特許第5737994号(P5737994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5737994微粉セルロースの回収を含むセルロースエーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737994
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】微粉セルロースの回収を含むセルロースエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 1/08 20060101AFI20150528BHJP
   C08B 11/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C08B1/08
   C08B11/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-34472(P2011-34472)
(22)【出願日】2011年2月21日
(65)【公開番号】特開2012-172038(P2012-172038A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】成田 光男
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−197682(JP,A)
【文献】 特開2007−197679(JP,A)
【文献】 特開2003−183301(JP,A)
【文献】 特開2003−171401(JP,A)
【文献】 特開2001−302701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物溶液とパルプとを接触させる工程と、得られた接触物を脱液装置で脱液する脱液工程と、脱水された接触物であるアルカリセルロースとエーテル化剤を反応させる工程とを少なくとも含み、脱液により得られたアルカリ金属水酸化物溶液をパルプとの接触に連続的に再利用するセルロースエーテルの製造方法であって、上記パルプとの接触に供される上記アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロース分を0.5質量%以下に調整する工程をさらに含み、上記調整工程が、上記アルカリ金属水酸化物溶液中の泡層を回収することを含むことを特徴とするセルロースエーテルの製造方法。
【請求項2】
上記泡層の回収が、上記泡層をオーバーフローさせて回収する方法、上記泡層を吸引ポンプにより吸引して回収する方法、上記泡層を羽根状の装置により掻き取り回収する方法、または上記泡層をヒシャク状の装置によりすくい取り回収する方法を用いる請求項1に記載のセルロースエーテルの製造方法
【請求項3】
上記アルカリ金属水酸化物溶液中の泡層が、上記アルカリ金属水酸化物溶液中に気体を吹き込むか、または上記アルカリ水溶液を撹拌することによって得られる請求項1または請求項2に記載のセルロースエーテルの製造方法。
【請求項4】
上記連続的に再利用することにともなう連続的運転が、50時間以上である請求項1〜3のいずれかに記載セルロースエーテルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリセルロース及びこれを用いたセルロースエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルの製造方法としては、高純度に精製されたパルプにアルカリ溶液を接触させてアルカリセルロースを調製し、エーテル化剤を用いてエーテル化反応することが知られている。得られた最終セルロースエーテルは、置換度を適当にコントロールすることにより水可溶性となるが、その中に水不溶部分が存在し、水溶液の透光度を下げたり、異物となってその商品価値を損ねる場合がある。
この未溶解部分は、水に溶解するのに十分な置換基を有さない低置換度部分が存在するため生じるものであり、アルカリセルロース中のアルカリ分布が不均一であることが原因の一つとして挙げられる。
【0003】
このアルカリの働きは、セルロースを膨潤させてパルプ中の結晶構造を変えてエーテル化剤の浸透を助けること、アルキレンオキシドのエーテル化反応を触媒すること、ハロゲン化アルキルの反応剤であること等が挙げられる。従って、パルプとアルカリ水溶液が接触しない部分は、反応にあずからないために未溶解分となり、アルカリセルロースの均一性はそのまま未溶解分の多寡につながる。
【0004】
均一なアルカリセルロースを効率よく製造する方法として、特許文献1が提案されている。すなわち、各種の接触装置内でパルプとアルカリ金属水酸化物溶液を連続的に接触させる工程と、得られた接触物を脱液する脱液工程とを含むアルカリセルロースの製造方法が提示されている。
これらの方法は通常、脱液により生じたアルカリ金属水酸化物溶液をパルプとの接触のために再利用すなわち循環させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−197682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、脱液により生じたアルカリ金属水酸化物溶液をパルプとの接触のために循環させる際の一般的な課題として、時としてパルプ中に含まれる微粉セルロース分が循環アルカリ金属水酸化物溶液中に蓄積される。そして、循環アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロースの濃度が上昇すると、脱液工程で濾過不良を引き起こす。濾過不良によって目的の組成のアルカリセルロースが得られず、そのため目的の置換度及び透光度を有するセルロースエーテルが得られない。循環アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロースを回収する方法としては、一般的には孔のない回転体を有する連続遠心分離機により回収する方法が考えられるが、その装置が高価であるばかりか、装置内部で微粉セルロース分が閉塞する等のトラブルが発生する場合があり、工業的に満足できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルカリ金属水酸化物溶液とパルプとを接触させる工程と、得られた接触物を脱液装置で脱液する脱液工程と、脱水された接触物であるアルカリセルロースとエーテル化剤を反応させる工程とを少なくとも含み、脱液により得られたアルカリ金属水酸化物溶液をパルプとの接触に連続的に再利用するセルロースエーテルの製造方法であって、上記パルプとの接触に供される上記アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロース分を0.5質量%以下に調整する工程をさらに含むことを特徴するセルロースエーテルの製造方法を提供する。
アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロース分の調整の好ましい具体例は、アルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロースが高濃度に含まれる泡層を回収することにより、アルカリ金属水酸化物溶液中から微粉セルロースを回収してアルカリ金属水酸化物溶液中の微粉セルロース分を調整する
【発明の効果】
【0008】
本発明により、微粉セルロースを含むアルカリ金属水酸化物溶液中から微粉セルロースを効率よく回収することができ、その結果としてアルカリセルロースの製造工程における脱液効果の低下を防ぎ、効率よくアルカリセルロースを製造することができる。また、脱液効果の低下によるアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率の上昇を抑えることにより、最終生成物であるセルロースエーテルの透光度の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アルカリセルロースの製造装置の例を示す。
図2】アルカリセルロースの製造装置の別の例を示す。
図3】泡層の回収方法の例を示す。
図4】泡層の回収方法の別の例を示す。
図5】バブリングによる起泡装置の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
パルプとしては、木材パルプ、コットンリンターパルプ等が挙げられる。木材の樹種は、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹及びユーカリ、カエデ等の広葉樹を用いることができる。
パルプは、シート状、粉末状又はチップ状の形態のものが好ましい。
粉末状パルプは、シート状パルプを粉砕して得られるもので、粉末の形態を示すものである。通常平均粒子径が10〜1,000μmのものが用いられるが、これらに限定されない。粉末状パルプの製造方法は限定されないが、ナイフミルやハンマーミル等の粉砕機を用いることができる。
チップ状パルプの製造方法は限定されないが、シート状パルプをスリッターカッターの他、既存の裁断装置を利用することにより得られる。使用する裁断装置は連続的に処理できるものがコスト上有利である。
チップの平面積は、好ましくは4〜10,000mm2、より好ましくは10〜2,500mm2である。4mm2より小さいと、チップ状のパルプの製造が困難な場合があり、逆に10,000mm2より大きいと、接触装置への投入、接触装置内部の送り、連続遠心分離機への投入等の取り扱いが困難になる場合がある。ここで、チップの平面積は、一片のチップ状パルプを六面体としてとらえた場合、六面のうち最も面積の大きい面の面積をいう。
これらのパルプのなかでは、成型操作の容易さと、遠心分離機の孔の目詰まりのしにくさから、チップ状の形態のパルプが最も好ましい。
【0011】
アルカリ金属水酸化物溶液としては、アルカリセルロースが得られれば特に限定されないが、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液、特に好ましくは経済的観点から水酸化ナトリウムである。アルカリ水酸化物を溶かす溶媒としては、水が通常用いられるが、低級アルコール(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)やその他の不活性溶媒を使用したり、これらを組み合わせてもよい。
また、アルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、好ましくは23〜60質量%、特に好ましくは35〜55質量%である。23質量%未満だと、次工程でセルロースエーテルを得る際に、エーテル化反応剤が水と副反応するため経済的に不利であり、かつ所望の置換度のセルロースエーテルを得ることができず、製造されるセルロースエーテルの水溶液の透明性が劣る場合がある。一方、60質量%を超えると、粘性が高くなるため取り扱いが困難な場合がある。なお、パルプとの接触に供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、アルカリセルロースの組成を安定させ、セルロースエーテルの透明性を確保するために、一定の濃度に保たれることが好ましい。
【0012】
パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させる装置は、バッチ式でも連続式でもよいが、パルプがアルカリ金属水酸化物溶液に完全に浸漬され、パルプがアルカリ金属水酸化物溶液に接触しはじめてから後工程の遠心分離機等の脱液装置で脱液されるまでの時間が調節可能であり、かつその時間の分布が小さいものが好ましい。生産性の観点から連続式がより好ましい。連続式の場合、時間の分布が小さい、すなわちピストン流れに近いものが好ましい。例として、パイプ型のもの、バケットコンベア型のもの、スクリューコンベア型のもの、ベルトコンベアー型のもの、ロータリーフィーダー型のもの等である。
必要に応じて接触混合物に適当な撹拌力又は剪断力を加える等して接触混合物をかゆ状
にしてもよい。
【0013】
単位時間当たりに用いるパルプ質量とアルカリ金属水酸化物溶液の体積の比は、好ましくは0.15kg/L以下、より好ましくは0.10kg/L以下、更に好ましくは0.05kg/L以下である。0.15kg/Lを超えると完全な浸漬が困難になるため、アルカリセルロース中のアルカリの分布が不均一となり製品の品質の低下をきたす場合がある。なお、パルプ質量とアルカリ溶液の体積の比の下限は、0.0001kg/Lが好ましく、これを満たさないと設備が過大となり、現実的ではない場合がある。
【0014】
パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させる装置は、アルカリ金属水酸化物溶液の温度又は接触時間を任意にコントロールできることが好ましい。なぜなら所望の組成のアルカリセルロースを得ようとするとき、アルカリセルロースの組成はパルプがアルカリ金属水酸化物溶液を吸収した量に依存し、その吸収量は接触時間およびアルカリ金属水酸化物溶液の温度を制御することにより調節できるからである。
【0015】
アルカリ金属水酸化物溶液の温度の調整方法は、公知の技術を用いることができるが、熱交換器を利用するのが好ましく、その熱交換器は接触装置の内部であっても外部であってもよい。アルカリ金属水酸化物溶液の温度は、特に限定されないが、好ましくは20〜80℃の範囲で調節される。接触装置は、連続的に処理できるものが好ましい。バッチ式に比べ装置本体を小さくする事ができるので、スペース面で有利だからである。
【0016】
接触時間の調整法として、好ましくは接触ゾーンの長さを変える他、スクリューコンベア式やロータリーフィーダー式の場合は回転数を変え、また配管式の場合は液の流速を変えることが挙げられる。接触時間は、好ましくは1秒〜15分間、より好ましくは2秒〜2分間の範囲である。1秒未満だと吸収量のコントロールがはなはだ困難な場合があり、15分を超えると装置が過大となり又は生産性が悪くなるばかりか、パルプのアルカリ吸収量が過大となり、いかなる脱液装置をもってしてもセルロースエーテルの製造に適した所望の組成のアルカリセルロースが得ることが難しくなる場合がある。
【0017】
供給したパルプがアルカリに全く触れずに通過するのは品質上避けねばならない。特にパルプはアルカリ金属水酸化物溶液に浮遊しやすいことに注意し、接触装置内では、完全にアルカリ金属水酸化溶液と接触できるようにパルプを通過させることが好ましい。
接触装置の中に、パルプ、アルカリ金属水酸化物溶液の順に投入するか又は接触装置に投入する前にパルプ、アルカリ金属水酸化物溶液を予混合しておく方法が好ましい。予混合する場合はパルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触がすでに行われているため、この接触時間を管理することが好ましい。
【0018】
また、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させる装置は、酸素存在下でのアルカリセルロースの重合度低下を防止するため、真空又は窒素置換ができるものがより好ましい。同時に酸素の存在下における重合度コントロールを目的とする場合は、酸素量を調整可能な構造を持つものが好ましい。
【0019】
脱液装置としては、遠心分離機、ろ過式固液分離装置等が挙げられるが、好ましくは遠心分離機である。
遠心分離機は、遠心力を利用して液と固形分を分離する分離機である。バッチ式でも連続式でも構わないが、生産性の観点から連続式が好ましい。連続遠心分離機には、デカンターのように孔のない回転体を有するものと、回転バスケットのように孔のある回転体を有するものがある。孔のない回転体を有するものは、遠心沈降操作に重点をおいた装置である。一方、孔のある回転体を有するものは沈降操作に加え遠心濾過、遠心脱水操作を利用する装置である。脱液の容易さから孔のある回転体を有する連続遠心分離機が好ましい。なぜなら、セルロースの真密度と苛性ソーダ水溶液の密度が比較的近接しており、遠心沈降操作だけに頼るよりも、遠心沈降操作に加えて遠心濾過、遠心脱水操作を利用した方が処理能力においてより有利だからである。孔のある回転体を有する連続遠心分離機の例としては、自動排出型遠心脱水機、スクリュー排出型遠心脱水機、振動排出型遠心脱水機、押し出し板型遠心脱水機が挙げられる。なお、脱水機による脱水は、所謂「水」だけではなく、液体一般を指す。
【0020】
これらの遠心脱水機うち、トラブルが少なく運転でき、工業的に特に好ましいのは、スクリュー排出型遠心脱水機と押し出し板型遠心脱水機である。孔のある回転体(例えば回転バスケット)の形状は、円錐型、円筒型、縦型タイプ、横型タイプいずれも使用可能である。孔のある回転体におけるスクリーンの孔の形状は、特に限定されないが、ワイヤーメッシュ、丸孔、三角孔、コニードル型、スリット型等が使用可能である。スクリーンの孔の目開きは、特に限定されないが、0.1〜10mmのものが好ましい。
【0021】
連続遠心分離機は、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液の接触時間、温度及び必要な脱液度に応じ回転数、すなわち遠心効果を調節することができる。なぜなら、遠心効果を調節することにより、パルプとの接触に繰り返し供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度を一定に保つことができ、透明性の高いセルロースエーテルを得られるからである。現在の運転条件に対して、接触時間を延長させるとき及び/又は接触温度を上昇させるときは、遠心効果を減少させることができる。接触時間を短縮させるとき及び/又は接触温度を低下させるときは、遠心効果を増加させることができる。アルカリ金属水酸化物溶液の濃度の変動率は±10%以内、特に±5%以内に抑えるのが好ましい。
【0022】
遠心効果は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。これより小さいと脱液が不十分になる場合がある。遠心効果の上限は特にないが、通常市販の遠心分離機として購入できる範囲内であり、例として5,000が挙げられる。なお、遠心効果が前述の範囲であれば、後述の回収されたアルカリ金属水酸化物溶液を再利用する場合のアルカリ金属水酸化物溶液の濃度を低く抑えることができる。
必要に応じ、脱液最中にケーキにアルカリ液を滴下、スプレーすることが可能である。
なお、遠心効果は、「社団法人化学工学協会編 新版化学工学事典」昭和49年5月30日発行に記載される通り、遠心力の大きさの程度を示す数値であり、遠心力と重力の比で与えられる。遠心効果Zは、下記式で表される。
Z=(ωr)/g=V/(gr)=πr/(900g)
上式中、rは回転体の回転半径(単位m)、ωは回転体の角速度(単位rad/秒)、Vは回転体の周速度(m/秒)、Nは回転体の回転数(rpm)、gは重力加速度(m/sec)を表す。
【0023】
脱液により回収されたアルカリ金属水酸化物溶液は、再利用可能である。再利用する場合、アルカリセルロースとして系外に持ち出されたアルカリ金属水酸化物溶液と同じ量のアルカリ金属水酸化物溶液を連続的に系内に供給するのが好ましい。この場合、脱液により回収されたアルカリ金属水酸化物溶液を一旦バッファータンクに受入れた後、このタンクから接触器に供給され、タンクレベルを一定に保つように新しいアルカリ金属水酸化物溶液を添加することができる。
なお、本発明では、脱液により回収されたアルカリ金属水酸化物溶液を再利用しながら連続的に運転を行う。ここで、「連続」とは、少なくともアルカリ水酸化物溶液中の微粉セルロース分の蓄積により、泡の除去なしではアルカリ水酸化物溶液中の微粉セルロース分が0.5質量%を超える場合であって、例えば50時間以上、好ましくは100時間以上の連続運転をいう。
【0024】
図1は、アルカリセルロースの製造装置の一例を示す。パルプ1とアルカリ金属水酸化物溶液2を接触させ接触物を得るための接触装置10と、得られた接触物をアルカリセルロース3とアルカリ金属水酸化物含有液体とに分離する遠心分離機20と、分離されたアルカリ金属水酸化物含有液体の一部又は全部を濃縮するための蒸発缶等の濃縮装置25と、遠心分離機20で分離され、かつ/又は濃縮装置25で濃縮されたアルカリ金属水酸化物含有液体をアルカリ金属水酸化物溶液と混合するためのタンク30とを備える。タンク30で得られる混合液は、泡4を除去されて接触装置10に送られ、パルプとの接触に再利用できる。図1では、遠心分離機で分離されたアルカリ金属水酸化物含有液体は、ポンプ21を用いて濃縮装置25に送られ、タンク30内のアルカリ金属水酸化物含有液体は、ポンプ31を用いて接触装置10に送られる。泡4は、タンク30に換えて、又はタンク30とともに濃縮装置25で除去してもよい。
【0025】
図1では濃縮装置25がタンク30の上流に配置されているが、図2に示すように、濃縮装置35をタンク30の下流に配置し、遠心分離機20で分離されたアルカリ金属水酸化物含有液体とアルカリ金属水酸化物溶液との混合液の一部又は全部を濃縮して再びタンク30に戻す態様もある。タンク30内のアルカリ金属水酸化物の濃度が所定の濃度より低くなった場合に、この態様はアルカリ金属水酸化物溶液を添加することなく、タンク30内の濃度を所定の濃度に戻すことができる。タンク30で得られる混合液は、泡4を除去されて接触装置10に送られ、パルプとの接触に再利用できる。泡4は、タンク30に換えて、又はタンク30とともに濃縮装置35で除去してもよい。
【0026】
脱液装置で得られたケーキ中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、上記パルプ中の固体成分の質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)は、好ましくは0.3〜1.5、より好ましくは0.65〜1.30、更に好ましくは0.90〜1.30の範囲である。上記質量比率が0.3〜1.5の場合、得られるセルロースエーテルの透明性が高くなる。ここで、パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。
【0027】
なお、アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分は、例えばアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムの場合、以下に示す滴定法により求めることができる。
まず、ケーキ4.00gを採取し、中和滴定によりケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を求める(0.5mol/L HSO、指示薬:フェノールフタレイン)。同様の方法で空試験を行う。
アルカリ金属水酸化物質量%
=規定度係数×(HSO滴下量ml−空試験でのHSO滴下量ml)
得られたケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を用いて、次式に従いアルカリ金属水
酸化物/パルプ中の固体成分を求める。
(アルカリ金属水酸化物の質量)/(パルプ中の固体成分の質量)
=(アルカリ金属水酸化物質量%)÷[{100−(アルカリ金属水酸化物質量%)/
(B/100)}×(S/100)]
ここで、Bは用いたアルカリ金属水酸化物溶液の濃度(質量%)であり、Sはパルプ中の固体成分の濃度(質量%)である。パルプ中の固体成分の濃度は、パルプ約2gを採取し105℃で2時間乾燥させた後の質量が、採取した質量に占める割合を質量%で表したものである。
【0028】
アルカリセルロースは、接触装置へのパルプの供給速度と、脱液後のアルカリセルロースの回収速度又はアルカリ金属水酸化物溶液の消費速度とを各々測定し、両者の質量比から現在のアルカリセルロースの組成を算出し、算出された組成が目標の値になるよう接触時間、接触装置のアルカリ金属水酸化物溶液の温度、脱液圧を調節することが可能である。また、その測定操作と計算、調節操作をオートメーション化することも可能である。
アルカリセルロースの組成は、これを用いて得られるセルロースエーテルのエーテル化の程度、すなわち置換モル数によって決定することができる。
【0029】
本発明でいう微粉セルロースを含むアルカリ金属水酸化物溶液は、限定されないが、通常パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させた後、適当な脱液装置にてアルカリセルロースと分離液に分離された後の分離液をいう。また、分離液に新しいアルカリ金属水酸化物溶液を追加したものもこれに含まれる。更に、分離液やアルカリ金属水酸化物溶液を追加した分離液を濃縮したものもこれに含まれる。
微粉セルロースは、パルプに由来する微粉状のセルロースであって、通常長さ50〜5000μmの繊維質である。微粉セルロースは、シート状パルプをチップ状に裁断したり粉末状にしたときに発生したり、シート状パルプ又はチップ状パルプの一部がほぐされて発生したものと考えられる。また、泡層をメスシリンダーを用いた密度測定、泡層に含まれる固形物を濾紙にて濾取し、顕微鏡観察等の手法を用いて分析すると、微粉セルロースと気体(泡が自然発生するときは空気)の存在が確認された。これは、アルカリ金属水酸化物溶液に溶解しない微粉セルロースの密度が、アルカリ金属水酸化物溶液の密度よりも低く、浮遊しやすいため、アルカリ金属水酸化物溶液に含まれた空気等とともに表面に集合したものと考えられる。
【0030】
本発明の泡層は、アルカリセルロースの製造の際に自然に発生するものの他、意図的に発生させたものでもよい。
微粉セルロースを含むアルカリ金属水酸化物溶液は、図1の例ではタンク30に保持される。タンク30に微粉セルロースを含むアルカリ金属水酸化物溶液及び/又は新鮮なアルカリ金属水酸化物溶液を連続的に供給し、かつ/又は連続的に排出することも可能である。
【0031】
アルカリセルロースの製造の際に自然に泡が発生する場合は、発生タンク内は液相の上部に泡層が形成される。タンク内から泡層を回収する方法としては、オーバーフローによる方法、吸引による方法、羽根状の装置により掻き取る方法、ヒシャク状の装置によりすくい取る方法等が挙げられる。オーバーフローによる方法は、例えば、図3に示すように、タンク30中の液相Lの上部の泡層Fに導管32を接続させ、導管32を通して泡4を回収する。吸引による方法は、例えば、図4に示すように、タンク30中の液相Lの上部の泡層Fに導管33を接続させ、吸引ポンプ34により吸引して泡4を回収する。この中でもっとも簡便で好ましいのがオーバーフローによる方法である。
【0032】
泡が自然に発生しない場合は、適当な方法で発泡を促すことができる。アルカリ金属水酸化物溶液中の泡層は、例えば、アルカリ金属水酸化物溶液中に気体を吹き込むか又はアルカリ水溶液を撹拌することによって得られる。
例えば、液相に気体を吹き込みバブリングを行う。吹き込む方法は、挿入管による方法、タンク底部または液相に接する壁面から気体を供給する方法等が可能である。吹き込む箇所は複数箇所であってもかまわない。吹き込む気体は、好ましくは、空気、不活性ガス、又はそれらの混合ガスを用いることができる。吹き込む気体の量は、液相1mに対し、好ましくは0.0001〜100m/分、より好ましくは0.001〜1m/分である。ガスの温度は、限定しないが、好ましくは0℃〜100℃である。
図5は、タンク30中の液相Lの上部の泡層Fに導管36を接続し、気体Gを液相Lに吹き込みバブリングを行なう、バブリングによる起気装置の例を示す。
また、液相を撹拌することも可能である。適当な攪拌機を用いたり、液を循環して戻り液をタンクの頂部から液面に向けて落下させることができる。攪拌機の回転速度は、好ましくは10〜20000rpmである。戻り液の量は、液相1mあたり好ましくは1〜50m/時である。
【0033】
微粉セルロースを回収した結果の液相中の微粉セルロース濃度は、低いほどよいが、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、特に好ましいは0.01〜0.1質量%である。
液相中の微粉セルロース濃度の測定方法は以下である。液相から液30gを採取し、純水500gで希釈後、濾紙(ADVANTEC No.2 直径80mm)で吸引濾過する。吸引しながら濾取物を純水500gを用いて洗浄する操作を3回行う。濾紙ごと105℃で2時間絶乾させた後、濾取物の重量を濾紙とともに測定する。予め測定してあった濾紙の絶乾重量を差し引いた重量の液採取量30gに対する百分率を微粉セルロース濃度(質量%)とした。
【0034】
回収された泡層は、廃棄するか、適当な濃縮装置を用いてアルカリセルロースを取り出すことができる。圧搾による方法、濾過による方法、デカンターによる方法が挙げられる。取り出したアルカリセルロースはセルロースエーテル等の原料として使用可能である。
泡層を回収後あるいは回収しながら液相をアルカリセルロースの製造に使用することができる。例えば、上述の方法で微粉セルロースを回収後又は回収しながら、アルカリ金属水酸化物溶液をパルプと連続的に接触させ、得られた接触物を脱液装置で脱液してアルカリセルロースを製造できる。
【0035】
上記の製造方法で得られたアルカリセルロースを原料として、公知の方法でエーテル化剤と反応させてセルロースエーテルを製造する事ができる。
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド、モノクロル酢酸等が挙げられる。
反応方法としては、バッチ式と連続式が挙げられ、バッチ式でも問題はないが、本発明のアルカリセルロースの製造方法を連続式で行なうときは連続反応方式が好ましい。
バッチ式の場合は、脱液装置より排出されたアルカリセルロースをバッファータンクに貯蔵するか又は直接エーテル化反応容器に仕込んでも良いが、エーテル化反応容器の占有時間を短くするためバッファータンクに貯蔵後、短時間で反応釜に仕込む方が生産性は高い。バッファータンクは、重合度低下を抑制するため、真空又は窒素置換による酸素フリーの雰囲気が望ましい。
【0036】
得られたアルカリセルロースを出発原料として得られるセルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
アルキルセルロースとしては、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2のメチルセルロース、エトキシ基(DS)が2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。なお、DSは、置換度(degree of substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基で置換された水酸基の平均個数であり、MSは、置換モル数(molar substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシ基あるいはヒドロキシエトキシ基の平均モル数である。
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.05〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、メトキシ基 (DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース、エトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。
また、カルボキシメトキシ基(DS)が0.2〜2.0のカルボキシメチルセルロースも挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
[実施例1]
内径38mm、長さ10mのパイプを設置した。パイプの入り口にホッパー付きスネークポンプ(ヘイシンNVL40PL型)を接続し、スネークポンプのホッパーに円筒型タンクより40℃の44質量%水酸化ナトリウム水溶液を900L/時の速度で供給した。同時に木材由来で4mm角、固体成分濃度93質量%のチップ状パルプを50kg/時の速度で投入した。パイプ出口は、スクリュー排出型連続式回転バスケットに接続されており、パイプから排出されるチップ状パルプと苛性ソーダ液の混合物を遠心効果1,150にて連続的に脱液した。得られたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率を滴定法により求めたところ、1.25だった。
脱液処理で得られた液分は、円筒型タンクにタンク内の液相に挿入された管を介して返送し、タンクが一定レベル(50L)を維持するように49質量%水酸化ナトリウム水溶液を連続に添加した。タンク内に自然に泡層が発生したため、タンクレベル100Lの位置にオーバーフロー口を設け、泡層をオーバーフローさせた。100時間運転後のタンク液相部の微粉セルロース濃度は0.5質量%だった。
100時間運転後に得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル11kg、プロピレンオキサイド2.7kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたセルロースエーテルの置換度、2質量%水溶液の20℃における粘度及び透光度を表1に示す。なお、2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC-50型、セル長20mm、波長720nmにおいて測定した。
【0038】
[実施例2]
タンク液相部に0.15L/分の速度で窒素ガスをバブリングする以外は、実施例1と同様に行った。100時間運転後のタンク液相部の微粉セルロース濃度は0.10質量%だった。得られたアルカリセルロースのアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率が1.25だった。
100時間運転後に得られたアルカリセルロースを原料として実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た結果を表1に示す。
【0039】
[実施例3]
500L/時の速度でタンク底部の液を抜き出し、タンク上部より脱液処理で得られた液分を落下させる以外は、実施例1と同様に行った。100時間運転後のタンク液相部の微粉セルロース濃度は0.10質量%だった。得られたアルカリセルロースのアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率が1.25だった。
100時間運転後に得られたアルカリセルロースを原料として実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た結果を表1に示す。
【0040】
[実施例4]
タンク液相部に0.15L/分の速度で窒素ガスをバブリングし、500L/時の速度でタンク底部の液を抜き出し、タンク上部より脱液処理で得られた液を落下させる以外は、実施例1と同様に行った。100時間運転後のタンク液相部の微粉セルロース濃度は0.01質量%だった。得られたアルカリセルロースのアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率が1.25だった。
100時間運転後に得られたアルカリセルロースを原料として実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
オーバーフロー口を設けずに実施例1の操作を行った。100時間運転後のタンク液相部の微粉セルロース濃度は0.60質量%だった。微粉セルロース濃度が0.5質量%を超えたため脱液効果が低下し、得られたアルカリセルロースのアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率が1.60に上昇した。
100時間運転後に得られたアルカリセルロースを原料として実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1〜4では、微粉セルロース濃度が低く抑えられたため、脱液効果の低下によるアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率の上昇、それによって引き起こされるセルロースエーテルの透光度の低下等の脱液工程でのトラブルは認められなかった。
一方、比較例では微粉セルロース濃度が高いため脱液効果が低下し、アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率が過大なものしか得られなかった。その結果、セルロースエーテルの透光度が低下した。
【符号の説明】
【0044】
1 パルプ
2 アルカリ金属水酸化物溶液
3 アルカリセルロース
4 泡
10 接触装置
20 遠心分離機
25,35 濃縮装置
30 苛性ソーダタンク
21,31,34 ポンプ
32,33,36 導管
F 泡層
L 液相
G ガス
図1
図2
図3
図4
図5