(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クロム系材料は、クロム金属、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、クロム酸化窒化炭化物の何れかであり、
前記スズを含有するクロム系材料は、スズ−クロム金属、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物の何れかである、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のハーフトーン位相シフトマスクブランク。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、パターンの更なる微細化のための研究開発が進められている。特に近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、あるいは、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求はますます高くなってきている。
【0003】
これに伴い、微細加工の際の光リソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術の分野においても、より微細でかつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
【0004】
一般に、光リソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。しかし、このことは、フォトマスクに形成されるパターンに求められる精度が半導体基板上に形成されるパターンに比較して緩やかになることを意味するものではない。寧ろ、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには、露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。
【0005】
今日の光リソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクのパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉等の影響によって、
半導体基板上のレジスト膜に本来の形状が転写されない結果となってしまう。
【0006】
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉等の影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)を施した形状がある。
【0007】
このように、回路パターンサイズの微細化に伴い、フォトマスクパターン形成のためのリソグラフィ技術においても、更なる高精度加工手法が求められる。リソグラフィ性能は限界解像度で表現されることがあるが、上述したとおり、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。このため、フォトマスクパターンを形成するための解像限界もまた、半導体基板上にパターン形成する際のリソグラフィに必要な解像限界と同等程度又はそれ以上の解像限界が求められることとなる。
【0008】
ところで、フォトマスクパターンを形成する際には、通常、透明基板上に遮光膜を設けたフォトマスクブランクの表面にレジスト膜を形成し、電子線によるパターンの描画(露光)を行う。そして、露光後のレジスト膜を現像してレジストパターンを得た後、このレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングして遮光(膜)パターンを得る。このようにして得られた遮光(膜)パターンが、フォトマスクパターンとなる。
【0009】
このとき、上述のレジスト膜の厚みは、遮光パターンの微細化の程度に応じて薄くする必要がある。これは、レジスト膜の厚みを維持したまま微細な遮光パターンを形成しようとした場合には、レジスト膜厚と遮光パターンサイズの比(アスペクト比)が大きくなって、レジストパターンの形状の劣化によりパターン転写がうまく行かなくなったり、レジストパターンが倒れたり剥れを起こしたりしてしまうためである。
【0010】
透明基板上に設けられる遮光膜の材料としては、これまでにも多くのものが提案されてきたが、エッチングに対する知見が多いなどの理由から、実用上、クロム化合物が用いられてきた。
【0011】
クロム系材料膜のドライエッチングは、一般に、塩素系のドライエッチングにより行われる。しかし、塩素系のドライエッチングは、有機膜に対してもある程度のエッチング能力を有することが多い。このため、薄いレジスト膜にレジストパターンを形成し、これをマスクとして遮光膜をエッチングすると、塩素系ドライエッチングにより、レジストパターンも無視できない程度にエッチングされてしまう。その結果、遮光膜に転写されるべき本来のレジストパターンが、正確には転写されないことになる。
【0012】
このような不都合を回避するためには、エッチング耐性に優れたレジスト材料が求められるところではあるが、かかるレジスト材料は未だ知られていない。このような理由から、高解像性の遮光(膜)パターンを得るための、加工精度の高い遮光膜材料が必要となる。
【0013】
従来の材料よりも加工精度に優れた遮光膜材料に関し、クロム化合物中に軽元素を所定の量だけ含有させることにより、遮光膜のエッチング速度を向上させる試みが報告されている。
【0014】
例えば、特許文献1(国際公開WO2007/74806号公報)には、主にクロム(Cr)と窒素(N)とを含む材料であって且つX線回折による回折ピークが実質的にCrN(200)である材料を用い、これを遮光膜材料とすることでドライエッチング速度を高め、塩素系ドライエッチング時のレジストの膜減りを低減する技術が開示されている。
【0015】
また、特許文献2(特開2007−33469号公報)には、クロム系化合物の遮光性膜の組成を従来の膜に比較して軽元素リッチ・低クロム組成とすることでドライエッチングの高速化を図りつつ、所望の透過率Tと反射率Rを得るための組成、膜厚、積層構造を適切に設計したフォトマスクブランクの発明が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0041】
なお、「遮光膜」という用語は、光の反射を防止する膜である「反射防止膜」とは区別して、露光光を吸収する機能をもつ膜として用いられる場合があるが、本明細書においては、特別に断らない限り、遮光膜成る用語を、上述の意味での「遮光膜」と「反射防止膜」の双方を包含するものとして用いる。上述の意味での「遮光膜」と「反射防止膜」を区別する際には、露光光を吸収する機能を担う上記「遮光膜」を遮光層と、主に反射防止機能を担う上記「反射防止膜」を反射防止層と呼ぶことにする。
【0042】
上述したように、近年のフォトマスクパターン形成のためのリソグラフィ技術に対する更なる微細化・高精度化の要求に応えるハーフトーン位相シフトマスクブランクを提供するためには、フッ素系ドライエッチングにより加工されるハーフトーン位相シフト膜上に設けられるクロム系材料から成る遮光膜のエッチング速度を、従来とは異なる手法により向上させることが必要となる。
【0043】
本発明者らは、遮光膜材料としてのクロム系材料のドライエッチング速度向上につき検討した結果、クロム系材料にスズを含有させることにより、遮光性を低下させることなく酸素を含む塩素系ドライエッチングに対するドライエッチング速度を有意に向上させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0044】
本発明に係るハーフトーン位相シフトマスクブランクは、少なくとも1層のクロム系材料からなる層を備えた単層構造若しくは多層構造の遮光膜を備えた公知のハーフトーン位相シフト膜ブランクを改良したもので、クロム系材料からなる層のうち少なくとも1層にスズを含有させることとしたものである。
【0045】
クロム系材料から成る層を用いて遮光膜を構成する構造のハーフトーン位相シフトマスクブランクは公知であり、例えば特許文献2には、遮光膜の全層がクロム系材料から成る構成が開示されている。また、遮光膜の一部をクロム系材料からなる層とした構成も公知である(例えば、特許文献7:特開2006−146151号公報や、特許文献8:特開2006−78807号公報を参照)。本発明による遮光膜の改良は、これらの何れの構成にも適用できる。
【0046】
すなわち、本発明に係るハーフトーン位相シフトマスクブランクは、ハーフトーン位相シフト膜上に単層構造若しくは多層構造の遮光膜が設けられており、この遮光膜はクロム系材料からなる層を少なくとも1層備えており、且つ、クロム系材料からなる層のうち少なくとも1層はスズを含有するクロム系材料からなる構成とされる。
【0047】
そこで先ず、スズを含有するクロム系材料についての説明を行う。
【0048】
クロム系材料は比較的良好な化学的安定性を有することから、光学膜用材料、特に遮光膜材料として広く用いられてきた。クロム系材料はフッ素系のエッチングガスに対する耐性が高いため、フッ素系のドライエッチングによりケイ素系材料をパターニングする際のエッチングマスクとしても安心して用いることができる。
【0049】
クロム系材料膜をパターニングする際には塩素系のドライエッチングが行われるのが一般的である。しかし、パターニングに用いられるフォトレジストは、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより無視できない程度にエッチングされてしまう。このため、レジスト膜の厚みを薄くするのには限界があるところ、レジスト膜が厚くなるとフォトレジストに微細パターンを形成することが困難となる。つまり、酸素を含む塩素系ドライエッチングによるレジスト膜の無視できない膜減りは、クロム系材料膜を高い精度でパターニングすることを困難とする。
【0050】
このような問題に鑑み、クロム系材料膜上にハードマスクを形成し、このハードマスクを利用して、クロム系材料膜を、酸素を含む塩素系ドライエッチングで加工してパターン形成を行う手法が公知である。この手法によれば、酸素を含む塩素系ドライエッチングによるレジスト膜の膜減りの問題は解決される。
【0051】
このようなハードマスク用の材料としては、例えば、フッ素系のドライエッチングでエッチングでき、酸素を含む塩素系のドライエッチングに対してエッチング耐性を示すケイ素系材料が知られている(例えば、特許文献5を参照)。この他にも、ケイ素に酸素や窒素を含有させた材料や、これに更に炭素を含有させた材料、或いは、遷移金属とケイ素に酸素や窒素を含有させた材料や、これに更に炭素を含有させた材料等も知られている(例えば、特許文献6を参照)。
【0052】
このようなハードマスクを利用する方法では、先ず、レジストパターンをフッ素系のドライエッチングによりハードマスク膜に転写してハードマスクパターンを得、更に、このハードマスクパターンを利用してクロム系材料膜の酸素を含む塩素系ドライエッチングによるパターン形成を行う。
【0053】
このようなハードマスク技術を用いると、クロム系材料膜をエッチングする際のレジスト膜への負荷の問題は解決するものの、上述したハードマスク用材料の、酸素を含む塩素系ドライエッチングに対するエッチング耐性も必ずしも十分ではないため、ハードマスクの薄膜化にも限界がある。特に、最小線幅が20nmといった微細なパターンを含む回路の露光用フォトマスクをハードマスク技術の利用により作製することは、難しくなってきている状況である。
【0054】
このように、従来の手法に替わる、マスクパターンへの負荷を軽くしてクロム系材料膜をエッチングする新たな方法が求められる。
【0055】
ところで、クロム系材料膜をスパッタリングにより成膜する場合には、金属不純物を含まない高純度のクロムターゲットが用いられるのが一般的である。これは、スパッタリング成膜されたクロム系材料膜中に金属不純物が混入してしまうと、クロム系材料膜のエッチング速度が低下することが経験的に知られている等の理由による。
【0056】
本発明者らは、クロム系材料からなる膜の設計自由度を担保しつつ当該膜のドライエッチング速度を高め得る新規な手法について種々の検討を重ねた結果、クロム系材料膜中にスズが含まれていると、酸素を含む塩素系ドライエッチングを行った際のエッチング速度が向上するという知見を得て本発明をなすに至った。
【0057】
つまり、従来は、クロム系材料膜のエッチング速度を低下させないために、高純度のクロムターゲットを用いて金属不純物を混入させないように成膜がなされていたのに対し、本発明者らは、上述した新たな知見に基づき、クロム系材料膜中にスズを意識的に添加させるように成膜することとした。
【0058】
本発明者らの検討によれば、クロム系材料膜中のスズ含有量(濃度)は、クロムの含有量に対して、原子比で0.01倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.1倍以上であり、さらに好ましくは0.3倍以上である。
【0059】
クロムに対してスズの含有量が原子比で0.01倍以上のクロム系材料膜は、一般的な酸素を含む塩素系ドライエッチング条件下において、エッチング速度が有意に向上する。この効果は、スズ含有量を高めることで大きくなる。なお、スズの含有量の上限には特別な制約はないが、スズの含有量が過剰となると、スズを含まないクロム系材料と略同等の諸特性を示す膜を得難くなる可能性がある。このため、スズの含有量は、クロムに対し、原子比で2倍以下とすることが好ましく、1.5倍以下とすることがより好ましい。
【0060】
本発明に係る単層構造若しくは多層構造の遮光膜は、クロム系材料からなる層を少なくとも1層備えており、クロム系材料からなる層のうち少なくとも1層に上述の濃度のスズが含有されている。つまり、遮光膜を構成するクロム系材料から成る層のすべてにおいて上述の濃度でスズを含有する必要はない。しかし、実用上、遮光膜を構成するクロム系材料から成る層の全層厚のうちの50%以上の層で、上述の濃度のスズを含有することが好ましい。この値は、75%以上であることがより好ましい。勿論、多層構造の遮光膜の全層をクロム系材料からなる層としてもよく、その全ての層に上述の濃度でスズを含有させてもよい。
【0061】
スズを含有するクロム系材料層中における、スズのクロムに対する含有比は一定でも良く、あるいは、層によってクロムに対するスズの含有比を変化させても良い。また、遮光膜を構成する各層に含まれるスズは、各層中で均一に分布している必要はなく、層の厚み方向(深さ方向)に濃度変化を有するプロファイルをもっていてもよい。
【0062】
例えば、上層はスズを含有しない、あるいはスズの含有比の低い層とし、下層は高いスズ含有比の層とすれば、上層(表面側)のエッチング速度に対して下層(基板側)のエッチング速度のみを向上させることができ、オーバーエッチング時間を短く設定することが可能となる。一方、基板側のスズ含有比を低く設計した場合には、ドライエッチング時のクロムのモニタリングによる終端検出をより容易にすることができる。
【0063】
より具体的には、例えば、本発明に係る遮光膜が全てクロム系材料層から成る場合、当該遮光性膜の厚みの全体においてクロムの含有量に対するスズ含有量を0.01倍以上としてもよいが、反射防止機能を重視した層と遮光機能を重視した層でスズの含有量を変化させ、反射防止機能を重視した層のみをクロム含有量に対するスズの含有量を0.01倍以上である膜としたり、逆に、遮光機能を重視した層のみをクロム含有量に対するスズの含有量を0.01倍以上である膜とする等の態様も可能である。
【0064】
上述のスズを含有するクロム系材料としては、スズ−クロム金属のほか、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0065】
また、スズを含有しないクロム系材料としては、クロム金属のほか、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、クロム窒化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0066】
本発明に係るスズを含むクロム系材料層は、一般的なクロム系材料層を成膜するための公知の方法(例えば、特許文献1、2、4、7、8を参照)に準じて行うことができるが、DCスパッタリングやRFスパッタリング等のスパッタリング法によれば、均質性に優れた膜を容易に得ることができる。
【0067】
本発明に係るスズを含むクロム系材料層をスパッタンリング成膜する際には、スズを添加したクロムターゲット(スズ添加クロムターゲット)を用いてもよく、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けてコ・スパッタリング(同時スパッタリング)を行うようにしてもよい。また、単一のターゲット中にクロム領域とスズ領域を有する複合ターゲットを用いるようにしてもよい。更には、複合ターゲットとクロムターゲットを用いてコ・スパッタリングを行うようにしてもよい。
【0068】
クロムターゲットにスズを添加する場合には、金属スズとして添加するほか、スズ酸化物、スズ窒化物、ITO等のスズ化合物として添加してもよい。
【0069】
また、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットを用いてコ・スパッタリングを行う場合には、それぞれのターゲットの面積比のみならず、各ターゲットに印加する電力を制御することにより無機材料膜中のスズ濃度を調整することもできる。
【0070】
特に、スズを含むクロム系材料層間でクロムとスズの比を変化させたい場合や、1つの層中でクロムとスズの比を徐々に変化させたい場合には、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットの組み合わせ、もしくはスズの含有量が異なるターゲットの組み合わせを用いてコ・スパッタリングを行い、ターゲット間の印加電力比を変化させることによって、所望のスズ含有比が異なる層を容易に形成することができる。
【0071】
本発明に係る遮光膜を成膜する際のスパッタリングガスは、膜組成に応じて適宜選択される。光学濃度を調整するためには、スパッタリングガスによる反応性スパッタリングを用い、酸素、窒素、炭素から選ばれる1種以上の元素を添加して調整することは公知のクロム系材料層を成膜する場合と同じである。
【0072】
例えば、軽元素を含まないスズ含有無機材料膜を成膜する場合には、アルゴンガスのみを用いればよい。軽元素を含有する無機材料膜を成膜する場合には、窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス、酸化炭素ガス、炭化水素ガス等の反応性ガスの1種類以上、あるいはそれらの反応性ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行えばよい。
【0073】
また、スズを含むクロム系材料層を含む遮光膜を設計する際には、添加する軽元素についても、公知のクロム系材料層を設計する際使用する範囲に適当な量が見出される。
【0074】
スパッタリングガスの流量は適宜調整される。ガス流量は成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。
【0075】
上述のスズを含有するクロム系材料から成る層は、ハーフトーン位相シフト膜上に設けられるクロム系材料から成る層を構成要素として備える構造の公知の遮光膜に、略そのまま適用することができる。
【0076】
この場合、公知の多層構造の遮光膜のクロム系材料層を本発明に係る上記クロム系材料層に置き換えてもよく、遮光膜を構成する層の全てを本発明に係る上記クロム系材料層に置き換えてもよい。
【0077】
以下に、本発明における遮光膜の設計について、簡単に説明する。
【0078】
ハーフトーン位相シフト膜上に設けられる遮光膜は、比較的高透過率のハーフトーン膜を用いたトライトーンマスクの完全遮光部を形成するために用いたり、加工対象である基板上に複数回の露光を行う場合にショット間での重なり露光が生じてしまう領域での光漏れを防止するための遮光部(遮光枠)などとして用いられる。
【0079】
このような遮光部には、遮光膜とハーフトーン位相シフト膜を通過する露光光を実質的に遮断する機能が要求される。そこで、通常、マスクとして使用する際の露光光に対する光学濃度が所望の値となるように材料と膜厚が設計される。なお、上記光学濃度は、好ましくは2.5以上とされる。
【0080】
また、遮光膜の表面側、すなわちハーフトーン位相シフト膜と接する面とは反対側)に、反射防止機能を有する層を設ける場合には、この反射防止機能層の光学濃度や膜厚も所望の値となるように設計され、露光光に対する反射率は、例えば35%以下、好ましくは25%以下に設計される。
【0081】
このような遮光膜を多層構造とし、この遮光膜を構成する全層をクロム系材料からなるものとし、遮光膜の全厚の例えば50%以上を上述したスズを含有するクロム系材料から成る層とした場合には、スズを含有しないクロム系材料の層のみで構成された遮光膜に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチング条件下のエッチング速度を有意に高めることができ、エッチング時間の短縮が図られる。
【0082】
スズを含有するクロム系材料から成る層が遮光膜中で占める割合は、好ましくは75%以上であり、特に、全層がスズを含有するクロム系材料から成る層とした場合には、上記エッチング時間の短縮効果は顕著である。このようなエッチング時間の短縮効果により、遮光膜をエッチングする工程中に受けるレジストパターンのダメージが軽減され、高精度な遮光膜パターンが得られる。
【0083】
一方、スズを含有するクロム系材料膜の、フッ素系ドライエッチング条件に対するエッチング耐性は、スズを含有しないクロム系材料膜のエッチング耐性と同等乃至はそれ以上である。
【0084】
このため、特許文献8に開示されているような、遮光膜の表面側にクロム系材料の層を備えその他の層はケイ素系材料の層からなる遮光膜をパターニングする際には、先ず、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより上側のスズを含有するクロム系材料層を加工してレジストパターンへの負荷を軽減し、これによりパターニングされたスズを含有するクロム系材料層をハードマスクとして下側のケイ素系材料層をフッ素系ドライエッチングしてパターニングすることができる。
【0085】
本発明のハーフトーン位相シフトマスクブランクが備えるハーフトーン位相シフト膜は、所定の透過率と位相差を実現できる膜であれば特に制約はないが、フッ素系ドライエッチングで加工可能な材料から成る膜とすることが好ましい。このような材料としては、タンタル化合物(例えば特許文献4を参照)、遷移金属を含有するケイ素系材料(例えば特許文献3、6〜8を参照)等が公知であり、実用化もされている。
【0086】
ケイ素系材料に含有される遷移金属としては、タングステン、モリブデン、チタン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、バナジウム、コバルトやニッケル等が挙げられる。このうち、モリブデンを含むものが加工特性の観点から好ましい。
【0087】
モリブデンを含有するケイ素系材料としては、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド炭化物(MoSiC)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)、モリブデンシリサイド窒化炭化物(MoSiNC)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)などが挙げられる。このうち、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)が好ましい。
【0088】
このような遷移金属を含有するケイ素系材料から成るハーフトーン位相シフト膜は、公知の方法により成膜することができる。例えば、ターゲットとして、遷移金属を含有させたケイ素ターゲット、或いは、ケイ素単体のターゲットと遷移金属を含有させたケイ素ターゲット、または、ケイ素単体のターゲットと遷移金属ターゲットとを用いたスパッタリング法により成膜可能である。
【0089】
この際のスパッタガスとしては、例えば、ネオン、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス(雰囲気ガス)と、必要に応じ、酸素、窒素又は炭素を含む反応性ガス(例えば、酸素ガス(O
2)、窒素ガス(N
2)、酸化窒素ガス(NO,NO
2,N
2O)、酸化炭素ガス(CO,CO
2)、炭化水素ガス(例えばメタンガス)など)が選択される。なお、反応性ガスの種類は、成膜するハーフトーン位相シフト膜の組成により適宜選定される。
【0090】
なお、ハーフトーン位相シフト膜は、一般に、露光光の透過率が5〜40%となるように設計される。また、その膜厚は、一般に、露光光の位相シフト膜の形成していない部分との位相差をおよそ180°になるように設計される。
【0091】
本発明のハーフトーン位相シフトマスクブランクにおいても、特許文献6に開示のフォトマスクブランクと同様に、遮光膜の上側、すなわち透明基板とは逆側に、フッ素系ドライエッチングまたは酸素を含まない塩素系ドライエッチングで加工可能で且つ酸素を含む塩素系ドライエッチングにエッチング耐性を有するハードマスク膜を設けてもよい。
【0092】
このようなハードマスク膜用の材料は特許文献6に詳しく記載されているが、タンタル化合物やハフニウム化合物、遷移金属を含有しないケイ素系材料、或いは、遷移金属を含有するケイ素系材料を挙げることができる。加工容易性の観点からは、遷移金属を含有しないケイ素系材料、或いは、遷移金属を含有するケイ素系材料が好ましい。
【0093】
ケイ素系材料に含有される遷移金属としては、タングステン、モリブデン、チタン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、バナジウム、コバルトやニッケル等が挙げられる。このうち、モリブデンを含むものが加工特性の観点から好ましい。
【0094】
モリブデンを含有するケイ素系材料としては、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド炭化物(MoSiC)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)、モリブデンシリサイド窒化炭化物(MoSiNC)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)などが挙げられる。
【0095】
遷移金属を含有しないケイ素系材料としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、窒化炭化ケイ素、酸化窒化炭化ケイ素が例示される。
【0096】
特許文献6には、全層がスズを含有しないクロム系材料から成る遮光膜をケイ素系材料から成るハードマスク膜で加工する場合の例示があるが、そのハードマスク膜の厚みは90nm以上と比較的厚く設計されている。
【0097】
これに対し、本発明のように、スズを含有するクロム系材料から成る層を構成要素として含む遮光膜の場合には、ハードマスク膜の厚みは50nm以下で十分であり、実用上20nm以下としても問題は生じることがなく、10nm以下としても遮光膜の加工は可能である。
【0098】
なお、このようなハードマスク膜の厚みの下限は、ハーフトーン位相シフト膜の透過率およびこれにより定められる遮光膜の厚さにもよるが、1nmを下回ると充分な加工精度を確保できなくなる可能性がある。
【0099】
ハードマスク膜は、遮光膜を加工した後に除去してしまう態様のものには限られない。特許文献7に開示されているもののように、遮光膜の表面側がケイ素系材料であり、基板側がクロム系材料で構成されている遮光膜の膜中にこのようなハードマスク膜を設ける態様としてもよい。
【0100】
この態様の遮光膜は、表面側のケイ素系材料層をフッ素系ドライエッチングにより加工され、これにより得られたケイ素系材料パターンがハードマスクパターンとして利用される。つまり、遮光膜を構成するケイ素系材料層は「ハードマスク膜」としても機能する。そして、このケイ素系材料パターンをマスクとして、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより基板側のクロム系材料層が加工される。このとき、当該クロム系材料層がスズを含有する場合には、エッチング時間の短縮化が図られる。
【0101】
上述した通り、スズを含有するクロム系材料を遮光膜等に採用すると、酸素を含む塩素系ドライエッチング時のエッチング速度の向上が図られ、且つ、フッ素系ドライエッチング条件に対する十分なエッチング耐性も確保できる。その結果、高い精度での加工が可能となる。
【0102】
クロム系材料から成る膜を構成要素として含むハーフトーン位相シフトマスクブランクを用いてハーフトーン位相シフトマスクを作製するプロセスは公知である(例えば、特許文献3、6〜8を参照)。そこで、以下では、例示により簡単に各工程について説明する。
【0103】
スズを含有するクロム系材料からなる層は、スズを含有しないクロム系材料からなる層と同様に、酸素を含有する塩素系ガスによりドライエッチングすることができるが、同一条件下で比較すると、スズを含有しないクロム系材料からなる層に比較して有意に高いエッチング速度を示す。
【0104】
スズを含有するクロム系材料からなる層のドライエッチングは、例えば、塩素ガスと酸素ガスの混合比(Cl
2ガス:O
2ガス)を、体積流量比で1:2〜20:1とし、必要に応じてヘリウムなどの不活性ガスを混合したガスを用いて行うことができる。
【0105】
スズを含有するクロム系材料からなる層をエッチングマスクとして用い、その下にある膜を、フッ素系ドライエッチングで加工する場合には、例えば、フッ素を含むガスを用いることができる。このようなフッ素を含むガスとしては、フッ素ガス、炭素とフッ素を含むガス(CF
4やC
2F
6など)、硫黄とフッ素を含むガス(SF
6など)を例示することができる。また、これらフッ素を含むガスとヘリウムなどのフッ素を含まないガスとの混合ガスを用いることもできる。このようなエッチング用のガスには、必要に応じて酸素などのガスを添加してもよい。
【0106】
図1は、本発明に係るハーフトーン位相シフトマスクブランクの構成の一態様を示す断面図である。この図に示した態様では、透明基板1上に、ハーフトーン位相シフト膜2と遮光膜3が積層されており、遮光膜3の全体がスズを含有するクロム系材料で成膜されている。また、ハーフトーン位相シフト膜2は、モリブデンケイ素窒化酸化物から成る。このようなブランクを用いてハーフトーン位相シフトマスクを製造する工程は、概ね下記のとおりである。
【0107】
図2は、ハーフトーン位相シフトマスクの製造プロセスの一態様を示す図である。先ず、
図1に示したハーフトーン位相シフトマスクブランク(
図2A)の遮光膜3の上に、フォトレジストを塗布してレジスト膜4を形成する(
図2B)。
【0108】
次に、パターニングにより残したいハーフトーン位相シフト膜2の部分を保護するためのレジストパターンを得るべく、レジスト膜4に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン5を得る(
図2C)。
【0109】
このレジストパターン5をマスクとして用い、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより、遮光膜3をパターニングする(
図2D)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成る遮光膜3は高いエッチング速度を有するため、エッチング時間が短縮されてレジストパターン5へのダメージが軽減される。その結果、高精度でパターン転写することができる。
【0110】
これに続いて、パターニングされた遮光膜3をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングによるハーフトーン位相シフト膜2の加工を行う。このドライエッチングによりレジストパターン5の膜減りが生じるが、スズを含有するクロム系材料から成る遮光膜3のフッ素系ドライエッチングに対する耐性は十分に高いため、設計パターンに忠実なハーフトーン位相シフト膜2のパターンが得られる(
図2E)。
【0111】
残存するレジストパターン5はドライエッチングにより除去され(
図2F)、新たにフォトレジストを塗布してレジスト膜4´を形成する(
図2G)。
【0112】
そしてこのレジスト膜4´に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン5´を得る(
図2H)。
【0113】
このレジストパターン5´をマスクとして用い、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより、遮光膜3をパターニングする(
図2I)。
【0114】
残存するレジストパターン5´はドライエッチングにより除去され、
ハーフトーン位相シフトマスクが完成する(
図2J)。
【0115】
図3は、本発明に係るハーフトーン位相シフトマスクブランクの構成の他の態様を示す断面図である。この図に示した態様では、透明基板1上に、ハーフトーン位相シフト膜2と遮光膜3が積層されており、遮光膜3の全体がスズを含有するクロム系材料で成膜されている。
【0116】
この遮光膜3の上には、クロム系材料をエッチングする際のハードマスク膜6が設けられている。このハードマスク膜6は、フッ素系ドライエッチング条件でエッチングされ、且つ、酸素を含む塩素系ドライエッチングに対してはエッチング耐性を有する膜であって、例えば、シリコンを含有し更に軽元素として窒素と酸素の少なくとも一方を含有する膜である。このような材料としてはケイ素酸化物を例示することができる。なお、この態様においても、ハーフトーン位相シフト膜2は、モリブデンケイ素窒化酸化物から成る。このようなブランクを用いてハーフトーン位相シフトマスクを製造する工程は、概ね下記のとおりである。
【0117】
図4は、ハーフトーン位相シフトマスクの製造プロセスの他の態様を示す図である。先ず、
図3に示したハーフトーン位相シフトマスクブランク(
図4A)のハードマスク膜6の上に、フォトレジストを塗布してレジスト膜4を形成する(
図4B)。
【0118】
次に、パターニングにより残したいハードマスク膜6の部分を保護するためのレジストパターンを得るべく、レジスト膜4に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン5を得る(
図4C)。
【0119】
このレジストパターン5をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングにより、ハードマスク膜6をパターニングする(
図4D)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成る遮光膜3を、酸素を含む塩素系ドライエッチングした際のエッチング速度が高いため、ハードマスク膜6の厚みは従来のものに比較して薄くすることができ、高精度でのパターン転写が可能となる。
【0120】
これに続いて、パターニングされたハードマスク膜6をマスクとして用い、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより、遮光膜3をパターニングする(
図4E)。
【0121】
残存するレジストパターン5はドライエッチングにより除去される(
図4F)。
【0122】
次に、パターニングされた遮光膜3をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングを行うと、この遮光膜パターンがハーフトーン位相シフト膜2に転写され、概ね設計どおりのハーフトーン位相シフトパターンが得られる(
図4G)。なお、このドライエッチングにより、遮光膜3上のハードマスク膜6も除去される。
【0123】
新たにフォトレジストを塗布してレジスト膜4´を形成し(
図4H)、このレジスト膜4´に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン5´を得る(
図4I)。
【0124】
このレジストパターン5´をマスクとして用い、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより、遮光膜3をパターニングする(
図4J)。
【0125】
残存するレジストパターン5´はドライエッチングにより除去され、ハーフトーン位相シフトマスクが完成する(
図4K)。
【0126】
[ドライエッチング特性の評価実験]
ドライエッチング特性を評価する実験例として、一辺が152mmで厚みが6mmの矩形の石英基板上に、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けたコ・スパッタリングによるDCスパッタ法にて、スズ濃度の異なる2種類のCrON膜を、厚み44nmで成膜した。
【0127】
CrON膜中のスズ含有量は、クロムターゲットとスズターゲットの印加電力を調整することにより調整した。なお、スパッタリングガスは、アルゴンガスと酸素ガス、窒素ガスの混合ガスである。
【0128】
また、比較のために、Crターゲットを用いて、スズを含有していないCrON膜も成膜した。
【0129】
上述した3種類のクロム系材料膜の試料はそれぞれ複数作製した。クロム系材料膜の組成分析はESCA(JEOL製JPS-9000MC)を用いて測定した。
【0130】
これらの各試料につき、44nm膜厚のクロム系材料膜の酸素を含む塩素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。
【0131】
図5は、酸素を含む塩素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略を説明するための図で、この図中、符号11はチャンバ、12は対向電極、13は誘導放電プラズマ(ICP)発生用高周波発信器、14はアンテナコイル、15は試料、16は平面電極、17はRIE用高周波発信器、18は排気口、19はガス導入口、である。なお、
図5は、後述のフッ素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略図も兼ねる。
【0132】
ドライエッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0133】
表1は、上述の条件で、酸素を含む塩素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、比較実験例の試料のクリアタイム値を1とする相対値で比較した。
【0135】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチング時のエッチング速度が向上している。
【0136】
また、これらの試料につき、44nm膜厚のCrON膜のフッ素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。このフッ素系ドライエッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(18sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0137】
表2は、上述の条件で、フッ素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比で比較している。
【0139】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が向上している。具体的には、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムとフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が1対11以上となっている。
【実施例】
【0140】
[実施例1]
直流スパッタ装置を用い、石英基板の上にモリブデンとケイ素と酸素と窒素とからなるハーフトーン位相シフト膜(膜厚75nm)を形成した。
【0141】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと酸素と窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0142】
このハーフトーン位相シフト膜の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:O:N=1:4:1:4(原子比)であった。
【0143】
このハーフトーン位相シフト膜の上に、遮光層と反射防止層からなる遮光膜を形成した。遮光層としてはハーフトーン位相シフト膜の上に直流スパッタ装置を用い、クロムとスズと窒素からなる膜(膜厚23nm)を成膜した。
【0144】
ターゲットには、クロムターゲットとスズターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0145】
この遮光層の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:N=6:1:2(原子比)であった。
【0146】
この遮光層の上に、直流スパッタ装置を用い、クロムとスズと窒素と酸素からなる反射防止層(膜厚23nm)を成膜した。
【0147】
ターゲットには、クロムターゲットとスズターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素と酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0148】
この反射防止層の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:N:O=5:1:2:5(原子比)であった。
【0149】
このようにして、石英基板の上にMoSiONからなるハーフトーン位相シフト膜、遮光膜としてCrSnNからなる遮光層、CrSnONからなる反射防止層が積層されたフォトマスクブランクを得た。
【0150】
続いて、化学増幅形ネガ型レジストを200nmの厚みで塗布し、露光、現像を行うことによってパターニングした。次に、このレジストパターンをマスクとして、塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングを施し、遮光膜をパターニングした。
【0151】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0152】
次に、レジストと遮光膜とハーフトーン位相シフト膜にフッ素系のドライエッチングを施しパターニングした。
【0153】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)、O
2(45sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0154】
これに続いてレジストを剥離し、更に、遮光膜の不要部分を除去するため、遮光膜を残す部分を保護するレジストパターンを形成し、上記遮光膜のエッチング条件と同様に塩素と酸素の混合ガスによってドライエッチングを行い、遮光膜を除去した。最後に、レジストを剥離してハーフトーン位相シフトマスクが完成した。
【0155】
[実施例2]
直流スパッタ装置を用い、石英基板の上にモリブデンとケイ素と酸素と窒素とからなるハーフトーン位相シフト膜(膜厚75nm)を形成した。
【0156】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと酸素と窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0157】
このハーフトーン位相シフト膜の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:O:N=1:4:1:4(原子比)であった。
【0158】
このハーフトーン位相シフト膜の上に、遮光層と反射防止層からなる遮光膜を形成した。遮光層としてはハーフトーン位相シフト膜の上に直流スパッタ装置を用い、クロムとスズと窒素からなる膜(膜厚23nm)を成膜した。
【0159】
ターゲットには、クロムターゲットとスズターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0160】
この遮光層の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:N=6:1:2(原子比)であった。
【0161】
この遮光層の上に、直流スパッタ装置を用い、クロムとスズと窒素と酸素からなる反射防止層(膜厚23nm)を成膜した。
【0162】
ターゲットには、クロムターゲットとスズターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素と酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0163】
この反射防止層の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:N:O=5:1:2:5(原子比)であった。
【0164】
この反射防止層の上に、直流スパッタ装置を用い、SiOからなるハードマスク膜(膜厚10nm)を成膜した。
【0165】
ターゲットにはSiターゲットを用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0166】
このようにして、石英基板の上にMoSiONからなるハーフトーン位相シフト膜、遮光膜としてCrSnNからなる遮光層、CrSnONからなる反射防止層、およびハードマスク膜としてSiOからなる膜が積層されたフォトマスクブランクを得た。
【0167】
続いて、化学増幅形ネガ型レジストを150nmの厚みで塗布し、露光、現像を行うことによってパターニングした。次に、このレジストパターンをマスクとして、フッ素ガスでドライエッチングを施し、ハードマスク膜をパターニングした。
【0168】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)とO
2(45sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0169】
次に、塩素と酸素の混合ガスをエッチングガスとしてドライエッチングを施し、遮光膜をパターニングした。
【0170】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0171】
次に、レジストと遮光膜をマスクとしてハーフトーン位相シフト膜にフッ素系のドライエッチングを施しパターニングした。このドライエッチングにより、遮光膜の上のハードマスクも同時に除去される。
【0172】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)とO
2(45sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0173】
これに続いて、遮光膜の不要部分を除去するため、遮光膜を残す部分を保護するレジストパターンを形成し、上記遮光膜のエッチング条件と同様に塩素と酸素の混合ガスによってドライエッチングを行い、遮光膜を除去した。最後に、レジストを剥離してハーフトーン位相シフトマスクが完成した。
【0174】
以上説明したように、本発明では、ハーフトーン位相シフトマスクブランクに設けられる遮光膜を単層構造若しくは多層構造のものとし、そのうちの少なくとも1層をクロム系材料からなる層とし、且つ、クロム系材料からなる層のうち少なくとも1層はスズを含有するクロム系材料からなる層とした。
【0175】
スズを含有するクロム系材料からなる層は、遮光性を低下させることなく、酸素を含む塩素系ドライエッチング時のエッチング速度を有意に向上させることができる。
【0176】
このため、係る遮光膜にパターンを転写する際の、レジストパターンやハードマスクパターンへの負荷が軽減され、高い精度でのパターン転写が可能になる。そして、遮光膜へのパターン転写が高精度なものとなる結果、ハーフトーン位相シフト膜へのパターン転写も高精度なものとなる。