特許第5739456号(P5739456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5739456多結晶シリコン製造装置および多結晶シリコンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739456
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】多結晶シリコン製造装置および多結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
   C01B33/035
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-553468(P2012-553468)
(86)(22)【出願日】2011年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2011005283
(87)【国際公開番号】WO2012098598
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2013年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-10493(P2011-10493)
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 靖志
(72)【発明者】
【氏名】祢津 茂義
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−156212(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法により多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン製造装置であって、
ベルジャと円盤状の底板とにより内部が密閉される反応炉と、
前記ベルジャ内部に所望の流量で原料ガスを供給するガス流量制御部と、を備え、
前記底板には、複数のシリコン芯線に通電するための電極対と、前記ベルジャの内部空間に原料ガスを供給するためのガス供給ノズルが少なくとも1つ設けられており、
前記ガス供給ノズルは、前記底板の中央に中心を有する仮想同心円であって前記円盤状の底板の面積S0の半分の面積S(=S0/2)を有する仮想の同心円の内側に配置され、且つ、前記ガス供給ノズルの1つは前記底板の中央に配置されるとともに、該底板の中央に配置されているガス供給ノズルを除くガス供給ノズルは、前記底板の中央に中心を有する第2の仮想同心円に内接する正多角形の頂点の位置に配置されており、
前記ガス流量制御部は、前記ガス供給ノズルからの噴出原料ガスを150m/sec以上の流速で制御可能である、
ことを特徴とする多結晶シリコン製造装置。
【請求項2】
前記反応炉が備えるベルジャの内部空間の高さは2m以上5m以下であり、
前記第2の仮想同心円の半径は20〜70cmである、
請求項1に記載の多結晶シリコン製造装置。
【請求項3】
前記正多角形は正n角形(nは3以上で8以下の整数)である、
請求項1に記載の多結晶シリコン製造装置。
【請求項4】
前記ガス供給ノズルのガス噴出孔の直径は7mmφ〜20mmφである、
請求項1〜3の何れか1項に記載の多結晶シリコン製造装置。
【請求項5】
シーメンス法により多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコンの製造方法であって、
ベルジャと円盤状の底板とにより内部が密閉される反応炉と、
前記ベルジャ内部に所望の流量で原料ガスを供給するガス流量制御部と、を備え、
前記底板には、複数のシリコン芯線に通電するための電極対と、前記ベルジャの内部空間に原料ガスを供給するためのガス供給ノズルが少なくとも1つ設けられており、
前記ガス供給ノズルは、前記底板の中央に中心を有する仮想同心円であって前記円盤状の底板の面積S0の半分の面積S(=S0/2)を有する仮想の同心円の内側に配置され、且つ、前記ガス供給ノズルの1つは前記底板の中央に配置されており、かつ、該底板の中央に配置されているガス供給ノズルを除くガス供給ノズルが、前記底板の中央に中心を有する第2の仮想同心円に内接する正多角形の頂点の位置に配置されており、
前記ガス流量制御部は、前記ガス供給ノズルからの噴出原料ガスを150m/sec以上の流速で制御可能である構成の多結晶シリコン製造装置を用い、シリコン析出反応の初期を除き、前記ガス供給ノズルから150m/sec以上の流速で原料ガスを噴出させて前記シリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させる、多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記ガス供給ノズルの1本当たりの原料ガスの噴出量を300kg/hr以上とする、
請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記多結晶シリコン製造装置は、
前記反応炉が備えるベルジャの内部空間の高さが2m以上5m以下であり、
前記第2の仮想同心円の半径が20〜70cmである、
請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項8】
前記多結晶シリコン製造装置は、
前記正多角形が正n角形(nは3以上で8以下の整数)である、
請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多結晶シリコンの製造技術に関し、より詳細には、シーメンス法により多結晶シリコンを製造するための反応炉の原料ガス供給用ノズルの設置場所及び供給原料ガスの流速制御に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体デバイス製造用の単結晶シリコン基板や太陽電池製造用基板の原料とされる。多結晶シリコンの製造方法としては、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、クロロシランを含む原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させ、これにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD法により気相成長させてシリコン棒として得る方法である。
【0003】
シーメンス法により多結晶シリコンを気相成長する際、気相成長装置の反応炉内に、鉛直方向2本と水平方向1本のシリコン芯線を鳥居型に組み立てる。そして、この鳥居型のシリコン芯線の両端を、一対の芯線ホルダを介して反応炉底板上に配置した一対の金属電極に固定する。反応を起こさせる原料ガスの供給口及び反応排ガスの排気口も、この底板上に配置される。このような構成は、例えば、特開2006−206387号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
一般に、反応炉内には、底板上に配置した一対の金属電極に固定された鳥居型のシリコン芯線が数十個設けられ、多重環式に配置される。近年では、多結晶シリコンの需要増大に伴い、生産量を高めるための反応炉の大型化が進み、1バッチで多量の多結晶シリコンを析出させる方法が採用されるようになってきている。この傾向に伴い、反応炉内に配置するシリコン芯線の数も多くなってきている。
【0005】
ところが、反応炉内に設置するシリコン芯線の数が増えてくると、各シリコン棒の表面に原料ガスを安定に供給するのが困難になる。このような原料ガスの供給不安定性はシリコン棒の表面に凸凹(ポップコーン)を発生させ、その結果、シリコン棒の太さが不均一となり形状不良が生じる。また、シリコン棒表面に凸凹が発生すると多結晶シリコンが異常成長し易くなる。さらに、多結晶シリコンの出荷前洗浄の際の洗浄効果が大幅に低下してしまう。シリコン棒表面の凸凹を無くすには、シリコン棒の表面の温度(反応温度)を低くして析出反応を穏やかにすれば良いが、この場合には、多結晶シリコンの析出速度が遅くなり生産性とエネルギ効率を著しく低下させることになる。
【0006】
このような事情から、原料ガスを効率よくシリコン棒表面に供給するための方法として様々な手法が提案されている。例えば、特開2010−155782号公報(特許文献2)や特開2002−241120号公報(特許文献3)に開示されている手法では、原料ガス供給ノズルと反応排ガスの排気口の位置を様々に工夫することにより析出反応が効率良く進むようにしている。
【0007】
しかし、従来の方法はいずれも、原料供給ノズルから反応炉内に供給された原料ガスが反応排ガスの排気口から1パスに近い状態で排出される態様のものであり、反応炉が大型の場合には、原料ガスの供給量が必然的に増大することとなり、製造コストを高めてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−206387号公報
【特許文献2】特開2010−155782号公報
【特許文献3】特開2002−241120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多結晶シリコンの析出反応において析出速度に影響を与える大きな要因は、シリコン棒の表面温度と反応炉内の反応ガス中クロロシラン濃度およびシリコン棒表面近傍の反応ガス流速である。シリコン棒表面の凸凹を低減して良好な表面を保つためにはこれらの要因を適正なバランスの下で制御することが重要である。具体的には、シリコン棒の表面温度を上げて析出反応速度をある程度高い状態に保ちつつ、シリコン棒表面でのガス流速を高くして表面凸凹を低減させることが必要となる。
【0010】
大型の反応炉内で上記状態を実現するためには、炉内における反応ガスの循環流れを形成することが好適な方法である。クロロシランと水素による化学反応はその反応率が低い。このため、反応炉には比較的大量の新しい原料ガスを供給す必要があるため、反応炉内で反応ガスの循環流れを形成して反応を行っても析出反応に悪影響を及ぼすことは少ない。
【0011】
特に、反応装置の大型化に伴い、反応ガスの流れも複雑になり局所的な滞留部が発生しやすくなっており、このような局所的な滞留部の存在は炉内ガス濃度のバラツキや局所的な温度の異常上昇の原因ともなり、局所的なポップコーンの発生や重金属汚染の原因になっていると考えられる。そのため、大量の反応ガスの循環流を形成して、反応炉内において局所的な滞留部を発生させないことが効果的である。
【0012】
また、局部的な反応ガス温度が600℃を超えると、クロロシランの副生成物により大量の粉が炉内で発生する恐れがあり、重金属汚染の原因やシリコン棒表面での突起状異常成長の原因ともなる。
【0013】
通常、析出反応中の多結晶シリコン棒の表面温度は900〜1200℃程度と高温である。従って、反応ガスの反応炉内での局部的な循環を継続してゆくと、反応ガスの温度はシリコン棒表面の温度と同じ900〜1200℃近くまで上昇してしまうことになる。そのため、反応ガス温度を600℃程度以下に保つためには、反応炉内での循環中に反応ガスを効率よく冷却することが必要になる。
【0014】
析出反応速度を上げるためには、通常、原料ガス中のクロロシランガス濃度を上げる方法がとられるが、この場合は反応ガス温度上昇に伴う粉の発生が助長されるため、この観点からも、反応炉内における反応ガスの温度を低く抑えることが求められる。
【0015】
このように、大型の反応炉を用いた多結晶シリコンの製造において、高速析出反応でありながらも多結晶シリコン表面のポップコーン発生の抑制および熱分解による粉の発生を防止するためには、反応炉内で効率良く大量の循環流れを起こして炉内に高速の反応ガス流れを形成することが必要となる。
【0016】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、反応炉内で大量の循環流れを効率よく発生させ炉内に高速の反応ガス流れを形成し、これにより、多結晶シリコン棒近傍の反応ガス流速を確保し、反応炉内ガス温度の局所的な上昇を防止し、高速析出反応でありながらも多結晶シリコン表面のポップコーン発生を抑制、粉の発生による重金属汚染、突起状異常析出の無い多結晶シリコン棒を得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の多結晶シリコン製造装置は、シーメンス法により多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン製造装置であって、ベルジャと円盤状の底板とにより内部が密閉される反応炉と、前記ベルジャ内部に所望の流量で原料ガスを供給するガス流量制御部とを備え、前記底板には、複数のシリコン芯線に通電するための電極対と、前記ベルジャの内部空間に原料ガスを供給するためのガス供給ノズルが少なくとも1つ設けられており、前記ガス供給ノズルは、前記底板の中央に中心を有する仮想同心円であって前記円盤状の底板の面積Sの半分の面積S(=S/2)を有する仮想の同心円の内側に配置され、且つ、前記ガス供給ノズルの1つは前記底板の中央に配置されており、前記ガス流量制御部は、前記ガス供給ノズルからの噴出原料ガスを150m/sec以上の流速で制御可能である、ことを特徴とする。
【0018】
ある態様では、前記底板の中央に配置されているガス供給ノズルを除くガス供給ノズルは、前記底板の中央に中心を有する第2の仮想同心円に内接する正多角形の頂点の位置に配置されている。
【0019】
例えば、前記反応炉が備えるベルジャの内部空間の高さは2m以上5m以下であり、前記第2の仮想同心円の半径は20〜70cmである。
【0020】
また、例えば、前記正多角形は正n角形(nは3以上で8以下の整数)である。
【0021】
さらに、例えば、前記ガス供給ノズルのガス噴出孔の直径は7mmφ〜20mmφである。
【0022】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、上述の多結晶シリコン製造装置を用い、前記ガス供給ノズルから150m/sec以上の流速で原料ガスを噴出させて前記シリコン芯線の表面に多結晶シリコンを析出させる。このとき、例えば、前記ガス供給ノズルの1本当たりの原料ガスの噴出量を300kg/hr以上とする。
【発明の効果】
【0023】
上述の反応炉を有する本発明の多結晶シリコン製造装置を用いることにより、仮想同心円の内側に配置された原料ガス供給ノズルから噴出された原料ガスにより、反応炉内の循環流れが反応炉中心部の上昇気流と反応炉内壁に沿った下降気流とに明確に区分され形成されるため、反応炉内に局部的に閉じた循環流の発生による不適切な高温域の形成が抑制され、多結晶シリコン表面のポップコーン発生を抑制して高品質な多結晶シリコンを得ることができる。
【0024】
また、多結晶シリコン棒周辺の反応ガス流れを効率よく比較的高速に保つことが可能となるため、高速析出反応でありながらも、高速循環を用いずに原料ガスの増量により高速析出反応を行う従来方法が抱えているコスト上昇という問題も解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉の構成例を説明するための断面概略図である。
図2】発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の様子を例示により説明するための底板の上面概略図である。
図3】発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の様子を例示により説明するための底板の上面概略図である。
図4】発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の様子を例示により説明するための底板の上面概略図である。
図5】反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の他の態様を参考例として説明するための底板の上面概略図である。
図6】反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の他の態様を参考例として説明するための底板の上面概略図である。
図7A図2に示した態様で配置されたガス供給ノズルから噴出した原料ガスのベルジャ内での流れを模式的に説明するための図である。
図7B図3に示した態様で配置されたガス供給ノズルから噴出した原料ガスのベルジャ内での流れを模式的に説明するための図である。
図8A】ガス供給ノズルを底板の中央部に設けずガス供給ノズルの間隔が広くなっている態様を示す図である。
図8B】ガス供給ノズルからの噴出ガスの速度が遅く噴出量も少ない態様を示す図である。
図9】本発明に係るガス供給ノズルの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉の構成例を説明するための断面概略図である。反応炉100は、内部の状態を確認するためののぞき窓2を備えたベルジャ1と底板5とにより内部が密閉され、当該密閉空間内に鳥居型に組んだシリコン芯線12を複数配置させてこのシリコン芯線(またはシリコン棒13)の表面に多結晶シリコンを析出させる。底板5には、シリコン芯線12の両端から通電して発熱させるための芯線ホルダ11及び金属電極10と、ベルジャ1内部に原料ガスを供給するためのノズル9と、反応後のガスをベルジャ1の外部に排出するための反応排ガス口8が設置されている。なお、ノズル9の吹出口からは、ガス流量制御部14により流速・流量が制御された原料ガスが供給される。また、図1に示したように、ノズル9は複数個設けることが好ましいが、単一のノズルとしてもよい。
【0028】
通常、底板5は円盤状をしており、この底板5に設けられる金属電極10、ノズル9、反応排ガス口8も、同心円上に設置されることが多い。原料ガスとしてはトリクロロシランと水素の混合ガスが使用されることが多く、反応温度も900℃〜1200℃と比較的高温である。このため、ベルジャ1の下部と上部にはそれぞれ冷媒入口3と冷媒出口4が、底板5の両端にも冷媒入口6と冷媒出口7が設けられており、ベルジャ1および底板5それぞれの冷媒路に冷媒が供給されて冷却がなされる。なお、このような冷媒としては、一般に水が用いられる。また、析出反応時のベルジャ1の内表面温度は、概ね100℃〜400℃である。
【0029】
図2および図3は、本発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉に設けられる原料ガス供給ノズル9と反応排ガス口8の配置の様子を例示により説明するための底板5の上面概略図である。
【0030】
これらの図中、符号Cを付した一点鎖線は、円盤状底板5の中央に中心を有する仮想の同心円であり、面積Sの底板5の半分の面積S=S/2を有している。原料のガス供給ノズル9はこの同心円Cの内側に配置される。また、ガス供給ノズル9からの噴流の水平方向の広がりを示す推定仮想線を符号Dを付した破線で示した。ガス供給ノズル9からは、後述する反応初期を除き、原料ガスが150m/秒以上の流速でベルジャ1内に噴出される。ここで、反応排ガス口8の配置位置は特に制限されないが、図2および図3に示した態様では、同心円Cの外側に設置されている。
【0031】
図2に示した例ではガス供給ノズル9は1つ、図3に示した例ではガス供給ノズル9は4つ設けられているが、何れの場合も、ガス供給ノズル9は同心円Cの内側に配置される。図2に示した例では、ガス供給ノズル9は底板5の中央部に設けられている。また、図3に示した例では、底板5の中央部に設けられたガス供給ノズル9に加え、当該中央部のガス供給ノズル9を中心とする外接円Eに接する正3角形の頂点の位置に、3つのガス供給ノズル9が配置されている。
【0032】
ガス供給ノズル9の配置の態様には、図2および図3に例示した態様の他にも、種々のものがあり得る。
【0033】
図4(A)〜(E)は、発明の多結晶シリコン製造装置が備える反応炉に設けられる原料ガス供給ノズルと反応排ガス口の配置の他の態様を例示により説明するための底板の上面概略図である。なお、これらの図では、金属電極10は不図示としている。
【0034】
図4(A)〜(E)に示した態様では、それぞれ、ガス供給ノズル9が、5つ(図4(A))、6つ(図4(B))、7つ(図4(C))、8つ(図4(D))、9つ(図4(E))、設けられている。これらの何れの態様においても、原料のガス供給ノズル9は同心円Cの内側に配置されており、底板5の中央部に設けられたガス供給ノズル9に加え、当該中央部のガス供給ノズル9を中心とする外接円E(第2の仮想同心円)に内接する正多角形の頂点の位置に、その余のガス供給ノズル9が配置されている。
【0035】
図5および図6は、反応炉に設けられる原料ガス供給ノズル9と反応排ガス口8の配置の他の態様を参考例として説明するための底板5の上面概略図である。これらの態様では、ガス供給ノズル9は同心円Cの内側に配置されてはいるが、底板5の中央部にガス供給ノズル9が設けられていなかったり(図5)、底板5の上に概ね均等に配置されており、中央部のガス供給ノズル9を中心とする外接円Eに接する正多角形の頂点の位置にガス供給ノズル9が配置されてはいない(図6)。
【0036】
従来はこのようなガス供給ノズル9の配置も採用されていたが、図2〜4に例示したように、底板5の中央部にガス供給ノズル9を設ける態様(図2)、或いは、中央部のガス供給ノズル9を中心とする外接円Eに接する正多角形の頂点の位置にガス供給ノズル9を配置する態様(図3〜4)とした場合には、ベルジャ内での反応ガスの流れが、底板5の中央部においては安定した上昇気流となり、底板5の周辺部においては安定した下降気流となる。その結果、ベルジャ内におけるスムーズな循環流が形成される。
【0037】
その理由は、下記のようなものであると考えることができる。上述したように同心円Cの内側にガス供給ノズル9を配置すると、これらのガス供給ノズル9から噴出した速い流速の原料ガスは、周囲の反応ガスを同伴しながら上昇する。この上昇ガス流は、ベルジャ1の上頭内壁に衝突して下方に流れを変え、循環流となってベルジャ内側壁に沿って下降する。そして下降ガス流の一部は、再度、ガス供給ノズル9から噴出された原料ガスと一緒に反応空間内を上昇する。このようにして、反応炉内全体で上昇気流域と下降気流域が明確となることによりスムーズな循環流れが形成される。その結果、局部的な不適切な温度まで原料ガスの温度が上昇する高温領域が生じることが抑制される。
【0038】
なお、反応炉の反応空間の高さ、すなわちベルジャ1の内部空間の高さが2m以上5m以下である場合には、ガス供給ノズル9の配置は、底板5の中央部に1つとするか、若しくは、底板5の中央部の1つに加えて上述の外接円Eの半径が20〜70cmの正多角形の頂点の位置にその余のガス供給ノズル9を配置することが好ましい。
【0039】
図7Aおよび図7Bは、それぞれ、図2および図3に示した態様で配置されたガス供給ノズル9から噴出した原料ガスのベルジャ1内での流れを模式的に説明するための図である。なお、これらの図では、原料ガスを150m/秒以上で供給した場合のガス流れの概要を示している。これらの図に示すとおり、上述した態様で配置されたガス供給ノズル9から噴出した速い流速の原料ガスは、周囲の反応ガスを同伴しながら上昇し、ベルジャ1の上頭内壁に衝突して下方に流れを変え、循環流となってベルジャ内側壁に沿って下降し、下降ガス流の一部は、再度、ガス供給ノズル9から噴出された原料ガスと一緒に反応空間内を上昇して、反応炉内全体で上昇気流域と下降気流域が明確となりスムーズな循環流れが形成される。
【0040】
上述したとおり、同心円Cの内側にガス供給ノズル9を配置することにより、ガス供給ノズル9から噴出した速い流速の原料ガスが、周囲の反応ガスを同伴しながら上昇する。そして、この上昇ガス流は、ベルジャ1の上頭内壁に衝突して下方に流れを変え、循環流となってベルジャ内側壁に沿って下降し、下降ガス流の一部は、再度、ガス供給ノズル9から噴出された原料ガスと一緒に反応空間内を上昇する。このようなガスのスムーズな循環流れにより、局部的に高温領域が生じることが抑制される。
【0041】
なお、ガス供給ノズル9の近傍に設けられている多結晶シリコン棒13は、直接、ガス供給ノズル9から噴出する原料ガスの上昇流を受けることになるが、そのような多結晶シリコン棒13は反応炉内に設置されるものの一部に過ぎず、それ以外の多くの多結晶シリコン棒13は、上昇ガス流と同伴反応ガス流からなるスムーズな循環ガス流れを受けることになる。
【0042】
これに対し、例えば、図8Aに示したような、ガス供給ノズルを底板5の中央部に設けず、その結果、ガス供給ノズルの間隔が広くなっている態様では、反応炉の中心部近傍に下降循環流が形成されてしまう。このような下降循環流はベルジャ1の内壁(内壁温度150〜400℃)によって冷却されることなく高温のままで再度、反応空間内を上昇する。このようなガス循環は、多結晶シリコン棒の形状異常やポップコーンあるいは粉の発生原因となる。
【0043】
また、例えば、図8Bに示したような、ガス供給ノズルからの噴出ガスの速度が遅く噴出量も少ない態様では、噴出ガスが反応炉の上部まで到達することなく反応炉の下部のみで循環流を形成することになってしまう結果、反応炉上部に反応ガスの滞留部が生じてしまう。このような反応ガスの滞留はそのガス温度を上昇させ、多結晶シリコン棒の形状異常やポップコーンあるいは粉の発生原因となる。
【0044】
多結晶シリコン棒を製造する工程において、析出反応初期におけるガス供給ノズル9からの供給ガスの流速は、比較的低く抑えることが好ましい。これは、析出反応初期の多結晶シリコン棒13の径は細いため、ガスを高速で供給してしまうと、その衝撃により多結晶シリコン棒13が転倒等するおそれがあるためである。そして、多結晶シリコン棒13の径がある程度太くなった後(例えば20mmφ程度以上の径となった後)に、上述したような反応炉内でのスムーズな循環流れを形成すべく、150m/秒以上の流速で原料ガスを供給するようにすることが好ましい。
【0045】
従来は、反応炉内で高速の反応ガス流を形成しようとした場合には、反応ガスを大量に供給すると同時に大量にガス排気する必要があった。これに対し、本発明では、上述したガス供給ノズルの配置により、スムーズな循環流れが形成され、150m/秒程度の流速の原料ガス供給でも、充分に高速な反応ガス流れを炉内に形成することができる。つまり、反応炉内に大量の循環流れを形成させる本発明によれば、原料ガスの供給流速が従来よりも低い場合でも炉内に高速の反応ガス流れを形成することができる。その結果、原料ガスの供給量が抑制される。なお、150m/秒程度の流速の原料ガス供給を行った場合、炉内に設置された何れのシリコン棒の表面にも平均3m/秒程度の流速で原料ガスが供給されているものと推測されるが、この程度の流速であれば高速析出反応の実現には充分である。
【0046】
このように、本発明によれば、製造コストを高くすることなく、多結晶シリコンの高速析出反応を維持しながら、しかも、多結晶シリコン棒の形状異常やポップコーンあるいは粉の発生を抑制することができる。
【0047】
上述したように、本発明では、原料ガスを150m/秒以上の流速で供給するが、用いる装置のベルジャ1の内部空間の広さが一般的なもの(高さ2〜3m、直径1〜3m)であるとすると、反応圧力を例えば0.3MPa〜0.9MPaであるとして、ガス供給ノズル一本当たりの原料ガス噴出量を300kg/hr以上とすることが好ましい。また、ガス供給ノズルの個数を1〜9とし、ノズル孔(ガス噴出孔)の直径を7mmφ〜20mmφとすることが好ましい。さらに、図4(D)や図4(E)に示すようにガス供給ノズルの数が多い場合は、底板の中央部に設けたガス供給ノズルから噴出するガス量を、他のガス供給ノズルから噴出するガス量よりも多くし、噴出ガスの流れに空間的な不均一が生じないように工夫してもよい。
【0048】
図9は、本発明に係るガス供給ノズルの一例を示す概略断面図である。孔径dを適正な値に維持するために、ノズルチップ9aの材質は、SUS、Ni、Cuなどの金属、あるいは、セラミック、カーボンなどを使用することが好ましい。
【実施例】
【0049】
実施例1として、図3に図示した態様でガス供給ノズル9を配置したものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。
【0050】
また、実施例2として、図4(C)に図示した態様でガス供給ノズル9を配置したものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。
【0051】
これらの実施例では、何れのガス供給ノズル9も、底板5の中央に中心を有する仮想の同心円であって面積Sの底板5の半分の面積S=S/2を有している同心円Cの内側に配置されている。
【0052】
比較例として、下記の比較例1〜4を実施した。
【0053】
比較例1として、図5に図示した態様でガス供給ノズル9を配置したものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。この比較例では、ガス供給ノズル9は同心円Cの内側に底板の中央を中心とする同心円上に等距離に6個設けられているが、底板の中央にはノズルは配置されていない。
【0054】
比較例2として、図6に図示した態様でガス供給ノズル9を配置したものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。この比較例では、ガス供給ノズル9は同心円Cの内側に、ほぼ均等な間隔で底板の概ね全面に配置されている。
【0055】
比較例3として、実施例1と同じガス供給ノズル9配置ではあるものの、ノズル口径を大きくして原料ガスの噴出流速を150m/秒未満としたものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。
【0056】
比較例4として、実施例2と同じガス供給ノズル9配置ではあるものの、ノズル口径を大きくして原料ガスの噴出流速を150m/秒未満としたものを用い、多結晶シリコン棒の製造を行った。
【0057】
表1〜3は、それぞれ、上述の実施例1〜2、比較例1〜2、および、比較例3〜4の析出反応条件および得られた多結晶シリコン棒の評価結果を纏めた表である。なお、反応温度、反応圧力、原料ガス種類、原料ガス濃度、原料の時間当たり総供給量、および、生産により得られた最終的な多結晶シリコン棒直径は何れも同じとした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表1〜3に示す結果から明らかなとおり、比較例1〜4では何れもポップコーンの発生率が高くしかも析出反応中の粉の発生が認められているのに対し、実施例1〜2ではポップコーンの発生率が大幅に低下しておりしかも析出反応中の粉の発生は認められなかった。
【0062】
このように、本発明の多結晶シリコン製造装置を用いることにより、仮想同心円の内側に配置された原料ガス供給ノズルから噴出された原料ガスにより、反応炉内の循環流れが反応炉中心部の上昇気流と反応炉内壁に沿った下降気流とに明確に区分され形成されるため、反応炉内に局部的に閉じた循環流の発生による不適切な高温域の形成が抑制され、多結晶シリコン表面のポップコーン発生を抑制して高品質な多結晶シリコンを得ることができる。
【0063】
また、多結晶シリコン棒周辺の反応ガス流れを効率よく比較的高速に保つことが可能となるため、高速析出反応でありながらも、高速循環を用いずに原料ガスの増量により高速析出反応を行う従来方法が抱えているコスト上昇という問題も解決することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、反応炉内で大量の循環流れを効率よく発生させ炉内に高速の反応ガス流れを形成し、これにより、多結晶シリコン棒近傍の反応ガス流速を確保し、反応炉内ガス温度の局所的な上昇を防止し、高速析出反応でありながらも多結晶シリコン表面のポップコーン発生を抑制、粉の発生による重金属汚染、突起状異常析出の無い多結晶シリコン棒を得る技術を提供する。
【符号の説明】
【0065】
100 反応炉
1 ベルジャ
2 のぞき窓
3 冷媒入口(ベルジャ)
4 冷媒出口(ベルジャ)
5 底板
6 冷媒入口(底板)
7 冷媒出口(底板)
8 反応排ガス出口
9 ガス供給ノズル
9a ノズルチップ
10 電極
11 芯線ホルダ
12 シリコン芯線
13 多結晶シリコン棒
14 ガス流量制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9