特許第5740708号(P5740708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5740708非水電解液二次電池用正極及び非水電解液二次電池並びに電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740708
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極及び非水電解液二次電池並びに電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20150604BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150604BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20150604BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150604BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150604BHJP
【FI】
   H01M4/136
   H01M4/36 C
   H01M4/58
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-282433(P2010-282433)
(22)【出願日】2010年12月17日
(65)【公開番号】特開2012-133894(P2012-133894A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】原 富太郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】井口 隆康
(72)【発明者】
【氏名】北川 高郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 良貴
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−059532(JP,A)
【文献】 特開2007−213961(JP,A)
【文献】 特開2003−308845(JP,A)
【文献】 特開2010−218884(JP,A)
【文献】 特開2009−295566(JP,A)
【文献】 特開2009−187963(JP,A)
【文献】 特開2003−292309(JP,A)
【文献】 特開2009−048958(JP,A)
【文献】 特開2009−206085(JP,A)
【文献】 特開2007−265923(JP,A)
【文献】 特開2007−173134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子を正極活物質として含有してなる非水電解液二次電池用正極において、
前記オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面積に対する前記炭素質被膜の被覆率は95%以上であり、
前記非水電解液二次電池用正極における前記オリビン型リチウム複合化合物粒子の充填密度は、0.90g/cm以上かつ1.09g/cm以下であることを特徴とする非水電解液二次電池用正極。
【請求項2】
請求項1記載の非水電解液二次電池用正極を備えたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解液二次電池を備えたことを特徴とする電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用正極及び非水電解液二次電池並びに電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、オリビン型リチウム複合化合物粒子を正極活物質として含む非水電解液二次電池が提案され、実用に供されている(例えば、特許文献1、2参照)。
この非水電解液二次電池は、オリビン構造を有するリチウム含有リン酸化合物を用いた正極と、炭素系材料等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物を用いた負極と、非水系の電解質とにより構成されている。
この正極は、表面が炭素質被膜により被覆された鉄リン酸リチウム(LiFePO)粒子等のオリビン型リチウム複合化合物粒子及びバインダー等を含む電極材料合剤を、集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより形成されている。
【0003】
このような非水電解液二次電池は、従来の鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の二次電池と比べて、軽量かつ小型であるとともに、高エネルギーを有しているので、携帯用電話機、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯用電子機器の電源として用いられている。また、近年、非水電解液二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動工具等の高出力電源としても検討されており、これらの高出力電源として用いられる電池には、高速の充放電特性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−48958号公報
【特許文献2】特開2009−206085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の非水電解液二次電池の正極材料においては、オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面が炭素質被膜により十分に被覆されていないので、オリビン型リチウム複合化合物におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度が遅い、すなわち、電荷移動抵抗が高いために、正極の過電圧が高くなってしまうという問題点があった。
正極の過電圧が高くなってしまった場合、充放電時における電極抵抗も高くなってしまい、その結果、二次電池の充放電速度が遅くなってしまい、充放電特性が低下するという問題点が生じることとなる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、オリビン型リチウム複合化合物粒子におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度を高めることにより、正極の充放電速度を高め、よって、二次電池の充放電速度を高めた非水電解液二次電池用正極、及び、この非水電解液二次電池用正極を備えた非水電解液二次電池、並びに、この非水電解液二次電池を備えた電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子を正極活物質として含有してなる非水電解液二次電池用正極において、このオリビン型リチウム複合化合物粒子の表面積に対する炭素質被膜の被覆率を95%以上とすれば、オリビン型リチウム複合化合物におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度を高めることができ、よって、正極の充放電速度を高めることができ、その結果、二次電池の充放電速度を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の非水電解液二次電池用正極は、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子を正極活物質として含有してなる非水電解液二次電池用正極において、前記オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面積に対する前記炭素質被膜の被覆率は95%以上であり、前記非水電解液二次電池用正極における前記オリビン型リチウム複合化合物粒子の充填密度は、0.90g/cm以上かつ1.09g/cm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の非水電解液二次電池は、本発明の非水電解液二次電池用正極を備えたことを特徴とする。
本発明の電池モジュールは、本発明の非水電解液二次電池を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非水電解液二次電池用正極によれば、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子の、その表面積に対する炭素質被膜の被覆率を95%以上としたので、オリビン型リチウム複合化合物におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度を高めることができ、正極の充放電速度を高めることができる。その結果、この非水電解液二次電池用正極を用いた二次電池の充放電速度を高めることができる。
【0012】
本発明の非水電解液二次電池によれば、本発明の非水電解液二次電池用正極を備えたので、正極の充放電速度を向上させることができる。したがって、二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【0013】
本発明の電池モジュールによれば、本発明の非水電解液二次電池を備えたので、電池モジュールの充放電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の非水電解液二次電池の構成を示す縦方向の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態の非水電解液二次電池の構成を示す横方向の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態の非水電解液二次電池の発電要素を示す斜視図であり、(a)は正極を、(b)は負極を、(c)は正極、負極及びセパレータを配置した状態を、それぞれ示す。
図4】本発明の実施例1、2及び比較例の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の非水電解液二次電池用正極及び非水電解液二次電池並びに電池モジュールを実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の非水電解液二次電池用正極を備えた非水電解液二次電池(以下、単に「二次電池」とも称する)の構成を示す縦方向の概略断面図、図2は、同二次電池の構成を示す横方向の概略断面図である。
本実施形態の二次電池1は、リチウムイオン二次電池と称されるもので、ステンレス鋼等の有底筒状のケース2の上部開口に蓋部材3が接合されて密閉構造とされ、このケース2内にスタック構造の発電要素4、正極接続端子5、負極接続端子6及び非水電解液7が収納され、これら正極接続端子5及び負極接続端子6は、蓋部材3に絶縁体(図示略)を介して固定され、正極接続端子5は正極外部接続端子8に、負極接続端子6は負極外部接続端子9に、それぞれ接続されている。
【0017】
発電要素4は、図3に示すように、シート状の正極11及びシート状の負極12がセパレータ13を介して交互に配置されている。
正極11は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成された正極活物質層22とを備えている。正極活物質層22は、正極集電体21の一方の面のみに形成されていてもよく、正極集電体21の両面に形成されていてもよい。これら正極集電体21は、正極活物質層22が形成されていない端部が束ねられて正極接続端子5に接続されている。
【0018】
正極集電体21は、電気伝導性を有し、表面に正極活物質層22を形成することができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、金属箔が好ましく、この金属箔としては、アルミニウム箔が好ましい。
正極活物質層22は、正極活物質に、アセチレンブラック等の導電剤、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等の有機溶媒等を添加し、撹拌・混練した正極活物質層用スラリーを正極集電体21上に塗布し、加熱乾燥して得られたもので、正極活物質としては、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子が好適に用いられる。
【0019】
この表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子としては、(1)オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面がほぼ100%の表面被覆率にて炭素質被膜が形成されているもの、(2)オリビン型リチウム複合化合物の一次粒子の表面がほぼ100%の表面被覆率にて炭素質被膜が形成され、炭素質被膜を介して一次粒子同士が結合して2次粒子を形成しているオリビン型リチウム複合化合物粒子の凝集体、のいずれか一方、あるいは双方を用いることができる。
【0020】
オリビン型リチウム複合化合物粒子としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム及びLiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu、Crの群から選択される1種または2種以上、DはMg、Ca、S、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y、希土類元素の群から選択される1種または2種以上、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5)の群から選択される1種を主成分とする粒子が好ましい。
【0021】
ここで、Aについては、Co、Mn、Ni、Feが、Dについては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、豊富な資源量、安全性などの点から好ましい。
ここで、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素のことである。
このリチウム複合化合物の中でも、LiFePOが好ましい。
【0022】
このオリビン型リチウム複合化合物粒子の表面に形成された炭素質被膜は、ピッチ等の炭素前駆体が1000℃以下、不活性雰囲気下にて焼成することにより得られたもので、非晶質炭素(アモルファスカーボン)により構成されている。
このオリビン型リチウム複合化合物粒子の表面積に対する炭素質被膜の被覆率は、95%以上であることが好ましい。
ここで、炭素質被膜の被覆率が95%を下回ると、オリビン型リチウム複合化合物粒子の内部抵抗が高くなり、その結果、オリビン型リチウム複合化合物粒子におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度が低下し、正極の充放電速度が低下するので、好ましくない。
【0023】
この正極活物質層22中の表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子の充填密度は、0.90g/cm以上かつ1.09g/cm以下であることが好ましい。
ここで、充填密度が0.90g/cmを下回ると、導電抵抗が高くなるので好ましくない。なお、充填密度の上限値である1.09g/cmは、オリビン型リチウム複合化合物粒子が正極に詰められる限界であり、充填密度をこの値以上に上げることは難しい。充填密度が1.09g/cmの場合、正極活物質層25の導電抵抗は非晶質炭素(アモルファスカーボン)の抵抗に近似したものとなる。
【0024】
ここで、炭素質被膜の被覆率を95%以上とした理由についてさらに詳細に説明する。
従来の表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子では、リチウム複合化合物におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度は、要求を充分に満足することができる程速いとはいえなかった。特に、充放電の末期においては、正極の導電抵抗が上昇する傾向があり、充放電速度が低下するという欠点があった。
【0025】
その理由としては、オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面に炭素質被膜が存在しない部分が多く存在しているために、オリビン型リチウム複合化合物粒子のLiイオンの反応サイトに隣接するオリビン骨格における電子の授受サイトに炭素質被膜で被覆されていない部分ができてしまい、その部分のLiイオンの取り入れ・放出ができにくくなっていると考えられる。
粒子表面に炭素質被膜が存在しない部分が多く存在している理由としては、そもそもオリビン型リチウム複合化合物粒子の表面の炭素質被膜の被覆率が低いものがあると考えられ、さらに、この表面被覆オリビン型リチウム複合化合物粒子を用いて正極活物質層用スラリーを作製する際の撹拌・混練により、粒子に過度の応力がかかり、炭素質被膜が剥離してしまう等が考えられる。
【0026】
一方、本願発明の表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子では、炭素質被膜の被覆率を95%以上としたので、オリビン型リチウム複合化合物粒子のLiイオンの反応サイトに隣接するオリビン骨格における電子の授受サイトに炭素質被膜で被覆されていない部分が少なくなり、Liイオンの取り入れ・放出が阻害される領域が減少するからと考えられる。
特に、炭素質被膜の被覆率が100%の場合には、オリビン型リチウム複合化合物粒子のLiイオンの反応サイトに隣接するオリビン骨格における電子の授受サイトの殆どが炭素質被膜で被覆されることとなり、Liイオンの取り入れ・放出が阻害される虞が無くなるからと考えられる。
【0027】
負極12は、負極集電体31と、負極集電体31上に形成された負極活物質層32とを備えている。
負極集電体31は、電気伝導性を有し、表面に負極活物質層32を形成することができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、金属箔が好ましく、この金属箔としては、銅箔が好ましい。
負極活物質層32は、負極活物質に、アセチレンブラック等の導電剤、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等の有機溶媒等を添加し、撹拌・混練した負極活物質層用スラリーを負極集電体31上に塗布し、加熱乾燥して得られたもので、負極活物質としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、リチウム金属、スズ、チタン酸リチウム等が好適に用いられる。
【0028】
セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されて、正極11と負極12との間の漏れ電流を防止することができればよく、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンの微多孔性フィルムが好適に用いられる。
非水電解液7は、二次電池1の電池反応に関与する電解質を含んだ溶液であればよく、特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池の場合、リチウム塩を有機溶媒に溶解した電解質溶液が好適に用いられる。
【0029】
次に、本実施形態の正極の製造方法について説明する。
まず、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子と、アセチレンブラック等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤と、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等の有機溶媒等を撹拌・混練し、正極活物質層用スラリーを作製する。
【0030】
この撹拌・混練の時間を制御することにより、オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面における炭素質被膜の被覆率を95%以上に保持することができる。
また、次のような効果を奏することもできる。
(1)オリビン型リチウム複合化合物粒子の表面がほぼ100%の表面被覆率にて炭素質被膜が形成されているものの場合、撹拌・混練の時間を制御することにより、一次粒子状態の炭素質被膜が損傷を抑制できる。
(2)オリビン型リチウム複合化合物の一次粒子の表面がほぼ100%の表面被覆率にて所定の厚みの炭素質被膜が形成され、炭素質被膜を介して一次粒子同士が結合して2次粒子を形成しているオリビン型リチウム複合化合物粒子の凝集体の場合、撹拌・混練の時間を制御することにより、2次粒子表面にある1次粒子の炭素質被膜が損傷し、プレス後の2次粒子が崩れてバラバラの1次粒子状になった際に、凝集体の外側の1次粒子の炭素質被膜のコート率が減ることを抑制できる。
【0031】
次いで、この正極活物質層用スラリーを、正極集電体上にロールコーター等を用いて均一な厚みに塗布し、加熱乾燥する。これにより、正極集電体上に正極活物質層が形成される。この正極活物質層は、正極集電体の片方の面のみに形成しても良く、両面に形成してもよい。
次いで、正極活物質層が形成された正極集電体を、ロールプレス機等を用いて加圧し、正極活物質層の厚みを適切な厚みとすることで、正極が完成する。
このロールプレス機による加圧の際に、乾燥後の正極活物質層はプレスされることで非水二次電池用の電極として良好な充填密度、空隙率を得ることができる。特に、上記(2)の凝集体は、2次粒子が崩れてバラバラの1次粒子状になり、充填密度が高い正極活物質層が形成されることとなる。
【0032】
本実施形態の二次電池1は、正極11及び負極12をセパレータ13を介して交互に配置して発電要素4を組み立て、この発電要素4及び非水電解液7をケース2内に収納し、正極11に正極接続端子5及び正極外部接続端子8を、負極12に負極接続端子6及び負極外部接続端子9を、それぞれ接続し、正極外部接続端子8及び負極外部接続端子9を蓋部材3に固定することにより、完成する。
本実施形態の電池モジュールは、本実施形態の二次電池1を複数個、直列接続あるいは並列接続することにより、完成する。
【0033】
本実施形態の二次電池用正極によれば、表面に炭素質被膜が形成されたオリビン型リチウム複合化合物粒子の、その表面積に対する炭素質被膜の被覆率を95%以上としたので、オリビン型リチウム複合化合物におけるリチウムイオンの取り入れ・放出速度を高めることができ、正極の充放電速度を高めることができる。その結果、この二次電池用正極を用いた二次電池の充放電速度を高めることができる。
【0034】
本実施形態の二次電池によれば、本実施形態の正極を備えたので、正極の充放電速度を向上させることができる。したがって、二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【0035】
本実施形態の電池モジュールによれば、本実施形態の二次電池を備えたので、電池モジュールの充放電特性を向上させることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
「実施例1」
正極活物質として炭素質被膜の被覆率が100%である一次粒子の粒子径が0.1〜2μmのLiFePO粒子の凝集体(住友大阪セメント製)を、導電剤としてアセチレンブラックを、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、100:5:7(質量部)となるように秤量し、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混練機中のN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に投入し、撹拌・混練を行った。次いで、得られた混合物に上記のLiFePO粒子を投入し、混練機の回転速度を100rpmとして90分間混練を行い、スラリーを作製した。
【0038】
次いで、このスラリーを、コーターを用いてアルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、その後、プレスを用いて加圧し、厚みが100μmの正極活物質層をアルミニウム箔上に形成し、実施例1の正極とした。
次いで、黒鉛を負極活物質として負極を作製し、この負極と上記の正極とを複数枚、セパレータを介して交互に配置して発電要素を組み立て、この発電要素及び非水電解液をケース内に収納し、電気配線を行い、実施例1の二次電池を作製した。
【0039】
「実施例2」
混練機の回転速度を100rpmとして150分間混練を行った他は、実施例1に準じて、実施例2の正極及び二次電池を作製した。
【0040】
「比較例」
混練機の回転速度を100rpmとして200分間混練を行った他は、実施例1に準じて、比較例の正極及び二次電池を作製した。
【0041】
「評価」
(1)炭素質被膜の被覆率
実施例1〜3及び比較例の正極中の粒子の炭素質被膜の被覆率を求め、評価した。
ここでは、正極の一部を有機溶媒に浸漬して結着剤を溶解させるか、正極の一部を崩落させることにより、表面に炭素質被膜が形成されたLiFePO粒子 を取り出し、この粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、表面における炭素質被膜の状態を確認した。
また、この粒子の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて面分析し、表面における炭素質被膜の状態を確認した。
【0042】
その結果、炭素質被膜の被覆率は、実施例1では98〜100%、実施例2では95〜98%、比較例では80〜90%となっており、混練時間が短い方が正極中の粒子の炭素質被膜の被覆率が高くなることが分かった。
【0043】
(2)充放電特性
実施例1〜3及び比較例の二次電池の充放電試験を、室温(25℃)にて、カットオフ電圧2−4.5V、充放電レート1Cの定電流(1時間充電の後、1時間放電)下にて実施した。実施例1、2及び比較例の充放電特性を図4に示す。
その結果、正極中の粒子の炭素質被膜の被覆率が高い程、容量(%)が大きいことが分かった。
【0044】
このように、正極の容量が大きくなった理由は、炭素質被膜の被覆率が高い、すなわち、正極のリチウムイオンの取り入れ・放出速度が速くなったことにより、正極の充放電反応時の過電圧が低下し、その結果、電極抵抗が低下したことによるものと考えられる。
また、隣接する正極活物質粒子間の炭素質被膜によるネットワークが切れることなく、網目状に繋がることにより、正極内の導電パスが確実に形成され、正極活物質粒子間の接続に伴う抵抗がより低下したものと考えられる。
以上により、正極の充電速度が向上し、さらに、電解液の分解反応等のような本来の電池反応とは無関係の副反応を防止することができ、したがって、正極の過充電試験等における安全性及び寿命特性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0045】
1 二次電池
2 ケース
3 蓋部材
4 発電要素
5 正極接続端子
6 負極接続端子
7 非水電解液
8 正極外部接続端子
9 負極外部接続端子
11 正極
12 負極
13 セパレータ
21 正極集電体
22 正極活物質層
31 負極集電体
32 負極活物質層
図1
図2
図3
図4