【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<異物捕捉率>
フィルター装置にて濾過する前のアクリロニトリル系重合体溶液を溶剤で5倍希釈し、液中微粒子計測器(HIACROYCO社製:型番System8011)にて、異物径測定範囲をそれぞれ1〜2、2〜4、25〜50μm、50〜100μmとして、希釈溶液中の各異物個数を測定した。このとき濾過前のアクリロニトリル系重合体溶液中の異物体積換算値Aを測定範囲別に上記式(4)により求めた。
【0079】
フィルター装置にて単位面積あたり4cm
3 /分で濾過を始めてフィルターにかかる圧力がほぼ一定の割合で増加し始めてから4時間後にフィルター装置から通過してきたアクリロニトリル系重合体溶液(紡糸原液)を濾過前と同じ方法で異物体積換算値を測定した。上記の方法で求めた異物体積換算値を
下式に代入することで、異物捕捉率(%)を求めた。
1〜4μm径の異物捕捉率(%)={1−(濾過後の1〜2μm径の異物体積換算値+濾過後の2〜4μm径の異物体積換算値)/(濾過前の1〜2μm径の異物体積換算値+濾過前の2〜4μm径の異物体積換算値)}×100
25〜100μm径の異物捕捉率(%)={1−(濾過後25〜50μm径の異物体積換算値+濾過後50〜100μm径の異物体積換算値)/(濾過前25〜50μm径の異物体積換算値+濾過前50〜100μm径の異物体積換算値)}×100
【0080】
<フィルター材の交換頻度>
80℃に保温したアクリロニトリル系重合体溶液を、上記フィルター材を用いたフィルター装置で濾過しながら、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に、孔径45μm、孔数50000の紡糸ノズルより吐出して凝固糸を作製した。得られた凝固糸を空気中で1.1倍に延伸し、続いて熱水中で5.0倍に延伸しながら洗浄、脱溶剤を行った。脱溶剤した凝固糸をシリコーン系油剤分散液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーで緻密乾燥化した後、表面温度190℃のロールを用いて1.5倍に延伸し、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を連続的に長期間製造した。このとき、紡糸開始日から終了日までの間にフィルターを交換した回数(年間あたりに換算)を調べた。交換の目安である限界圧力は2.5MPaとした。
【0081】
<単糸切れ発生時の紡浴引取倍率>
紡糸ノズルから紡浴に吐出させ、得られた凝固糸を引き取った。凝固糸を引き取る速度を上げていくとノズル面から単糸切れが発生する。紡糸ノズル面から目視にて単糸切れの発生を確認したときの凝固糸の引取速度を測定し、次式(6)によって単糸切れ発生時の紡浴引取倍率を計算した。
単糸切れ発生時の紡浴引取倍率=[凝固糸引取速度(cm/分)/{吐出原液体積(cm
3 /分)}/{ノズル孔面積(cm
2 )×孔数}] ・・・(6)
【0082】
<紡浴屑糸発生量>
紡糸原液を長期間紡糸ノズルから紡浴に吐出させ、得られた凝固糸を引き取る際に発生する紡浴中の屑糸の量(g/日)を測定した。
【0083】
<炭素繊維ストランド強度、弾性率>
炭素繊維ストランド強度は、JIS−R−7601に準じたエポキシ樹脂含浸炭素繊維ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の対象とした。
【0084】
実施例1:
[アクリロニトリル系重合体の製造]
アクリロニトリル系重合体は、オーバーフロー式の重合容器に、以下のように各原料を供給すると共に重合容器内の温度を50℃に維持しながら攪拌し、オーバーフローした重合体スラリーを洗浄、乾燥して製造した。重合容器内には、常に脱イオン水74.75質量%と、モノマー25質量% [組成比(質量比)、アクリロニトリル(AN):アクリルアミド(AAm):メタクリル酸(MAA)=96:3:1]と、過硫酸アンモニウム0.1質量%、亜硫酸水素アンモニウム0.15質量%、硫酸第一鉄7水和物2質量ppmとを、各原料をそれぞれ連続して供給すると共に、pH3.0となるように硫酸を適量添加した。得られたアクリロニトリル系重合体の組成は、AN単量体単位:AAm単量体単位:MAA単量体単位(質量比)=96:3:1であった。
【0085】
[アクリロニトリル系重合体溶液(紡糸原液)の製造]
上記で得たアクリロニトリル系重合体21質量%、ジメチルアセトアミド79質量%を混合し、加熱溶解したあとフィルター装置にて濾過を行ない、紡糸原液を得た。このとき用いたフィルター装置のフィルター材部分に平均断面積が30μm
2 のSUS316製丸
型金属長繊維を用いて、厚さ0.20mm、充填率40%になるよう成形した不織布に、平均断面積が30μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて、厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が140μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて、厚さ0.25mm、金属繊維体積率40%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結したもので、フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。このときの異物捕捉率についても表2に示すとおりであった。
【0086】
[炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造]
上記紡糸原液を濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に、孔径45μm、孔数50000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸を得た。このときの単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量については表2に示すとおりであった。得られた凝固糸を空気中で1.1倍に延伸し、続いて熱水中で5.0倍に延伸しながら洗浄、脱溶剤した。脱溶剤した凝固糸をアミノ変性シリコーン系油剤分散液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーで緻密乾燥化した。次いで、表面温度190℃のロールを用い1.5倍に延伸し、単繊維繊度1.2dtexの炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造した。このときのフィルター材交換頻度についても表2に示したとおりであった。
【0087】
[炭素繊維の製造]
前駆体繊維を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通し(耐炎化処理)、窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成した(炭素化処理)。その後、電解酸化処理、サイジング処理を施し、炭素繊維とした。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.3GPaとなった。
【0088】
実施例2:
紡糸原液を得るさいに用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が45μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率40%になるよう成形した不織布に、平均断面積が70μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が280μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.25mm、金属長繊維体積率40%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結したものとした以外は実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであった。
また、得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.2GPaとなった。
【0089】
実施例3:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が65μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.25mm、充填率30%になるよう成形した不織布に、平均断面積が80μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が210μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、金属長繊維体積率40%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであった。
また、得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.3GPaであった。
【0090】
実施例4:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が85μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が160μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであった。
また、得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.3GPaであった。
【0091】
比較例1:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が3μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率25%になるよう成形した不織布に、平均断面積が50μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が315μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.40mm、金属長繊維体積率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例1と比較するとフィルター材交換頻度が多く、単糸切れ発生時の紡浴引取倍率も低くなった。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.2GPaとなり、実施例1と比較するとそれほど大きな差はなかった。
【0092】
比較例2:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が3μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率20%になるよう成形した不織布に、平均断面積が3μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が3μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.40mm、金属長繊維体積率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例1と比較するとフィルター材交換頻度が多く、単糸切れ発生時紡浴引取倍率も低くなった。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.0GPaとなり、実施例1と大きな違いはなかった。
【0093】
比較例3:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が20μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率40%になるよう成形した不織布に、平均断面積が35μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.25mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が65μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、金属長繊維体積率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例1と比較するとフィルター材交換頻度は増加し、単糸切れ発生時紡浴引取倍率も低下した。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.1GPaとなり、実施例1と大きな違いはなかった。
【0094】
比較例4:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が60μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、充填率50%になるよう成形した不織布に、平均断面積が140μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.25mm、充填率40%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が420μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.20mm、金属長繊維体積率75%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。
フィルター材の閉塞が非常に早かったため、濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度は測定できなかった。また、安定して紡糸することが非常に困難であったため、単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量は測定できず、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維も得ることができなかった。
【0095】
比較例5:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が30μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.40mm、充填率15%になるよう成形した不織布に、平均断面積が70μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.50mm、充填率10%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が210μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.50mm、金属長繊維体積率15%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率については表2に示したとおりであった。
ただ、検証途中でフィルターの変形及び破損を確認したため、安定して紡糸することが困難となり、フィルター材交換頻度、単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量は測定できなかった。また、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維も得ることができなかった。
【0096】
比較例6:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が60μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が160μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.35mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例1と比較するとフィルター材交換頻度は増加した。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり5.2GPaとなり、実施例1と大きな違いはなかった。
【0097】
比較例7:
紡糸原液を得る際にフィルター装置を用いて濾過をしなかった以外は実施例1と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。フィルターを用いていないため、フィルター装置の評価は行っていない。紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例1と比較すると単糸切れ発生時紡浴引取倍率が低下し、紡浴屑糸発生量についても大幅に増加した。
また、得られた炭素繊維のストランド強度については表2に示したとおり3.9GPa
となり、実施例1と比較すると1.4GPaも低下した。
【0098】
実施例5:
[アクリロニトリル系重合体の製造]
アクリロニトリル系重合体は、オーバーフロー式の重合容器に、以下のように各原料を供給すると共に重合容器内の温度を50℃に維持しながら攪拌し、オーバーフローした重合体スラリーを洗浄、乾燥して製造した。重合容器内には、常に脱イオン水74.75質量%と、モノマー25質量%(組成比(質量比)、アクリロニトリル(AN):2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)=96:4)と、過硫酸アンモニウム0.1質量%、亜硫酸水素アンモニウム0.15質量%、硫酸第一鉄7水和物2質量ppmとを、各原料をそれぞれ連続して供給すると共に、pH3.0となるように硫酸を適量添加した。得られたアクリロニトリル系重合体の組成は、AN単量体単位:HEMA単量体単位(質量比)=96:4であった。
【0099】
[アクリロニトリル系重合体溶液(紡糸原液)の製造]
上記で得たアクリロニトリル系重合体21質量%、ジメチルアセトアミド79質量%を混合し、加熱溶解したあとフィルター装置にて濾過を行ない、紡糸原液を得た。このとき用いたフィルター装置のフィルター材部分に平均断面積が80μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて、厚さ0.20mm、充填率30%になるよう成形した不織布に、平均断面積が100μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて、厚さ0.20mm、充填率25%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結し、さらに平均断面積が175μm
2 のSUS316L製丸型金属長繊維を用いて、厚さ0.30mm、金属長繊維体積率20%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結したもので、フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。このときの異物捕捉率についても表2に示すとおりであった。
【0100】
[炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造]
上記紡糸原液を濃度45質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に、孔径60μm、孔数20000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸を得た。このときの単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量については表2に示すとおりであった。得られた凝固糸を空気中で1.1倍に延伸し、続いて熱水中で5.0倍に延伸しながら洗浄、脱溶剤した。脱溶剤した凝固糸をアミノ変性シリコーン系油剤分散液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーで緻密乾燥化した。次いで、表面温度190℃のロールを用い1.5倍に延伸し、単繊維繊度2.5dtexの炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造した。このときのフィルター材交換頻度についても表2に示したとおりであった。
【0101】
[炭素繊維の製造]
前駆体繊維を、220〜300℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通し(耐炎化処理)、窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成した(炭素化処理)。その後、電解酸化処理、サイジング処理を施し、炭素繊維とした。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり4.7GPaとなった。
【0102】
実施例6:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が125μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が245μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時の紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであった。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり4.6GPaであった。
【0103】
実施例7:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が40μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が80μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.15mm、充填率35%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時の単糸切れ発生時の紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであった。
また、得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり4.5GPaであった。
【0104】
比較例8:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を平均断面積が60μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が160μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.35mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は、実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時における単糸切れ発生時の紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例5と比較するとフィルター材交換頻度は増加した。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり4.5GPaとなり、実施例5と大きな違いはなかった。
【0105】
比較例9:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が25μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.30mm、充填率35%になるよう成形した不織布に、平均断面積が55μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.35mm、充填率30%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。濾過時の異物捕捉率、フィルター材交換頻度及び紡糸時における単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例5と比較するとフィルター材交換頻度は増加し、単糸切れ発生時の紡浴引取倍率も低下した。
得られた炭素繊維のストランド強度は表2に示したとおり4.4GPaとなり、実施例5と比較すると大きな違いは見られなかった。
【0106】
比較例10:
紡糸原液を得る際にフィルター装置を用いて濾過をしなかった以外は実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。フィルターを用いていないため、フィルター装置の評価は行っていない。紡糸時の単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量についても表2に示したとおりであり、実施例5と比較すると単糸切れ発生時の紡浴引取倍率が低下し、紡浴屑糸発生量についても大幅に増加した。
また、得られた炭素繊維のストランド強度については表2に示したとおり3.8GPaとなり、実施例5と比較すると0.9GPaも低下した。
【0107】
比較例11:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が10μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.05mm、充填率45%になるよう成形した不織布に、平均断面積が30μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて
厚さ0.05mm、充填率45%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。
フィルター材の閉塞が非常に早く、検証途中でフィルター材の変形も確認されたため、安定して紡糸することが困難となり、フィルター材交換頻度、単糸切れ発生時の紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量は測定できなかった。また、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維も得ることができなかった。
【0108】
比較例12:
紡糸原液を得る際に用いたフィルター装置のフィルター材部分を、平均断面積が105μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.70mm、充填率40%になるよう成形した不織布に、平均断面積が300μm
2 のSUS316製丸型金属長繊維を用いて厚さ0.50mm、充填率45%になるよう成形した不織布を重ねたのちに焼結した以外は実施例5と同様に行った。フィルター材部分のパラメータは表1に示したとおりである。
フィルター材の閉塞が非常に早く、安定して紡糸することが困難となり、フィルター材交換頻度、単糸切れ発生時紡浴引取倍率、紡浴屑糸発生量は測定できなかった。また、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維も得ることができなかった。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】