特許第5742619号(P5742619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5742619EUVL用反射型マスクの製造装置およびEUVL用マスクブランクスの製造装置
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  • 特許5742619-EUVL用反射型マスクの製造装置およびEUVL用マスクブランクスの製造装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742619
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】EUVL用反射型マスクの製造装置およびEUVL用マスクブランクスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20150611BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20150611BHJP
【FI】
   H01L21/30 531M
   G03F1/24
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-202837(P2011-202837)
(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公開番号】特開2013-65654(P2013-65654A)
(43)【公開日】2013年4月11日
【審査請求日】2014年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】三森 喬宏
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 博利
(72)【発明者】
【氏名】梅尾 直弘
【審査官】 松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−005031(JP,A)
【文献】 特開平08−088155(JP,A)
【文献】 特開2002−122340(JP,A)
【文献】 特開2003−264219(JP,A)
【文献】 特開2007−220773(JP,A)
【文献】 特開2008−090206(JP,A)
【文献】 特開2009−054744(JP,A)
【文献】 特開2009−198015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/00−21/02、21/027、
21/04−21/16
G03F 1/00− 1/86
F24F 7/04− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全面垂直層流で清浄空気が循環されるクリーンルームのワーキングエリア内に設置された、EUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置であって、
前記製造装置は、前記クリーンルームのワーキングエリアに導入された清浄空気をさらに清浄化し、超清浄化空気として前記製造装置内に導入するためのファンフィルタユニット、搬出入用の開口部、前記製造装置内の圧力を前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力に対し陽圧に維持しつつ、前記超清浄化空気を前記製造装置から排気するための排気用の開口部を有し、
前記製造装置内での超清浄化空気の流通方向において、前記搬出入用の開口部より下流側、かつ、前記排気用の開口部よりも上流側の位置に、呼吸機構用の開口部が設けられており、該呼吸機構用の開口部が、前記製造装置内の圧力と、前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力と、の圧力差の変動に応じて、前記製造装置への清浄空気の導入または前記製造装置から超清浄化空気の排気を行う呼吸機構を有し、前記呼吸機構は、一端が前記呼吸機構用の開口部と連通し、他端が前記クリーンルームのワーキングエリアへの清浄空気の導入部付近に位置する、清浄空気の導入管を有していることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置。
【請求項2】
前記導入管にフィルタが設けられた、請求項1に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置
【請求項3】
前記排気用の開口部は、前記製造装置内の圧力と、前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力と、の圧力差に応じて、開口面積を調節できる、請求項1または2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置
【請求項4】
前記呼吸機構用の開口部の開口面積をS1、前記排気用の開口部の開口面積をS2、前記搬出入用の開口部の開口時の開口面積をS3とするとき、これらが以下に示す関係を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置。
S1<S2、 S1<S3
【請求項5】
前記呼吸機構は、前記製造装置からの超清浄化空気の排気を防止するための逆止弁を有している、請求項1〜4のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスク(以下、本明細書において、「EUVL用反射型マスク」という。)、および、該EUVL用反射型マスクの製造に用いられるEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクス(以下、本明細書において、「EUVL用マスクブランクス」という。)の製造装置に関する。
なお、本発明でいうEUV光とは、軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられている。また、さらに回路パターンの線幅が70nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、ArFエキシマレーザを用いた液浸露光技術や二重露光技術が用いられているが、これも線幅が45nm世代までしかカバーできないと見られている。
【0003】
このような流れにあって、露光光源としてEUV光(極端紫外光)のうち代表的には波長13nmの光を用いたリソグラフィ技術が、回路パターンの線幅が32nm以降の世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUVリソグラフィ(以下、本明細書では「EUVL」と略する)の像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないために、屈折光学系は用いることができず、光学系はすべて反射光学系となる。
【0004】
反射光学系に用いられるEUVL用反射型マスクは、(1)基材、(2)基材上に形成された反射層、(3)反射層上に形成された吸収体層、から基本的に構成されるEUVL用マスクブランクスの吸収体層をパターニングしたものである。
EUVL用マスクブランクスの反射層としては、低屈折層であるモリブデン(Mo)層と高屈折層であるケイ素(Si)層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められたMo/Si多層反射膜が通常使用される。
吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
また、EUVL用マスクブランクスには、上述した反射層および吸収体層に加えて、吸収体層へのパターニングの際に、反射層を保護するための保護層や、マスクパターンの検査時のコントラストを向上させる目的で吸収体層上に形成されるマスクパターンの検査光に対する低反射層といった他の構成要素が設けられる場合もある。
EUVマスクブランクスの製造時において、反射層、吸収体層、保護層、および、低反射層は、イオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて基体上に成膜される。
【0005】
EUVL用マスクブランクスの製造時に実施されるスパッタリング法を用いた成膜や、EUVL用反射型マスクの製造時に実施される吸収体層のパターニングといった、EUVL用マスクブランクスおよびEUVL用反射型マスクの製造時に実施される各種処理は、一般的なクリーンルーム空間の清浄度を超えた、超高清浄な雰囲気で実施することが求められる。
このような超高清浄な雰囲気は、半導体製造装置に使用されるクリーンルーム内の局所クリーン化技術により達成される。この技術は、特許文献1、2に記載されているように、クリーンルーム内に送給された清浄外気の一部をフィルタによりさらに清浄化し、清浄化された空気を、個別ダクトを用いて超高清浄な雰囲気が要求される部位(具体的には、半導体製造装置内)に供給するものである。超高清浄な雰囲気を維持するため、清浄化された空気が供給される部位(具体的には、半導体製造装置内)の圧力は、クリーンルーム空間の圧力よりもやや高い圧力に維持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−88155号公報
【特許文献2】特開平2002−122340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
EUVL用反射型マスクの製造装置やEUVL用マスクブランクスの製造装置(以下、総称した「EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置」という。)に、クリーンルーム内の局所クリーン化技術を適用する場合、クリーンルーム内に送給された清浄外気の一部を、フィルタを用いてさらに清浄化し、個別ダクトを用いてEUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置に供給することになる。そして、超高清浄な雰囲気を維持するため、EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置内の圧力は、クリーンルーム空間の圧力よりもやや高い圧力に維持することとなる。
【0008】
しかしながら、EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置にクリーンルーム内の局所クリーン化技術を適用した場合に、扉の開閉等によるクリーンルーム内での圧力変動により、EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置内に異物が侵入し、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)に異物が付着する場合があることが明らかになった。
上述したように、EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置内の圧力は、クリーンルーム空間の圧力よりもやや高い圧力に維持されている。しかしながら、扉の開閉等によるクリーンルーム内での圧力変動によって、両者の圧力差が一時的に喪失したり、両者の圧力差が一時的に逆転する場合がある。特に、1)製造装置が複数のクリーンルームにまたがって設けられており、該製造装置に存在する複数の開口部がそれぞれ異なるクリーンルーム内に位置している場合、2)製造装置が設置されているクリーンルームと扉を介して隣接しているクリーンルームの空間の圧力が、製造装置が設置されているクリーンルーム空間の圧力より高くなっている場合、3)製造設備が設置されているクリーンルームに複数の扉があり、それらの扉の開閉が同時に行われた場合には、製造装置内とクリーンルーム空間との圧力差の一時的な喪失や逆転が助長されやすい。
【0009】
さらに、製造装置の開口部を開閉する場合も、開口部の開閉動作に伴う圧力変動によって、製造装置内とクリーンルーム空間との圧力差が一時的に喪失したり、両者の圧力差が一時的に逆転する場合がある。特に、開口部の形状が開き戸の形状をしている場合には、両者の圧力差の一時的な喪失や逆転が助長されやすい。
【0010】
EUVリソグラフィではEUVL用マスクのパターン寸法に対し、転写対象であるウェハ上の寸法は非常に小さい。したがって、縮小転写後に欠点にならない許容の異物サイズが、従来の透過光学系のリソグラフィに比べて、EUVL用マスクに関しては非常に小さい。
その結果、従来の半導体製造装置では問題にならなかった扉の開閉等によるクリーンルームでの圧力変動によって、EUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置内に異物が侵入し、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)に許容できないサイズの異物が付着する問題がしばしば見つかった。
【0011】
特許文献1、2に記載の局所クリーン化技術では、半導体製造装置内の圧力をクリーンルーム空間の圧力よりもやや高い圧力に維持するために、微差圧ダンパが設けられているが、扉の開閉等によるクリーンルームでの圧力変動のような、きわめて短時間の圧力変動には通常対応することができない。また、このようなきわめて短時間の圧力変動に対応可能な微差圧ダンパを設けた場合、微差圧ダンパの可動部が短い時間周期で頻繁に動作を繰り返すことになるので、かえって異物の発生源となるおそれがある。
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、クリーンルームでのきわめて短時間の圧力変動による影響が抑制されたEUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するため、本発明は、全面垂直層流で清浄空気が循環されるクリーンルームのワーキングエリア内に設置された、EUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置であって、
前記製造装置は、前記クリーンルームのワーキングエリアに導入された清浄空気をさらに清浄化し、超清浄化空気として前記製造装置内に導入するためのファンフィルタユニット、搬出入用の開口部、および、前記製造装置内の圧力を前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力に対し陽圧に維持しつつ、前記超清浄化空気を前記製造装置から排気するための排気用の開口部を有し、
前記製造装置内での超清浄化空気の流通方向において、前記搬出入用の開口部より下流側、かつ、前記排気用の開口部よりも上流側の位置に、呼吸機構用の開口部が設けられており、該呼吸機構用の開口部が、前記製造装置内の圧力と、前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力と、の圧力差の変動に応じて、前記製造装置への清浄空気の導入または前記製造装置から超清浄化空気の排気を行う呼吸機構を有することを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクまたはEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクスの製造装置を提供する。
【0014】
本発明の製造装置において、前記呼吸機構は、一端が前記呼吸機構用の開口部と連通し、他端が前記クリーンルームのワーキングエリアへの清浄空気の導入部付近に位置する、清浄空気の導入管を有することが好ましい。
ここで、前記導入管にはフィルタが設けられていてもよい。
【0016】
本発明の製造装置において、前記排気用の開口部は、前記製造装置内の圧力と、前記クリーンルームのワーキングエリア内の圧力と、の圧力差に応じて、開口面積を調節できることが好ましい。
【0017】
本発明の製造装置において、前記呼吸機構用の開口部の開口面積をS1、前記排気用の開口部の開口面積をS2、前記搬出入用の開口部の開口時の開口面積をS3とするとき、これらが以下に示す関係を満たすことが好ましい。
S1<S2、 S1<S3
【0018】
また、本発明の製造装置において、前記呼吸機構は、前記製造装置からの超清浄化空気の排気を防止するための逆止弁を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のEUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置では、クリーンルームの扉部の開閉等によって、製造装置内の圧力と、クリーンルームのワーキングエリア内の圧力と、圧力差にきわめて短時間の変動が生じた場合であっても、製造装置に設けられた呼吸機構が受動的な圧力ダンパとして機能することで、該きわめて短時間の圧力差の変動による影響を抑制することができる。すなわち、圧力差のきわめて短時間の変動が生じた場合であっても、製造装置内の圧力をワーキングエリア内の圧力に対し陽圧に維持することができ、製造装置内に異物が侵入することを防止でき、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)への異物の付着を防止できる。
また、本発明においては、製造装置内の圧力がワーキングエリア内の圧力に対し負圧となる場合であっても、負圧側への圧力変動がきわめて短時間であり、かつ、比較的軽微であるので、負圧側への圧力変動による影響を最小限に抑制し、製造装置内に異物が侵入することを防止でき、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)への異物の付着を防止できる。具体的には、例えば負圧側への圧力変動の発生時間が10秒以内であり、かつ、負圧側への圧力変動を−1Pa/秒以下である。
製造装置内の圧力をワーキングエリア内の圧力に対し大幅に高い圧力に設定することでも、製造装置内の圧力がワーキングエリア内の圧力に対し常に陽圧に維持することは可能であるが、製造装置に大量の超清浄化空気を導入する必要があるため、設備維持費を安くすることができない。また、製造装置への超清浄化空気の導入量に対して、製造装置からの超清浄化空気の排気量が極端に少ない状態になるため、製造装置内に発生した異物が該製造装置内で滞留・循環する現象が発生し、かえってEUVL用マスク(マスクブランクス)への異物の付着を生じさせるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明のEUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置の一構成例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明について説明する。
図1は、本発明のEUVL用マスク(マスクブランクス)の製造装置の一構成例を示した模式図である。
図1において、EUVL用マスク(マスクブランクス)製造装置20は、クリーンルーム10のワーキングエリア11内に設置されている。
クリーンルーム10の天井部12から、天井HEPAフィルター(図示せず)等の手段により、清浄空気がワーキングエリア11内に導入される。清浄空気は、矢印xで示すように、全面垂直層流としてワーキングエリア11内を流通し、床下部13へと流出する。床下部13へと流出した清浄空気は、循環流路(図示せず)を通じてクリーンルーム10の天井部12から再度ワーキングエリア11内に導入される。このようにして、ワーキングエリア11内を全面垂直層流として清浄空気が循環する。クリーンルーム10には入退出用の扉部14が設けられている。
なお、クリーンルーム10のうち、全面垂直層流として清浄空気が循環するのはワーキングエリア11であればよく、クリーンルーム内のワーキングエリア以外のエリア、例えば、メンテナンスエリアは、全面垂直層流として清浄空気が循環しておらず、乱流が生じていてもよい。
【0022】
EUVL用マスク(マスクブランクス)製造装置20の上部には、ワーキングエリア内11内に導入された清浄空気をさらに清浄化し、超清浄化空気として製造装置20内に導入するためのファンフィルタユニット(FFU)25が設けられている。
製造装置20は、載置台23により上部ユニット21および下部ユニット22に分かれる。載置台23には、製造後のEUVL用マスク(マスクブランクス)や、これらの製造に使用される基材(すなわち、ガラス基板等)を設置するためのカセット30が載置されている。また、上部ユニット21には、カセット30の搬出入用の開口部24が設けられている。下部ユニット22には、ファンフィルタユニット(FFU)25から導入された超清浄化空気を排気するための排気用の開口部26が設けられている。このような構成により、ファンフィルタユニット(FFU)25から製造装置20内に導入された超清浄化空気は、矢印yで示すように、製造装置20の上部ユニット21から下部ユニット22へと移動し、排気用の開口部26からクリーンルーム10の床下部13へと排出される。なお、上部ユニット21と、下部ユニット22と、を分ける載置台30には、超清浄化空気が流通するための開口部が設けられているため、載置台30の存在により、上部ユニット21から下部ユニット22への超清浄化空気の移動が阻害されることがない。
【0023】
ここで、矢印yで示す製造装置20内での超清浄化空気の流通方向における位置関係に着目すると、下部ユニット22に設けられた排気用の開口部26は、上部ユニット21に設けられた搬出入用の開口部24よりも下流側に位置していることになる。
本発明の製造装置では、このように、製造装置内での超清浄化空気の流通方向における位置関係に着目した場合に、超清浄化空気を製造装置から排気するための排気用の開口部26が、搬出入用の開口部24より下流側に位置する必要がある。超清浄化空気を製造装置から排気するための排気用の開口部26が、搬出入用の開口部24よりも上流側に位置すると、製造装置内での超清浄化空気の流れ、特に、カセット30が載置された載置台23付近での超清浄化空気の流れ、に乱れが生じ、異物が生じさせるおそれがある。
【0024】
排気用の開口部26は、製造装置20内の圧力と、クリーンルーム10のワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差に応じて、開口面積を調節することができる。排気用の開口部26の開口面積を調節することによって、製造装置20内の圧力をクリーンルーム10のワーキングエリア11内の圧力に対し陽圧に維持し、ワーキングエリア11から製造装置20内に異物が侵入するのを防止している。
【0025】
しかしながら、上述したように、扉部14の開閉等によるクリーンルーム10のワーキングエリア11での圧力変動によって、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が一時的に喪失したり、両者の圧力差が一時的に逆転する場合がある。
上述したように、排気用の開口部26は、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差に応じて、開口面積を調節することができるが、扉部14の開閉等によるワーキングエリア11内での圧力変動のような、きわめて短時間の圧力変動には対応することは困難である。
本発明の製造装置20では、呼吸機構を設けることで、ワーキングエリア11内でのきわめて短時間の圧力変動による影響を抑制することができ、製造装置20内の圧力をワーキングエリア11内の圧力に対し陽圧に維持することができ、製造装置内に異物が侵入することを防止でき、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)への異物の付着を防止できる。
また、製造装置20内の圧力がワーキングエリア11内の圧力に対し負圧となる場合であっても、負圧側への圧力変動がきわめて短時間であり、かつ、比較的軽微であるので、ば、負圧側への圧力変動による影響を最小限に抑制し、製造装置内に異物が侵入することを防止でき、製造されるEUVL用マスク(マスクブランクス)への異物の付着を防止できる。具体的には、たとえば負圧側への圧力変動の発生時間が10秒以内であり、かつ、負圧側への圧力変動が−1Pa/秒以下である。
【0026】
本発明における呼吸機構とは、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差の変動に応じて、製造装置20への清浄空気の導入または製造装置20から超清浄化空気の排気を行う手段である。製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が減少した場合は製造装置20へ清浄空気を導入することによって圧力差の減少を抑制する。また、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が逆転した場合、すなわち、製造装置20内の圧力がワーキングエリア11内の圧力に対し負圧となった場合は、製造装置20へ清浄空気を導入することによって、負圧側への圧力変動による影響を最小限に抑制する。
一方、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が増加した場合は、製造装置20から超清浄化空気の排気を行うことによって、圧力差の増加を抑制する。
このようにして、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差に変動が生じた場合に、呼吸機構が受動的な圧力ダンパとして機能することで、ワーキングエリア11内でのきわめて短時間の圧力変動による影響を抑制する。
【0027】
図1に示す呼吸機構は導入管28として構成される。該導入管28の一端28bは、製造装置20の下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27と連通し、他端28aがクリーンルーム10の天井部12付近に位置する。これにより、ワーキングエリア11への清浄空気の導入部である、天井部12付近の清浄度の高い清浄空気を製造装置20へ導入できる。
製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が減少した場合や、圧力差が逆転した場合は、呼吸機構として機能する導入管28の他端28aから清浄空気が取り込まれ、該導入管28の一端から下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27を通じて製造装置20へと導入される。上述したように、導入管28の他端28aは、ワーキングエリア11への清浄空気の導入部である、クリーンルーム10の天井部12付近に位置しているので、清浄度の高い清浄空気を製造装置20へ導入することができる。
一方、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が増加した場合は、下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27と連通する導入管28の一端28bを通じて、導入管28の他端28aから製造装置20内の超清浄化空気が排気される。
なお、導入管28の他端28aが、ワーキングエリア11の下方、たとえば、床付近に存在すると、ワーキングエリア11内を流通する過程で清浄度が低下した清浄空気が取り込まれることになり、製造装置10内への異物を侵入させるおそれがある。
【0028】
ここで、矢印yで示す製造装置20内での超清浄化空気の流通方向における位置関係に着目すると、導入管28の一端と連通する下部ユニット22の呼吸機構用の開口部27は、上部ユニット21に設けられた搬出入用の開口部24よりも下流側に位置し、かつ、排気用の開口部26よりも上流側に位置することになる。
本発明の製造装置では、このように、製造装置内での超清浄化空気の流通方向における位置関係に着目した場合に、製造装置に設けられた呼吸機構用の開口部27が、搬出入用の開口部24より下流側に位置し、かつ、排気用の開口部26よりも上流側に位置する必要がある。呼吸機構用の開口部27が、搬出入用の開口部24よりも上流側に位置すると、呼吸機構からの製造装置20への清浄空気の導入、または、製造装置20から呼吸機構への超清浄化空気の排気が行われた際に、製造装置内での超清浄化空気の流れ、特に、カセット30が載置された載置台23付近での超清浄化空気の流れ、に乱れが生じ、異物が生じさせるおそれがある。
また、呼吸機構用の開口部27が、排気用の開口部26よりも下流側に位置すると、呼吸機構からの製造装置20への清浄空気の導入、または、製造装置20から呼吸機構への超清浄化空気の排気が行われた際に、製造装置内での超清浄化空気の流れ、特に、カセット30が載置された載置台23付近での超清浄化空気の流れ、に乱れが生じ、異物が生じさせるおそれがあることに加えて、図1における呼吸機構用の開口部27と、排気用の開口部26と、の位置関係が入れ替わることになるため、呼吸機構からの製造装置20への清浄空気の導入や、製造装置20から呼吸機構への超清浄化空気の排気が行われない状態(つまり、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差の変動が無い状態)においても、製造装置内での超清浄化空気の流れ、特に、カセット30が載置された載置台23付近での超清浄化空気の流れ、に乱れが生じ、異物が生じさせるおそれがある。
【0029】
呼吸機構は、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差の変動に応じて、製造装置20への清浄空気の導入または製造装置20から超清浄化空気の排気を行う手段であるが、圧力差の変動が無い状況では、呼吸機構から製造装置20への清浄空気の導入や、製造装置20から呼吸機構への超清浄化空気の排気は起こらないことが好ましい。
このため、製造装置20に設けられた呼吸機構用の開口部27と、呼吸機構以外の目的で製造装置20に設けられた開口部(すなわち、搬出入用の開口部24、排気用の開口部26)と、を比較した場合、呼吸機構用の開口部27のほうが小さいことが好ましい。具体的には、呼吸機構用の開口部27の開口面積をS1、排気用の開口部26の開口面積をS2、搬出入用の開口部24の開口時の開口面積をS3とするとき、これらが以下に示す関係を満たすことが好ましい。
S1<S2、 S1<S3
さらに、S1<1/2×S2の関係を満たすことが好ましい。
【0030】
また、呼吸機構の機能としては、製造装置20内の圧力とワーキングエリア11内の圧力との圧力差が増加した場合に製造装置20から超清浄化空気の排気を行う機能よりも、製造装置20内の圧力とワーキングエリア11内の圧力との圧力差が減少した場合や、圧力差が逆転した場合に製造装置20へ清浄空気を導入のほうがより重要であるので、呼吸機構の機能を後者に限定するため、製造装置20からの超清浄化空気の排気を防止するための逆止弁を導入管28に設けてもよい。
【0031】
本発明における呼吸機構は、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差の変動に応じて、製造装置20への清浄空気の導入または製造装置20から超清浄化空気の排気を行うことができる限り、上記した構成に限定されない。
呼吸機構の他の構成としては、例えば、製造装置20の下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27に導入管28を連通させる代わりに、該開口部27にHEPAフィルタ等のフィルタを取り付けたものが挙げられる。このような構成であっても、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が減少した場合や、圧力差が逆転した場合は、下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27から製造装置20内に清浄空気を導入することができ、製造装置20内の圧力と、ワーキングエリア11内の圧力と、の圧力差が増加した場合は、下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27から製造装置20内の超清浄化空気が排気することができる。
ここで、呼吸機構の機能を前者に限定するために、製造装置20からの超清浄化空気の排気を防止するための逆止弁を呼吸機構用の開口部27に設けてもよい。
【0032】
なお、図1に示した態様の呼吸機構についても、製造装置20内に導入する清浄空気の清浄度を高めるために、ガスパーティクルフィルタ等のフィルタを導入管28に設けてもよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
本実施例では、図1に示す製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後にガラス基板を取り出した。排気系26の開口部の開口面積を調節することによって、製造装置20内の圧力をクリーンルーム10のワーキングエリア11内の圧力に対して3Pa陽圧に保持していた。ここで、導入管28の一端28bと連通している下部ユニット22の呼吸機構用の開口部27の開口面積は、排気用の開口部26の開口面積、および、搬出入用の開口部24の開口時の開口面積よりも小さかった。また、ガラス基板の設置後、クリーンルーム10の開き戸形状の扉部14の開閉動作を10回実施した。ここで、扉部14の開閉動作時には、製造装置20内の圧力がワーキングエリア11内の圧力に対し一時的に負圧となったが、負圧側への圧力変動の発生時間が10秒以内であり、かつ、負圧側への圧力変動は−1Pa/秒以下であった。
取り出したガラス基板について、0.2μm以上の大きさの異物の有無を市販の欠陥検査装置(レーザーテック社製M1320)を用いて確認した。
その結果、0.2μm以上の大きさの異物の付着は確認されなかった。この結果から、扉部14の開閉動作による、製造装置20内の負圧側への圧力変動による影響が抑制されたことが確認された。
【0034】
(実施例2)
排気系の開口部26の開口面積を調節することによって、製造装置20内の圧力をクリーンルーム10のワーキングエリア11内の圧力に対して0.5Pa陽圧に保持した以外は実施例1と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物の付着は確認されなかった。この結果から、扉部14の開閉動作による、製造装置20内の負圧側への圧力変動による影響が抑制されたことが確認された。
【0035】
(実施例3)
HEPAフィルタを備えた導入管28を用いた以外は実施例1と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物の付着は確認されなかった。この結果から、扉部14の開閉動作による、製造装置20内の負圧側への圧力変動による影響が抑制されたことが確認された。
【0036】
(実施例4)
図1に示す導入管28の代わりに、製造装置20の下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27にHEPAフィルタを取り付けたものを使用した以外は実施例1と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物の付着は確認されなかった。この結果から、扉部14の開閉動作による、製造装置20内の負圧側への圧力変動による影響が抑制されたことが確認された。
【0037】
(比較例1)
排気用の開口部26の開口面積を調節することによって、製造装置20内の圧力をクリーンルーム10のワーキングエリア11内の圧力に対して常時1Pa陰圧に保持した以外は実施例1と同様の手順を実施した。
ワーキングエリア11から製造装置20への気流の逆流が確認された。そのため、ガラス基板への異物の付着の有無は確認しなかった。
【0038】
(比較例2)
製造装置20内での超清浄化空気の流通方向において、排気用の開口部26を搬出入用の開口部24よりも上流側に設けた以外は実施例1と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物が3個付着していることが確認された。製造装置内での超清浄化空気の流れに乱れが生じたことがガラス基板への異物の付着の原因と考えられる。
【0039】
(比較例3)
製造装置20の下部ユニット22に呼吸機構用の開口部27が設けられておらず、該開口部27に一端28bが連通する導入管28が設けられていない点以外は実施例1と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物が3個付着していることが確認された。この結果から、扉部14の開閉動作による、製造装置20内の負圧側への圧力変動により、製造装置20内に異物が侵入したことがガラス基板への異物の付着の原因と考えられる。
【0040】
(比較例4)
製造装置20の下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27からHEPAフィルタを取り外した以外は実施例4と同様の手順を実施した。
製造装置20のカセット30にガラス基板を設置し1時間放置した後に取り出したガラス基板には0.2μm以上の大きさの異物が7個付着していることが確認された。下部ユニット22に設けられた呼吸機構用の開口部27から製造装置20内に異物が侵入したことがガラス基板への異物の付着の原因と考えられる。
【符号の説明】
【0041】
10:クリーンルーム
11:ワーキングエリア
12:天井部
13:床下部
14:扉部
20:EUVL用マスク(マスクブランクス)製造装置
21:上部ユニット
22:下部ユニット
23:載置台
24:搬出入用開口部
25:ファンフィルタユニット
26:排気用の開口部
27:呼吸機構用の開口部
28:導入管
28a:他端
28b:一端
30:カセット
図1