【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
〔測定例1〕
以下に、共通の測定条件である質量分析の条件を記載する。
「FAB−MS分析」は、日本電子JMS-700を使用し、加速電圧:8kV、FABガス:キセノン(電圧6kV)、FABマトリックス:m−ニトロベンジルアルコール(m−NBA)、測定質量範囲:0〜2000、の条件で行った。
【0038】
「ODSカラムを用いたLC−MS分析」は、日本電子JMS-700を使用し、イオン化法:ESI、加速電圧:5kV、リング電圧:100V、オリフィス電圧:20V、イオンマルチ電圧:1.5kV、の条件で行った。
カラム分離は、L−カラム(ODS相当) 2.1φ×15cm(化学物質評価機構)を使用し、移動相:A液として精製水(0.028%NH
3)、B液としてエタノール(0.028%NH
3)、グラジェント条件:B液を15分間に70〜100%まで溶媒グラジェント、測定時間:40分間、流量:0.2mL/min、の条件で行った。
【0039】
〔試験例1〕 (米におけるリン脂質・リゾリン脂質の存在確認)
米(ひとめぼれ)の全粒を粉砕器(Cyclone Sample Mill、UDY CORPORATION製)によって粉砕することで得た粉(粒子径約280μm以下)3gに、メタノール(室温)15mLを加え、ガラス棒を用いてよく混合した。この処理物を直ちに3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
固液分離して得られた上清は、窒素気流によって濃縮して濃縮液とし、ゲル濾過カラム(Shodex Asahipak GS-620 2GおよびGS-220 2Gを連結して使用、どちらも2.0cm×50cm)を接続した高速液体クロマトグラフィーシステム(本体:日本分析工業:LC-9201、示差屈折検出器:RI-50s)で分画した。なお、溶離液はメタノールを用いた。分画結果を
図1に示す。
次いで、
図1の矢印で指示した画分をFAB−MS分析し、
図2に示す分析結果を得た。m/z=200付近の拡大図を
図3に示す。
【0040】
その結果、リン脂質やリゾリン脂質の構成要素であるコリンの存在を示すm/z=184.2のピークが見られることから、米全粒にリン脂質やリゾリン脂質が存在することが確認できた。
【0041】
〔試験例2〕 (白米表層粉−水混合物白濁上清に存在する水分散粒の粒度分布)
玄米(コシヒカリ)を精米機(RICEPAL31、山本製作所製)で糠部分、すなわち玄米を100質量%とすると最外層部分および糊粉層部分に相当する100〜91質量%部分を除去した後、研削式精米機(Grain Testing Mill、SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%部分(白米表層部分)由来の粉(粒子径約135μm以下)3gに、水(約20℃)15mLを加え、ガラス棒を用いてよく混合した。
この処理物をただちに、3000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、ただちに粒度分布測定装置(LB-550、堀場製作所製)で粒度分布測定を行い、分離した上清中に存在する水分散粒の粒度分布データを得た。結果を表1に示す。
【0042】
その結果、当該白濁上清中に水分散している粒子は、平均粒子径496.2nm、最大粒子径1317.3nmの粒であることが明らかになった。
【0043】
【表1】
【0044】
〔実施例1〕 (白米表層粉−水混合物白濁上清からのリゾリン脂質の回収)
玄米(ひとめぼれ)をブラシ式精米機(HRG-122、みのる産業製)で糠部分、すなわち玄米を100質量%とすると最外層部分および糊粉層部分に相当する100〜91質量%部分を除去した後、研削式精米機(Grain Testing Mill、SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%部分由来の粉(粒子径約135μm以下)3gに、水(約20℃)15mLを加え、ガラス棒を用いてよく混合した。
この処理物をただちに、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。
分離した上清は、排除限界分子量100(MWCO=100)の透析膜(スペクトラポア、Cellulose Ester(CE) Dialysis Membranes、Spectrum製)に封入し、純水に対して透析を行った。
透析膜内側の内容物は、Freezdryer FD-1(EYELA製)により凍結乾燥し、質量分析(JMS-700、日本電子製)に供した。結果を
図4に示す。
【0045】
その結果、C16:0の脂肪酸鎖をもつLPCを示すm/z=496.3のピーク、C18:2の脂肪酸鎖をもつLPCを示すm/z=520.2のピーク、C18:1の脂肪酸鎖をもつLPCを示すm/z=522.3のピークが検出された。
このことから、白米表層粉−水混合物白濁上清には複数種のリゾリン脂質が含まれ、透析によって高純度化されることが明らかとなった。
【0046】
〔実施例2〕 米の白米表層粉−水混合物白濁上清およびクリーム状沈殿に含まれるリン脂質・リゾリン脂質分子の解析
(1)リン脂質・リゾリン脂質の回収及び透析
玄米(ひとめぼれ)をブラシ式精米機(HRG-122、みのる産業製)で糠部分、すなわち玄米を100質量%とすると最外層部分および糊粉層部分に相当する100〜91質量%部分を除去した後、研削式精米機(Grain Testing Mill、SATAKE製)で外側から順次研削し、玄米を100質量%とすると白米表層部分に相当する91〜86質量%部分由来の粉(粒子径約135μm以下)3gに、水(約20℃)15mLを加え、ガラス棒を用いてよく混合した。
この混合物をただちに、1000rpm、10分間の遠心分離により固液分離した。これにより、混合物は、白濁上清、中間層であるクリーム状沈殿(沈殿上層)、白色沈殿(沈殿下層)に分離した。
分離した上清およびクリーム状沈殿は、各々排除限界分子量100(MWCO=100)の透析膜(スペクトラポア、Cellulose Ester(CE) Dialysis Membranes、Spectrum製)に封入し、純水に対して透析を行った。
そして、透析膜内側の内容物は、Freezdryer FD-1(EYELA製)により凍結乾燥した。
【0047】
(2)白濁上清についての質量分析
まず、白濁上清の透析物について、ODSカラムを用いて含まれる物質の分離(分画)を行った。分離結果を
図5に示す。
そして、
図5におけるピーク2〜12の画分を質量分析した結果を
図6〜16に示す(なお、
図5中のピーク1は糖を示すものである)。また、これらの結果をまとめたものを表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
図5の各ピークから検出された脂質分子について具体的に示す。
まず、ピーク2を質量分析した結果(
図6)において、m/z=542のピークはC18:2の脂肪酸鎖をもつLPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=520のピークはC18:2の脂肪酸鎖をもつLPCにH
+が付加したものである。
【0050】
ピーク3を質量分析した結果(
図7)において、m/z=544のピークはC18:1の脂肪酸鎖をもつLPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=518のピークはC16:0の脂肪酸鎖をもつLPCにNa
+が付加したもの、m/z=496のピークはC16:0の脂肪酸鎖をもつLPCにH
+が付加したものである。
【0051】
ピーク4を質量分析した結果(
図8)において、m/z=544のピークはC18:1の脂肪酸鎖をもつLPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=522のピークはC18:1の脂肪酸鎖をもつLPCにH
+が付加したものである。
【0052】
ピーク5を質量分析した結果(
図9)において、m/z=864のピークはC20:1の脂肪酸鎖を2本もつホスファチジルコリン(PC)にNa
+が付加したものである。
また、m/z=806のピークはC18:1およびC18:2の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=784のピークはC18:1およびC18:2の脂肪酸鎖をもつPCにH
+が付加したものである。
また、m/z=780のピークはC16:1およびC18:1の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したもの若しくC16:0およびC18:2の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=758のピークはC16:1およびC18:1の脂肪酸鎖をもつPCにH
+が付加したもの若しくC16:0およびC18:2の脂肪酸鎖をもつPCにH
+が付加したものである。
【0053】
ピーク6を質量分析した結果(
図10)において、m/z=808のピークはC18:1の脂肪酸鎖を2本もつPCにNa
+が付加したもの若しくC18:0およびC18:2の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=782のピークはC16:0およびC18:1の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したもの若しくC16:1およびC18:0の脂肪酸鎖をもつPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=760のピークはC16:0およびC18:1の脂肪酸鎖をもつPCにH
+が付加したもの若しくC16:1およびC18:0の脂肪酸鎖をもつPCにH
+が付加したものである。
また、m/z=639のピークはC18:2の脂肪酸鎖を2つもつDGにNa
+が付加したものである。
また、m/z=617のピークはC18:2の脂肪酸鎖を2つもつDGにH
+が付加したものである。
【0054】
ピーク7を質量分析した結果(
図11)において、m/z=641のピークはC18:1およびC18:2の脂肪酸鎖をもつDGにNa
+が付加したものである。
【0055】
ピーク8を質量分析した結果(
図12)において、m/z=901のピークはC18:2の脂肪酸鎖を3つ持つトリアシルグリセロール(TG)にNa
+が付加したものである。
【0056】
ピーク9を質量分析した結果(
図13)において、m/z=903のピークはC18:1の脂肪酸鎖を1つおよびC18:2の脂肪酸鎖を2つ持つTGにNa
+が付加したものである。
【0057】
ピーク10を質量分析した結果(
図14)において、m/z=905のピークはC18:1の脂肪酸鎖を2つおよびC18:2の脂肪酸鎖を1つ持つTGにNa
+が付加したもの若しくはC18:0の脂肪酸鎖を1つおよびC18:2の脂肪酸鎖を2つ持つTGにNa
+が付加したものである。
【0058】
ピーク11を質量分析した結果(
図15)において、m/z=907のピークはC18:1の脂肪酸鎖を3つ持つTGにNa
+が付加したもの若しくはC18:0の脂肪酸鎖、C18:1の脂肪酸鎖、C18:2の脂肪酸鎖を1つずつ持つTGにNa
+が付加したものである。
【0059】
ピーク12を質量分析した結果(
図16)において、m/z=935のピークはC18:0、C18:2、C20:1の脂肪酸鎖を1つずつ持つTGにNa
+が付加したもの若しくはC18:1の脂肪酸鎖を2つおよびC20:1の脂肪酸鎖を1つ持つTGにNa
+が付加したもの若しくはC18:1、C18:2、C20:0の脂肪酸鎖を1つずつ持つTGにNa
+が付加したものである。
また、m/z=909のピークはC18:0の脂肪酸鎖を2つおよびC18:2の脂肪酸鎖を1つ持つTGにNa
+が付加したもの若しくはC18:0の脂肪酸鎖を1つおよびC18:1の脂肪酸鎖を2つ持つTGにNa
+が付加したものである。
【0060】
これらの結果が示すように、白米表層粉−水混合物を遠心して得られる白濁上清(水分散粒)には、リゾリン脂質であるLPCとリン脂質であるPCが、複数種類含まれることが明らかになった。
【0061】
(3)クリーム状沈殿についての質量分析
また、クリーム状沈殿の透析物について、ODSカラムで含まれる物質の分離を行った。分離結果を
図17に示す。
そして、
図17におけるピーク2を質量分析した結果を
図18に示す(なお、
図17中のピーク1は糖を示すものである)。また、これらの結果をまとめたものを表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
図17のピークから検出された脂質分子について具体的に示す。
ピーク2を質量分析した結果(
図18)において、m/z=518のピークはC16:0の脂肪酸鎖をもつLPCにNa
+が付加したものである。
また、m/z=496のピークはC16:0の脂肪酸鎖をもつLPCにH
+が付加したものである。
【0064】
この結果が示すように、白米表層粉−水混合物を遠心して得られたクリーム状沈殿には、リゾリン脂質であるLPCが含まれることが明らかになった。
【0065】
〔考察〕
上記のように、稲の種子由来の粉に、水(室温)を加えて単に混合操作をすることによって、リン脂質やリゾリン脂質を多く含む画分(白濁上清やクリーム状沈殿)を得ることができることが示された。
また、当該画分から、透析やカラムによりリン脂質やリゾリン脂質を簡便に精製できることも示された。