(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の光導電素子及び撮像デバイスを適用した実施の形態について説明する。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1の撮像デバイスの構成を示す図であり、(A)は側断面図、(B)は撮像デバイスを(A)のA−A矢視断面で示す図である。
【0018】
図1(A)に示すように、実施の形態1の撮像デバイス100は、光導電素子10、インジウムリング20、ガラス管30、電子ビーム源40、偏向装置50、メッシュ電極60、及び信号読み出し装置70を含む。
【0019】
光導電素子10は、透光性基板11、導電膜12、光導電部13、及び金属製ピン14を有する。透光性基板11は、被写体から得られる反射光を透過して光導電部13に誘導する透明な基板であり、例えば、透光性ガラス製の直径18mmの円板状の基板で構成される。この透光性基板11の一方の面には、酸化インジウムを主体とする直径14mm、膜厚30nmの導電膜12がスパッタ蒸着法により形成される。
【0020】
導電膜12の図中下側の面には、光導電部13が形成されている。金属製ピン14は、透光性基板11を貫通する貫通孔の内部に嵌着されて一端が導電膜12と電気的に接続されており、他端は信号読み出し装置70に接続されている。
【0021】
光導電部13は、電子ビーム源40から発射される電子ビームのターゲットとなり、高電界の印加により内部でアバランシェ増倍現象を生じさせる。この光導電部13は、平面視円形であり、電子ビーム41によって走査される走査面13Aと、透光性基板11及び導電膜12を経て図中上方向から光が入射する入射面13Bを有する。この入射面13Bは、光導電部13の導電膜12との境界面である。
【0022】
また、
図1(B)に示すように、光導電部13は、電子ビーム源40と対向する走査面13Aの中央部に走査領域13Cを有する。この走査領域13Cは、偏向コイル及び集束コイルによって偏向・集束される電子ビーム41により、撮像信号を取り出すための走査が行われる領域である。なお、金属製ピン14は、平面視において走査領域13Cの外となる位置に配設されている。光導電部13の詳細構成については
図2を用いて後述する。
【0023】
インジウムリング20は、透光性基板11とガラス管30の間をシールし、ガラス管30に対して光導電素子10を固定している。
【0024】
ガラス管30は、一端が光導電素子10とインジウムリング20によって封止されたガラス製の管状部材であり、このガラス管30の内部には、奥部から開口部に向けて、電子ビーム源40、偏向装置50、及びメッシュ電極60が配設される。
【0025】
ガラス管30は、電子ビームによる走査を実現するために、インジウムリング20によって透光性基板11とシール(密封)されることにより、内部空間が真空に保持される。
【0026】
電子ビーム源40は、ガラス管30内の奥部に配設される電子放出源であり、陰極材料をヒータで加熱して電子雲を励起する装置である。電子雲として励起された電子は、電子ビーム41として出射される。
【0027】
偏向装置50は、第1グリッド電極51、第2グリッド電極52、及び第3グリッド電極53を有し、電子ビーム41を偏向する。第1グリッド電極51、第2グリッド電極52、及び第3グリッド電極53は、電子ビーム源40で励起された電子を電子ビーム41としてメッシュ電極60の方向に引き出して加速させるための電極である。
【0028】
メッシュ電極60は、電子ビーム源40から見て光導電部13の手前に設けられており、走査用の電子ビーム41のターゲットとなる光導電部13に衝突する電子の速度を低下させるための減速電界を生じさせる電極である。
【0029】
信号読み出し装置70は、光導電部13内で発生した電荷を撮像信号として読み出すための装置であり、光導電部13に電圧を印加するための電源71と、撮像信号を読み出すための読み出し部72を有する。
【0030】
電源71の正極性端子は、金属製ピン14を介して光導電部13に接続されるとともに、読み出し部72に接続されている。また、電源71の負極性端子は電子ビーム源40に接続されており、走査用の電子ビーム41を介して閉回路が形成される。ここで、電源71から光導電部13に印加される電圧をターゲット電圧と称す。なお、説明の便宜上、電源71の負極性端子と電子ビーム源40とを接続するラインは図示を省略する。
【0031】
なお、ガラス管30の外側には、図示しない偏向コイル及び集束コイルが配設され、第3グリッド電極53内で加速される電子(電子ビーム41)を偏向・集束させる。
【0032】
このような実施の形態1の撮像デバイス100において、各電極に印加される電圧は、例えば、電子ビーム源40のヒータ:約6V、第1グリッド電極51:約20V、第2グリッド電極52:約300V、第3グリッド電極53:約600V、メッシュ電極60:約800Vである。
【0033】
また、光導電部13の光入射面13Bには、電源71から導電膜12を介して、光導電部13の厚さに応じて100〜5000Vのターゲット電圧が印加される。
【0034】
走査領域13Cの表面電位は、走査終了直後には電子ビーム源40と同じ電位となり、光導電部13の入射面13Bと走査面13Aの間にはターゲット電圧と同じ電圧が印加される。その後、光が入射すると、吸収された光で光導電部13内に電子−正孔対が生成され、正孔が光導電部13内の電界に沿って走査面13Aまで走行し、走査面13Aの表面電位は正方向に変化する。正方向に上昇した走査面13Aの表面電位は、次の電子ビーム走査により再び電子ビーム源40と同じ電位に戻るが、その際に閉回路に流れる電流変化が読み出し部72から撮像信号として取り出される。
【0035】
電子ビーム源40で発生された電子は、第1グリッド電極51によって引き出され、第2グリッド電極52により電子ビーム41として出射され、外部磁界によって偏向・集束されるとともに第3グリッド電極53で加速される。加速された電子は、メッシュ電極60を通過すると減速され、略零の速度で光導電部13の表面に到達する。これにより、高速で電子が光導電部13に衝突することを抑制でき、衝突による2次電子の放出が抑制される。
【0036】
次に、
図2を用いて光導電部13の構成について説明する。
【0037】
図2は、実施の形態1の撮像デバイスの光導電部13の構成を詳細に示す断面図である。
【0038】
光導電部13は、正孔注入阻止層131、光導電層132、及び電子ビームランディング層133の積層体であり、透光性基板11の導電膜12の表面上に積層されている。
【0039】
正孔注入阻止層131は、導電膜12から光導電層132への電荷(正孔)の注入を阻止するための層であり、暗電流を抑制するために形成される酸化ガリウム(Ga
2O
3)製の薄膜層である。この正孔注入阻止層131は、真空蒸着法によって導電膜12の表面上に形成される。
【0040】
光導電層132は、セレン(Se)を主原料とする非晶質半導体層であり、高電圧の印加によりアバランシェ増倍現象を生じさせる半導体層である。この光導電層132は、真空蒸着法によって正孔注入阻止層131の表面上に形成される。光導電層132をセレン(Se)を主原料とする非晶質半導体層で構成するのは、例えば、HARP(High Gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)光電変換膜(HARP膜)として利用するためである。
【0041】
電子ビームランディング層133は、電子ビーム源40から放出され、第1グリッド電極51、第2グリッド電極52、及び第3グリッド電極53によって加速され、メッシュ電極60によって減速された電子が到達する層である。
【0042】
次に、光導電部13の作製方法について説明する。
【0043】
このような光導電部13は次のようにして作製される。まず、導電膜12上へスパッタリング法により直径14mm、膜厚10〜30nmの酸化ガリウム(Ga
2O
3)製の正孔注入阻止層131を成膜する。スパッタリング法による酸化ガリウム(Ga
2O
3)膜の成膜は、例えば、室温で酸素を供給しながら行えばよい。
【0044】
次に、正孔注入阻止層131の上に真空蒸着法により直径14mm、膜厚2〜50μmのセレン(Se)を主体とする非晶質半導体からなる光導電層132を形成する。さらに、圧力0.1〜0.4Torrのアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で三硫化アンチモン(Sb
2S
3)を蒸着し、直径14mm、膜厚0.1〜0.3μmの電子ビームランディング層133を形成する。以上のようにして光導電部13を得る。
【0045】
このようにして光導電部13を形成した透光性基板11と、電子ビーム源40、メッシュ電極60等を内蔵したガラス管30を、インジウムリング20でシールし、内部を真空封止することにより、実施の形態1の撮像デバイスを得る。
【0046】
次に、実施の形態1の撮像デバイス100の信号電流及び暗電流の特性について説明する。
【0047】
図3は、実施の形態1の撮像デバイス100における印加電圧に対する信号電流及び暗電流の特性と、従来の撮像デバイスの信号電流及び暗電流の特性を示す図である。
【0048】
従来の撮像デバイスは、実施の形態1の撮像デバイス100における酸化ガリウム(Ga
2O
3)製の正孔注入阻止層131の代わりに、酸化セリウム(CeO
2)製の正孔注入阻止層を含む。また、印加電圧とは、金属製ピン14及び導電膜12を介して光導電部13に対して印加した電圧をいう。なお、信号電流は絶対値(a.u. (arbitrary unit):任意単位)で示し、暗電流は(nA)で示す。
【0049】
図3に示すように、信号電流については、従来の撮像素子では最大で9000(a.u.)程度であるのに対して、実施の形態1の撮像デバイス100では、14000(a.u.)程度まで増大していることが分かる。
【0050】
また、暗電流については、従来の撮像素子では最小で約1(nA)程度で、印加電圧の上昇に伴い約10(nA)程度までの範囲の暗電流値を示すのに対して、実施の形態1の撮像デバイス100では、最小で約0.1(nA)程度で、印加電圧の上昇に伴い約3(nA)程度までの範囲の暗電流値を示していることが分かる。
【0051】
このように、正孔注入阻止層131として酸化ガリウム(Ga
2O
3)層を用いた実施の形態1の撮像デバイス100によれば、従来の撮像デバイスに比べて、信号電流が増大(
図3の例では約1.5倍程度)するとともに、暗電流が飛躍的に低減(約1/10〜約1/3程度)することが分かる。このため、S/Nが飛躍的に増大する。このように暗電流が低減されたのは、正孔障壁が酸化セリウム(CeO
2)よりも大きい酸化ガリウム(Ga
2O
3)層を正孔注入阻止層131として用いたことにより、正孔に対するブロッキング特性が改善されたことが一因と考えられる。
【0052】
酸化セリウム(CeO
2)のエネルギーギャップは、約3.2〜3.4eV程度であるのに対して、酸化ガリウムのエネルギーギャップは、約4.9eV程度である。また、n型半導体でありセレンとの接合において、電子障壁を形成せず、正孔に対する障壁は大きくなる。
【0053】
また、室温で酸素を供給しながら行うスパッタリング法によって酸化ガリウム層を成膜することによって欠陥準位の少ない正孔注入阻止層131を形成できたため、正孔の障壁をさらに大きくできたと考えられる。
【0054】
そして、これらにより、実施の形態1の撮像デバイス100では、特に暗電流を大幅に低減できたと考えられる。
【0055】
ここで、
図3において、撮像デバイス100の印加電圧を徐々に上昇させた際に、印加電圧が1200〜1300(V)の辺りから、信号電流が急激に増大している。これは、光導電層132をセレン(Se)を主原料とする非晶質半導体層で構成し、HARP膜にしているからである。
【0056】
光導電層132がHARP膜でない場合の信号電流は、印加電圧が1200〜1300(V)以下の信号電流の特性を破線Aで示すように直線的に延長した特性になると考えられる。破線Aにおいて印加電圧が約1600(V)のときの信号電流は約20であるが、実施の形態1の信号電流は、約10500(a.u.)である。
【0057】
このため、実施の形態1の撮像デバイス100では、光導電層132をHARP膜にすることにより、約525(=10500/20)倍の信号の増倍率が得られたことになる。
【0058】
以上、実施の形態1によれば、酸化ガリウム(Ga
2O
3)層を正孔注入阻止層131として用いることにより、暗電流を大幅に低減し、高感度・高解像度で高S/Nの高品位画像が得られる光導電型の撮像デバイスを提供することができる。
【0059】
撮像デバイスの中でも、特に、アバランシェ増倍現象を利用した高感度撮像管のような撮像デバイスでは、光導電層に、例えば約1×10
8〔V/m〕以上の高い電界を印加する必要がある。このため、特に、アバランシェ増倍現象を利用した高感度撮像管のような撮像デバイスでは、正孔注入阻止層として酸化ガリウム(Ga
2O
3)層を用いることにより、暗電流の抑制効果が顕著に得られ、高感度・高解像度で高S/Nの高品位画像を得ることができる。
【0060】
なお、以上では、セレン(Se)を主体とする非晶質半導体からなる光導電層を用いた撮像デバイスについて説明したが、本発明は光導電層の材料に何らの制限を付すものではなく、Si、PbO、CdS、CdSe、CdTe、Sb
2S
3等で構成される光導電層を用いる撮像デバイスにも適用することができる。
【0061】
また、透光性基板11は、ガラス基板に限らず、透光性樹脂基板、又はオプティカルファイバープレートであってもよい。また、X線に対する透過率が高いベリリウム(Be)、結晶シリコン(Si)、又は窒化ホウ素(BN)等の薄板等を用いれば、X線用撮像デバイスの暗電流を低減することが可能である。
【0062】
また、以上では、一般的に広く使われている撮像管を用いて説明したが、電子ビームを真空中で加速し、光導電層にランディングさせて蓄積電荷を読み出す方式のデバイスであれば、他の形式の撮像デバイスであってもよい。
【0063】
[実施の形態2]
図4は、実施の形態2の撮像デバイスの断面構造を示す図である。実施の形態2の撮像デバイス200は、X線画像用撮像デバイスに好適であり、電子ビーム源としての電子放出源アレイ240を備える点が実施の形態1の撮像デバイスと主に相違する。この電子放出源アレイ240は、複数の微小なカソードがマトリクス状に配列されたものであり、任意のカソードを選択して電子ビームを発射させることができる。このため、実施の形態1の撮像デバイス100のように、第1グリッド電極51、第2グリッド電極52、第3グリッド電極53、偏向コイル、及び集束コイルは備えない。
【0064】
また、実施の形態2では、ガラス管230はカップ状である。電子放出源アレイ240は、ガラス管230の底面に配設される。
【0065】
その他の構成は、基本的に実施の形態1の撮像デバイスに準ずるため、同一又は同等の構成要素には同一の符号を用い、その説明を省略する。
【0066】
実施の形態2の撮像デバイスは、透光性基板11として厚さ0.5mm、直径18mmのベリリウム(Be)製の薄板状の導電性基板を用いる。ベリリウム(Be)製の薄板状の透光性基板11は導電性を有するため、実施の形態1のように一方の面に導電膜12を形成する必要はない。
【0067】
透光性基板11の一方の面には、実施の形態1と同様に光導電部13が形成される。この透光性基板11は、インジウムリング20を介してガラス管230に封止される。
【0068】
また、上述のように、実施の形態2のガラス管230は、カップ状である。このカップ状のガラス管230の内部の底面には電子放出源アレイ240が配設され、開口部230Aの近傍には、メッシュ電極60が配設される。
【0069】
電子放出源アレイ240は、複数の微小なカソードがマトリクス状に配列された平板状の電子ビーム源である。走査ラインと選択ラインに印加する電圧値を制御することにより、所望のカソードから電子ビーム241を光導電部13に発射することができる。
【0070】
以上のようにして光導電部13を表面に形成した透光性基板11と、電子放出源アレイ240やメッシュ電極60等を内蔵したガラス管230とをインジウムリング20を用いてシールし、内部を真空封止することにより、実施の形態2の撮像デバイスを作製することができる。
【0071】
光導電部13に印加する電圧と撮像デバイスの撮像信号電流及び暗電流の関係は、光導電部13の構造と膜厚に依存する。このため、実施の形態1と同一の酸化ガリウム(Ga
2O
3)製の正孔注入阻止層131及び光導電層132を含む光導電部13を用いた実施の形態2の撮像デバイスにおいても、実施の形態1の撮像デバイスと同じように、従来技術による撮像デバイスに比べて暗電流を低減することができる。
【0072】
なお、以上では、ガラス管230がカップ状である形態について説明したが、カップ状のガラス管230の代わりに、同一形状で金属製の真空チャンバを用いてもよい。
【0073】
以上で説明した実施の形態1及び2の撮像デバイスは、高画質が要求されるテレビジョンカメラ、特にハイビジョン用カメラに最適であり、産業、医療、理化学分野等の画像解析システムに適用すれば、高S/Nでの信号処理が可能になる等の効果が得られる。
【0074】
以上、本発明の例示的な実施の形態の光導電素子及び撮像デバイスについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。