【実施例】
【0056】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【0057】
<試験例1:TRPV受容体活性化剤を用いたTER値測定試験>
凍結正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社製)を解凍し、0.15mM−カルシウムイオン含有培養液(Humedia−KG2:倉敷紡績株式会社製)にて、37℃、5%二酸化炭素気流下にて培養した。Millicell Tissue Culture Plate(ミリポア社製)にトランズウェル(コーニング社製、3460-Clear)をセットし、上層0.5mL、下層1.5mLの前記培養液を入れ、前記トランズウェル上層に前記NHEKを2.5×10
5cells/cm
2で播種し、37℃、5%二酸化炭素気流下にて24時間培養した。前記NHEKが100%コンフルエントまで増殖したことを確認し、1.5mM塩化カルシウム添加Humedia−KG2培地に交換し、33℃、5%二酸化炭素気流下にて48〜72時間培養して、表皮角化細胞層膜を構築した。その後、10μM 4α−PDD(シグマ社製)、3mMカンファー(Camphor)(シグマ社製)又はメタノ−ル(ベヒクル、和光純薬株式会社製)をそれぞれ添加した1.5mM 塩化カルシウム添加Humedia−KG2培地に交換し、TRPV4/TRPV3不活性温度領域である24℃、5%二酸化炭素気流下にて培養した。各物質を含有する培地に交換後、0、3、6、9時間後にTER値を測定した。TER値は、サンプルをクリ−ンベンチ内で30分間馴化した後、Millicell ERS(ミリポア社製)を用いて測定を行った。結果を
図1に示す。
【0058】
皮膚バリア機能に深く関与する表皮細胞においては、TRPV3及びTRPV4の特異的な発現が確認されている。
図1の結果より、TRPV4不活性温度領域において、TRPV4リガンドである4α−PDD存在下で培養したNHEKは、非存在下で培養したNHEKに比して、統計学的に有意なTER値の上昇が確認された。一方、TRPV3リガンドのカンファー存在下で培養したNHEKにおいては、非存在下に比して、TER値の上昇は認められなかった。TER値の上昇、即ち、TJ及び/又はAJ形成促進による皮膚バリア機能向上作用は、TRPV4の特異的な活性化により発揮されることが示された。
【0059】
<試験例2:TRPV受容体活性化剤を用いたFITC−Dextran物質透過試験>
前記のTER値測定試験において、測定に使用した培地交換後9時間後のサンプルの培地を除去した。前記トランズウェル上層に0.5mLのApical Buffer(1.45mM CaCl
2、10mMグルコース、1mg/mL FITC−Dextranを含有するPBS)、下層に1.5mLのBasolateral Bufer(1.45mM CaCl
2、10mMグルコースを含有するPBS)を添加し、3時間培養した。Basolateral Bufferを回収した後、96well plateにApical Bufferにより標準曲線群(100mg/mL〜0mg/mL)を作製する。回収したBasolateral Bufferを96wellに200mLずつ添加した後、分光光度計(励起485/535nm)にて測定した。結果を
図2に示す。
【0060】
図2の結果より、TRPV4温度不活性化領域において、TRPV4リガンドである4α−PDD存在下で培養したNHEKは、非存在下で培養したNHEKに比して、統計学的に有意なFITC−Dextran透過量の抑制が確認された。一方、TRPV3リガンドのカンファー存在下においては、FITC−Dextran透過量の抑制は認められなかった。FITC−Dextran透過量の抑制、即ち、TJ及び/又はAJの形成促進による皮膚バリア機能向上作用は、TRPV4の特異的な活性化により発揮されることが示された。
【0061】
<試験例3:si−RNA トランスフェクション試験>
凍結正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社製)を解凍し、サブコンフルエントになるまで培養した後、トリプシンEDTAにより剥離、回収し、6 well plateに7.5×10
5cells/wellで播種し、37℃、5%二酸化炭素気流下にて2時間培養した。また、以下の手順に従い、si−RNAトランスフェクション(volumeは1 well分で記載)を行った。500μL Opti−MEMに、5μLの10μM si−RNA(On TargetTplus SMARTpool L-004195-00-0005、Human TRPV4、NM 147204、Target Sequence:配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7の配列を有するsi−RNAの混合物)を加え、次に15μLのHiperFectを加えてボルテックスにより混合した後、室温で10分間静置した。ウェルに滴下し緩やかに拡散させ、37℃、5%二酸化炭素気流下で24時間培養した後、1.5mM塩化カルシウム含有−Humedia−KG2培地に交換し、経時的にTER値及びFITC−Dextran物質透過性を測定した。また、si−RNAによるTRPV4ノックダウン効率は、Hs TRPV4 1 SG QuantiTect Primer Assay(キアゲン社製: QT00077217、配列非公開)をプライマ−として、RT−PCRを行い、TRPV4 mRNA発現量を求め、これにより確認した。結果を
図3〜
図6に示す。尚、これらのsi−RNAのトランスフェクション試験は、市販のデザイン済みsi−RNA ON−TARGET plus SMART pool Human TRPV4(Thermo scientific社製)を使用し、行った。
【0062】
図3及び
図4の結果より、NHEKにおけるsi−RNAトランスフェクションにより、極めて高いノックダウン効率でTRPV4 mRNAの発現を抑制し、その抑制作用は、TRPV4に特異的であった。また、
図5及び
図6の結果により、NHEKに比して、TRPV4をノックダウンしたNHEK(TRPV4/KD)は、統計学的に有意なTER値の抑制が確認された。さらに、TRPV4/KDは、統計学的に有意なFITC−Dextran透過性の増加が確認された。
【0063】
前記の試験1〜3の結果は、TRPV、取り分け、TRPV4を活性化することにより、TJ及び/又はAJの形成が促進され、皮膚バリア機能が向上することを示している。この様に、TRPV受容体活性化作用を有する成分は、TJ及び/又はAJの形成促進作用を介し、皮膚バリア機能向上作用を発揮し、皮膚バリア機能改善剤として有用である。
【0064】
<試験例4:ヒト正常表皮角化細胞におけるTRPV4の発現>
ヒト正常表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社製)における、TRPV4タンパク質及びTRPV4結合分子の存在を確認するために、免疫沈降を行った。抗体は、ポリAb抗β−カテニン(ケミコン社製)、mAb抗E−カドヘリン(タカラバイオ社製)及びポリAb抗TRPV4(TRPV4のN末端ペプチドに対して、調製した)を用いた。
結果を
図7に示す。左レーンは、NHEKの膜画分を、抗β−カテニン抗体を用いて免疫沈降(IP)し、得られたコンプレックスのサンプルを分離し、抗N末端TRPV4抗体を用いて免疫ブロット(IB)したものである。黒三角は、β−カテニンと共沈降したTRPV4の位置を示す。右レーンは、抗E−カドヘリン抗体を用いて再ブロットしたものである。黒三角は、E−カドヘリンを示す。すなわちTRPV4は、細胞膜に存在するβ−カテニンおよびE−カドヘリンと共免疫沈降された。β−カテニン及びE−カドヘリンはAJの主要構成タンパク質であることから、TRPV4が、ヒト角化細胞中にAJコンプレックスの一部として存在することが示唆された。
【0065】
<試験例5:温度変化及びTRPV4活性化のヒト正常表皮角化細胞における分化過程への影響>
GTPaseのRhoファミリーは、表皮角化細胞の分化において、重要な役割を果たすことが報告されている。Rhoファミリーは、細胞内のカルシウムイオン濃度の増加により活性化され、アクチン形成、細胞間接着形成及び表層アクチン形成を含む角化細胞の分化を仲介する。TRPイオンチャネルは活性化すると、細胞外から細胞内へカルシウムイオンを流入させ、細胞内カルシウムイオン濃度の増加を促す。そこで、TRPV3及びTRPV4が活性化される33℃、並びに活性化温度閾値以下の28℃で培養したNHEK中における、活性型Rhoの発現量を評価した。
カルシウムイオンスイッチによる分化誘導後、NHEKを33℃又は28℃で24時間培養した。その後、28℃で培養したNHEKを、10μMの4α−PDD又は3mMのカンファーで処理し、8時間培養した。これらの各々のNHEKについて活性型Rhoの発現量をウェスタンブロッティング法を用いて評価した。
結果を
図8に示す。活性型Rhoの発現量を上部パネルに示す。15μgの全タンパク質を投入量としてロードした(下部パネル)。
28℃で培養したNHEKの活性型Rhoの発現は、33℃で培養したNHEKの活性型Rhoの発現よりも低かった。28℃における活性型Rhoの発現量は、TRPV4活性化物質である4α−PDDの添加により、顕著に増加したが、TRPV3活性化物質であるカンファーによっては、増加しなかった。
これは、TRPV3およびTRPV4の活性化温度閾値以下ではRho活性の増強には不十分であるが、TRPV4の化学的活性化によって特異的に補われることを示しており、TRPV4が仲介する細胞内カルシウムイオン流入がRhoの活性化に関与することが示唆された。
【0066】
次に、33℃又は28℃で培養、もしくは28℃でTRPV4およびTRPV3を化学的に活性化したNHEKにおけるAJ及びTJ関連タンパク質(E−カドヘリン、β−カテニン、アクチン及びオクルディン)の局在を比較するために、免疫蛍光染色を行った。
結果を
図9に示す。カルシウムイオンスイッチによる分化誘導後、NHEKを33℃又は28℃で24時間培養した。その後、28℃で培養したNHEKを、10μMの4α−PDD又は3mMのカンファーで処理した。これらのNHEKの細胞間接着形成過程をタイムコース(0−48時間)で確認した。細胞膜周辺を取り囲むアクチン(原図では緑)、細胞間接着部に存在するβ−カテニン(原図では紫)及びE−カドヘリン(原図では赤)を、拡大イメージで示す。白矢印は、β−カテニン及びE−カドヘリンからなるAJの“ジッパー構造”を示す。
カルシウムイオンスイッチによる分化誘導から4時間後、33℃および28℃で培養したNHEKは共に、AJ関連タンパク質であるβ−カテニンとE−カドヘリンが細胞膜辺縁部に沿って局在し、特徴的な“ジッパー構造"を示し、初期の細胞間接着は、培養温度に関係なく形成されることが示唆された。33℃における24及び48時間後、細胞は互いに層をなし、周囲の表層アクチンは、明らかにハニカム様ネットワークを示した。対して、28℃における細胞間接着は、24及び48時間後であっても、初期の形成段階のままであった。この未成熟な分化は、4α−PDDの添加により回復したが、カンファーでは回復されなかった。
【0067】
さらに、カルシウムイオンスイッチによる分化誘導から48時間後、TJ関連タンパク質であるオクルディンの免疫蛍光染色を行い、その局在を確認した。抗体は、mAb抗オクルディン(インビトロジェン社製)を用いた。
結果を
図10に示す。TJ関連タンパク質の一つであるオクルディン(原図では赤)は、分化誘導から48時間後において、33℃で培養したNHEKでは連続して細胞間接着部に沿って局在したのに対し、28℃においてはオクルディンの細胞間接着部における局在は断続的であった。また、AJ関連タンパク質の場合と同様に、28℃においてオクルディンは、4α−PDDにより細胞接着部に沿って連続的に局在したが、カンファーでは局在しなかった。
RT−PCR法によるAJおよびTJ関連mRNAの発現レベルを確認したところ、4α−PDDの添加によるこれらのmRNAの発現量変化は確認されなかった。
これらの結果から、TRPV4活性化はAJおよびTJ関連分子の発現量に関与するのではなく、ヒト正常表皮角化細胞の分化過程におけるAJの構造形成を促し、結果としてTJ形成を促進することが示唆された。
【0068】
<試験例6:温度変化及びTRPV4活性化によるヒト角化細胞及びヒト皮膚組織におけるバリア機能への影響>
皮膚におけるバリア機能は、大きく角層バリア機能と表皮細胞間(TJ)バリア機能に大別される。本検討では、NHEKのTJバリア機能が、温度及びTRPV4活性化により影響を受けるかを評価するために、TJバリア機能を評価する際に指標とする経上皮電気抵抗(TER)値を、Millicell-ERS(ミリポア社製)を用いて測定した。
カルシウムイオンスイッチによる分化誘導を行ったNHEKを33℃(◇)もしくは28℃(□)で培養し、培養開始から24時間後に、28℃で培養したNHEKに4α−PDD(△)又はカンファー(○)を添加してTRPV4およびTRPV3活性化の増強を行った。
結果を
図11に示す。矢印は、増強のタイミングを示す。データは、5回の独立した実験の平均±S.D.で示す。(**:P<0.01、N.S.:有意ではない。)繰り返し測定のある二元配置分散分析を行った後、ボンフェローニ法により、有意差検定を行った。P<0.05の値を有意と判断した。
28℃で培養したNHEKのTER値は、33℃で培養したものに比べ有意に低く、28℃におけるオクルディンの断片化した免疫蛍光シグナルの結果(
図10)を支持した。上記試験例1にも示したとおり、28℃で増強を行ったNHEKのTER値は、TRPV活性化物質無と比べて、4α−PDDにより有意に増強されたが、カンファーでは増強されなかった。
これらのことは、ヒト角化細胞のTJバリア機能は、TRPV4活性化温度閾値以下で低減するが、増強によってTRPV4を特異的に活性化することで克服されることを示唆した。
さらに、上記のようなTJバリア機能の変化が、TRPV4の関与によって特異的に引き起こされる現象であることを確認するために、si−RNAを用いたNHEKのTRPV4ノックダウンを行った。TRPV4をノックダウンしたNHEKのTER値は、コントロールsi−RNAをトランスフェクションしたNHEK(Mock)に比べ、有意に低減した(
図5)。
これらのことは、ヒト角化細胞のTJバリア機能は、TRPV4の発現が抑制されることで、低減することを示唆した。
【0069】
さらに、新鮮ヒト皮膚組織を用いたex vivo評価により、角層バリア破壊後の皮膚バリア機能の回復における温度の影響を評価した。このとき用いたヒト皮膚組織は、インフォームドコンセントによって患者の同意を得た後に、外科的手術によって切除された皮膚組織(バイオプレディック社製及び順天堂浦安病院)である。これらのヒト皮膚組織を、Skin Long Term Culture Medium(バイオプレディック社製)を用いて前培養した後、C40SH02粘着テープ(生化学工業株式会社製)でストリッピング処理を行い角層を完全除去することで、バリア破壊を行った。角層除去によるバリア破壊の直後に、10μMの4α−PDD、3mMのカンファーをそれぞれ含む水溶液、又は水のみ50μlを、ヒト皮膚組織の角層除去部位に直接投与し、33℃又は28℃で培養した。皮膚バリア機能の回復は、VAPO SCAN AS-VT100RS(株式会社アサヒテクノラボ)により経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定し、これを下記式に適用して皮膚バリア機能回復率(%)を算出し、評価した:
(角層バリア破壊直後のTEWL−各測定点におけるTEWL)/(角層バリア破壊直後のTEWL−角層バリア破壊前のTEWL)×100
また、2% EZ-link sulfo-NHS-LC-ビオチン(ピアス社製)を、細胞間物質透過マーカーとして皮内に注入し、マーカーの細胞間透過性を、免疫蛍光染色により評価した。
結果を
図12(A)に示す。(A)は、バリア破壊後1.5、4及び24時間における皮膚組織のバリア回復率を示す。各ラベルは以下を示す。◇:33℃水投与、□:28℃水投与、△:28℃4α−PDD投与、○:28℃カンファー投与。データは、3回の独立した実験の平均±S.D.で示す。
バリア破壊後24時間における、33℃及び28℃で培養した場合の皮膚組織のバリア機能回復率は、28℃で培養した皮膚組織において、33℃で培養した皮膚組織に比べ、明らかに低減していた。4α−PDD又はカンファーで処理した皮膚組織のバリア回復率について、28℃で培養した皮膚組織と比較した結果、4α−PDDで処理した皮膚組織は、28℃で培養した皮膚組織と比べ、高い回復率を示したが、カンファーで処理した皮膚組織は、28℃で培養した皮膚組織と比べ、低い回復率を示した。
これらの結果は、以下に示す、細胞間物質透過の評価によっても支持される。
【0070】
結果を
図12(B)に示す。(B)は、角層バリア破壊後24時間における皮膚組織断面の免疫蛍光画像を示す。矢印は、表皮顆粒層に局在する主要なTJ関連タンパク質のひとつであるオクルディン(原図では緑)を示す。白三角は、オクルディンの位置を通過した物質透過マーカー(原図では赤)を示す。
33℃で培養した皮膚組織において、物質透過マーカーはオクルディンが局在する表皮顆粒層の最表層部において、透過が遮断された。対して、28℃で培養した皮膚組織では、物質透過マーカーは、オクルディンが局在する表皮顆粒層の最表層よりも上部へ漏出した。28℃における物質透過マーカーの漏出は、4α−PDDにより抑制されたが、カンファーでは抑制されず、細胞間接着とりわけTJの強固さは、TRPV4の活性化に依存することを示した。
発明者等の先の報告では、表皮TJが、角化細胞に極性を与え、ラメラボディ分泌を促進することにより、角層バリア形成において重要な役割を持つことを示した。したがって、TRPV4の活性化は、TJバリア機能だけではなく、角層バリア機能をも調節していることが示唆される。
以上の結果から、すなわち、TRPV4の活性化温度閾値以下の低温では、皮膚バリア回復が遅れるが、TRPV4の活性化により特異的に補われることが示された。
【0071】
[実施例1]
<ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリからの化合物1〜4の単離精製>
ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリより得られる植物抽出物は、医薬部外品原料規格2006に従い製造することも出来るし、丸善製薬株式会社、山川貿易株式会社等より市販されている植物抽出物を購入し、使用することも出来る。本実施例においては、山川貿易株式会社より購入した、ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリより得られた植物抽出物を使用した。
ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリより得られた植物抽出物(9950g、山川貿易株式会社製)を濃縮した後、酢酸エチル及び水を加え、液液分配を行い、得られた水層画分をダイアイオンHP−20(三菱化学株式会社製)に通し、カラム吸着部を50%メタノ−ル及び100%メタノ−ル(和光純薬工業株式会社製)により順次溶出した。前記の溶出部の内、100%メタノ−ル溶出分(745mg)に関し、分取HPLCにて物質ピ−クを単離した。分取条件は、以下の通りである。
【0072】
<分取HPLC条件>
化合物1,3
[カラム] Inertsil ODS-3 (GL Sciences Inc.) 5μm φ30 x 500 mm
[溶媒] グラジエント,A液 CH
3CN, B液 0.1% TFA in H
2O,0-300 min: 15〜25 % A, 300-360 min: 25% A
[流速] 9.5 mL/min, 検出:UV 240 nm,1 Fr. =3 min.
【0073】
化合物2
[カラム] Develosil C30-UG-5 (5μm) φ20 x 250 mm
[溶媒] 25% CH
3CN+0.05%TFA
[流速] 6.5 mL/min, 検出:UV 240 nm,1 Fr. =4 min.
【0074】
化合物4
[カラム] TSKgel ODS-80Ts(5μm)4.6mmI.D.×25cm(東ソー株式会社)
[溶媒] グラジエント,A液 0.1%TFA in H
2O, B液:CH
3CN, 0-80min B10〜B90%, 80-110min B90%
[流速] 1.0mL/min, 温度: 40℃, 検出: UV210-400nm(Max)
【0075】
前記の手順に従い単離精製された化合物1〜4の化学構造及び物理恒数を以下に示す。尚、化合物1〜4の化学構造は、核磁気共鳴(
1H及び
13C−NMR)スペクトル及び文献情報を基に決定した。
【0076】
【化17】
<化合物1: 3-O-methylellagic acid 4'-O-α-L-rhamanopyranoside>
【0077】
1H-NMR(400 MHz、DMSO-d
6) δ: 1.16(3H、 d、 J=6.5 Hz)、3.34(1H、m)、3.54(1H、m)、3.73(1H、m)、3.98 (1H、m)、4.07(3H、s)、5.56(1H、br s)、7.48(1H、s)、7.79(1H、s).
13C-NMR (400 MHz、DMSO-d
6) δ: 17.9、61.5、70.1、70.3、70.5、71.6、99.9、107.9、110.5、111.5、111.7、112.3、114.3、136.5、139.7、141.3、141.9、148.8、150.2、158.5、158.8.
【0078】
【化18】
<化合物2: 3,3'-di-O-methylellagic acid 4'-O-β-D-glucopyranoside>
【0079】
1H-NMR(400 MHz、DMSO-d
6) δ: 3.20-3.45(4H、m)、3.53(1H、m)、3.73(1H、m)、4.01(3H、s)、4.05(3H、s)、5.02(1H、d、J=7.5 Hz)、7.67(1H、s)、7.82(1H、s).
【0080】
【化19】
<化合物3: 3,4,3’-tri-O-methylellagic acid 4'-O-β-D-glucopyranoside>
【0081】
1H-NMR(400 MHz、DMSO-d
6) δ: 3.20-3.45(4H、m)、3.52(1H、m)、3.71(1H、m)、4.02(3H、s)、4.06(3H、s)、4.11(3H、s)、5.16(1H、d、J=7.5 Hz)、7.67(1H、s)、7.85(1H、s).
【0082】
【化20】
<化合物4: 3'-O-methyl-3,4-methylenedioxyellagic acid 4'-O-β-D-glucopyranoside>
【0083】
1H-NMR(400 MHz、DMSO-d
6) δ: 3.19(1H、m)、3.35(1H、m)、3.38(1H、m)、3.44(1H、m)、3.52(1H、m)、3.71(1H、br d、J=11.5Hz)、4.11(3H、s)、5.16(1H、d、J=7.5Hz)、6.40(2H、s)、7.57(1H、s)、7.86(1H、s).
【0084】
[実施例2]
<化合物1〜4の細胞間バリア機能評価試験>
前記の手順に従い精製された化合物1〜4に関し、カルシウムイメ−ジングによるTRPV4活性化作用評価試験を行った。化合物1及び3の結果を
図13〜16に示す。
【0085】
後記の実施例5に記載の試験方法に従い行った、カルシウムイメ−ジングによるTRPV4活性化作用評価試験において、本発明の化合物1及び3をカルシウム含有溶液A〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl
2、2mM CaCl
2、10mMグルコ−ス、10mM HEPES(pH7.4)〕中にてmouse TRPV4/pcDNA 導入HEK293細胞(以下、mV4/HEK293)に処理すると、顕著な細胞内カルシウムイオン濃度の増加が確認された(
図13及び
図15)。一方、対照となるpcDNA導入HEK293細胞(以下、pcDNA/HEK293)では細胞内カルシウムイオン濃度の変化は確認されなかった(
図14及び16)。
以上より、本発明の化合物による細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用は、TRPV4特異的な細胞外からのカルシウムイオン流入によるものであることが推察できる。
【0086】
また、化合物1、3、4に関し、前記の試験例1に記載の試験方法に従い行ったTER測定による正常ヒト表皮角化細胞の細胞間バリア機能評価試験の結果を、
図17〜
図19に示す。縦軸は、TER値(Ω・m
2)、横軸は、カルシウムスイッチによる分化誘導後のTER測定時間を表す。この結果より、本発明の化合物は、対照となるDMSO添加群と比較して顕著なTER値の増加を示し、細胞間バリア機能の促進作用が認められた。
【0087】
[実施例3]
<本発明のTRPV受容体活性化作用を有する植物抽出物の製造方法>
本発明の植物抽出物(ミツハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリ、アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルより得られる抽出物)は、医薬部外品原料規格2006に従い製造することも出来るし、丸善株式会社等により市販されている植物抽出物を購入し、使用することも出来る。本実施例においては、丸善株式会社より購入した植物抽出物を使用した。
【0088】
[実施例4]
<ヒトTRPV4を発現する細胞の作製>
下記の実験手順に従い、ヒトTRPV4発現細胞を作製した。ヒトTRPV4をコ−ドするcDNA〔配列番号1:(GenBankアクセッション番号:NM 021625)の90bp〜2705bpのポリヌクレオチド〕を、配列番号2及び配列番号3のオリゴヌクレオチドをプライマ−として、PCRを行い、増幅し、哺乳動物細胞用ベクタ−である商品名:pcDNA3(インビトロジェン社製)のMCSのBamHIサイト及びXhoIサイト間に挿入し、ヒトTRPV4発現ベクタ−を得た。得られたヒトTRPV4発現ベクタ−(0.5μg相当量)とDsRed(0.1μg相当量)、プラスリ−ジェント(商品名、カタログ番号:11514−015、インビトロジェン社製)6μL、OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021、インビトロジェン社製)100μLとを混合し、混合物1を得た。また、リポフェクタミン(登録商標、カタログ番号:18324−012、インビトロジェン社製)4μLとOPTI−MEM 100μLとを混合し、混合物2を得た。一方、HEK293細胞(5×10
5個/直径35mmシャ−レ)を10質量%FBS含有DMEM培地にて、37℃、5%二酸化炭素気流下にて70%のコンフルエントまで培養した。その後、得られた細胞に、前記混合物1と混合物2との混合物を添加した。これにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPV4発現ベクタ−を導入し、TRPV4発現細胞を得た。また、同様の方法で、ヒトTRPV4を挿入していないベクタ−を作製し、これをHEK293細胞に導入してMock細胞を作製した。
【0089】
[実施例5]
<TRPV活性化作用評価1:本発明における植物抽出物のカルシウムイメ−ジング法によるTRPV4活性化作用評価>
本発明の植物抽出物を、溶液A〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl
2、2mM CaCl
2、10mMグルコ−ス、10mM HEPES(pH7.4)〕に添加し、試験液を作製した。各試験液中における植物抽出物の濃度は、0.1質量%とした。前記の実施例4に従い作製されたTRPV4発現細胞もしくはMock細胞を、1〜20μg/mlのFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を含む10%FBS含有DMEM培地中で60〜90分間インキュベ−ション(37℃、5%二酸化炭素気流下)して、TRPV4発現細胞もしくはMock細胞にFURA 2−AMを導入した。FURA 2−AM導入後のTRPV4発現細胞もしくはMock細胞を、カルシウムイメ−ジング装置倒立顕微鏡のチャンバ−(RC-26G; Warner Instruments社製)に入れ、溶液Aにて洗浄した。続いて、前記試験液をチャンバ−に入れて循環させながら、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度とを測定した。その後、前記試験液を用いた場合の励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比(340nmでの蛍光強度/380nmでの蛍光強度)を算出した。細胞内カルシウムイオン濃度の変化(カルシウムイオン濃度の増加)に対する被験物質による亢進作用は、IPLabソフトウェア(Scanalytics社製)により解析した。また、陽性対照としてTRPV4リガンドである4α−ホルボ−ルエステル(4α−PDD)を用いて同様の評価を実施した。結果を
図20〜
図22に示す。
【0090】
図20〜
図22の結果より、陽性対照の4α−PDDは、顕著な細胞内カルシウムイオン濃度の増加が認められ、この評価系の客観性が確認された。また、本発明の植物抽出物は、TRPV4発現細胞において顕著な細胞内カルシウムイオン濃度の増加が確認された。一方、Mock細胞においては確認されなかった(
図23及び24)。さらに、カルシウムイオンフリ−の溶液B〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl
2、5mM EGTA、10mMグルコ−ス、10mM HEPES(pH7.4)〕に本発明の植物抽出物としてアセンヤク抽出物を添加したところ、TRPV4発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度の変化は確認されず(
図25及び26)、Mock細胞においても確認されなかった(
図27及び
図28)。このことから、アセンヤクエキスによる細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用は、TRPV4を介した細胞外からのカルシウムイオン流入であることがわかる。
【0091】
[実施例6]
<TJ及びAJの形成促進作用評価1:本発明における植物抽出物のTER値測定>
前記の試験例1に記載の試験方法に従い、本発明の植物抽出物のTER値を測定した。結果を
図29に示す。
図29において、縦軸は、TER値(Ωm
2)、横軸は、測定時間を表す。
図29の結果より、本発明の植物抽出物は、顕著なTER値の増加を示す、TJ及び/又はAJの機能促進作用が認められた。
【0092】
[実施例7]
<TJ及びAJの形成促進作用評価2:本発明における植物抽出物のFITC−Dextran物質透過試験>
前記の試験例2に記載の試験方法に従い、本発明の植物抽出物のFITC−Dextran物質透過性を評価した。結果を
図30に示す。
図30の結果より、本発明の植物抽出物は、顕著なFITC−Dextran物質透過性の抑制が認められ、TJ及び/又はAJの形成促進作用が認められた。
【0093】
図29及び
図30に示した結果より、本発明の植物抽出物は、前記のTJ及び/又はAJの形成促進作用評価(TER値測定及びFITC−Dextran物質透過試験)において、共にTJ及びAJ形成促進作用を示した。前記結果より、本発明の植物抽出物は、TRPV活性化作用、並びに、TJ及び/又はAJの形成促進作用を有し、TRPV活性化作用を介するTJ及び/又はAJの形成促進作用による皮膚バリア機能改善効果を有する。
【0094】
[実施例8]
<本発明の組成物>
<本発明の皮膚バリア機能向上作用を有する成分を含有する組成物(皮膚外用剤)の製造>
表1及び2に示す処方に従って、本発明の皮膚バリア機能向上作用を有する成分を含有する組成物(皮膚外用剤)であるロ−ション化粧料を作製した。即ち、処方成分を80℃で攪拌し、可溶化し、しかる後に、攪拌下冷却して、ロ−ション化粧料[化粧料1又は化粧料2(皮膚外用剤1又は2)]を得た。また、同様の操作を行い本発明の組成物(皮膚外用剤)の「皮膚バリア機能向上作用を有する成分」を「水」に置換した比較例1も作製した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
[実施例9]
<本発明の皮膚外用剤の肌荒れ改善試験>
パネラ−を使用し、本発明の皮膚外用剤である化粧料1、化粧料2、比較例1に付いて、テ−プストリッピングによって作成した肌荒れモデルでの、肌荒れ改善作用を評価した。即ち、左右の前腕に1cm×1cmの部位を4つずつ規定し、テ−プストリッピングを各部位15回行い、経表皮水分蒸散量(TEWL)をインテグラル社製の「テヴァメ−タ−」で計測した。その後、一日一度検体を50μL塗布し、この作業を6日間続け、7日目に再度TEWLを計測した。最初の日のTEWL値から7日目のTEWL値を減じ、最初の日のTEWL値で除し、100を乗じてTEWL改善率(%)を算出した。n数は15とした。結果を表3に示す。これより、本発明の皮膚外用剤は肌荒れ改善作用に優れることがわかる。
【0098】
【表3】