特許第5741982号(P5741982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741982
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】耐熱性に優れた複合多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/30 20060101AFI20150611BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20150611BHJP
   H01M 2/16 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
   B32B5/30
   C08J9/36CES
   !H01M2/16 L
   !H01M2/16 P
   !H01M2/16 M
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-531563(P2014-531563)
(86)(22)【出願日】2013年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2013070592
(87)【国際公開番号】WO2014030507
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2014年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-183822(P2012-183822)
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和之
(72)【発明者】
【氏名】榎木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】大木 義之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎吾
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−067359(JP,A)
【文献】 特開2011−154936(JP,A)
【文献】 特開2012−003938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 9/00−9/42
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーとバインダーとからなる耐熱層と、ポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜とで構成された複合多孔質膜であって、バインダーの重量平均分子量(Mw)が300, 000以上、1,000,000以下で、且つ分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であり、無機フィラーの一次粒子径が5nm〜100nmであることを特徴とする複合多孔質膜。
【請求項2】
耐熱層を構成する無機フィラーが、アルミナ、ベーマイト、シリカ及びチタニアよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の複合多孔質膜。
【請求項3】
耐熱層を構成する無機フィラーが、複数の一次粒子の集合体で構成されたものであり、集合体の平均粒子径が0.3μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合多孔質膜。
【請求項4】
複合多孔質膜を構成する微多孔膜が、乾式一軸延伸法により作製された請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合多孔質膜。
【請求項5】
微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合多孔質膜に関する。更に詳しくは、高温雰囲気下における収縮の抑制に適した強度を有する耐熱性に優れた複合多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
エアフィルター、バグフィルター及び液濾過用フィルター等のフィルター、並びに二次電池及びキャパシター等に用いられるセパレータに対して、高分子材料を用いた微多孔膜が広く使用されている。一般に微多孔膜は織布及び不織布等の素材と比べ高強度であり、また緻密性に優れるため、前記用途の中でも、特に、精密濾過膜及び限外濾過膜、並びにリチウムイオン二次電池用セパレータとして幅広く使用されており、中でもポリオレフィン系樹脂からなる微多孔膜は耐薬品性、耐酸化性に優れるため、最も使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に用いる場合、高容量化に伴う過充電や短絡による急激な温度上昇を防止するため、ポリエチレン微多孔膜の様に120℃付近で溶融により微多孔を閉塞させ、内部インピーダンスを増大させて電池反応の進行を阻止するシャットダウン機能や、ポリプロピレン微多孔膜の様に150℃付近でもメルトダウンを起こさず短絡を防止する機能、或いは両者を積層させてシャットダウン機能とメルトダウン防止を兼ねた微多孔膜を用いることで安全性の向上を図っている。
【0004】
しかし、ポリプロピレンの溶融温度である160℃を超えると、メルトダウンによる短絡を防ぐことは難しく、もし短絡した場合は急激な発熱が発生する。200℃以上になると、正極の熱分解により放出された酸素と有機溶媒が激しく反応、熱暴走による電池の破裂、発火を引き起こす。このため、ポリプロピレンの溶融温度以上であってもメルトダウンによる短絡を防止できる様、これまで様々な試みが提案されてきた。
【0005】
微多孔膜の耐熱性を向上させる試みとしては、例えば、150℃における熱収縮率が10%以上の樹脂多孔質膜と、前記樹脂多孔質膜表面に形成され、耐熱性微粒子を70体積%以上含有する耐熱多孔質層とを有する耐熱セパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、無機フィラーを少なくとも含有する多孔質膜(A)と、融点が150℃未満のポリオレフィンと融点150℃以上のポリオレフィンとの混合物である多孔質膜(B)を一体化させ、150℃における熱収縮率を5%以下とする電池用セパレータも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献1、2の手法では、前記シャットダウン機能を維持した上で、より高温の条件でもシャットダウンを維持できる手法ではあるものの、ポリプロピレンの溶融温度である160℃を超えた場合、ポリオレフィン層の溶融収縮が強くなるため、例えば180℃付近において電極間の短絡を防止することが困難となってくる。
【0007】
このため、微多孔膜の中でも、耐熱収縮性が比較的良好である乾式一軸延伸法により製造された突刺強度が大きくとも3Nである微多孔膜に、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体とする多孔質層を付与した耐熱セパレータ(例えば、特許文献3参照)や、同じく乾式一軸延伸法により製造された微多孔膜に、耐熱温度が150℃以上の針状フィラーを主体とする多孔質層を付与した耐熱セパレータ(例えば、特許文献4参照)等も提案されている。
【0008】
特許文献3、4の手法では、高温下の収縮抑制に優れる一方、延伸法による製法の特性上、微多孔膜表面におけるポリオレフィンの結晶、配向度が高くなる傾向になる。このため、無機フィラーとの密着性が低下し、製造工程及び使用時において無機フィラーの脱落を生じる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−123996号公報
【特許文献2】特開2010−123465号公報
【特許文献3】特開2011−154936号公報
【特許文献4】特開2012−003938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようなことから、本発明の課題は、ポリオレフィン樹脂の溶融温度を超えても熱収縮を十分に抑制し、且つ微多孔膜と耐熱層との密着性を高め、無機フィラーの脱落を抑えた複合多孔質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]無機フィラーとバインダーとからなる耐熱層と、ポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜とで構成された複合多孔質膜であって、無機フィラーの一次粒子径が5nm〜100nmであることを特徴とする複合多孔質膜。
[2]耐熱層を構成する無機フィラーが、アルミナ、ベーマイト、シリカ及びチタニアよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の複合多孔質膜。
[3]耐熱層を構成する無機フィラーが、複数の一次粒子の集合体で構成されたものであり、集合体の平均粒子径が0.3μm以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の複合多孔質膜。
[4]複合多孔質膜を構成する微多孔膜が、乾式一軸延伸法により作製された[1]〜[3]のいずれか1つに記載の複合多孔質膜。
[5]微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンである[1]〜[4]のいずれか1つに記載の複合多孔質膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合多孔質膜は、一次粒子径が5nm〜100nmである無機フィラーとバインダーとからなる耐熱層と、ポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜とで構成することにより、溶融温度以上に上昇する条件であっても熱収縮を十分に抑制し、且つ微多孔膜と耐熱層との密着性を高め、無機フィラーの脱落も抑えることができ、又生産性の向上に寄与することができる。特に二次電池用セパレータに用いた際、電極間の短絡防止を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1と同じ構成の複合多孔質膜を耐熱層側より撮影したSEM写真である。
図2】実施例1と同じ構成の複合多孔質膜をMD断面より撮影したSEM写真である。
図3】150℃耐熱性を測定する際に実施するプロット図である。
図4】テープ密着性の測定を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、一次粒子径が5nm〜100nmである無機フィラーとバインダーとからなる耐熱層と、ポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜とから構成されてなる複合多孔質膜である。
【0015】
本発明で用いる微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂で構成されたものである。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、これらの共重合体、又は単独重合体あるいは共重合体を二種以上ブレンドして用いても構わない。また、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリメチルペンテン、1,2−ポリブタジエン及び1,4−ポリブタジエン等のポリオレフィン樹脂も用いることができる。ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は微多孔膜を製造することができるものならば如何なるものでもよい。
【0016】
本発明において使用されるポリプロピレン樹脂は主としてプロピレン重合単位からなる結晶性の重合体であり、好ましくはプロピレン重合単位が全体の90重量%以上であるポリプロピレンである。具体的には、プロピレンの単独重合体であってもよく、また、プロピレン重合単位90重量%以上とエチレンまたはα−オレフィン10重量%以下とのランダムまたはブロック共重合体であってもよい。結晶性ポリプロピレンが共重合体の場合に使用されるオレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。このうち、プロピレン単独重合体を用いるのが、製造コストの点から好ましい。
【0017】
本発明において使用されるポリエチレン樹脂は、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレン以外の単量体との二元以上のランダムまたはブロック共重合体及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。なお、本発明において主成分とは最も多い成分をいう。前記エチレン以外の単量体としては、特に限定されないが、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜12のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、一酸化炭素等が例示できる。これらは一種でも二種以上の併用でもよい。
【0018】
また本発明のポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂は、通常のポリオレフィン樹脂に使用される酸化防止剤、中和剤、無機充填剤及びブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、α晶造核剤、界面活性剤等を必要に応じて配合することができる。
【0019】
酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、またはトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジフォスフォナイト等のリン系酸化防止剤等が例示できる。
【0020】
中和剤としてはステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸塩類が例示でき、無機充填剤及びブロッキング防止剤としては炭酸カルシウム、シリカ、ハイドロタルサイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が例示でき、滑剤としてはステアリン酸アマイド等の高級脂肪酸アマイド類が例示でき、帯電防止剤としてはグリセリンモノステアレート等の脂肪酸エステル類が例示できる。
【0021】
α晶造核剤としては、タルク、アルミニウムヒドロキシ−ビス(4−t−ブチルベンゾエート)、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(2’,4’−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(3’,4’−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ビス(p−クロルベンジリデン)ソルビトール、ナトリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウムジヒドロキシ−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等の公知のα晶造核剤が挙げられる。これらは単独使用でも、2種以上の併用でもよい。
【0022】
上記ポリオレフィン樹脂を用いた微多孔膜の製造方法としては、溶融樹脂をシート化した後、熱処理によって積層ラメラ構造を形成させ、一軸または二軸延伸によって結晶界面の剥離により微多孔部を形成させる乾式法や、樹脂と溶剤を加熱溶融して、ミクロ相分離を保った状態でシート化した後、溶剤を抽出除去して一軸または二軸延伸により微多孔部を形成させる湿式法が代表的な手法として挙げられる。本発明では特に、乾式一軸延伸法により製造されたものが好ましく用いられる。
【0023】
本発明の耐熱層に用いる無機フィラーとしては、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、電気化学的に安定であれば特に限定されない。具体例としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム等の酸化物系セラミックスや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物系セラミックス、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、またはベーマイト、タルク、カオリン、ゼオライト、アパタイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の鉱物資源由来物質などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合で用いてもよい。中でも、アルミナ、シリカ、チタニア、ベーマイトを用いることが好ましい。更に、無機フィラー表面をシランカップリング剤等の表面改質剤を用いて、アルキル基やフェニル基等の官能基を導入し、表面を疎水化させた無機フィラーを用いてもよい。
【0024】
本発明に用いる無機フィラーの含有量を定性、定量的に確認する方法として、複合多孔質膜表層の無機微粒子を蛍光X線分析、X線光電子分光分析等により表面分析を行う方法、複合多孔質膜を構成する熱可塑性樹脂を溶解可能な溶媒を用いて溶解、含有する無機フィラーを濾過、遠心分離等の手法で分離した後、先に挙げた表面分析及び原子吸光法、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法等の手法で元素分析を行う方法等が挙げられる。勿論、例示したこれらの方法に限定されず、他の手法でも確認可能である。更に、これらの手法を併用することにより、含有する無機フィラー1種類であるか、または複数の無機フィラーを混合させた物であるかを判別できるため好ましい。
【0025】
無機フィラーの一次粒子径は、5nm〜100nmであり、10nm〜50nmが好ましい。一次粒子径とは、無機フィラーの最小単位の粒子径であり、前記平均粒子径とは、一次粒子が凝集した集合体で構成されるクラスターの二次粒子径のことを指す。一次粒子径を当該範囲とすることで、微多孔膜の溶融温度を大きく超えても、熱収縮を最小限に抑えることができ、且つ微多孔膜との密着性も大きく向上させることができる。一次粒子径を測定する手法としては、例えばガス吸着法による比表面積の測定、或いは走査型電子顕微鏡(SEM)による画像から計測することで確認できる。
【0026】
更に、無機フィラーは、複数の一次粒子の集合体で構成されるクラスターからなり、その平均粒子径は、0.3μm以下が好ましい。0.05μm〜0.3μmがより好ましく、0.05μm〜0.1μmがさらに好ましい。また、平均粒子径を上記範囲とすることで、微多孔膜の閉塞を抑え、通気性を維持することが可能となり、微多孔膜との密着性に優れた複合多孔質膜を得ることができる。平均粒子径を測定する手法としては光散乱法や画像解析法、沈降法等が挙げられるが、本発明における平均粒子径は、レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置を用いて測定し、粒子数の累積頻度が50%となる粒径の値である。
【0027】
無機フィラーの形状については、例えば球状、長円状、鱗片状、板状、繊維状、房状、不定形等様々な物があるが、本発明の要件を満たすものであれば特に制限されず用いることができる。中でも球状、板状、房状が熱収縮抑制と密着性向上を両立する上で好ましい。
【0028】
本発明の耐熱層には無機フィラー及び/または微多孔膜との密着性を向上させる目的で、バインダーを添加、混合する。使用するバインダーの具体例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー等の共重合エラストマー、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール等の樹脂を1種或いは2種類以上の混合で用いてもよい。また、これら有機系ポリマーの他に、ポリオルガノシロキサンを無機フィラーと混合、微多孔膜上に塗工後SiOガラスに転化して無機フィラー/微多孔膜間を固着させてもよい。
【0029】
耐熱層中における無機フィラー/バインダーの重量分率は、フィラー材質の比重にもよるが、40/60〜98/2であることが好ましく、50/50〜95/5であることがより好ましく、60/40〜90/10であることが更に好ましい。当該範囲内とすることで、フィラー及び/または微多孔膜との密着性と、複合多孔質膜の通気性とのバランスが取れた、耐熱性に優れる複合多孔質膜が得られる。
【0030】
耐熱層の層厚は、複合多孔質膜の耐熱性を維持するため、0.5μm以上であることが好ましく、通気性や密着性維持の観点から20μm以下であることが好ましい。より好ましくは1μm〜15μm、更に好ましくは2μm〜10μmである。また、耐熱層は微多孔膜の片面に限らず、耐熱層/微多孔膜/耐熱層の両面、微多孔膜/耐熱層/微多孔膜の中間層になるように積層してもよい。両面に耐熱層を積層した場合、層厚は積層された厚みの合計であり、また耐熱層の層厚は、同じ厚みでも、異なる厚みで積層してもよい。
【0031】
本発明に用いる微多孔膜は、通気性と耐熱性のバランスを考慮すると、膜厚は5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。また空孔率は30〜70%が好ましく、40%〜60%がより好ましい。孔径は透過性のムラが少なく、目詰まりなど生じにくいサイズとして、最大孔径35〜50nmで平均孔径10〜30nmであることが好ましい。更に通気性においては、イオン透過性と強度とのバランスを考慮し、ガーレー法による通気度が30〜600sec/100ccであることが好ましく、50〜400sec/100ccであることがより好ましい。
【0032】
このような構成からなる複合多孔質膜は、ポリオレフィン樹脂の溶融温度を超えても熱収縮を十分に抑制した特性を有し、耐熱層と微多孔膜間の密着性に優れたものとなる。
【0033】
複合多孔質膜の膜厚は、フィルター、セパレータといった使用される用途に応じて決められるものであるが、好ましくは5μm〜150μmである。この範囲内であれば、通気性、耐熱性、強度などの観点から複合多孔質膜として好ましい。より好ましくは6μm〜100μm、更に好ましくは10μm〜50μmである。
【0034】
複合多孔質膜の通気性は、微多孔膜自体と同じく強度とイオン透過性とのバランスを考慮し、ガーレー法による通気度が30〜600sec/100ccであることが好ましく、50〜400sec/100ccであることがより好ましい。
【0035】
本発明の複合多孔質膜において微多孔膜と耐熱層との密着性は良好なものである。密着性は塗工液における無機フィラーとバインダーとの分散状態を均一に調節することにより、微多孔膜の閉塞を抑え、通気性を維持しながら、密着性を高めることができ、無機フィラーの脱落を防ぐことができる。耐熱層の表面をパネラーが指で擦った時の基準として、密着性を、○:強く擦っても脱落がみられない、△:強く擦ると脱落、×:擦ると容易に脱落の3段階で評価すると、使用される用途にもよるが、△、○であるならば十分使用できるものである。より好ましくは、○:強く擦っても脱落がみられないものである。
【0036】
更に、本発明における複合多孔質膜の密着性は無機フィラー同士の密着性のみならず耐熱層と微多孔膜との密着性に対しても良好である。前者は前記記載のように耐熱層の表層における摩擦に対する脱落抑制により判定することができ(以下、摩擦密着性)、後者では耐熱層側をテープ等の手法により貼付け、剥離時の応力により判定することができる(以下、テープ密着性)。一例として、引張り試験機を用いた測定について例示すると、複合多孔質膜を一定長にカットし、耐熱層上に両面粘着テープを貼付ける。その後、複合多孔質膜と同寸にカットした紙を粘着テープの片側面に貼り付け、複合多孔質膜および紙の端をそれぞれチャックで挟み、一定の引張り速度で耐熱層/微多孔膜の界面剥離強度(gf)を測定することができる。実施例にその条件を記載するが、当該条件によりテープ密着性を評価した場合、好ましくは500gf以上、より好ましくは1000gf以上、更に好ましくは2000gf以上あれば十分使用できる。
【0037】
本発明の複合多孔質膜は、ポリオレフィン樹脂の溶融温度を超えても熱収縮を十分に抑制できる強度を有し、耐熱性に優れたものである。耐熱性の評価としては150℃、180℃における熱収縮率に基づく150℃耐熱性、180℃耐熱性を用いて評価できる。150℃耐熱性は19%以下の熱収縮率であるならば熱収縮を十分に抑制することができる強度を有することになり、好ましくは0%〜15%、より好ましくは0%〜10%である。180℃耐熱性は10%以下の熱収縮率であるならばよく、好ましくは0%〜8%、より好ましくは0%〜5%である。両温度の熱収縮率の何れかを小さくできれば熱収縮を十分に抑制できるが、高温である180℃の熱収縮率が小さい方が好ましく、更には両温度の熱収縮率が小さい方がより好ましい。
【0038】
次に、本発明の複合多孔質膜の製造方法について説明する。微多孔膜は、先に挙げた手法にて製造されたものを用い、微多孔膜の片面乃至は両面に耐熱層を積層、または2つの微多孔膜の中間層になるように耐熱層を積層させて複合多孔質膜を得ることができる。耐熱層と微多孔膜とを積層する方法としては、耐熱層と微多孔膜とを別々に製造してそれぞれを積層する方法、微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーとバインダーの2種を少なくとも含有する塗工液を塗工して耐熱層を形成する方法などが挙げられる。薄い耐熱層を形成させたい場合は、生産性の面から後者の方法が好ましい。
【0039】
微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーとバインダーの2種を少なくとも含有する塗工液を塗工して耐熱層を形成する具体的な手法としては、以下の工程が挙げられる。
(1)無機フィラー100重量部を分散させた水または極性有機溶媒のスラリーに、バインダーを2〜150重量部含んだ水または極性有機溶媒の溶液を混合、分散処理を経て塗工液を調製する。或いは、バインダーを2〜150重量部含んだ水または極性有機溶媒の溶液を攪拌させながら、無機フィラー100重量部を直接添加、混合させた後分散処理を経て塗工液を調製する。
(2)該塗工液を微多孔膜の少なくとも片面に塗工して塗工膜を形成した後、熱風乾燥あるいはバインダーを溶解しない貧溶媒中に浸漬・析出させる。
【0040】
(1)塗工液の調製
先に列挙した各種バインダーの少なくとも1種を溶媒に溶かし、バインダー溶液を作成する。溶媒は水またはアセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性有機溶媒が挙げられる。また、バインダーに対し貧溶媒となる溶剤を添加することもできる。このような貧溶媒の添加に伴い、ミクロ相分離構造が誘発され、空孔部を形成した耐熱層を形成させることができる。特に本発明のように一次粒子径が極めて微小な無機フィラーを用いる場合、耐熱層の空孔部は無機フィラー及びバインダーからなるマトリックスにより形成されることとなるため、耐熱性のみならず通気性や電解液等の保液性向上にも繋がり好ましい。貧溶剤としてはアルコール類が好適であり、特にグリコールの様な多価アルコールが好適である。更に、極性有機溶媒を主体とした溶液の場合、貧溶媒として水を添加してもよい。このバインダー溶液に、必要量の無機フィラーを分散させて塗工液とする。添加の手法については特に限定されることはなく、別途無機フィラーをバインダー溶液と同じ溶媒中に分散後、バインダー溶液と混合、塗工液としてもよい。
【0041】
無機フィラーの分散性を向上させるため、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアクリル酸アンモニウム等の分散剤や、ベンザルコニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等の抗菌剤、または防カビ剤などを添加してもよい。また、無機フィラーをシランカップリング剤等で表面処理する手法も適用可能である。
【0042】
無機フィラーを分散させる際、ディスパー等の攪拌機を用いて攪拌することで分散・調製することができるが、更にホモジナイザーやビーズミル、ジェットミル等、高応力で破砕・分散可能な装置を用いることで、より均一な塗工液を作製することができる。特に一次粒子径が極めて微小な無機フィラーは、本来高い表面エネルギーを有するため、凝集により塊状粒子を容易に形成し、また残存する微小な一次粒子が微多孔膜の閉塞を招き易いため、余り好ましくない。しかし、上記破砕・分散可能な装置を用いて二次分散処理を施すことで塊状粒子が破砕され、複数個の一次粒子が均一なサイズでクラスター化する。更にバインダー及びクラスターが塗工液中に均一に分散されることで、クラスター間の空隙が維持され、且つ密に充填された耐熱層を有する複合多孔質膜を得ることが可能となる。つまり、本発明の複合多孔質膜は、一次粒子径が極めて微小な無機フィラーを適度な、且つ均一なサイズに分散させることによって、他の構成と相乗的に作用し合い、微小一次粒子の細密充填による熱収縮率低下、耐熱性向上の効果を享受しながらも、同時に微多孔膜との高い密着性と通気性の維持をも併せ持つという、本来の微小一次粒子添加の作用効果からは予期せぬ優れた効果を奏するものとなる。
【0043】
更に、二次分散処理の過程でバインダーを構成する分子鎖が、強い物理的応力により切断されることで、一次粒子径が極めて微小な無機フィラーとの均一な分散が促進される。本発明者等が鋭意検討した結果、二次分散処理後のバインダーの重量平均分子量(Mw)が300,000以上、1,000,000以下で、且つ分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下となることで、無機フィラー及び/または微多孔膜間の密着性に優れた塗工液を得ることができる。
【0044】
(2)塗工液の塗工
(1)で得られた塗工液を、微多孔膜の少なくとも一方の片面に塗工する。微多孔膜の両面に耐熱層を形成する場合は、両面同時に塗工することが工程の短縮という観点から好ましい。塗工方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、マイクログラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法等が挙げられる。この中でも、均一性の観点からグラビアコーター法、マイクログラビアコーター法が好ましく、また、塗工液が外気と接触せず、無機フィラーによる磨耗が少ないダイコーター法も好ましい。
【0045】
微多孔膜は塗工の前工程または直前において、塗工液の均一な浸透を促進し、耐熱層と微多孔膜間の密着性を更に向上させる目的で微多孔膜表面に表面処理を施すことも、本発明の目的を達成させるため好ましい。表面処理の方法は微多孔膜表面の多孔質構造を著しく損なわなければ特に制限されず、具体例としてはコロナ放電処理の他、プラズマ処理、機械的疎面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線照射による酸化法などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお実施例、比較例における用語と物性の測定方法は以下の通りである。
【0047】
1.膜厚:複合多孔質膜を直径72mmの円形に切抜き、ダイヤルゲージ(測定子直径5mm、測定荷重1.5N)を用い、JIS K 7130(1992)A−2法に準じて、任意の15ヶ所について厚みを測定した。その15ヶ所の値の平均値を膜厚とした。
【0048】
2.平均粒子径:平均粒子径の測定は、レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置であるHORIBA社製 LA−950を用いて測定し、粒子数の累積頻度が50%となる粒径(メジアン径:d50)を算出した。
【0049】
3.一次粒子径:一次粒子径の測定は、耐熱層の表面または断面を走査型電子顕微鏡(SEM)による画像から、100個の粒子を画像解析装置により測定し、平均の粒子径を算出した。
【0050】
4.摩擦密着性:摩擦密着性の確認は、耐熱層の表面をパネラーが指で擦った上で、以下の基準に基づき判定した。
○:強く擦っても無機フィラーの脱落が見られない
△:強く擦ると無機フィラーの脱落が見られる
×:擦ると容易に無機フィラーの脱落が見られる
【0051】
5.テープ密着性:テープ密着性の確認は、テープ剥離時の応力を引張り試験機にて測定することで判定した。複合多孔質膜を2cm(TD)×7cm(MD)にカットし、同じく長さ2cmにカットした両面粘着テープ(住友3M社製 PPS-10:幅1cm)を耐熱層上に貼付ける。その後、幅2cm×長さ7cmにカットしたクラフト紙を粘着テープの片側面に貼り付け、複合多孔質膜および紙の端をそれぞれチャックで挟み、引張り速度500mm/minで耐熱層/微多孔膜の界面剥離強度(gf)を測定した(図4のプロット図参照)。
【0052】
6.耐熱性:耐熱性の確認は、得られた複合多孔質膜を7cm×7cmの正方形にカット後、2.5cm間隔で縦方向(MD)、横方向(TD)に3組ずつプロットした(図3のプロット図参照)。これら試料を、荷重を掛けない状態で150℃の恒温槽に2時間放置し、加熱前後のプロット間隔から熱収縮率を測定し、MD、TDいずれかの最大の値を150℃耐熱性とした。また、TMA(熱機械分析:SII NanoTechnology社製 TMA/SS7100E)を用い、MD15mm×TD3mmにカットした試料に荷重100mNを一定に掛けた状態でセル内にセットし、常温から5℃/minにて200℃まで昇温、180℃における熱収縮率を測定した(180℃耐熱性)。
【0053】
7.通気度:複合多孔質膜の通気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製ガーレー式デンソメーター(透気度試験機)を用いて測定した。
【0054】
8.分子量:バインダーの分子量の測定は、ゲルパーミーションクロマトグラフィー(GPC)装置を用いて行った。GPC測定によって求められる数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)から、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。GPC装置は、ポンプに日本分光(株)製PU−2080Plus、検出器に日本分光(株)製830−RIを用い、カラムに35℃のオーブンで保温したShodex KF−805L+KF−806Mの8.0mm(ID)×300mm(L)カラム各1本、合計2本を使用した。溶離液にはジメチルホルムアミド(DMF)を用い、1ml/minの流量条件にて測定した。
【0055】
[実施例1]
(塗工液の調製)
N−メチルピロリドン(NMP)に、バインダーとして共重合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ(株)製 Kynar Flex(登録商標) 2801;GPC測定よりMw;579,000、Mw/Mn;2.28)を溶解、重量濃度4%のNMP溶液を作製した。これにベーマイト(大明化学(株)製 ベーマイトC01:一次粒子径30nm)を重量濃度8%となる様に添加、混合してフィラー/バインダー重量比2:1のNMPスラリーを作製、更にディスパーを用いて回転速度300rpmにて1時間攪拌を実施した。得られたスラリーの平均粒子径はd50=11μmであった。更にスラリーを、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて5回処理を行い、無機フィラー濃度8重量%、バインダー濃度4重量%の塗工液を1000g調製した。得られた塗工液中のベーマイトの平均粒子径はd50=0.08μmであった。また、GPCを用い同条件にて処理したバインダーの分子量を測定した所、Mwは約320,000であり、Mw/Mnは1.46であった。
【0056】
(微多孔膜への塗工)
ポリオレフィン微多孔膜として、JNC製PPセパレータであるJNC−Cell(登録商標、厚さ20μm、最大孔径≦30nm、空孔率48%、通気度250sec/100ml)を用いた。これに前処理としてNプラズマを照射後、前記塗工液をマイクログラビアを用いて塗工、ドライヤーにて乾燥させて複合多孔質膜を得た。得られた複合多孔質膜の膜厚は24μm、通気度は260sec/100mlであった。摩擦密着性は○:強く擦っても脱落が見られないものであり、テープ密着性は3500gf、150℃耐熱性は8%、180℃耐熱性は3%であった。これらをまとめて表1に示す。
【0057】
[実施例2]
無機フィラーとしてSiO(日本アエロジル(株)製 AEROSIL(登録商標)
MOX80:一次粒子径50nm)を使用し、更にスラリーを、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて3回処理する以外は実施例1と同様の手法で塗工液を作製、微多孔膜に塗工して複合多孔質膜とした。本条件において、レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置では平均粒子径を測定できなかったため、SEM観察による一次粒子径の測定のみを行なった。得られた複合多孔質膜の物性値を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
無機フィラーとしてAl(日本アエロジル(株)製 AEROXIDE(登録商標) AluC:一次粒子径15nm)を使用し、更にスラリーを、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて1回処理する以外は実施例1と同様の手法で塗工液を作製、塗工液中のAl粒子の平均粒子径を0.07μmとし、微多孔膜に塗工して複合多孔質膜とした。得られた複合多孔質膜の物性値を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
N−メチルピロリドン(NMP)に、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(アルケマ(株)製 Kynar HSV500;GPC測定よりMw;885,000、Mw/Mn;2.47)を溶解、重量濃度3%のNMP溶液を作製した。これにAl(日本アエロジル(株)製 AEROXIDE(登録商標) AluC:一次粒子径15nm)を重量濃度9%となる様に添加、混合してフィラー/バインダー重量比3:1のNMPスラリーを作製、更にディスパーを用いて回転速度300rpmにて1時間攪拌を実施した。得られたスラリーの平均粒子径はd50=11μmであった。更にスラリーを、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて1回処理を行い、無機フィラー濃度9重量%、バインダー濃度3重量%の塗工液を1000g調製した。得られた塗工液中のAlの平均粒子径はd50=0.11μmであった。これにポリオレフィン微多孔膜として、JNC−Cell(登録商標、膜厚15μm、最大孔径≦30nm、空孔率52%、通気度170sec/100ml)を用い、実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
N−メチルピロリドン(NMP)に、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(アルケマ(株)製 Kynar HSV900;GPC測定よりMw;1,091,000、Mw/Mn;2.02)を溶解、重量濃度2.4%のNMP溶液を作製した。これにベーマイト(大明化学(株)製 ベーマイトC06:一次粒子径100nm)を重量濃度9.6%となる様に添加、混合してフィラー/バインダー重量比4:1のNMPスラリーを作製、更にディスパーを用いて回転速度300rpmにて1時間攪拌を実施した。得られたスラリーの平均粒子径はd50=15.5μmであった。更にスラリーを、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて3回処理を行い、無機フィラー濃度9.6重量%、バインダー濃度2.4重量%の塗工液を1000g調製した。得られた塗工液中のベーマイトの平均粒子径はd50=0.30μmであった。これにポリオレフィン微多孔膜として、JNC−Cell(登録商標、膜厚15μm、最大孔径≦30nm、空孔率47%、通気度220sec/100ml)を用い、実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0061】
[実施例6]
N−メチルピロリドン(NMP)に、バインダーとして共重合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ(株)製 Kynar 2801)を溶解、重量濃度4%のNMP溶液を作製した。これに異なる粒子径のAlとしてAEROXIDE AluC(一次粒子径:15nm)を重量濃度4%、SG-ALO100UP(一次粒子径:110nm)を重量濃度4%となる様に混合・添加してフィラー/バインダー重量比2:1のNMPスラリーを作製した。更にディスパーを用いて回転速度300rpmにて1時間攪拌を実施した後、ジェットミルを用いて170Mpaの処理圧にて1回処理を行い、無機フィラー濃度8重量%、バインダー濃度4重量%の塗工液を1000g調製した。これにポリオレフィン微多孔膜として、JNC−Cell(登録商標、膜厚21μm、最大孔径≦30nm、空孔率53%、通気度150sec/100ml)を用い、実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0062】
[実施例7]
ポリオレフィン微多孔膜として、JNC製PPセパレータであるJNC−Cell(登録商標、膜厚15μm、最大孔径≦30nm、空孔率49%、通気度180sec/100ml)を用いた以外は実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0063】
[実施例8]
無機フィラーとしてベーマイト(SASOL社製 DISPAL(登録商標)10C:一次粒子径50nm)を用い、ジェットミルを200Mpa、1回処理にて調製し、塗工液中のベーマイトの平均粒子径を0.3μmとした以外は実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表2に示す。密着性は実施例1と比べやや低く、強い指擦りで脱落が見られた。180℃耐熱性は十分であるが、150℃耐熱性はやや低いものであった。
[実施例9]
実施例1と同じ工程でNMPスラリーを作製後、ディスパーのみの攪拌(8000rpm、1時間)で塗工液を作製し、塗工液中のベーマイトの平均粒子径を10μmとした以外は実施例1と同様の手法で複合多孔質膜を作製した。得られた複合多孔質膜の物性値を表2に示す。得られた複合多孔質膜の密着性は実施例1と比べやや低く、強い指擦りで脱落が見られた。180℃耐熱性は十分であるが、150℃耐熱性はやや低いものであった。
【0064】
[比較例1]
実施例1で用いた微多孔膜を、耐熱層コート無しで耐熱性を評価した。150℃、2時間における収縮率(150℃耐熱性)は33%であり、180℃雰囲気下に置いた条件(180℃耐熱性)では25%であった。得られた複合多孔質膜の物性値を表3に示す。
【0065】
[比較例2]
一次粒子径が250nmであるAl粒子(SASOL社製 CERALOX(登録商標)APA−0.5)を、ディスパーのみの攪拌(8000rpm、1時間)とした以外は、実施例1と同様の手法で作製、塗工液中のAl粒子の平均粒子径を0.3μmとし、微多孔膜に塗工して複合多孔質膜とした。得られた複合多孔質膜の物性値を表3に示す。150℃、2時間における収縮率(150℃耐熱性)は21%と20%を超え、180℃雰囲気下に置いた条件(180℃耐熱性)では10%であった。
【0066】
[比較例3]
ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて1回処理を行なった以外は、比較例2と同様の手法で作製、塗工液中のAl粒子の平均粒子径を0.26μmとし、微多孔膜に塗工して複合多孔質膜とした。得られた複合多孔質膜の物性値を表3に示す。150℃、2時間における収縮率(150℃耐熱性)は20%であり、180℃雰囲気下に置いた条件(180℃耐熱性)では10%であった。
【0067】
[比較例4]
一次粒子径が650nmであるAl粒子を、ジェットミルを用いて200Mpaの処理圧にて1回処理を行なった以外は、実施例1と同様の手法で作製、微多孔膜に塗工して複合多孔質膜とした。得られた複合多孔質膜の物性値を表3に示す。得られた微多孔膜の密着性は低く、指で擦ると容易に脱落したので、150℃耐熱性、180℃耐熱性は測定しなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
これらの結果から、本発明の複合多孔質膜は、溶融温度以上に上昇する条件であっても熱収縮を十分に抑制し、且つ微多孔膜と耐熱層の密着性を高め、無機フィラーの脱落も抑えることができる。又無機フィラーの脱落が抑えられるので生産性の向上にも寄与することができる。耐熱性がよいので、特にセパレータとした際には、電極間の短絡防止を維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の複合多孔質膜は、高温条件下で使用されるフィルター及びセパレータ等に用いる多孔質膜として使用できる。
図1
図2
図3
図4