(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体と前記導体を被覆する少なくとも3層の押出絶縁層を有してなる多層絶縁電線であって、前記絶縁層の最外層(A)が、ポリアミド樹脂の押出被覆層からなり、かつその膜厚が25μm以下であり、内側の層である絶縁層の内層(B)を形成するベース樹脂成分が、液晶ポリマー以外の融点が225℃以上の結晶性樹脂のポリエステル系樹脂75〜95質量%および融点が225℃以上の液晶ポリマーのポリエステル系樹脂5〜25質量%からなることを特徴とする多層絶縁電線。
【背景技術】
【0002】
変圧器の構造は、IEC規格(International Electrotechnical Communication Standard)Pub.60950などによって規定されている。即ち、これらの規格では、巻線において一次巻線と二次巻線の間には少なくとも3層の絶縁層(導体を被覆するエナメル皮膜は絶縁層と認定しない)が形成されていること又は絶縁層の厚みは0.4mm以上であることが規定されている。また、一次巻線と二次巻線の沿面距離は、印加電圧によっても異なるが、5mm以上であることとされている。さらに、一次側と二次側に3000Vを印加した時に1分以上耐えること、などが規定されている。
このような規格のもとで、従来、主流の座を占めている変圧器としては、
図2の断面図に例示するような構造が採用されてきた。この変圧器は、フェライトコア1上のボビン2の周面両側端に沿面距離を確保するための絶縁バリヤ3が配置された状態でエナメル被覆された一次巻線4が巻回されたのち、この一次巻線4の上に、絶縁テープ5を少なくとも3層巻回し、更にこの絶縁テープの上に沿面距離を確保するための絶縁バリヤ3を配置したのち、同じくエナメル被覆された二次巻線6が巻回された構造である。
【0003】
しかし、近年、
図2に示した断面構造の変圧器(トランス)に代わり、
図1で示したように、絶縁バリヤ3や絶縁テープ層5を含まない構造の変圧器が用いられるようになった。この変圧器は
図2の構造の変圧器に比べて、全体を小型化することができ、また、絶縁テープの巻回し作業を省略できるなどの利点を備えている。
図1で示した変圧器を製造する場合、用いる1次巻線4及び2次巻線6では、いずれか一方もしくは両方の導体4a(6a)の外周に少なくとも3層の絶縁層4b(6b),4c(6c),4d(6d)が形成されていることが前記したIEC規格との関係で必要になる。
【0004】
このような巻線として導体の外周に絶縁テープを巻回して1層目の絶縁層を形成し、更にその上に、絶縁テープを巻回して2層目の絶縁層、3層目の絶縁層を順次形成して互いに層間剥離する3層構造の絶縁層を形成するものが知られている。また、絶縁テープの代わりにフッ素樹脂を、導体の外周上に順次押出被覆して、全体として3層の絶縁層を形成したものも公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、前記の絶縁テープ巻により巻線を製造する場合、巻回する作業が不可避である為、生産性は著しく低く、その為電線コストは非常に高いものになっている。
また、前記のフッ素樹脂で押出し被覆された絶縁電線では、絶縁層はフッ素系樹脂で形成されているので、耐熱性は良好であるという利点を備えている。しかし、フッ素樹脂は高価である上に、高剪断速度で引っ張ると外観状態が悪化するという性質があるため、製造スピードを上げることも困難である。このため、フッ素樹脂で押出し被覆された絶縁電線は絶縁テープ巻と同様に電線コストが高いものになってしまうという問題点がある。
【0006】
これらの問題点を解決するため、導体の外周上に、1層目、2層目の絶縁層として結晶化を制御し分子量低下を抑制した変性ポリエステル樹脂を押出し、3層目の絶縁層としてポリアミド樹脂を押出被覆した多層絶縁電線が実用化されている(例えば、特許文献2及び3参照。)。さらに近年の電気・電子機器の小型化に伴い、発熱による機器への影響が懸念され、より高い耐熱性を向上させた多層絶縁電線として、内層にポリエーテルスルホン樹脂、最外層にポリアミド樹脂を押出被覆したものが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
上記の絶縁電線は、IEC規格(International Electrotechnical Communication Standard)Pub.60950に準拠し、電気・電子機器用途に展開されてきた。小型化、高効率化を可能とする絶縁電線は、IEC規格Pub.61558に準拠した家電用途への展開も望まれている。そのため、要求される電圧の規定がより厳しいIEC規格Pub.61558に準拠した多層絶縁電線が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
電気・電子機器の分野に絶縁電線が用いられてきたが、より耐電圧の要求レベルが高い家電の分野における多層絶縁電線が要求されている。しかしながら、これまでの多層絶縁電線では、IEC規格Pub.61558を満足する絶縁電線はなかった。
本発明の多層絶縁電線は、被覆する絶縁層は少なくとも3層、好ましくは3層からなる多層絶縁電線である。その好ましい実施形態について、各層を形成する樹脂について説明をする。
【0014】
本発明の多層絶縁電線の最外層(A)は、ポリアミド樹脂からなる押出被覆層である。最外層の絶縁層として好適に用いられるポリアミド樹脂としては、ナイロン6,6[「A−125」:商品名、ユニチカ(株)製、「アミランCM−3001」:商品名、東レ(株)製]、ナイロン4,6[「F−5000」:商品名、ユニチカ(株)製、「C2000」:商品名、帝人(株)製]、ナイロン6,T[「アーレンAE−420」:商品名、三井石油化学(株)製]、ポリフタルアミド[「アモデルPXM04049」:商品名、ソルベイ(株)製]等を挙げることができる。
ポリアミド樹脂からなる最外層(A)の押出被覆層の膜厚は、薄くしても耐電圧特性が良好となるため25μm以下にすることができ、好ましくは10〜20μmである。この膜厚は薄すぎると耐熱性が低下し、厚すぎると耐電圧特性が低下する。
【0015】
本発明の多層絶縁電線の内層(B)は、融点が225℃以上好ましくは250℃以上の結晶性樹脂を含む押出被覆層からなる。融点が低すぎると、耐熱性が不足し、耐熱B種を満たさない結果となり、被覆層として不適切である。
融点が225℃以上の結晶性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート等を挙げることができ、後述する熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂等が特に好ましい
。
【0016】
本発明の好ましい実施態様においては、融点が225℃以上の結晶性樹脂で形成する絶縁層の内層(B)は、全部または一部が脂肪族アルコール成分と酸成分とを結合して形成される熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂を含むものの押出被覆層である。
熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸またはその一部が脂肪族ジカルボン酸で置換されているジカルボン酸と脂肪族ジオールとのエステル反応で得られたものが好ましく用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフレート樹脂(PEN)などを代表例としてあげることができる。
【0017】
この熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂の合成時に用いる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸などをあげることができる。これらのうち、とくにテレフタル酸は好適なものである。
芳香族ジカルボン酸の一部を置換する脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などをあげることができる。これらの脂肪族ジカルボン酸の置換量は、芳香族ジカルボン酸の30モル%未満であることが好ましく、とくに20モル%未満であることが好ましい。
【0018】
一方、エステル反応に用いる脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール,ヘキサンジオール,デカンジオールなどをあげることができる。これらのうち、エチレングリコール,テトラメチレングリコールは好適である。また、脂肪族ジオールとしては、その一部がポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールのようなオキシグリコールになっていてもよい。
【0019】
本発明において好ましく用いることができる市販の熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂として、「バイロペット」(商品名:東洋紡社製)、「ベルペット」(商品名:鐘紡社製)、「帝人PET」(商品名:帝人社製、)を挙げることができる。ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂として、「帝人PEN」(商品名:帝人社製)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂として、「エクター」(商品名:東レ社製)等が挙げられる。
【0020】
さらに、内層(B)を構成する樹脂は、融点が225℃以上の結晶性樹脂である熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂100質量部に対し、側鎖にカルボン酸またはカルボン酸の金属塩を有するエチレン系共重合体5〜40質量部を配合して成る樹脂混和物が好ましい。
樹脂混和物には、例えば、ポリエチレンの側鎖にカルボン酸もしくはカルボン酸の金属塩を結合させたエチレン系共重合体を含有させることが好ましい。このエチレン系共重合体は、前記した熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂の結晶化を抑制する働きをする。
【0021】
エチレン共重合体に結合させるカルボン酸としては、例えば、アクリル酸,メタクリル酸,クロトン酸のような不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸,フマル酸,フタル酸のような不飽和ジカルボン酸をあげることができ、またこれらの金属塩としては、Zn,Na,K,Mgなどの塩をあげることができる。
このようなエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−メタアクリル酸共重合体のカルボン酸の一部を金属塩にし、一般にアイオノマーと呼ばれる樹脂(例えば、「ハイミラン」;商品名、三井ポリケミカル(株)製)、エチレン−アクリル酸共重合体(例えば、「EAA」;商品名、ダウケミカル社製)、側鎖にカルボン酸を有するエチレン系グラフト重合体(例えば、「アドマー」;商品名、三井石油化学工業(株)製)をあげることができる。
【0022】
この実施態様の内層(B)を構成する樹脂混和物において、熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂と側鎖にカルボン酸またはカルボン酸の金属塩を有するエチレン系共重合体との配合割合は、前者100質量部に対し、後者は5〜40質量部の範囲に設定されることが好ましい。後者の配合量が少なすぎると、形成された絶縁層の耐熱性に問題はないが、熱可塑性直鎖ポリエステル樹脂の結晶化抑制効果は小さくなり、そのため、曲げ加工などのコイル加工時に絶縁層の表面に微小クラックが発生する、いわゆるクレージング現象が発生することがある。また、絶縁層の経時劣化が進んで絶縁破壊電圧の著しい低下を引き起こすことがある。他方、配合量が多すぎると、絶縁層の耐熱性は著しく劣化してしまう。両者のより好ましい配合割合は、前者100質量部に対し、後者は7〜25質量部である。
【0029】
また
、本発明の多層絶縁電線の内層(B)を構成するベース樹脂成分
は、液晶ポリマー以外の融点が225℃以上の結晶性樹脂であるポリエステル系樹脂75〜95質量%および融点が225℃以上の液晶ポリマーのポリエステル系樹脂を5〜25質量%を含有するポリエステル系樹脂を含んでなるポリエステル系樹脂組成物である。液晶ポリマー以外のポリエステル系樹脂と液晶ポリマーの混合方法は任意の方法を用いることができる。
【0030】
本発明において用いる液晶ポリマーについて以下に説明する。
用いられる液晶ポリマーとして、その分子構造、密度、分子量等は特に限定されるものではなく、溶融したときに液晶を形成する溶融液晶性ポリマー(サーモトロピック液晶ポリマー)が好ましい。溶融液晶性ポリマーの中でも、溶融液晶性ポリエステル系共重合体が好ましい。
このような溶融液晶性ポリエステルとしては、(I)長さの異なる剛直な直線性のポリエステル2種をブロック共重合して得られる剛直性成分同士の共重合型のポリエステル、(II)剛直な直線性のポリエステルと剛直な非直線性のポリエステルをブロック共重合して得られる非直線性構造導入型のポリエステル、(III)剛直な直線性のポリエステルと屈曲性のあるポリエステルの共重合による屈曲鎖導入型のポリエステル、(IV)剛直鎖で直線性のポリエステルの芳香族環上へ置換基を導入した核置換芳香族導入型ポリエステルがある。
【0031】
このようなポリエステルの繰り返し単位としては、次のa.芳香族ジカルボン酸に由来するもの、b.芳香族ジオールに由来するもの、c.芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来するものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
a.芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位:
【0035】
b.芳香族ジオールに由来する繰り返し単位:
【0038】
c.芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位:
【0040】
被覆層のフィルム成形工程での操業性、耐熱性、絶縁皮膜の力学的特性等のバランスから、液晶ポリマーは下記の繰り返し単位を含むものが好ましく、さらに好ましくはこの繰り返し単位を全体の少なくとも30モル%以上含むものである。
【0042】
好ましい繰り返し単位の組み合わせは下記(I)〜(VI)に記載する繰り返し単位の組み合わせが挙げられる。
【0049】
このような液晶ポリマーのポリエステル系樹脂の製造方法については、例えば、特開平2−51523号公報、特公昭63−3888号公報、特公昭63−3891号公報等に記載されている。
これらの中で、(I)、(II)、(V)に示す組み合わせのものが好ましく、さらに好ましくは(V)に示す組み合わせのものが挙げられる。
【0050】
液晶ポリマーのポリエステル系樹脂は、本発明において用いられるポリアミド樹脂や熱可塑性ポリエステルよりもやや融点が高い程度であり、流動化温度は300℃以上である。さらに、液晶ポリマーのポリエステル系樹脂の溶融時の粘度はポリエチレンテレフタレートや6,6ナイロンの粘度以下であるため、高速での押出し被覆処理が可能となり、低コストで絶縁被覆層の形成ができる。
液晶ポリマー皮膜は、逆に伸びが数%と極めて低い特徴があり、屈曲性に問題がある。そこで、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの液晶ポリマー以外のポリエステル系樹脂を液晶ポリマーに配合することで皮膜の伸びを改善し、可とう性を良好にすることが可能になる。
【0051】
本発明の内層(B)を形成する樹脂として、上記液晶ポリマーと液晶以外のポリマーのポリエステル系樹脂を含むベース樹脂成分に対して、エポキシ基を有する樹脂を含み、ポリエステル系樹脂を連続層とし、エポキシ基を有する樹脂を分散相とする樹脂混和物を含むものであることが好ましい。このエポキシ基を有する樹脂の含有量は、ポリエステル系樹脂のベース樹脂成分100質量部に対し、1〜20質量部であることが好ましく、2〜15質量部であることがさらに好ましい。
エポキシ基を有する樹脂が20質量部より多いと耐熱性がやや低くなる。液晶ポリマー(LCP)やPETに比べてエポキシ基を有する樹脂成分の耐熱性が低いためと推定される。
【0052】
上記エポキシ基を有する樹脂の代表的な例としては、エチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル3元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/酢酸ビニル3元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル/酢酸ビニル4元共重合体などが挙げられる。中でもエチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル3元共重合体が好ましい。市販の樹脂では、例えば、「ボンドファースト」(商品名:住友化学工業社製)、「ロタダー」(商品名:アトフィナ社製)が挙げられる。
【0061】
本発明の好ましい多層絶縁電線について、図面を参照して説明する。
図3に示されるように、多層絶縁電線11の最外層12、最外層に接する内層(B1)13、更にその内側の内層(B2)14という3層構造からなる多層絶縁電線とすることができる。
図3では、3層からなる多層絶縁電線が記載されているが、絶縁層は3層以上であればよい。
【0062】
本発明の多層絶縁電線の最外層(A)の内側にある2層以上の内層(B)のうち、それぞれの層を形成する樹脂を同じものとするのが好ましいが、異なるものとすることもできる。異なるものとする場合、それぞれの層を上記した実施態様で述べた異なる樹脂混和物を採用して組合せたり、または樹脂混和物と樹脂組成物を採用して組合せる
。
【0063】
本発明における各絶縁層を形成する樹脂には、求められる特性を損なわない範囲で、他の耐熱性樹脂、通常使用される添加剤、無機充填剤、加工助剤、着色剤なども添加することができる
【0064】
本発明の多層絶縁電線に用いられる導体としては、金属裸線(単線)、または金属裸線にエナメル被覆層や薄肉絶縁層を設けた絶縁電線、あるいは金属裸線の複数本またはエナメル絶縁電線もしくは薄肉絶縁電線の複数本を撚り合わせた多心撚り線を用いることができる。これらの撚り線の撚り線数は、高周波用途により随意選択できる。また、線心(素線)の数が多い場合(例えば19−、37−素線)、撚り線ではなくてもよい。撚り線ではない場合、例えば複数の素線を略平行に単に束ねるだけでもよいし、または束ねたものを非常に大きなピッチで撚っていてもよい。いずれの場合も断面が略円形となるようにすることが好ましい。
【0065】
本発明の多層絶縁電線は、常法により、導体の外周に所望の厚みの1層目の絶縁層を押出被覆し、次いで、この1層目の絶縁層の外周に所望の厚みの2層目を、さらに最外層の絶縁層を押出被覆するという方法で、順次絶縁層を押出被覆することで製造される。このようにして形成される押出絶縁層の全体の厚みは3層では50〜180μmの範囲内にあるようにすることが好ましい。このことは、絶縁層の全体の厚みが薄すぎると得られた耐熱多層絶縁電線の電気特性の低下が大きく、実用に不向きな場合があり、逆に厚すぎると小型化に不向きであり、コイル加工が困難になるなどの場合があることによる。さらに好ましい範囲は60〜150μmである。また、最外層の厚みは、上記したように最外層にポリアミド樹脂を用いた場合は25μm以下にすることが好ましく、より好ましくは10〜20μmである。
【0066】
上記の多層絶縁電線を用いた変圧器の実施態様としては、
図1に示すようなフェライトコア1上のボビン2内に、絶縁バリヤや絶縁テープ層を組込まないで、1次巻線4及び2次巻線6が形成されている構造ものが好ましい。また、上記本発明の多層絶縁電線は他のタイプの変圧器にも適用できるものである。
【実施例】
【0067】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1〜
3及び比較例1〜6]
導体として線径1.0mmの軟銅線を用意した。表1に示した各層の押出被覆用樹脂の配合(組成の数値は質量部を示す)及び厚さで、導体上に順次押出し被覆して多層絶縁電線を製造した。なお、表1中の「−」は配合しないことを表す。
【0069】
表1中の各樹脂を示す略号は以下の通りである。なお、各樹脂の融点またはガラス転移温度は示差走査熱量測定器(Differential Scanning Calorimetry)(商品名:DSC−60、島津製作所社製)を用いて測定した。
ポリアミド樹脂:「FDK−1」(商品名:ユニチカ社製)、ポリアミド66樹脂(融点:260℃)
PPS樹脂:「FZ−2200−A8」(商品名:DIC社製)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(融点:280℃)
PET樹脂:「帝人PET」(商品名:帝人社製)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点:260℃)
LCP樹脂:「ロッドランLC5000」(商品名:ユニチカ社製)、液晶ポリエステル樹脂(融点:280℃)
エポキシ基含有樹脂:「ボンドファースト7M」(商品名:住友化学工業社製)(融点:52℃)
エチレン系共重合体:「ハイミラン1855」(商品名:三井デュポン社製)(融点:86℃)
PES樹脂:「スミカエクセルPES4100」(商品名:住友化学工業社製)、ポリエーテルスルホン樹脂(ガラス転移温度:225℃)
【0070】
得られた多層絶縁電線につき、下記の仕様で各種の特性を試験した。また、肉眼により外観を観察した。得られた結果を表1に示した。
A.可とう性試験:
電線自身の周囲に線と線が接触するように緊密に10回巻きつけ、顕微鏡にて観察を行い皮膜にクラックやクレージングなどの異常が見られなければ合格とし、「○」で表示した。
B.電気的耐熱性:
IEC規格61558に準拠した下記の試験方法で評価した。
直径1.0mmのマンドレルに多層絶縁電線を、荷重9.4kgをかけながら10ターン巻付け、225℃で1時間加熱し、更に150℃で21時間及び200℃で3時間を3サイクル加熱し、更に30℃、湿度95%の雰囲気に48時間保持し、その後5500Vにて1分間電圧を印加し短絡しなければ、B種合格と判定し「○」で表示した。(判定はn=5にて評価、1つでも短絡すれば不合格となり「×」で表示)。
C.耐溶剤性:
巻線加工として20D(導体径の20倍径)巻き付けを行った電線を、キシレン及びイソプロピルアルコール溶媒に30秒間浸漬し、乾燥後試料表面の肉眼観察を行い、クレージング発生の有無判定を行った。表1において、クレージングの発生が無いものを「○」、クレージングが発生したものを「×」とした。全ての試料でクレージング発生がみとめられなかった。
D.合否:
そして、これら上記のA、B、Cの試験結果を総合して、絶縁電線としての合否を判定し、好ましいものは「○」、不適切なものは「×」とした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示した結果から以下のことが明らかになった。
比較例1〜4では最外層であるポリアミド樹脂の膜厚が30μmと厚くなっており電気的耐熱性が満足しなかった。比較例5及び6では、最外層にポリエステル樹脂を用いると、膜厚にかかわらず電気的耐熱性が満足しなかった。一方、実施例1〜
3では、可とう性、電気的耐熱性、耐薬品性、および電線外観のいずれも合格基準を満たした。