(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板と、該透明基板上に形成された光散乱層と、該光散乱層上に形成された透明な第1の電極と、該第1の電極上に形成された有機発光層と、該有機発光層上に形成された第2の電極とを有する有機LED素子であって、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、
前記光散乱層は、前記透明基板の側にある底面、前記第1の電極の側にある上面、および側面を有し、前記光散乱層の前記側面は、前記上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有し、
前記第1の電極は、前記光散乱層の前記側面を連続的に覆うようにして設置されていることを特徴とする有機LED素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光散乱層が樹脂で構成される場合、光散乱層の上面や側面上に、他の層を均一な厚さで連続的に設置することは、極めて難しいという問題がある。以下、具体的に説明する。
【0008】
特許文献1では、該文献の
図4に示されるように、発明の構成を部分断面図で開示しているため、基板と光散乱層と透明電極の、それぞれの位置関係は、不明確である。しかしながら、一般に、有機LED素子は、特許文献2の
図4に示されるような構成をしている場合が多い。従って、特許文献1の光散乱層を特許文献2に適用すると、光散乱層は、特許文献2の
図4の陽極12とガラス基板11との間に設けられることになる。
【0009】
ここで、特許文献2の
図4に示されるように、EL素子13は、ガラス基板11上から陽極12上に連続的に形成されるため、段差部を有している。特許文献2の
図4の構成では、この段差部の高低差は、陽極12の厚さ分に相当する。
【0010】
しかしながら、ガラス基板11と陽極12との間に光散乱層が設けられた場合、その段差部の高低差は、陽極12の厚さに光散乱層の厚さが加わったものとなり、より大きくなる。また、一般に、樹脂からなる層の側面は、その上面に対してほぼ垂直となっている場合が多い。
【0011】
このような状態では、EL素子13を段差部に形成することが極めて難しくなる。あるいは、仮にEL素子13を段差部に形成することができたとしても、EL素子13が所望の状態(例えば、厚さ、均一性、密着性)を有することができなくなるという問題が生じ得る。
【0012】
また、上述の問題は、陽極12においても生じ得る。
【0013】
具体的には、特許文献2の
図4の構成の場合、陽極12とガラス基板11との間には、段差部が存在しない。しかしながら、ガラス基板11と陽極12との間に光散乱層が設けられた場合、ガラス基板11と陽極12との間には、光散乱層の厚さに対応した段差部が生じるようになる。また、上述したように、樹脂からなる光散乱層の側面は、その上面に対してほぼ垂直となっている場合が多い。
【0014】
このような状態では、陽極12を段差部に形成することが極めて難しくなる。あるいは、仮に陽極12を段差部に形成することができたとしても、陽極12が所望の状態(例えば、厚さ、均一性、密着性)を有することができなくなるという問題が生じ得る。さらに、この場合、陽極12の厚さが局部的に薄くなり、そこに電流が集中するようになるため、陽極12が劣化したり、さらには破断してしまう可能性がある。
【0015】
また樹脂製の光散乱層は、熱収縮が生じやすく、仮に陽極12の薄膜で光散乱層全体を被覆することができたとしても、そのような構成では、光散乱層の熱収縮の際に、特に光散乱層の側面近傍において、陽極12に剥離やワレが生じる可能性が高い。陽極12にこのような剥離やワレが生じると、有機LED素子が適正な発光動作を行うことができなくなるという問題がある。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、本発明では、従来に比べて信頼性の高い有機LED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下の有機LED素子、透光性基板、および有機LED素子の製造方法を提供する。
(1)透明基板と、該透明基板上に形成された光散乱層と、該光散乱層上に形成された透明な第1の電極と、該第1の電極上に形成された有機発光層と、該有機発光層上に形成された第2の電極とを有する有機LED素子であって、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、
前記光散乱層は、前記透明基板の側にある底面、前記第1の電極の側にある上面、および側面を有し、前記光散乱層の前記側面は、前記上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有し、
前記第1の電極は、前記光散乱層の前記側面を連続的に覆うようにして設置されていることを特徴とする有機LED素子。
(2)さらに、第1の電極端子および第2の電極端子を有し、
前記第1の電極端子は、前記透明基板上に設置された第1のバリア層と、該第1のバリア層上に設置され、前記第1の電極と電気的に接続された第1の導電層とで構成され、
前記第2の電極端子は、前記透明基板上に設置された第2のバリア層と、該第2のバリア層上に設置され、前記第2の電極と電気的に接続された第2の導電層とで構成されることを特徴とする(1)に記載の有機LED素子。
(3)前記第1のバリア層は、前記光散乱層で構成され、および/または
前記第2のバリア層は、前記光散乱層で構成されることを特徴とする(2)に記載の有機LED素子。
(4)前記第1の導電層は、前記第1の電極と同じ材料で構成され、および/または
前記第2の導電層は、前記第1の電極と同じ材料で構成されることを特徴とする(2)または(3)に記載の有機LED素子。
(5)前記散乱物質は、気泡および/または前記ベース材を構成するガラスの析出結晶であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の有機LED素子。
(6)前記光散乱層中における前記散乱物質の含有率は、1vol%以上であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の有機LED素子。
(7)前記第1の電極は、厚さが50nm〜1.0μmの範囲であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれか一つに記載の有機LED素子。
(8)前記光散乱層は、厚さが5μm〜50μmの範囲であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の有機LED素子。
(9)透明基板と、該透明基板上に形成された光散乱層と、該光散乱層上に形成された透明電極と、を有する透光性基板であって、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、
前記光散乱層は、前記透明基板の側にある底面、前記透明電極の側にある上面、および側面を有し、前記光散乱層の前記側面は、前記上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有し、
前記透明電極は、前記光散乱層の前記側面を連続的に覆うようにして設置されていることを特徴とする透光性基板。
(10)前記散乱物質は、気泡および/または前記ベース材を構成するガラスの析出結晶であることを特徴とする(9)に記載の透光性基板。
(11)透明基板と、光散乱層と、第1の電極と、有機発光層と、第2の電極とを有する有機LED素子を製造する方法であって、
(a)透明基板上に光散乱層を形成するステップであって、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、前記光散乱層は、前記透明基板の側にある底面、上面、および側面を有し、前記光散乱層の前記側面は、前記上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有するステップと、
(b)前記光散乱層上に、透明な第1の電極を設置するステップであって、
前記第1の電極は、前記光散乱層の前記側面を連続的に覆うようにして設置されるステップと、
(c)前記第1の電極上に、有機発光層を設置するステップと、
(d)前記有機発光層上に、第2の電極を設置するステップと、
を有する有機LED素子の製造方法。
(12)前記ステップ(a)は、
(a1)透明基板上に、ガラス粉末を含むペーストを設置するステップ、および
(a2)前記ペーストが設置された前記透明基板を、前記ガラス粉末の軟化温度±30℃の温度範囲で焼成するステップであって、これにより前記ベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質が形成されるステップ
を有することを特徴とする(11)に記載の有機LED素子の製造方法。
(13)透明基板、光散乱層、第1の電極、有機発光層、第2の電極、および封止基板を備える有機LED素子であって、
前記透明基板は、上面に、第1領域、第2領域および第3領域を有し、前記第2領域は、前記第1領域と隣接し、該第1領域は、前記第3領域と隣接しており、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、前記透明基板上に、前記第1領域、第2領域および第3領域にわたって設置され、
前記第1の電極は、前記光散乱層上に、前記第1領域と前記第2領域に延在するように設置され、
前記有機発光層は、前記第1の電極および前記光散乱層と接するようにして、前記透明基板上面の前記第1領域内に設置され、
前記第2の電極は、前記有機発光層の少なくとも一部および前記光散乱層の一部と接するようにして、前記第1領域と前記第3領域に延在するように設置され、
前記封止基板は、前記第2の電極の前記第1領域に設置されている部分を覆うようにして、前記第1領域に設置されることを特徴とする有機LED素子。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、従来に比べて信頼性の高い有機LED素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。
【0021】
まず、本発明の特徴をより良く理解するため、
図1を用いて、特許文献1に記載された有機LED素子のような、従来の有機LED素子の構成について簡単に説明する。
【0022】
図1には、従来の有機LED素子の簡略的な断面図を示す。
【0023】
図1に示すように、従来の有機LED素子1は、透明基板10と、光散乱層20と、透明電極(陽極)30と、有機発光層40と、対向電極(陰極)50とをこの順に積層することにより構成される。
図1の例では、有機LED素子1の下側の表面(すなわち透明基板10の露出面)が光取り出し面60となる。有機発光層40は、通常の場合、発光層の他、電子輸送層、電子注入層、ホール輸送層、ホール注入層など、複数の層で構成される。そのような有機発光層40の構成は、当業者には良く知られているため、ここではこれ以上説明しない。
【0024】
光散乱層20は、入射する光を複数の方向に散乱する特性を有する。例えば、光散乱層20は、樹脂のような透明材料のマトリクスに、その透明材料とは屈折率の異なる散乱物質(例えば気泡、粒子など)を分散させることにより構成される。散乱物質の粒径は、最大約10μm程度に達し、このため、光散乱層20は、少なくとも20μm〜30μm程度のオーダーの厚さを有する。
【0025】
光散乱層20は、入射光を散乱させ、光散乱層20に隣接する層との界面での光の反射を軽減することができる。このため、有機LED素子1内で全反射される光の量が少なくなる。従って、
図1の構成の有機LED素子1では、光散乱層20を有さない構成に比べて、光取り出し面60から出射される光量を向上させることができる。
【0026】
ところで、
図1の有機LED素子1では、素子の発光面積は、有機発光層40のX方向の幅L1によって定まる。また、素子1の発光面積を増加させるためには、X方向における有機発光層40の有効発光領域が広がるように、透明電極30で、光散乱層20の側面22を含む全体を覆い、さらに、透明電極30の全体を覆うように有機発光層40を設置することが必要となる。
【0027】
しかしながら、光散乱層20は、前述のように比較的厚い樹脂層で構成されているため、光散乱層20の側面22を含む光散乱層20の全体を、厚さがせいぜい100nm程度しかない透明電極30のような薄膜で覆うことは極めて難しい。例えば、一般的なスパッタ法のような成膜法では、透明電極30を光散乱層20の側面22に連続的に設置することは、不可能である。
【0028】
また、樹脂は、比較的熱収縮が生じやすいという特性を有する。従って、光散乱層20が樹脂で構成される場合、仮に透明電極30で光散乱層20全体を被覆することができたとしても、光散乱層20の熱収縮の際に、特に光散乱層20の側面22の近傍において、透明電極30に剥離やワレが生じる可能性が極めて高くなる。また、透明電極30にそのような剥離やワレが生じると、有機LED素子1が適正な発光動作を行うことができなくなってしまうという問題がある。
【0029】
以上のように、従来の有機LED素子1は、素子の発光面積を増加させることが難しい構成になっている。
【0030】
これに対して、本発明では、
透明基板と、該透明基板上に形成された光散乱層と、該光散乱層上に形成された透明な第1の電極と、該第1の電極上に形成された有機発光層と、該有機発光層上に形成された第2の電極とを有する有機LED素子であって、
前記光散乱層は、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有し、
前記光散乱層は、前記透明基板の側にある底面、前記第1の電極の側にある上面、および側面を有し、前記光散乱層の前記側面は、前記上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有し、
前記第1の電極は、前記光散乱層の前記側面を連続的に覆うようにして設置されていることを特徴とする有機LED素子が提供される。
【0031】
このような有機LED素子では、光散乱層の側面は、緩やかな傾斜を有するため、第1の電極が薄膜状であっても、第1の電極によって、光散乱層の側面に連続的な膜を形成することができる。従って、本発明による有機LED素では、有機LED素子の発光面積を有意に増加させることが可能となる。
ここで、光散乱層の側面が緩やかな斜面を有するとは、光散乱層側面の各部位における接線と底面とで形成される内角の最大値が90°未満であることを意味する。ここで、内角とは前記接線と底面とで形成される角度のうち、光散乱層の側に形成される角度を意味する。
【0032】
(第1の構成)
以下、
図2および
図3を参照して、本発明の構成についてより詳しく説明する。
【0033】
図2には、本発明による有機LED素子の上面図の一例を概略的に示す。また、
図3には、
図2に示した本発明による有機LED素子のA−A'断面を概略的に示す。
【0034】
図2および
図3に示すように、本発明による有機LED素子100は、透明基板110と、光散乱層120と、第1の電極(陽極)130と、有機発光層140と、第2の電極(陰極)150とを、この順に積層することにより構成される。
【0035】
図2に示すように、第1の電極130は、一つの辺の一部から水平方向(X方向)に延在する露出部分を有し、この露出部分は、第1の電極端子170を構成する。第2の電極150は、一つの辺の一部から水平方向(X方向)に延在する部分を有し、この部分は、第2の電極端子180を構成する。
【0036】
光散乱層120は、第1の屈折率を有するガラス製のベース材121と、該ベース材121中に分散された、前記ベース材121とは異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質124とで構成される。光散乱層120の厚さは、例えば5μm〜50μmの範囲である。なお、光散乱層120の厚さとは、光散乱層の中で最も厚い部分の厚さを意味する。
【0037】
第1の電極130は、例えばITO(インジウムスズ酸化物)のような透明金属酸化物薄膜で構成され、厚さは、50nm〜1.0μm程度である。一方、第2の電極150は、例えばアルミニウムや銀のような金属で構成される。
【0038】
ここで、
図3に示すように、光散乱層120は、側面122を有する。この側面122は、Z方向に略平行な面ではなく、X方向に沿って緩やかに傾斜した表面形状を有する。
【0039】
このような側面122の形状では、第1の電極130が薄膜状であっても、第1の電極130で、光散乱層120の側面122全体を被覆することが可能となる。そのため、光散乱層120は、底面を除く全体を第1の電極130で覆うことが可能になる。
【0040】
なお、同様に、第1の電極130は、底面および第1の電極端子170を除く全体が有機発光層140で覆われている。また、有機発光層140の端面を除く各露出部分は、第2の電極150で覆われている。
【0041】
このような有機LED素子100の構成では、発光に寄与するX方向の幅(すなわち、有機発光層140で覆われた第1の電極130の幅)は、L2となり、前述の
図1に示したような従来の有機LED素子に比べて、発光面積を有意に向上させることができる。
【0042】
なお、本発明による有機LED素子100では、第1の電極130によって、光散乱層120の側面122を覆うことができる。従って、本発明では、第1の電極130をパターン化する工程において、光散乱層120がエッチング剤により、側面122の側から侵食されるという問題を回避または抑制することができる。
【0043】
また、本発明では、有機LED素子100の廃棄後に、光散乱層120を構成する希少材料のリサイクルを行うことができるという追加の特徴が得られる。
【0044】
例えば、第1の電極130がITOを含み、光散乱層120がビスマス酸化物(Bi
2O
3)を含む場合、以下の手順で、インジウムおよびビスマスを回収することができる。
【0045】
まず、有機LED素子100全体を有機溶剤等の溶剤中に浸漬させる。これにより、有機層140が溶解され、これとともに透明基板110から第2の電極150が剥離される。しかしながら、光散乱層120は、側面122を含む全体が第1の電極130で覆われているため、この処理の間、変化することはない。
【0046】
次に、第1の電極130を強酸で溶解させると、これと同時に、光散乱層120も溶解する。その後、置換析出や電解精練を経ることにより、インジウムおよびビスマスを回収することができる。
【0047】
(第2の構成)
次に、
図4〜
図6を参照して、本発明による有機LED素子の別の構成について説明する。
【0048】
図4には、本発明による別の有機LED素子の上面図の一例を概略的に示す。また、
図5には、
図4に示した有機LED素子のB−B'断面を概略的に示す。さらに、
図6には、
図4に示した有機LED素子のC−C'断面を概略的に示す。
【0049】
図4〜
図6に示すように、この有機LED素子200は、前述の有機LED素子100とほぼ同様の構成を有する。従って、
図4〜
図6において、
図2、
図3と同様の部材には、
図2、
図3と同様の参照符号が付されている。
【0050】
ただし、
図5、
図6において明確に示されているように、有機LED素子200では、2つの電極端子の構造が、前述の有機LED素子100とは異なっている。
【0051】
すなわち、有機LED素子200は、第1の電極端子270を有し、この第1の電極端子270は、
図5に示すように、バリア層220と、該バリア層220の上部に設置された導電層230とで構成される。また、有機LED素子200は、第2の電極端子280を有し、この第2の電極端子280は、
図6に示すように、バリア層240と、該バリア層240の上部に設置された導電層250とで構成される。
【0052】
ここで、第1の電極端子270の導電層230は、第1の電極130と電気的に接続される。例えば、
図5の例では、導電層230は、第1の電極130の延伸部分で構成されている。また、第1の電極端子270において、バリア層220は、光散乱層120と同じ層であっても良い。
【0053】
同様に、第2の電極端子280の導電層250は、第2の電極150と電気的に接続される。例えば、
図6の例では、導電層250は、位置Pにおいて、第2の電極150と電気的に接続されている。導電層250は、第1の電極130と同じ材料で構成されても良い。また、バリア層240は、光散乱層120と同じ材料で構成されても良い。
【0054】
バリア層220およびバリア層240は、有機LED素子の作動中に生じ得る、いわゆるアルカリ金属イオンのマイグレーションを抑制する役割を有する。
【0055】
ここで、アルカリ金属イオンのマイグレーションとは、例えば
図2および
図3に示した有機LED素子100において、第1および第2の電極端子170、180を介して、第1の電極130と第2の電極150の間で通電を行っている際に、透明基板110中に含まれるアルカリ金属イオンが第1および第2の電極端子170、180側に移動する現象を言う。このようなアルカリ金属イオンのマイグレーションが生じると、透明基板110と電極端子170、180との間の界面にアルカリ金属塩が析出し、これにより、電極端子170、180が劣化したり、破断したりする場合がある。
【0056】
しかしながら、有機LED素子200では、第1の電極端子270は、導電層230と透明基板110の間にバリア層220を有するため、前述のようなアルカリ金属イオンのマイグレーション現象が抑制される。同様に、第2の電極端子280は、導電層250と透明基板110の間にバリア層240を有するため、前述のようなアルカリ金属イオンのマイグレーション現象が抑制される。
【0057】
従って、有機LED素子200では、長期間にわたって、安定な発光特性を維持することができる。
【0058】
(第3の構成)
次に、
図8を参照して、本発明による有機LED素子の別の構成について説明する。
【0059】
図8には、本発明による別の有機LED素子300の断面を概略的に示す。
図8において、
図2〜
図5と同様の部材には、同様の参照符号が付されている。
【0060】
図8に示すように、有機LED素子300は、透明基板110と、光散乱層310と、第1の電極(陽極)130と、有機発光層140と、第2の電極(陰極)150と、封止基板320と、樹脂シール330と、接続配線340とを備える。
【0061】
有機LED素子300の透明基板110は、第1領域350Aと、第2領域350Bと、第3領域350Cとを有する上面を有する。後述するように、第1領域350Aは、透明基板110の上部の、有機発光層140が設置された領域に位置する。また、第2領域350Bは、透明基板110の上部の、有機発光層140および第2の電極150が設置されておらず、第1の電極130の少なくとも一部が設置されている領域に位置する。さらに、第3領域350Cは、透明基板110の上部の、有機発光層140および第1の電極130が設置されておらず、第2の電極150の少なくとも一部が設置されている領域に位置する。
【0062】
ここで、この有機LED素子300の場合、光散乱層310は、透明基板110の上面に第1領域〜第3領域の全体にわたって形成されている。
【0063】
これに対して、第1の電極130は、光散乱層310上に、第1領域(発光領域)350Aと第2領域350Bに延在するように設置されている。
【0064】
また、有機発光層140は、第1の電極130および光散乱層310と接するようにして、透明基板110上の第1領域350A内に設置されている。
【0065】
第2の電極150は、有機発光層140の一部および光散乱層310の一部と接するようにして、第1領域350Aと第3領域350Cに延在するように設置されている。
【0066】
封止基板320は、樹脂シール330を介して、第2の電極150の第1領域350Aに設置されている部分を取り囲むようにして、第1領域350Aに設置されている。
【0067】
接続配線340は、第1の電極130と電気的に接続されるようにして、第3領域350B上に形成されている。
【0068】
このような有機LED素子300の構成では、第1領域〜第3領域の広い範囲にわたって延在する光散乱層310を備えているため、光取り出し効率が大幅に向上することが期待できる。
【0069】
次に、本発明による有機LED素子を構成する各層の詳細について説明する。
【0070】
(透明基板110)
透明基板110は、可視光に対する透過率が高い材料で構成される。透明基板110は、例えば、ガラス基板またはプラスチック基板であっても良い。
【0071】
ガラス基板の材料としては、アルカリガラス、無アルカリガラスまたは石英ガラスなどの無機ガラスが挙げられる。また、プラスチック基板の材料としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールならびにポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマーが挙げられる。
【0072】
透明基板110の厚さは、特に限られないが、例えば、0.1mm〜2.0mmの範囲であっても良い。強度および重量を考慮すると、透明基板110の厚さは、0.5mm〜1.4mmであることが好ましい。
【0073】
(光散乱層120)
光散乱層120は、ベース材121と、該ベース材121中に分散された複数の散乱物質124とを有する。ベース材121は、第1の屈折率を有し、散乱物質124は、ベース材とは異なる第2の屈折率を有する。
【0074】
光散乱層120中における散乱物質124の含有率は、1vol%以上であることが好ましい。
光散乱層120中の散乱物質124の存在量は、光散乱層120の内部から外側に向かって小さくなっていることが好ましく、この場合、高効率の光取り出しを実現することができる。
【0075】
ベース材121は、ガラスで構成され、ガラスの材料としては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、および石英ガラスなどの無機ガラスが使用される。
【0076】
散乱物質124は、例えば、気泡、析出結晶(ベース材を構成するガラスの析出結晶等)、ベース材とは異なる材料粒子、分相ガラス等で構成される。分相ガラスとは、2種類以上のガラス相により構成されるガラスをいう。このうち、散乱物質124は、気泡および/またはベース材を構成するガラスの析出結晶であることが好ましい。
【0077】
ベース材121の屈折率と散乱物質124の屈折率の差は、大きい方が良く、このためには、ベース材121として高屈折率ガラスを使用し、散乱物質124として気泡を使用することが好ましい。
【0078】
ベース材121用の高屈折率のガラスのため、ネットワークフォーマとして、P
2O
5、SiO
2、B
2O
3、GeO
2、およびTeO
2のうちの一種類または二種類以上の成分を選定し、高屈折率成分として、TiO
2、Nb
2O
5、WO
3、Bi
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、ZrO
2、ZnO、BaO、PbO、およびSb
2O
3のうちの一種類または二種類以上の成分を選定しても良い。さらに、ガラスの特性を調整するため、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、フッ化物などを、屈折率に影響を及ぼさない範囲で、添加しても良い。
【0079】
従って、ベース材121を構成するガラス系としては、例えば、B
2O
3−ZnO−La
2O
3系、P
2O
5−B
2O
3−R'
2O−R"O−TiO
2−Nb
2O
5−WO
3−Bi
2O
3系、TeO
2−ZnO系、B
2O
3−Bi
2O
3系、SiO
2−Bi
2O
3系、SiO
2−ZnO系、B
2O
3−ZnO系、P
2O
5−ZnO系などが挙げられる。ここで、R'はアルカリ金属元素、R"はアルカリ土類金属元素を示す。なお、以上の材料系は、一例に過ぎず、上記条件を満たすような構成であれば、使用材料は、特に限られない。
【0080】
なお、ベース材121の屈折率は、第1の電極130の屈折率と同等以上であることが好ましい。ベース材121の屈折率が第1の電極130の屈折率よりも低い場合、光散乱層120と第1の電極130との界面において、全反射による損失が生じてしまうおそれがあるからである。
【0081】
ベース材121に、着色剤を添加することにより、発光の色味を変化させることもできる。着色剤としては、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物、および金属コロイドなどを、単独でまたは組み合わせて使うことができる。
【0082】
本発明の有機LED素子100では、ベース材121または散乱物質124に、蛍光性物質を使用することができる。この場合、有機発光層140からの発光に対して波長変換を行い、色味を変化させることが可能となる。また、この場合、有機LED素子の発光色を減らすことができ、発光された光は、散乱されて出射されるので、色味の角度依存性および/または色味の経時変化を抑制することができる。このような構成は、白色発光が必要となるバックライトや照明用途において好適である。
【0083】
(第1の電極130)
第1の電極130には、有機発光層140で生じた光を外部に取り出すため、80%以上の透光性であることが好ましい。また、多くの正孔を注入するため、仕事関数が高いことが好ましい。
【0084】
第1の電極130には、例えば、ITO、SnO
2、ZnO、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al
2O
3:アルミニウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、GZO(ZnO−Ga
2O
3:ガリウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、NbドープTiO
2、およびTaドープTiO
2などの材料が用いられる。
【0085】
第1の電極130の厚さは、50nm(より好ましくは100nm)以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0086】
第1の電極130の屈折率は、例えば、1.9〜2.2の範囲である。例えば、第1の電極130としてITOを使用した場合、キャリア濃度を増加させることにより、第1の電極130の屈折率を低下させることができる。市販のITOでは、SnO
2が10wt%含まれるものが標準となっているが、Sn濃度をさらに増加させることにより、ITOの屈折率を下げることができる。ただし、Sn濃度の増加により、キャリア濃度は増加するが、移動度および透過率は、低下する。従って、全体のバランスを考慮して、Sn量を決める必要がある。
【0087】
また、第1の電極130の屈折率は、光散乱層120を構成するベース材121の屈折率や第2の電極150の屈折率を考慮して、決定することが好ましい。導波路計算や第2の電極150の反射率等を考慮すると、第1の電極130とベース材121の屈折率の差は、0.2以下であることが好ましい。
【0088】
(有機発光層140)
有機発光層140は、発光機能を有する層であり、通常の場合、ホール注入層と、ホール輸送層と、発光層と、電子輸送層と、電子注入層とにより構成される。ただし、有機発光層140は、発光層を有していれば、必ずしも他の層の全てを有する必要はないことは、当業者には明らかである。なお、通常の場合、有機発光層140の屈折率は、1.7〜1.8の範囲である。
【0089】
ホール注入層は、第1の電極130からのホール注入の障壁を低くするため、イオン化ポテンシャルの差が小さいものが好ましい。電極からホール注入層への電荷の注入効率が高まると、有機LED素子100の駆動電圧が下がり、電荷の注入効率が高まる。
【0090】
ホール注入層の材料としては、高分子材料または低分子材料が使用される。高分子材料の中では、ポリスチレンスルフォン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)が良く使用され、低分子材料の中では、フタロシアニン系の銅フタロシアニン(CuPc)が広く用いられる。
ホール輸送層は、前述のホール注入層から注入されたホールを発光層に輸送する役割をする。ホール輸送層には、例えば、トリフェニルアミン誘導体、N,N'−ビス(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPD)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス[N−フェニル−N−(2−ナフチル)−4'−アミノビフェニル−4−イル] −1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPTE)、1,1'−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(HTM2)、およびN,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−1,1'−ジフェニル−4,4'−ジアミン(TPD)などが用いられる。
【0091】
ホール輸送層の厚さは、例えば10nm〜150nmの範囲である。ホール輸送層の厚さが薄いほど、有機LED素子を低電圧化できるが、電極間短絡の問題から、通常は、10nm〜150nmの範囲である。
発光層は、注入された電子とホールが再結合する場を提供する役割を有する。有機発光材料としては、低分子系または高分子系のものが使用される。
【0092】
発光層には、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(Alq3)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウムフェノキサイド(Alq'2OPh)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウム−2,5−ジメチルフェノキサイド(BAlq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体(Liq)、モノ(8−キノリノラート)ナトリウム錯体(Naq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ナトリウム錯体およびビス(8−キノリノラート)カルシウム錯体(Caq2)などのキノリン誘導体の金属錯体、テトラフェニルブタジエン、フェニルキナクドリン(QD)、アントラセン、ペリレン、並びにコロネンなどの蛍光性物質が挙げられる。
【0093】
ホスト材料としては、キノリノラート錯体を使用しても良く、特に、8−キノリノールおよびその誘導体を配位子としたアルミニウム錯体が使用されても良い。
電子輸送層は、電極から注入された電子を輸送する役割をする。電子輸送層には、例えば、キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)、オキサジアゾール誘導体(例えば、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(END)、および2−(4−t−ブチルフェニル) −5−(4−ビフェニル))−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)など)、トリアゾール誘導体、バソフェナントロリン誘導体、およびシロール誘導体などが用いられる。
電子注入層は、例えば、第2の電極150との界面に、リチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属をドープした層を設けることにより構成される。
【0094】
(第2の電極150)
第2の電極150には、仕事関数の小さな金属またはその合金が用いられる。第2の電極150は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および周期表第3属の金属などであっても良い。第2の電極150には、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、またはこれらの合金などが用いられる。
【0095】
また、アルミニウム(Al)、マグネシウム銀(MgAg)の共蒸着膜、フッ化リチウム(LiF)または酸化リチウム(Li
2O)の薄膜上に、アルミニウム(Al)を蒸着した積層電極が用いられても良い。さらに、カルシウム(Ca)またはバリウム(Ba)と、アルミニウム(Al)との積層膜が用いられても良い。
【0096】
(バリア層220、240)
バリア層220、240には、これに限られるものではないが、前述の光散乱層120と同様の材料を使用しても良い。
【0097】
バリア層の220、240の厚さは、例えば、0.5μm〜50μmの範囲である。
【0098】
(本発明による有機LED素子の製造方法)
次に、
図7を参照して、本発明による有機LED素子の製造方法の一例について説明する。
図7には、本発明による有機LED素子を製造する際の概略的なフロー図を示す。
【0099】
図7に示すように、本発明による有機LED素子の製造方法は、透明基板上に光散乱層を形成するステップ(ステップS110)と、前記光散乱層上に、透明な第1の電極を設置するステップ(ステップS120)と、前記第1の電極上に、有機発光層を設置するステップ(ステップS130)と、前記有機発光層上に、第2の電極を設置するステップ(ステップS140)と、を有する。以下、各ステップについて詳しく説明する。
【0100】
(ステップS110)
まず、透明基板が準備される。前述のように、通常、透明基板には、ガラス基板やプラスチック基板が用いられる。
【0101】
次に、透明基板上に、ガラス製のベース材中に散乱物質が分散された光散乱層が形成される。光散乱層の形成方法は、特に限られないが、ここでは、特に、「フリットペースト法」により、光散乱層を形成する方法について説明する。ただし、その他の方法で光散乱層を形成しても良いことは、当業者には明らかである。
【0102】
フリットペースト法とは、フリットペーストと呼ばれるガラス材料を含むペーストを調製し(調製工程)、このフリットペーストを被設置基板の表面に塗布して、パターン化し(パターン形成工程)、さらにフリットペーストを焼成すること(焼成工程)により、被設置基板の表面に、所望のガラス製の膜を形成する方法である。以下、各工程について簡単に説明する。
【0103】
(調製工程)
まず、ガラス粉末、樹脂、および溶剤等を含むフリットペーストが調製される。
【0104】
ガラス粉末は、最終的に光散乱層のベース材を形成する材料で構成される。ガラス粉末の組成は、所望の散乱特性が得られ、フリットペースト化して焼成することが可能なものであれば特に限られない。ガラス粉末の組成は、例えば、P
2O
5を20〜30mol%、B
2O
3を3〜14mol%、Bi
2O
3を10〜20mol%、TiO
2を3〜15mol%、Nb
2O
5を10〜20mol%、WO
3を5〜15mol%含み、Li
2OとNa
2OとK
2Oの総量が10〜20mol%であり、以上の成分の総量が、90mol%以上のものであっても良い。ガラス粉末の粒径は、例えば、1μm〜100μmの範囲である。
【0105】
なお、最終的に得られる光散乱層の熱膨張特性を制御するため、ガラス粉末には、所定量のフィラーを添加しても良い。フィラーには、例えば、ジルコン、シリカ、またはアルミナなどの粒子が使用され、粒径は、通常、0.1μm〜20μmの範囲である。
【0106】
樹脂には、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂、酢酸ビニル、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、およびロジン樹脂などが用いられる。主剤として、エチルセルロースおよびニトロセルロースを使用しても良い。なお、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、およびロジン樹脂を添加すると、フリットペースト塗布膜の強度が向上する。
【0107】
溶剤は、樹脂を溶解し、粘度を調整する役割を有する。溶剤には、例えば、エーテル系溶剤(ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、酢酸ブチルセロソルブ)、アルコール系溶剤(α−テルピネオール、パインオイル、ダワノール)、エステル系溶剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)、フタル酸エステル系溶剤(DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート))がある。主に用いられているのは、α−テルピネオールや2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)である。なお、DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)は、可塑剤としても機能する。
【0108】
その他、フリットペーストには、粘度の調整やフリット分散促進のため、界面活性剤を添加しても良い。また、表面改質のため、シランカップリング剤を使用しても良い。
【0109】
次に、これらの原料を混合し、ガラス原料が均一に分散されたフリットペーストを調製する。
【0110】
(パターン形成工程)
次に、前述の方法で調製したフリットペーストを、透明基板上に塗布し、パターン化する。塗布の方法およびパターン化の方法は、特に限られない。例えば、スクリーン印刷機を用いて、透明基板上にフリットペーストをパターン印刷しても良い。あるいは、ドクターブレード印刷法またはダイコート印刷法を利用しても良い。
【0111】
その後、フリットペースト膜は、乾燥される。
【0112】
(焼成工程)
次に、フリットペースト膜が焼成される。通常、焼成は、2段階のステップで行われる。第1のステップでは、フリットペースト膜中の樹脂が分解、消失され、第2のステップでは、ガラス粉末が焼結、軟化される。
【0113】
第1のステップは、大気雰囲気下で、フリットペースト膜を200℃〜400℃の温度範囲に保持することにより行われる。ただし、処理温度は、フリットペーストに含まれる樹脂の材料によって変化する。例えば、樹脂がエチルセルロースの場合は、処理温度は、350℃〜470℃程度であり、樹脂がニトロセルロースの場合は、処理温度は、200℃〜300℃程度であっても良い。なお処理時間は、通常、30分から10時間程度である。
【0114】
第2のステップは、大気雰囲気下で、フリットペースト膜を、含まれるガラス粉末の軟化温度±30℃の温度範囲に保持することにより行われる。処理温度は、例えば、450℃〜600℃の範囲である。また、処理時間は、特に限られないが、例えば、30分〜1時間である。
【0115】
第2のステップ後に、ガラス粉末が焼結、軟化して、光散乱層のベース材が形成される。また、フリットペースト膜中に内在する気泡によって、ベース材中に均一に分散された散乱物質が得られる。
【0116】
その後、透明基板を冷却することにより、側面部分が上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有する光散乱層が形成される。
【0117】
最終的に得られる光散乱層の厚さは、5μm〜50μmの範囲であっても良い。
【0118】
(ステップS120)
次に、前記工程で得られた光散乱層上に、透明な第1の電極(陽極)が設置される。第1の電極は、光散乱層の上部の他、光散乱層の側面を連続的に覆うようにして形成される。前述のように、光散乱層の側面は、上面から前記底面に向かって、直角よりも緩やかな角度で傾斜した表面を有する。従って、第1の電極の厚さが薄い場合であっても、光散乱層の側面に、第1の電極の連続層を容易に設置することができる。
【0119】
第1の電極の設置方法は、特に限られず、例えば、スパッタ法、蒸着法、および気相成膜法等の成膜法を利用しても良い。また、第1の電極は、パターン化しても良い。
【0120】
前述のように、第1の電極の材料は、ITO等であっても良い。また、第1の電極の厚さは、特に限られず、第1の電極の厚さは、例えば50nm〜1.0μmの範囲であっても良い。
【0121】
なお、ここまでの工程で得られた、透明基板、光散乱層、および第1の電極を有する積層体は、「透光性基板」と呼ばれる。次工程で設置される有機発光層の仕様は、最終的に得られる有機LED素子の適用用途によって、様々に変化する。従って、慣用的には、この「透光性基板」は、この状態のまま、中間製品として市場に流通される場合も多く、これ以降の工程が省略される場合も多々ある。
【0122】
(ステップS130)
有機LED素子を製造する場合は、次に、第1の電極を覆うように、有機発光層が設置される。有機発光層の設置方法は、特に限られず、例えば、蒸着法および/または塗布法を使用しても良い。
【0123】
(ステップS140)
次に、有機発光層上に第2の電極が設置される。第2の電極の設置方法は、特に限られず、例えば、蒸着法、スパッタ法、気相成膜法等を使用しても良い。
【0124】
以上の工程により、
図2、
図3に示したような有機LED素子100が製造される。なお、
図4〜
図6に示したような有機LED素子200も、同様の方法で製造することができることは、当業者には明らかである。
【0125】
また、前述の有機LED素子の製造方法は、一例であって、その他の方法で有機LED素子を製造しても良いことは、当業者には明らかである。
【実施例】
【0126】
(散乱層付きガラス基板の作製)
厚さ0.55mm、50mm□のソーダライム基板にスパッタ法でシリカ膜を40nm成膜した基板を用意した。次いで散乱層用ガラス材料を用意する。散乱層用ガラス材料として表1に示すガラスを調合、溶解した。溶解は、1050℃で溶解し、その後950℃30分放置した後、双ロールにキャストしてフレークを得た。
【0127】
【表1】
【0128】
このガラスのガラス転移温度は475℃、熱膨張係数は72×10
−7(1/℃)であった。また、d線(587.56nm)での屈折率ndは、1.98であった。ガラス転移点は、熱分析装置(Bruker社製、商品名:TD5000SA)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。屈折率は、屈折率計(カルニュー光学工業社製、商品名:KRP−2)で測定した。ついで上述のフレークをジルコニア製の遊星ボールミルで2時間乾式粉砕し、平均粒径(d50、積算値50%の粒度、単位μm)が1〜3μmであるガラス粉末を作製した。そして、得られたガラス粉末75gを、有機ビヒクル(α―テルピネオール等にエチルセルロースを10質量%程度溶解したもの)25gと混練してペーストインク(ガラスペースト)を作製した。このガラスペーストをスクリーン印刷機を用いて印刷し、正方形のパターンを形成した。スクリーン印刷後、120℃で10分乾燥し、その後再度印刷、乾燥を繰り返した。この基板を450℃まで45分で昇温し、450℃で10時間保持し、その後、575℃まで12分で昇温し、575℃で40分間保持し、その後、室温まで3時間で降温し、
図9に示すように、ガラス基板901上にガラス層(散乱層)902を形成した。散乱層902の膜厚は、42μm膜厚であった。ガラス基板901上に形成した散乱層902の全光透過率とヘイズ値を測定した。測定装置として、スガ試験機ヘーズメータHGM−2を用いた。リファレンスとして、上述したソーダライム基板を測定した。その結果全光透過率は69%、ヘーズ値は73%であった。また表面うねりを東京精密製、 SURFCOM 1400Dを用いて測定した。平均算術粗さ(Ra)は、0.95μmであった。
【0129】
(ITO層の成膜)
バッチ式マグネトロンスパッタリング装置のそれぞれのカソードに、直径6インチのITOターゲットを設置した。次に、スパッタリング装置の基板ホルダーに、
図9の散乱層付きガラス基板上に、
図10に示すような1辺の長さが3cmとなる矩形のITOパターン1001が得られるように金属製マスクを設置した。スパッタリング装置を1×10
−3Pa以下まで排気した後、基板加熱ヒーターを250℃に設定した。散乱層付きガラス基板が加熱されたところで、雰囲気ガスとして、アルゴンガス98sccmと酸素ガス2sccmを導入した。ここで、ITOターゲットを用い、投入電力300WのDCパルススパッタリングにより、膜厚150nmのITO層1001を形成した。その後、基板加熱ヒーターをOFFにし、スパッタリング装置を大気開放して、成膜を終えた散乱層付きガラス基板を取り出した。
【0130】
(有機EL素子の作製)
上述の基板を用いて有機EL素子を作製した。まず、純水およびIPAを用いた超音波洗浄を行った後、酸素プラズマを照射して、表面を清浄化した。次に、真空蒸着装置を用いて、α−NPD(N,N’−diphenyl−N,N’−bis(l−naphthyl)−l,l’biphenyl−4,4’’diamine)を100nm、Alq3(tris8−hydroxyquinoline aluminum)を60nm、LiFを0.5nm、Alを80nmを連続成膜した。このとき、α−NPD、Alq3、LiF及びAlはマスクを用いて
図11に示すようなパターンを得た。
図11は、ITOパターンが形成された散乱層付きガラス基板と、有機層及び反射電極の位置関係を示す上面図である。
図11中、1101は有機層を示し、1102は反射電極を示す。その後封止用基板と本基板をUV硬化樹脂で張り合わせ、UV照射を行い接着して、有機EL素子を得た。
図11のA−A’断面形状は、前述の
図3に示すものと同様の形状となっている。
【0131】
(発光状態の確認)
作製した有機ELパネルに5Vを印加して、発光状態を確認した。
図12は、散乱層上部1201や散乱層パターンエッジ部1202が発光している状態を示す写真である。このように、素子は散乱層上部1201、散乱層パターンエッジ部1202、ガラス基板上部1203の3領域形成されているが、いずれの領域でも良好な発光が確認される。散乱層上部1201では、散乱層により光が多く取り出されており、ガラス基板上部1203と比較して、明るくなっていることが分かる。また散乱層エッジ部1202では、その形状がなだらかなため、ITO、有機膜、LiF、Alの被覆性が良く、ITOとAl電極の短絡や、これらの断線が発生せず、散乱層上部1201とガラス基板上部1203の素子を1対の電極パターンで点灯できることを確認した。
【0132】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2010年4月8日出願の日本特許出願2010−089596に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。