特許第5738486号(P5738486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738486ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738486
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/06 20060101AFI20150604BHJP
   C07C 21/20 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 22/08 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 67/30 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 69/76 20060101ALI20150604BHJP
   C07C 17/26 20060101ALI20150604BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20150604BHJP
   C07D 333/54 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C07F3/06
   C07C21/20
   C07C22/08
   C07C41/30
   C07C43/225 A
   C07C67/30
   C07C69/76 A
   C07C17/26
   C07D215/12
   C07D333/54
【請求項の数】18
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-515632(P2014-515632)
(86)(22)【出願日】2013年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2013063407
(87)【国際公開番号】WO2013172337
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2014年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-110892(P2012-110892)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-273662(P2012-273662)
(32)【優先日】2012年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生越 専介
(72)【発明者】
【氏名】大橋 理人
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】足達 健二
(72)【発明者】
【氏名】柴沼 俊
【審査官】 爾見 武志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−128921(JP,A)
【文献】 特開平10−279551(JP,A)
【文献】 国際公開第03/051801(WO,A2)
【文献】 特表2008−510832(JP,A)
【文献】 特開2012−67067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 3/06
C07C 17/00 − 409/44
C07D 201/00 − 521/00
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか、
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成してもよく、
X’は、ハロゲンを表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法であって、
式(2):
【化2】
[式中、X’’は、フッ素又は塩素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される含フッ素オレフィンを、
マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下で、式:ZnX’(式中の記号は前記と同意義を表す)で表されるハロゲン化亜鉛と反応させる工程を含む製造方法。
【請求項2】
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、テトラフルオロエチレンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、クロロトリフルオロエチレンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、環状のパーフルオロオレフィンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属が活性化されたマグネシウムである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程は、非プロトン性極性溶媒中で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非プロトン性極性溶媒は、ラクタム化合物、ジアルキルスルホキシド、テトラアルキル尿素、及びヘキサアルキルリン酸トリアミドから選択される1種以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記非プロトン性極性溶媒は、テトラアルキル尿素である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程における前記ハロゲン化亜鉛/マグネシウムのモル比が0.1〜5の範囲内である請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程における前記式(2)で表される含フッ素オレフィン/マグネシウムのモル比が0.01〜100の範囲内である請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程における前記式(2)で表される含フッ素オレフィン/前記ハロゲン化亜鉛のモル比が0.01〜100の範囲内である請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程の反応温度が20〜70℃の範囲内である請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
式(3):
【化3】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか、
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成してもよく、
Rは、有機基を表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表される化合物の製造方法であって、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛を、式:R−X(式中、Xはハロゲンを表し;及びその他の記号は前記と同意義を表す。)で表される化合物と反応させる工程を含む製造方法。
【請求項14】
前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記遷移金属錯体の遷移金属が、パラジウム、又はニッケルである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ヘキサフルオロブタジエンの製造方法であって、請求項2又は3に記載の方法で得られるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛、又はその中間生成物活性種を、テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンと反応させる工程を含む製造方法。
【請求項17】
前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記遷移金属錯体の遷移金属がパラジウム、又はニッケルである、請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロビニル基を有するフッ素化合物は、燃料電池用イオン交換膜、自動車用又は航空機用などのシール材又は燃料ホース、光ファイバーなどの光学電子部品、塗料用又は防汚用途などのコーティング材などの様々な用途に用いられる含フッ素高分子の原料モノマーとして、酵素阻害作用を有する農薬として有用である。
ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛(ハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛)は、このようなトリフルオロビニル基を有するフッ素化合物の合成反応に用いることができることが知られている(例えば、特許文献1〜2及び非特許文献1〜24参照)。そこで、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法が研究されてきており、例えば、以下の方法が報告されている。
【0003】
非特許文献1には、CF=CF−Clとn−ブチルリチウムとを低温下に反応させて、一旦トリフルオロビニルリチウムを調製した後に、これと塩化亜鉛とから塩化トリフルオロビニル亜鉛を得る方法が記載されている。この方法では原料のCF=CF−Clのコストに問題があることに加えて、中間体であるトリフルオロビニルリチウムが不安定なので、−100℃程度の低温下で反応を実施しなければならないという問題が有る。
非特許文献2には、CF=CFBrと亜鉛から直に臭化トリフルオロビニル亜鉛を合成する方法が記載されている。しかしながらこの方法は、CF=CFBrの入手とコストに大きな問題がある。
【0004】
一方、非特許文献19には、HFC134a(CFCFH)にリチウムジイソプロピルアミド(LDA)等の有機リチウムを反応させ、脱離反応によりトリフルオロビニルリチウムを発生させ、さらに亜鉛と金属交換を行ってハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を得ている。
【0005】
しかし、この方法では、高価なアルキルリチウムを過剰量用いるだけでなく、中間に生成する含フッ素ビニルリチウムの不安定性から、反応温度のコントロールが困難である。
一方で、トリフルオロビニル化合物以外の含フッ素アルケン類もトリフルオロビニル化合物と同様に種々の機能が期待できるが、これらはトリフルオロビニル化合物以上に、原料および合成法の選択肢が限られており、その合成法はこれまでにほとんど検討されておらず、以下の例が挙げられる程度である。従って、より簡便で効率の良い合成法が必要である。
1)1,1−ジフルオロエチレン、1,2−ジフルオロアルケンからアルキルリチウムにより脱水素して含フッ素アルケニルリチウムを発生させ、次いでアルケニル亜鉛試薬へと変換した後、根岸カップリング反応を行なう合成法(非特許文献17)。
2)パーフルオロ(シクロ)アルケニルブロミド、又はヨージドと活性化亜鉛より、パーフルオロアルケニル亜鉛試薬を調製し、これをカップリング反応に用いる合成法(非特許文献1、非特許文献24)。
3)パーフルオロアルカンから2当量のアルキルリチウムを用いて、パーフルオロアルケニルリチウムを発生させた後、亜鉛試薬、又はホウ素試薬に変換して、これをカップリング反応に用いる合成法(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/051801号パンフレット
【特許文献2】特表2008−510832号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Sauvetreら, Synthesis, 1986年, 7巻, 538頁
【非特許文献2】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2003年, 121巻, 75頁
【非特許文献3】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 1986年, 31巻, 115頁
【非特許文献4】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2004年, 125巻, 673頁
【非特許文献5】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2006年, 127巻, 456頁
【非特許文献6】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 1988年, 53巻, 2714頁
【非特許文献7】Zhen-Yu Yang, J. Fluorine Chem., 2001年, 111巻, 247頁
【非特許文献8】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 1987年, 35巻, 415頁
【非特許文献9】Lee G. Spragueら, J. Fluorine Chem., 1991年, 52巻, 301頁
【非特許文献10】Henryk Koroniakら, J. Fluorine Chem., 1995年, 71巻, 135頁
【非特許文献11】Xi-Kui Jiangら, J. Fluorine Chem., 1996年, 79巻, 173頁
【非特許文献12】Itsumaro Kumadakiら, J. Fluorine Chem., 2000年, 103巻, 99頁
【非特許文献13】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2009年, 130巻, 254頁
【非特許文献14】William R. Dolbier, Jr.ら, J. Org. Chem., 1993年, 58巻, 7064頁
【非特許文献15】Raymond Sauvetreら, Journal of Organomet. Chem., 1987年, 331巻, 281頁
【非特許文献16】J-F. Normantら, J. Organomet. Chem., 1989年, 367巻, 1頁
【非特許文献17】Raymond Sauvetreら, Tetrahedron Letteres, 1985年, 26巻, 33号, 3999頁
【非特許文献18】Donald J. Burtonら, Tetrahedron Letteres, 2002年, 43巻, 2731頁
【非特許文献19】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 2004年, 69巻, 7083頁
【非特許文献20】Dieter Lentzら, Chem. Asian J., 2008年, 3巻, 719頁
【非特許文献21】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 1997年, 62巻, 1064頁
【非特許文献22】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2008年, 129巻, 435頁
【非特許文献23】David Ganiら, Tetrahedron Letteres, 2000年, 41巻, 4493頁
【非特許文献24】S-K. Choiら、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1991年, 1601頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物、特にハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法はいまだ知られていない。
【0009】
従って、本発明は、ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物、特にハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を、低コスト、且つ簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
この問題に対して、もし、フッ素樹脂用汎用モノマーであるテトラフルオロエチレン(TFE)、又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)等の含フッ素オレフィンをハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛の原料として使用することができれば、原料入手の面から好ましい。しかしながら、炭素−フッ素結合、及び炭素−塩素結合は、他の炭素−ハロゲン結合に比較して不活性であるため、これまでにこの結合を別の基に置換できた例は非常に限られており、TFE、又はCTFEを原料としたハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛の合成例は知られていない。また、ヘキサフルオロプロペンのようなパーフルオロアルケンからのパーフルオロアルケニル亜鉛の簡便な合成法も知られていない。
また、パーフルオロシクロアルケンからのパーフルオロシクロアルケニル亜鉛の簡便な合成法も知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、
式(1):
【化1】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか、
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成していてもよく、
X’は、ハロゲンを表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法であって、
式(2):
【化2】
[式中、X’’は、フッ素又は塩素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される含フッ素オレフィンを、
マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下で、式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛と反応させる工程を含む製造方法
によって前記課題を解決できることを見出し、本発明を解決するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様等を提供するものである。
【0011】
項1.
式(1):
【化3】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか、
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成してもよく、
X’は、ハロゲンを表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法であって、
式(2):
【化4】
[式中、X’’は、フッ素又は塩素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される含フッ素オレフィンを、
マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下で、式:ZnX’(式中の記号は前記と同意義を表す)で表されるハロゲン化亜鉛と反応させる工程を含む製造方法。
項2.
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、テトラフルオロエチレンである項1に記載の製造方法。
項3.
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、クロロトリフルオロエチレンである項1に記載の製造方法。
項4.
前記式(1)で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物であり、及び
前記式(2)で表される含フッ素オレフィンが、環状のパーフルオロオレフィンである請求項1に記載の製造方法。
項5.
前記金属が活性化されたマグネシウムである項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
項6.
前記工程は、非プロトン性極性溶媒中で行われる項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
項7.
前記非プロトン性極性溶媒は、ラクタム化合物、ジアルキルスルホキシド、テトラアルキル尿素、及びヘキサアルキルリン酸トリアミドから選択される1種以上である項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
項8.
前記非プロトン性極性溶媒は、テトラアルキル尿素である項7に記載の製造方法。
項9.
前記工程における前記ハロゲン化亜鉛/マグネシウムのモル比が0.1〜5の範囲内である項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
項10.
前記工程における前記式(2)で表される含フッ素オレフィン/マグネシウムのモル比が0.01〜100の範囲内である項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
項11.
前記工程における前記式(2)で表される含フッ素オレフィン/前記ハロゲン化亜鉛のモル比が0.01〜100の範囲内である項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
項12.
前記工程の反応温度が20〜70℃の範囲内である項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
項13.
式(3):
【化5】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか、
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成してもよく、
Rは、有機基を表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表される化合物の製造方法であって、
項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛を、式:R−X(式中、Xはハロゲンを表し;及びその他の記号は前記と同意義を表す。)で表される化合物と反応させる工程を含む製造方法。
項14.
前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、項13に記載の方法。
項15.
前記遷移金属錯体の遷移金属が、パラジウム、又はニッケルである、項14に記載の方法。
項16.
ヘキサフルオロブタジエンの製造方法であって、項2又は3に記載の方法で得られるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛、又はその中間生成物活性種を、テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンと反応させる工程を含む製造方法。
項17.
前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、項16に記載の製造方法。
項18.
前記遷移金属錯体の遷移金属がパラジウム、又はニッケルである、項17に記載の製造方法。
【0012】
項1’.ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛の製造方法であって、
テトラフルオロエチレンを、マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下でハロゲン化亜鉛と反応させる工程を含む方法。
項2’.前記金属が活性化されたマグネシウムである項1’に記載の製造方法。
項3’.前記工程は、非プロトン性極性溶媒中で行われる項1又は2に記載の製造方法。
項4’.前記非プロトン性極性溶媒は、ラクタム化合物、ジアルキルスルホキシド、テトラアルキル尿素、及びヘキサアルキルリン酸トリアミドから選択される1種以上である項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5’.前記非プロトン性極性溶媒は、テトラアルキル尿素である項4’に記載の製造方法。
項6’.前記工程における塩化亜鉛/マグネシウムのモル比が0.1〜5の範囲内である項1’〜5’のいずれか1項に記載の製造方法。
項7’.前記工程におけるテトラフルオロエチレン/マグネシウムのモル比が0.01〜100の範囲内である項1’〜6’のいずれか1項に記載の製造方法。
項8’.前記工程におけるテトラフルオロエチレン/塩化亜鉛のモル比が0.01〜100の範囲内である項1’〜7’のいずれか1項に記載の製造方法。
項9’.前記工程の反応温度が20〜70℃の範囲内である項1’〜8’のいずれか1項に記載の製造方法。
項10’.式:CF=CFRで表される化合物(式中、Rは有機基を表す。)の製造方法であって、
項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を、式:R−X(式中、Xはハロゲンを表し;及びその他の記号は前記と同意義を表す。)で表される化合物と反応させる工程を含む製造方法。
項11’.前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、項10’に記載の方法。
項12’.前記遷移金属錯体の遷移金属が、パラジウム、又はニッケルである、項11’に記載の方法。
項13’.ヘキサフルオロブタジエンの製造方法であって、項1’〜9’のいずれか1項に記載の方法で得られるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛、又はその中間生成物活性種を、テトラフルオロエチレンと反応させる工程を含む製造方法。
項14’.前記反応が遷移金属錯体触媒の存在下で行われる、項13’に記載の製造方法。
項15’.前記遷移金属錯体の遷移金属がパラジウム、又はニッケルである、項14’に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物、特にハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を、低コスト、且つ簡便に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.用語
本明細書中、「ハロゲン」としては、特に記載の無い限り、例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
本明細書中、化合物、基又は部分(moiety)の名称における接頭語「パーフルオロ」は、通常の意味に用いられ、前記化合物、基又は部分における炭素原子に結合している水素原子の全てがフッ素原子に置換されていることを意味する。
本明細書中、用語「(シクロ)アルケニル」は、アルケニル及び/又はシクロアルケニルを意味する。
本明細書中、「オレフィン」は、非環状又は環状のオレフィンを意味する。
本明細書中、「アルキル基」としては、特に記載の無い限り、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−メチルペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル等の低級(特にC1−6)アルキル基が挙げられる。
【0015】
本明細書中、「アルケニル基」としては、特に記載の無い限り、例えば、ビニル、1−プロペニル、イソプロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−エチル−1−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、4−メチル−3−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル等の低級(特にC2−6)アルケニル基が挙げられる。
【0016】
本明細書中、「アルキニル基」としては、特に記載の無い限り、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル等の低級(特にC2−6)アルキニル基が挙げられる。
【0017】
本明細書中、「アリール基」としては、特に記載の無い限り、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル等の、単環式、二環式又は三環式のアリール基が挙げられる。
本明細書中、「ヘテロアリール基」としては、特に記載の無い限り、例えば、フリル、ピロリル、チオフェニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、インドリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾジアジニル(例、シンノリニル、キナゾリニル)、ピリジニル、ピリミジニル、トリアジニル、キノリニル等の、単環式、二環式又は三環式のヘテロアリール基が挙げられる。
【0018】
2.ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛の製造方法
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法は、式(1):
【化6】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表すか
或いは、AとA又はAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成してもよく、
X’は、ハロゲンを表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物(以下、式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物と称する場合がある)の製造方法であって、
式(2):
【化7】
[式中、X’’は、フッ素又は塩素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される含フッ素オレフィン(以下、式(2)の含フッ素オレフィンと称する場合がある)を、
マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下で、式:ZnX’(式中の記号は前記と同意義を表す)で表されるハロゲン化亜鉛(本明細書中、単に前記ハロゲン化亜鉛と称する場合がある)と反応させる工程(工程1)を含むことを特徴とする。
【0019】
本明細書中、波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。すなわち、例えば、式(1)は、当業者にとって自明である通り、
式:
【化8】
及び/又は、式:
【化9】
であることができる。
【0020】
式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物には、
式(1−a)
【化10】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
X’は、ハロゲンを表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素アルケニル亜鉛化合物、
式(1−b)
【化11】
[式中、
は、フッ素又は水素を表し、
X’は、ハロゲンを表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物、及び
式(1−c)
【化12】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
X’は、ハロゲンを表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物
が包含される。
当該式(1−b)で表されるハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物は、式(1)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
当該式(1−c)で表されるハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物は、式(1)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
【0021】
本発明において、Aは、好ましくは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基又はフッ素である。
【0022】
本発明において、各式中の部分構造式:
【化13】
[式中の記号は前記と同意義を表す。]で表される環は、好ましくは当該式中のnが1〜5である環であり、特に好ましくは、例えば、パーフルオロシクロペンテンである。
【0023】
式(2)の含フッ素オレフィンには、
式(2−a):
【化14】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
X’’は、フッ素又は塩素を表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表される含フッ素オレフィン、
式(2−b):
【化15】
[式中、
は、フッ素又は水素を表し、
X’’は、フッ素又は塩素を表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される含フッ素オレフィン、及び
式(2−c):
【化16】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
X’’は、フッ素又は塩素を表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される含フッ素オレフィン
が包含される。
当該式(2−b)で表される含フッ素オレフィンは、式(2)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
当該式(2−c)で表される含フッ素オレフィンは、式(2)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
【0024】
(態様1A)
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法の好適な一態様(態様1A)においては、
前記式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)の含フッ素オレフィンが、テトラフルオロエチレンである。
【0025】
本発明の当該態様の製造方法は、すなわち、ハロゲン化含フッ素アルケニル亜鉛、なかでも特にハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛の製造方法であって、
テトラフルオロエチレンを、マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下でハロゲン化亜鉛と反応させる工程(工程1A)を含むことを特徴とする。
【0026】
(態様1B)
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法の別の好適な一態様(態様1B)においては、
前記式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛であり、及び
前記式(2)の含フッ素オレフィンが、クロロトリフルオロエチレンである。
【0027】
本発明の当該態様の製造方法は、すなわち、ハロゲン化含フッ素アルケニル亜鉛、なかでも特にハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛の製造方法であって、
クロロトリフルオロエチレンを、マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下でハロゲン化亜鉛と反応させる工程(工程1B)を含むことを特徴とする。
【0028】
(態様1C)
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法の更に別の好適な一態様(態様1C)においては、
前記式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物が、ハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛化合物であり、及び
前記式(2)の含フッ素オレフィンが、前記式(2−b)においてX’’がフッ素である含フッ素オレフィン(すなわち、環状のパーフルオロオレフィン)である。
【0029】
本発明の当該態様の製造方法は、すなわち、ハロゲン化含フッ素シクロアルケニル亜鉛の製造方法であって、
環状のパーフルオロオレフィンを、マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属の存在下でハロゲン化亜鉛と反応させる工程(工程1C)を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の製造方法の目的物であるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物は、好ましくはハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛である。ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛は、式:CF=CF−Zn−X(式中、Xは、ハロゲンを表す。)で表される。Xで表されるハロゲンは、好ましくは塩素、臭素又はヨウ素である。
【0031】
工程1
工程1は、具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属及び前記式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛を含有する液体(本明細書中、便宜上、このような液体を溶液(例えば、前記溶媒がDMIである場合、DMI溶液)と称する場合がある。)へ、前記式(2)の含フッ素オレフィンを添加すること、より具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属を懸濁させて得られる懸濁液に、前記式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛、及び前記式(2)の含フッ素オレフィンを添加することによって実施される。
X’で表されるハロゲンは、好ましくは、塩素、臭素又はヨウ素、特に好ましくは塩素である。
【0032】
本発明で使用される、前記式(2)の含フッ素オレフィンは、公知の化合物であり、公知の方法で製造可能であるか、商業的に入手可能である。
【0033】
工程1で用いられる式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛は、好ましくは、塩化亜鉛である。
【0034】
工程1で用いられる「マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属」におけるマグネシウム合金としては、例えば、Mg−Al−Zn合金、Mg−Li−Al合金、Mg−Zn−Zr合金などが挙げられる。
【0035】
工程1で用いられる「マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属」は、好ましくは、活性化されたマグネシウムである。
【0036】
マグネシウムの活性化方法は、特に限定されず、例えば、(1)金属マグネシウムを機械的に破砕し、粉末状(powders)、又は削り状(turnings)の金属マグネシウムにする方法、(2)溶媒に懸濁させた金属マグネシウムを加熱攪拌する方法、(3)金属マグネシウムを、活性化剤(例、ヨウ素、ヨウ化メチル、又は1,2−ジブロモエタン等のアルキルハライド化合物)によって活性化する方法、(4)超音波処理、及び(5)マグネシウム塩を還元して活性化された金属マグネシウムを調製する方法等が挙げられる。これらの活性化方法は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、活性化されたマグネシウムは、商業的にも入手可能である。
当該「活性化されたマグネシウム」は、好ましくは、金属マグネシウムを機械的に破砕し、粉末状、又は削り状の金属マグネシウムにする方法によって活性化されたマグネシウムである。
【0037】
工程1の反応は、好ましくは、非プロトン性極性溶媒中で行われる。
当該「非プロトン性極性溶媒」としては、例えば、
N−メチルピロリドン等のラクタム化合物;
ジメチルスルホキシド(DMSO)等のジアルキルスルホキシド;
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルプロピレン尿素(DMU)、及びテトラメチル尿素(TMU)等のテトラアルキル尿素;並びに
ヘキサメチルリン酸アミド(HMPA)等のヘキサアルキルリン酸トリアミド
等が挙げられる。
なかでも、好ましくは、テトラアルキル尿素であり、より好ましくは、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである。
当該「非プロトン性極性溶媒」は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
工程1における前記ハロゲン化亜鉛(特に、塩化亜鉛)/マグネシウムのモル比は、好ましくは、0.1〜5、より好ましくは、0.5〜2の範囲内である。ここでの「マグネシウム」は「マグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属」中のマグネシウムであることを注記する。
【0039】
前記式(2)の含フッ素オレフィンは、その形態に応じた方法で、反応器中に添加される。
【0040】
工程1における、前記式(2)の含フッ素オレフィン/マグネシウムのモル比は、好ましくは、0.01〜100、より好ましくは、0.5〜20、更に好ましくは、3〜7の範囲内である。
【0041】
工程1における、前記式(2)の含フッ素オレフィン/前記ハロゲン化亜鉛(特に、塩化亜鉛)のモル比は、好ましくは、0.01〜100、より好ましくは、0.1〜10、更に好ましくは、1〜5の範囲内である。
【0042】
工程1の反応の反応温度は、好ましくは、0〜100℃、より好ましくは、20〜60℃の範囲内である。
【0043】
工程1の反応の反応時間は、通常、6〜48時間、好ましくは、12〜36時間の範囲内である。
【0044】
工程1の反応は、好ましくは、アルゴン、又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0045】
工程1によって得られるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物は、溶媒抽出等の公知の精製方法によって単離精製され得るが、単離精製せずに、すなわち、そのまま工程1の反応生成混合物の形態で、後記で説明するトリフルオロビニル基などの含フッ素(シクロ)アルケニル基を有するフッ素化合物の製造等の原料として用いることもできる。工程1によって得られるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛は、特に好ましくは、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛である。
【0046】
(工程1A)
態様1Aにおける工程1Aは、具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属及び前記式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛を含有する液体へ、テトラフルオロエチレンを導入すること、より具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属を懸濁させて得られる懸濁液に、ハロゲン化亜鉛を添加し、及びテトラフルオロエチレンを導入することによって実施される。
【0047】
本発明で使用されるテトラフルオロエチレンは、公知の化合物であり、公知の方法で製造可能であるか、商業的に入手可能である。
【0048】
その他の当該反応に用いられる化合物及び反応条件等は、いずれも前記工程1で説明した通りである。
【0049】
(工程1B)
態様1Bにおける工程1Bは、具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属及び前記式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛を含有する液体へ、クロロトリフルオロエチレンを導入すること、より具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属を懸濁させて得られる懸濁液に、ハロゲン化亜鉛を添加し、及びクロロトリフルオロエチレンを導入することによって実施される。
【0050】
本発明で使用されるクロロトリフルオロエチレンは、公知の化合物であり、公知の方法で製造可能であるか、商業的に入手可能である。
【0051】
その他の当該反応に用いられる化合物及び反応条件等は、いずれも前記工程1で説明した通りである。
【0052】
(工程1C)
態様1Cにおける工程1Cは、具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属及び前記式:ZnX’で表されるハロゲン化亜鉛を含有する液体へ、環状のパーフルオロオレフィンを添加すること、より具体的には、例えば、溶媒中にマグネシウム及びその合金から選択される1種以上の金属を懸濁させて得られる懸濁液に、ハロゲン化亜鉛を添加し、及び更に環状のパーフルオロオレフィンを添加することによって実施される。
【0053】
本発明で使用される環状のパーフルオロオレフィン(例、パーフルオロシクロペンテン)は、公知の化合物であり、公知の方法で製造可能であるか、商業的に入手可能である。
【0054】
その他の当該反応に用いられる化合物及び反応条件等は、いずれも前記工程1で説明した通りである。
【0055】
3.含フッ素(シクロ)アルケニル基を有するフッ素化合物の製造方法
本発明の、含フッ素(シクロ)アルケニル基を有するフッ素化合物の製造方法は、式(3):
【化17】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
Rは、有機基を表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表される化合物(以下、式(3)の化合物と称する場合がある。)の製造方法であって、前記で説明した本発明の製造方法によって製造される前記式(1):
【化18】
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表されるハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物を、式:R−X(式中、Xはハロゲンを表し;及びその他の記号は前記と同意義を表す。)で表される化合物と反応させる工程(工程2)を含むことを特徴とする。
式(3)で表される化合物には、
式(3−a):
【化19】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
は、フッ素又は水素を表し、
Rは、有機基を表し、
波線で示される単結合は、それが結合している二重結合についての立体配置が、E配置若しくはZ配置又はそれらの任意の割合の混合物であることを表す。]
で表される含フッ素オレフィン、及び
式(3−b):
【化20】
[式中、
は、フッ素又は水素を表し、
Rは、有機基を表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される含フッ素オレフィン、及び
【化21】
[式中、
は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又はフッ素を表し、
Rは、有機基を表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される含フッ素オレフィン
が包含される。
当該式(3−b)で表される含フッ素オレフィンは、式(3)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
当該式(3−c)で表される含フッ素オレフィンは、式(3)においてAとAとが一緒になって、炭素数1〜12のパーフルオロアルキレン鎖を形成している含フッ素オレフィンである。
【0056】
(態様2A)
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法の好適な一態様(態様2A)においては、前記式(3)の化合物が式:CF=CFR(式中、Rは有機基を表す。)で表される化合物であり、前記式(1)の化合物が式:CF=CF-ZnX’(式中、X’は、ハロゲンを表す。)で表される化合物である。
X’で表されるハロゲンは、好ましくは、塩素、臭素又はヨウ素、特に好ましくは塩素である。
本発明の当該態様の製造方法は、すなわち、式:CF=CFRで表される化合物(式中、Rは有機基を表す。)の製造方法であって、前記で説明した本発明の製造方法(特に、態様1A又は態様1B)で製造されるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛を、前記式:R−Xの化合物と反応させる工程(工程2A)を含むことを特徴とする。
【0057】
(態様2B)
本発明のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の製造方法の好適な一態様(態様2B)においては、前記式(3)の化合物が式:
【化22】
[式中、
Rは、有機基を表し、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される化合物であり、前記式(1)の化合物が式:
【化23】
[式中、
nは、1〜12の整数を表す。]
で表される化合物である。
X’で表されるハロゲンは、好ましくは、塩素、臭素又はヨウ素、特に好ましくは塩素である。
【0058】
本明細書中、当該式(3)の化合物を、「含フッ素(シクロ)アルケニル基を有するフッ素化合物」と称する場合があり、なかでも、CF=CFRで表される化合物を、「トリフルオロビニル基を有するフッ素化合物」と称する場合がある。
以下、当該製造方法の内容を詳細に説明する。
【0059】
工程2
工程2は、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛化合物を、ハロゲン化有機化合物と反応させて、トリフルオロビニル基を有するフッ素化合物を製造する、公知の方法と同様に行えばよい。このような公知の方法としては、例えば、前記各先行技術文献に記載の方法が挙げられる。
【0060】
工程2では、具体的には、例えば、工程1によって得られる前記式(1)のハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛化合物の有機溶媒溶液を、式:R−X(式中、Rは有機基を表し、Xはハロゲンを表す。)で示される有機ハロゲン化合物を含んだ溶液中に滴下し、ここで得られた溶液を、適度な温度条件下に撹拌して目的物であるカップリング生成物、すなわち含フッ素(シクロ)アルケニル基を有するフッ素化合物(式(3)の化合物)を得ることが出来る。
【0061】
これらの式中のRで表される「有機基」としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基等の炭化水素基、及びヘテロアリール基が挙げられる。なかでも、好ましくは、アルケニル基、アリール基、及びヘテロアリール基である。
【0062】
これらの式中のXで表される「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。なかでも、好ましくは、ヨウ素である。
【0063】
工程2の反応は、好ましくは、遷移金属錯体触媒の存在下で行われる。これにより、反応の効率を高めること(例、収率の向上)ができる。
【0064】
当該「遷移金属錯体触媒」としては、例えば、その遷移金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム又はコバルトが挙げられる。なかでも、好ましくは、その遷移金属が、パラジウム、又はニッケルである遷移金属錯体触媒である。
【0065】
遷移金属が、パラジウムである遷移金属錯体触媒としては、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から反応中に発生した0価パラジウム錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0066】
0価パラジウム錯体としては、特に限定はないが、例えば、Pd(dba)(dbaはジベンジリデンアセトン)、Pd(cod)(codはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pd(dppe)(dppeは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)、Pd(Pt−Bu(t−Buはt−ブチル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)等が挙げられる。
【0067】
II価パラジウム錯体としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価パラジウム錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価パラジウム錯体が生成する。
【0068】
前記の0価パラジウム錯体又はII価パラジウム錯体から還元により生じた0価パラジウム錯体は、反応中で、必要に応じて添加されるケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物(配位子)と作用して、反応に関与する0価のパラジウム錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のパラジウム錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかではない。
【0069】
これらパラジウム錯体は前記のような配位子を用いることで、反応基質との均一な溶液を形成させて反応に用いることが多いが、これ以外にもポリスチレン、ポリエチレン等のポリマー中に分散又は担持させた不均一系触媒としても用いることが可能である。このような不均一系触媒は、触媒の回収等のプロセス上の利点を有する。具体的な触媒構造としては、以下の化学式:
【0070】
【化24】
に示すような、架橋したポリスチレン鎖にホスフィンを導入した、ポリマーホスフィンなどで金属原子を固定したもの等が挙げられる。
【0071】
また、これ以外にも、以下:
1)Kanbaraら、Macromolecules, 2000年、33巻、657頁
2)Yamamotoら、J. Polym. Sci., 2002年、40巻、2637頁
3)特開平06−32763号公報
4)特開2005−281454号公報
5)特開2009−527352号公報
に記載のポリマーホスフィンも利用可能である。
【0072】
ここで、ケトンとしては、特に制限されないが、ジベンジリデンアセトン等が挙げられる。
【0073】
ジケトンとしては、特に制限されないが、例えば、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0074】
ホスフィンとしては、ハロゲン−リン結合を有するホスフィン類では、それ自身が有機亜鉛化合物と反応してしまうので、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィン等が挙げられる。また、トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィン等が挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィンが好ましい。
【0075】
また先に挙げたように、ホスフィン単位をポリマー鎖に導入した不均一系触媒用のアリールホスフィンも好ましく用いることが出来る。具体的には以下の化学式:
【0076】
【化25】
に示す、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基をポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィンが例示される。
【0077】
ジアミンとしては、特に制限されないが、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0078】
これらの配位子のうち、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルの配位子が好ましく、さらにトリアリールホスフィン及びトリアルキルホスフィンが好ましく、特にトリフェニルホスフィン及びトリt−ブチルホスフィンが好ましい。同様に、前述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。
【0079】
遷移金属が、ニッケルである遷移金属錯体触媒としては、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から反応中に発生した0価ニッケル錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0080】
0価ニッケル錯体としては、特に限定はないが、例えば、Ni(cod)、Ni(cdd)(cddはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(cdt)(cdtはシクロデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(vch)(vchは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy、Ni(PPh等が挙げられる。
【0081】
II価ニッケル錯体としては、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価ニッケル錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価ニッケル錯体が生成する。
【0082】
前記の0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体から還元により生じた0価ニッケル錯体は、反応中で、必要に応じ添加される配位子と作用して、反応に関与する0価のニッケル錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のニッケル錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0083】
これらニッケル錯体は前記のような配位子を用いることで、反応基質との均一な溶液を形成させて反応に用いることが多いが、これ以外にもポリスチレン、ポリエチレン等のポリマー中に分散又は担持させた不均一系触媒としても用いることが可能である。このような不均一系触媒は、触媒の回収等のプロセス上の利点を有する。具体的な触媒構造としては、以下の化学式:
【0084】
【化26】
に示すような、架橋したポリスチレン鎖にホスフィンを導入した、ポリマーホスフィン等で金属原子を固定したもの等が挙げられる。
【0085】
また、これ以外にも、以下:
1)Kanbaraら、Macromolecules, 2000年、33巻、657頁
2)Yamamotoら、J. Polym. Sci., 2002年、40巻、2637頁
3)特開平06−32763号公報
4)特開2005−281454号公報
5)特開2009−527352号公報
に記載のポリマーホスフィンも利用可能である。
【0086】
ここで、ケトンとしては、特に制限されないが、ジベンジリデンアセトン等が挙げられる。
【0087】
ジケトンとしては、特に制限されないが、例えば、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0088】
ここで、ホスフィンとしては、ハロゲン−リン結合を有するホスフィン類では、それ自身が有機亜鉛化合物と反応してしまうので、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィン等が挙げられる。トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィン等が挙げられる。
【0089】
また先に挙げたように、ホスフィン単位をポリマー鎖に導入した不均一系触媒用のアリールホスフィンも好ましく用いることが出来る。具体的には以下の化学式:
【0090】
【化27】
に示す、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基をポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィンが例示される。
【0091】
これらの配位子のうち、トリアリールホスフィンとしては、特にトリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等が好ましい。同様に、前述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。またトリアルキルルホスフィンとしては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が好ましい。
【0092】
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0093】
ニッケル錯体としては、系中で生じる0価のニッケル錯体を安定化させる機能が高いものが好ましい。具体的には、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の配位子を有しているものが好ましく、特にホスフィンを有しているものが好ましい。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィンが好ましい。同様に、前述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。
【0094】
その他、白金を含む触媒としては、Pt(PPh、Pt(cod)、Pt(dba)、塩化白金、臭化白金、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;ルテニウムを含む触媒としては、(Cl)Ru(PPh、Ru(cot)(cod)(cotはシクロオクタ−1,3,5−トリエン)、塩化ルテニウム(III)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;ロジウムを含む触媒としては、(Cl)Rh(PPh、塩化ロジウム(III)、クロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)ダイマー、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;コバルトを含む触媒としては、(Cl)Co(PPh、(CCo(PPh(Cはシクロペンタジエニル基)、(CCo(cod)、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)、塩化コバルト(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。
【0095】
前記の触媒のうち、反応性、収率、及び選択性等の観点から、ニッケル又はパラジウムを含む触媒、なかでもパラジウムを含む触媒、さらにパラジウム錯体、特に0価のパラジウムのホスフィン錯体(とりわけトリフェニルホスフィン錯体、トリt−ブチルホスフィン錯体又は以下の化学式:
【0096】
【化28】
で示したポリマーホスフィン錯体)が好ましい。
【0097】
遷移金属触媒の使用量は、特に制限されるわけではないが、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛1モルに対して、通常、0.0001〜0.5モル程度、好ましくは0.0001〜0.1モル程度である。
【0098】
配位子を投入する場合には、配位子の使用量は、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛1モルに対して、通常、0.0002〜1モル程度、好ましくは0.0002〜0.2モル程度である。また、配位子/触媒のモル比は、通常2〜10であり、好ましくは2〜4である。
【0099】
工程2によって得られるトリフルオロビニル基を有するフッ素化合物は、所望により、溶媒抽出、又はクロマトグラフィー等の公知の精製方法によって単離精製され得る。
このようにして得られるトリフルオロビニル基を有するフッ素化合物は、前述のように、燃料電池用イオン交換膜、自動車用又は航空機用などのシール材又は燃料ホース、光ファイバーなどの光学電子部品、塗料用又は防汚用途などのコーティング材などの様々な用途に用いられる含フッ素高分子の原料モノマーとして、又は酵素阻害作用を有する農薬として有用である。
【0100】
(態様2A)
態様2Aにおける工程2Aに用いられる化合物及び反応条件等は、いずれも前記工程2で説明した通りである。
【0101】
4.ヘキサフルオロブタジエンの製造方法
本発明の、ヘキサフルオロブタジエンの製造方法は、前記で説明した本発明の製造方法で製造されるハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛、又はその中間生成物である活性種を、テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンと反応させる工程(工程3)を含むことを特徴とする。
【0102】
工程3
工程3は、具体的には、例えば、前記「2.ハロゲン化含フッ素(シクロ)アルケニル亜鉛の製造方法」において前記式(2)の含フッ素オレフィンとして、テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンを用いて製造された「ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛」の溶液に、テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンを導入することによって実施される。
当該溶液の溶媒としては、例えば、工程1において説明した非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0103】
当該溶液は、工程1の反応生成混合物であってもよい。また、工程3で用いられるテトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンは、当該反応生成混合物に残存するテトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンであってもよく、新たに反応系に加えたテトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンであってもよい。
【0104】
テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンと反応する化合物は、工程1における生成物であるトリフルオロビニル基を有するフッ素化合物の中間生成物である活性種であってもよい。当該活性種は、CF2=CFMgであると推測されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0105】
工程3の反応は、好ましくは、遷移金属錯体触媒の存在下で行われる。これにより、反応の効率を高めること(例、収率の向上)ができる。
【0106】
当該「遷移金属錯体触媒」としては、例えば、前記工程2において例示したものと同様のものが挙げられる。なかでも、好ましくは、その遷移金属が、パラジウム、又はニッケルである遷移金属錯体触媒である。このような好ましい遷移金属錯体触媒の例もまた、前記工程2において例示したものと同様である。
【0107】
遷移金属触媒の使用量は、特に制限されるわけではないが、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛1モルに対して、通常、0.0001〜0.5モル程度、好ましくは0.0001〜0.1モル程度である。
【0108】
配位子を投入する場合には、配位子の使用量は、ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛1モルに対して、通常、0.0002〜1モル程度、好ましくは0.0002〜0.2モル程度である。また、配位子/触媒のモル比は、通常2〜10であり、好ましくは2〜4である。
【0109】
工程3におけるテトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレン/ハロゲン化トリフルオロビニル亜鉛のモル比は、好ましくは、0.01〜100、より好ましくは、0.1〜10の範囲内である。
【0110】
工程3の反応は、遷移金属錯体触媒の存在に加えて、さらにフッ素親和性化合物を添加することで、触媒反応を促進することができる。
フッ素親和性化合物としては、フッ素原子との親和性を有するルイス酸性を有する金属イオンからなる塩化合物を挙げることができる。具体的には、式:MX(式中、MはLi、Na、K、Mg、Zn又はCuを表し;n個のXは、同じか又は異なり、Cl、Br若しくはI、又は有機酸(特にカルボン酸、スルホン酸等)若しくは炭酸の共役塩基を表し;nは1又は2である)で表されるフッ素親和性化合物が挙げられる。なお、MがCuの場合は、1価及び2価のいずれでもよい。
当該化合物としては、例えば、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化銅、カルボン酸リチウム、カルボン酸ナトリウム、スルホン酸リチウム、スルホン酸ナトリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム;臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化カリウム;臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム;塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛;塩化銅(II)、塩化銅(I)、臭化銅(II)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(II)、ヨウ化銅(I)等のハロゲン化銅;酢酸リチウム、ギ酸リチウム等のカルボン酸リチウム;酢酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム;ベンゼンスルホン酸リチウム、トルエンスルホン酸リチウム等のスルホン酸リチウム;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸ナトリウム;炭酸リチウム等が挙げられる。なかでも、好ましくは、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム、塩化亜鉛等のハロゲン化亜鉛又は酢酸リチウム等のカルボン酸リチウムである。
フッ素親和性化合物を投入する場合、その使用量は、通常、有機金属化合物1モルに対して、1.1〜10モル程度、好ましくは1.5〜5モル程度とすることができる。
【0111】
工程3の反応の反応温度は、好ましくは、0〜150℃、より好ましくは、20〜100℃の範囲内である。
【0112】
工程3の反応の反応時間は、通常、10分間〜72時間、好ましくは、10〜24時間の範囲内である。
【0113】
工程3の反応は、好ましくは、アルゴン、又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。
【実施例】
【0114】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0115】
実施例における収率は、モル収率である。
また、実施例で用いる略号は、それぞれ
dba:ジベンジリデンアセトン
PPh3:トリフェニルホスフィン
PCy3:トリシクロヘキシルホスフィン
である。
【0116】
実施例1
(1)グローブボックス中、ピストン・乳鉢スターラー(アズワン社製、MMPS−T1型)を用いて、市販のマグネシウム粉末をさらに充分に粉砕した。
(2)ここで得られたマグネシウム粉末(純度99.9%,粒径:212−600μm,4.9mg,0.2mmol)を20mLのガラス密閉容器に秤量し、さらに撹拌子を入れた。ここに1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI,2mL)を加えて、超音波を10分間照射した。
(3)再度この容器をグローブボックス中に入れ、不活性雰囲気下に、この溶液に塩化亜鉛(136mg,1mmol)を加えた。
(4)この反応容器を、グローブボックスから出して、脱気後、テトラフルオロエチレン(TFE)を1気圧まで導入した。
(5)ここで得られた反応溶液を、60℃で18時間撹拌した。
(6)冷後、残ったTFEを脱気し、ここに重ベンゼン(1mL)と内部標準(10μL)を加えた後にろ過し、得られた溶液のH,19F−NMR測定を行った。
前記反応溶液の19F−NMR測定結果により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が52%の収率で生成していることを確認した。
【化29】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −195.2 (s, br, 1F), -132.6 (dd, JFF = 94.5, 104.1 Hz, 1F), -99.5 (s, br, 1F).
【0117】
実施例2
実施例1と同様にして、マグネシウム粉末(4.9mg,0.2mmol)と塩化亜鉛(136mg,1mmol)のDMI溶液にTFEを1気圧まで導入し、室温で26時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が9%の収率で生成していることを確認した。
【0118】
実施例3
実施例1と同様にして、マグネシウム粉末(12.2mg,0.5mmol)と塩化亜鉛(68mg,0.5mmol)のDMI溶液にTFEを1気圧まで導入し、60℃で18時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が24%、ビス(トリフルオロビニル)亜鉛が2%の収率で生成していることを確認した。
【0119】
実施例4
実施例1と同様にして、マグネシウム粉末(12.2mg,0.5mmol)と塩化亜鉛(136mg,1mmol)のDMI溶液にTFEを1気圧まで導入し、60℃で6時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が32%の収率で生成していることを確認した。
【0120】
実施例5
実施例1と同様にして、マグネシウム粉末(60.8mg,2.5mmol)と塩化亜鉛(68mg,0.5mmol)のDMI溶液にTFEを1気圧まで導入し、60℃で21時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が22%、ビス(トリフルオロビニル)亜鉛が4%の収率で生成していることを確認した。
【0121】
実施例6
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム粉末(48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が53%の収率で生成していることを確認した。
【0122】
実施例7
実施例6と同様にして調製した、マグネシウム粉末(48.6mg,2.0mmol)と塩化亜鉛(544mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)を、先に超音波照射を3時間行った後に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が62%の収率で生成していることを確認した。
【0123】
実施例8
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム粉末(48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)、塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)、及び1,2−ジブロモエタン(22.46mg,0.12mmol)のDMI溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が53%の収率で生成していることを確認した。
【0124】
実施例9
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が58%の収率で生成していることを確認した。
【0125】
実施例10
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で6時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が70%の収率で生成していることを確認した。
【0126】
実施例11
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、室温で6時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が50%の収率で生成していることを確認した。
【0127】
実施例12
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMA(ジメチルアセトアミド)溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が1%の収率で生成していることを確認した。
【0128】
実施例13
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol、購入品をそのまま使用した)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のNMP(N−メチルピロリドン)溶液(10mL)に、TFEを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が11%の収率で生成していることを確認した。
【0129】
実施例14
実施例1で得られた塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(ビニル亜鉛を0.02mmol含有する)を、予めPd(dba)(1mg,0.001mmol)、PPh(2.1mg,0.008mmol)、LiI(6.4mg,0.048mmol)、C(0.2mL)、およびα,α,α−トリフルオロトルエン(19F−NMR測定の内部標準,10μL,0.08mmol)を入れた耐圧NMRチューブ(容量2mL)に導入し、40℃で5日間放置した。この反応液を、19F−NMR測定により追跡し、ヘキサフルオロブタジエンが45%の収率で生成していることを確認した。
【0130】
実施例15
実施例14と同様にして、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(ビニル亜鉛を0.08mmol含有する)を、予めPd(dba)(4mg,0.004mmol)、PPh(8.4mg,0.032mmol)、LiI(25.68mg,0.19mmol)、C(0.2mL)、およびα,α,α−トリフルオロトルエン(10μL,0.08mmol)を入れた耐圧NMRチューブ(容量2mL)に導入し、60℃で20時間放置した。この反応液を、19F−NMR測定により追跡し、ヘキサフルオロブタジエンが22%の収率で生成していることを確認した。
【0131】
実施例16
実施例14と同様にして、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(ビニル亜鉛を0.08mmol含有する)を、予めPd(dba)(4mg,0.004mmol)、PCy(4.5mg,0.016mmol)、LiI(25.68mg,0.19mmol)、C(0.2mL)、およびα,α,α−トリフルオロトルエン(10μL,0.08mmol)を入れた耐圧NMRチューブ(容量2mL)に導入し、60℃で20時間放置した。この反応液を、19F−NMR測定により追跡し、ヘキサフルオロブタジエンが21%の収率で生成していることを確認した。
【0132】
実施例17
実施例1と同様にして、マグネシウム粉末(49mg,2mmol)と塩化亜鉛(544mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)をオートクレーブ中で2時間撹拌した。これに、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)を5気圧まで導入し、室温で6時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が55%の収率で生成していることを確認した。
【0133】
実施例18
実施例17で得られた塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(0.4mL)を、予めPd(PPh(トリフルオロビニル亜鉛に対して,5mol%)、C(0.2mL)、およびα,α,α−トリフルオロトルエン(19F−NMR測定の内部標準,10μL)を入れた耐圧NMRチューブ(容量2mL)に導入し、80℃で24時間放置した。この反応液を、19F−NMR測定により追跡し、ヘキサフルオロブタジエンが6%の収率で生成していることを確認した。
【0134】
実施例19
実施例17で得られた塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(0.4mL)を、予めPd(PCy(トリフルオロビニル亜鉛に対して,5mol%)、C(0.2mL)、およびα,α,α−トリフルオロトルエン(19F−NMR測定の内部標準,10μL)を入れた耐圧NMRチューブ(容量2mL)に導入し、80℃で24時間放置した。この反応液を、19F−NMR測定により追跡し、ヘキサフルオロブタジエンが9%の収率で生成していることを確認した。
【0135】
実施例20
グローブボックス中で、実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛のDMI溶液(1.6mL)を、セライトで濾過したのち、耐圧NMRチューブに移し、さらにこれに当量の2−ブロモナフタレンおよび10mol%のPd(PPhを加え、80℃で30分間放置した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率97%)。
【化30】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −178.3 (dd, JFF = 30.6, 109.1 Hz, 1F), -117.9 (dd, JFF = 72.2, 109.1 Hz, 1F), -103.4 (dd, JFF = 30.6, 72.2 Hz, 1F).
【0136】
実施例21
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と2−ブロモナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で2時間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率94%)。
【0137】
実施例22
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と2−ブロモナフタレンのカップリング反応を10mol%のPd(PCyの存在下に、80℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率83%)。
【0138】
実施例23
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と2−ブロモ−6−メトキシカルボニルナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率99%)。
【化31】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −179.0 (dd, JFF = 31.2, 108.6 Hz, 1F), -116.0 (dd, JFF = 67.7, 108.6 Hz, 1F), -101.8 (dd, JFF = 31.2, 67.7 Hz, 1F).
【0139】
実施例24
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と2−ブロモ−6−メトキシナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率82%)。
【化32】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −177.8 (dd, JFF = 30.3, 109.7 Hz, 1F), -119.2 (dd, JFF = 74.9, 109.7 Hz, 1F), -104.6 (dd, JFF = 30.3, 74.9 Hz, 1F).
【0140】
実施例25
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と1−ブロモナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率76%)。
【化33】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −162.3 (dd, JFF = 27.6, 117.5 Hz, 1F), -120.8 (dd, JFF = 75.8, 117.5 Hz, 1F), -105.3 (dd, JFF = 27.6, 75.8 Hz, 1F).
【0141】
実施例26
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と1−ブロモ−4−フルオロナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率69%)。
【化34】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −161.8 (dd, JFF = 26.0, 118.1 Hz, 1F), -121.0 (m, 1F), -120.5 (dd, JFF = 75.0, 118.1 Hz, 1F), -104.8 (dd, JFF = 26.0, 75.0 Hz, 1F).
【0142】
実施例27
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と1−ブロモ−2−メチルナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率74%)。
【化35】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −161.5 (dd, JFF = 27.3, 118.8 Hz, 1F), -120.7 (dd, JFF = 76.5, 118.8 Hz, 1F), -105.8 (dd, JFF = 27.3, 76.5 Hz, 1F).
【0143】
実施例28
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と9−ブロモアントラセンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率89%)。
【化36】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −159.1 (dd, JFF = 26.3, 119.4 Hz, 1F), -119.7 (dd, JFF = 74.5, 119.4 Hz, 1F), -103.8 (dd, JFF = 26.3, 74.5 Hz, 1F).
【0144】
実施例29
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と3−ブロモキノリンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で12時間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率99%)。
【化37】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −181.6 (dd, JFF = 31.1, 109.2 Hz, 1F), -115.7 (dd, JFF = 67.5, 109.2 Hz, 1F), -101.0 (dd, JFF = 31.1, 67.5 Hz, 1F).
【0145】
実施例30
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と1−ブロモ−5,6,7,8−テトラフルオロナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率69%)。
【化38】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −161.4 (m, 1F), -160.3 (m, 1F), -157.9 (ddd, JFF = 27.9, 32.8, 118.6 Hz, 1F), -145.7 (m, 1F), -121.6 (dd, JFF = 77.5, 118.6 Hz, 1F), -105.7 (dd, JFF = 27.9, 77.5 Hz, 1F).
【0146】
実施例31
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と9−ブロモフェナントレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによってカップリング生成物を確認および定量した(収率91%)。
【化39】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −162.6 (dd, JFF = 27.0, 117.8 Hz, 1F), -120.5 (dd, JFF = 75.7, 117.8 Hz, 1F), -105.0 (dd, JFF = 27.0, 75.7 Hz, 1F).
【0147】
実施例32
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と5−ブロモベンゾチオフェンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、150℃で30分間実施した。19F−NMRによって、以下の構造式のカップリング生成物を確認および定量した(収率83%)。
【化40】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −177.0 (dd, JFF = 30.9, 109.8 Hz, 1F), -119.0 (dd, JFF = 74.5, 109.8 Hz, 1F), -104.6 (dd, JFF = 30.9, 74.5 Hz, 1F).
【0148】
実施例33
実施例9と同様にして調製した塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛と6−トリフルオロメタンスルホニル−2−ブロモナフタレンのカップリング反応を1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で30分間実施した。19F−NMRによって、以下の構造式のカップリング生成物を確認および定量した(収率85%)。
【化41】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −178.7 (dd, JFF = 30.9, 109.0 Hz, 1F), -117.1 (dd, JFF = 69.7, 109.0 Hz, 1F), -102.7 (dd, JFF = 30.9, 69.7 Hz, 1F).
【0149】
実施例34
実施例33で得られた生成物と塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛とのカップリング反応を、1mol%のPd(PPhの存在下に、80℃で30分間実施した。19F−NMRによって、以下の構造式のカップリング生成物を確認および定量した(収率94%)。
【化42】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): −178.9 (dd, JFF = 30.8, 108.8 Hz, 1F), -116.7 (dd, JFF = 69.5, 108.8 Hz, 1F), -102.5 (dd, JFF = 30.8, 69.5 Hz, 1F).
【0150】
実施例35
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、クロロトリフルオロエチレンを5気圧まで導入し、60℃で24時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が50%の収率で生成していることを確認した。
【0151】
実施例36
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、クロロトリフルオロエチレンを5気圧まで導入し、室温で6時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化1,1,2−トリフルオロビニル亜鉛が55%の収率で生成していることを確認した。
【0152】
実施例37
グローブボックス中でオートクレーブ中に調製した、マグネシウム(削り状、48.3mg,2.0mmol)と塩化亜鉛(548.6mg,4mmol)のDMI溶液(10mL)に、パーフルオロシクロペンテン(212.0mg,1.0mmol)を加え、80℃で14時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMR測定により、塩化(1−パーフルオロシクロペンテン−1−イル)亜鉛が25%の収率で生成していることを確認した。
【化43】
塩化(1−パーフルオロシクロペンテン−1−イル)亜鉛
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): -131.7 (s, br, 2F), -128.6 (d, JFF = 11.2, 1F), -120.9 (s, br, 2F), -101.5 (s, br, 2F).
【0153】
実施例38
実施例37で調製した塩化(1−パーフルオロシクロペンテン−1−イル)亜鉛(内部標準を用いた19F−NMR測定結果により、溶液中の含量を0.25mmolと算出した)のDMI溶液(10mL)に、実施例20と同様の濾過操作後、Pd(dba)(25mg,0.025mmol)、PPh(52.5mg,0.2mmol)、および2−ブロモナフタレン(47.1mg、0.23mmol)を加えた。この溶液を80℃で4時間撹拌した。内部標準を用いた19F−NMRによって、以下の構造式のカップリング生成物を確認および定量した(収率83%)。
【化44】
19F NMR (372 MHz, DMI/C6D6中, 室温, δ/ppm): -133.0 (s, br, 2F), -128.7 (d, JFF = 11.2 Hz, 1F), -120.7 (d, br, JFF = 18.6 Hz, 2F), -110.5 (d, br, JFF = 11.2 Hz, 2F).