(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742234
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】光学素子用成形型、光学素子の製造方法、および光学素子
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20150611BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20150611BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20150611BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20150611BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C59/02 B
G02B3/00 Z
G02B5/18
B29L11:00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-8198(P2011-8198)
(22)【出願日】2011年1月18日
(65)【公開番号】特開2012-148454(P2012-148454A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2013年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】倉田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】生形 壽男
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−149423(JP,A)
【文献】
特開2005−169930(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/073675(WO,A1)
【文献】
特開2007−190734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 − 33/76
B29C 39/26 − 39/36
B29C 41/38 − 41/44
B29C 43/36 − 43/42
B29C 43/50
B29C 45/26 − 45/44
B29C 45/64 − 45/68
B29C 45/73
B29C 49/48 − 49/56
B29C 49/70
B29C 51/30 − 51/40
B29C 51/44
B29C 53/00 − 53/84
B29C 57/00 − 59/18
B29L 11/00
G02B 1/00 − 1/08
G02B 3/00 − 3/14
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を成形するための成形型であって、
円盤状に形成された基板上に円環状の素子形状を転写するのに対応する形状を有した第1転写面部と、
前記第1転写面部の周辺部に前記第1転写面部の回転対称軸と同軸に設けられ、前記基板上に前記光学素子の検査に用いる円環状の検査用マークの形状を転写するのに対応する形状を有した第2転写面部とを有することを特徴とする光学素子用成形型。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子用成形型を用いて光学素子を成形する成形工程と、
前記成形工程で成形した前記光学素子の前記円盤状の基板周辺部と前記検査用マークとの径方向の間隔を計測する検査工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の光学素子の製造方法を用いて製造されることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
成形型を用いて成形された断面形状が鋸歯状の円環状の素子を有して円盤状に形成された基板と、
前記基板における前記円環状の素子の周辺部に前記円環状の素子の回転対称軸と同軸に設けられ、前記円環状の素子の検査に用いられる円環状の検査用マークとを有することを特徴とする光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を成形するための成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の製造には、成形加工がよく用いられる(例えば、特許文献1を参照)。例えば、ガラス材料と樹脂材料を用いた複合型の回折レンズの成形加工を行う場合、円盤状のガラス基板上に塗布された樹脂材に対して成形型を押圧させ、成形型の転写面に形成された所定の形状(すなわち、回折光学素子の形状)を樹脂材に転写する。このようにして回折光学素子の層を成形した後、成形加工により成形された同心円状に並ぶ回折格子が回折レンズ(ガラス基板)の中心に形成されているか検査を行う。具体的には、レンズの中心軸に対する回折格子の中心軸のシフト量を測定する。
【0003】
シフト量の測定を行うには、まず、シフト検査用のカメラを用いてレンズの外周部と回折格子の外周部を含む画像を撮像する。レンズの外周部と回折格子の外周部を含む画像を撮像すると、この画像に対して画像処理を行うことで、レンズの外周部と回折格子の外周部との径方向の間隔を複数の測定位置(周方向に異なる位置)で測定する。レンズおよび回折格子の外周部が円形であるため、回折格子の中心軸がレンズの中心軸と合っているときには、各測定位置での径方向の間隔は同じであるが、回折格子の中心軸がレンズの中心軸に対してシフトしているときには、各測定位置での径方向の間隔が異なることになる。このように、複数の測定位置での径方向の間隔に基づいて、シフト量を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−131466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シフト量の測定精度を高めるには、カメラの倍率を高くする必要がある。しかしながら、カメラの倍率を高くしようとすると、カメラの同一視野内にレンズの外周部と回折格子の外周部を納めることが難しかった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、成形加工により成形された部分のシフト量を高精度に測定可能な光学素子用成形型、光学素子の製造方法、および光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的達成のため、本発明に係る光学素子用成形型は、光学素子を成形するための成形型であって、
円盤状に形成された基板上に円環状の素子形状を転写するのに対応する形状を有した第1転写面部と、前記第1転写面部の周辺部に
前記第1転写面部の回転対称軸と同軸に設けられ、
前記基板上に前記光学素子の検査に用いる
円環状の検査用マークの形状を転写するのに対応する形状を有した第2転写面部とを有している。
【0011】
また、本発明に係る光学素子の製造方法は、
本発明に係る光学素子用成形型を用いて光学素子を成形する成形工程と、前記成形工程で成形した前記光学素子の
前記円盤状の基板周辺部と前記検査用マークとの径方向の間隔を計測する検査工程とを有
している。
【0012】
また、
第1の発明に係る光学素子は、本発明に係る光学素子の製造方法を用いて製造されるようになっている。
また、
第2の発明に係る光学素子は、
成形型を用いて成形された断面形状が鋸歯状の円環状の素子を有して円盤状に形成された基板と、前記基板
における前記円環状の素子の周辺部に前記円環状の素子の回転対称軸と同軸に設けられ
、前記円環状の素子の検査に用いられる円環状の検査用マークとを有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形加工により成形された部分のシフト量を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】回折レンズの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】回折レンズの成形工程について(a)〜(d)へ順に示す模式図である。
【
図7】位相フレネルレンズの一例を示す側断面図である。
【
図8】位相フレネルレンズの一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態の光学素子用成形型(以下、単に成形型と称する)により成形される回折レンズ1が
図2に示されている。この回折レンズ1は、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)を構成するDOE成形部2と、DOE成形部2を支持する透明な支持部3とを有して構成される。DOE成形部2は、透明の樹脂材料を用いて円盤状に成形され、DOE成形部2の表面には、複数の輪帯が同心円状に並ぶ回折格子21が形成されている。なお、各図において、説明容易化のため、回折格子21の輪帯の数を少なく記載しているが、実際の輪帯数は使用可能な程度に十分多いものとする。支持部3は、透明のガラス基板等から構成され、DOE成形部2よりも若干大きい径(もしくは、DOE成形部2と同径)の円盤状に形成される。
【0016】
このような回折レンズ1にDOE成形部2を成形するための成形型50を
図1に示す。本実施形態の成形型50は、
図1に示すような円盤状に形成された金型(スタンパーと称されることもある)であり、成形型50の表面側には、DOE成形部2(回折格子21)の形状を転写するのに対応する形状(反転形状)を有した第1転写面部51に加え、後述のシフト検査に用いる検査用マーク22(
図5を参照)の形状を転写するのに対応する形状(反転形状)を有した第2転写面部52が形成されている。第1転写面部51は、DOE成形部2(回折格子21)の形状に合わせて形成された円状の第1転写面51aを有している。第2転写面部52は、検査用マーク22の形状に合わせて形成された第1転写面51aを囲む円環状(輪帯状)の第2転写面52aを有している。
【0017】
なお、第1転写面部51および第2転写面部52は、図示しない精密旋盤を用いて、成形型50の回転対称軸を中心に回転させながら切削加工を行うことにより、同一の工程で形成される。そのため、第2転写面部52の回転対称軸が第1転写面部51の回転対称軸
と同軸となるように形成される。
【0018】
以上のように構成される成形型50を用いた回折レンズ1の製造方法について、
図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。まず予め、DOE成形部2を成形するための樹脂材20や、支持部3となるガラス基板30を作製した後、ガラス基板30の上に
図4(d)に示すような検査用マーク22を有するDOE成形部2aを成形する(ステップS101)。
【0019】
この成形工程において、まず、
図4(a)に示すように、ガラス基板30を図示しないステージ上に載置する。ここで、ガラス基板30は、円盤状に形成された透明のガラス基板である。次に、
図4(b)に示すように、ガラス基板30の上に樹脂材20を塗布する。ここで、樹脂材20は、ガラス基板30上で略円板状に広がる紫外線硬化樹脂である。次に、
図4(c)に示すように、本実施形態の成形型50を上方からガラス基板30上の樹脂材20に押し当てるとともに、ガラス基板30の下方から樹脂材20に向けて紫外線を照射する。そうすると、成形型50の第1転写面51aおよび第2転写面52aが樹脂材20に当接することにより回折格子21および検査用マーク22の形状が樹脂材20に転写されるとともに、形状が転写された樹脂材20が硬化し、成形型50を上方へ移動させて退避させた後、
図4(d)に示すように、ガラス基板30の上に回折格子21を囲む円環状の検査用マーク22を有するDOE成形部2aが成形される。
【0020】
このようにして、ガラス基板30の上に
図4(d)に示すようなDOE成形部2aを成形する。その後、ガラス基板30の中心軸AX1に対する回折格子21の中心軸AX2のシフト量を測定する(ステップS102)。このシフト検査工程において、まず、
図5に示すように、図示しないシフト検査用のカメラを用いて、ガラス基板30の外周部と検査用マーク22を含む高倍率の拡大画像を複数の測定位置(例えば、90度間隔の4つの測定位置)で撮像する。ガラス基板30の外周部と検査用マーク22を含む複数の(4つの)拡大画像A1〜A4を撮像すると、各拡大画像A1〜A4に対して画像処理を行うことで、各測定位置でのガラス基板30の外周部と検査用マーク22との径方向の間隔L1〜L4をそれぞれ測定する。
【0021】
本実施形態の成形型50は、第1転写面部51および当該第1転写面部51と同軸の第2転写面部52を有しており、回折格子21を囲む円環状の検査用マーク22が当該回折格子21と同軸に形成される。そのため、ガラス基板30の外周部と検査用マーク22を含む高倍率の拡大画像A1〜A4に基づき、検査用マーク22を介してシフト量を高精度に測定することが可能となる。なおこのとき、ガラス基板30の外周部と検査用マーク22が円形であるため、回折格子21の中心軸AX2(すなわち、検査用マーク22中心軸)がガラス基板30の中心軸AX1と合っているときには、各測定位置での径方向の間隔L1〜L4は同じであるが、回折格子21の中心軸AX2がガラス基板30の中心軸AX1に対してシフトしているときには、各測定位置での径方向の間隔L1〜L4が異なることになる。これにより、複数の測定位置での径方向の間隔L1〜L4に基づいて、シフト量を高精度に求めることができる。
【0022】
なお、求めたシフト量が所定の閾値の範囲内である場合には正常と判定され、求めたシフト量が所定の閾値を超えた場合には異常と判定される。また、シフト量を測定した後、旋盤等により検査用マーク22を含むDOE成形部2aの外周部をカットする仕上げ工程や、最終的な製品検査工程等を経て、DOE成形部2および支持部3からなる回折レンズ1が製造される。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、成形型50が、DOE成形部2(回折格子21)の形状を転写する第1転写面部51と、検査用マーク22の形状を転写する第2転
写面部52とを有しているため、成形加工により成形された回折格子21のシフト量を高精度に測定することができる。また、回折レンズ1(回折格子21)の大きさに拘わらず、同じ装置を用いてシフト量を高精度に測定することが可能である。
【0024】
また、第2転写面部52が第1転写面部51を囲む円環状に形成されることで、検査用マーク22を容易に成形することができる。
【0025】
また、第2転写面部52の回転対称軸が第1転写面部51の回転対称軸と同軸であるので、回折格子21および検査用マーク22が同軸に形成されて、シフト量をより高精度に測定することができる。
【0026】
なお、上述の実施形態において、例えば
図6に示すように、成形型60が、前述の第1転写面部51を有する第1成形型61と、第1成形型61とは別体の前述の第2転写面部52を有する第2成形型62とから構成されてもよい。第1成形型61および第2成形型62により同一工程で成形加工を行うようにすれば、上述の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。また、成形加工を行うレンズの種類を変更する場合、第1成形型61のみを変更すればよいので、成形型の作成の手間を軽減することができる。なおこのとき、第1成形型61(第1転写面部51)の中心軸が第2成形型62(第2転写面部52)の中心軸と同軸となるように形成されることが好ましい。
【0027】
また、上述の実施形態において、第2転写面部52が第1転写面部51を囲む円環状に形成されているが、これに限られるものではなく、例えば、第1転写面部51を囲む円弧状や直線状に形成されてもよく、第1転写面部51の周辺部に点在するようにしてもよい。すなわち、検査用マーク22は、円環状に限らず、回折格子21を囲む円弧状や直線状に形成されてもよく、また、回折格子21の周辺部に点在するようにしてもよく、検査用マークを介してシフト量を測定可能な構成であればよい。
【0028】
また、上述の実施形態において、紫外線硬化樹脂を用いてDOE成形部2aの成形を行っているが、これに限られるものではなく、熱硬化樹脂を使用したシートをガラス基板30上に載置し、本実施形態の成形型50を当該シートに押し当てて加熱処理を行うことで、DOE成形部2aの成形を行うようにしてもよい。また、樹脂材20に限らず、ガラス材(レンズプリフォーム)を用いてDOE成形部2aの成形を行うようにしてもよい。
【0029】
また、上述の実施形態において、支持部3としてガラス基板30を用いているが、これに限られるものではなく、例えば、プラスチック製の基板であってもよく、透明な材料であればよい。
【0030】
また、上述の実施形態において、シフト量を測定した後、検査用マーク22を含むDOE成形部2aの外周部をカットしているが、これに限られるものではなく、光学性能上問題がなければ、外周部をカットせずに検査用マーク22を残すようにしてもよい。
【0031】
また、上述の実施形態において、ガラス基板30の外周部と検査用マーク22を含む高倍率の拡大画像を90度間隔の4つの測定位置で撮像し、各測定位置でのガラス基板30の外周部と検査用マーク22との径方向の間隔L1〜L4をそれぞれ測定しているが、これに限られるものではなく、例えば、拡大画像を120度間隔の3つの測定位置で撮像し、各測定位置での径方向の間隔をそれぞれ測定してもよく、複数の測定位置で撮像すればよい。
【0032】
また、上述の実施形態において、単層のDOE成形部2を有する回折レンズ1を例に説明したが、これに限られるものではなく、密着複層型の位相フレネルレンズ(以下、PF
レンズと称する)であっても、本発明を適用可能である。例えば、
図7に示すような、低屈折率高分散の樹脂材料を用いて前述の成形型50により成形された第1のDOE層72と、第1のDOE層72を支持するガラス基板である第1の支持層73と、高屈折率低分散の樹脂材料を用いて第1のDOE層72に積層された第2のDOE層74と、第2のDOE層74を支持するガラス基板である第2の支持層75とを有したPFレンズ71であってもよい。また例えば、
図8に示すような、低屈折率高分散の樹脂材料を用いて前述の成形型50により成形された第1のDOE層82と、第1のDOE層82を支持するガラス基板である支持層83と、高屈折率低分散の樹脂材料を用いて第1のDOE層82に積層された第2のDOE層84とを有したPFレンズ81であってもよい。
【0033】
また、上述の実施形態において、回折光学素子の一種である回折レンズ1を例に説明したが、これに限られるものではなく、一般的なフレネルレンズや、非球面レンズ、マイクロレンズアレイ等の光学素子であっても、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 回折レンズ(回折光学素子)
2 DOE成形部 3 支持部
20 樹脂材
21 回折格子 22 検査用マーク
30 ガラス基板
50 成形型
51 第1転写面部(51a 第1転写面)
52 第2転写面部(52a 第2転写面)
60 成形型(変形例)
61 第1成形型 62 第2成形型
71 PFレンズ(回折光学素子の変形例)
81 PFレンズ(回折光学素子の変形例)