【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題に鑑み、MFI型構造を有するゼオライトについて鋭意検討を重ねた。その結果、強酸点及び弱酸点が制御され、なおかつ主反応が弱酸点で生じる反応用の、酸触媒として適したSiO
2/Al
2O
3を有したMFI型構造を有するゼオライトを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明はSiO
2/Al
2O
3モル比が5,000〜100,000であり、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm
−1のピークの面積が2〜70KM・cm
−1であるMFI型構造を有するゼオライトである。
【0013】
以下、本発明のMFI型構造を有するゼオライトについて説明する。
【0014】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、SiO
2/Al
2O
3モル比が5,000〜100,000である。SiO
2/Al
2O
3モル比が5,000より小さいと、強酸点の起因となるAlが多くなる。そのため、弱酸点を多数必要とする反応の触媒として用いた場合において、副反応が進行し、目的とする化合物の選択性が低くなる。一方、SiO
2/Al
2O
3が100,000より大きいと、強酸点の起因となるAlを必要以上に少なくするために、原材料にTEOS等の高価な原材料を使用する必要があり、工業的に不利である。一方、SiO
2/Al
2O
3モル比は10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましい。また、SiO
2/Al
2O
3モル比の上限は、余り大きすぎると、高価な原材料を使用する必要があるため、SiO
2/Al
2O
3モル比は80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましい。
【0015】
ここで、本発明SiO
2/Al
2O
3モル比は、ゼオライト全体の平均値、いわゆるバルク組成のSiO
2/Al
2O
3モル比である。バルク組成のSiO
2/Al
2O
3モル比は、ゼオライトを酸に溶解させ、そのSiO
2/Al
2O
3モル比を測定することで求めることができる。そのため、対象とするゼオライトが組成に傾斜を持つゼオライト、もしくは、表面部と中心部との組成が異なるゼオライトなどの不均一な組成のゼオライトであっても、これらを酸で溶解した際のSiO
2/Al
2O
3モル比を測定することでバルク組成のSiO
2/Al
2O
3モル比を求めることができる。
【0016】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm
−1のピークの面積(以下、「IRピーク面積」とする)が2〜70KM・cm
−1である。
【0017】
IRピーク面積は、バックグラウンドを適宜引いた後の積分強度として算出することができる。また、ピークをガウシアン分布などと仮定して、波形処理により積分強度を算出することも例示できる。
【0018】
このIRピーク面積はネストシラノール量の指標となり、IRピーク面積が大きいほどネストシラノールが多いことを示す。このネストシラノール量は、弱酸点の量と対応し、IRピーク面積が大きくなると、弱酸点が大きくなり、酸触媒として使用した際の触媒活性のみならず、反応生成物の選択性も高くなる。
【0019】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、IRピーク面積が2〜70KM・cm
−1である。IRピーク面積が2KM・cm
−1より小さいと、ネストシラノール量が少なく、弱酸点が少なくなる。そのため、酸触媒として使用した際の触媒活性のみならず、反応生成物の選択性も低くなる。また、IRピーク面積が70KM・cm
−1より大きいと結晶の構造維持力が弱い。そのため、コーキング失活したときに行うデコーキング操作の際において、結晶構造の破壊を引き起こす。
【0020】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、有機構造指向剤(以下、「有機SDA」とする)を含んでいても、含まなくてもよい。
【0021】
一般的に、MFI型構造を有するゼオライトは、例えばテトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアミン、ジプロピルアミン又はプロピルアミン、及びこれらの混合物など、有機SDAを使用して製造される。そのため、MFI型構造を有するゼオライトは、その構造中に有機SDAが含む場合がある。本発明のMFI型構造を有するゼオライトにおいては、当該ゼオライトが有機SDAを含んだ状態のIRピーク面積を制御することで、有機SDAを含んだ状態におけるネストシラノールの量が制御される。これにより、有機SDA除去後やアルカリ等による後処理の後の状態、つまり、本発明のFMI型構造を有するゼオライトを酸触媒として用いる状態でのネストシラノールの量を制御できる。
【0022】
なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、ゼオライト中のシリカに対する、ゼオライト中の有機SDAがモル比で、有機SDA/Si≧0.03となる。
【0023】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、IRピーク面積は、2〜15KM・cm
−1であることが好ましく、3〜12KM・cm
−1であることがより好ましく、4〜10KM・cm
−1であることが更に好ましい。IRピーク面積が2KM・cm
−1より小さいと、有機SDAを除去した場合のネストシラノール量が少なすぎ、酸触媒として使用できる弱酸点が少なくなりすぎる。また、IRピーク面積が15KM・cm
−1以下であることで、有機SDAを除去した場合のネストシラノール量が適度な量となり好ましい。
【0024】
また、本発明のMFI構造を有するゼオライトのIRピーク面積は熱処理により大きくなりやすい。そのため、本発明のMFI型構造を有するゼオライトを熱処理により有機SDAを除去した場合のIRピーク面積は15〜70KM・cm
−1であることが好ましく、17〜60KM・cm
−1であることがより好ましく、20〜50KM・cm
−1であることが更に好ましい。
【0025】
なお、IRピーク面積の測定は、MFI型構造を有するゼオライトの吸着水や付着水を除去してから行う。吸着水や付着水の除去条件としては、真空下または窒素などの不活性ガス流通下で、処理温度150℃〜500℃、処理時間0.1時間〜100時間を例示できる。なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、処理温度は当該ゼオライト中の有機SDAが分解又は燃焼しない温度とすることが好ましく、処理温度は300℃以下とすることがより好ましい。
【0026】
なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを除去した場合、ゼオライト中のシリカに対する、ゼオライト中の有機SDAがモル比で、有機SDA/Si<0.03であることが好ましく、有機SDA/Si(モル比)≦0.01であることがより好ましい。
【0027】
本発明のゼオライトはMFI型構造を有し、MFI型構造の純相であることが好ましい。
【0028】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトの平均粒子径は、0.15〜0.45μmであることが好ましい。0.15μm以上であると外表面が小さく、触媒として用いたときのゼオライトの安定性が高くなりやすい。一方、平均粒子径を0.45μm以下とすることで、酸触媒として用いたときに、コーキングによる失活の影響を受けにくくなる。
【0029】
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡などにより、10個以上の粒子を測った粒子径を加重平均することによって求めることができる。また、本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、一次粒子が単分散している。そのため、レーザー回折散乱法による粒子径分布測定(体積分布)で得られる50%粒子径により求めることができる。
【0030】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、ゼオライト濃度1体積%、pH=5のスラリー水溶液とした時のゼータ電位が30〜60mV(+30〜+60mV)であることが好ましく、40〜60mV(+40〜+60mV)であることがより好ましい。ゼータ電位は、ゼオライト表面のSiO
2/Al
2O
3の指標とすることができる。pH=5におけるゼータ電位がこの範囲であることで、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの表面のSiO
2/Al
2O
3が大きくなる。これにより、表面の強酸点の起因となるAlが少なくなり、酸触媒として使用した際の副反応が抑制される。
【0031】
なお、有機SDAを含んだゼオライトの表面を改質することで、当該ゼータ電位を高くすることができる。ゼオライトの表面改質方法としては、例えば、ゼオライト濃度が1〜30重量%のスラリーとし、これにプロトン濃度0.01〜10mol/lの塩酸、硫酸、硝酸などの酸溶液を接触させることが挙げられる。この際の処理条件としては、処理温度25〜100℃、処理時間0.1〜24時間を例示することができる。以上の操作を行ったゼオライトのpH=5におけるゼータ電位は、+30から+60mVとなる。
【0032】
次に、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの製造方法について説明する。
【0033】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、SiO
2を18〜42重量%及びAl
2O
3を8〜100重量ppm含有するシリカ源、有機SDA、アルカリ金属水酸化物及び水からなる原料混合物を結晶化させてゼオライトスラリーを得て、このゼオライトスラリーを乾燥することで製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法で使用するシリカ源は、SiO
2を18〜42重量%及びAl
2O
3を8〜100重量ppm含有していればよい。このようなシリカ源として、ヒュームドシリカ、沈殿法シリカ又はコロイダルシリカの少なくとも1種以上を挙げることができ、コロイダルシリカであることが好ましい。シリカ源としてこれらを使用することにより、SiO
2/Al
2O
3が5,000〜100,000のMFI型構造を有するゼオライトを得ることができる。
【0035】
本発明の製造方法で使用する有機SDAは、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアミン、ジプロピルアミン又はプロピルアミンの少なくとも1種以上を挙げることができ、テトラプロピルアンモニウムカチオンを含む化合物であることが好ましく、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドであることがより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法で使用するアルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることが好ましく、水酸化カリウムであることがより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法では、これらの原料を以下のモル組成比となるように混合した原料混合物を得る。
【0038】
有機SDA/Si=0.05〜0.15
アルカリ金属水酸化物/Si=0.05〜0.15
(有機SDA+アルカリ金属)/Si=0.05〜0.15
H
2O/Si=8〜15
【0039】
本発明の製造方法では、得られた原料混合物を結晶化することで、ゼオライトスラリーを得る。原料混合物の結晶化が進行すれば、その条件は適宜設定することができる。例えば、結晶条件として、結晶化温度は80〜150℃とし、結晶化時間は24〜120時間とすることが挙げられる。
【0040】
結晶化により、溶解シリカ、溶解有機SDA及びアルカリ金属カチオン等の未反応の原料成分を含んだゼオライトスラリーとして得られる。
【0041】
得られたゼオライトスラリーは、ろ過、遠心分離等の方法によって未反応の原料成分を除去することが好ましい。未反応の原料成分の除去方法は特に限定されず、クロスフロー式のろ過、または遠心機を用いた遠心分離を例示することができる。未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーは、そのゼオライト濃度が20〜40重量%であることが好ましく、25℃における伝導率が0.1〜10mS/cmと低く、高純度であることがより好ましい。
【0042】
未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーを乾燥することにより、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの粉末とすることができる。
【0043】
ゼオライトスラリーの乾燥は、ゼオライトスラリー中の有機SDAは除去されない程度の温度で行うことが好ましく、例えば、乾燥温度100℃前後で一晩乾燥することが挙げられる。
【0044】
本発明のMFI型構造を有するゼオライト中の有機SDAの除去は、焼成又は酸処理等の方法により行うことができる。例えば、未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーを乾燥した後、焼成することで、ゼオライト中に含まれる有機SDAを除去ことができる。焼成により有機SDAを除去する場合、有機SDAが除去できれば焼成条件は特に限定されない。有機SDAを除去するための焼成条件として、空気中で500℃〜700℃、0.5〜5時間焼成する方法や、500℃〜700℃で噴霧乾燥することが例示できる。
【0045】
有機SDAを除去した後の有機SDA/Siのモル比は0.03未満であることが好ましく、0.01以下でることがより好ましい。また、この場合のIRピーク面積は15〜70KM/cm−1であることが好ましい。
【0046】
有機SDAを除去した後の本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、アルカリ処理などの後処理を行っても良い。
【0047】
酸触媒として使用する際のゼオライトの状態は任意とすることができ、粉末状、顆粒状など任意の状態で使用することができる。