特許第5741669号(P5741669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5741669アクリル重合体、硬化性組成物、その硬化物、及びレジスト材料用組成物
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  • 特許5741669-アクリル重合体、硬化性組成物、その硬化物、及びレジスト材料用組成物 図000024
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741669
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】アクリル重合体、硬化性組成物、その硬化物、及びレジスト材料用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/30 20060101AFI20150611BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C08F20/30
   C08L33/06
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-239877(P2013-239877)
(22)【出願日】2013年11月20日
(62)【分割の表示】特願2012-259742(P2012-259742)の分割
【原出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-105335(P2014-105335A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2013年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】申 東美
(72)【発明者】
【氏名】今田 知之
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 孝和
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−211257(JP,A)
【文献】 特開2004−054002(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/132139(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/121195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00 − 20/70
C07B 31/00 − 63/04
C07C 1/00 − 409/44
G03F 7/004 − 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、X、Y、及びZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基または水酸基の何れかであり、tは1または2である。)
で表される分子構造を有する化合物(a)からなり、1分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が0.5〜2.5個の範囲である重合性組成物(A)をラジカル重合させて得られるアクリル重合体。
【請求項2】
前記化合物(a)が下記一般式(2)
【化2】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、X、Y、及びZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基または水酸基の何れかである。)
で表される分子構造を有するものである請求項1記載のアクリル重合体。
【請求項3】
前記重合性組成物(A)が、フェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを反応させることにより、下記一般式(4)
【化3】
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基であり、pは0〜4の整数であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
で表される反応物(γ)を得た後、反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)とを重縮合させて得られるものである請求項1又は2に記載のアクリル重合体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載のアクリル重合体と硬化剤とを含有する硬化性組成物。
【請求項5】
請求項4記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項6】
請求項4記載の硬化性組成物からなるレジスト材料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れるアクリル重合体、これを含む硬化性組成物、その硬化物、及びレジスト材料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器における技術進歩は著しく、集積回路の高密度化、高性能化が急速に進んでいる。プリント配線基板もこれに対応して高密度化、高配線化、部品の表面実装化が進み、従来以上の高精度、高性能が求められるようになってきた。この集積回路の高密度化、高性能化に適合させるため、集積回路の主要材料となるソルダーレジストについて高性能化が検討されてきたが、細密配線を内部に有するビルドアップ基板などではソルダーレジストと封止樹脂との界面でポップコーン現象と呼ばれるクラックを生じる問題があり、さらに高耐熱性のソルダーレジストが求められている。
【0003】
集積回路の高集積化に伴い、線幅20nm以下の超微細パターニングの手法として、ナノインプリント法が注目を浴びている。このナノインプリント法は大別すると、熱ナノインプリント法と光ナノインプリント法とに分けられる。熱ナノインプリント法はガラス転移温度以上に加熱し、軟化した高分子樹脂にモールドをプレスし、冷却後にモールドを離型することで微細構造を基板上の樹脂に転写するので、ナノパターンを比較的安価に形成でき、種々な分野への応用が期待されている。しかしながら、熱ナノインプリント法では、該高分子樹脂を加熱により軟化させる必要がある為、高いガラス転移温度を有する高分子樹脂を使用しにくく、近年、より高い耐熱性を求められる電気・電子分野への応用は困難であった。
【0004】
一方、光照射で組成物を光硬化させる光ナノインプリント法では、プレス時にパターン転写するモールド材料を加熱する必要がなく、室温でのインプリントが可能である。光ナノインプリントに適用される光硬化性樹脂は、ラジカル重合タイプとイオン重合タイプ、さらに、これらのハイブリッドタイプがあり、いずれのタイプの硬化性組成物もナノインプリント用途に用いることが可能であるが、材料の選択範囲が広いことから、一般にラジカル重合型の光硬化性組成物が広く検討されている。
【0005】
ナノインプリント法にて前記高集積の集積回路に加え、液晶ディスプレイの薄膜トランジタ、液晶カラーフィルタ−の保護膜、スペーサー、その他の液晶表示装置用部材の微細加工用途の永久膜を得る際には、高い機械特性、透明性、耐光性、耐熱性が得られるナノインプリント用材料が要求され、特に高い耐熱性に優れる硬化物が得られる材料が要求されている。
【0006】
高い耐熱性を有する硬化物が得られ、ソルダーレジストとして有用な材料として例えば、ビフェニル骨格を有するエポキシ(メタ)アクリレート樹脂が知られているが(例えば、特許文献1参照。)、近年要求されている高い耐熱性を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−157340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、これを含む硬化性組成物、その硬化物、及びレジスト材料用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、例えば、特定構造を有する3官能フェノールの水酸基の一部がラジカル重合性不飽和基と置換した構造を有するラジカル硬化性化合物を重合させて得られるアクリル重合体は非常に高い耐熱性を有すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【0011】
【化1】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、X、Y、及びZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基または水酸基の何れかであり、tは1または2である。)
で表される分子構造を有する化合物(a)からなり、1分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が0.5〜2.5個の範囲である重合性組成物(A)をラジカル重合させて得られるアクリル重合体を提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、前記アクリル重合体と硬化剤とを含有する硬化性組成物を提供するものである。
【0013】
更に、本発明は、前記硬化性組成物を硬化させてなる硬化物を提供するものである。
【0014】
更に、本発明は、前記硬化性組成物からなるレジスト材料用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクリル重合体は、非常に高いレベルの耐熱性を有する。したがって、本発明のアクリル重合体は、高い耐熱性が要求されるソルダーレジスト用の材料、ナノインプリント用の材料として用いることができる。また、本発明のアクリル重合体は硬化剤との併用により熱硬化性を有し、光造形や熱造形が可能な為、熱ナノインプリント法の鋳型用材料としても用いることができる。ここで、熱ナノインプリント法でのレジストに用いる熱可塑性樹脂として、高い耐熱性を有するポリフェニレンエーテル(PPE)等のガラス転移温度(Tg)が200℃を超える電気・電子材料用エンジニアリングプラスチックを用いた場合は、該プラスチックの軟化処理温度は300℃以上となるが、本発明のアクリル重合体は非常に高い耐熱性を有する。その為、鋳型用材料として用いることができる。
【0016】
また、本発明のアクリル重合体はベンゼン環を高い密度で有するため、より剛直な骨格となり、その硬化物は高い耐熱性を有する。さらに、その剛直な骨格に起因して、その硬化物は高い機械特性(耐衝撃性)、高い耐水性、特に高い硬度も有する。したがって、本発明のアクリル重合体は高い表面硬度が要求されるテレビ、ビデオカメラ、コンピュータ、携帯電話等の液晶ディスプレイの偏光板に用いられているトリアセチルセルロール(TAC)等のフィルム用ハードコート材;液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイの表面を保護する透明保護フィルム用ハードコート材;光学レンズ用ハードコート材等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、合成例1で得られた重合性組成物(A1)の1H−NMRスペクトルのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のアクリル重合体は、下記一般式(1)
【0019】
【化2】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、X、Y、及びZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基または水酸基の何れかであり、tは1または2である。)
で表される分子構造を有する化合物(a)からなり、1分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が0.5〜2.5個の範囲である重合性組成物(A)をラジカル重合させて得られるものである。
【0020】
前記一般式(1)中のR、R、及びRは、それぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロプル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、オクチル基等が挙げられる。これらのアルキル基はアクリル重合体に高い耐熱性を与える。これらのアルキル基の中でも分子運動抑制により分子に高い剛直性を与え、耐熱性の高い化合物となること、フェノール性ベンゼン核への電子供与性を付与できること、工業的に入手が容易であることから、R、R、Rは何れもメチル基が好ましい。
【0021】
また、前記一般式(1)中のm及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、また、pは0〜4の整数である。中でも、反応性の高さ、反応設計の容易さ、工業的な原料入手の容易さ等の理由からm及びnはそれぞれ1又は2であることがより好ましく、pは0〜2の整数であることが好ましい。
【0022】
前記一般式(1)中のX、YおよびZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、又は水酸基の何れかである。アクリロイルオキシ基とメタアクリロイルオキシ基との違いについて、アクリロイルオキシ基の場合には硬化速度が高いことから基材との密着性が高いアクリル重合体が得られる。一方、メタアクリロイルオキシ基の場合には硬化収縮が小さいことから基材との密着性が高いアクリル重合体が得られる。
【0023】
前記一般式(1)中のtは1又は2であり、一般式(1)中のtが2の場合、分子中に存在する2つのZは同一でも良いし、互いに異なっても良い。工業的な原料入手の容易さ、反応設計の容易さから、tは1であることが好ましい。
【0024】
また、前記重合性組成物(A)の一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数は0.5〜2.5個の範囲である。一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数とは、重合性組成物(A)中の個々の化合物(a)が有する(メタ)アクリロイル基の数を1分子あたりの数に平均化した値のことである。即ち、本発明のアクリル重合体は、重合性組成物(A)の一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が0.5〜2.5の範囲であれば、前記一般式(1)で表される化合物(a)のうち単一のものを用いて製造されるものであっても良いし、前記一般式(1)で表される化合物(a)のうち複数種を併用して製造されるものであっても良い。
【0025】
前記重合性組成物(A)の一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が0.5未満の場合、重合性基が少なく、かつ、相対的に水酸基の数が多くなることから、本発明のアクリル重合体の耐熱性が十分なものとならない。
【0026】
一方、前記重合性組成物(A)の一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が2.5を超える場合、アクリル重合体が高分子量化しすぎると共に水酸基の数が少なくなることから、硬化剤との反応性が低下し、耐熱性が十分なものとならない。
【0027】
前記重合性組成物(A)の中でも、得られるアクリル重合体が耐熱性に優れるものとなることから、一分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数が1〜2個の範囲であるものが好ましい。
【0028】
前記一般式(1)中のX、Y及びZの結合位置は、耐熱性の高い硬化物が得られることから、3つの芳香環を結節するメチン基に対しパラ位であることが好ましい。したがって、前記一般式(1)で表される化合物(a)は、下記一般式(2)
【0029】
【化3】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、X、Y、及びZはそれぞれ独立してアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基または水酸基の何れかである。)
で表される化合物であることがより好ましい。
【0030】
前記一般式(1)で表される化合物(a)は、具体的には下記構造式(1−1)〜(1−66)の何れかで表される分子構造を有するものが挙げられる。
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】

【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
【化8】
【0036】
【化9】
【0037】
これら化合物(a)の中でも、分子の対称性に優れ、耐熱性の高いアクリル重合体が得られることから、前記一般式(1)中のX及びYが水酸基であり、Zが(メタ)アクリロイル基であり、かつ、tが1である、下記一般式(1’)
【0038】
【化10】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数である。また、Rは水素原子又はメチル基である。)
で表される分子構造を有するものが好ましい。
【0039】
本発明で用いる重合性組成物(A)は、例えば、以下の方法により好ましく製造することができる。
【0040】
方法1:アルキル置換フェノール(a1)とフェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)とを重縮合することにより、下記一般式(3)
【0041】
【化11】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜4の整数であり、tは1または2である。)
で表される化合物(α)を得た後、該化合物(α)に(メタ)アクリル酸ハライド(β)を反応させる方法。
【0042】
方法2:フェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを反応させることにより、下記一般式(4)
【0043】
【化12】
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基であり、pは0〜4の整数であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
で表される反応物(γ)を得た後、反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)とを反応させる方法。
【0044】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方又は両方をいう。
【0045】
前記アルキル置換フェノール(a1)は、フェノールの芳香環に結合している水素原子の一部又は全部がアルキル基に置換している化合物であり、一種類を単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。このアルキル基は、炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロプル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、オクチル基等が挙げられる。中でも、得られるアクリル重合体が耐熱性の高いものとなることからメチル基置換フェノールが好ましく、具体的には、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、3,4−キシレノール、2,4−キシレノール、2,6−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等が挙げられる。また、更に耐熱性に優れるアクリル重合体が得られることから、2,5−キシレノール、2,6−キシレノールが特に好ましい。
【0046】
前記フェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)とは、例えば、2−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−ヒドロキシベンズアルデヒド、4−ヒドロキシベンズアルデヒド等のヒドロキシベンズアルデヒド;2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド等のジヒドロキシベンズアルデヒド;2−ヒドロキシ−4−メチルベンズアルデヒド、2−ヒドロキシ−5−メチルベンズアルデヒド、2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒド、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒド等のアルキル基含有ヒドロキシベンズアルデヒド等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。中でも、工業的入手の容易さ、耐熱性とアルカリ溶解性のバランスに優れることから、ヒドロキシベンズアルデヒドが好ましく、4−ヒドロキシベンズアルデヒド、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒドがより好ましい。
【0047】
前記(メタ)アクリル酸ハライド(β)のハライドは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンが挙げられ(メタ)アクリル酸ハライドの具体例としては、(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリル酸ブロマイド、(メタ)アクリル酸アイオダイド等が挙げられる。中でも、反応性が高く、入手が容易であることから、(メタ)アクリル酸クロライドが好ましい。
【0048】
前記方法1は、具体的には、下記の3つの工程を経る方法が挙げられる。
【0049】
(工程1−1)
アルキル置換フェノール(a1)とフェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)とを酸触媒存在下で重縮合することにより、反応溶液中に上記一般式(3)で表される化合物(α)を含む粗生成物を得る。
【0050】
(工程1−2)
工程1−1で得られた化合物(α)を反応溶液中から回収(単離)する。
【0051】
(工程1−3)
工程1−2で単離した化合物(α)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを塩基存在下で反応させる。
【0052】
前記工程1−1で用いる酸触媒は、例えば、酢酸、シュウ酸、硫酸、塩酸、フェノールスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸亜鉛、酢酸マンガン等が挙げられる。これらの酸触媒は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。これらの中でも、触媒活性に優れる点から硫酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。なお、酸触媒はアルキル置換フェノール(a1)とフェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)との反応前に加えても、反応途中で加えても構わない。
【0053】
前記工程1−1は必要に応じて有機溶媒の存在下で行っても良い。ここで用いる溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等のポリオール;2−エトキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。これらの中でも、得られる化合物の溶解性に優れる点から2−エトキシエタノールが好ましい。
【0054】
工程1−1において、アルキル置換フェノール(a1)とフェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)とを反応させる際の温度は、例えば、60〜140℃である。また、反応時間は、例えば、0.5〜100時間である。
【0055】
前記工程1−1におけるアルキル置換フェノール(a1)とフェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)との仕込み比率[(a1)/(a2)]は、未反応のアルキル置換フェノールの除去が容易なこと、生成物の収率が高く化合物(α)を高純度で得られることから、モル比で1/0.2〜1/0.5の範囲が好ましく、1/0.25〜1/0.45の範囲がより好ましい。
【0056】
前記工程1−1で得られる化合物(α)は、例えば、下記一般式(3−1)〜(3−10)の何れかで表される化合物が例示できる。
【0057】
【化13】
【0058】
前記工程1−1で得られる反応溶液中には化合物(α)とともに前記アルキル置換フェノール(a1)や芳香族アルデヒド(a2)等の未反応物が残存している可能性がある。また、前記一般式(3)で表される構造以外の分子構造を有する成分を含有している可能性もある。そこで、工程1−2のような単離操作を行うことにより、化合物(α)の純度をできるだけ高めておく事が好ましい。
【0059】
(メタ)アクリロイル酸ハライド(β)と反応させる化合物(α)の純度は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、94%以上が更に好ましく、98%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。化合物(α)の純度はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のチャートにおいて面積比から求めることができる。
【0060】
本発明において、GPCの測定条件は下記の通りである。
【0061】
[GPCの測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」
カラム:昭和電工株式会社製「Shodex KF802」(8.0mmФ×300mm)
+昭和電工株式会社製「Shodex KF802」(8.0mmФ×300mm)
+昭和電工株式会社製「Shodex KF803」(8.0mmФ×300mm)
+昭和電工株式会社製「Shodex KF804」(8.0mmФ×300mm)
カラム温度:40℃
検出器: RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.30」
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/分
試料:樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの
注入量:0.1ml
標準試料:下記単分散ポリスチレン
【0062】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
【0063】
前記工程1−2において、化合物(α)から前記アルキル置換フェノール(a1)や芳香族アルデヒド(a2)等の未反応物等の不純物を除去することにより、得られる重合性組成物(A)は結晶性の高いものとなり、結果、これを用いて得られるアクリル重合体はガラス転移温度が400℃以上と従来の2倍以上の耐熱性を有するものとなる。
【0064】
前記工程1−2は化合物(α)を単離する工程であり、例えば、工程1−1終了後の反応溶液を化合物(α)が不溶又は難溶である貧溶媒(S1)に投入し、得られた沈殿物を濾別する。次いで、化合物(α)の溶解性が高く前記貧溶媒(S1)にも混和する溶媒(S2)に先で得た沈殿物を再溶解させる。更に、この溶液を貧溶媒(S1)に投入し、沈殿物として高純度の化合物(α)を濾別する方法が挙げられる。この際に用いる前記貧溶媒(S1)としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、エトキシエタノール等のモノアルコール;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヒキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これらの貧溶媒(S1)の中でも、工程1−1で用いた酸触媒の溶解性が高く、化合物(α)の単離と同時に該酸触媒の除去も効率的に行えることから、水、メタノール、エトキシエタノールが好ましい。
【0065】
一方、前記溶媒(S2)としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等のポリオール;2−エトキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンなどが挙げられる。前記(S2)としては、前記貧溶媒(S1)として水やモノアルコールを用いた場合には、アセトンが好ましい。なお、前記貧溶媒(S1)及び溶媒(S2)は、それぞれ1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。
【0066】
工程1−3に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩;トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;ピリジン等が挙げられる。塩基の中でも化合物(α)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)との反応後、反応系からの除去が容易であることから炭酸カリウム、3級アミンが好ましく、中でも、炭酸カリウム、トリエチルアミンがより好ましい。
【0067】
前記工程1−3において、必要に応じて溶媒を用いても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等のポリオール;2−エトキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの溶媒の中でも、得られる化合物の溶解性に優れる点から、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0068】
工程1−3において、化合物(α)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを反応させる際の反応温度としては、例えば、20〜80℃である。また、反応時間は、例えば、1〜30時間である。
【0069】
工程1−3における化合物(α)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)との仕込み比率は、目的とする重合性組成物(A)中の化合物(a)の1分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数を0.5〜2.5個の範囲に調整し易いことから、化合物(α)が有するフェノール性水酸基のモル数をα’とした場合、両者のモル比[(α’)/(β)]が1/0.5〜1/3の範囲であることが好ましく、1/1〜1/2の範囲であることがより好ましい。
【0070】
本発明で用いる重合性組成物(A)を製造する前記方法2は、具体的には、下記の3つの工程を経る方法が挙げられる。
【0071】
(工程2−1)
フェノール性水酸基含有芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを塩基存在下で反応させることにより、前記一般式(4)で表される反応物(γ)を含む粗生成物を得る。
【0072】
(工程2−2)
工程2−1で得られた反応物(γ)を反応溶液中から回収(単離)する。
【0073】
(工程2−3)
工程2−2で単離した反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)とを酸触媒存在下で反応させる。
【0074】
前記工程2−1で用いる塩基は、例えば、前記製法1の工程1−3で例示した化合物を用いることができる。塩基は1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。塩基の中でも芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)との反応後、反応系からの除去が容易であることから炭酸カリウム、3級アミンが好ましく、中でも、炭酸カリウム、トリエチルアミンがより好ましい。
【0075】
前記工程2−1は必要に応じて有機溶媒中で行っても良い。溶媒としては、例えば、前記製法1の工程1−1で用いる溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの溶媒の中でも、得られる化合物の溶解性に優れる点から、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0076】
工程2−1において、芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)とを反応させる際の反応温度としては、例えば、20〜100℃である。また、反応時間は、例えば、1〜30時間である。
【0077】
前記工程2−1における芳香族アルデヒド(a2)と(メタ)アクリル酸ハライド(β)との仕込み比率[(a2)/(β)]は、反応物(γ)を高収率で得られることから、芳香族アルデヒド(a2)が有する水酸基のモル数と(メタ)アクリル酸ハライド(β)が有するハロゲン原子のモル数との比が1/1〜1/5の範囲であることが好ましく、1/1〜1/3の範囲であることがより好ましい。
【0078】
前記工程2−1で得られる反応物(γ)は、例えば、下記一般式(4−1)〜(4−4)で表される化合物が例示できる。
【0079】
【化14】
【0080】
前記工程2−1で得られる反応溶液中には反応物(γ)とともに前記芳香族アルデヒド(a2)や(メタ)アクリル酸ハライド(β)等の未反応物が残存している可能性がある。また、前記一般式(4)で表される構造以外の分子構造を有する成分を含有している可能性もある。そこで、工程2−1のような単離操作を行うことにより、反応物(γ)の純度をできるだけ高めておく事が好ましい。
【0081】
アルキル置換フェノール(a1)と反応させる反応物(γ)の純度は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、94%以上が更に好ましく、98%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。反応物(γ)の純度は前記の条件で行うGPCのチャートにおいて面積比から求めることができる。
【0082】
前記工程2−2において、反応物(γ)から前記芳香族アルデヒド(a2)や(メタ)アクリル酸ハライド(β)等の未反応物等の不純物を除去することにより得られる重合性組成物(A)は結晶性の高いものとなり、結果、これを重合させて得られるアクリル重合体はガラス転移温度が400℃以上と従来の2倍以上の耐熱性を有するものとなる。
【0083】
前記工程2−2において反応物(γ)の純度を高める方法は、例えば、反応溶液中に固形分として存在する反応物(γ)を含む粗生成物を濾過により回収し、回収物を反応物(γ)が溶解する溶剤に加え溶解させた後、更に水を加えて反応物(γ)が溶解している有機層と水層とを分離し、有機層から反応物(γ)を回収する方法が挙げられる。ここで用いる前記反応物(γ)が溶解する溶剤は、例えば、クロロホルム、トルエン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。なかでも高収量で目的の反応物(r)が得られることからクロロホルムが好ましい
【0084】
工程2−3では工程2−2で得られた反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)とを酸触媒存在下で反応させる。ここで用いるアルキル置換フェノール(a1)と酸触媒は、例えば、前記製法1で例示した各種の化合物が挙げられる。また、工程2−3は必要に応じて有機溶媒中で行っても良く、例えば、前記製法1−1で用いる溶媒等を用いることができる。
【0085】
工程2−3において、反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)とを反応させる際の反応温度は、例えば、20〜80℃である。また、反応時間は、例えば、1〜30時間である。
【0086】
工程2−3における反応物(γ)とアルキル置換フェノール(a1)との仕込み比率は、目的とする重合性組成物(A)中の化合物(a)の1分子あたりの(メタ)アクリロイルオキシ基の平均数を0.5〜2.5個の範囲に調整し易いことから、反応物(γ)が有するアルデヒド基のモル数をγ’とした場合、両者のモル比[(γ’)/(a1)]1/2〜1/5の範囲が好ましく、1/2〜1/4の範囲がより好ましい。
【0087】
本発明のアクリル重合体は、前記重合性組成物(A)をラジカル重合させて得られるものであり、例えば、前記重合性組成物(A)に重合開始剤を加えて、活性エネルギー線を照射するか、熱を加えて硬化させることにより得ることができる。
【0088】
前記重合性組成物(A)に活性エネルギー線を照射してラジカル重合により硬化させる場合には、重合開始剤として、分子内開裂型光重合開始剤又は水素引き抜き型光重合開始剤を用いる。
【0089】
前記分子内開裂型光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系化合物;1,1’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド等のアゾ化合物;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル等が挙げられる。
【0090】
前記水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物;ミヒラ−ケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系化合物;10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
【0091】
上記の光重合開始剤の中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノンが好ましく、特に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。また、これらの光重合開始剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0092】
前記光重合開始剤の使用量は、重合性組成物(A)100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量部がさらに好ましい。なお、活性エネルギー線として後述する電子線を用いる場合には光重合開始剤は不要である。
【0093】
重合性組成物(A)の硬化に用いる活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線が挙げられる。これらの活性エネルギー線を発生させるエネルギー源又は硬化装置としては、例えば、殺菌灯、紫外線灯(ブラックライト)、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、ArFエキシマレーザー、紫外線LED、自然光等を光源とする紫外線、又は走査型、カーテン型電子線加速器による電子線等が挙げられる。
【0094】
また、重合性組成物(A)を熱ラジカル重合により硬化させる場合には、熱ラジカル重合開始剤を用いる。前記熱ラジカル重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート等の有機過酸化物;1,1’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの熱ラジカル重合開始剤の中でも、ベンゾイルパーオキサイド、1,1’−アゾビスイソブチロニトリルが好ましい。また、これらの熱ラジカル重合開始剤は単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0095】
前記熱ラジカル重合開始剤の使用量は、重合性組成物(A)100質量部に対し0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量部がさらに好ましい。
【0096】
このようにして得られるアクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、溶剤溶解性に優れることから2,000〜60,000が好ましく、5,000〜30,000がより好ましい。
【0097】
本発明の硬化性組成物は前記アクリル重合体と硬化剤とを含有するものであり、硬化剤は前記アクリル重合体と硬化反応し得るものであれば特に限定されず、具体的には、アルデヒド化合物等が挙げられる。ここで用いるアルデヒド化合物は、例えば、芳香族アルデヒド、脂肪族アルデヒド等が挙げられ、芳香族アルデヒドとしては、例えば、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、桂皮アルデヒド、α−ナフトアルデヒド等が挙げられる。脂肪族アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレリンアルデヒド、ピバリンアルデヒド、カプロンアルデヒド、ヘプトアルデヒド、カプリルアルデヒド、ペラルゴンアルデヒド、カプリンアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ラウリンアルデヒド、トリデシルアルデヒド、ステアリンアルデヒド、グリオキザ−ル、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、本発明のアクリル重合体との反応性が良好であることから脂肪族アルデヒドが好ましくホルムアルデヒドがより好ましい。
【0098】
前記アクリル重合体と前記アルデヒド化合物との反応は、例えば、60〜100℃で2〜20時間行うことが出来る。
【実施例】
【0099】
以下に具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、化合物の同定に用いたNMRスペクトルの測定方法は下記の通りである。
【0100】
[1H−NMRスペクトル測定方法]
日本電子株式会社製「JNM−GSX500(500MHz,DMSO−d6,TMS)」を用いて構造解析を行った。
【0101】
製造例1 重合性組成物(A1)の製造
冷却管を設置した100mlの2口フラスコに2,5−キシレノール7.32g(60mmol)、4−ヒドロキシベンズアルデヒド2.44g(20mmol)を仕込み、2−エトキシエタノール20mlに溶解させた。氷浴中で冷却しながら硫酸2mlを添加した後、100℃のオイルバス中で2時間加熱攪拌し反応させた。反応後、得られた溶液に水を加えて再沈殿操作を行い粗生成物を得た。粗生成物をアセトンに再溶解し、さらに水で再沈殿操作を行った後、得られた生成物を濾別して真空乾燥し、下記に示される淡褐色結晶の化合物(α1)5.93gを得た。粗生成物における化合物(α1)の純度はGPCの面積比で87質量%であり、最終的に得られた化合物(α1)の純度は99質量%であった。
【0102】
【化15】
【0103】
冷却管を設置した100mlの2口フラスコに上記化合物(α1)1.74g(5mmol)、炭酸カリウム4.10g(30mmol)、テトラヒドロフラン10mlを仕込み攪拌を開始した。氷浴中で冷却しながらアクリル酸クロライド0.90g(10mmol)を30分かけて滴下した後、70℃のオイルバス中で12時間加熱攪拌し反応させた。反応後、得られた溶液から固形分を濾別し、濾液をクロロホルム30mlと混合し、水50mlで3回洗浄を行った。下層である有機層を分取後、硫酸ナトリウム脱水し、溶媒を減圧留去して白色針状結晶の重合性組成物(A1)1.79gを得た。1H−NMRの各ピークより同定し、1分子あたりのアクリロイルオキシ基の平均数が1.0の目的化合物を得たことを確認した。重合性組成物(A1)が含有する目的化合物の代表的な構造を下記に示す。また、1H−NMRスペクトルのチャート図を図1に示す。
【0104】
【化16】
【0105】
製造例2 重合性組成物(A2)の製造
冷却管を設置した100mlの2口フラスコに4−ヒドロキシベンズアルデヒド2.44g(20mmolg)、炭酸カリウム8.20g(60mmol)、テトラヒドロフラン40mlを仕込み攪拌を開始した。氷浴中で冷却しながらアクリル酸クロライド1.80g(20mmol)を30分で滴下しながら添加した後、70℃のオイルバス中で12時間加熱攪拌し反応させた。反応後、得られた溶液から固形分を濾別し、濾液をクロロホルム120mlと混合して水200mlで3回洗浄を行った。下層である有機層を分取後、硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去して白色針状結晶の化合物(γ1)2.38gを得た。1H−NMRの各ピークより同定し下記に示される目的化合物を得たことを確認した。
【0106】
【化17】
【0107】
冷却管を設置した100mlの2口フラスコに2,5−キシレノール3.66g(30mmol)と化合物(γ1)2.07g(15mmol)を仕込み、2−エトキシエタノール20mlに溶解させた。氷浴中で冷却しながら硫酸1mlを添加した後、100℃のオイルバス中で2時間加熱攪拌し反応させた。反応後、得られた溶液に水を加えて再沈殿操作を行い、粗生成物を得た。粗生成物をアセトンに再溶解し、さらに水で再沈殿操作を行った後、得られた生成物を濾別して真空乾燥し、淡褐色結晶の重合性組成物(A2)2.42gを得た。1HNMRの各ピークより同定し、平均置換数1.0の目的化合物を得たことを確認した。目的化合物の構造を下記に示す。
【0108】
【化18】
【0109】
実施例1 アクリル重合体(1)の製造
前記製造例1で得た重合性組成物(A1)0.5gと、重合開始剤(チバ・スペシャリティ株式会社製「イルガキュア184」)0.05gと、テトラヒドロフラン0.5gをシュレンク管に入れ、窒素雰囲気で凍結乾燥を行った。シュレンク管を密閉し、340nmのバンドパスフィルターを装着した高圧水銀灯で3時間光を照射することにより重合性組成物(A1)をラジカル重合させてアクリル重合体(1)を含む生成物を得た。この生成物をメタノールに溶解させて再沈殿操作を行い、得られた沈殿物を濾過して真空乾燥を行い、アクリル重合体(1)0.35gを得た。
【0110】
実施例2 アクリル重合体(2)の製造
重合性組成物(A1)の代わりに前記製造例2で得た重合性組成物(A2)を用いた以外は実施例1と同様にしてアクリル重合体(2)を得た。
【0111】
比較製造例1 比較対照用ラジカル硬化性化合物(1’)の製造
フェノールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量190g/eq)150gとアクリル酸30g及び溶剤としてプロピレングリコールモノメチルアセテート80gを反応容器に仕込み、100℃で5時間反応させてラジカル硬化性化合物(1’)174gを得た。
【0112】
比較製造例2 比較対照用ラジカル硬化性化合物(2’)の製造
クレゾールノボラック樹脂(エポキシ当量220g/eq)276gとアクリル酸67g及び溶剤としてプロピレングリコールモノメチルアセテート125gを反応容器に仕込み、100℃で6時間反応させてラジカル硬化性化合物(2’)290gを得た。
【0113】
実施例3、4
以下の手順で硬化物を作成し、その耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
硬化物の作成
冷却管を設置した100mlの2口フラスコに実施例1又は2で得たアクリル重合体(1)又は(2)0.35g、パラホルムアルデヒド0.05g、2−エトキシエタノール10mlを仕込み攪拌を開始した。氷浴中で冷却しながら硫酸0.1mlを添加した後、70℃のオイルバス中で4時間加熱攪拌し反応させた。得られた溶液に水を加えて再沈殿操作を行い、粗生成物を得た。粗生成物をアセトンに再溶解し、さらに水で再沈殿操作を行った後、得られた生成物を濾別して真空乾燥し、硬化物(1)又は(2)を得た。
【0115】
耐熱性の評価
得られた硬化物(1)、(2)の耐熱性をガラス転移温度にて評価した。ガラス転移温度の測定は、示差走査熱量計(株式会社TAインスツルメント製「DSC Q100」)を用い、窒素雰囲気下、温度範囲25〜450℃、昇温温度10℃/分の条件で走査を行う事で行った。
【0116】
比較例1、2
以下の手順で硬化物を作成し、その耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0117】
硬化物の作成
比較製造例1又は2で得たラジカル硬化性化合物(1’)又は(2’)0.5gと、重合開始剤(チバ・スペシャリティ株式会社製「イルガキュア184」)0.05gと、テトラヒドロフラン0.5gをシュレンク管に入れ、窒素雰囲気で凍結乾燥を行った。この反応器を密閉し、340nmのバンドパスフィルターを装着した高圧水銀灯で3時間光を照射した。得られた内容物をメタノールに溶解させ再沈殿操作を行い、得られた沈殿物を濾過して真空乾燥し、比較対照用硬化物(1’)又は(2’)を得た。
【0118】
耐熱性の評価
実施例3、4と同様にして、硬化物(1’)、(2’)の耐熱性を評価した。
【0119】
【表1】
図1