【文献】
浅野悠輔、石原良三編,卵−その化学と加工技術−,株式会社光琳,1985年12月,p. 209-220
【文献】
冷凍,2009年,Vol. 84, No. 979,p. 62-68
【文献】
市村司,製菓製パン用加工卵の種類と用途・特徴,ジャパンフードサイエンス,2001年,Vol. 40, No. 11,p. 61-69
【文献】
浅野悠輔、石原良三編,卵−その化学と加工技術−,株式会社光琳,1985年12月,p. 142-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今、卵白の起泡性を利用した菓子・パンに対する消費者のニーズはますます高まっている。このため、製菓・製パンの分野において、工業的に割卵して大量に生産することができ、かつ保存性が高く簡便な凍結液卵白が広く流通している。しかしながら、工業的割卵によって卵黄の混入を免れず、さらに凍結によっても起泡性が低下することから、従来の凍結液卵白では、より食感のよい菓子等を求める消費者のニーズに応えることが難しかった。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、卵黄が混入していても起泡性の高い凍結液卵白及びその製造方法、並びに凍結液卵白を解凍した液卵白を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、従来避けるべきであると考えられていた凍結条件、つまり−1℃〜−5℃の温度帯を長い時間かけて通過させて凍結する凍結条件を敢えて採用し、さらに特定量のα−サイクロデキストリンを用いれば、卵黄が混入している凍結液卵白であっても、従来よりも起泡性が高い液卵白を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)液卵白100部に対して0.01部以上0.4部以下の卵黄が混入した凍結液卵白であって、
液卵白100部に対して0.1部以上のα−サイクロデキストリンを添加し、
下記(1)式により算出される濁度H1(度)が、10以上である
凍結液卵白。
H1=H2−H3…(1)
但し、
H2:前記凍結液卵白を解凍後ただちに測定した濁度(度)
H3:下記近似式(2)により算出される、卵由来の濁度y(度)
を示す。
y=−380.75x
2+272.42x+17.257…(2)
但し、
x:液卵白100部に対する卵黄の混入量(部)
を示す。
(2)(1)に記載の凍結液卵白であって、
下記(3)式により算出される濁度変化率h(%)が、300%以下である
凍結液卵白。
h=H4/H1×100…(3)
但し、
H4:前記凍結液卵白を解凍し5日間冷蔵保管した後に測定した濁度(度)から、前記近似式(2)により算出された濁度y(度)を引いた濁度(度)
を示す。
(3)(1)又は(2)に記載の凍結液卵白であって、
前記卵黄の混入量(部)に対する前記α−サイクロデキストリンの添加量(部)の比が1以上である
凍結液卵白。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の凍結液卵白であって、
液卵白100部に対して0.01部以上0.4部以下の卵黄が混入した原料液卵白に、
α−サイクロデキストリンを液卵白100部に対して0.1部以上添加し、
前記α−サイクロデキストリンを添加した添加液卵白を中心品温が−1℃から−6℃に至るまで3時間以上かけて凍結することにより製造された
凍結液卵白。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の凍結液卵白を解凍した液卵白。
(6)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の凍結液卵白の製造方法であって、
液卵白100部に対して0.01部以上0.4部以下の卵黄が混入した原料液卵白に、α−サイクロデキストリンを液卵白100部に対して0.1部以上添加する添加工程と、
前記α−サイクロデキストリンを添加した添加液卵白を中心品温が−1℃から−6℃に至るまで3時間以上かけて凍結する凍結工程とを有する
凍結液卵白の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、卵黄が混入していても起泡性の高い凍結液卵白及びその製造方法、並びに凍結液卵白を解凍した液卵白を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0015】
<凍結液卵白>
本発明において凍結液卵白とは、工業的規模で機械的に殻付卵を割卵し、卵黄と卵白とを分離して得られる原料液卵白を凍結した卵白をいい、例えば解凍して製菓・製パン等に用いられるものである。本発明の凍結液卵白は、所定量の卵黄が混入した原料液卵白に、所定の添加量のα−サイクロデキストリン等を添加し、これにより得られる添加液卵白を凍結したものである。上記凍結液卵白は、例えば紙パック、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、塩化ビニル又はナイロン−ポリエチレン複合シート等の容器に充填されていてもよい。凍結液卵白は、保存性が高いため特に業務用として重用されているが、卵黄が混入した原料液卵白を凍結させると、起泡性が低下することが知られている。(特許文献1及び非特許文献1参照)。本発明の発明者らは、卵黄が混入していても解凍後に高い起泡性を有する凍結液卵白について研究を重ねた結果、後述するように、卵黄が混入した液卵白にα−サイクロデキストリンを加え、さらに凍結条件等を工夫して濁度を高めることで、起泡性の高い凍結液卵白に想到した。
【0016】
<原料液卵白>
本発明の凍結液卵白の原料となる原料液卵白とは、機械によって工業的に鶏卵等の卵を割卵し、卵黄を分離して得られる液状の卵白をいう。機械によって工業的に割卵するため、本発明の原料液卵白には、所定量の卵黄が混入し得る。
また、本発明の原料液卵白は、加熱殺菌処理、脱糖処理、脱リゾチーム処理等の処理が施されていてもよい。
【0017】
<凍結液卵白を解凍した液卵白>
本発明の凍結液卵白を解凍した液卵白において、解凍方法は特に限定されず、例えば、上記容器に充填された凍結液卵白を20℃程度の恒温水槽中で解凍する方法や、水道水等の流水で解凍する方法、冷蔵庫内で解凍する方法等が挙げられる。また、「解凍」とは、目視により又は容器を触れて確認することにより凍結液卵白全体が解凍し液卵白になったと判断された状態をいうものとする。
【0018】
<起泡性>
本発明の起泡性とは、形成された泡がどの程度の荷重に耐え得るかという泡の硬さをいうものとする。なお、起泡性に関与するその他の要素として、卵白を一定時間泡立てた場合にどの程度高く泡立つことができるかという起泡力(泡立ち性)と、形成された泡がどの程度の時間持続するかという安定性とが挙げられるが、菓子やパンの膨化度や食感に対しては泡の硬さの影響が大きいため、ここでは泡の硬さに着目するものとする。
【0019】
<原料液卵白の卵黄の混入量>
本発明の原料液卵白中の卵黄の混入量は、液卵白100部に対する卵黄の混入量をいい、具体的には0.01部以上0.4部以下である。「液卵白100部」という場合の液卵白とは、卵黄未混入の生卵白のみからなる液卵白をいう。また、卵黄の混入量及び上記液卵白の量は、生換算の量である。上記混入量の卵黄は、原料液卵白を機械によって工業的に製する際に混入し得る量である。
なお、ここでいう「卵黄の混入量」は、機械によって工業的に割卵した際に卵黄が混入した量をいうが、卵黄の添加、除去等の処理により卵黄の量を調整した後の量もいうものとする。
【0020】
<α−サイクロデキストリン>
本発明の凍結液卵白は、α−サイクロデキストリンを添加することを特徴する。α−サイクロデキストリンとは、D−グルコースの重合度が6のサイクロデキストリンをいう。サイクロデキストリンは、D−グルコースがα−1,4−結合により環状に結合した環状オリゴ糖であり、α−デキストリンのほか、D−グルコースの重合度が7のβ−サイクロデキストリン、重合度が8のγ−サイクロデキストリン、さらに高い重合度のδ−又はε−サイクロデキストリンが知られている。また、サイクロデキストリンは、重合度によらず、分子構造に空洞を有し、他の化合物と包接する機能を有することが知られている。
【0021】
<α−サイクロデキストリンの添加量>
本発明のα−サイクロデキストリンの添加量は、液卵白100部に対するα−サイクロデキストリンの添加量をいい、具体的には0.1部以上であり、さらに0.2部以上であるとよい。これにより、凍結液卵白であっても、十分な起泡性を得ることができる。
また、α-サクロデキストリンの添加量の上限値は、特に限定するものではなく、費用対効果の面で、液卵白100部に対し2部以下がよく、さらに1.5部以下がよい。
また、ここでも「液卵白100部」という場合の液卵白とは、卵黄未混入の生卵白のみからなる液卵白をいい、生換算の量である。
【0022】
<濁度>
濁度は、水の濁りの程度を表すものである。本発明の濁度は、上水試験法中の積分球式光電光度法に基づいた濁度計を用いて測定される値である。
より具体的に、積分球式光電光度法による濁度は、濁度=「拡散透過率」/「全光透過率」×100で表すことができる。
なお本発明の濁度において、単位は「度」で表され、ポリスチレン系粒子懸濁液を標準液とした。また、5mmのセルを用いた。
【0023】
<濁度H1>
本発明の濁度H1は、α−サイクロデキストリンの添加工程及びその後の凍結工程で生じる、α−サイクロデキストリンと卵黄成分との包接物等の複合体による濁度を示す。当該複合体の存在により、本発明の凍結液卵白は、十分な起泡性を得ることができる。本発明の濁度H1(度)は、十分な起泡性を得る観点から、10以上であり、さらに15以上であるとよい。
具体的には、本発明の濁度H1は、本発明の凍結液卵白を解凍後ただちに測定した濁度H2(度)から、空試験であるα−サイクロデキストリンを添加してない、つまり卵黄のみ混入した原料液卵白に由来する濁度H3(度)を差引き、算出する。
すなわち、濁度H1(度)は、下記(1)式により算出される。
H1=H2−H3…(1)
但し、上記H2(度)は、本発明の凍結液卵白を解凍後ただちに測定した濁度を示す。ここで、「解凍後ただちに」とは、解凍したと判断された後、15分以内をいう。
H3(度)は、下記の近似式(2)により算出される、卵由来の濁度y(度)を示す。より具体的に、卵由来の濁度y(度)は、本発明の凍結液卵白と同一混入量の卵黄を含みα-サイクロデキストリンを添加しない、凍結前の液卵白の濁度を示すものである。
y=−380.75x
2+272.42x+17.257…(2)
但し、xは、上記液卵白100部における卵黄の混入量(部)を示す。
ここでも「液卵白100部」という場合の液卵白とは、卵黄未混入の生卵白のみからなる液卵白をいう。
また、卵黄の混入量は、常法の脂質測定法により、導出することができる。
【0024】
本発明の濁度H1の上限値は、特に限定されないが、80以下となる。この理由としては、上述の通り濁度は濁度=「拡散透過率」/「全光透過率」×100であるため、H2の値として100を超える値が定義できないこと、及び、後述する近似式(2)よりH3の下限値が約20であること、が挙げられる。
【0025】
<近似式(2)>
近似式(2)は、以下の手順で作業し導出した。まず、液卵白100部に対して異なる混入量(0.01〜0.4部)の卵黄を含む液卵白の濁度をそれぞれ測定し、
図1のようにグラフ中に実測値としてプロットした。続いて、実測値のプロットに基づいて2次の多項式近似曲線を導出し、近似式(2)を得た。表1に、卵黄の混入量(部)と、それに対応する液卵白の濁度(度)の値とを示す。ここで、相関係数R
2は、0.9904である。
【0027】
<濁度変化率>
本発明の濁度変化率h(%)は、下記(3)式により算出される。濁度変化率hは、300以下がよく、さらに、上限値は250以下がよく、さらに200以下がよい。下限値は90以上がよく、さらに95以上、100以上がよい。
h=H4/H1×100…(3)
但し、
H4:上記凍結液卵白を解凍し5日間冷蔵(5℃)保管した後に測定した濁度(度)から、上記近似式(2)により算出される、上記卵由来の濁度y(度)を差引いた濁度(度)
を示す。
H4は、卵由来の濁度から、α−サイクロデキストリン、凍結条件、及び解凍後の冷蔵保管の影響により高められた分の濁度を示す。H4に係る「5日間」とは、より具体的には120時間である。H1は、上述の方法により算出される。
【0028】
濁度変化率が小さいということは、卵白中のα−サイクロデキストリンと卵黄とが凍結液卵白の解凍完了の時点で十分に包接等により複合化されており、解凍後の性状変化による濁度上昇の影響が少ないためであると考えられる。濁度変化率が300以下となる凍結液卵白によれば、解凍完了時点でα−サイクロデキストリンと卵黄成分とが十分に複合化しているため、起泡性をより向上させることが可能となる。
【0029】
<卵黄の混入量(部)に対するα−サイクロデキストリンの添加量(部)の比>
本発明の凍結液卵白は、卵黄の混入量(部)に対するα−サイクロデキストリンの添加量(部)の比が1以上、さらに2以上であってもよい。すなわち、α−サイクロデキストリンの添加量が、卵黄の混入量よりも多くてもよい。これにより、α−サイクロデキストリンが卵黄に対してより効果的に作用し、卵黄に起因する起泡性の低下を抑制することができる。
当該卵黄の混入量(部)に対するα−サイクロデキストリンの添加量(部)の比の上限は特に限定されないが、費用対効果の面で100以下、さらに30以下であればよい。
【0030】
<その他の添加物>
本発明の凍結液卵白には、以上の成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば増粘多糖類、ショ糖、乳糖、焙焼デキストリン、食塩、蛋白加水分解物等を添加することができる。
【0031】
<凍結液卵白の製造方法>
本発明の凍結液卵白の製造方法は、例えば、液卵白100部に対して0.01部以上0.4部以下の卵黄が混入した原料液卵白に、α−サイクロデキストリンを液卵白100部に対して0.1部以上添加する添加工程と、α−サイクロデキストリンを添加した添加液卵白を中心品温が−1℃から−6℃に至るまで3時間以上かけて凍結する凍結工程とを有する。以下、具体的に説明する。
【0032】
<添加工程>
まず、上記混入量の卵黄が混入した原料液卵白に、α−サイクロデキストリンを添加し、常法にしたがって均一に混合して添加液卵白を得る。具体的には、機械割りにより殻付き卵を割卵し、卵黄が混入した原料液卵白を得る。続いて、この原料液卵白にα−サイクロデキストリンを添加し、ミキサーやマグネチックスターラー等で攪拌してα−サイクロデキストリンを添加した添加液卵白を得る。なお、卵黄は、上記混入量となるように適宜調整してもよい。攪拌条件は液卵白の量や衛生的な観点等から適宜設定できる。その後、この上記添加液卵白に加熱殺菌処理等を施してもよい。また上記添加液卵白は、ナイロン、ポリエチレン、塩化ビニル又はナイロン−ポリエチレン複合シート等の容器に充填密封され得る。
【0033】
<凍結工程>
続いて、上記添加液卵白を、中心品温が−1℃から−6℃に至るまで3時間以上、より好ましくは5時間以上かけて凍結する。具体的には、容器に充填密封等された上記添加液卵白を、上記凍結条件を満たすように冷凍庫等で凍結する。なお、中心品温とは、容器内の液卵白の中心部を測定した温度をいうものとする。本発明の凍結液卵白は、α−サイクロデキストリンを添加し、かつ、上記凍結条件を採用することで、濁度H1を10以上とすることができ、起泡性を高めることができる。
なお、凍結温度は、一般的な冷凍食品の保存温度であればよいが、例えば−18℃〜−40℃であればよい。
【0034】
図2は、本発明の凍結条件時における中心品温の低下を例示的に示すグラフであり、横軸が時間、縦軸が中心品温を示す。また、F1は本発明に係る中心品温の低下例のグラフを示し、F2は−1〜−6℃に至るまでの通過時間が本発明よりも短い比較例に係る中心品温の低下例のグラフを示す。また、同図において網掛けしてある−1〜−6℃に至るまでの温度帯は、卵白中の水分が凍り始めてからほぼ凍結する温度帯を示す。
【0035】
冷凍食品の分野では、−1〜−6℃に至るまでの温度帯を長い時間かけて通過させ食品を凍結させた場合、氷結晶が大きく形成されるため、食品の組織を損なう可能性が高いと言われていた。このため、
図2のF2に示すような当該温度帯の通過速度が速い凍結条件が推奨されており、F1に示すような凍結条件は一般に避けるべきであると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、従来避けるべきであると考えられていた凍結条件を敢えて採用することで、卵黄が混入した凍結液卵白であっても従来にはない高い起泡性を有する凍結液卵白に想到した。
【0036】
<本発明の作用効果>
本発明の凍結液卵白は、工業的な割卵等により混入し得る所定量の卵黄を含んでいても、α―サイクロデキストリンを用い、さらに特定の凍結条件を採用することにより解凍後、高い起泡性を実現することができる。作用機序は、以下のように推測される。
まず、α−サイクロデキストリンは、他のサイクロデキストリンと同様、空洞内に他の化合物を包接することが知られていることから、卵黄リポ蛋白質の変性により生じる遊離脂肪酸を包接するものと推測される。さらに、α―サイクロデキストリンは、他のサイクロデキストリンと異なる性質として、α−サイクロデキストリンの外表面部に例えば起泡性を低下させる卵黄リポ蛋白質そのものを結合させることができるのではないかと思われる。これにより、α−サイクロデキストリンは、他のサイクロデキストリンよりも優れた起泡性低下の抑制能を示すものと考えられる。
また、このα−サイクロデキストリンと卵黄成分との包接物等の複合体の量は、濁度H1の数値と相関しており、当該数値が10以上であることが高い起泡性を得る点で肝要である。
次に、−1℃〜−6℃に至るまでに3時間以上かけて凍結した場合、当該温度帯の通過に時間をかけずに凍結した場合と比較して、濁度H1の数値は高くなり、起泡性はより良好となる。これは、時間をかけない場合と比較してより多くの包接物等の複合体が得られるためであると考えられる。
また、凍結は、水分以外の例えば、溶質や分散物等の固形物が含まれていたとしても水分のみが凍結する。したがって、時間をかけて凍結することにより、水分から徐々に凍結し、固形分が濃縮され、α−サイクロデキストリンと卵黄とが包接又は結合する機会が多くなるためであると考えられる。
以上より本発明によれば、保存性の高い凍結液卵白であって、かつ解凍後に十分な起泡性を有する凍結液卵白を提供することが可能となる。
【0037】
以下、本発明を実施例等に基づき、さらに説明する。
【実施例】
【0038】
[実施例1〜3]
(凍結液卵白の製造)
機械的に殻付き卵を割卵し、液卵白を分離し、常法によりろ過や均質化を行い、卵黄混入した原料液卵白を得た。この原料液卵白各々に、α−サイクロデキストリンを表2に示す添加量となるように添加し、攪拌機を用いて均一に混合されるまで攪拌混合し、添加液卵白を得た。さらに、この添加液卵白をプレート式熱交換機にて56℃で3.5分間加熱殺菌し、容器詰めした。続いて、中心品温が−1℃から−6℃に至るまで、表2に示すように20〜30時間かけて−18℃以下に凍結させ、実施例1〜3の凍結液卵白を得た。また、各実施例について、卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比の算出結果を、表2に示す。同表に示すように、これらの比は、いずれも1以上であり、2.5〜20であった。
【0039】
[比較例1〜3]
実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、容器詰めした添加液卵白を製した。なお、卵黄混入量は表2に示す量であり、α−サイクロデキストリンは、表2に示す添加量となるように添加及び/又は調製した。続いて表2に示すように、容器詰めした液卵白の中心品温が−1℃から−6℃に至るまで40分〜50分かけて−18℃以下に凍結させ、比較例1〜3の凍結液卵白を得た。卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比は、表2に示すように、いずれも1以上であり、2.5〜20であった。
【0040】
【表2】
【0041】
(濁度の測定及び算出)
続いて、実施例1〜3及び比較例1〜3の容器詰めされた凍結液卵白を、それぞれ、20℃の恒温水槽に収容し、目視にて解凍が確認されるまで解凍した。解凍後ただちに、積分球式濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名WA2000N)を用いて濁度を測定し、上記(1)式のH2とした。当該濁度計の標準液は、ポリスチレン系粒子懸濁液であり、セルは5mmセルを使用した。続いて、各実施例及び各比較例の液卵白100部に対する卵黄の混入量(部)をxとして、上記近似式(2)からyを算出した。このyをH3として、(1)式により、H1を算出した。これらH1,H2,H3(y)の結果を表2に示す。
同表に示すように、実施例1〜3のH1は、いずれも10度以上であり、18〜36度であった。
一方、比較例1〜3のH1はいずれも10度未満であり、0〜8度であった。
【0042】
(濁度変化率の算出)
続いて、各実施例及び各比較例の凍結液卵白を解凍し、5日間(120時間)、5℃の冷蔵庫にて冷蔵保管した。その後、上述の濁度計及びセルを用いて濁度を測定し、上記(3)式のH4とした。また、測定したH4と算出したH1を(3)式に代入し、hを算出した。この算出結果を表2に示す。
同表に示すように、実施例1〜3の濁度変化率hは、いずれも、300%以下であり、142〜170%であった。
一方、比較例1の濁度変化率hは、濁度H1が0度であったため、算出できなかった。また、比較例2,3の濁度変化率hについては、それぞれ、328%,369%であり、いずれも300%よりも大きかった。
【0043】
[実施例4]
α−サイクロデキストリンの添加量を0.5部に変更した他は、実施例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出、並びに濁度変化率の算出を行った。濁度H2は85度、濁度H3(y)は30度であったことから、(1)式より濁度H1は55度であった。また、5日間冷蔵保管後に測定した濁度は84度、濁度H4は54度であったことから、(3)式より、濁度変化率hは97%であった。また、卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比は、10であった。
【0044】
[実施例5]
α−サイクロデキストリンの添加量を1部に変更し、中心品温が−1℃から−6℃に至るまでの時間を15時間とした他は、実施例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出、並びに濁度変化率の算出を行った。濁度H2は89度、濁度H3(y)は30度であったことから、(1)式より濁度H1は59度であった。また、5日間冷蔵保管後に測定した濁度は88度、濁度H4は58度であったことから、(3)式より、濁度変化率hは99%であった。また、卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比は、20であった。
【0045】
[実施例6]
卵黄の混入量を0.1部、α−サイクロデキストリンの添加量を2部に変更し、中心品温が−1℃から−6℃に至るまでの時間を5時間とした他は、実施例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出、並びに濁度変化率の算出を行った。濁度H2は88度、濁度H3(y)は41度であったことから、(1)式より濁度H1は47度であった。また、5日間冷蔵保管後に測定した濁度は89度、濁度H4は48度であったことから、(3)式より、濁度変化率hは102%であった。また、卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比は、20であった。
【0046】
[実施例7]
加熱による殺菌を行わなかった他は、実施例3の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出、並びに濁度変化率の算出を行った。濁度H2は86度、濁度H3(y)は37度であったことから、(1)式より濁度H1は49度であった。また、5日間冷蔵保管後に測定した濁度は82度、濁度H4は45度であったことから、(3)式より、濁度変化率hは91%であった。また、卵黄の混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比は、2.5であった。
【0047】
[比較例4]
α−サイクロデキストリンに替えて、β−サイクロデキストリンの添加量が液卵白100部に対して0.15部となるように加え、中心品温が−1℃から−6℃に至るまでの時間を40分とした他は、比較例1と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出、並びに濁度変化率の算出を行った。濁度H2は50度、濁度H3(y)は30度であったことから、(1)式より濁度H1は20度であった。
【0048】
[比較例5]
α−サイクロデキストリンを添加しない他は、実施例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出を行った。濁度H2は30度、濁度H3(y)は30度であったことから、(1)式より濁度H1は0度であった。
【0049】
[比較例6]
α−サイクロデキストリンを添加しなかった他は、比較例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。続いて、実施例1〜3の凍結液卵白と同様に、濁度の測定及び算出を行った。濁度H2は30度、濁度H3(y)は30度であったことから、(1)式より濁度H1は0度であった。
【0050】
[試験例 起泡性(硬さ)の評価]
得られた実施例1〜7及び比較例1〜6の凍結液卵白の解凍後の起泡性を評価した。ここでは、菓子やパンの膨化度や食感を高めるために重要な泡の硬さについて、以下のように評価した。なお、対照例として、殻付き卵を割卵した未凍結の液卵白であって、卵黄の混入がなく、未殺菌の液卵白を用意し、同様に評価した。
【0051】
解凍後の凍結液卵白500g、砂糖500gを12コートミキサー(ホバート社製)に入れ、3速(358rpm)で7.5分間撹拌することにより全量を泡立てた。続いて、重り沈下法(JS測定法)により測定した。すなわち、泡の表面に直径4cmの円板状の所定の重さの重りを静置した場合に、15秒間沈まない重りの重さを調べた。この数値は大きい程泡が硬く、しっかりしていることを表している。この結果を表3〜表5に示す。なお、表3には、実施例1,4,5,6及び比較例1,4〜6の結果を示す。表4には卵黄の混入量及びα−サイクロデキストリンの添加量がそれぞれ同一の実施例2及び比較例2の結果を示す。表5には卵黄の混入量及びα−サイクロデキストリンの添加量がそれぞれ同一の実施例3、実施例7及び比較例3の結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
まず表3を参照し、実施例1は、同一量の卵黄及びα−デキストリンを含む比較例1と比較して、対照例により近い硬さが得られることが確認された。また表4を参照し、実施例2も、同一量の卵黄及びα−デキストリンを含む比較例2と比較して、対照例により近い硬さが得られることが確認された。さらに、表5を参照し、実施例3も、同一量の卵黄及びα−デキストリンを含む比較例3と比較して、対照例により近い硬さが得られることが確認された。したがって、本発明の凍結条件を適用して濁度H1を10以上とした本発明の凍結液卵白は、より急速に凍結させ濁度H1が10より小さい凍結液卵白よりも、対照例の理想的な起泡性により近い起泡性を有することが確認された。
【0056】
続いて、再び表3を参照し、実施例1と比較例1、4〜6との結果を比較する。α−サイクロデキストリンが添加された実施例1は、α−サイクロデキストリンが添加されていない比較例1、4〜6と比較して、対照例により近い硬さが得られることが確認された。
また、実施例1は、同様の凍結条件により凍結された比較例5と比較して、より硬い泡を得られることが確認された。これにより、本発明の凍結条件により凍結させることに加えて、α−サイクロデキストリンを加えることが、硬い泡を得るために必要であることが確認された。
さらに、卵黄は混入しているが、α−サイクロデキストリンは添加されていない比較例5と比較例6とを比較すると、より急速に凍結された比較例6のほうが、本発明の凍結条件により凍結された比較例5よりも、硬い泡が得られた。つまり、冷凍食品業界の技術常識に合致する結果であった。しかし一方で、卵黄が混入し、かつα−サイクロデキストリンが添加された場合には、従来避けるべきとされていた本発明の凍結条件で凍結させた実施例1のほうが、急速に凍結した比較例1よりも、硬い泡が得られた。すなわち、α−サイクロデキストリンを添加することに加え、本発明の凍結条件を採用することにより、従来の技術常識を覆す結果が得られることが確認された。
【0057】
また表3を参照し、実施例1は、β−サイクロデキストリンが添加され急速に凍結させた従来例として知られている比較例4と比較して、硬い泡を得ることができることも確認された。
さらに、同一量の卵黄が混入した実施例1と実施例4,5とでは、α−サイクロデキストリンがより多く添加された実施例4,5の方が起泡性が高いことが確認された。また、実施例4よりも卵黄を多く含む実施例6であっても、卵黄混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比が高ければ、高い起泡性が得られることが確認された。これにより、α−サイクロデキストリンが起泡性の向上に寄与していることが改めて確認されたとともに、卵黄混入量に対するα−サイクロデキストリンの添加量の比が高いと起泡性が高まる傾向にあることが確認された。
【0058】
また、表5を参照し、未殺菌の実施例7は、同一量の卵黄及びα−サイクロデキストリンが添加された実施例3よりも起泡性が高いことが確認された。なお、実施例7は、当然ながら、同一量の卵黄及びα−サイクロデキストリンを含み急速に凍結させた比較例3よりも起泡性が高いことも確認された。これにより、本技術は未殺菌の凍結液卵白であっても適用可能であることが確認された。
【0059】
[実施例8]
実施例8として、増粘多糖類であるキサンタンガムを液卵白100部に対して0.01部添加した他は、実施例1の凍結液卵白と同様に凍結液卵白を製した。
得られた凍結液卵白は、濁度H1が10度以上80度以下であり、濁度変化率hが90%以上300%以下であった。
また、上記試験例と同様に起泡性(硬さ)を評価したところ、実施例1と同様に良好な起泡性が確認された。
【0060】
[考察]
試験例の結果に基づいて本発明を考察する。まず、本発明の凍結条件の凍結液卵白は、ゆっくりと氷結晶が形成され、水分中のα−サイクロデキストリンと卵黄との濃度が徐々に高まる。この過程で、α−サイクロデキストリンが卵黄リポ蛋白質の変性により生じる遊離脂肪酸を空洞に包接し、さらにα−サイクロデキストリンの外表面部に卵黄リポ蛋白質自体を結合するためか、卵黄による起泡性の低下を抑制すると考えられる。
また、α−サイクロデキストリンと卵黄とが包接及び/又は結合して複合体を形成することにより、濁度が高まると考えられる。
一方、凍結速度がより速い場合は、急速に氷結晶形成されるため、α−サイクロデキストリンと卵黄のリポ蛋白質とが相互作用することが難しく、卵黄による起泡性の低下を抑制できないと考えられる。
【0061】
また、β−サイクロデキストリンは、α−サイクロデキストリンと同様に包接機能を有するが、凍結速度を調節しても十分な起泡性を得られなかった。これは、β−サイクロデキストリンは卵黄のリポ蛋白質の変性により生じる遊離脂肪酸を包接することができるが、卵黄リポ蛋白質自体を結合していないためか、起泡性の低下を十分に抑制できないことを示唆している。したがって、サイクロデキストリンの中でも特にα−サイクロデキストリンを用い、かつ、本発明の凍結条件を適用して卵白を凍結しα−サイクロデキストリンと卵黄リポ蛋白質との複合体を形成することにより、起泡性の向上が可能になると考えられる。