(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740887
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】耐炎化炉熱媒加熱システム
(51)【国際特許分類】
D01F 9/32 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
D01F9/32
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-214171(P2010-214171)
(22)【出願日】2010年9月24日
(65)【公開番号】特開2012-67418(P2012-67418A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091948
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 武男
(72)【発明者】
【氏名】松崎 晋也
【審査官】
宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−041165(JP,A)
【文献】
特開2005−163200(JP,A)
【文献】
特開2009−174078(JP,A)
【文献】
特開平05−116926(JP,A)
【文献】
特開2008−231644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐炎化炉からの排出ガスを排ガス燃焼炉で燃焼処理し、燃焼処理されたガスの熱を回収して耐炎化炉の加熱源とする耐炎化炉熱媒加熱システムであって、
排ガス燃焼炉の燃焼処理されたガスの流路に、前記燃焼処理されたガスを直接熱交換する熱媒ボイラを配するとともに、
耐炎化炉内に、常温の外気を導入する外気導入口と熱媒ヒータを配し、更に、前記熱媒ヒータの熱風下流側に送風用ファンと第二加熱源とを配し、
熱媒ボイラと熱媒ヒータとの間を熱媒の循環路にて接続し、
循環路を循環する熱媒が熱媒ボイラ及び熱媒ヒータにてそれぞれ熱交換されてなる、 耐炎化炉熱媒加熱システム。
【請求項2】
熱媒ヒータが耐炎化炉内の熱風循環経路に配される、請求項1記載の耐炎化炉熱媒加熱システム。
【請求項3】
耐炎化炉内の熱風循環経路に、別の加熱源及び熱風循環用ファンを有してなる、請求項1又は2に記載の耐炎化炉熱媒加熱システム。
【請求項4】
燃焼処理されたガスが熱媒ボイラの熱回収後煙道を介して系外に排出される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐炎化炉熱媒加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維製造工程における耐炎化炉内を循環する処理用熱風の効率的な耐炎化炉熱媒加熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度、比弾性率、比抵抗、耐薬品性などに優れることから、繊維強化樹脂の補強繊維などとして多分野で用いられている。炭素繊維を製造するには、通常、アクリロニトリル系繊維などの前駆体繊維束に耐炎化炉内部で200〜300℃に加熱された酸化性気体を当てて耐炎化処理を行って耐炎化繊維束を得たのち、この耐炎化繊維束を炭素化炉において300〜2000℃の不活性雰囲気中を通して炭素化処理を行い、目的とする炭素繊維束を得ている。
【0003】
耐炎化工程では、通常、酸化性気体の熱風(以下、単に熱風という。)を循環させる熱風循環型の耐炎化炉が用いられている。この熱風循環型の耐炎化炉では、耐炎化炉内に設けられた熱処理室内に、多数の前駆体繊維束をシート状に引き揃えて走行させ、シート状に並列された前駆体繊維束を、熱処理室の出入口近傍に備えられる多段に配された各ロールに掛け回し、走行方向を交互に変更させながら走行させる。これら連続して走行する前駆体繊維束に、耐炎化炉内において鉛直方向あるいは水平方向より200℃以上の熱風を吹き付けて、所望の耐炎化密度になるまで酸化反応されて耐炎化処理がなされる。
【0004】
この耐炎化処理における反応は酸化・環化が同時に進行する発熱反応であり、高温で熱処理を行えば反応がより速くなり、短時間処理が可能になる。しかし、急速に耐炎化処理を行うと、酸化反応に伴う反応熱が繊維内に蓄積しやすく、このため繊維内温度が急上昇し、糸切れや発火を伴う暴走反応が誘発されやすい。一方、耐炎化処理を施す糸条数が多い場合は蓄熱しやすく、繊維の反応熱を効率よく除去することが求められる。
【0005】
一方、耐炎化炉内を循環する熱風には前駆体繊維に付与されたシリコン系油剤に由来する揮発性珪素が高濃度で存在している。耐炎化処理を長時間続けた場合、該揮発性珪素が珪素化合物などの粒子状物となって耐炎化炉内に蓄積する。そして、該珪素化合物などの粒子状物や前記前駆体繊維束のケバなどに由来する異物が耐炎化繊維に付着して、耐炎化繊維を汚染する恐れがある。また、耐炎化工程においては、前駆体繊維束の酸化反応によって、耐炎化炉内でシアン化合物、アンモニア、一酸化炭素、タール分などの各種化合物が発生し、耐炎化炉周辺の環境を汚染する恐れがある。そのため、耐炎化炉内を循環する熱風を少しずつ排出しながら、新鮮な外気を耐炎化炉内に給気して、熱風中の揮発性珪素や炉内ガス濃度を低減させている。ところが、温度の低い外気を耐炎化炉に給気した場合、耐炎化炉内の熱風に温度斑が生じて、前駆体繊維束の発火や糸切れが引き起こされるなど、耐炎化処理を安定して行えない恐れがある。
【0006】
一方、上述のように耐炎化炉内へ高温の外部空気を供給し、熱源とする一般的な方式では、炉内循環熱風との間で混合不良(温度斑)が起こり、炭素繊維の焼成品質に影響を及ぼすことがある。また、耐炎化炉の周囲に、その高温外部空気送気ダクトのための大きなスペースの確保が必要となる。
【0007】
ところで、例えば特開2002−266175号公報(特許文献1)に開示された耐炎化炉の加熱では、耐炎化炉の熱処理室内を多段に平行して走行する複数本の前駆体繊維束の上部流路から、電熱ヒータ、蒸気、加熱流体などを加熱源として加熱された熱風をファンにより熱処理室内を強制的に送り、前駆体繊維束を耐炎化処理したのち、熱風を下部流
路を介して先の加熱源へと導いて加熱し、この循環を繰返して、前駆体繊維を加熱処理するとともに除熱をも行うようにしている。
【0008】
上述ように加熱エネルギーの使用量を低減させ、炭素繊維の焼成品質に影響を及ぼさず、設備の省スペース化を図るため、例えば特開2005−163200号公報(特許文献2)では、炭素化炉で発生する排ガスを燃焼させる排ガス燃焼炉の内部に熱媒加熱用熱交換器を備える一方、耐炎化炉内の熱風流通路には熱媒ヒータを設けている。前記熱媒加熱用熱交換器と熱媒ヒータとが、両者の間を循環する熱媒通路をもって連結しており、排ガス燃焼炉の廃熱を熱媒ヒータの加熱源として利用して耐炎化路内を流通する熱風を加熱する。これにより、一般の電熱ヒータやガスヒータなどの加熱源と比較すると、排ガス燃焼炉の廃熱を加熱源としているため、熱エネルギーの有効活用に大きく資することになる。
【0009】
また、例えば特開2009−174078号公報(特許文献3)では、耐炎化炉の熱風循環路に、熱風を前駆体繊維束Fの耐炎化に必要な温度まで加熱するための、例えばガスヒータ、電熱ヒータ、熱媒ヒータなど熱風加熱手段と、熱風に所望の風速を与えるためのファンが設けられている。更に耐炎化炉には、加熱外気給気口と熱風排出口とが設けられている。熱風排出口の排出ガスを系外に排出するための排出ガス流路には、第一熱交換器、排出ガス処理装置、第二熱交換器が連通している。第一熱交換器は、排出ガス処理装置から送出された高温の排出ガスと、排出ガス流路を流れる排出ガスとの間で熱交換される。第二熱交換器は、外気給気路から送入される外気と、排出ガス処理装置から排出される高温の排出ガスとの間で熱交換を行い、第二熱交換器で加熱された外気を耐炎化炉の上記加熱外気給気口に送り込む。
【0010】
耐炎化炉から排出される排出ガスは、まず、第一熱交換器を通されて、排出ガス処理装置から送出された高温の排出ガスと熱交換を行って昇温された後、排出ガス処理装置に送られ燃焼処理される。燃焼処理された高温の排出ガスは第二熱交換器に送り込まれる。第二熱交換器に送り込まれた前記排出ガスは、第二熱交換器にて外気と熱交換され耐炎化炉内に送り込まれると同時に、第二熱交換器を通過する排出ガスは、そのまま系外に排出される。つまり、この特許文献3に開示された耐炎化炉内を循環する熱風は、電熱ヒータなどの上記熱風加熱手段により炉内温度を所定域まで昇温させたのちは、この熱風加熱手段を補助加熱源として使い、耐炎化炉から排出される排出ガスは燃焼処理して高温化され、燃焼処理され高温とされた排出ガスは第二熱交換器に送入される外気の主な加熱源として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−266175号公報
【特許文献2】特開2005−163200号公報
【特許文献3】特開2009−174078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1による熱風の加熱システムによれば、耐炎化炉内を循環する熱風の温度上昇に用いるヒータエネルギー(電気、ガスなど)の使用量が大きく、そのコストが製品価格に大きく影響する。このように、上述のような加熱源だけを使って高温の熱風を作りだすには、加熱エネルギーの使用量が莫大なものとなり、その消費コストが高騰する。
【0013】
一方、上記特許文献2の熱風の加熱システムでは、耐炎化炉の下流機器である炭素化炉の運転状況によって、耐炎化炉の運転に大きく影響し、同運転が制限されてしまい、プロセス全体の立上げ時間や、工程が安定化するまでに長時間を要するようになる。更に、こ
の特許文献2によれば、炭素化炉から排出される排出ガスの燃焼炉内に、熱媒加熱用熱交換器を設置しているため、熱媒加熱用熱交換器が燃焼炉内の燃焼温度に耐え得るものでなければならず、しかも熱交換される熱媒自身の温度を任意に制御することができず、耐炎化炉内の熱風を加熱するために耐炎化炉内に設置された熱媒ヒータの加熱温度を制御するには複雑な制御システムが要求される。
【0014】
これに対して、特許文献3の加熱システムにあっては、耐炎化炉からの排出ガスを専用の排出ガス処理装置にて燃焼処理したのち第二熱交換器を通って外気と熱交換しているが、熱交換器を通して熱交換されたとは云え、燃焼処理された極めて高温の排出ガスは別途冷却器などを通さないかぎり、相変わらず高温のまま系外へと排出されることになり、周辺環境に対する影響を無視することはできなくなる可能性があり、冷却器などの設置が必要となってしまう。
【0015】
本発明は、こうした従来の耐炎化炉内を流通する熱風の加熱システムの課題を解決すべくなされたものであり、その具体的な目的は定常運転時には炭素化炉の運転に影響されず、しかも格別に複雑な制御システムが要求されずに耐炎化炉内を流通する熱風の熱エネルギーを有効活用できる耐炎化炉内の熱風の効率的な加熱システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる目的は、本発明の基本構成である、耐炎化炉からの排出ガスを排ガス燃焼炉で燃焼処理し、燃焼処理されたガスの熱を回収して耐炎化炉の加熱源とする耐炎化炉
熱媒加熱システムであって、排ガス燃焼炉の燃焼処理されたガスの流路に
、前記燃焼処理されたガスを直接熱交換する熱媒ボイラを配するとともに、耐炎化炉内に
、常温の外気を導入する外気導入口と熱媒ヒータ
を配し、更に、前記熱媒ヒータの熱風下流側に送風用ファンと第二加熱源とを配し、熱媒ボイラと熱媒ヒータとの間を熱媒の循環路にて接続し、循環路を循環する熱媒が熱媒ボイラ及び熱媒ヒータにてそれぞれ熱交換されてなる、耐炎化炉熱媒加熱システムにより達成される。
【0017】
熱媒ヒータを耐炎化炉内の熱風循環経路に配することもでき、また、好ましくは耐炎化炉内の熱風循環経路に、別の加熱源及び熱風循環用ファンを配することもでき、さらに好ましくは燃焼処理されたガスが熱媒ボイラの熱回収後煙道を介して系外に排出する。
【発明の効果】
【0018】
一般に耐炎化炉内を循環する熱風の一部は、排ガス燃焼炉で焼却処理され、高温のまま大気へと排出される。これに対して、本発明にあっては、前記高温の燃焼処理されたガスから熱媒ボイラを介して熱を熱媒にて回収し、その高温化された熱媒を耐炎化炉へ循環送液し、炉内の熱風の補助加熱源として利用する。
【0019】
すなわち、本発明にあっては耐炎化炉と排ガス燃焼炉との間において熱交換がなされるため、例えば炭素繊維製造における耐炎化工程及び炭素化工程のような前後プロセスの運転状態に影響されることがなく、効率的、連続的な熱交換が可能となる。また、熱媒ボイラが排ガス燃焼炉の燃焼処理されたガスの流路に配されるため、熱媒ボイラの耐久性が確保されるとともに、熱媒ボイラによる熱媒の熱交換温度が制御しやすくなる。更にまた、運転始動時には、通常、本発明にあって専用の排ガス燃焼炉は耐炎化炉よりも先に昇温運転を開始する。このため、耐炎化炉昇温時の電熱ヒータやガスヒータのヒータエネルギーのピークカットにも有効である。
【0020】
また、本方法は熱媒ヒータを炉内に設置し、直接、循環熱風を加熱する方式のため、空気を外部で加熱してから炉内へ供給する従来法と比較して、排ガス燃焼炉に送り込む排気風量、すなわち、燃焼用供給空気量の調整が容易で、かつ必要最低限に抑制できる結果、燃焼炉に送入するバーナ燃料の低減につながる。また同時に、耐炎化炉内の循環熱風と高温の供給外気との混合不良が発生しにくくなり、循環熱風の温度分布の差(温度斑、局所
的な温度異常)が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の好適な実施の形態を示す耐炎化炉熱媒加熱システム例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の代表的な実施形態を
図1を参照しながら具体的に説明する。
本発明は、耐炎化炉からの排出ガスを排ガス燃焼炉で燃焼処理し、燃焼処理されたガスの熱を回収して耐炎化炉の加熱源とする耐炎化炉熱媒加熱システムに関する。
同図において、1は耐炎化炉、2は耐炎化炉からの排出ガスを燃焼処理する排ガス燃焼炉、3は熱媒ボイラ、4は熱媒循環路、5は熱媒ヒータを示している。
【0023】
排ガス燃焼炉2から放出される燃焼処理されたガスの熱を前記熱媒ボイラ3により回収され高温化した熱媒を、耐炎化炉内の燃焼処理されたガスの流路に配された熱媒ヒータ5に送り、耐炎化炉内を循環する熱風に向けて放熱したのち、熱媒循環路4を通って熱媒ボイラ3へと戻る。これを繰り返して耐炎化炉内の熱風循環経路を循環する熱風を加熱する。
【0024】
耐炎化炉1は、熱処理室1aと加熱室1bとに区画され、加熱室1bにて加熱された熱風は熱処理室1aに入り、そこで連続して走行する前駆体繊維束Fが加熱酸化されて耐炎化処理がなされたのち、加熱室1bへと循環して加熱される。前記加熱室1bには前記熱媒ヒータ5が配され、同熱媒ヒータ5からの放熱により循環する熱風を加熱する。本実施形態にあっては、前記加熱室1bの前記熱媒ヒータ5の熱風下流側に送風用ファン6と電熱ヒータやガスヒータなどの第二加熱源7とが順次設けられており、熱風の循環を積極的に行うとともに、加熱室1bを通る熱風を熱媒ヒータ5とは別に加熱する。
【0025】
この第二加熱源7による加熱は、主に耐炎化炉の運転始動時における炉内温度の昇温のために使われ、炉内温度が所定の温度に達したのちは、前記熱媒ヒータ5による加熱が主な熱源となる場合がある。
【0026】
耐炎化炉1の熱処理室1aには循環する熱風の一部を炉外に排出する排気口1cが設けられ、前記加熱室1bの熱媒ヒータ5に近接する下流域に開口する外気導入口1dが設けられている。前記排気口1cは上記排ガス燃焼炉2と送風機8を介して接続しており、加熱室1aを通過する熱風の一部を排ガス燃焼炉2に所定量送り込むようにしている。一方、前記外気導入口1dには前記排気口1cから排出される排ガスの排気量とバランスをとる所定量の外気が導入される。また、図示せぬ送風機を介して積極的に送り込まれる場合もある。この外気導入口1dから導入される外気は、常温の外気であってもよく、或いは図示せぬ炭素化炉の排ガス燃焼炉で処理された高温の排ガスの廃熱を熱交換して得られる高温の外気であってもよい。
【0027】
熱媒ボイラ3は、耐炎化炉内を循環する熱風の一部を排ガス燃焼炉2で燃焼したときに発生する熱を熱源として熱媒ボイラ3内を通る熱媒を加熱し、この高温とされた熱媒を耐炎化炉1内に配された熱媒ヒータ5へと循環させ、熱媒ヒータ5により耐炎化炉1内を循環する熱風を加熱して、熱風を耐炎化処理が可能な所要の高温に維持する。熱媒ボイラ3にて熱回収されたのちの低温化した熱回収後の燃焼処理されたガスは煙道を介して系外へと排出される。
【0028】
以上の構成を備えた本実施形態に係る炭素製造工程における耐炎化炉の熱風加熱システムによれば、耐炎化炉1の熱処理室1aには多数本の前駆体繊維束Fが水平面上を並列し
て多段に連続走行させている。耐炎化炉1内の熱風循環経路を流通する熱風が、熱処理室1aを連続走行する前駆体繊維束Fの上方から下方に向け、または前駆体繊維束Fと平行に流れ、その間に前駆体繊維束Fに対する耐炎化処理がなされる。耐炎化炉1の前駆体繊維束の出入口には、それぞれ所定組の図示せぬ折返しローラが配されており、前駆体繊維束Fはそれらの折返しローラでジグザグ状に折り返されて熱処理室1a内へと導入され多段に走行する。
【0029】
熱処理室1aを通過して熱風循環経路を流れる熱風の一部は、耐炎化炉1に設けられた排気口1cから排出されて、送風機8を介して排ガス燃焼炉2に積極的に送り込まれて燃焼処理される。熱処理室1aを通過して温度が下がった熱風循環経路を流れる残りの熱風は、前記熱処理室1aに隣接する加熱室1bに入る。この熱風が加熱室1bを流れるとき、熱風は高温の熱媒が循環する熱媒ヒータ5によって、耐炎化炉1に設けられた外気導入口1dから導入される外気と共に加熱される。このとき、熱媒ヒータ5による加熱が十分でない場合は、熱媒ヒータ5の熱風下流側に配された第二加熱源7が作動して、熱風を所定の高温まで昇温する。この第二加熱源7の作動は、図示せぬ測温計からの信号を受けて同じく図示を省略した制御部からの信号により制御される。
【0030】
一方、上記排ガス燃焼炉2に積極的に送り込まれて燃焼処理される熱風の一部は、熱を伴った排出ガスとなり熱媒ボイラ3へと送られて、同熱媒ボイラ3により回収される。
【0031】
熱を加熱源として熱媒ボイラ3内を流れる熱媒を加熱する。この加熱された熱媒は、その熱媒循環路4を通って耐炎化炉1内の加熱室1bに配された熱媒ヒータ5へと流れ、この熱媒ヒータ5を加熱源として、加熱室1b内を流れる熱風を加熱する。加熱を終えた熱媒は熱媒循環路を通って熱媒ボイラ3へと戻り、同熱媒ボイラ3で高温化されたのち、前記熱媒ヒータ5に流れ、これが繰り返されて熱風に対する前述の加熱が続けられる。
【0032】
以上のとおり、本実施形態にあっては、上記特許文献2に開示された耐炎化熱処理システムとは異なり、耐炎化炉1から排出される排出ガスを、そのまま外気に排出せずに、排ガス燃焼炉2を設けて、同排ガス燃焼炉2に送り込み燃焼させたのち、その燃焼後の燃焼処理されたガスがもつ熱を利用して、排ガス燃焼炉2の燃焼処理されたガスの流路に設けられた熱媒ボイラ3を介して熱媒を高温に加熱し、高温化された熱媒を耐炎化炉1内に配された熱媒ヒータ5を熱源として耐炎化炉1内を循環して流れる熱風を加熱するようにしたため、熱媒ボイラ3の耐久性が向上し、同時に同熱媒ボイラ3のメンテナンスも容易になる。更に、熱風の加熱を熱媒を通して排ガス燃焼炉2からの熱を有効に利用することによって、熱エネルギーの損失が大幅に低減され、環境的にもコスト的にも有利である。なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば本発明のシステムに多様な制御手段を配することによって全自動化も可能になるなど、様々な態様が考えられる。
【符号の説明】
【0033】
1 耐炎化炉
1a 熱処理室
1b 加熱室
1c 排気口
1d 外気導入口
2 排ガス燃焼炉
3 熱媒ボイラ
4 熱媒循環路
5 熱媒ヒータ
6 送風用ファン
7 第二加熱源
8 送風機
F 前駆体繊維束