(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スズを含有するクロム系材料は、スズ−クロム金属、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物の何れかである、請求項1又は2に記載のモールド作製用ブランク。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント技術は、高価な露光装置を用いる必要がないリソグラフィ方法として期待されており、半導体集積回路製造のための微細加工や、次世代光ディスクを作成するための新たな微細加工方法として注目されている。
【0003】
ナノインプリントによる微細パターンの形成は、被加工基板上で、熱で可塑化した樹脂を3次元パターンの型枠となるモールドを押し当てて成形した後、冷却して3次元の樹脂パターンを得る方法と、被加工基板上に光硬化樹脂溶液を塗布し、モールドを押し当てた状態で光照射して、光硬化した3次元の樹脂パターンを得る方法がある。いずれの方法においても、原版となるモールドの加工精度が重要であることは、光リソグラフィにおけるフォトマスクが要求される加工精度の場合と同様である。
【0004】
モールドを作製するための基板としては、石英基板や、酸化ケイ素膜を成膜したシリコン基板、シリコン基板、炭化ケイ素基板等が用いられるが、特に、石英基板は光インプリントにも熱インプリントにも有用に用いられる。
【0005】
一方、石英基板を高精度に加工する技術としては、すでに光リソグラフィ技術において、レベンソン型マスクを作製する際に用いられており、このマスクの作製を行う場合、遮光膜として用いられ、フッ素系ドライエッチングに高いエッチング耐性をもつクロム系の膜をハードマスク膜として、フッ素系ドライエッチングによる石英基板の加工が行われる。
【0006】
この加工技術は、ほぼそのままモールドの製造方法に適用することができ、例えば特開2011−207163号公報(特許文献1)では、フォトマスクで遮光膜材料として用いられたクロム酸化窒化炭化物膜をハードマスク膜としてもつモールド作製用基板を提案している。また、表面側にクロム材料層を備え、基板側にタンタル材料層を備えたハードマスク膜をもつモールド作製用基板も提案されている(特開2009−206338号公報:特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体集積回路や光学デバイスのパターンサイズの微細化に伴い、モールド作製に際してのパターンサイズにも更なる微細化が求められる。このような微細化はリソグラフィ時のレジスト膜の薄膜化を要求することとなる。これは、パターン線幅に対してレジスト膜が厚すぎると、レジストパターンの形状が適正なものとはならなかったり、剥がれを生じるといった問題を起こすためである。
【0009】
そこで、微細パターンが形成されたモールドを作製するためには、従来よりも薄膜のレジストでパターン加工が可能なモールド用ブランクが求められる。
【0010】
特許文献1や2で開示されているような、基板加工のためのハードマスク膜には、基板を加工するためのエッチング条件下で高いエッチング耐性を有することが求められる。このような材料としてはクロム系材料が知られており、フッ素系ドライエッチングで加工可能な石英等の基板を高精度に加工するためのハードマスク材料として有用である。
【0011】
しかし、クロム系材料膜にパターニングする際にエッチングマスクとなるフォトレジスト膜の塩素系ドライエッチングに対するエッチング耐性は十分でなく、塩素系ドライエッチングにおいてバイアスが発生することが問題になることも知られている(例えば特許文献3を参照)。このため、クロム系材料膜をより容易にパターニングする技術が求められる。
【0012】
また、特開2007−33470号公報(特許文献4)には、クロム系材料膜中のクロム含有量を下げることで、塩素系ドライエッチングにおけるエッチング速度を上げる手法が開示されている。しかし、クロム系材料膜中のクロム含有量を下げると、フッ素系ドライエッチングに対するエッチング耐性が低下する傾向がある。
【0013】
本発明は、上述したような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、クロム系材料から成るハードマスク膜のハードマスク機能を担保しつつ、当該ハードマスク膜のドライエッチング速度を高めることによりエッチング加工性を向上させ得る、新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために、本発明に係るモールド作製用ブランクは、フッ素系ドライエッチングが可能な基板上に、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜を備えている。
【0015】
好ましくは、前記スズを含有するクロム系材料は、スズの含有量がクロムの含有量に対し、原子比で0.01倍以上2倍以下である。
【0016】
また、好ましくは、前記スズを含有するクロム系材料は、スズ−クロム金属、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物の何れかである。
【0017】
例えば、前記フッ素系ドライエッチング可能な基板はケイ素系材料の基板である。
【0018】
好ましくは、前記フッ素系ドライエッチング可能な基板は石英基板である。
【0019】
本発明に係るモールドの製造方法は、上述のブランクを用いたモールドの製造方法であって、前記スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜を塩素系ドライエッチングでエッチング加工してハードマスクパターンを形成する工程と、前記基板を前記ハードマスクパターンをマスクとしてフッ素系ドライエッチングでエッチング加工する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ハードマスク膜をスズを含有するクロム系材料から成る膜とした。このようなクロム系材料膜は、フッ素系ドライエッチングに対しては高い耐性を示す一方、塩素系ドライエッチングにおいては高いエッチング速度が得られる。
【0021】
このため、レジストを薄膜化しても、ハードマスク膜へのパターン転写が容易かつ高精度に行われる。更に、基板をフッ素系ドライエッチングで加工する際にも十分なマスク効果が得られる。その結果、高精度なパターンを有するナノインプリント用モールドの製造が容易なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
本発明に係るモールド作製用ブランクは、フッ素系ドライエッチングが可能な基板上に、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜を備えている。なお、このようなハードマスク膜は、全体がスズを含有するクロム系材料からなる態様には限られない。ハードマスク膜を多層構造とし、そのうちの少なくとも1層がスズを含有するクロム系材料からなる態様も可能である。後者の態様では、上記スズを含有するクロム系材料からなる層をひとつのハードマスク膜と観念し、スズを含有しないクロム系材料からなる層を他のハードマスク膜と観念することができる。本発明の範囲には、このような態様のものも包含される。
【0025】
そこで先ず、スズを含有するクロム系材料についての説明を行う。
【0026】
クロム系材料は比較的良好な化学的安定性を有することから、光学膜用材料、特に遮光膜材料として広く用いられてきた。クロム系材料はフッ素系のエッチングガスに対する耐性が高いため、フッ素系のドライエッチングによりケイ素系材料をパターニングする際のエッチングマスクとしても安心して用いることができる。
【0027】
クロム系材料膜をスパッタリングにより成膜する場合には、金属不純物を含まない高純度のクロムターゲットが用いられるのが一般的である。これは、スパッタリング成膜されたクロム系材料膜中に金属不純物が混入してしまうと、クロム系材料膜のエッチング速度が低下することが経験的に知られている等の理由による。
【0028】
本発明者らは、クロム系材料からなる膜の設計自由度を担保しつつ当該膜のドライエッチング速度を高め得る新規な手法について種々の検討を重ねた結果、クロム系材料膜中にスズが含まれていると、塩素系ドライエッチングを行った際のエッチング速度が向上するという知見を得て本発明をなすに至った。
【0029】
つまり、従来は、クロム系材料膜のエッチング速度を低下させないために、高純度のクロムターゲットを用いて金属不純物を混入させないように成膜がなされていたのに対し、本発明者らは、上述した新たな知見に基づき、クロム系材料膜中にスズを意識的に添加させるように成膜することとした。
【0030】
本発明者らの検討によれば、クロム系材料膜中のスズ含有量(濃度)は、クロムの含有量に対して、原子比で0.01倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.1倍以上であり、さらに好ましくは0.3倍以上である。
【0031】
クロムに対してスズの含有量が原子比で0.01倍以上のクロム系材料膜は、一般的な酸素を含む塩素系ドライエッチング条件下において、エッチング速度が有意に向上する。この効果は、スズ含有量を高めることで大きくなる。なお、スズの含有量の上限には特別な制約はないが、スズの含有量が過剰となると、スズを含まないクロム系材料と略同等の諸特性を示す膜を得難くなる可能性がある。このため、スズの含有量は、クロムに対し、原子比で2倍以下とすることが好ましく、1.5倍以下とすることがより好ましい。
【0032】
本発明に係るハードマスク膜を構成するクロム系材料から成る層のすべてにおいて上述の濃度でスズを含有する必要はない。しかし、実用上、ハードマスク膜を構成するクロム系材料から成る層の全層厚のうちの50%以上の層で、上述の濃度のスズを含有することが好ましい。この値は、75%以上であることがより好ましい。勿論、クロム系材料から成るハードマスク膜の全体に上述の濃度でスズが含有されている態様としてもよい。
【0033】
スズを含有するクロム系材料層中における、スズのクロムに対する含有比は一定でも良く、あるいは、層によってクロムに対するスズの含有比を変化させても良い。また、ハードマスク膜を構成する各層に含まれるスズは、各層中で均一に分布している必要はなく、層の厚み方向(深さ方向)に濃度変化を有するプロファイルをもっていてもよい。
【0034】
例えば、上層はスズを含有しない、あるいはスズの含有比の低い層とし、下層は高いスズ含有比の層とすれば、上層(表面側)のエッチング速度に対して下層(基板側)のエッチング速度のみを向上させることができ、オーバーエッチング時間を短く設定することが可能となる。一方、基板側のスズ含有比を低く設計した場合には、ドライエッチング時のクロムのモニタリングによる終端検出をより容易にすることができる。
【0035】
上述のスズを含有するクロム系材料としては、スズ−クロム金属のほか、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0036】
また、ハードマスク膜の一部がスズを含有しないクロム系材料から成る構成とする場合には、係るクロム系材料として、クロム金属のほか、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、クロム窒化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0037】
本発明に係るスズを含むクロム系材料層は、一般的なクロム系材料層を成膜するための公知の方法(例えば、特許文献1〜4を参照)に準じて行うことができるが、DCスパッタリングやRFスパッタリング等のスパッタリング法によれば、均質性に優れた膜を容易に得ることができる。
【0038】
本発明に係るスズを含むクロム系材料層をスパッタンリング成膜する際には、スズを添加したクロムターゲット(スズ添加クロムターゲット)を用いてもよく、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けてコ・スパッタリング(同時スパッタリング)を行うようにしてもよい。また、単一のターゲット中にクロム領域とスズ領域を有する複合ターゲットを用いるようにしてもよい。更には、複合ターゲットとクロムターゲットを用いてコ・スパッタリングを行うようにしてもよい。
【0039】
クロムターゲットにスズを添加する場合には、金属スズとして添加するほか、スズ酸化物、スズ窒化物、ITO等のスズ化合物として添加してもよい。
【0040】
また、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットを用いてコ・スパッタリングを行う場合には、それぞれのターゲットの面積比のみならず、各ターゲットに印加する電力を制御することにより無機材料膜中のスズ濃度を調整することもできる。
【0041】
特に、スズを含むクロム系材料層間でクロムとスズの比を変化させたい場合や、1つの層中でクロムとスズの比を徐々に変化させたい場合には、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットの組み合わせ、もしくはスズの含有量が異なるターゲットの組み合わせを用いてコ・スパッタリングを行い、ターゲット間の印加電力比を変化させることによって、所望のスズ含有比が異なる層を容易に形成することができる。
【0042】
本発明に係るハードマスク膜を成膜する際のスパッタリングガスは、膜組成に応じて適宜選択される。膜中に軽元素を添加する場合には、スパッタリングガスによる反応性スパッタリングを用い、酸素、窒素、炭素から選ばれる1種以上の元素を添加して調整することは公知のクロム系材料層を成膜する場合と同じである。
【0043】
例えば、軽元素を含まないスズ含有クロム系材料膜を成膜する場合には、アルゴンガスのみを用いればよい。軽元素を含有するスズ含有クロム系材料膜を成膜する場合には、窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス、酸化炭素ガス、炭化水素ガス等の反応性ガスの1種類以上、あるいはそれらの反応性ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行えばよい。
【0044】
また、スズを含有するクロム系材料層を構成要素として含むハードマスク膜を設計する際には、添加する軽元素についても、公知のクロム系材料層を設計する際の範囲内で適当な量が見出される。
【0045】
スパッタリングガスの流量は適宜調整される。ガス流量は成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。
【0046】
なお、本発明に係るハードマスク膜の膜厚は、公知のハードマスクと全く同じ設計としてよく、基板を加工する際の深さ等に依存して設計されるが、一般的には1〜10nmとされる。
【0047】
スズを含有するクロム系材料膜の、フッ素系ドライエッチング条件に対するエッチング耐性は、スズを含有しないクロム系材料膜のエッチング耐性と同等乃至はそれ以上である。
【0048】
一方、スズを含有するクロム系材料膜は、スズを含有しないクロム系材料膜と同様に塩素系ガスによりドライエッチングすることができ、スズを含有しないクロム系材料膜に比較して有意に高いエッチング速度を示す。
【0049】
このような塩素系ドライエッチングは、例えば、塩素ガスと酸素ガスの混合比(Cl
2ガス:O
2ガス)を、体積流量比で1:2〜20:1とし、必要に応じてヘリウムなどの不活性ガスを混合したガスを用いて行うことができる。また、特許文献2に記載されているように、スズを含有するクロム系材料膜が薄膜である場合には、酸素を含まない塩素系のドライエッチングを行ってもよい。
【0050】
このように、スズを含有するクロム系材料膜は、フッ素系ドライエッチングに対する充分なエッチング耐性と、塩素系ドライエッチングに対する高いエッチング速度を併せもつ。このため、特許文献1や2に開示されているような、クロム系材料から成るハードマスク膜を備えたナノインプリント用のモールドを作製するためのブランクにおいて、ハードマスク膜をスズを含有するクロム系材料から成る膜とすれば、膜厚を維持したまま、ハードマスク機能を高めることができるとともに、当該ハードマスク膜をパターニングする際のレジスト膜への負荷が軽減される。その結果、高精度なナノインプリント用モールドの製造が可能となる。
【0051】
本発明に係るモールド作製用ブランクに用いる基板は、フッ素系ドライエッチングで加工可能なものであれば何れも適用できる。例えば、石英基板や、酸化ケイ素膜を成膜したシリコン基板、シリコン基板、炭化ケイ素基板等を挙げることができる。このうち、石英基板は熱インプリントにも光インプリントにも適用可能であり好適である。
【0052】
図1は、本発明に係る、ナノインプリント技術分野で用いることが可能なモールドを作製するためのブランクの構成の一態様を示す断面図である。この図に示した態様では、フッ素系ドライエッチング可能なケイ素系材料基板である石英基板1上に、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜2が形成されている。
【0053】
このようなブランクを用いてナノインプリント用のモールドを製造する工程には、従来公知の、クロム系材料から成るハードマスク膜を備えたフォトマスクブランクを加工する手法(特許文献1や特許文献2を参照)と全く同じ工程を採用することができ、概ね下記のとおりである。
【0054】
図2は、モールドの製造プロセスの一態様を示す図である。先ず、
図1に示したブランクのハードマスク膜2の上に、フォトレジストを塗布してレジスト膜3を形成する(
図2A)。
【0055】
次に、パターニングにより残したいハードマスク膜2の部分を保護するためのレジストパターンを得るべく、レジスト膜3に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン4を得る(
図2B)。
【0056】
このレジストパターン4をマスクとして用い、酸素を含む塩素系ドライエッチングにより、ハードマスク膜2をパターニングする(
図2C)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜2は高いエッチングレートを有するため、エッチング時間が短縮されてレジストパターン4へのダメージが軽減される。その結果、高精度でパターン転写することができる。
【0057】
残存するレジストパターン4は除去してもよいが、必須ではない。
【0058】
続いて、パターニングされたハードマスク膜2をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングにより、石英基板1を所定の深さでエッチングする(
図2D)。
【0059】
最後に、レジストパターン4を除去し(
図2E)、更に、酸素を含む塩素系ドライエッチングによりハードマスク膜2を除去してナノインプリント用のモールドが完成する(
図2F)。
【0060】
つまり、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜2を塩素系ドライエッチングでエッチング加工してハードマスクパターンを形成する工程と、石英基板1をハードマスクパターンをマスクとしてフッ素系ドライエッチングでエッチング加工する工程とを備えた方法により、モールドが作製される。
【0061】
なお、上述のモールドをマスターとして用い、ナノインプリント用のモールドを作製してもよい。この場合には、上述の工程を経て得られたマスターモールドに紫外線硬化性樹脂等を塗布し、このマスターモールドに、CrSn膜を形成した石英基板を押し当てる。
【0062】
そして、マスターモールド側から水銀ランプなどでUV光を照射し、CrSn膜上にUV硬化樹脂パターンを形成する。CrSn膜はUV硬化樹脂パターンをマスクとしてエッチングされる。続いて石英基板をエッチングし、最後にCrSn膜を除去すると、ナノインプリント用モールドが完成する。
【0063】
[ドライエッチング特性の評価実験]
ドライエッチング特性を評価する実験例として、一辺が152mmで厚みが6mmの矩形の石英基板上に、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けたコ・スパッタリングによるDCスパッタ法にて、スズ濃度の異なる2種類のCrON膜を、厚み44nmで成膜した。
【0064】
CrON膜中のスズ含有量は、クロムターゲットとスズターゲットの印加電力を調整することにより調整した。なお、スパッタリングガスは、アルゴンガスと酸素ガス、窒素ガスの混合ガスである。
【0065】
また、比較のために、Crターゲットを用いて、スズを含有していないCrON膜も成膜した。
【0066】
上述した3種類のクロム系材料膜の試料はそれぞれ複数作製した。クロム系材料膜の組成分析はESCA(JEOL製JPS-9000MC)を用いて測定した。
【0067】
これらの各試料につき、44nm膜厚のクロム系材料膜の酸素を含む塩素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。
【0068】
図3は、酸素を含む塩素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略を説明するための図で、この図中、符号11はチャンバ、12は対向電極、13は誘導放電プラズマ(ICP)発生用高周波発信器、14はアンテナコイル、15は試料、16は平面電極、17はRIE用高周波発信器、18は排気口、19はガス導入口、である。なお、
図3は、後述のフッ素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略図も兼ねる。
【0069】
ドライエッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0070】
表1は、上述の条件で、酸素を含む塩素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、比較実験例の試料のクリアタイム値を1とする相対値で比較した。
【0072】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチング時のエッチング速度が向上している。
【0073】
また、これらの試料につき、44nm膜厚のCrON膜のフッ素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。このフッ素系ドライエッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(18sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0074】
表2は、上述の条件で、フッ素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比で比較している。
【0076】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が向上している。具体的には、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムとフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が1対11以上となっている。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
直流スパッタ装置を用い、石英基板の上に、クロムとスズからなるハードマスク膜(膜厚10nm)を成膜した。
【0078】
ターゲットには、クロムターゲットとスズターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArを用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0079】
この遮光膜の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn=9:1(原子比)であった。
【0080】
続いて、化学増幅形ネガ型レジストを100nmの厚みで塗布し、露光、現像を行うことによってパターニングした。次に、このレジストパターンをマスクとして、フッ素ガスをエッチングガスとしてドライエッチングを施し、上記ハードマスク膜(CrSn膜)をパターニングした。
【0081】
これに続いて、上記レジストパターンとハードマスクパターンをマスクとして、フッ素ガスをエッチングガスとしてドライエッチングを施し、石英基板のマスクされていない領域を60nmドライエッチングした。
【0082】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)とO
2(45sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0083】
次に、レジストパターンを剥離し、さらに、塩素と酸素の混合ガスをエッチングガスとしてドライエッチングを施し、上記ハードマスク膜(CrSn膜)をエッチングにより除去してインプリント用のモールドが完成した。
【0084】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0085】
以上説明したように、本発明では、ブランクに設けられるハードマスク膜をスズを含有するクロム系材料からなる膜とした。スズを含有するクロム系材料からなる膜は、フッ素系ドライエッチング条件下での充分なエッチング耐性を有する一方、塩素系ドライエッチング条件では、スズを含有しないクロム系材料膜に比較して有意に高いエッチング速度を示す。
【0086】
このため、
塩素系ドライエッチングの時間が短縮されてレジストパターンへのダメージが軽減され、高精度でパターン転写することができる。