(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記脱液工程で得られたケーキ中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、上記パルプ中の固体成分の質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)が、上記濾過面の移動速度又は上記パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触距離を変えることによって調節される請求項1に記載のセルロースエーテルの製造方法。
上記脱液工程で得られたケーキ中に含まれるアルカリ金属水酸化物と上記パルプ中の固体成分の質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)が、0.3〜1.5の範囲である請求項1又は請求項2に記載のセルロースエーテルの製造方法。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルの製造方法としては、高純度に精製されたパルプにアルカリ溶液を接触させてアルカリセルロースを調製し、エーテル化剤を用いてエーテル化反応することが知られている。得られた最終セルロースエーテルは、置換度を適当にコントロールすることにより水可溶性となるが、その中に水不溶部分が存在し、水溶液の透光度を下げたり、異物となってその商品価値を損ねる場合がある。この未溶解部分は、水に溶解するのに十分な置換基を有さない低置換度部分が存在するため生じるものであり、アルカリセルロース中のアルカリ分布が不均一であることが原因の一つとして挙げられる。
【0003】
このアルカリの働きは、セルロースを膨潤させてパルプ中の結晶構造を変えてエーテル化剤の浸透を助けること、アルキレンオキシドのエーテル化反応を触媒すること、ハロゲン化アルキルの反応剤であること等が挙げられる。従って、パルプとアルカリ水溶液が接触しない部分は、反応にあずからないために未溶解分となり、アルカリセルロースの均一性はそのまま未溶解分の多寡につながる。
【0004】
ここで、アルカリセルロースの製法として広く行われているのは、パルプを粉砕して得られた粉末状パルプにアルカリをエーテル化反応に必要な量だけ添加し機械的に混合する方法が挙げられる(特許文献1〜2)。しかし、この方法ではアルカリがパルプ全体に行き渡らないことからアルカリに未接触のパルプが存在し、その部分がセルロースエーテルに成り得ないことから、製品中に未反応物として混入し、セルロースエーテルの品質不良を引き起こす問題があった。
【0005】
このような問題を生じさせない方法として、特許文献3に示されるようにシート状のパルプを過剰のアルカリ溶液に浸漬し十分アルカリを吸収させた後、所定のアルカリ量になるように加圧プレスして余分なアルカリを除去する方法がある。この方法を工業的に実施する場合、ロール状に巻かれたパルプの中心管に支持用の軸を通して上昇させ床面からロール状パルプを浮き上がらせることにより、あるいはロール状のパルプをころの上に乗せることにより、ロール状パルプが自由に回転できるようにし、ロール状パルプからシート状パルプを引き出しながら浸漬槽に導入する方法が一般的である。しかし、この方法では浸漬中にシート状パルプが引っ張られることにより破断し、運転が続行不可能になる問題がしばしば発生した。また、大量生産するにあたってはシート状パルプを所定時間浸漬するためには非常に大きな浸漬槽が必要になり、十分な設置スペースがとれなかったり、投資コストが大きくなる欠点があった。一方、チップ状のパルプの場合、ケーキが平滑でないため該プレス機では圧搾むらを生じ、アルカリセルロース中のアルカリ分布の不均一化に基づく品質の低下を引き起こした。
【0006】
一方、非特許文献1には、ビスコース製造におけるアルカリセルロースの製造方法として、アルカリ溶液にパルプを加えてかゆ状のスラリーにし、スラリープレス装置にて圧搾する方法が記載されている。シート状パルプを用いることのいくつかの欠点は解消されるが、スラリープレス装置は圧搾むらを生じ、アルカリセルロース中のアルカリ分布の不均一化に基づく品質の低下を引き起こした。また、圧搾性能に限界があるため、この方法だけではセルロースエーテルの原料として要求される比較的アルカリ分の少ないアルカリセルロースを得ることは困難であり、よってセルロースエーテルへの応用は困難だった。
【0007】
特許文献4には、セルロースと過剰のアルカリよりアルカリセルロースを製造後、親水性溶媒でアルカリセルロースを洗浄することによりアルカリ分を除去し、目的の組成にする方法が記載されている。しかし、多大な設備及び工程が必要であり、使用した親水性溶媒がアルカリセルロースに残存し、エーテル化剤と副反応を起こすためエーテル化剤の反応効率が低下したり、また洗浄液を中和処理又はアルカリ分を回収しなければならないことから、工業的生産は困難だった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のパルプは、木材パルプ、コットンリンターパルプが挙げられ、木材の樹種は、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹及びユーカリ、カエデ等の広葉樹を用いることができる。本発明で用いるパルプは、粉末状又はチップ状のいずれの形態も用いることができる。
粉末状パルプは、シート状パルプを粉砕して得られるもので、粉末の形態を示すものである。通常、平均粒子径が10〜1,000μmのものが用いられるが、これらに限定されない。粉末状パルプの製造方法は限定されないが、ナイフミルやハンマーミル等の粉砕機を用いることができる。
【0015】
チップ状パルプの製造方法は限定されないが、シート状パルプをスリッターカッターのほか、既存の裁断装置を利用することにより得られる。使用する裁断装置は連続的に処理できるものがコスト上有利である。
チップの平面積は、好ましくは4〜10,000mm
2、より好ましくは10〜2,500mm
2である。4mm
2より小さいと、チップ状のパルプの製造が困難な場合があり、逆に10,000mm
2より大きいと、連続式水平真空濾過器型接触装置への投入、脱液装置への投入等の取り扱いが困難になる場合がある。ここで、チップの平面積は、一片のチップ状パルプを六面体としてとらえた場合、六面のうち最も面積の大きい面の面積をいう。
【0016】
アルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリセルロースが得られれば特に限定されないが、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液、特に好ましくは経済的観点から水酸化ナトリウムである。アルカリ水酸化物を溶かす溶媒としては、水が通常用いられるが、低級アルコール(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)やその他の不活性溶媒を使用したり、これらを組み合わせてもよい。
また、アルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、好ましくは23〜60質量%、より好ましくは35〜55質量%である。23質量%未満だと、次工程でセルロースエーテルを得る際に、エーテル化反応剤が水と副反応するため経済的に不利であり、かつ所望の置換度のセルロースエーテルを得ることができず、製造されるセルロースエーテルの水溶液の透明性が劣る場合がある。一方、60質量%を超えると、粘性が高くなるため取り扱いが困難な場合がある。なお、パルプとの接触に供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、アルカリセルロースの組成を安定させ、セルロースエーテルの透明性を確保するために一定の濃度に保たれることが好ましい。
【0017】
本発明の接触濾過工程においては、例えば連続式水平真空濾過器型接触装置を用いることができ、これは水平な濾過面を移動させ、弁等の作動により真空濾過と濾過面上に残った接触物の取り出しを連続的に繰り返すものであればよく、その形状はテーブル状、ベルト状及びマルチプルパン等が好ましい。
【0018】
図1は、連続式水平真空濾過器型接触装置10と、連続式水平真空濾過器型接触装置で生成された接触物を脱液する脱液手段20とを備えるアルカリセルロースの製造装置の例を示す。
連続式水平真空濾過器型接触装置10は、濾過面11とともに、一端にパルプ1の投入口12とアルカリ金属水酸化物溶液2を散布する散布口群13を備えている。散布するアルカリ金属水酸化物溶液は熱交換器32により所定の温度に調整される。投入されたパルプはアルカリ金属水酸化物溶液散布口13a〜13eを備えるアルカリ金属水酸化物溶液散布口群13から散布されるアルカリ金属水酸化物溶液と接触しながら、同時に真空濾過され搬送方向Tで他端に接触させながら搬送させる。
投入されたパルプ又は投入されたパルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物は、レベリング装置10Aによって平坦化させることができる。レベリング装置は進行方向に複数個配置することができ、2個以上が好ましい。レベリング装置は高さ位置を調整できるものが好ましく、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物の堆積厚さに相当する高さhは好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下である。
また、レベリング装置は板状、ノッチ状(のこぎり状)、くし状、スクリュー状(
図2参照)ブレード状(
図3参照)のいずれのものも用いることができる。
図2は、スクリュー状レベリング装置の例として、スクリュー10
pと支持体10
qを備えるレベリング装置10Aをろ過面11の幅方向(パルプの搬送方向Tに対して垂直方向)から見た図を示す。スクリュー状のものは、パルプ又はパルプとアルカリ金属水酸化物溶液を両脇から中心に寄せ集める機能を有するものが好ましく、
図2は、パルプ等を両脇から中心に寄せ集めることができる、中心を対称面とする左右対称のスクリュー10
pを示す。
図3は、ブレード状レベリング装置の例として、スクリュー10
pをブレード10
rに置き換えたレベリング装置10Aをろ過面11の上方から見た図を示す。ブレード状レベリング装置は、パルプ又はパルプとアルカリ金属水酸化物溶液を両脇から中心に寄せ集める機能を有するものが好ましく、
図3は、パルプ又はパルプとアルカリ金属水酸化物溶液を両脇から中心方向に寄せ集めるように、パルプの搬送方向Tを角度0°とし、ろ過面11の幅方向を角度90°とすると、0°を超えて90°未満の角度を有し、ろ過面11の幅の中央部を開放するようにブレードを設けている。パルプの一部は、散布口群13から散布されるアルカリ金属水酸化物溶液2の散布圧により両脇に移動する傾向があり、これを打ち消すために両脇から中心に寄せ集める機能は好ましい。なお、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物は、上記レベリング装置により混合されることが好ましい。
【0019】
なお、連続式水平真空濾過器型接触装置は、酸素存在下でのアルカリセルロースの重合度低下を防止するため、真空又は窒素置換ができるものがより好ましい。同時に酸素の存在下における重合度コントロールを目的とする場合は、酸素量を調整可能な構造を持つものが好ましい。
【0020】
本発明で使用する、例えば連続式水平真空濾過器型接触装置は、アルカリ金属水酸化物溶液の温度又は接触時間を任意にコントロールできることが好ましい。なぜなら所望の組成のアルカリセルロースを得ようとする場合、アルカリセルロースの組成はパルプがアルカリ金属水酸化物溶液を吸収した量に依存し、その吸収量は接触時間及びアルカリ液の温度を制御することにより調節できるからである。
【0021】
アルカリ金属水酸化物溶液の温度の調整方法は、公知の技術を用いることができるが、熱交換器を利用することが好ましい。アルカリ金属水酸化物溶液の温度は、特に限定されないが、好ましくは15〜80℃の範囲で調節される。
【0022】
本発明では、接触時間の調整方法として、好ましくは濾過面の移動速度又はアルカリ金属水酸化物溶液との接触距離を変えることにより行われる。ここで、接触距離とは、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させながら移動する距離をいい、多くの場合移動する濾過面上に供給されたパルプが初めてアルカリ金属水酸化物溶液と接触するためのアルカリ金属水酸化物溶液の散布位置を変更することにより調整される。
【0023】
濾過面の移動速度は、好ましくは0.0005〜10m/s、より好ましくは0.005〜5m/sである。0.0005m/s未満だと濾過面積当たりのパルプ量が過大となって均一な接触が望めない場合がある。一方、10m/sを超えると設備が過大となり現実的でない場合がある。また、アルカリ金属水酸化物溶液との接触距離は、好ましくは0.5〜100m、より好ましくは1〜50mである。0.5m未満だと吸収量のコントロールが困難となる場合があり、100mを超えると設備が過大となり現実的でない場合がある。
【0024】
パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触時間は、好ましくは1秒〜15分間、より好ましくは2秒〜2分間の範囲である。1秒未満だと吸収量のコントロールがはなはだ困難な場合があり、15分を超えると装置が過大となったり又は生産性が悪くなるばかりか、パルプのアルカリ吸収量が過大となり、いかなる脱液装置をもってしてもセルロースエーテルの製造に適した所望の組成のアルカリセルロースを得ることが難しくなる場合がある。供給したパルプがアルカリ金属水酸化物溶液に全く触れずに通過することは品質上避けねばならない。従って、接触濾過では完全にアルカリ金属水酸化物溶液と接触できるようにパルプを通過させることが好ましい。そのためには、アルカリ金属水酸化物溶液の散布位置を進行方向に対し複数設けるのが望ましい。具体的設置箇所は、進行方向において2カ所以上が好ましく、通常は最大で進行方向1mあたり50カ所程度が好ましい。
【0025】
散布装置は、好ましくは、進行方向に対し交差する方向の線上に複数のノズルを配したものであり、スプレーノズルやパイプ状のノズル、パイプに複数の穴を開けたもの等が用いられる。
【0026】
本発明においてパルプ質量に対する、散布するアルカリ金属水酸化物溶液の体積の比は、一カ所の散布口あたり、好ましくは0.1L/kg以上、より好ましくは3.0L/kg以上、更に好ましくは5.0L/kg以上、特に好ましくは10.0L/kg以上である。0.1L/kgより少ないと完全な接触が困難になるため、アルカリセルロース中のアルカリの分布が不均一となり製品の品質の低下をきたす場合がある。パルプ質量に対するアルカリ金属水酸化物溶液の体積の比の上限は真空濾過の濾過能力に応じて決められるが、通常は100L/kgまでが好ましい。
本発明において濾過面の上に残った接触物が濾過面の移動速度と異なる速度で移動することがないような液量が保持されるのが好ましい。このため、散布するアルカリ金属水酸化物溶液の速度や濾過速度を調節することが好ましい。
【0027】
なお、本発明においてはパルプを移動する濾過面上に投入する前に、パルプ及びアルカリ金属水酸化物溶液を予混合しておくことが可能である。予混合する場合は、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触が既に行われているため、この接触時間を管理することが好ましい。
【0028】
散布したアルカリ金属水酸化物溶液は、一部がパルプに吸収され、一部はパルプ表面に付着し、残りは濾過面から吸引され除去される。吸引の度合いは、濾過面上にアルカリ金属水酸化物溶液が滞留して接触物が流動化しない程度に排液されていればよい。接触物が流動化すると連続式水平真空濾過器型接触装置内での滞留時間に分布が生じるので好ましくない。
【0029】
真空濾過は、濾過面の背面に配された真空パン17及び真空ポンプ18により行われる。真空濾過により回収されたアルカリ金属水酸化物溶液は金属酸化物溶液槽30に送られる。アルカリ金属水酸化物溶液とパルプとの接触物は、取り出し口14から取り出される。なお、流動性を高め、次工程への搬送を容易にするため、供給口(供給ノズルでもよい)15よりアルカリ金属水酸化物溶液2を供給することができる。
濾過面から接触物を取り出す工程を容易にするためのスクレイパー16を設けることができる。取り出された接触物は、脱液手段20によってケーキであるアルカリセルロース3に分離される。脱液手段で回収された液体は、アルカリ金属酸化物溶液槽30に送られ、ポンプ31により、連続式水平真空濾過器型接触装置10に送られ、再利用できる。このとき、熱交換器32を用いるとアルカリ金属水酸化物溶液の温度の調整が可能である。濾過面の目詰まりを防止するため、洗浄ノズル19より水、熱水、蒸気、空気、不活性ガス又はアルカリ金属水酸化物溶液を連続的又は断続的に散布して付着物を洗浄することができ、この際のアルカリ金属水酸化物溶液は新しいものが好ましい。散布されたアルカリ金属水酸化物溶液は濾過材を通過後に回収され、アルカリ金属水酸化物溶液2として利用することができる。
濾過材の孔径はパルプが通過しない範囲であればよく、好ましくは5mm以下、より好ましくは0.1〜5mmである。メッシュベルト、孔あき金属ベルト、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等の濾布を用いることができる。これらの濾過材のうち好ましいのは孔あき金属ベルトであり、孔の形状は丸型、三角形、四角形のいずれも用いることができるが、好ましくは丸型である。濾過材の厚みは、好ましくは5mm以下、より好ましくは0.1mm〜2mmである。
濾過面積あたりのパルプ量は、好ましくは50kg/m
2以下、より好ましくは10kg/m
2以下である。これ以上だと均一な接触が困難になる場合がある。一方、下限は0.5kg/m
2が好ましい。
【0030】
また、本発明は、低級アルコール(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)やその他の不活性溶媒を使用しても差し支えない。これらの溶媒の使用により、アルカリの分布の均一性の改善に加えてアルカリセルロースの嵩密度改善も可能である。
【0031】
本発明では、例えば連続式水平真空濾過器型接触装置内でパルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触が行われた後、その接触物は、圧搾機等の脱液手段により、余剰のアルカリ金属水酸化物溶液が除去され、アルカリセルロースとなる。
【0032】
脱液装置としては、デカンターや回転バスケットといった遠心力を利用した脱液装置、ロール状のもの、V型ディスクプレス、バケットプレス等の機械的脱液装置及び真空ろ過器を利用できるが、脱液の均一性から遠心力を利用する脱液装置が好ましい。また、連続的に処理できるものが好ましい。例えば、スクリュー排出型遠心脱水機、押し出し板型遠心脱水機、デカンター等が挙げられる。遠心力を利用する脱液装置の場合、必要な脱液度に応じ回転数を調節することが可能である。また、機械的脱液装置の場合は脱液圧の調節、真空ろ過器の場合は真空度の調節が可能である。
【0033】
脱液により回収されたアルカリ金属水酸化物溶液は、再利用可能である。再利用する場合、アルカリセルロースとして系外に持ち出されたアルカリ金属水酸化物溶液と同じ量のアルカリ金属水酸化物溶液を連続的に系内に供給するのが好ましい。この場合、脱液により回収されたアルカリ液を一旦タンクに受入れた後、このタンクから接触のための装置に供給され、タンクレベルを一定に保つように新しいアルカリ金属水酸化物溶液を添加することができる。
【0034】
脱液により回収されたアルカリ液を再利用する場合、孔のある回転体を有する連続遠心分離機と孔のない回転体を有する連続遠心分離機を併用する方法が特に好ましい。これにより孔のある回転体を有する遠心分離機の目詰まりを防止することができ、ろ過不良やそれに伴う遠心分離機の振動を防止することができる。パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物は、先ず孔のある回転体を有する連続遠心分離機を用いて液と固形分とに分離される。その後、分離液中の微細な固形分が孔のない回転体を有する連続遠心分離機により回収される。孔のある回転体を有する連続遠心分離機からの分離液は、その全部又は一部を直接孔のない回転体を有する連続遠心分離機に導入することができるが、一旦タンクに受け入れられた後、そのタンクから孔のない回転体を有する連続遠心分離機に導入することもできる。分離液から孔のない回転体を有する連続遠心分離機により回収された固形分は、アルカリセルロースとして利用することができる。
【0035】
連続遠心分離機は、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触時間、温度及び必要な脱液度に応じ回転数、すなわち遠心効果を調節することができる。なぜなら遠心効果を調節することによりパルプとの接触に繰り返し供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度を一定に保つことができ、透明性の高いセルロースエーテルを得られるからである。現在の運転条件に対して、接触時間を延長させるとき及び/又は接触温度を上昇させるときは、遠心効果を減少させることができる。接触時間を短縮させるとき及び/又は接触温度を低下させるときは、遠心効果を増加させることができる。アルカリ金属水酸化物溶液の濃度の変動率は、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内に抑える。
【0036】
なお、遠心効果は、「社団法人化学工学協会編 新版化学工学事典」昭和49年5月30日発行に記載される通り、遠心力の大きさの程度を示す数値であり、遠心力と重力の比で与えられる。遠心効果Zは、下記式で表される。
Z=(ω
2r)/g=V
2/(gr)=π
2N
2r/(900g)
上式中、rは回転体の回転半径(単位m)、ωは回転体の角速度(単位rad/秒)、
Vは回転体の周速度(m/秒)、Nは回転体の回転数(rpm)、gは重力加速度(m/
sec
2)を表す。
【0037】
脱液工程で得られたケーキ中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、上記パルプ中の固体成分の質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)は、好ましくは0.3〜1.5、より好ましくは0.65〜1.30、更に好ましくは0.90〜1.30の範囲である。上記質量比率が0.3〜1.5の場合、得られるセルロースエーテルの透明性が高くなる場合がある。ここで、パルプの中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。
【0038】
なお、アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分は、例えばアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムの場合、以下に示す滴定法により求めることができる。
まず、ケーキ4.00gを採取し、中和滴定によりケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を求める(0.5mol/L H
2SO
4、指示薬:フェノールフタレイン)。同様の方法で空試験を行う。
アルカリ金属水酸化物質量%
=規定度係数×(H
2SO
4滴下量ml−空試験でのH
2SO
4滴下量ml)
得られたケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を用いて、次式に従いアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分を求める。
(アルカリ金属水酸化物の質量)/(パルプ中の固体成分の質量)
=(アルカリ金属水酸化物質量%)÷[{100−(アルカリ金属水酸化物質量%)/
(B/100)}×(S/100)]
ここで、Bは用いたアルカリ金属水酸化物溶液の濃度(質量%)であり、Sはパルプ中の固体成分の濃度(質量%)である。パルプ中の固体成分の濃度は、パルプ約2gを採取し105℃で2時間乾燥させた後の質量 が、採取した質量に占める割合を質量%で表したものである。
【0039】
本発明では、パルプの供給速度と、脱液後のアルカリセルロースの回収速度又はアルカリ金属水酸化物溶液の消費速度とを各々測定し、両者の質量比から現在のアルカリセルロースの組成を算出し、算出された組成が目標の値になるよう接触時間、連続式水平真空濾過器内のアルカリ金属水酸化物溶液の温度、圧搾圧等の脱液度合を調節することが可能である。また、その測定操作と計算、調節操作をオートメーション化することも可能である。
【0040】
アルカリセルロースの組成は、これを用いて得られるセルロースエーテルのエーテル化の程度、すなわち置換度によって決定することができる。
【0041】
上記の製造方法で得られたアルカリセルロースを原料として公知の方法でセルロースエーテルを製造する事ができる。
反応方法としては、バッチ式と連続式が考えられ、本発明のアルカリセルロースの製造
方法が連続式であることから連続反応方式が好ましいが、バッチ式でも問題はない。
バッチ式の場合は、脱液装置より排出されたアルカリセルロースをバッファータンクに貯蔵するか又は直接エーテル化反応容器に仕込んでも良いがエーテル化反応容器の占有時間を短くするためバッファータンクに貯蔵後、短時間で反応釜に仕込むほうが生産性は高い。バッファータンクは、重合度低下を抑制するため、真空又は窒素置換による酸素フリーの雰囲気が望ましい。
【0042】
得られたアルカリセルロースを出発原料として得られるセルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0043】
アルキルセルロースとしては、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2のメチルセルロース、エトキシ基(DS)が2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。なお、DSは、置換度(degree of substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数であり、MSは、置換モル数(molar substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシ基あるいはヒドロキシエトキシ基の平均モル数である。
【0044】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.05〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0045】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、メトキシ基 (DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース、エトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。
【0046】
また、カルボキシメトキシ基(DS)が0.2〜2.0のカルボキシメチルセルロー
スも挙げられる。
【0047】
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオ
キサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド、モノクロル酢酸等が挙げら
れる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示し、本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
[実施例1]
幅0.2m、長さ1.0mの水平ベルト型真空濾過器の一端に木材由来で10mm角、固体成分濃度93質量%のチップ状パルプを60kg/時の速度で投入した。濾過材は厚み1mmで、直径2mmの丸形で孔あき金属ベルトを用いた。ベルトの移動速度は0.025m/sとした。進行方向に対し0m、0.2m、0.4m、0.6m、0.8mの位置、幅方向の直線上には一端より2cm、6cm、10cm、14cm、18cmの各位置に散布ノズルを設け、40℃の49質量%水酸化ナトリウム水溶液を各ノズルあたり120L/時の速度で散布した。同時に濾過面よりケーキ層を通過した49質量%水酸化ナトリウム水溶液を吸引した。進行方向に対し0.2m、0.4mの位置に、高さ位置を調整できパルプとアルカリ金属水酸化物溶液接触物を両脇から中心に寄せ集める機能を有するスクリュー状のレベリング装置を設置した。このレベリング装置により、堆積高さは100mmに均された。 パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物はレベリング装置により混合された。
連続式水平真空濾過器の出口に40℃の49質量%水酸化ナトリウム水溶液2m
3/時を供給して接触物を流動化させ、脱液装置としてV型ディスクプレスにて、連続式水平真空濾過器から排出されるチップ状パルプと水酸化ナトリウム水溶液の混合物を連続的に脱液した。パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触物を排出した後の金属ベルトは、背面より40℃の49質量%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄された。得られたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率を滴定法により求めたところ、1.25だった。
このアルカリセルロース20kgを耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル11kg、プロピレンオキサイド2.7kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキル基(MS)が0.24、20℃における2質量%水溶液の粘度は、10,000mPa・sだった。2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、セル長20mm、波長720nmにおいて測定したところ、99.0%だった。
【0049】
[実施例2]
ベルトの移動速度を0.033m/秒とし、ブレード状のレベリング装置を設置し、連続式水平真空濾過器の出口に脱液装置として遠心効果600のスクリュー排出型遠心脱水機を設置する以外は、実施例1と同様に行った。
得られたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率を滴定法により求めたところ、1.00だった。
このアルカリセルロース17.2kgを耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9kg、プロピレンオキサイド1.4kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.80、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.14、20℃における2質量%水溶液の粘度は、9,800mPa・sだった。2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、波長720nmにおいて測定したところ、97.5%だった。
【0050】
[実施例3]
進行方向に対し0m、0.2m、0.4mの位置の散布ノズルからの散布を停止し、連続式水平真空濾過器の出口に脱液装置として0.2mmスリットスクリーンを備えた遠心効果600の押し出し板型遠心脱水機を設置する以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率を滴定法により求めたところ、0.70だった。
このアルカリセルロース18.8kgを耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9kg、プロピレンオキサイド2.5kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.45、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.20、20℃における2質量%水溶液の粘度は、9,800mPa・sだった。2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、波長720nmにおいて測定したところ、97.0%だった。
【0051】
[実施例4]
ベルトの移動速度を0.033m/秒とし、進行方向に対し0m、0.2m、0.4mの位置の散布ノズルからの散布を停止し、連続式水平真空濾過器の出口に脱液装置として0.2mmスリットスクリーンを備えた遠心効果600の押し出し板型遠心脱水機を設置する以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率を滴定法により求めたところ、0.50だった。
このアルカリセルロース18.8kgを耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9kg、プロピレンオキサイド2.5kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.35、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は、9,800mPa・sだった。2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、波長720nmにおいて測定したところ、96.0%だった。