(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740299
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】液膜型イオン選択性電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20150604BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
G01N27/30 331C
G01N27/46 351B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-287801(P2011-287801)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137215(P2013-137215A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】岩本 恵和
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−127252(JP,U)
【文献】
実開昭63−096456(JP,U)
【文献】
特表2002−514540(JP,A)
【文献】
特開平10−197474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液に含まれるイオン濃度を測定するための液膜型イオン選択性電極であって、
所定のイオノフォアが基材に担持されてなる液膜型のイオン感応膜と、導電性を有し前記イオン感応膜を透過した光が入射する位置に設けられた内部極と、電解質を含有し前記イオン感応膜と前記内部極とに接する内部液と、を備え、
前記イオン感応膜が、絶縁性を有する紫外線吸収剤又は紫外線反射剤を含有していることを特徴とする液膜型イオン選択性電極。
【請求項2】
前記イオン感応膜の基材が、樹脂である請求項1記載の液膜型イオン選択性電極。
【請求項3】
前記内部極が、Ag/AgCl電極である請求項1又は2記載の液膜型イオン選択性電極。
【請求項4】
所定のイオノフォアが基材に担持されてなる液膜型のイオン感応膜と、導電性を有し前記イオン感応膜を透過した光が入射する位置に設けられた内部極と、電解質を含有し前記イオン感応膜と前記内部極とに接する内部液と、を備え、
前記イオン感応膜が、絶縁性を有する紫外線吸収剤又は紫外線反射剤を含有しており、
前記絶縁性の紫外線吸収剤又は紫外線反射剤が、有機系顔料である液膜型イオン選択性電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオノフォアが担持された液膜型のイオン感応膜を備えた液膜型イオン選択性電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特定のイオンを選択的に捕捉することができる種々のイオノフォア(イオン選択性配位子)が知られており、これを利用して、イオノフォアが担持された液膜型のイオン感応膜を備えた液膜型イオン選択性電極が開発されている(特許文献1)。当該液膜型イオン選択性電極は、目的イオンに応じてイオノフォアを変えることにより種々のイオンを分析対象とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−33333号公報
【特許文献2】特開昭63−138255号公報
【特許文献3】特開2005−308720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該液膜型イオン選択性電極のイオン感応膜の基材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、透明シリコーンゴム等の樹脂が一般的に用いられるが、これらの樹脂はガラスと比較すると概して紫外線の透過率が高い。このため、液膜型イオン選択性電極を用いて、特許文献2に記載されているようなフラットタイプの分析装置を構成すると、イオン感応膜の直下に内部極が位置することになり、イオン感応膜を透過した紫外線が内部極に照射されてしまい、電位の変動が生じるという問題がある。
【0005】
従来、紫外線によるセンサの劣化を防ぐためには、例えば使用時までセンサ面を覆う遮光性のカバーを設けた包装を用いる等の手段が講じられている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、このようなカバーを設けても分析時にはカバーを設けた包装を開ける必要があるので、分析時の紫外線による内部極の電位変動を防ぐことはできない。
【0007】
そこで本発明は、紫外線による内部極の電位変動を抑制し、精度の高い分析を行うことが可能な液膜型イオン選択性電極を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、イオン感応膜自体に紫外線吸収剤や紫外線反射剤を含有させると、イオン感応膜の性能に影響が及ぶと考えられていた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、イオン感応膜自体に紫外線吸収剤や紫外線反射剤を含有させても、当該紫外線吸収剤等が絶縁性のものであれば、イオン感応膜の性能を維持したまま紫外線による内部極の電位変動を抑制できることが判明した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち本発明に係る液膜型イオン選択性電極は、
被検液に含まれるイオン濃度を測定するための液膜型イオン選択性電極であって、所定のイオノフォアが基材に担持されてなる液膜型のイオン感応膜と、導電性を有し前記イオン感応膜を透過した光が入射する位置に設けられた内部極と、電解質を含有し前記イオン感応膜と前記内部極とに接する内部液と、を備え、前記イオン感応膜が、絶縁性を有する紫外線吸収剤又は紫外線反射剤を含有していることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、液膜型のイオン感応膜に絶縁性の紫外線吸収剤又は紫外線反射剤が配合されているので、液膜型イオン選択性電極を用いてフラットタイプの分析装置を構成しても、紫外線が内部極に照射されるのを防ぐことができるので、紫外線による内部極の電位変動を抑制し、精度の高い分析を行うことが可能となる。
【0011】
前記イオン感応膜の基材としては特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、透明シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の透明であり、かつ、紫外線の透過率の高い樹脂が用いられる。前記イオン感応膜の基材が、このような紫外線の透過率の高い樹脂である場合、本発明が有効に作用する。また、基材として樹脂を用いれば、例えば樹脂、イオノフォア、紫外線吸収剤又は紫外線反射剤等を溶媒に溶かし、これを応答部に塗布した後溶媒を蒸発させる等の簡便な成膜法を用いることができるので、イオン感応膜の成膜が容易にできる。
【0012】
前記内部極としては特に限定されず、例えば、例えば、Ag/AgCl、Hg/Hg
2Cl
2、Hg/Hg
2SO
4等からなるものが用いられる。なかでも、内部極がAg/AgCl電極である場合、紫外線(最大吸収波長200nm)によりAgが酸化しかつAgClが銀化し負に帯電することにより電位の変動がおこりやすいので、本発明が有効に作用する。なお、紫外線によるAg/AgCl電極の電位変動は、紫外線が含まれる光であれば特に限定されず、例えば蛍光灯からの照射光によっても太陽光によっても生じる。そして、太陽光がAg/AgCl電極に照射されると10〜100mV程度の電位変動が生じる。
【0013】
前記紫外線吸収剤又は紫外線反射剤としては絶縁性を有しているものであれば特に限定されず、例えば、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレット等のキナクリドン系顔料;ジメチルキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドー等のペリレン系顔料;ジケトピロロピロールレッド、ジケトピロロピロールオレンジ等のジケトピロロピロール系顔料;ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレット等のポリアゾ縮合顔料;ジスアゾイエロー等のジスアゾ系顔料;モノアゾレッド、モノアゾイエロー、モノアゾブラウン等のモノアゾ系顔料;イソインドリノンイエロー等のイソインドリノン系顔料等の有機系顔料が挙げられる。これらの有機系顔料はイオン感応膜の起電力に影響を与えない。なお、例えばカーボン等の導電性を有している紫外線吸収剤又は紫外線反射剤は、電位変動を招くので、本発明には不適当である。
【0014】
前記紫外線吸収剤又は紫外線反射剤の基材への添加量としては、質量比で基材:紫外線吸収剤又は紫外線反射剤が1:3〜1:10であることが好ましく、より好ましくは1:5〜1:7.5である。この範囲内であれば紫外線吸収剤又は紫外線反射剤の添加によっても膜形成が妨げられることなく、充分は紫外線遮断効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
このような構成を有する本発明によれば、紫外線による内部極の電位変動を良好に抑制することができるので、精度の高い分析を行うことが可能なる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液膜型Na
+/K
+電極の構造を示す分解斜視図。
【
図2】同実施形態における平面センサの構成を示す縦断面図。
【
図3】同実施形態における平面センサの要部を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る液膜型Na
+/K
+電極1は、例えば尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度を測定するためのイオン選択性電極と比較電極とが一体となった複合型のものであり、
図1〜3に示すように、合成樹脂製の本体2と、本体2に内蔵されたマイクロコンピュータ等の演算処理部(図示しない。)と、本体2の上面に形成された表示・操作部3と、表示・操作部3に隣接して形成された電源部4と、合成樹脂からなると共に防水構造に形成された電極部5とを備えている。
【0019】
本体2内には、後述する平面センサ7のリード部21A、22A、23A、24A、25Aと、演算処理部を有する回路基板62との接続部63が設けられている。なお、回路基板62は筐体に繋がって支持されている。
【0020】
表示・操作部3は、表示部31と、パワーボタン32a、校正ボタン32b、ホールドボタン32c等の各種の操作ボタンを有する操作部32とからなり、電源部4は、ボタン電池41、42を備えている。
【0021】
電極部5は、一端側が電源部4を収容できるように開口した筒状部6と、筒状部6の他端側に連設された平面センサ7とからなり、電源部4を覆うように本体2に装着して本体2と一体的に接続したり、本体2から分離したりできるようにしてある。
【0022】
平面センサ7は、
図2及び
図3に示すように、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の電気絶縁性を有する材料からなり、互いに積層された基板11、12、13を備えている。各基板11、12、13の一部は円弧状に形成してあり、最上層の第3基板13と中層の第2基板12とは平面形状(外形)が同一で、下層の第1基板11は基板12、13とは円弧状部分は同形であるが、その反対側はこれらよりもやや長くしてある。また、第3基板13の周縁を囲むように、被検液ホルダ74が設けられている。
【0023】
第1基板11には、その上面に所定の前処理を施した後、例えばAgペーストをシルクスクリーン印刷等することにより導電部21、22、23、24、25が形成してあると共に、円形の貫通孔81が形成されている。そして、導電部21、22、23、24、25は次のように加工されている。すなわち、一方の外側の導電部21の先端はAgClで被覆されてNa
+電極71の円形の内部極26が形成され、その内側の導電部22の先端もAgClで被覆されてK
+電極72の円形の内部極27が形成されている。また、他方の外側の導電部25の先端もAgClで被覆されて基板11の一方の側端部に位置する細長い形状の比較電極73の内部極28が形成されている。更に、内側の二つの導電部23、24の先端にわたってサーミスタ等の温度補償素子29が設けられている。そして、各導電部21、22、23、24、25の他の部分はそのままリード部21A、22A、23A、24A、25Aを構成している。
【0024】
第2基板12には、貫通孔81に対応する位置に形成されたこれと同径の貫通孔82と、内部極26と内部極27とに対応する位置にそれぞれ形成された、これらよりやや大径の貫通孔83、84と、温度補償素子29に対応する位置に形成された、これとほぼ同寸の矩形状の貫通孔85とが、それぞれ設けられている。更に、比較電極の内部極28に対応する側端部に細長い切欠き部86が形成してある。
【0025】
第3基板13には、貫通孔81、82に対応する位置にこれと同径の貫通孔87と、貫通孔83、84に対応する位置にそれぞれ形成された、これらよりやや大径の貫通孔88、89と、貫通孔85に対応する位置に形成された、これと同寸の貫通孔91とが、それぞれ設けられている。更に、切欠き部86に対応する位置にこれと同寸の切欠き部92が形成してある。
【0026】
基板11、12、13のそれぞれ対応する位置に形成された貫通孔81、82、87には、これらを挿通するようにポリエチレン製の多孔体からなる比較電極73の液絡部17が装填されている。当該液絡部17は、最上層の第3基板13の上面とほぼ面一になるようにして装填してある。
【0027】
第2基板12に形成された貫通孔83、84内には、それぞれゲル状内部液14a、14bが装填されている。当該ゲル状内部液14a、14bは、CaCl
2を含むpH緩衝液に、ゲル状内部液14aではナトリウムイオンをゲル状内部液14bではカリウムイオンを加えてなる内部液に、更にゲル化剤とゲル蒸発防止剤とを添加して円盤状に形成してものである。なお、内部液のCl
−濃度は0.1M〜飽和濃度に調整してある。これらのゲル状内部液14a、14bは、その上面が第2基板12の上面よりやや突出した状態で貫通孔83、84内に装填されており、この貫通孔83、84を介して第1基板11の上面に形成された内部極26及び内部極27と接触している。
【0028】
第3基板13に形成された貫通孔88、89内には、それぞれ円盤状に形成されたナトリウムイオン感応膜15とカリウムイオン感応膜16とが装填されており、ゲル状内部液14a、14bに接触すると共に、第3基板13の上面とほぼ面一になるように固定してある。ナトリウムイオン感応膜15及びカリウムイオン感応膜16と内部極26、27とはゲル状内部液14a、14bを挟んで対向した状態で近接している。
【0029】
ナトリウムイオン感応膜15は、ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤とナトリウムイオノフォアとしてBis(12−crown−4)と紫外線吸収剤としてイソインドリノンイエローを加えた後、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒で溶解したものを、ポッティングやインクジェット印刷法等によって、貫通孔88内に充填し、その後、加熱して有機溶媒を蒸発させて固体状のナトリウムイオン感応膜15に形成したものである。
【0030】
カリウムイオン感応膜16は、カリウムイオノフォアとしてBis(benzo−15−crown−5)を用いたこと以外はナトリウムイオン感応膜15と同様にして形成する。
【0031】
比較電極73のゲル状内部液14cは、筒状部6に連設されたケース61において最下層の第1基板11の下方から最上層の第3基板13の上方にわたって設けられている。ゲル状内部液14cの上部及び下部は、基板11〜13の比較電極73の内部極28側の側部とケース61との間の隙間を介して互いに連通するように装填されており、比較電極73の内部極28の表面及び液絡部17の下端部と接触している。比較電極73のゲル状内部液14cは、0.1M〜飽和濃度のNH
4Cl水溶液からなる内部液にゲル化剤とゲル蒸発防止剤とを添加したものである。
【0032】
このように構成した本実施形態に係る液膜型Na
+/K
+電極1によれば、液膜型のイオン感応膜15、16の基材として紫外線の透過率が高いポリ塩化ビニルが使用されていても、イオン感応膜15、16に配合されたイソインドリノンイエローが紫外線を吸収するので、紫外線がイオン感応膜15、16に対向して設けられたAg/AgCl電極からなる内部極26、27に照射されるのを防ぐことができる。このため、紫外線による内部極26、27の電位変動を抑制し、精度の高い分析を可能とする。
【0033】
本発明は前記実施形態に限られるものではなく、その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
前記実施形態の液膜型Na
+/K
+電極(複合タイプ)として、ナトリウムイオン感応膜とカリウムイオン感応膜にイソインドリノンイエロー(大日精化社製、DA4446)を配合した本発明品と、イソインドリノンイエローを配合していないこと以外は本発明品と同じ仕様を有する比較例とを各5個ずつ作製した。
【0036】
得られた液膜型Na
+/K
+電極に対し、太陽光が降り注ぐ屋外で、直射日光下(61kLux)又は遮光した状態で、ナトリウムイオンとカリウムイオンとを含むCaCl
2水溶液を各イオン感応膜上に滴下し、生じた電位を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、規格値は0±3mVである。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1及び表2に示す結果より、比較例では紫外線の影響が負の方向に20mV以上にまでなるものもあり、これはイオン濃度の変化としては2倍(電位では18mV相当)以上に相当する。これに対して、本発明品では紫外線の影響が±0.2mV以内に収まっており、規格値を充分に満たし、測定するうえで紫外線の影響を考慮する必要がない。従って、本試験によりイオン感応膜に紫外線吸収剤を配合することにより、電位変動が有効に抑制され、精度の高い分析が可能となることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0040】
1・・・液膜型Na
+/K
+電極
14a・・・Na
+電極のゲル状内部液
14b・・・K
+電極のゲル状内部液
15・・・ナトリウムイオン感応膜
16・・・カリウムイオン感応膜
26・・・Na
+電極の内部極
27・・・K
+電極の内部極
71・・・Na
+電極
72・・・K
+電極