(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742130
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】五酸化バナジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/02 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
C01G31/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-175608(P2010-175608)
(22)【出願日】2010年8月4日
(65)【公開番号】特開2012-36024(P2012-36024A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2013年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089222
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 康伸
(72)【発明者】
【氏名】補伽 栄一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 陽一
【審査官】
植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−256354(JP,A)
【文献】
特開2002−193620(JP,A)
【文献】
特開平06−228666(JP,A)
【文献】
特開平11−222631(JP,A)
【文献】
特表2004−508694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムおよびナトリウムを含有するバナジウム含有液から五酸化バナジウムを製造する方法であって、バナジウムおよびナトリウムを含有するバナジウム含有液と硫酸とを混合することにより、得られる混合溶液のpHを1.0よりも大きく1.8未満に調整し、当該pHを維持することにより、五酸化バナジウムを沈殿させることを特徴とする五酸化バナジウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1で得られた五酸化バナジウムの沈殿物を硫酸アンモニウム溶液で洗浄する請求項1記載の五酸化バナジウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五酸化バナジウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、バナジウム含有液から高純度の五酸化バナジウムを製造するために使用される五酸化バナジウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液からバナジウムを回収する場合、硫酸アンモニウムや塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩を使用した方法が採用されている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
かかる方法では、まず、バナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液に、硫酸アンモニウムや塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩を加える。
すると、メタバナジン酸アンモニウムが析出して沈殿する。
そして、このメタバナジン酸アンモニウムの沈殿に対して種々の処理を行うことによって、バナジウムを五酸化バナジウムの状態で回収するのである。
【0004】
しかるに、上記のごとき方法を作用した場合、中間生成物であるメタバナジン酸アンモニウムの純度をあまり高くできないという問題点がある。純度があまり高くないメタバナジン酸アンモニウムから五酸化バナジウムを製造すると、五酸化バナジウム中に不純物であるナトリウム等が含有されてしまう。そして、ナトリウム等を含有する五酸化バナジウムを原材料として製品を製造すると種々の問題が生じる可能性がある。例えば、五酸化バナジウムを原料として特殊鋼などを製造する際に、五酸化バナジウム中にナトリウムが存在していると、熔融状態にした時に、突沸する場合がある。また、製造された特殊鋼が脆くなったりして、特殊鋼自体の強度に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0005】
しかも、固体状になった五酸化バナジウムに混入したナトリウムは除去することが困難であるので、高純度の五酸化バナジウムを得るには、メタバナジン酸アンモニウムの状態で不純物を除去する必要がある。
このため、上記のごとき方法によってバナジウムを五酸化バナジウムの状態で回収する場合には、メタバナジン酸アンモニウムの純度を上げるために、一旦得られたメタバナジン酸アンモニウムを再度溶解して塩析を繰り返さなければならず、作業工数が多くなり、作業コストもかかるという問題が生じている。
【0006】
また、メタバナジン酸アンモニウムを析出させるためにアンモニウム塩を使用しているが、メタバナジン酸アンモニウム回収後の液(処理後液)には、余剰のアンモニウム塩を多量に含有している。
このため、処理後液を廃水として排出する場合、環境汚染防止のために、アンモニウム塩を除去する排水処理やそのための設備が必要となり、設備が大型化したり設備のランニングコストが増加したりするという問題も生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−247644号公報
【特許文献2】特開2005−298925号公報
【特許文献3】特開平10−114525号公報
【特許文献4】特開昭63−100019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、バナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液から高純度の五酸化バナジウムを製造することができる五酸化バナジウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の五酸化バナジウムの製造方法は、バナジウム
およびナトリウムを含有するバナジウム含有液から五酸化バナジウムを製造する方法であって、
バナジウムおよびナトリウムを含有するバナジウム含有液と硫酸とを混合
することにより、得られる混合溶液のpH
を1.0より
も大きく1.8未満
に調整し、当該pHを維持すること
により、五酸化バナジウムを沈殿させることを特徴とする。
第2発明の五酸化バナジウムの製造方法
は、第1発明において、
請求項1で得られた五酸化バナジウムの沈殿物を硫酸アンモニウム溶液で洗浄することを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、
バナジウムおよびナトリウムを含有するバナジウム含有液と硫酸とを混合した混合溶液を形成すれば、バナジウムを、五酸化バナジウムの状態で沈殿させることができる。しかも、混合溶液のpHが適切な範囲に維持されているので、五酸化バナジウムの沈殿にナトリウムが混入することを抑制することができ、高純度の五酸化バナジウムを製造することができる。また、アンモニウム塩を使用しないので、排水等を処理する大型設備が不要であり、設備をコンパクトにできランニングコストの増加も抑えることができる。
第2発明によれば、
第1発明で得られた五酸化バナジウムの沈殿物を硫酸アンモニウム溶液で洗浄するので、五酸化バナジウムの沈殿からナトリウム分を除去することができ、最終製品の五酸化バナジウムの純度を高く維持することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の五酸化バナジウムの製造方法の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の五酸化バナジウムの製造方法は、バナジウムを含有する水溶液から五酸化バナジウムを製造する方法であって、不純物としてナトリウムを含有する水溶液から、高純度の五酸化バナジウムを簡単に製造することができるようにしたことに特徴を有している。
【0013】
本発明の五酸化バナジウムの製造方法において使用されるバナジウムを含有する水溶液は、例えば、バナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液を溶媒抽出することによって得られるバナジウムを含有する水溶液や、イオン交換法によって得られるバナジウムを含有する溶液によって得られる水溶液等をあげることができるが、とくに限定されない。
また、上述したバナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液としては、例えば、以下のように使用済みの廃触媒を処理した際に発生する溶液等を挙げることができるが、とくに限定されない。
使用済みの廃触媒を処理した際に発生する溶液とは、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いて使用済脱硫触媒をアルカリ焙焼し、得られた焙焼物を水で溶解して形成される、モリブデンやバナジウムのソーダ塩を主成分とする塩溶液である。
【0014】
(五酸化バナジウムの製造方法)
つぎに、本発明の五酸化バナジウムの製造方法を説明する。
本発明の五酸化バナジウムの製造方法(以下、単に本発明の方法という)では、バナジウムを含有する水溶液(バナジウム含有液)から、沈殿として五酸化バナジウムを回収することによって、五酸化バナジウムを製造する方法である。
【0015】
本発明では、五酸化バナジウムの沈殿を発生させるために、バナジウム含有液に硫酸溶液を混合して、以下の化学反応(式1)を生じさせることによって、五酸化バナジウムの沈殿を生じさせている。
(式1)
2Na
3VO
4+3H
2SO
4→V
2O
5↓+3Na
2SO
4+3H
2O
【0016】
上記の反応は、pHが2よりも小さい場合に生じるのであるが、本発明では、バナジウム含有液に硫酸溶液が混合された混合溶液を、そのpHが、1.0より大きく1.8未満となるように維持している。
pHが1.0以下の場合には、生成した沈殿粒子が細かくなり、沈殿粒子を混合溶液から固液分離する操作に支障をきたすという問題がある一方、pHが1.8以上の場合には、五酸化バナジウムの沈殿が生じなくなる。
よって、混合溶液のpHが、1.0より大きく1.8未満、好ましくは、pH1.5±0.3となるように維持すれば、五酸化バナジウムの沈殿を確実に生じさせることができる。
そして、五酸化バナジウムの沈殿にナトリウムが混入することを抑制することができるから、得られた五酸化バナジウムの沈殿を高純度にすることができる。
とくに、五酸化バナジウムの沈殿を形成する時間を短くするのであれば、pHが1.3以下とすることが好ましい。
【0017】
また、上記方法で得られた五酸化バナジウムの沈殿は、五酸化バナジウム中に含まれるナトリウムが非常に少ないので、五酸化バナジウムを再度溶融してナトリウムを除去する等の作業を行う必要がない。つまり、バナジウム含有液と硫酸溶液とを混合して、一回だけ五酸化バナジウムを沈殿させれば、高純度の五酸化バナジウムが得られるので、五酸化バナジウムを製造する工数を少なくすることができる。
【0018】
さらに、本発明の方法では、上述したように、混合溶液において五酸化バナジウムの沈殿を発生させるときに、アンモニウム塩を使用しない。このため、五酸化バナジウムの沈殿を濾過して得られた液体(廃液)にはアンモニアが含まれないか、含まれていてもその量を少なくすることができる。
すると、廃液を処理して排水する際に、廃液処理のための特別な設備が不要となるので、設備をコンパクトにできランニングコストの増加も抑えることができる。
【0019】
(追加工程)
なお、上記の方法によって得られた五酸化バナジウムの沈殿では、混入するナトリウムの量が少ないのであるが、わずかにNaVO
3、Na
4V
2O
7、Na
6V
10O
28等が混入する。よって、より高純度の五酸化バナジウムを得る上では、得られた五酸化バナジウムを硫酸アンモニウム溶液によって洗浄することが好ましく、硫酸アンモニウム溶液によって五酸化バナジウムの沈殿を洗浄すれば、ナトリウム分を五酸化バナジウムの沈殿から除去することができる。
硫酸アンモニウム溶液による洗浄によって五酸化バナジウムの沈殿からナトリウム分を除去できるのは、以下の(式2)の反応によるものと推察される。
(式2)
2NaVO
3(s)+(NH
4)
2SO
4(l)→2NH
4VO
3(s)+Na
2SO
4
【0020】
また、五酸化バナジウムの沈殿について、硫酸アンモニウム溶液による洗浄を行った場合には、上記(式2)から分かるように、五酸化バナジウム中にアンモニウム塩が混在した状態となる。
しかし、五酸化バナジウムは、熔融炉において溶融された後冷却して固められ、その後破砕されて、フレーク状の最終製品に加工されるので、熔融炉において溶融された際に、以下の反応(式3)によってアンモニウム塩からアンモニアが脱離される。
よって、硫酸アンモニウム溶液によって五酸化バナジウムを洗浄しても、最終製品の五酸化バナジウムの純度を高く維持することができる。
(式3)
2NH
4VO
3(s) → V
2O
5↓ + 2NH
3(g) + H
2O(g)
【実施例1】
【0021】
本発明の五酸化バナジウムの製造方法を用いてバナジウムを含有する水溶液から五酸化バナジウムを製造した場合において、バナジウム含有液と硫酸溶液とを混合した混合溶液のpHが、五酸化バナジウムの沈殿を形成する時間に与える影響を確認した。
【0022】
使用したバナジウム含有液は、バナジウムを22g/L、不純物であるナトリウムを15g/L含有するものであり、その他の不純物はほとんど含有していないものである。
使用した硫酸溶液は、30[%]硫酸溶液を使用した。
混合溶液は、温度を80℃、pH
を1.0、1.3
または1.6に調整し、竪型撹拌機で撹拌しながら沈殿を発生させた。
なお、混合溶液のpHは、30[%]硫酸溶液によって調整した。
【0023】
図2に結果を示す。
図2に示すように、混合溶液のpHが低くなるにしたがって、反応が終了する時間が短くなっていることが確認できる。とくに、pH1.6からpH1.3に変化させると、大きく反応時間を短縮させることができたことが確認できる。
よって、混合溶液中の五酸化バナジウムの沈殿を形成させる時間を短くする上では、混合溶液のpHを1.3以下とすることが好ましいと考えられる。
【実施例2】
【0024】
本発明の五酸化バナジウムの製造方法を用いてバナジウムを含有する水溶液から五酸化バナジウムを製造した場合において、バナジウム含有液と硫酸溶液とを混合した混合溶液のpHが、五酸化バナジウムの回収率および、五酸化バナジウムの沈殿の純度に与える影響を確認した。
【0025】
使用したバナジウム含有液は、バナジウムを22g/L、不純物であるナトリウムを15g/L含有するものであり、その他の不純物はほとんど含有していないものである。
使用した硫酸溶液は、30[%]硫酸溶液を使用した。
混合溶液は、温度を80℃、
図3に示されるようにpH
を変化させた状態で、竪型撹拌機で撹拌しながら沈殿を発生させた。
なお、混合溶液のpHは、30[%]硫酸溶液によって調整した。
【0026】
五酸化バナジウムの回収率は、ろ液中の五酸化バナジウムの濃度によって判断した。ろ液中の五酸化バナジウムの濃度は、ICP発光分光分析装置によって測定した。
また、五酸化バナジウムの沈殿の純度は、五酸化バナジウムの沈殿に含まれるナトリウムの割合によって判断した。ナトリウムの割合は、ICP発光分光分析装置によって測定した。
【0027】
図3に結果を示す。
図3に示すように、pHが大きくなるにつれ、ろ液中の五酸化バナジウムの濃度が低下していることが確認できる。つまり、沈殿として回収される五酸化バナジウムの量が多くなっている(言い換えれば、回収率が高くなっている)ことが確認できる。しかし、ろ液中の五酸化バナジウムの濃度は、pHが1.5より大きくなると増加に転じている。このことから、五酸化バナジウムの回収率を高く維持する上では、混合溶液のpHに適切な範囲が存在することが確認できる。具体的には、pH1.3より大きく1.8未満が五酸化バナジウムの回収率を高く維持する上で好ましいpHの範囲であることが確認できる。
【0028】
一方、五酸化バナジウムの沈殿に含まれるナトリウムの割合は、pHが小さいときには低く維持できているが、pHが1.5以上となると、ナトリウムの割合が増加している。よって、五酸化バナジウムの沈殿の純度を高く維持する上では、混合溶液のpHは1.5未満であることが好ましいことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の五酸化バナジウムの製造方法は、バナジウム、モリブデン等の重金属を含む混合溶液から五酸化バナジウムを製造する方法に適している。