン1を所定温度に加熱する加熱手段であるヒータ2と、反応容器に水蒸気を供給する水蒸気供給手段としてのボイラー3と、ロータリーキルン1を回転する例えばモータである駆動部4と、を備える。
【0018】
本発明の廃プラスチックの油化装置100で処理する廃プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンなどの熱可塑性樹脂の混合物である。ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルは、熱分解によりテレフタル酸や安息香酸などの昇華性物質を生成し、該昇華性物質は配管の腐食や詰りの原因となるため、廃プラスチックはできればポリエステルを含まないのが好ましい。また、廃プラスチックは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素含有プラスチックをできれば含まない、または除去したものが好ましいが、塩素含有プラスチックを含む廃プラスチックを油化処理する場合は、発生した塩化水素を処理・回収する手段を別途設ければよい。なお、廃プラスチックは、少量であればポリウレタンやフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0019】
反応容器であるロータリーキルン1は、内部にセラミックボールや、金属片、金属ボール等の粉砕補助物を内蔵するものが好ましい。ロータリーキルン1は、駆動部4により回転される。ロータリーキルン1内に導入された廃プラスチックは、後述するボイラー3により供給された水蒸気存在下で、ロータリーキルン1が回転されることにより、粉砕補助物とともに回転され、攪拌される。
【0020】
ヒータ2は、ロータリーキルン1の外周部に設けられ、ロータリーキルン1を加熱することにより、導入された廃プラスチックを所定温度に加熱する。ヒータ2は、ロータリーキルン1に導入された廃プラスチックを2段階の温度で加熱する。ロータリーキルン1内の温度は、温度センサ5により測定され、ロータリーキルン1内の温度に応じてヒータ2のスイッチがオン・オフされる。水蒸気存在下で廃プラスチックを溶融する溶融ステップでの加熱温度は、180℃〜300℃の範囲で行うことが好ましい。180℃より加熱温度が低いと、廃プラスチックに含まれる高融点のプラスチックであるポリプロピレンが溶融しにくく、300℃より加熱温度が高いと、最も低温で分解を開始するポリスチレンが熱分解されるためである。溶融ステップは、200℃〜250℃の温度範囲で加熱保持するのが特に好ましいが、廃プラスチック中に含まれるプラスチックの割合により好適な温度は変更されうる。また廃プラスチックが塩素含有プラスチックを含んでいる場合、溶融ステップで200℃〜250℃に加熱することにより、塩素含有プラスチックからの塩化水素の脱離を行いうる。
【0021】
溶融した廃プラスチックを熱分解する熱分解ステップでの加熱温度は、350℃〜450℃の範囲とすることが好ましい。350℃より加熱温度が低いと、廃プラスチックに含まれるポリエチレンが熱分解しにくく、450℃より加熱温度が高いと、二酸化炭素等の分子量の小さい物質まで分解するおそれがあるほか、熱効率が低下するためである。熱分解ステップでの加熱温度は、380℃〜420℃とするのが特に好ましい。廃プラスチック中に含まれるプラスチックの割合により熱分解ステップでの加熱温度の好適な範囲は変更されうる。
【0022】
水蒸気供給手段としてのボイラー3は、所定温度の水蒸気をロータリーキルン1に供給する。供給する水蒸気は、溶融ステップでの廃プラスチックの加熱温度である180℃〜300℃(0.5MPa〜3.6MPa)の飽和水蒸気を供給するのが好ましいが、前記温度範囲以下の飽和水蒸気を供給し、ヒータ2で所定温度にロータリーキルン1内の温度を上昇させてもよい。
【0023】
本実施の形態1では、廃プラスチックを1段階で熱分解するのではなく、最初に水蒸気存在下180℃〜300℃の温度範囲で加熱して廃プラスチックを溶融した後、水蒸気を排出して、加熱温度を350℃〜450℃の温度範囲まで上昇させて、廃プラスチックを分子量分布の小さい炭化水素混合物に熱分解する。このように最初に飽和水蒸気存在下で廃プラスチックを180℃〜300℃の温度範囲で加熱して溶融することにより、分子量が数十万程度のプラスチックを、数万程度の大きさに分解することができる。廃プラスチックは、一旦、分子量が1/10程度の大きさまで分解されることにより、その後のランダム分解において比較的分子量分布が小さい炭化水素混合物を得ることができる。
【0024】
なお、本実施の形態1で得られる炭化水素混合物は、常温で液体の炭化水素の混合物である。たとえば、炭素数4〜19程度の鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素または環状不飽和炭化水素の混合物である。芳香族化合物以外の不飽和炭化水素は、保存安定性が優れないので含有する割合が少ないほうが好ましい。常温で固体の炭化水素が含まれる場合であっても、他の炭化水素を溶媒として溶解し、炭化水素混合物として常温で流動性を示していれば、炭化水素混合物中に含まれていてもよい。
【0025】
続いて、本実施の形態1に係る廃プラスチックの油化工程について、図を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係る廃プラスチックの油化工程のフローチャートである。
【0026】
まず、
図2に示すように、廃プラスチックを、ロータリーキルン1内に導入する(ステップS101)。
【0027】
ロータリーキルン1に廃プラスチックを導入した後、ボイラー3により、所定温度の飽和水蒸気をロータリーキルン1内に供給する。そして、駆動部4によりロータリーキルン1を回転しながら、ヒータ2によりロータリーキルン1を180℃〜300℃に加熱して、廃プラスチックを溶融する(ステップS102)。溶融ステップは、ロータリーキルン1への廃プラスチックの導入量によっても変更しうるが、
図3に示すように、180℃〜300℃の温度で1〜2時間加熱保持して、廃プラスチックを溶融する。なお、
図3の一点鎖線は、溶融ステップがない場合のロータリーキルン1の加熱時の時間と温度の関係を示し、実線が本実施の形態1にかかる油化方法のロータリーキルン1の加熱時の時間と温度の関係を示している。
【0028】
溶融ステップ後、ロータリーキルン1の回転を停止し、蒸気排出口6を介してロータリーキルン1内の飽和水蒸気を排出する。飽和水蒸気の排出は、窒素などの不活性ガスをロータリーキルン1内に供給することにより、強制的に置換させることにより行う。廃プラスチックが塩素含有プラスチックを含んでいる場合は、排出された飽和水蒸気に塩化水素が含まれるため、回収装置により塩化水素を回収する。飽和水蒸気の排出後、ヒータ2によりロータリーキルン1を350℃〜450℃の温度範囲にさらに加熱して、溶融した廃プラスチックを熱分解する(ステップS103)。熱分解ステップは、ロータリーキルン1への廃プラスチックの導入量によっても変更しうるが、
図3に示すように、350℃〜450℃の温度で2〜8時間加熱保持して、廃プラスチックを低分子量の炭化水素混合物に熱分解する。このように、廃プラスチックを容器から出すことなく、溶融及び熱分解を同一の容器(ロータリーキルン1)内で行えば、容器間の運搬が不要となる利点がある。しかし、溶融と熱分解を別々の容器で実行してもよい。
【0029】
熱分解し、低分子量化した廃プラスチック(低分子量の炭化水素混合物)はロータリーキルン1内で気化する。気化した炭化水素混合物は、ガス排出口7を介して冷却装置に導入され、冷却装置で冷却されて液化する(ステップS104)。液化しない低分子量の気体成分は、オフガス炉により焼却処分されて油化工程が終了する。
【0030】
本実施の形態1にかかる廃プラスチックの油化方法では、廃プラスチックの油化処理を、飽和水蒸気存在下180℃〜300℃の温度範囲で加熱する溶融ステップと、350℃〜450℃の温度範囲で加熱するガス化ステップの2段階に分けて行うことにより、炭素数が4〜19の炭化水素類を、他の高分子量の炭化水素類の混入割合を低減しながら、効率よく得ることができる。
【0031】
また、本実施の形態1にかかる廃プラスチックの油化方法は、廃プラスチックの最終的な熱分解を、ガス排出口・蒸気排出口を利用して、飽和水蒸気を排出した後に行うことにより、簡易に、流動点が低く、燃料油として工業的に実用可能な炭化水素混合物を得ることができる。
【0032】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る廃プラスチックの油化装置200を示す概略図である。本発明の実施の形態2に係る油化装置200は、実施の形態1の油化装置100の水蒸気供給手段であるボイラー3を過熱水蒸気供給装置8に換えた以外は、油化装置100と同様の構成を有する。過熱水蒸気供給装置8は、180℃〜300℃の温度範囲の過熱水蒸気を供給できるものであればよく、過熱器を内蔵したボイラーを使用してもよい。使用する過熱水蒸気は、180℃〜300℃の温度範囲であれば常圧(約0.1MPa)の過熱水蒸気でも、高圧(0.1MPa〜4MPa程度の圧力範囲)の過熱水蒸気のいずれを使用してもよい。
【0033】
実施の形態2にかかる油化装置200は、ロータリーキルン1の内部に廃プラスチックと過熱水蒸気を導入し、ヒータ2によりロータリーキルン1を180℃〜300℃に加熱しながら、駆動部4によりロータリーキルン1を回転して、廃プラスチックを加熱・攪拌する。この処理により、廃プラスチックは溶融される。廃プラスチックの溶融温度は、200℃〜250℃の温度範囲とすることが好適である。
【0034】
廃プラスチックを過熱水蒸気存在下で所定温度に加熱保持して溶融した後、ロータリーキルン1の回転を停止し、蒸気排出口6を介してロータリーキルン1内の過熱水蒸気を排出する。過熱水蒸気の排出は、例えば、窒素などの不活性ガスをロータリーキルン1内に供給することにより、蒸気排出口6を介して強制的に置換させることにより行う。過熱水蒸気の排出後、ヒータ2によりロータリーキルン1を350℃〜450℃にさらに加熱して、溶融した廃プラスチックを熱分解する。廃プラスチックの熱分解温度は、380℃〜420℃の温度範囲とすることが好適である。
【0035】
熱分解し、低分子量化した廃プラスチック(低分子量の炭化水素混合物)はロータリーキルン1内で気化する。気化した炭化水素混合物は、ガス排出口7を介して冷却装置に導入され、冷却装置で冷却されて液化される。実施の形態2にかかる油化装置200により、廃プラスチックは熱分解され、分子量分布の少ない炭化水素混合物を得ることができる。
【0036】
本実施の形態2にかかる廃プラスチックの油化方法では、廃プラスチックの油化処理を、過熱水蒸気存在下180℃〜300℃の温度範囲で加熱する溶融ステップと、350℃〜450℃の温度範囲で加熱するガス化ステップの2段階に分けて行うことにより、炭素数が4〜19の炭化水素類を、他の高分子量の炭化水素類の混入割合を低減しながら、効率よく得ることができる。
【0037】
また、本実施の形態2にかかる廃プラスチックの油化方法は、廃プラスチックの最終的な熱分解を、ガス排出口・蒸気排出口を利用して、過熱水蒸気を排出した後に行うことにより、簡易に、流動点が低く、燃料油として工業的に実用可能な炭化水素混合物を得ることができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
反応容器としてロータリーキルンを使用し、廃プラスチックを導入したロータリーキルン内に、180℃の飽和水蒸気を導入し、180℃で1時間加熱して廃プラスチックを溶融した。その後、窒素ガスをパージしてロータリーキルン内から飽和水蒸気を排出し、ロータリーキルンを400℃で8時間加熱保持して、廃プラスチックを熱分解してガス化した。熱分解して得られたガスを冷却して、炭化水素混合物を得た。
【0039】
(実施例2)
反応容器としてロータリーキルンを使用し、廃プラスチックを導入したロータリーキルン内に、常圧(0.1MPa)、180℃の過熱水蒸気を導入し、180℃で1時間加熱して廃プラスチックを溶融した。その後、窒素ガスをパージしてロータリーキルン内から過熱水蒸気を排出し、ロータリーキルンを400℃で8時間加熱保持して、廃プラスチックを熱分解してガス化した。熱分解して得られたガスを冷却して、炭化水素混合物を得た。
【0040】
(比較例1)
反応容器としてロータリーキルンを使用し、廃プラスチックを導入し、窒素ガスを封入したロータリーキルンを400℃で8時間加熱保持して、廃プラスチックを熱分解してガス化した。熱分解して得られたガスを冷却して、炭化水素混合物を得た。
【0041】
表1に、実施例1および2、ならびに比較例1で得られた炭化水素混合物について引火点および流動点を測定した結果を示す。引火点は、JIS K2265、流動点はJIS K2269に従って測定した。
【表1】
【0042】
表1に示すように、比較例1に比べ、実施例1および実施例2では、引火点、流動点とも小さい値となった。廃プラスチック、特にポリエチレンやポリプロピレンの熱分解で生成する炭化水素混合物では、生成する炭化水素の分子量が大きくなると引火点が上がり、分子量が小さくなると引火点が下がると推測され、比較例1に対して引火点が低い実施例1および2では、平均分子量が小さい、炭化水素混合物が得られていると推測される。
【0043】
また、同様に、廃プラスチック、特にポリエチレンやポリプロピレンの熱分解で生成する炭化水素混合物では、生成する炭化水素の分子量が大きくなると流動点が上がり、分子量が小さくなると流動点が下がると推測され、比較例1に対して流動点が極めて低い実施例1および2では、平均分子量が小さい、炭化水素混合物が得られていると推測される。実施例1および2と、比較例1では、流動点が30℃以上異なるというだけでなく、実施例1および2は、流動点が常温以下であるという点で、燃料油として非常に実用的なものである。