(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の偏向手段は2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差が補正されるように前記第1の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対して傾斜させると共に、2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差の補正に伴い発生する1回対称2次コマ収差(B2)が補正されるように前記第1の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対してシフトさせ、
前記第2の偏向手段は2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差が補正されるように前記第2の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対して傾斜させると共に、2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差の補正に伴い発生する2回対称1次非点収差(A1)が補正されるように前記第2の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対してシフトさせるように、
前記制御手段は前記第1の偏向手段と前記第2の偏向手段に制御信号を供給することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
前記第1の偏向手段は2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差が補正されるように前記第1の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対して傾斜させると共に、2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差の補正に伴い発生する1回対称2次コマ収差(B2)が補正されるように前記第1の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対してシフトさせ、
前記第2の偏向手段は2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差が補正されるように前記第2の多極子レンズへ入射する荷電粒子線を光軸に対してシフトさせ、光軸上の適当な位置に配置された非点補正コイルにより2回対称3次スター収差あるいは4回対称3次非点収差の補正に伴い発生する2回対称1次非点収差(A1)が補正されるように、
前記制御手段は前記第1の偏向手段と前記第2の偏向手段と前記非点補正コイルに制御信号を供給することを特徴とする請求項2記載の荷電粒子線装置。
第1の多極子レンズと、第2の多極子レンズと、前記第1と前記第2の多極子レンズの間に配置された伝達レンズとを用いて荷電粒子線装置の球面収差補正を行う際に生じる3次寄生収差の補正方法において、
前記第1の多極子レンズに入射する荷電粒子線の光軸に対する傾斜角θ1を任意の値θ1’に設定するステップと、
前記第2の多極子レンズに入射する前記荷電粒子線の前記光軸に対する傾斜角θ2=θ1−tを制御する傾斜量tを任意の値t1に設定するステップと、
前記第1と前記第2の多極子レンズを通過した前記荷電粒子線を前記光軸上に振り戻すステップと、
2回対称3次スター収差と4回対称3次非点収差の大きさを測定し、それぞれの測定値S3t1、A3t1を取得するステップと、
前記第2の多極子レンズに入射する前記荷電粒子線の前記光軸に対する傾斜角θ2=θ1−tを制御する傾斜量tをt1と異なる任意の値t2に設定するステップと、
前記第1と前記第2の多極子レンズを通過した前記荷電粒子線を前記光軸上に振り戻すステップと、
2回対称3次スター収差と4回対称3次非点収差の大きさを測定し、それぞれの測定値S3t2、A3t2を取得するステップと、
横軸にt、縦軸に2回対称3次スター収差と4回対称3次非点収差の大きさをとったとき、点(t1、S3t1)と点(t2、S3t2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのt=tS3=0と、点(t1、A3t1)と点(t2、A3t2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのt=tA3=0とを求めるステップと、
2回対称3次スター収差補正モードの比例定数τ=τS3=tA3=0/θ1’と、4回対称3次非点収差補正モードの比例定数τ=τA3=tS3=0/θ1’とを求めるステップとを有し、
2回対称3次スター収差を補正する際には、傾斜角θ2=(1−τS3)θ1とし、4回対称3次非点収差を補正する際には、傾斜角θ2=(1−τA3)θ1とすることを特徴とする3次寄生収差の補正方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本件発明者は、2回対称3次スター収差(S3)と4回対称3次非点収差(A3)を独立に補正するためには制御変数を2つ設け、さらにそれら制御変数は1次の関数(比例)関係で連動して変化する必要があることを見出した。ここで2つの制御変数とは、1段目の多極子レンズへ入射する電子線の光軸に対する傾斜角をθ1、2段目の多極子レンズへ入射する電子線の光軸に対する傾斜角をθ2、2段目の多極子レンズへ入射する電子線の光軸に対するシフト量をsとしたとき、θ1とθ2の組み合わせ、またはθ1とsの組み合わせである。本発明では、前者をチルト・チルト連動補正、後者をチルト・シフト連動補正と呼ぶ。
本発明により、S3とA3を独立に補正することができる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明を荷電粒子線装置の一つである走査型透過電子顕微鏡に適用した一例を示す概略全体構成図である。電子線源2から出射された電子線は加速管3により所定の加速電圧まで加速される。所定の加速電圧まで加速された電子線は集束レンズ4、5により縮小される。集束レンズ5の下部にある集束絞り6を通った電子線は、収差補正器を通ることで、球面収差などの収差が補正される。収差補正器は、調整レンズ7、多極子レンズ9(第1の多極子レンズ)、伝達レンズ10、伝達レンズ12、多極子レンズ13(第2の多極子レンズ)、調整レンズ15で構成されており、第1の多極子レンズ9と第2の多極子レンズ13は伝達レンズ10と12を用いて共役関係となっている。収差補正器を通過した電子線は、対物前磁場レンズ17により試料18上に集束され、プローブを形成する。試料18を透過・散乱した電子線は対物後磁場レンズ19により試料18下部に電子線回折像を形成し、投影レンズ20によりカメラ24に投影される。これらのレンズ4、5、7、9、10、12、13、15、17、19、20の軸は、光軸1に合わせられている。暗視野像あるいは明視野像を撮影するときには、スキャンコイル16により電子線プローブを試料上で走査させ、それに同期して暗視野像検出器22もしくは明視野像検出器23での信号を像強度に輝度変調して取得する。投影レンズ20の下部に設置したアライメントコイル21は、暗視野像検出器22、明視野像検出器23、カメラ24に対する軸合わせのために用いる。明視野像検出器23は光軸1上に設置してあるため、カメラ24を使用する際には光軸1上から取り除くことができるような可動機構を備えている。
【0015】
さて、収差補正器を動作させると、対物前磁場レンズ17の持つ正の球面収差Csを打ち消すために必要な負の球面収差−Csの他に、多極子レンズ9、13を構成する極子の位置ずれや、極子材料の磁気的特性のばらつきなどに起因する寄生収差が発生する。これらの寄生収差Pは、偏向コイル8(第1の偏向手段)と偏向コイル11(第2の偏向手段)によりそれぞれ第1の多極子レンズ9と第2の多極子レンズ13に入射する電子線の位置と傾きを調整し、逆位相の寄生収差P’を発生させて相殺することで補正される。このとき、第2の多極子レンズ13を出射した電子線が後段のレンズの軸(光軸1上に合わせられている)上を通らないと余分な寄生収差が発生するため、偏向コイル14(第3の偏向手段)により電子線は光軸1上に振り戻される。偏向コイル8、11、14は偏向コイル制御手段25により制御される。なお、符号26は情報処理装置、符号27は表示装置、符号28はユーザーインターフェース、符号29は暗視野像観察制御手段、符号30はロンチグラム観察制御手段を示す。同一符号は同一構成要素を示す。
【0016】
図2は、第1の偏向手段8により第1の多極子レンズ9に入射する電子線を光軸1に対してθ1だけ傾けて入射させ、第2の偏向手段11により第2の多極子レンズ13に入射する電子線を光軸1に対してθ2だけ傾けて入射させ、第3の偏向手段14により電子線を光軸1上に振り戻したときの光線図(電子線の中心軌道31)を示したものである。ここで、伝達レンズ10と伝達レンズ12の作用により、第2の偏向手段11を使わなければθ2=θ1となる。そこで、第2の偏向手段11で制御する傾斜角を、
θ2=θ1−t
で定義する変数tで表すことにする。
【0017】
図3は、第1の偏向手段8により第1の多極子レンズ9に入射する電子線を光軸1に対してθ1だけ傾けて入射させ、第2の偏向手段11により第2の多極子レンズ13に入射する電子線を光軸1に対してsだけシフトさせ、第3の偏向手段14により電子線を光軸1上に振り戻したときの光線図を示したものである。ここで、θ2=θ1である。
【0018】
尚、
図2と
図3は、Z軸を光軸1の方向に取り、Z軸に直交するようにX軸とY軸をとったときのX−Z平面の様子を示したものである。すなわち、第1の偏向手段8、第2の偏向手段11、第3の偏向手段14により電子線をX方向に偏向させた様子を示したものである。同様にして、第1の偏向手段8、第2の偏向手段11、第3の偏向手段14は電子線をY方向にも偏向可能なように構成されている。X方向とY方向の偏向量を調整することで偏向の位相角φ(光軸1の方向から見たとき、何時の方向に電子線が曲げられるか)を変えることができ、φを調整することで発生する寄生収差P’の位相角を制御できる。以下でも簡単のために、電子線の軌道はX−Z平面における様子のみを示す。
【0019】
本件発明者は、傾斜角tとシフト量sをそれぞれ傾斜角θ1の比例関数として変化させることで、3次の寄生収差である2回対称3次スター収差(S3)と4回対称3次非点収差(A3)とが、他方に影響を与えずに独立して補正されることを実験により見いだした。
図4に本発明のブロックダイアグラムを示す。以下、比例関数の比例定数(偏向コイル連動係数)の決め方と本発明の効果を説明するために装置構成のある一例で検証した結果を示すが、具体的な数値は装置毎に異なるものであることを注記しておく。
【0020】
まず、θ1とtの比例関係
t=τ×θ1
の比例定数τを求める方法について説明する。図エラー! 参照元が見つかりません。はθ1=1mrad、t=1mrad〜1.5mradとしたときのS3とA3の収差係数の大きさをプロットしたグラフである。このように、θ1をある値に固定したとき、S3とA3の発生量はtの1次関数で表される。この1次関数を表す直線からS3とA3がそれぞれ0になるtの値t
S3=0とt
A3=0を求めると、A3を変化させずにS3だけを補正させるためには比例定数τを
τ
S3=t
A3=0/θ1
とし、S3を変化させずにA3だけを補正させるためには比例定数τを
τ
A3=t
S3=0/θ1
とすればよい。
図5の例ではτ
S3=1.95、τ
A3=0.89となった。
【0021】
以上のように、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角tを第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1に連動させてS3とA3を補正する方法をチルト・チルト連動補正と呼ぶ。そして、τ=τ
S3ではS3補正モード、τ=τ
A3ではA3補正モードと呼ぶ。
【0022】
S3補正モード(θ1=1mrad、t=1.95×1mrad=1.95mrad)とA3補正モード(θ1=1mrad、t=0.89×1mrad=0.89mrad)における収差補正器内の光線図をそれぞれ
図6と
図7に示す。
【0023】
図8はS3補正モードのときの、θ1の変化量Δθ1に対するS3とA3の大きさの変化をシミュレーションにより検証したグラフで、A3がほとんど変化せずにS3のみが変化している。
【0024】
図9はA3補正モードのときの、θ1の変化量Δθ1に対するS3とA3の大きさの変化をシミュレーションにより検証したグラフで、S3がほとんど変化せずにA3のみが変化している。
【0025】
尚、S3補正モードとA3補正モードの効果は加算的である。例えば、
図8ではθ1=0.2mrad、t=1.95×0.2mrad=0.39mradとするとS3≒3.3μm、A3≒0、
図9ではθ1=0.2mrad、t=0.89×0.2mrad=0.18mradとするとS3≒0、A3≒2.3μmとなり、両者のθ1とtの値を加算してθ1=0.2+0.2=0.4mrad、t=0.39+0.18=0.57mradとすると、S3≒3.3μm、A3≒2.3μmとなる。すなわち、チルト・チルト連動補正によりS3とA3を任意量だけ補正することが可能である。
【0026】
以上、チルト・チルト連動補正について、具体例を用いて説明した。以下、比例定数τの計算手順を(手順T1)〜(手順T9)にまとめる。
(手順T1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順T2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ2=θ1−tを制御する傾斜量tを任意に設定する(t1とする)。
(手順T3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順T4)
公知の収差測定手段を用いて、S3とA3の大きさを測定する(それぞれS3
t1、A3
t1とする)。
(手順T5)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ2=θ1−tを制御する傾斜量tを任意に設定する(t2≠t1とする)。
(手順T6)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順T7)
公知の収差測定手段を用いて、S3とA3の大きさを測定する(それぞれS3
t2、A3
t2とする)。
(手順T8)
横軸にt、縦軸にS3とA3の大きさをとったとき、点(t1、S3
t1)と点(t2、S3
t2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのt=t
S3=0と、点(t1、A3
t1)と点(t2、A3
t2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのt=t
A3=0とを求める。
(手順T9)
S3補正モードの比例定数τ=τ
S3=t
A3=0/θ1’と、A3補正モードの比例定数τ=τ
A3=t
S3=0/θ1’とを求める。
【0027】
ここで、(手順T4)の公知の収差測定手段について補足しておく。STEMにおける収差測定手段として、ロンチグラムを用いるもの(例えば特許文献4)と、暗視野像を用いるもの(例えば特許文献5)とが知られている。前者を用いる場合、カメラ24とロンチグラム観察制御手段30により取得したロンチグラムから収差係数計算ユニット32により収差係数が計算される。後者を用いる場合、暗視野像検出器22と暗視野像観察手段29により取得した暗視野像から収差係数計算ユニット32により収差係数が計算される。
【0028】
次に、θ1とsの比例関係
s=σ×θ1
の比例定数σを求める方法について説明する。
図10はθ1=1mrad、s=5μm〜10μmのときのS3とA3の収差係数の大きさをプロットしたグラフである。このように、θ1をある値に固定したとき、S3とA3の発生量はsの1次関数で表される。この1次関数を表す直線からS3とA3がそれぞれ0になるsの値s
S3=0とs
A3=0を求めると、A3を変化させずにS3だけを補正させるためには比例定数σを
σ
S3=s
A3=0/θ1
とし、S3を変化させずにA3だけを補正させるためには比例定数σを
σ
A3=s
S3=0/θ1
とすればよい。
図10の例ではσ
S3=12.4μm/mrad、σ
A3=−12.6μm/mradとなった。
【0029】
以上のように、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対するシフト量sを第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1に連動させてS3とA3を補正する方法をチルト・シフト連動補正と呼ぶ。そして、σ=σ
S3ではS3補正モード、σ=σ
A3ではA3補正モードと呼ぶ。
【0030】
S3補正モード(θ1=1mrad、s=12.4μm/mrad×1mrad=12.4μm)とA3補正モード(θ1=1mrad、s=−12.6μm/mrad×1mrad=−12.6μm)における収差補正機内の光線図をそれぞれ
図11と
図12に示す。
図13はS3補正モードのときの、θ1の変化量Δθ1に対するS3とA3の大きさの変化をシミュレーションにより検証したグラフで、A3がほとんど変化せずにS3のみが変化している。
【0031】
図14はA3補正モードのときの、θ1の変化量Δθ1に対するS3とA3の大きさの変化をシミュレーションにより検証したグラフで、S3がほとんど変化せずにA3のみが変化している。
【0032】
尚、チルト・チルト連動補正と同様に、チルト・シフト連動補正においてもS3補正モードとA3補正モードの効果は加算的である。すなわち、チルト・シフト連動補正によりS3とA3を任意量だけ補正することが可能である。
【0033】
以上、チルト・シフト連動補正について、具体例を用いて説明した。以下、比例定数σの計算手順を(手順S1)〜(手順S9)にまとめる。
(手順S1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順S2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対するシフト量sを任意に設定する(s1とする)。
(手順S3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順S4)
公知の収差測定手段を用いて、S3とA3の大きさを測定する(それぞれS3
s1、A3
s1とする)。
(手順S5)
第2の偏向手段を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸に対するシフト量sを任意に設定する(s2≠s1とする)。
(手順S6)
第3の偏向手段を用いて、電子線を光軸上に振り戻す。
(手順S7)
公知の収差測定手段を用いて、S3とA3の大きさを測定する(それぞれS3
s2、A3
s2とする)。
(手順S8)
横軸にs、縦軸にS3とA3の大きさをとったとき、点(s1、S3
s1)と点(s2、S3
s2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのs=s
S3=0と、点(s1、A3
s1)と点(s2、A3
s2)を結ぶ直線が横軸を横切るときのs=s
A3=0とを求める。
(手順S9)
S3補正モードの比例定数σ=σ
S3=s
A3=0/θ1’と、A3補正モードの比例定数σ=σ
A3=s
S3=0/θ1’とを求める。
【0034】
図15に比例定数τとσを計算するGUIを示す。GUIは表示装置27に表示され、GUIへの入力はユーザーインターフェース28を介して行う(
図4参照)。
【0035】
τを計算する場合、(手順T1)で設定するθ1をテキストボックス36に、(手順T2)で設定するt1をテキストボックス37に、(手順T5)で設定するt2をテキストボックス38に入力する。ボタン39を押すと(手順T1)〜(手順T9)に従ってτ
S3とτ
A3が偏向コイル連動係数計算ユニット33により計算される。
【0036】
σを計算する場合、(手順S1)で設定するθ1をテキストボックス40に、(手順S2)で設定するs1をテキストボックス41に、(手順S5)で設定するs2をテキストボックス42に入力する。ボタン43を押すと(手順S1)〜(手順S9)に従ってσ
S3とσ
A3が偏向コイル連動係数計算ユニット33により計算される。
【0037】
上記手順で求められた偏向コイル連動係数τ
S3、τ
A3、σ
S3、σ
A3は記憶装置34に保存される(
図4参照)。そして、記憶装置34から読み出した偏向コイル連動係数に基づいて偏向コイル制御手段25が偏向コイルを制御することで、チルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正が行われる。
【0038】
以上の手順で求めた係数を用いて各種収差を補正した走査型透過電子顕微鏡により試料観察を行った結果、チルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正の何れの場合も良好な画像を得ることができた。また、収差補正を短時間に効率的に行うことができた。
【0039】
以上に説明したチルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正のどちらを用いてもS3とA3を補正することができるが、低次の収差、特に2回対称1次非点収差(A1)と1回対称2次コマ収差(B2)に与える影響が両者で異なる。なお、S3やA3を補正しても3回対称2次非点収差(A2)への影響は無視できる。
【0040】
図16はチルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正によるS3とA3の補正においてA1が発生する量を、θ1の関数として表したグラフである。チルト・チルト連動補正の場合のA1をグラフ右の縦軸に、チルト・シフト連動補正の場合のA1をグラフ左の縦軸に示した。本図からチルト・シフト連動補正の方が、チルト・チルト連動補正の場合よりもA1の変化が大きいことが分かる。
【0041】
図17はチルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正によるS3とA3の補正においてB2が発生する量を、θ1の関数として表したグラフである。本図からチルト・シフト連動補正の方が、チルト・チルト連動補正の場合よりもB2の変化が大きいことが分かる。
【0042】
ここで、チルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正とでA1とB2の発生量が異なる定性的な理由について説明する。多極子レンズが作る6極子場の中心から外れた位置を通るほど電子線は4極子場成分の影響を受け、その4極子場成分によりA1が発生する。そして6極子場により発生する3回対称2次非点収差(A2)とA1の組み合わせ収差としてB2が発生する。チルト・チルト連動補正よりもチルト・シフト連動補正の方が、電子線は多極子レンズの中心から外れた位置を通るので4極子場成分の影響をより多く受け、結果としてA1とB2の発生量が多くなる。
【0043】
これら、S3とA3の補正に伴って発生したA1とB2は公知の方法(例えば特許文献1)により補正できる。
図16と
図17に示したように、θ1に対するA1とB2の変化量は1次または2次の関数で表されるため、S3とA3を補正するためにθ1を変化させたとき、どのくらいのA1とB2が発生するのかを見積もることが出来る。従って、S3とA3の補正と同時にA1とB2の補正を行うことが可能である。以下、A1とB2を補正するための具体的な方法を示す。
(チルト・チルト連動S3補正の場合)
第2の偏向手段11により第2の多極子レンズ13に入射する電子線を光軸1に対してシフトさせることでA1は補正される。また、第1の偏向手段8により第1の多極子レンズ9に入射する電子線を光軸1に対してシフトさせることでB2は補正される。従って、偏向コイル制御手段25により第1の偏向手段8にはS3補正のための傾斜とB2補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、第2の偏向手段11にはS3補正のための傾斜とA1補正のためのシフトを行うための制御信号を送ることで、余分なA1とB2を発生させることなくS3を補正することができる。
(チルト・チルト連動A3補正の場合)
チルト・チルト連動S3補正と同様、偏向コイル制御手段により第1の偏向手段8にはA3補正のための傾斜とB2補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、第2の偏向手段11にはA3補正のための傾斜とA1補正のためのシフトを行うための制御信号を送ることで、余分なA1とB2を発生させることなくA3を補正することができる。
なお、収差の大きさにより、A1とB2の内の一者だけの補正とすることもできる。
【0044】
以上の手順で求めた係数を用いて各種収差を補正した走査型透過電子顕微鏡により試料観察を行った結果、更に良好な画像を得ることができた。また、A1やB2を含め、収差補正を短時間でより効率的に行うことができた。
(チルト・シフト連動S3補正の場合)
チルト・シフト連動補正ではS3補正のために第2の偏向手段11で電子線をシフトさせるので、A1補正のために同じ第2の偏向手段11で電子線をシフトさせてしまうとS3の補正量が変わってしまう。従って、A1の補正には通常の電子顕微鏡が備えている様な非点補正コイルを用いる。B2の補正についてはチルト・チルト連動補正と同様の方法でよい。つまり、偏向コイル制御手段により第1の偏向手段8にはS3補正のための傾斜とB2補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、第2の偏向手段11にはS3補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、非点補正コイルによりA1を補正することで、余分なA1とB2を発生させることなくS3を補正することができる。
(チルト・シフト連動A3補正の場合)
チルト・シフト連動S3補正と同様、偏向コイル制御手段により第1の偏向手段8にはA3補正のための傾斜とB2補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、第2の偏向手段11にはA3補正のためのシフトを行うための制御信号を送り、非点補正コイルによりA1を補正することで、余分なA1とB2を発生させることなくA3を補正することができる。
なお、収差の大きさにより、A1とB2の内の一者だけの補正とすることもできる。
【0045】
以上の手順で求めた係数を用いて各種収差を補正した走査型透過電子顕微鏡により試料観察を行った結果、更に良好な画像を得ることができた。また、A1やB2を含め、収差補正を短時間でより効率的に行うことができた。
【0046】
次に、キャリブレーションの手順について説明する。ここでキャリブレーションとは、所望のS3とA3を発生させるために必要なθ1を求めることである(tとsは、補正モードに応じてθ1に比例定数τ
S3、τ
A3、σ
S3、σ
A3を掛けることで決まる)。
図8、9、13、14に示したように、各補正モードで発生するS3とA3はθ1に比例する。従ってキャリブレーションとは、各補正モードにおいて比例定数θ1/S3またはθ1/A3を求めることに相当する。以下、各補正モードにおけるキャリブレーション手順を示す。
(チルト・チルト連動S3補正の場合)
(手順TS1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順TS2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対する傾斜量tをt=τ
S3×θ1’に設定する。
(手順TS3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順TS4)
公知の収差測定手段を用いて、S3の大きさを測定する(S3’とする)。
(手順TS5)
S3を単位量発生させるためのθ1=θ1’/S3’(チルト・チルト連動S3補正のキャリブレーション値)を求める。
(チルト・チルト連動A3補正の場合)
(手順TA1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順TA2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対する傾斜量tをt=τ
A3×θ1’に設定する。
(手順TA3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順TA4)
公知の収差測定手段を用いて、A3の大きさを測定する(A3’とする)。
(手順TA5)
A3を単位量発生させるためのθ1=θ1’/A3’(チルト・チルト連動A3補正のキャリブレーション値)を求める。
(チルト・シフト連動S3補正の場合)
(手順SS1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順SS2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対するシフト量sをs=σ
S3×θ1’に設定する。
(手順SS3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順SS4)
公知の収差測定手段を用いて、S3の大きさを測定する(S3’とする)。
(手順SS5)
S3を単位量発生させるためのθ1=θ1’/S3’(チルト・シフト連動S3補正のキャリブレーション値)を求める。
(チルト・シフト連動A3補正の場合)
(手順SA1)
第1の偏向手段8を用いて、第1の多極子レンズ9に入射する電子線の光軸1に対する傾斜角θ1を任意に設定する(θ1’とする)。
(手順SA2)
第2の偏向手段11を用いて、第2の多極子レンズ13に入射する電子線の光軸1に対するシフト量sをs=σ
A3×θ1’に設定する。
(手順SA3)
第3の偏向手段14を用いて、電子線を光軸1上に振り戻す。
(手順SA4)
公知の収差測定手段を用いて、A3の大きさを測定する(A3’とする)。
(手順SA5)
A3を単位量発生させるためのθ1=θ1’/A3’(チルト・シフト連動A3補正のキャリブレーション値)を求める。
図18にキャリブレーションに用いるGUIを示す。
テキストボックス44、45、46、47にθ1の適当な値θ1’を入力する。ボタン48、49、50、51を押すことで事前に計算された各補正モードの偏向コイル連動係数τ
S3、τ
A3、σ
S3、σ
A3の値が記憶装置34から読み出され、(手順TS1)〜(手順TS5)、(手順TA1)〜(手順TA5)、(手順SS1)〜(手順SS5)、(手順SA1)〜(手順SA5)に従って、キャリブレーション値計算ユニット35により各補正モードのキャリブレーション値が計算される。
【0047】
上記手順で求められたキャリブレーション値は記憶装置34に保存され、チルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正を行う際に偏向コイル制御手段25から読み出される。
【0048】
尚、キャリブレーションはS3とA3の位相角についても行う必要があるが、これは電子線を偏向させる位相角φ(X方向の偏向量とY方向の偏向量の比率で決まる)と、S3及びA3の位相角(公知の収差測定手段により測定される)とを対応付けることで容易に行うことが出来る。
【0049】
また、(手順TS4)、(手順TA4)、(手順SS4)、(手順SA4)においてA1とB2を測定し(それぞれA1’、B2’とする)、A1’/θ1’とB2’/θ1’を求めておくことで、S3とA3の補正に伴って発生するA1とB2を前述の方法で補正することが出来る。
【0050】
図19にS3とA3の補正に用いるGUIを示す。S3補正とA3補正それぞれについて、チルト・チルト連動補正とチルト・シフト連動補正の2通りの補正方法があるので、ラジオボタン52、53、54、55で補正方法を選択する。このとき、各補正モードの偏向コイル連動係数とキャリブレーション値が記憶装置34から読み出される。S3とA3の補正量をそれぞれテキストボックス56と57に入力し、ボタン58と59を押すことでそれぞれS3とA3が補正される。
【0051】
以上、本実施例によれば、球面収差補正器を備えることにより副次的に生じる2回対称3次スター収差(S3)と4回対称3次非点収差(A3)とを独立して補正することのできる3次寄生収差の補正方法および荷電粒子線装置を提供することができる。
【0052】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある構成の一部を他の構成に置き換えることも可能であり、また、ある構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。