【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度経済産業省エネルギー使用合理化技術開発等(革新的省エネセラミックス製造技術開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックスからなる複数の基本ユニットと、該セラミックスと同一の又は異なるセラミックスからなる複数の固定ピンとを組み合わせて構成された管状のセラミックス構造体であって、
前記基本ユニットは、前記構造体の周方向において対向する第1側面及び第2側面と、前記構造体の軸方向において対向する上面及び下面とを有する略直方体形状をした本体部と、第1側面から前記周方向に突出し、かつ前記軸方向に延びる軸心を有する枢軸部とを備え、
前記本体部は、第2側面側に、前記枢軸部と嵌合可能な嵌合凹部を有するとともに、前記上面及び前記下面からそれぞれ突出する上部スライド係合部及び下部スライド係合部とを有し、
前記上部スライド係合部は、前記上面から前記軸方向に突出する基部と、該基部の先端から前記周方向に向けて前記上面と略平行に張り出した第1張り出し部とからなり、
前記下部スライド係合部は、前記下面から前記軸方向に突出する基部と、該基部の先端から前記周方向に向けて前記下面と略平行に張り出した第2張り出し部とからなり、
第1張り出し部と第2張り出し部とは前記周方向の反対方向に張り出しており、
前記周方向において、一の基本ユニットが、他の基本ユニットの枢軸部周りに回動可能となるように、該一の基本ユニットの嵌合凹部と該他のユニットの枢軸部とが嵌合することにより、複数の基本ユニットからなる環状体が構成され、
前記軸方向において、一の環状体における上部スライド係合部と、該一の環状体の直上に位置する他の環状体における下部スライド係合部とが係合することによって、該環状体どうしが連結しており、
一の環状体と他の環状体とが連結した状態において、両者の間には、一の環状体における上部スライド係合部と他の環状体における下部スライド係合部との係合によって生じた複数の隙間が、前記周方向に沿って形成され、各隙間に前記固定ピンが挿入されて、該環状体の周方向の摺動を規制しているセラミックス構造体。
前記周方向に並んだ複数の前記固定ピンが一の固定ピン列を構成し、該固定ピン列が前記軸方向に複数並んでおり、各固定ピン列を構成する前記固定ピンの少なくとも一つが周囲と固定されている請求項1ないし3のいずれか1項記載のセラミックス構造体。
前記基本ユニットがアルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、サイアロン、ムライト、ホウ素化合物又はそれらの複合物からなる請求項1ないし4のいずれか1項記載のセラミックス構造体。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
図1に示す本実施形態のセラミックス構造体1(以下、構造体1ともいう)は周方向X、径方向Y及び軸方向Zを有し、内部が中空の管状をしている。構造体1は、その横断面が略円形をしている。横断面の直径は、軸方向Zの任意の位置において略同一になっている。
【0010】
構造体1は、複数の基本ユニット2と、複数の固定ピン3とを組み合わせて構成されている。具体的には、
図1、
図5及び
図6に示すとおり、構造体1は、その周方向Xに隣接する基本ユニット2どうしが、後述する嵌め合い構造を介して嵌合することによって、複数の基本ユニット2が連結して環状体20を構成している。更に
図1、
図6及び
図7に示すとおり、構造体1の軸方向Zにおいて、上下に隣接する環状体20どうしが、後述する上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24からなる係合構造を介してスライド係合することによって連結している。そして、
図1、
図7及び
図8に示すとおり、環状体20どうしのスライド係合によって生じた複数の隙間4に固定ピン3が一つずつ挿入されることにより、構造体1が構成されている。
【0011】
図1及び
図2に示すとおり、基本ユニット2は、構造体1の周方向Xにおいて対向する第1側面2a及び第2側面2bと、構造体1の軸方向Zにおいて対向する上面2c及び下面2dとを有する略直方体形状をした本体部2Aを有する。第1側面2aと第2側面2bとは略平行になっている。同様に上面2c及び下面2dも略平行になっている。上面2c及び下面2dは、第1側面2a及び第2側面2bと直交している。本体部2Aは、更に、構造体1の径方向Yに対向する第3側面2e及び第4側面2fを有する。第3側面2eは、構造体1の内方を向く面である。第4側面2fは、構造体1の外方を向く面である。第3側面2e及び第4側面2fは略平行な略平坦面になっている。
【0012】
なお、
図2ないし
図4には、単独の基本ユニット2及び単独の固定ピン3が示されているところ、以下の説明では、これらの
図2ないし
図4についても、
図1と同様に、構造体1の方向(すなわち、周方向X、径方向Y及び軸方向Z)を用いて説明する。
図3(a)は基本ユニット2を軸方向Zから見た上面図であり、
図3(b)は、基本ユニット2を径方向Y外側から見た側面図である。なお、以下の説明において、径方向Y外側とは径方向Yにおける構造体1の外方を指し、径方向Y内側は径方向Yにおける構造体1の内方を指す。
【0013】
図2(a)及び
図3(a)に示すとおり、本体部2Aには、その内部を軸方向Zに貫通する貫通孔である軸方向空洞部25が形成されている。軸方向空洞部25は、
図3(a)に示すとおり、軸方向Zから見て円形状をしており、周方向Xにおいても、径方向Yにおいても、基本ユニット2の略中央域に位置している。軸方向空洞部25は、上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24を含めて本体部2Aを軸方向Zに貫通している。このように、構造体1は、基本ユニット2を中空に形成しているので、中実品に比べて軽量化されている。
【0014】
基本ユニット2は、第1側面2aから構造体1の周方向Xに突出し、かつ構造体1の軸方向Zに延びる軸心21を有する枢軸部2Bを有している。枢軸部2Bは、軸方向Zから見たとき、略円形状をしている。枢軸部2Bは、第1側面2aからその全体が突出していてもよいし、その一部が突出していてもよい。本実施形態においては、基本ユニット2は、第1側面2aから周方向Xに突出して、第1側面2aと一の側面を共有する略三角柱状をした側方基部2Cを有しており、枢軸部2Bはその先端に形成されている。
【0015】
略三角柱状をした側方基部2Cにおける3つの側面のうち、本体部2Aの第1側面2aと共有する側面以外の残りの2側面である第1壁面2g及び第2壁面2hに関しては、第1壁面2gが構造体1の内方を向く一方、第2壁面2hが構造体1の外方を向いている。第1壁面2g及び第2壁面2hはいずれも平坦面である。
図3(a)に示すとおり、基本ユニット2を軸方向Zから見ると、略三角形である側方基部2Cは、第1側面2aを底辺とする2つの底角のうち、第1側面2aと第1壁面2gとがなす底角、及び第1側面2aと第2壁面2hとがなす底角がいずれも鋭角である。また、基本ユニット2を軸方向Zから見ると、第1壁面2gの仮想延長面2g
iと、第2壁面2hとは直交している。
【0016】
図3(a)に示すとおり、側方基部2Cにおける第1壁面2gは、基本ユニット2の径方向Y内側の端面である第3側面2eまで延在している。軸方向Zから見て、本体部2Aの第1壁面2gと側方基部2Cの第3側面2eとは鈍角となっており、それらの面が交わって形成される稜線E1(
図3(a)参照)は、基本ユニット2の一隅を形成している。一方、側方基部2Cの第2壁面2hと、本体部2Aの第1側面2aとは、本体部2Aの外側側縁E2(
図3(a)参照)よりも径方向Y内側で交わっている。
【0017】
枢軸部2B及び側方基部2Cは、軸方向Zにおいて、本体部2Aの上面2c及び下面2dよりも上下方向に延出していないことが、後述する上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24の周方向Xの長さを確保する観点から好ましい。本実施形態においては、
図3(b)に示すとおり、枢軸部2B及び側方基部2Cは、軸方向Zの上面及び下面が、本体部2Aの上面2c及び下面2dと略同一平面上に位置している。
【0018】
基本ユニット2は、第2側面2bに枢軸部2Bと嵌合可能な嵌合凹部22を有している。
図3(a)及び(b)に示すとおり、嵌合凹部22は、軸方向Zから見て点22a及び点22bを結ぶ線を弦とする弓形部分を切り欠いた略円形をしている。嵌合凹部22は軸方向Zに延びて、本体部2Aの全長にわたり形成されている。嵌合凹部22と枢軸部2Bとの嵌合は、
図5に示すとおり、一の基本ユニット2’の嵌合凹部22と、他の基本ユニット2”の枢軸部2Bとが嵌合した状態で、一の基本ユニット2’が、他の基本ユニット2”の枢軸部2B周りに回動可能となるようになされている。これによって、構造体1は、外力、特に径方向Yの力に対して柔軟に変形可能になっている。嵌合凹部22と枢軸部2Bとの嵌合は、JIS B0401−1(1998)におけるはめあい公差がすきまばめであることが好ましく、H9の基準穴に対して、軸の公差域クラスがe7〜e9程度であることが更に好ましい。
【0019】
外力が加わったときの構造体1の大幅な変形を防止する観点から、
図5に示すとおり、一の基本ユニット2’による他の基本ユニット2”の枢軸部2B周りの内向きの回動は、該一の基本ユニット2’の本体部2Aにおける第2側面2bと、該他の基本ユニット2”の側方基部2Cにおける第1壁面2gとの衝合によって規制されるようになされている。同様の観点から、
図5に示すとおり、一の基本ユニット2’による他の基本ユニット2”の枢軸部2B周りの外向きの回動は、他の基本ユニット2”の側方基部2Cにおける第2壁面2hと、一の基本ユニット2’における嵌合凹部22内面との衝合によって規制されるようになされている。
【0020】
図2及び
図3に示すとおり、本体部2Aは、上面2c及び下面2dからそれぞれ突出する上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24を有する。上部スライド係合部23は、上面2cから軸方向Zに突出する第1基部23aと、該第1基部23aの先端から周方向Xに向けて上面2cと略平行に張り出した第1張り出し部23bとからなる。一方、下部スライド係合部24は、下面2dから軸方向Zに突出する第2基部24aと、該第2基部24aの先端から周方向Xに向けて下面2dと略平行に張り出した第2張り出し部24bとからなる。第1張り出し部23bと第2張り出し部24bとは、それら張り出し部の自由端縁が対向するように、周方向Xの反対方向に張り出している。
図3(a)に示すとおり、軸方向Zから見たとき、第1張り出し部23bの自由端縁23b’は、本体部2Aの第1側面2aと略平行になっている。また図示していないが、軸方向Zから見たとき、第2張り出し部24bの自由端縁も、本体部2Aの第1側面2aと略平行になっている。
図2(a)及び
図3(a)に示すとおり、上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24は、本体部2Aを軸方向空洞部25が貫通することによってそれらの一部が切り欠かれている。
【0021】
図3(b)に示すとおり、上部スライド係合部23の軸方向Zの突出長さL
23zと下部スライド係合部24の軸方向Zの突出長さL
24zとは略等しい。また同図に示すとおり、第1張り出し部23bの軸方向Zの厚みT
23b及び第2張り出し部24bの軸方向Zの厚みT
24bは、いずれも径方向Yに沿って略一定である。第1張り出し部23bの厚みT
23bと第2張り出し部24bの厚みT
24bとは、同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。上面2cと第1張り出し部23bとの隙間S
23(
図3(b)参照)は、第2張り出し部24bの厚みT
24bと略等しく、該第2張り出し部24bがスライド係合可能なように調節されている。同様に、下面2dと第2張り出し部24bとの隙間S
24(
図3(b)参照)は、第1張り出し部23bの厚みT
23bと略等しく、該第1張り出し部23bがスライド係合可能なように調節されている。
【0022】
図4(a)に示すとおり、上部スライド係合部23における基部23aは、本体部2Aの径方向Yの全域にわたり形成されている。また周方向Xに関しては、本体部2Aの第1側面2a寄りの位置に形成されている。詳細には、基部23aは、周方向Xの背面23a’が、本体部2Aの第1側面2aと面一になっている。基部23aの周方向Xの自由端面23a”は、軸方向Zから見たとき、本体部2Aの第1側面2aに対して傾斜した直線になっている。その結果、基部23aは、周方向Xの長さが、径方向Yに沿って異なっている。具体的には、基部23aの周方向Xの長さL
23aは、径方向Yに沿ってみたとき、外側ほど短く内側ほど長くなっている(ただし前記の軸方向空洞部25により貫通された部分を除く。)。したがって、該基部23aに連なる第1張り出し部23bの張り出し量L
23b(
図3(b)参照)は、径方向Yに沿ってみたとき、外側ほど長く内側ほど短くなっている(ただし前記の軸方向空洞部25により貫通された部分を除く。)。
【0023】
図4(b)に示すとおり、下部スライド係合部24における基部24aは、本体部2Aの径方向Yの全域にわたり形成されている。また周方向Xに関しては、本体部2Aの第2側面2b寄りの位置に形成されている。詳細には、基部24aは、周方向Xの背面24a’が、本体部2Aの第2側面2bと面一になっている。基部24aの周方向Xの自由端面24a”は、軸方向Zから見たとき、本体部2Aの第2側面2bに対して傾斜した直線になっている。その結果、基部24aは、周方向Xの長さが、径方向Yに沿って異なっている。具体的には、基部24aの周方向Xの長さL
24aは、径方向Yに沿ってみたとき、外側ほど短く内側ほど長くなっている(ただし前記の軸方向空洞部25により貫通された部分を除く。)。したがって、該基部24aに連なる第2張り出し部24bの張り出し量L
24b(
図3(b)参照)は、径方向Yに沿ってみたとき、外側ほど長く内側ほど短くなっている(ただし前記の軸方向空洞部25により貫通された部分を除く。)。
【0024】
第1張り出し部23bの張り出し量L
23bが、外側ほど長く内側ほど短くなっており、かつ第2張り出し部24bの張り出し量L
24bが、外側ほど長く内側ほど短くなっていることによって、基本ユニット2を組み合わせて後述する
図7に示す環状体20を組み立てるときに、各基本ユニット2が径方向Yの内向き性向を示すので、該環状体20の組み立てが容易になる。しかも、基本ユニット2が径方向Yの外向きになりづらいので、構造体1に外力が加わってもその構造が破壊されづらくなる。
【0025】
図3(b)に示すとおり、上部スライド係合部23の周方向Xの長さL
23は、環状体20における、下部スライド係合部24間の部分の周方向X長さL1(
図6参照)よりも短く形成されている。
図3(b)及び
図6に示すとおり、この長さL1は、基本ユニット2の周方向Xの長さ2xのうち、下部スライド係合部24及び枢軸部2Bを除く部分の長さと同程度の長さである。同様に、下部スライド係合部24の周方向Xの長さL
24は、
図6に示すとおり、環状体20における隣り合う基本ユニット2における一方の基本ユニットの第1基部23aの背面23a’と、他方の基本ユニットにおける第1張り出し部23bの自由端縁23b’との距離のうち最も短い位置での距離L2よりも短く形成されている。
【0026】
基本ユニット2の寸法は、構造体1の具体的な用途に応じ適宜設定することができる。一例として、基本ユニット2は、周方向Xの全長2x(
図3(b)参照)が27〜31mmであることが好ましい。また、軸方向Zの全長2z(
図3(b)参照)が27〜31mmであることが好ましい。径方向Yの長さ2y(
図3(a)参照)は16〜20mmであることが好ましい。
【0027】
次に
図2(b)を参照しながら固定ピン3について説明する。固定ピン3は、先端が切り欠かれた略三角形の板状をしている。具体的には先端が切り欠かれた略二等辺三角形の板状をしている。固定ピン3は軸方向Zの厚みが略一定になっている。固定ピン3の厚みは、前記の上部スライド係合部23の突出長さL
23z及び下部スライド係合部24の突出長さL
24zと略等しい。固定ピン3における周方向Xに向き合う2つの側面3a及び側面3bはいずれも平坦面であり、それらの長さL3(
図2(b)参照)は、基本ユニット2の径方向Yの長さ2yと略等しい。固定ピン3における径方向Yに向き合う側面3c(先端面)及び側面3dは、互いに平行な平坦面である。前記の略二等辺三角形の頂角は、後述する隙間4における背面23a’と背面24a’との角度によって決定される。
【0028】
基本ユニット2及び固定ピン3は、セラミックス粉末を含む原料を各種の成型法によって成型し、得られた成型体を焼成することで得ることができる。特に成型法として射出成型法を用いると低コストで基本ユニット2及び固定ピン3を製造できるので有利である。
【0029】
次に、これまで説明してきた基本ユニット2及び固定ピン3をそれぞれ複数用いて構造体1を組み立てる工程について説明する。まず
図5に示すとおり、一の基本ユニット2’の嵌合凹部22と、他の基本ユニット2”の枢軸部2Bとを嵌合させることにより、基本ユニット2’,2”どうしを、一の基本ユニット2’が隣接する他の基本ユニット2”の枢軸部2B周りに回動可能となるように連結する。これによって、
図6に示すとおり、複数の基本ユニット2からなる複数の環状体20を形成する。各環状体20に含まれる基本ユニット2の数は同じである。一の環状体20を構成する基本ユニット2は、目的とする構造体1の具体的な用途に応じ、例えば10〜200個とすることができる。
【0030】
このようにして複数個の環状体20を用意する。そして
図6に示すとおり、一の環状体20’と該環状体20’の直上に位置する他の環状体20”とを係合させて環状体20を積み上げていき、目的とする構造体1を得る。具体的には以下に述べる操作を行う。まず、上側の環状体20”の下部スライド係合部24の下面を、下側の環状体20’の、周方向Xにおける上部スライド係合部23間の部分の上面に当接させる。これとともに、下側の環状体20’の上部スライド係合部23の上面を、上側の環状体20”の周方向Xにおける下部スライド係合部24間の部分の下面に当接させる。前記の上部スライド係合部23間の部分の上面とは、側方基部2C、枢軸部2B及び本体部2Aそれぞれの上面のことである。同様に、前記の下部スライド係合部24間の部分の下面とは、側方基部2C、枢軸部2B及び本体部2Aそれぞれの下面である。
【0031】
次いで、上側の環状体20”と下側の環状体20’とが前記の当接状態を維持しつつ、周方向Xに向けて反対方向に摺動することによって、上側の環状体20”の下部スライド係合部24と下側の環状体20’の上部スライド係合部23とを係合させることができる。この手順で、所望の数の環状体20を軸方向Zにわたり連結させることができる。
【0032】
上述した隙間S
23、S
24及び厚みT
23b、T
24bの寸法関係に起因して、
図7及び
図8に示すとおり、上側の環状体20”と下側の環状体20’との係合部分においては、軸方向Zに沿ってみたときに、上側の環状体20”の下面2dと、下側の環状体20’の第1張り出し部23bの上面との間には隙間が殆ど生じていない。同様に、下側の環状体20’の第1張り出し部23bの下面と、上側の環状体20”の第2張り出し部24bの上面との間にも隙間が殆ど生じていない。同様に、上側の環状体20”の第2張り出し部24bの下面と、下側の環状体20’の上面2cとの間にも隙間が殆ど生じていない。
【0033】
構造体1の周方向Xで見たときには、第1張り出し部23b及び第2張り出し部24bの張り出し量L
23b,L
24bの関係に起因して、前記の係合状態において、上側の環状体20”の第2基部24aと下側の環状体20’の第1張り出し部23bとの間には隙間が殆ど生じていない。同様に、下側の環状体20’の第1基部23aと上側の環状体20”の第2張り出し部24bとの間にも隙間が殆ど生じていない。
【0034】
図7及び
図8に示すとおり、一の環状体20”の下部スライド係合部24と、該環状体20”の直下に位置する他の環状体20’の上部スライド係合部23とが係合することによって、上側の環状体20”と、下側の環状体20’との間には周方向Xに沿って規則的に複数の隙間4が生じる。軸方向Zに隣接する環状体20どうしの間に形成される隙間4の数は、一つの環状体20を構成する基本ユニット2と同数である。
【0035】
図8に示すとおり、上側の環状体20”の第2基部24aの背面24a’と、下側の環状体20’の第1基部23aの背面23a’とは周方向Xに間隔を置いて向き合っている。隙間4は、周方向Xにおいてこの背面23a’と背面24a’とによって画定される。そして隙間4は、環状体20の径方向Yの外側から内側に向けて、周方向Xの距離が次第に狭くなっている。
【0036】
軸方向Zに関しては、上側の環状体20”の側方基部2Cの下面及び本体部2Aの下面2dと、下側の環状体20’の側方基部2Cの上面、枢軸部2Bの上面及び本体部2Aの上面2cとが、軸方向Zに間隔を置いて向き合っている。隙間4は、周方向Xにおいてこれらの面によって画定される。
【0037】
図7及び
図8に示すとおり、複数の隙間4にそれぞれ、固定ピン3を、その先端側を構造体1の径方向Yの内側に向けて挿入する。各隙間4に固定ピン3を挿入した状態では、周方向Xに並んだ複数の固定ピン3からなる固定ピン列30(
図1参照)が形成される。固定ピン列30は、構造体1の軸方向Zに複数並んでいる。中空になっている構造体1の内面は、固定ピン3の先端面3c、基本ユニット2の第3側面2e並びに上部スライド係合部23及び下部スライド係合部24の径方向Y内側端面によって構成されている。
【0038】
以上の構成を有する構造体1においては、前記係合構造を介して環状体20どうしが係合しているので、構造体1に軸方向Zの力が加わっても、構造体1はその状態を維持することができる。また、構造体1に周方向Xの力、例えば軸方向Zに隣接する環状体20どうしの係合を解除するように構造体1を周方向Xに捻る力が働いても、前記の隙間4に固定ピン3が挿入されていることによって、環状体20どうしの係合が解除されにくいので、構造体1はその構造を維持することができる。このように、構造体1は焼成せずとも外力に対して十分な保形性を有する。また柔軟性も有する。
【0039】
更に構造体1を大型化しても、その製造は比較的小さな基本ユニット2及び固定ピン3の形成ですむために、小規模の製造設備で対応が可能となり、製造工程での原料ロスも低減しやすい。これに対して、従来のように大型なセラミックス管を一体的に製造すると、通常は大掛かりな成形設備が必要となってしまい、また歩留まりも低くなってしまう。
【0040】
構造体1の一部の基本ユニット2が万が一破損した場合には、損傷した基本ユニット2を含む環状体20を構造体1から取り外し、取り外された環状体20に含まれる損傷した基本ユニット2を交換し、該環状体20を再び構造体1中に組み込めばよいので、交換時間の短縮化や低コスト化、及び環境負荷の軽減等を実現できる。
【0041】
構造体1の柔軟性を高める観点から、基本ユニット2の大半は、隣接する基本ユニット2と化学的に接合されていないことが好ましい。化学的な接合には、例えば焼成による接合や、接着剤等による接合などが含まれる。構造体1を構成する基本ユニット2のうち、軸方向Z及び周方向Xのいずれにおいても、隣接する基本ユニット2と接合されていない基本ユニット2の数が9%以上であることが好ましく、更に好ましくは18%以上である。すべての基本ユニット2が、軸方向Z及び周方向Xのいずれにおいても、隣接する基本ユニット2と接合されていなくてもよい。
【0042】
また、上述した一の固定ピン30列を構成する固定ピン3のうち少なくとも一つが周囲と固定されていることが好ましい。これによって、固定ピン3が介在する一の環状体20と他の環状体20との間の係合状態が意図せず解除してしまうことを確実に防止できるので、構造体1に外力が加わったときの保形性を一層高めることができる。固定ピン3は例えば、隙間4を画成する基本ユニット2の各部位のうちのいずれかと固定されていることが好ましい。固定ピン3の意図しない抜けを確実に防止する観点からは、該固定ピン3は、隙間4を画成する基本ユニット2のすべての部位と固定されていることが好ましい。固定は、例えば、固定ピン3と隙間4との間に接着剤を介在させることにより行うことができる。
【0043】
基本ユニット2を構成するセラミックスとしては、種々の酸化物系セラミックス、非酸化物系セラミックス又はそれらの複合物等を挙げることができる。例えば、酸化物系セラミックスの例としては、アルミナ、ジルコニア及びムライトなどが挙げられる。非酸化物系セラミックスの例としては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、サイアロン、ホウ素化合物などが挙げられる。固定ピン3を構成するセラミックスは、基本ユニット2を構成するセラミックスと同一でも異なっていてもよい。その例として、基本ユニット2を構成するセラミックスとして前記で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0044】
構造体1の長さ(軸方向Zの長さ)及び外径は、構造体1の用途に応じて定めることができる。特に、構造体1の長さは、環状体20を連結させることで容易に変更可能である。外径は例えば100〜500mmとすることができる。
【0045】
本発明の構造体1は、例えば炉心管、高温プラントの内壁、燃焼管等の大型部材に好適に用いることができる。
【0046】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、枢軸部2B及び嵌合凹部22の形状は、図面に示されるものに限られず、枢軸部2Bが嵌合凹部22に嵌合可能であり、かつ基本ユニット2が枢軸部2B周りに回動可能であれば、その他の形状であってもよい。同様に、上部スライド係合部23及び下部スライド傾向部24の形状も図面に示されるものに限られず、両係合部が係合可能であれば他の形状であってもよい。
【0047】
また、前記実施形態においては、枢軸部2B及び側方基部2Cの下面と、本体部2Aの下面2dとが面一の関係にあったが、これに代えて、枢軸部2B及び側方基部2Cの下面を更に垂下させて、該下面と第2張り出し部24bの下面とが面一の関係となるようにしてもよい。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
98%アルミナ粉末1000gに対して、バインダーを質量比約14%の割合で添加して混合物を得た。バインダーは、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂及びパラフィンワックスからなるものを用いた。この混合物を、約150℃で加熱しながら加圧ニーダで約1時間加圧混練処理を行った。混練処理物を冷却し、破砕したのち、射出成形機に投入して、
図2ないし
図4に示す基本ユニット2及び固定ピン3の成型体を製造した。これらの成型体を、大気中において最高500℃で加熱して脱脂処理を行い、次に大気中において1600℃まで加熱して3時間保持し焼成した。得られた基本ユニット2及び固定ピン3を用いて上述した組み立て工程に従い、
図1に示す構造体1を作製した。作製した構造体1は、周方向Xに13個の基本ユニット2が組み合わされ、隙間4に同数の固定ピン3が挿入されたものであった。軸方向Zには、環状体20が19個連結していた。全長は570mm、外径は125mmであった。各固定ピン列30について、固定ピン列30を構成する固定ピン3の1つにおける側面3a、側面3b、上面及び下面に、耐熱性のあるアロンセラミックスを薄く塗布し、基本ユニット間に挿入した。これによって、構造体1の全体を固定することができた。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1において、構造体1の全長を1500mmとした。この構造体1を炉心管として使用した。使用過程で、処理物との接触等による破損が生じたが、破損部分のみの交換により短納期で修復が可能となった。
【0050】
〔実施例3〕
アルミナに代えて、炭化ケイ素、ジルコニア、サイアロン、ムライト及び窒化ホウ素を用いて基本ユニット2及び固定ピン3を製造した。得られた基本ユニット2及び固定ピン3を用い、実施例1と同様の構造体を得た。各固定ピン列30について、固定ピン列30を構成する固定ピン3の1つにおける側面3a、側面3b、上面及び下面に、耐熱性のあるアロンセラミックスを薄く塗布し、基本ユニット間に挿入した。これによって、構造体1の全体を固定することができた。