(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの上流側に設けられかつロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺体の張力を検出する張力センサーロールと、張力センサーロールと冷却キャンロール間に設けられかつ回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺体を冷却キャンロールに搬入させる前フィードロールと、冷却キャンロールに対向する側でかつ冷却キャンロール外周面に沿って配置された熱負荷を伴う表面処理手段を真空チャンバー内に備え、
上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に長尺体を巻き付けると共に、冷却キャンロール外周面と接していない長尺体の表面側を上記表面処理手段により表面処理する長尺体の表面処理装置において、
上記前フィードロールが加熱ロールにより構成され、この前フィードロールには搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロールが付設されていると共に、冷却キャンロールの外周面は、その軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成されており、
更に、上記ニップロールがゴム製ロールで構成され、かつ、ニップロールの幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とニップロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とする長尺体の表面処理装置。
上記張力センサーロールの外周面にも、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向け張力を付与するための幅拡げ機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の長尺体の表面処理装置。
上記張力センサーロールがゴム製ロールで構成され、かつ、張力センサーロールの幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と張力センサーロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の長尺体の表面処理装置。
熱負荷を伴う上記表面処理手段により昇温される表面処理中における長尺体の温度以上に、表面処理前における長尺体が上記前フィードロールにより予め加熱されるようになっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長尺体の表面処理装置。
クラウン状に形成された上記冷却キャンロールの外周面が、冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部が軸方向両端部より100〜900μm高く設定された形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の長尺体の表面処理装置。
上記前フィードロールの下流側で冷却キャンロールとの間に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するゴム製ロールが組み込まれ、かつ、この幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とゴム製ロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の長尺体の表面処理装置。
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの上流側に設けられかつロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺体の張力を検出する張力センサーロールと、張力センサーロールと冷却キャンロール間に設けられかつ回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺体を冷却キャンロールに搬入させる前フィードロールと、冷却キャンロールに対向する側でかつ冷却キャンロール外周面に沿って配置された熱負荷を伴う表面処理手段を真空チャンバー内に具備する表面処理装置を用い、
上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に長尺体を巻き付けると共に、冷却キャンロール外周面と接していない長尺体の表面側を上記表面処理手段により表面処理する長尺体の表面処理方法において、
上記冷却キャンロールの外周面をその軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成し、上記前フィードロールを加熱ロールで構成すると共に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向け張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロールを上記前フィードロールに付設し、更に、該ニップロールをゴム製ロールで構成し、かつ、ニップロールの幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とニップロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体で構成して、搬送されてくる表面処理前の長尺体を前フィードロールにより予め加熱し、かつ、表面処理前の上記長尺体に対しニップロールの幅拡げ機構により幅方向へ向け張力を付与しながら冷却キャンロールへ搬入させることを特徴とする長尺体の表面処理方法。
上記張力センサーロールをゴム製ロールで構成し、かつ、張力センサーロールの幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と張力センサーロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体で構成したことを特徴とする請求項11に記載の長尺体の表面処理方法。
熱負荷を伴う上記表面処理手段により昇温される表面処理中における長尺体の温度以上に、表面処理前における長尺体を上記前フィードロールにより予め加熱することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の長尺体の表面処理方法。
上記冷却キャンロールにおける外周面のクラウン形状を、冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部が軸方向両端部より100〜900μm高くなるように設定したことを特徴とする請求項10に記載の長尺体の表面処理方法。
上記前フィードロールの下流側で冷却キャンロールとの間に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するゴム製ロールを組み込むと共に、上記幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とゴム製ロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けた複数の周期的溝体で構成したことを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の長尺体の表面処理方法。
上記長尺体が長尺の耐熱性樹脂フィルムで構成され、かつ、熱負荷を伴うスパッタリング成膜手段により昇温される成膜中における耐熱性樹脂フィルムの成膜時フィルム温度以上かつ該成膜時フィルム温度に80℃を加えた温度以下の範囲で、表面処理前における上記耐熱性樹脂フィルムを前フィードロールにより予め加熱することを特徴とする請求項18に記載の長尺体の表面処理方法。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体が皺等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、接着剤により金属箔を耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより耐熱性樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
上記メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料(すなわち、銅張積層樹脂フィルム基板)が開示されている。尚、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する場合、以下に述べるスパッタリングウェブコーターを用いることが一般的である。
【0005】
そして、上述したスパッタリング法は、一般に、成膜された金属薄膜等の密着力に優れる利点を有する反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムに皺が発生し易くなることも知られている。
【0006】
この皺の発生を防ぐため、スパッタリングウェブコーターでは、ロール・ツー・ロール等により搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムを、冷却機能を備える冷却キャンロールに密着させながら巻き付けることで成膜中の耐熱性樹脂フィルムを裏面側から冷却する方式が採用されている。例えば、特許文献3には、上記スパッタリングウェブコーターの一例である巻出巻取式(ロール・ツー・ロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、冷却キャンロールとして機能するクーリングロールを具備し、更に、クーリングロールの少なくとも耐熱性樹脂フィルムの搬入側(搬送上流側)にサブロール(前フィードロール)が設けられており、このサブロールによって耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着させる制御が行われている。
【0007】
ところで、熱負荷が作用していない長尺状樹脂フィルム等の長尺体に対し、長さ方向へ向けて張力が印加された場合でも、
図3(A)〜(C)に示すように長尺体の中央部に皺が発生する。すなわち、
図3(A)に示すように長尺状樹脂フィルム等の長尺体に対し長さ方向へ向けて張力が印加されていない場合(張力開放状態)には長尺体に弛みがなく平坦状であるが、長尺体に対し長さ方向へ向けて張力が印加された場合(張力印加状態)には、
図3(B)〜(C)に示すように冷却キャンロール(クーリングロール)に接触していない状態でも、長尺体全体が伸びて長尺体の中央部に皺が発生する状態(中だるみ状態)となる。
【0008】
このため、長尺状樹脂フィルム等の長尺体に対し長さ方向へ向けて張力(搬送張力)が印加されていると、冷却キャンロール(円筒状クーリングロール)に巻き付けられた状態であっても、極僅かではあるが、
図4(A)に示すように長尺体中央部に皺が発生する状態(中だるみ状態)となる。
【0009】
上記「中だるみ状態」が極僅かであっても、「中だるみ部位」に隙間が生じて冷却キャンロール(円筒状クーリングロール)との熱伝導効率が不十分となるため、その分、冷却効果が低下し、スパッタリング成膜の熱負荷に起因して上記「中だるみ部位」に幅方向の皺が発生し易くなる問題が存在した。特に、スパッタリング成膜の製造効率等を高める目的で長尺状樹脂フィルムの搬送速度を高めた場合には、所望膜厚のスパッタリング成膜を短時間で行う必要があるため、その分、長尺状樹脂フィルムに与える熱負荷が更に大きくなって上記問題が顕著となり、また、フィルムの搬送速度を高く設定しなくても、膜厚の薄い長尺状樹脂フィルムが適用された場合には、厚いフィルムと比較し長尺状樹脂フィルムに与える熱負荷が相対的に大きくなるため皺の発生が顕著となる。
【0010】
この問題を解消するため、非特許文献1では、ロール中央部に較べてロール端部側が高い逆クラウン形状の冷却キャンロール構造を採用し、冷却キャンロール端部側の周速がロール中央部より速くなるようにして長尺状樹脂フィルムの幅方向に皺が発生し難い装置を提案している。しかし、逆クラウン形状の冷却キャンロール構造を採用する方法は、大気中において長尺状樹脂フィルムとロールのグリップ力が弱くかつフィルムの搬送速度が速いときには効果的な方法であるが、スパッタリング成膜等真空チャンバー(減圧室)内の真空中において長尺状樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには効果的な方法とは言えなかった。
【0011】
また、上記問題を解消するため、特許文献4では、ロール端部側に較べロール中央部が高い太鼓型(クラウンロール形状:特許文献4から計算すると中央部が2〜3mm程度高い)の冷却キャンロール形状にすることでフィルムの幅方向に皺が発生し難い装置を提案し、更に、特許文献5では、冷却キャンロールに搬入される前の長尺耐熱性樹脂フィルムに対し、電子線衝撃加熱装置等の付加手段により加熱し、熱膨張により伸びた長尺耐熱性樹脂フィルムをエキスパンドロールのような「伸ばしロール」によりフィルムの幅方向へ拡張させた後、冷却キャンロールに搬入させる装置を提案している。
【0012】
そして、逆クラウン形状の冷却キャンロール構造を採用する上記非特許文献1の装置と比較し、真空中において長尺状樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには、
図4(B)に示すように太鼓型(クラウンロール)形状の冷却キャンロール構造を採用する特許文献4の装置(方法)は、クラウンロールに長尺状樹脂フィルムを巻き付けて上述の「中だるみ部位」を伸ばす作用があるため効果的であった。
【0013】
しかし、特許文献4の装置(方法)は、真空中において長尺状樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには効果的であるが、フィルムの搬送速度を速めた場合には、皺の発生を十分に防止できない問題が存在した。
【0014】
また、特許文献5に記載された装置においても、冷却キャンロールの搬入側に電子線衝撃加熱装置やエキスパンドロールのような「伸ばしロール」を設ける必要があることから、これ等付加部材の配置スペースが余分に必要となり、更に、装置内の構造が複雑になってしまう問題を有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、太鼓型(クラウンロール)形状の冷却キャンロール構造が採用された特許文献4の装置(方法)を改善し、長尺状樹脂フィルム等長尺体の搬送速度を速めた場合でも、上記スパッタリング成膜等の熱負荷に起因した長尺体の皺発生を回避できる長尺体の表面処理装置と表面処理方法および銅張積層樹脂フィルム基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの上流側に設けられかつロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺体の張力を検出する張力センサーロールと、張力センサーロールと冷却キャンロール間に設けられかつ回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺体を冷却キャンロールに搬入させる前フィードロールと、冷却キャンロールに対向する側でかつ冷却キャンロール外周面に沿って配置された熱負荷を伴う表面処理手段を真空チャンバー内に備え、
上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に長尺体を巻き付けると共に、冷却キャンロール外周面と接していない長尺体の表面側を上記表面処理手段により表面処理する長尺体の表面処理装置において、
上記前フィードロールが加熱ロールにより構成され、この前フィードロールには搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロールが付設されていると共に、冷却キャンロールの外周面は、その軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成されて
おり、
更に、上記ニップロールがゴム製ロールで構成され、かつ、ニップロールの幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とニップロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
上記張力センサーロールの外周面にも、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向け張力を付与するための幅拡げ機構が設けられていることを特徴とする。
【0019】
次に、請求項
3に係る発明は、
請求項2に記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
上記張力センサーロールがゴム製ロールで構成され、かつ、張力センサーロールの幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と張力センサーロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とし、
請求項
4に係る発明は、
請求項1〜
3のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段により昇温される表面処理中における長尺体の温度以上に、表面処理前における長尺体が上記前フィードロールにより予め加熱されるようになっていることを特徴し、
請求項
5に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
クラウン状に形成された上記冷却キャンロールの外周面が、冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部が軸方向両端部より100〜900μm高く設定された形状を有していることを特徴とする。
【0020】
また、請求項
6に係る発明は、
請求項1〜
5のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
上記前フィードロールの下流側で冷却キャンロールとの間に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するゴム製ロールが組み込まれ、かつ、この幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とゴム製ロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴とし、
請求項
7に係る発明は、
請求項1〜
6のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
回転駆動される冷却キャンロールの周速度より回転駆動される前フィードロールの周速度が遅く設定されていることを特徴とし、
請求項
8に係る発明は、
請求項1〜
7のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段が、スパッタリングによる成膜手段で構成されていることを特徴とし、
請求項
9に係る発明は、
請求項1〜
7のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理装置において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段が、コロナ若しくはプラズマによる表面活性化手段で構成されていることを特徴とする。
【0021】
次に、請求項
10に係る発明は、
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの上流側に設けられかつロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺体の張力を検出する張力センサーロールと、張力センサーロールと冷却キャンロール間に設けられかつ回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺体を冷却キャンロールに搬入させる前フィードロールと、冷却キャンロールに対向する側でかつ冷却キャンロール外周面に沿って配置された熱負荷を伴う表面処理手段を真空チャンバー内に具備する表面処理装置を用い、
上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に長尺体を巻き付けると共に、冷却キャンロール外周面と接していない長尺体の表面側を上記表面処理手段により表面処理する長尺体の表面処理方法において、
上記冷却キャンロールの外周面をその軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成し、上記前フィードロールを加熱ロールで構成すると共に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向け張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロールを上記前フィードロールに付設
し、
更に、該ニップロールをゴム製ロールで構成し、かつ、ニップロールの幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とニップロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体で構成して、搬送されてくる表面処理前の長尺体を前フィードロールにより予め加熱し、かつ、表面処理前の上記長尺体に対しニップロールの幅拡げ機構により幅方向へ向け張力を付与しながら冷却キャンロールへ搬入させることを特徴とし、
請求項
11に係る発明は、
請求項
10に記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記張力センサーロールの外周面にも、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向け張力を付与するための幅拡げ機構を設けたことを特徴とする。
【0022】
また、請求項
12に係る発明は、
請求項
11に記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記張力センサーロールをゴム製ロールで構成し、かつ、張力センサーロールの幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と張力センサーロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体で構成したことを特徴とし、
請求項
13に係る発明は、
請求項
10〜
12のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段により昇温される表面処理中における長尺体の温度以上に、表面処理前における長尺体を上記前フィードロールにより予め加熱することを特徴とし、
請求項
14に係る発明は、
請求項
10に記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記冷却キャンロールにおける外周面のクラウン形状を、冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部が軸方向両端部より100〜900μm高くなるように設定したことを特徴とする。
【0023】
次に、請求項
15に係る発明は、
請求項
10〜
14のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記前フィードロールの下流側で冷却キャンロールとの間に、搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するゴム製ロールを組み込むと共に、上記幅拡げ機構を、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とゴム製ロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けた複数の周期的溝体で構成したことを特徴とし、
請求項
16に係る発明は、
請求項
10〜
15のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
回転駆動される上記冷却キャンロールの周速度より、回転駆動される上記前フィードロールの周速度を遅く設定することを特徴とし、
請求項
17に係る発明は、
請求項
16に記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記冷却キャンロールの周速度に対して上記前フィードロールの周速度を0.02%〜1%遅く設定することを特徴とし、
請求項
18に係る発明は、
請求項
10〜
17のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段が、スパッタリングによる成膜手段であることを特徴とし、
請求項
19に係る発明は、
請求項
10〜
17のいずれかに記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
熱負荷を伴う上記表面処理手段が、コロナ若しくはプラズマによる表面活性化手段であることを特徴とする。
【0024】
更に、請求項
20に係る発明は、
請求項
18に記載の発明に係る長尺体の表面処理方法において、
上記長尺体が長尺の耐熱性樹脂フィルムで構成され、かつ、熱負荷を伴うスパッタリング成膜手段により昇温される成膜中における耐熱性樹脂フィルムの成膜時フィルム温度以上かつ該成膜時フィルム温度に80℃を加えた温度以下の範囲で、表面処理前における上記耐熱性樹脂フィルムを前フィードロールにより予め加熱することを特徴とし、
請求項
21に係る発明は、
請求項
20に記載の長尺体の表面処理方法を用いて、長尺の耐熱性樹脂フィルム基板と、耐熱性樹脂フィルム基板の表面に成膜されたニッケル合金またはクロムから成る下地金属層と、下地金属層の表面に成膜された銅薄膜層とで構成される銅張積層樹脂フィルム基板を製造する方法において、
真空チャンバー内に複数のスパッタリング成膜手段を設けると共に、複数のスパッタリング成膜手段を用いて耐熱性樹脂フィルム基板の表面にニッケル合金またはクロムから成る下地金属層と、下地金属層の表面に銅薄膜層を連続して成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る長尺体の表面処理装置並びに表面処理方法は、
冷却キャンロールの近傍位置でかつ長尺体の搬入側に配置された前フィードロールが加熱ロールにより構成され、この前フィードロールには搬送される長尺体に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロールが付設されていると共に、冷却キャンロールの外周面は、その軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成されて
おり、更に、上記ニップロールがゴム製ロールで構成され、かつ、ニップロールの幅拡げ機構が、ゴム製ロール面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とニップロールの回転方向が同一となるようにゴム製ロール外周面に設けられた複数の周期的溝体により構成されていることを特徴としている。
【0026】
そして、表面処理前における長尺体を上記前フィードロールにより予め加熱し、かつ、加熱された長尺体に対しニップロールの幅拡げ機構により幅方向へ向け張力を付与しながら上記長尺体をクラウン状冷却キャンロールに搬入させていることから、搬送張力により生じた長尺体の「中だるみ部位」が上記前フィードロールの加熱作用とニップロールの幅拡げ作用並びにクラウン状冷却キャンロールの伸ばし作用により幅方向へ拡げられるため、熱負荷を伴う表面処理に起因した長尺体の皺発生を回避することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
まず、真空チャンバー(減圧室)内に表面処理手段を具備する従来例に係る表面処理装置と本発明に係る表面処理装置について、スパッタリングウェブコーターを例に挙げてそれぞれの概略構成を説明する。
【0030】
尚、このスパッタリングウェブコーター(表面処理装置)において、ロール・ツー・ロール方式で搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムを長尺体の一例として挙げている。
【0031】
また、
図1に示す従来例に係る表面処理装置と
図2に示す本発明に係る表面処理装置において、同一の構成部品は原則として同一番号で表示している。
【0032】
(1)従来例に係る表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)
従来例に係るスパッタリングウェブコーター(表面処理装置)50は、
図1に示すように真空チャンバー(減圧室)内に、長尺樹脂フィルム52を巻き出す巻出ロール51と、長尺樹脂フィルム52を巻き取る巻取ロール64と、巻出ロール51と巻取ロール64間に設けられ内部で温調された冷媒が循環していると共にサーボモータにより回転駆動される円筒状の冷却キャンロール56と、冷却キャンロール56の上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52を冷却キャンロール56に搬入させる前フィードロール55と、冷却キャンロール56の下流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に冷却キャンロール56から送り出される長尺樹脂フィルム52を上記巻取ロール64側へ搬出させる後フィードロール61が配置された構造を有しており、かつ、表面処理手段(乾式めっき手段)としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が、冷却キャンロール56の対向側で冷却キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0033】
また、上記巻出ロール51から冷却キャンロール56までの上流側搬送路上には、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサーロール54と、サーボモータにて回転駆動される前フィードロール55がそれぞれ配置されている。そして、サーボモータにて回転駆動される冷却キャンロール56に対しその周速度が遅くなるように調整された上記前フィードロール55により長尺樹脂フィルム52に搬入張力が作用し、張力センサーロール54から送り出されて冷却キャンロール56に向かう長尺樹脂フィルム52が冷却キャンロール56の外周面に密着し搬送されるようになっている。
【0034】
また、冷却キャンロール56から巻取ロール64までの下流側搬送路上にも、サーボモータにて回転駆動される後フィードロール61と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサーロール62と、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール63がそれぞれ配置されている。そして、冷却キャンロール56に対しその周速度が同一若しくは速くなるように調整された上記後フィードロール61により長尺樹脂フィルム52に搬出張力が作用し、冷却キャンロール56から巻取ロール64側に向けて長尺樹脂フィルム52が排出されるようになっている。
【0035】
(2)従来例に係る表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)の弊害
図5は、表面処理された長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)に皺が発生するメカニズムを分かり易く説明するため、
図1に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)における「前フィードロール」「冷却キャンロール」「マグネトロンスパッタリングカソード」の位置関係、長尺樹脂フィルムの搬送方向、フィルムに生じた皺等を二次元平面に直して表示したものである。
【0036】
そして、
図5に示すように前フィードロール11を通過した長尺樹脂フィルム10は、長さ方向(搬送方向)へ向け作用する搬送張力により発生した「中だるみ部位」(
図3B参照)をフィルム中央に有しながら冷却キャンロール12に搬入され、かつ、冷却キャンロール12に密着したままマグネトロンスパッタリングカソード13、14、15、16を通過するが、スパッタリングカソード13、14、15、16の熱負荷により長尺樹脂フィルム10は110℃付近まで加熱されて熱膨張する。
【0037】
この場合、円筒状の冷却キャンロール12の冷却作用により長尺樹脂フィルム10は冷却されるが、長尺樹脂フィルム10の中央に存在する「中だるみ部位」により冷却作用は十分でなく(
図4A参照)、かつ、長尺樹脂フィルム10は冷却キャンロール12に拘束されているため伸びることができず皺17が発生する。尚、長尺樹脂フィルムの一例として用いたポリイミドフィルムの代表的な線熱膨張係数は12ppm/Kであり、長尺樹脂フィルムがポリイミドフィルムの場合、幅1000mm当たり10℃の上昇で0.12mm伸びる計算になる。
【0038】
(3)本発明に係る表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)
本発明に係る表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)50は、
図2に示すように真空チャンバー(減圧室)内に、長尺樹脂フィルム52を巻き出す巻出ロール51と、長尺樹脂フィルム52を巻き取る巻取ロール64と、巻出ロール51と巻取ロール64間に設けられかつ内部で温調された冷媒が循環していると共にサーボモータにより回転駆動されるクラウン形状の冷却キャンロール56と、冷却キャンロール56の上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52を加熱しながら冷却キャンロール56に搬入させる前フィードロール55と、冷却キャンロール56の下流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に冷却キャンロール56から送り出される長尺樹脂フィルム52を上記巻取ロール64側へ搬出させる後フィードロール61が配置された構造を有しており、かつ、上記前フィードロール55には搬送される長尺樹脂フィルム52に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するニップロール65が付設されており、更に、上記前フィードロール55の下流側で冷却キャンロール56との間には搬送される長尺樹脂フィルム52に対しその幅方向へ向けて張力を付与するための幅拡げ機構を有するゴム製ロール66が組み込まれていると共に、上記冷却キャンロール56の対向側には表面処理手段(乾式めっき手段)としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が冷却キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0039】
ここで、本発明に係る表面処理装置において、上記前フィードロール55は加熱ロールにより構成され、上述したように巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52を加熱しながら冷却キャンロール56に搬入させる構造になっている。また、上記ニップロール65は、前フィードロール55と冷却キャンロール56との間に組み込まれたゴム製ロール66と同様のゴム製ロールで構成されており、上記ゴム製ロール66とニップロール65が具備する各幅拡げ機構は、
図11に示すようにゴム製ロール110面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線110aを基端側とし、かつ、この基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行でかつ上記V字形状先端が向かう方向とニップロール65等の回転方向が同一となるように上記ゴム製ロール110外周面に設けられた複数の周期的溝体110bにより構成されている。上記周期的溝体110bの角度とその深さ、ピッチは、長尺樹脂フィルム(長尺体)52の厚さ、密着力、搬送張力と抱き角等により決定される。尚、
図2に示す本発明の表面処理装置においては、前フィードロール55と冷却キャンロール56との間にゴム製ロール66を組み込んだ構造になっているが、上記長尺樹脂フィルム(長尺体)52に対する幅拡げ作用がニップロール65の幅拡げ機構で十分に機能する場合にはゴム製ロール66の組み込みを省略することも可能である。
【0040】
また、上記巻出ロール51から冷却キャンロール56までの上流側搬送路上には、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサーロール54と、サーボモータにて回転駆動される前フィードロール55がそれぞれ配置されている。また、張力センサーロール54はゴム製ロールで構成されており、上述したニップロール65と同様、ゴム製ロールの外周面に複数の周期的溝体110b(
図11参照)で構成される幅拡げ機構が設けられている。尚、上記長尺樹脂フィルム52に対する幅拡げ作用がニップロール65の幅拡げ機構で十分に機能する場合には、幅拡げ機構を具備しない通常の張力センサーロールを適用することも可能である。
【0041】
そして、サーボモータにて回転駆動される上記冷却キャンロール56に対しその周速度が遅くなるように調整された前フィードロール55により長尺樹脂フィルム52に搬入張力が作用し、張力センサーロール54から送り出されて冷却キャンロール56に向かう長尺樹脂フィルム52が冷却キャンロール56の外周面に密着し搬送されるようになっている。尚、冷却キャンロール56に対する長尺樹脂フィルム52の密着をより完全にさせるため、基準速度となる冷却キャンロール56の周速度に対して上記前フィードロール55の周速度を0.02%〜1%遅く設定することが望ましい。0.02%未満では長尺樹脂フィルム52の密着効果が十分でなく、また、1%を越えると長尺樹脂フィルム52に傷が入ることがあるからである。
【0042】
また、上記冷却キャンロール56から巻取ロール64までの下流側搬送路上にも、サーボモータにて回転駆動される後フィードロール61と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサーロール62と、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール63がそれぞれ配置されている。
【0043】
そして、冷却キャンロール56に対しその周速度が同一若しくは速くなるように調整された上記後フィードロール61により長尺樹脂フィルム52に搬出張力が作用し、冷却キャンロール56から巻取ロール64側に向けて長尺樹脂フィルム52が排出されるようになっている。
【0044】
また、上記巻出ロール51と巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルム52の張力バランスが保たれるようになっている。更に、冷却キャンロール56の回転とこれに連動して回転するサーボモータ駆動の前フィードロール55と後フィードロール61により、巻出ロール51から長尺樹脂フィルム52が巻き出されて上記巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0045】
また、スパッタリングウェブコーター(表面処理装置)50では、上述したように表面処理手段(乾式めっき手段)としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が上記冷却キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0046】
そして、スパッタリング成膜に際しては、スパッタリングウェブコーター50の減圧室内を到達圧力10
-4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。スパッタリングウェブコーター(表面処理装置)50の形状や材質に関しては、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものが使用される。また、スパッタリングウェブコーター50における減圧室内の減圧状態を維持するため、スパッタリングウェブコーター50には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が付設されている。
【0047】
尚、金属膜のスパッタリング成膜の場合には、板状のターゲット(図示せず)を使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題となる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率が高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、
図2に示すスパッタリングウェブコーター(表面処理装置)50は、熱負荷を伴う表面処理手段としてスパッタリングを想定したものであることからマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が示されているが、熱負荷を伴う表面処理手段が蒸着処理等他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の表面処理手段を備えることもできる。尚、熱負荷を伴う他の表面処理手段として、CVD(化学的気相成長)による成膜手段や、コロナ若しくはプラズマによる表面活性化手段等がある。
【0048】
そして、
図2に示した本発明の表面処理装置は、前フィードロール55がIH(誘導加熱)方式の加熱ロールにより構成され、この前フィードロール55にはニップロール65が付設されていると共に、上記張力センサーロール54、ニップロール65およびゴム製ロール66が、周期的溝体110b(
図11参照)により構成された幅拡げ機構を外周面に有するゴム製ロールで構成されており、かつ、冷却キャンロール56の外周面が軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン形状になっていることを特徴としている。
【0049】
尚、上記冷却キャンロール56における外周面のクラウン形状に関しては、長尺樹脂フィルム52の厚さ、搬送張力に依存する。そして、厚さ10〜40μmのポリイミドフィルムで長尺樹脂フィルム52が構成される場合、冷却キャンロール56における軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部が軸方向両端部より100〜900μm高くなるように設定するとよい。軸方向中央部の高さが100μm未満の太鼓型(クラウンロール形状)では十分な効果が認められず、また、上記軸方向中央部の高さが900μmを超えて1000μm以上の太鼓型(クラウンロール形状)では長尺樹脂フィルム52の端部側が冷却キャンロール56から浮いてしまう傾向が認められ、長尺樹脂フィルム52の中央に皺が発生することがあるからである。
【0050】
(4)本発明に係る表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)の作用
以下、
図2に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)の作用について、
図6〜
図10を用いて説明する。
【0051】
図6〜
図10は、表面処理された長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)に皺が発生するメカニズムまたは皺の発生が抑制されるメカニズムについて分かり易く説明するため、
図2に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)の「張力センサーロール」(幅拡げ機構を具備させた場合のみ表示)、「前フィードロール」、「ニップロール」、「冷却キャンロール」、「ゴム製ロール」(前フィードロールと冷却キャンロールとの間に組み込んだ場合のみ表示)、「マグネトロンスパッタリングカソード」におけるこれ等の位置関係、長尺樹脂フィルムの搬送方向等を二次元平面に直し表示したものである。
【0052】
但し、「張力センサーロール」「ニップロール」「ゴム製ロール」の各外周面に設けられた周期的溝体のV字形状先端は、長尺樹脂フィルムに対する各ロールの幅拡げ作用が視覚的に分かり易くなるように長尺樹脂フィルムの搬送に従い拡がる方向へ向けて表示しており、「張力センサーロール」「ニップロール」「ゴム製ロール」の各回転方向(時計回りか、あるいは、逆時計回りか)については無視した表示となっている。
【0053】
そして、表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)の使用条件は、冷却キャンロールと前フィードロールの周速度差(冷却キャンロールに対し前フィードロールの周速度を遅くした割合)が「0.5(%)」、冷却キャンロールのクラウン量(冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり軸方向中央部が軸方向両端部より高くした量)が「500μm」、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)の搬送速度が該フィルムに作用する熱負荷が相対的に大きくなる「8m/分」とし、かつ、全てのマグネトロンスパッタリングを用い成膜している(マグネトロンスパッタへの「投入総電力は65kW」)。
【0054】
尚、成膜時の長尺樹脂フィルム温度は該フィルムに張り付けた熱電対で測定し、その温度は110℃に達している。
【0055】
(4-1)幅拡げ機構を有しない張力センサーロールが用いられ、前フィードロールと冷却キャンロールとの間にゴム製ロールが組込まれておらず、「前フィードロール(ロール温度が常温20℃に設定)」と「幅拡げ機構を有するニップロール」と「クラウン形状の冷却キャンロール(ロール温度が60℃に設定)」を備えた
図2の表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)を用いて長尺樹脂フィルムに対しマグネトロンスパッタリング成膜を行った場合
図6に示すように、前フィードロール71と幅拡げ機構を有するニップロール72間を通過する長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)70は、ニップロール72の作用により幅方向へ引っ張られるが、20℃に設定された前フィードロール71の加熱作用がないため幅寸法を殆ど変えずに60℃に設定されたクラウン形状の冷却キャンロール73に搬入され、冷却キャンロール73に密着しかつ冷却キャンロール73により暖められた状態で搬送される。暖められた長尺樹脂フィルム70は、
図6の矢印方向(フィルム幅方向の外側向き)へ伸びようとするが、冷却キャンロール73表面がクラウン形状で長尺樹脂フィルム70は張られた状態のため緩み難い。
【0056】
そして、冷却キャンロール73表面に密着した状態で長尺樹脂フィルム70はスパッタリングカソード74、75、76、77を通過し、スパッタリングカソード74、75、76、77の熱負荷により長尺樹脂フィルム70は110℃付近まで加熱されるため、フィルムに皺78が発生してしまう。
【0057】
尚、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)の搬送速度を「4m/分」とし、長尺樹脂フィルムに作用する熱負荷が相対的に小さくなる(成膜時間が2倍となるため熱負荷は1/2となる)ように調整することで皺の発生を防止できるが、搬送速度が遅くなる分、製造効率が低下するデメリットが存在する。
【0058】
(4-2)幅拡げ機構を有しない張力センサーロールが用いられ、前フィードロールと冷却キャンロールとの間にゴム製ロールが組込まれておらず、かつ、「前フィードロール(ロール温度が110℃に設定)」と「幅拡げ機構を有するニップロール」と「クラウン形状の冷却キャンロール(ロール温度が60℃に設定)」を備えた
図2の表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)を用いて長尺樹脂フィルムに対しマグネトロンスパッタリング成膜を行った場合
前フィードロール81を通過した長尺樹脂フィルム80は、
図7に示すように前フィードロール81により加熱されてフィルム温度が常温20℃から110℃まで上昇し、長尺樹脂フィルム80は熱膨張により幅方向外側へ向けて約1080ppm[(12ppm/K)×(Δ90℃=110−20)]拡げられた状態となり、更に、
図11に示したニップロール82の幅拡げ機構によりフィルム幅方向の外側へ向け拡げられながら60℃に設定された冷却キャンロール83に搬入される。
【0059】
次に、110℃まで昇温した長尺樹脂フィルム80が60℃に設定された冷却キャンロール83へ搬入されると、長尺樹脂フィルム80は冷却されて
図7の矢印方向(フィルム幅方向の内側向き)へ向かう収縮力が長尺樹脂フィルム80に作用するが、長尺樹脂フィルム80は冷却キャンロール83に密着した状態(密着により収縮力が抑制され、引っ張り応力を受けた状態)でマグネトロンスパッタリングカソード84、85、86、87の配置領域へ搬送される。
【0060】
そして、この領域においてマグネトロンスパッタリングカソード84、85、86、87の熱負荷により長尺樹脂フィルム80は110℃付近まで加熱されるため、
図7の矢印方向(フィルム幅方向の内側向き)へ向かう収縮力(引っ張り応力)が緩和されると共に、上記ニップロール82の幅拡げ機構により収縮力(引っ張り応力)への緩和作用が増幅して
図7に示すように長尺樹脂フィルム80に皺が発生することはない。
【0061】
尚、前フィードロール81を構成する加熱ロールの設定温度は、熱負荷を伴うスパッタリング成膜手段により昇温される成膜中における長尺樹脂フィルム80の成膜時フィルム温度(すなわち110℃)以上かつ該成膜時フィルム温度に80℃を加えた温度以下、望ましくは、上記成膜時フィルム温度以上かつ該成膜時フィルム温度に30℃を加えた温度以下の範囲に設定するとよい。前フィードロール81を構成する加熱ロールの設定温度が、熱負荷を伴うスパッタリング成膜手段により昇温される成膜中における長尺樹脂フィルム80の成膜時フィルム温度に80℃を加えた温度を越えると、長尺樹脂フィルム80が前フィードロール81に搬入されたとき、長尺樹脂フィルム80の急激な温度変化により前フィードロール81上で長尺樹脂フィルム80に皺が発生することがあるからである。表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)において、上記長尺樹脂フィルム80は減圧雰囲気下の真空チャンバー内を搬送されるため、前フィードロール81と冷却キャンロール83間の放熱は輻射熱のみであり、前フィードロール81と冷却キャンロール83間で長尺樹脂フィルム80の温度が下がることもない。
【0062】
(4-3)前フィードロールと冷却キャンロールとの間にゴム製ロールが組込まれておらず、かつ、「幅拡げ機構を有する張力センサーロール」と「前フィードロール(ロール温度が110℃に設定)」と「幅拡げ機構を有するニップロール」と「クラウン形状の冷却キャンロール(ロール温度が60℃に設定)」を備えた
図2の表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)を用いて長尺樹脂フィルムに対しマグネトロンスパッタリング成膜を行った場合
図7に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)において、幅拡げ機構を有しない通常の張力センサーロールに変えて、
図8に示すように幅拡げ機構を有する張力センサーロール98とした場合である。
【0063】
そして、幅拡げ機構を有する張力センサーロール98により、予め、長尺樹脂フィルム90に対し幅方向へ向け引っ張り力を作用させることで、前フィードロール91の加熱とニップロール92の幅拡げ機構による幅方向外側へ向けた長尺樹脂フィルム90の拡張をスムーズに行える効果がある。
【0064】
(4-4)幅拡げ機構を有しない張力センサーロールが用いられ、かつ、「前フィードロール(ロール温度が110℃に設定)」と「幅拡げ機構を有するニップロール」と「前フィードロールと冷却キャンロールとの間に組み込まれたゴム製ロール」と「クラウン形状の冷却キャンロール(ロール温度が60℃に設定)」を備えた
図2の表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)を用いて長尺樹脂フィルムに対しマグネトロンスパッタリング成膜を行った場合
図7に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)に変えて、
図9に示すように前フィードロール101と冷却キャンロール103との間に幅拡げ機構を有するゴム製ロール108を組み込んだ場合である。
【0065】
そして、前フィードロール101により長尺樹脂フィルム100を加熱し、かつ、幅拡げ機構を有するニップロール102を作用させた直後において、幅拡げ機構を有するゴム製ロール108を作用させることで、長尺樹脂フィルム100に対する幅方向外側へ向けた拡張をスムーズに行える効果がある。
【0066】
(4-5)「幅拡げ機構を有する張力センサーロール」と「前フィードロール(ロール温度が110℃に設定)」と「幅拡げ機構を有するニップロール」と「前フィードロールと冷却キャンロールとの間に組み込まれたゴム製ロール」と「クラウン形状の冷却キャンロール(ロール温度が60℃に設定)」を備えた
図2の表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)を用いて長尺樹脂フィルムに対しマグネトロンスパッタリング成膜を行った場合
図7に示した表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)において、幅拡げ機構を有しない通常の張力センサーロールに変えて、
図10に示すように幅拡げ機構を有する張力センサーロール209とし、かつ、前フィードロール201と冷却キャンロール203との間に幅拡げ機構を有するゴム製ロール208を組み込んだ場合である。
【0067】
そして、幅拡げ機構を有する張力センサーロール209により、予め、長尺樹脂フィルム200に対し幅方向へ向け引っ張り力を作用させ、かつ、前フィードロール201により長尺樹脂フィルム200を加熱し、更に、幅拡げ機構を有するニップロール202を作用させた直後において、幅拡げ機構を有するゴム製ロール208を作用させることで、長尺樹脂フィルム200に対する幅方向外側へ向けた拡張をよりスムーズに行える効果がある。
【0068】
(5)長尺体と銅張積層樹脂フィルム基板
(5-1)長尺体
表面処理の対象となる長尺体は、長尺状の樹脂フィルム、金属箔、金属ストリップ等が挙げられる。そして、樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような長尺樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような長尺耐熱性樹脂フィルム等が例示される。
【0069】
(5-2)銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板
本発明に係る長尺体の表面処理方法を用いて、銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板を製造することができる。
【0070】
上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板としては、耐熱性樹脂フィルム表面にNi、Ni系合金、クロム等からなる下地金属層と、下地金属層の表面に積層された銅薄膜層とで構成された構造体が例示される。このような構造を有する銅張積層樹脂フィルム基板は、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記銅薄膜層)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0071】
上記Ni合金等からなる層はシード層(下地金属層)と呼ばれ、銅張積層樹脂フィルム基板の電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。そして、シード層には、Ni−Cr合金またはインコネル、コンズタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板の金属膜(銅薄膜層)を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理(すなわち、電解めっき処理)のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0072】
また、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)に用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが挙げられ、銅張積層樹脂フィルムとしての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0073】
尚、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)として、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0075】
図2に示す表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)50を用い、長尺樹脂フィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52には、幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0076】
「冷却キャンロール56」は、直径800mm、幅800mmで、冷却キャンロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、冷却キャンロール56の外周面形状は、ロール軸方向両端部よりロール軸方向中央部が高い太鼓型(クラウンロール形状)となっており、そのクラウン量(冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり軸方向中央部が軸方向両端部より高くした量)が「200μm」と「500μm」(実施例の条件)の2種と、上記クラウン量が「0μm」と「1000μm」(比較例の条件)の2種を準備した。
【0077】
「前フィードロール55」は、IH(誘導加熱)方式の加熱ロール(トクデン株式会社製)で構成し、直径が150mm、有効幅が500mmであり、かつ、前フィードロール55の設定温度について、「20℃」、「60℃」、「110℃」および「200℃」の4条件を選定している。更に、冷却キャンロール56と前フィードロール55の周速度差(冷却キャンロール56に対し前フィードロール55の周速度を遅くする割合)については、「0.5(%)」と「1.0(%)」(実施例の条件)の2条件と、上記周速度差が「0(%)」と「2.0(%)」(比較例の条件)の2条件を選定している。
【0078】
「ニップロール65」は、直径70mm、幅800mmのゴム製ロールで構成され、ロール外周面にフィルムの進行方向に広がる
図11に示すような周期的溝体(幅拡げ機構)が形成されている。尚、周期的溝体の溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、かつ、V字形状先端の開き角度(リード角度)が70°に設定されている。
【0079】
「張力センサーロール54」は、直径120mm、幅800mmのゴム製ロールで構成され、ロール外周面にフィルムの進行方向に広がる
図11に示すような周期的溝体(幅拡げ機構)が形成されている。尚、周期的溝体の溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、V字形状先端の開き角度(リード角度)が70°に設定されている。
【0080】
前フィードロール55と冷却キャンロール56との間に組み込まれる「ゴム製ロール66」は、直径70mm、幅800mmのゴム製ロールで構成され、ロール外周面にフィルムの進行方向に広がる
図11に示すような周期的溝体(幅拡げ機構)が形成されている。尚、周期的溝体の溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、V字形状先端の開き角度(リード角度)が70°に設定されている。
【0081】
また、上記耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52に成膜される金属膜はシード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、かつ、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用い、更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は電力制御で成膜を行った。
【0082】
また、上記巻出ロール51と巻取ロール64の張力は100Nとした。巻出ロール51に上記耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52をセットし、かつ、冷却キャンロール56を経由して上記耐熱性ポリイミドフィルム50の先端部を巻取ロール64に取り付けた。
【0083】
また、減圧室(真空チャンバー)を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0084】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52の搬送速度を設定した後、各マグネトロンスパッタカソード57、58、59、60にアルゴンガスを導入して電力を印加し、シード層を構成するNi−Cr膜と、このNi−Cr膜上に形成するCu膜の成膜を開始した。
【0085】
「評価試験」
図2に示す表面処理装置(スパッタリングウェブコーター)50を用い、かつ、前フィードロール55を介して冷却キャンロール56上に耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52を巻きつけると共に、冷却キャンロール56近傍に配置されたマグネトロンスパッタカソード57、58、59、60により耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52表面に対しスパッタリング成膜を行い、成膜終了後、耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52が後フィードロール61へ搬出される手前側の冷却キャンロール56上で、熱負荷を伴うスパッタリング成膜による耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)52の皺発生の有無を観察窓から目視にて観察した。
【0086】
また、マグネトロンスパッタリングカソード57を構成する1枚のNi−Crターゲットを用いてNi−Cr層を成膜し、その膜厚は10nmである。また、マグネトロンスパッタリングカソード58、59、60を構成する3枚のCuターゲットを用いてCu膜を成膜し、その膜厚は100nmである。
【0087】
また、フィルムの搬送速度については、上記Ni−Cr層とCu膜の膜厚が保たれるようにして、皺が発生しない最高フィルム搬送速度を求めた。
【0088】
例えば、耐熱性ポリイミドフィルム(長尺耐熱性樹脂フィルム)の搬送速度を2倍に設定したとき、Ni−Cr膜とCu膜の膜厚を保つには各スパッタ電源の投入電力を2倍にすればよい。
【0089】
その結果を、表1〜4にまとめる。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
「確 認」
(1)クラウン量(冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり軸方向中央部が軸方向両端部より高くした量)が「1000μm」の冷却キャンロールを適用した場合、前フィードロールにおける設定温度、冷却キャンロールと前フィードロールの周速度差の条件と無関係にフィルムに「搬送皺」が発生していることが表1〜表4から確認できる。
【0095】
上記クラウン量が「1000μm」と大き過ぎると、フィルムの端部が冷却キャンロールに密着しなくなることからフィルムの搬送が不安定となり、熱負荷を伴うスパッタリング成膜を行わなくてもフィルムに「搬送皺」が発生してしまうことが分かる。
【0096】
(2)クラウン量(冷却キャンロールにおける軸方向の長さ800mm当たり軸方向中央部が軸方向両端部より高くした量)が「0μm」(従来の円筒状冷却キャンロール)の冷却キャンロールを適用した場合、前フィードロールにおける設定温度の高低に拘わらず皺無し最高フィルム搬送速度が「2.0(m/分)」であることが表1〜表3から確認できる。
【0097】
(3)前フィードロールの設定温度が「200℃」に設定された場合、上記クラウン量が「200μm」と「500μm」の条件(実施例の条件)で、冷却キャンロールと前フィードロールの周速度差が「0.5(%)」と「1.0(%)」の条件(実施例の条件)に設定してもフィルムに「加熱皺」が発生していることが表4から確認できる。
【0098】
上記前フィードロールの設定温度が「200℃」と高過ぎると、急激な温度変化により前フィードロール上でスパッタリング成膜を行わなくてもフィルムに「加熱皺」が発生してしまうことが分かる。
【0099】
ここで、上記前フィードロールの設定温度について、「20℃」(表1)、「60℃」(表2)、「110℃」(表3)および「200℃」(表4)の4条件が選定された理由は、「20℃」は前フィードロールを温度制御しない室温、「110℃」はスパッタリング成膜中の熱負荷によるフィルム最高温度(成膜時フィルム温度)、また、「60℃」は「20℃」と「110℃」のほぼ中間温度、「200℃」は実用的な前フィードロール(加熱ロール)の最高温度のためである。
【0100】
(4)冷却キャンロールと前フィードロールの周速度差(冷却キャンロールに対し前フィードロールの周速度を遅くした割合)が「2.0(%)」に設定された場合、上記クラウン量が「200μm」と「500μm」、前フィードロールの設定温度が「20℃」、「60℃」、「110℃」の条件と無関係にフィルムに「スリ傷」が発生していることが表1〜表3から確認できる。
【0101】
(5)
図2の表面処理装置を用いて成膜速度の向上が図れる条件は、表3「皺無し最高フィルム搬送速度 8.0(m/分)」の結果から、「前フィードロールの設定温度が110℃」、「冷却キャンロールのクラウン量が200μmと500μm」(実施例の条件)、「冷却キャンロールと前フィードロールの周速度差が0.5%と1.0%」(実施例の条件)であることが確認された。
【0102】
但し、これ等の条件は耐熱性樹脂フィルムの表面状態や厚み、搬送張力、ロール抱き角等により変化することがあるので絶対的な値ではない。
【0103】
(6)また、上記ニップロール65に、
図11に示す周期的溝体(幅拡げ機構)を具備させた場合とさせない場合を比較したところ、周期的溝体(幅拡げ機構)を具備させた場合、皺が発生しない「最高フィルム搬送速度」は約0.5m/分向上することが確認され、また、上記張力センサーロール54についても同様の比較を行ったところ、周期的溝体(幅拡げ機構)を具備させた場合、皺が発生しない「最高フィルム搬送速度」は約1.0m/分向上することが確認された。
【0104】
更に、前フィードロール55と冷却キャンロール56との間に上記周期的溝体(幅拡げ機構)を具備させたゴム製ロール66を組み込んだ場合と組み込まない場合を比較したところ、ゴム製ロール66を組み込んだ場合、皺が発生しない「最高フィルム搬送速度」は約0.5m/分向上することが確認された。
【0105】
これ等結果から、前フィードロールの加熱前、加熱中、加熱後に拘わらず、周期的溝体(幅拡げ機構)を具備する各ロールの作用により、「最高フィルム搬送速度」の向上効果が確認されたが、耐熱性樹脂フィルムの各ロールへの抱き角、フィルム張力、ロール押しつけ圧力等によりその効果は変化する。