特許第5738993号(P5738993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738993高純度イットリウム、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウムスパッタリングターゲット、高純度イットリウムスパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイス
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  • 特許5738993-高純度イットリウム、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウムスパッタリングターゲット、高純度イットリウムスパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイス 図000006
  • 特許5738993-高純度イットリウム、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウムスパッタリングターゲット、高純度イットリウムスパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイス 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738993
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】高純度イットリウム、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウムスパッタリングターゲット、高純度イットリウムスパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   C22C 28/00 20060101AFI20150604BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20150604BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20150604BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20150604BHJP
   C25C 3/34 20060101ALI20150604BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C22C28/00 A
   C22C1/02 501D
   C22C1/02 503N
   C22B59/00
   C22B9/22
   C25C3/34 Z
   C23C14/34 A
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-522673(P2013-522673)
(86)(22)【出願日】2011年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2011071131
(87)【国際公開番号】WO2013005349
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-150067(P2011-150067)
(32)【優先日】2011年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】高畑 雅博
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−176889(JP,A)
【文献】 特開平04−176887(JP,A)
【文献】 新藤裕一朗、宮崎英男,溶融塩電解法による高純度イットリウムの製造,資源・素材,日本,1992年,Page.46-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 9/02
C25C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度イットリウムであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下であることを特徴とする高純度イットリウム。
【請求項2】
高純度イットリウムであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cu、W、Mo、Ta、U、Th、炭素の合計量が10wtppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高純度イットリウム。
【請求項3】
ガス成分を除く純度が4N以下の粗イットリウム酸化物の原料を、フェライト系ステンレス(SUS)製のアノードを使用して、浴温500〜800°Cで溶融塩電解してイットリウム結晶を得、次にこのイットリウム結晶を、脱塩処理、水洗及び乾燥した後に、電子ビーム溶解して揮発性物質を除去し、希土類元素及びガス成分を除いた純度を5N以上とすることを特徴とする高純度イットリウムの製造方法。
【請求項4】
溶融塩電解浴として、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化イットリウム(YCl)からなる電解浴を使用することを特徴とする請求項3に記載の高純度イットリウムの製造方法。
【請求項5】
加熱炉を使用し1000°C以下の温度で真空加熱して、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離するか、又は酸で塩を溶解し分離することにより、脱塩処理を行うことを特徴とする請求項3〜4のいずれか一項に記載の高純度イットリウムの製造方法。
【請求項6】
高純度イットリウムスパッタリングターゲットであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下であることを特徴とする高純度イットリウムスパッタリングターゲット。
【請求項7】
高純度イットリウムであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cu、W、Mo、Ta、U、Th、炭素の合計量が10wtppm以下であることを特徴とする請求項6に記載の高純度イットリウムスパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項6〜7のいずれか一項に記載の高純度イットリウムスパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜。
【請求項9】
請求項8に記載のメタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度イットリウム、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウムを用いて製造したスパッタリングターゲット、高純度イットリウムを主成分とするメタルゲート膜並びにメタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イットリウム(Y)は希土類元素の一つである。イットリウムの原子番号は39、原子量88.91の灰黒色の金属で、六方最密構造を備えている。融点は1520°C、沸点3300°C、密度4.47g/cmであり、空気中では容易に表面が酸化され、酸に可溶であるが、アルカリには不溶である。熱水と反応する。延性、展性に乏しい(理化学辞典参照)。
【0003】
希土類元素は一般に酸化数3の化合物が安定であるが、イットリウムも3価である。最近ではイットリウムをメタルゲート材料、高誘電率材料(High−k)等の、電子材料として研究開発が進められており、注目されている金属である。
イットリウム金属は精製時に酸化し易いという問題があるため、高純度化が難しい材料であり、高純度製品は存在していなかった。また、イットリウム金属を空気中に放置した場合には短時間で酸化し(Y)、黒色に変色する。
最近、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜として薄膜化が要求されているが、これまでゲート絶縁膜として使用されてきたSiOでは、トンネル効果によるリーク電流が増加し、正常動作が難しくなってきた。
【0004】
このため、それに変わるものとして、高い誘電率、高い熱的安定性、シリコン中の正孔と電子に対して高いエネルギー障壁を有するHfO、ZrO、Al、Laが提案されている。特に、これらの材料の中でも、Laの評価が高く、電気的特性を調査し、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜としての研究報告がなされている(非特許文献1参照)。しかし、この非特許文献の場合に、研究の対象となっているのは、La膜であり、イットリウム(Y)元素の特性と挙動については、特に触れてはいない。
【0005】
このようにランタンは、最近の技術の傾向として、着目されつつある材料ではあるが、同様の希土類金属としての物性を持つ金属であるイットリウムについて、電子部品材料としての使用については、殆ど研究されていないという状況である。もし、このような電子部品(例えば、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜)として使用する場合には、希土類金属としての物性を持つ金属であるイットリウム自体の特性を活用するためには、他の不純物元素の存在は好ましくなく、純度を高める必要があることは容易に想定される。
【0006】
このようにイットリウム(酸化イットリウム)については、まだ研究の段階にあると言えるが、このようなイットリウム(酸化イットリウム)の特性を調べる場合において、イットリウム金属自体がスパッタリングターゲット材として存在すれば、基板上にイットリウムの薄膜を形成することが可能であり、またシリコン基板との界面の挙動、さらにはイットリウム化合物を形成して、高誘電率ゲート絶縁膜等の特性を調べることが容易であり、また製品としての自由度が増すという大きな利点を持つものである。
【0007】
また、イットリウムのターゲットを用いてスパッタリングにより成膜する場合に問題となるのは、ターゲット表面上の突起物(ノジュール)の発生である。この突起物は異常放電を誘発し、突起物(ノジュール)の破裂等によるパーティクルの発生が生ずる。
パーティクル発生は、メタルゲート膜や半導体素子及びデバイスの不良率を劣化させる原因となる。このため、イットリウムの特性を活かすために、特にAl、Fe、Cuの含有量の低減化が必要である。また、イットリウムに含まれる炭素(グラファイト)は固形物として存在し、導電性を有するために検知が難しく、低減化が求められる。
【0008】
さらに、イットリウムは高純度化するのが難しい材料であるが、上記Al、Fe、Cu、炭素(グラファイト)以外にも、イットリウムの特性を活かすために、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、遷移金属元素、高融点金属元素、放射性元素も半導体の特性に影響を与えるので低減化が要求される。このようなことからイットリウムの純度が5N以上であることが望まれる。
【0009】
しかし、イットリウム以外のランタノイドについては除去するのが極めて難しいという問題がある。幸いにして、イットリウム以外のランタノイドについては、その性質が類似していることから、多少の混入は問題とならない。また、ガス成分もまた多少の混入は大きな問題とならない。しかも、ガス成分は、一般に除去が難しいため、純度の表示には、このガス成分を除外するのが一般的である。
【0010】
従来は、イットリウムの特性、高純度イットリウムの製造、イットリウムターゲット中の不純物の挙動、等の問題は十分に知られていない。したがって、上記のような問題を早急に解決することが望まれている。
【0011】
従来公知の文献を見ると、特許文献1には、高純度イットリウムを製造する装置として、真空蒸留装置に設置できる溶融塩電解装置とが記載されている。しかし、この場合は、どの程度の高純度イットリウムを製造できるのか不明である。
特許文献2には、高純度イットリウムを製造する方法として、溶融塩電解装置と真空蒸留装置の配置を工夫した方法が開示されている。また、この後に電子ビーム溶解することの提案がなされている。そして、関心のある不純物として、Fe、Cr、Ni、U、Thをそれぞれ1ppm未満に低減した例が示されている。しかしながら、それぞれの工程で、不純物がどの程度低減化できるのか、他の不純物はどうなるのか、総合的にどの程度の純度が達成できるのか、については明確に記載されていない。
【0012】
特許文献3には、高純度イットリウムの製造方法として、溶融塩電解装置とが記載され、ルツボの構造を工夫した製造方法が記載されている。そして、関心のある不純物としてFe、Cr、Ni、Cu、U、Thをそれぞれ1ppm未満に低減した例が示されている。しかし、この場合は、どの程度の高純度イットリウムを製造できるのか、またイットリウムに含まれる前記以外の不純物の除去の内容が不明である。
【0013】
特許文献4には、高純度イットリウムの製造方法として、溶融塩電解装置とが記載され、アノードとルツボの構造を工夫した製造方法が記載されている。そして、関心のある不純物としてFe、Cr、Ni、Cu、U、Thをそれぞれ1ppm未満に低減した例が示されている。しかし、この場合は、どの程度の高純度イットリウムを製造できるのか、またイットリウムに含まれる前記以外の不純物の除去の内容が不明である。
【0014】
特許文献5には、高純度イットリウムの製造方法として、無水塩化イットリウムの真空蒸留装置が記載され、蒸留容器と凝縮器の配置構造を工夫した装置が記載されている。そして、関心のある不純物としてFe、Cr、Ni、Cu、Mg、Mnをそれぞれ1ppm未満に低減した例が示されている。しかし、この場合最終的に、どの程度の高純度イットリウムを製造できるのか、またイットリウムに含まれる前記以外の不純物の除去の内容が不明である。
【0015】
特許文献6には、イットリウムの非晶質膜を利用して、固体レーザ発振材料として使用されるYAG薄膜を形成することが記載されている。おそらく、高純度イットリウムが使用されると思われるが、その純度及び高純度イットリウムを製造する技術の開示はない。
特許文献7には、高純度イットリウムの分離方法として、溶媒抽出方法が記載されている。この結果、得られる純度は、全希土類化合物中のY化合物として99.0%〜99.996%(wt%)に達するとしている。しかし、遷移金属など他の不純物はどうなるのか、総合的にどの程度の純度が達成できるのか、については明確に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平4−176886号公報
【特許文献2】特開平4−176887号公報
【特許文献3】特開平4−176888号公報
【特許文献4】特開平4−176889号公報
【特許文献5】特開平5−17134号公報
【特許文献6】特開平7−126834号公報
【特許文献7】特開2004−36003号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】徳光永輔、外2名著、「High−k ゲート絶縁膜用酸化物材料の研究」電気学会電子材料研究会資料、Vol.6−13、Page.37−41、2001年9月21日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、高純度イットリウムの製造方法、高純度イットリウム、この高純度イットリウムを用いて作製したスパッタリングターゲット及び該スパッタリングターゲットを使用して成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを、安定して提供できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、高純度イットリウムであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下である高純度イットリウム及び同高純度イットリウムスパッタリングターゲットを提供するものである。
また、上記高純度イットリウム及び高純度イットリウムターゲットにおいて、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下である高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲット、さらには希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cu、W、Mo、Ta、U、Th、炭素の合計量が10wtppm以下である高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットを提供することができる。
また、以上の高純度イットリウム及び高純度イットリウムターゲットにおいて、放射線量(α線量)を0.001cph/cm未満とした高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットを提供できる。
【0020】
以上の高純度イットリウム及び高純度イットリウムターゲットの製造に際し、ガス成分を除く純度が4N以下の粗イットリウム酸化物の原料を、浴温500〜800°Cで溶融塩電解してイットリウム結晶を得、次にこのイットリウム結晶を、脱塩処理、水洗及び乾燥した後に、電子ビーム溶解して揮発性物質を除去する高純度イットリウムの製造方法を提供することができる。
溶融塩電解浴としては、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化イットリウム(YCl)を使用する。また、溶融塩電解を行うに際しては、Ta製又はスンレス(SUS)製のアノードを使用することができる。さらに、脱塩処理に際しては、加熱炉を使用し1000°C以下の温度で真空加熱して、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離するか、又は酸で塩を溶解し分離することにより、脱塩処理を行うことが有効である。
【0021】
以上により、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N(99.999wt%)以上であり、イットリウム中のアルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び銅(Cu)が、それぞれ1wtppm以下、またW、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下、である高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットを得ることができる。
希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上の高純度イットリウムを製造するためには、上記工程と各工程における製造条件が、重要となる。これらから逸脱する条件では、本願の目的を達成することができない。
【0022】
以上の製造方法によって得られた高純度イットリウムは、新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。MOSFETにおけるゲート絶縁膜として利用する場合に、形成するのは主としてYOx膜であるが、このような膜を形成する場合には、任意の膜を形成するという、膜形成の自由度を増すために、純度の高いイットリウム金属が必要となる。本願発明は、これに適合する材料を提供することができる。
【0023】
イットリウムに含有される希土類元素には、イットリウム(Y)以外に、La、Sc,Y,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luがあるが、特性が似ているために、Yから分離精製することが難しい。
しかしながら、これらの希土類元素は性質が近似しているが故に、希土類元素合計で100wtppm未満であれば、電子部品材料としての使用に際し、特に問題となるものでない。したがって、本願発明のイットリウムは、このレベルの希土類元素の含有は許容される。
【0024】
一般に、ガス成分として、C、N、O、S、Hが存在する。これらは単独の元素として存在する場合もあるが、化合物(CO、CO、SO等)又は構成元素との化合物の形態で存在することもある。これらのガス成分元素は原子量及び原子半径が小さいので、多量に含有されない限り、不純物として存在しても、材料の特性に大きく影響を与えることは少ない。したがって、純度表示をする場合には、ガス成分を除く純度とするのが普通である。この意味で、本願発明のイットリウムの純度は、ガス成分を除く純度が5N以上とするものである。
【0025】
上記の通り、本願発明は、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下、である高純度イットリウムを提供するが、さらにアルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び銅(Cu)を含めても、これらの合計量で10wtppm以下とすることが望ましい。これらは、半導体特性を低下させる不純物となるので、できるだけ低減させることが望ましい元素である。
【0026】
本願発明は、上記の高純度イットリウムを用いて製造したスパッタリングターゲット、該スパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜及び上記メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを提供できる。
MOSFETにおけるゲート絶縁膜として利用する場合には、上記の通り、形成するのは主としてYOx膜である。このような膜を形成する場合において、任意の膜を形成するという、膜形成の自由度を増すために、純度の高いイットリウム金属が必要となる。本願発明は、これに適合する材料を提供することができる。したがって、本願発明の高純度イットリウムは、ターゲットの作製時において、他の物質との任意の組み合わせを包含するものである。
【0027】
上記により得た高純度イットリウムは、真空中で溶解し、これを凝固させてインゴットとする。このインゴットは、さらに所定サイズに裁断し、研磨工程を経て高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットにする。
これによって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下である高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットを製造することができる。
さらに、本願発明の高純度イットリウム及び高純度イットリウムスパッタリングターゲットの放射線量(α線量)は、0.001cph/cm未満を達成することができる。
【0028】
さらに、上記のターゲットを使用してスパッタリングすることにより、ターゲットの純度が反映され、同成分のメタルゲート膜を得ることができる。これらのスパッタリングターゲット、メタルゲート膜、さらにこれらを用いた半導体素子及びデバイスは、いずれも新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、高純度イットリウム、この高純度イットリウムを用いて作製したスパッタリングターゲット及び該スパッタリングターゲットを使用して成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを、安定して提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】溶融塩電解の装置の一例を示す図である。
図2】実施例1に示す溶融塩電解後の電析物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、高純度化用のイットリウム原料として、ガス成分を除く純度で、純度4N以下の粗イットリウム酸化物の原料を使用することができる。
これらの原料は、主な不純物として、Li、Na、K、Ca、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Cr、Ni、Mn、Mo、Ce、Pr、Nd、Sm、Ta、W、ガス成分(N、O、C、H)等が含有されている。
【0032】
イットリウムに含まれるアルミニウム(Al)及び銅(Cu)は、半導体において基板やソース、ドレイン等の合金材料に用いられることが多く、ゲート材料中に少量でも含まれると誤作動の原因になる。また、イットリウムに含まれる鉄(Fe)は、酸化しやすいため、ターゲットとして用いた場合のスパッタ不良の原因となる、さらに、ターゲット中で酸化していなくてもスパッタされた後に酸化すると、体積が膨張するため絶縁不良等の不具合を起こしやすく動作不良の原因となるという理由により、特に問題となるので、これを低減する必要がある。
【0033】
原料にはFe、Alが多量に含有する。また、Cuについては粗金属を塩化物やフッ化物から還元して製造する際に用いられる水冷部材からの汚染を受ける場合が多い。そして、原料イットリウム中では、これらの不純物元素は酸化物の形態で存在するケースが多い。
【0034】
また、イットリウム原料は、フッ化イットリウム又は酸化イットリウムをカルシウム還元したものが使用されることが多いが、この還元材となるカルシウムに、Fe、Al、Cuが不純物として混入しているので、カルシウム還元材からの不純物混入が多く見られる。
【0035】
(溶融塩電解)
本願発明は、上記イットリウムの純度を高め、5N以上の純度を達成するために溶融塩電解を行う。溶融塩電解の装置の一例を、図1に示す。この図1に示すように、装置の下部にフェライト系ステンレス(SUS)製のアノードを配置する。Niが含まれるオーステナイト系ステンレスはNiの汚染が大きいため適当で無い。
【0036】
なお、電解浴・電析物と触れる部分は、汚染防止のため、全てフェライト系ステンレス(SUS)製とするのが望ましい
中でも、後者のSUSは安価なので、特に有効である。他の金属の溶融塩電解で用いられるTi、Ni等はYと合金を造り易いため適当で無い。なお、希土類の溶融塩電解では、一般にグラファイトが用いられているが、これは炭素の汚染原因となるので、本願発明では避けなければならない。溶融塩電解用のルツボとしては、汚染の少ないフェライト系ステンレス(SUS)製のルツボを使用する。
Y原料と電析を分離するためのバスケットを中央下部に配置する。上半分は冷却塔である。この冷却塔と電解槽はゲートバルブ(GV)で仕切る構造としている。
【0037】
浴の組成として、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)の一種以上を任意に選択し、これらに塩化イットリウム(YCl)を混合して、使用することができる。この他のY原料を使用するのも可能である。これらを任意の比率に調整する。
イットリウム原料は、塩合計重量の、20%〜30%に管理するのが望ましい。これにより、効率的な溶融塩電解が可能となる。塩の比率は、状態図から、融点が極小となる点を選択するのが良い。
【0038】
電解浴の温度は、500〜800°Cの間に調節するのが良い。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはないが、この範囲より高温にすると浴を構成する塩の揮発が激しくなり、ゲートバルブや冷却塔が汚染され、清掃が煩雑となるので、避ける必要がある。
一方、低温であるほどハンドリングは容易になるが、この範囲より低温度とすると浴の流動性が悪くなり、浴中組成に分布が出来、清浄な電析が得られなくなる傾向があるので、上記の範囲が好ましい範囲と言える。
【0039】
雰囲気は不活性雰囲気とする。通常、Arガスをフローさせて実施する。アノードの材質としては汚染が生じない材料が好適であり、その意味でステンレス(SUS)を使用することが望ましい。カソードの材料としても同様に汚染の生じない材料を使用する。なお、希土類の溶融塩電解では、一般にグラファイトが用いられているが、これは炭素の汚染原因となるので、本願発明では避けなければならない。
【0040】
(電解条件)
電流密度は0.5〜2.0A/cmの範囲で任意に設定することができる。電圧は0.5〜1.0V程度で行ったが、これらの条件は装置の規模にも依るので、他の条件に設定することも可能である。時間は、通常4〜24時間程度行う。上記の溶融塩電解装置を使用した場合、電析重量300〜1000g程度が得られる。
【0041】
(加熱炉)
加熱炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離する。通常脱塩の温度は1000°C以下とする。保持時間は10〜200hとするが、原料の量により、適宜調節することができる。脱塩によって電析Yの重量は5〜35%程度減少した。
すなわち、これから脱塩により、Clは5〜35%程度減少する。脱塩処理後のY中の塩素(Cl)含有量は50〜3000wtppmであった。
【0042】
(誘導溶解)
上記に得られたイットリウムを用い、水冷Cu坩堝を使用し、真空雰囲気中で誘導溶解し、凝固させてインゴットとした。本実施例では、水冷Cu坩堝を使用したが、溶解装置によっては、カーボン坩堝を使用することもできる。この誘導溶解では、前記溶融塩電解で低下させ難いMg、Caを除去することが可能である。
【0043】
(電子ビーム溶解)
上記に得られたイットリウムの電子ビーム溶解に際しては、低出力の電子ビームを、炉中のイットリウム溶解原料に広範囲に照射することにより行う。通常、20kW〜50kWで行う。この電子ビーム溶解は、数回(2〜4回)繰り返すことができる。電子ビーム溶解の回数を増やすと、Cl、Ca、Mg等の揮発成分の除去がより向上する。
【0044】
上記誘導溶解と電子ビーム溶解については、いずれか一方の溶解又は双方の溶解を行うことができる。双方の溶解を行う場合には、工程順に特に制限はない。溶解時のルツボ材には特に制限はなく、通常水冷ルツボを使用する。
【0045】
上記において、高純度イットリウムの純度から希土類元素を除外するのは、高純度イットリウムの製造の際に、他の希土類自体がイットリウムと化学的特性が似ているために、除去することが技術的に非常に難しいということ、さらにこの特性の近似性からして、不純物として混入していても、大きな特性の異変にはならないということからである。
【0046】
このような事情から、ある程度、他の希土類の混入は黙認されるが、イットリウム自体の特性を向上させようとする場合は、少ないことが望ましいことは、言うまでもない。
また、ガス成分を除いた純度が5N以上とするのは、ガス成分は除去が難しく、これをカウントすると純度の向上の目安とならないからである。また、一般に他の不純物元素に比べ多少の存在は無害である場合が多いからである。
【0047】
ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の電子材料の薄膜を形成する場合には、その多くはスパッタリングによって行われ、薄膜の形成手段として優れた方法である。したがって、上記のイットリウムインゴットを用いて、高純度イットリウムスパッタリングターゲットを製造することは有効である。
ターゲットの製造は、鍛造・圧延・切削・仕上げ加工(研磨)等の、通常の加工により製造することができる。特に、その製造工程に制限はなく、任意に選択することができる。
【0048】
以上から、ガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下、またW、Mo、Taの総量が10wtppm以下、U、Thがそれぞれ50wtppb以下、炭素が150wtppm以下である高純度イットリウムを得ることができる。
ターゲットの製作に際しては、上記高純度イットリウムインゴットを所定サイズに切断し、これを切削及び研磨して作製する。
【0049】
さらに、この高純度イットリウムターゲットを用いてスパッタリングすることにより高純度イットリウムを基板上に成膜することができる。これによって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下である高純度イットリウムを主成分とするメタルゲート膜を基板上に形成できる。基板上の膜はターゲットの組成が反映され、高純度のイットリウム膜を形成できる。
【0050】
メタルゲート膜としての使用は、上記高純度イットリウムの組成そのものとして使用することができるが、他のゲート材と混合又は合金若しくは化合物としても形成可能である。この場合は、他のゲート材のターゲットとの同時スパッタ又はモザイクターゲットを使用してスパッタすることにより達成できる。本願発明はこれらを包含するものである。不純物の含有量は、原材料に含まれる不純物量によって変動するが、上記の方法を採用することにより、それぞれの不純物を上記数値の範囲に調節が可能である。
【0051】
本願発明は、上記によって得られた高純度イットリウム、高純度イットリウムからなるスパッタリングターゲット及び高純度イットリウムを主成分とするメタルゲート用薄膜を効率的かつ安定して提供できる技術を提供するものである。
特に、本発明の高純度イットリウムからなるスパッタリングターゲットは、特性が良好で、アーキングの発生が少なく、ターゲットライフが良好であり(長く、かつ安定しており)、高度な半導体の回路形成に極めて有効である。
さらにターゲットの放射線量(α線量)を測定すると、本願発明により製造された高純度イットリウムスパッタリングターゲットでは、0.001cph/cm未満を達成することができた。これは、従来品(市販品)の0.04cph/cmに比べ一桁以上向上したものであり、本願発明のイットリウムスパッタリングターゲットの顕著性を示す一つと言える。
【実施例】
【0052】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
【0053】
(実施例1)
処理するイットリウムの原料として純度が2N〜3Nの市販品を用いた。このイットリウム原料の分析値を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)20kg、塩化リチウム(LiCl)12kg、塩化イットリウム(YCl)4kgを使用し、Y原料6kgを使用した。
【0056】
電解浴の温度は500〜800°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。
【0057】
電流密度は1.0A/cm、電圧は1.0Vで実施した。電解時間は12時間とし、これにより電析重量500gが得られた。得られた結晶形を、図2に示す。
この電解により得た析出物の分析結果を表2に示す。この表2に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、カリウム濃度が極端に高く、希土類元素と性質が近似しているアルカリ土類金属であるMg、Caの低下も十分では無いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0058】
【表2】
【0059】
(脱塩処理)
この電解析出物を、加熱炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとし、保持時間は100hとした。脱塩によって電析Yの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のY中の塩素(Cl)含有量は160wtppmとなった。
【0060】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られたイットリウムを電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のイットリウム溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10−5〜7.0×10−4mbar、溶解出力30kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。
これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去され、Cl等の揮発成分の除去が可能となった。
【0061】
以上によって、高純度イットリウムを製造することができた。この高純度イットリウムの分析値を表3に示す。この表3に示すように、イットリウム中のAl:0.18wtppm、Fe:0.77wtppm、Cu:0.16wtppmであり、それぞれ本願発明の条件である1wtppm以下の条件を達成していることが分かる。
【0062】
【表3】
【0063】
次に、主な不純物の分析値を示す。Li:<0.01wtppm、Na:<0.05wtppm、K:<0.1wtppm、Ca:<0.1wtppm、Mg:<0.05wtppm、Si:0.1wtppm、Ti:0.15wtppm、Ni:0.3wtppm、Mn:<0.01wtppm、Mo:<0.1wtppm、Ta:<5wtppm、W:<0.05wtppm、U:<0.005wtppm、Th:<0.005wtppmであった。また、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下、炭素が150wtppm以下、とする本願発明の好ましい条件も全て達成していた。
さらに、本実施例のターゲットの放射線量(α線量)を測定したところ、0.001cph/cm未満であった。
【0064】
このようにして得たイットリウムインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は0.96kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度イットリウムスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0065】
(比較例1)
処理するイットリウムの原料として、純度が2N〜3Nレベルの市販品を用いた。この場合、表1に示す実施例1と同一の純度を持つイットリウム原料を使用した。本比較例1で使用した市販品のイットリウムは、120mm角×30mmtの板状物からなる。1枚の重量は、1.5〜2.0kgであり、これを12枚、合計で17kgの原料を使用した。これらの板状のイットリウム原料は非常に酸化され易い物質のため、アルミニウムの真空パックされていた。
【0066】
次に、EB溶解炉を用い、溶解出力32kWで溶解し、鋳造速度8.0kg/hでインゴットを作製した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去された。以上によって、高純度イットリウムインゴット16.74kgを製造することができた。このようにして得た高純度イットリウムの分析値を、表4に示す。
【0067】
表4に示すように、イットリウム中のAl:600wtppm、Fe:290wtppm、Cu:480wtppmであり、それぞれ本願発明の条件であるそれぞれ1wtppm以下の条件に達成していなかった。このように市販YをEB溶解しただけでは、本願発明の目的を達成することができなかった。
また、本比較例のターゲットの放射線量(α線量)を測定したところ、0.04cph/cmとなり、市販品と同等であった。これは、イットリウム中の不純物が多いことが原因で、不純物に付随して高くなったと考えられる。
【0068】
【表4】
【0069】
主な不純物の分析値を示す。Li:0.01wtppm、Na:<0.05wtppm、K:<0.1wtppm、Ca:50wtppm、Mg:<0.05wtppm、Si:340wtppm、Ti:33wtppm、Cr:48wtppm、Ni:410wtppm、Mn:11wtppm、Mo:8.1wtppm、Ta:33wtppm、W:470wtppm、U:0.04wtppm、Th:0.05wtppmであった。
【0070】
上記実施例と比較例の対比から明らかなように、イットリウム原料の電子ビーム溶解法による精製だけでは不純物含有量が多く、本願発明の目的を達成することができない。
実施例に示すように、ガス成分を除く純度が4N以下の粗イットリウム酸化物の原料を、溶融塩電解してイットリウム結晶を得、次にこのイットリウム結晶を、脱塩処理、水洗及び乾燥した後に、電子ビーム溶解して揮発性物質を除去することにより、希土類元素及びガス成分を除いた純度を5N以上とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によって得られる高純度イットリウム、高純度イットリウムから作製されたスパッタリングターゲット及び高純度イットリウムを主成分とするメタルゲート用薄膜は、特にシリコン基板に近接して配置される電子材料として、電子機器の機能を低下又は乱すことがないので、ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の材料として有用である。
図1
図2