(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(Al)を含むIII族窒化物半導体は、波長200nmから360nmに相当する紫外領域において直接遷移型のバンド構造を持つため、高効率な紫外発光デバイスの作製が可能である。
【0003】
III族窒化物半導体デバイスは、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、もしくはハライド気相エピタキシー法(HVPE法)等の気相成長法によって、単結晶基板上にIII族窒化物半導体薄膜を結晶成長させることにより製造される。中でも、MOCVD法は、原子層レベルでの膜厚制御が可能であり、また比較的高い成長速度が得られることから、工業的には現在最も多く用いられている手法である。
【0004】
上記紫外発光デバイスを製造する場合には、Alを含むIII族窒化物半導体結晶と格子定数および熱膨張係数の整合性の良い基板の入手が困難である。そのため、一般的にサファイア基板や炭化ケイ素基板などの異種材料基板上に、Alを含むIII族窒化物半導体結晶が形成される。特に、発光波長が紫外領域の場合は、光透過性の観点からサファイア基板が広く用いられている。
【0005】
また、Alを含むIII族窒化物半導体結晶には、表裏の関係にあるIII族極性(例えば、III族窒化物がAlNの場合にはAl極性)と窒素極性(N極性)の2つの極性が存在する。良好なデバイス特性を得る為には、前記異種材料基板上に、III族極性面が最表面に露出した状態で成長が進行する(III族極性成長する)ように成長条件を制御することが好ましい。この理由は、III族極性成長の場合は、原子レベルで平滑な結晶表面が得られるのに対し、N極性成長の場合は、結晶内にIII族極性とN極性が混在した極性反転ドメインが多数発生し、III族極性成長に比べて結晶表面の表面粗さが極端に悪化するためである(例えば、非特許文献1および2参照)。特に、この傾向は、Alの含有量が高いIII族窒化物単結晶、例えば、窒化アルミニウム(AlN)単結晶を成長させる際に、顕著になる。
【0006】
AlNについて、III族極性(Al極性)および窒素極性(N極性)を更に詳しく説明する。Al極性とは、「0001」面或いは+C面を結晶成長面とするものであり、正四面体の中心(重心)にアルミニウム(Al)原子が存在し、4つの頂点に窒素(N)原子が存在する正四面体構造を単位ユニットとするものとして定義される。そして、Al極性成長とは、このような単位ユニットを形成しながら成長することを意味する。これに対し、N極性とは、「000−1」面或いは−C面を結晶成長面とするものであり、正四面体の中心(重心)にN原子が存在し、4つの頂点にAl原子が存在する正四面体構造を単位ユニットとするものとして定義される。そして、N極性成長とは、このような単位ユニットを形成しながら成長することを意味する。
また、これら成長で得られる結晶の物性面での特徴を比べると、Al極性成長で得られる結晶では、その、サファイア基板と接合する面と反対側の「露出表面」(Al極性面)の表面平滑性、耐薬品性および耐熱性が高いのに対し、N極性成長で得られる結晶では、その「露出表面」(N極性面)のこれら物性がAl極性面よりも劣る。
【0007】
前記したように、このような各極性面の物性的な違いは、AlN以外のIII族窒化物単結晶、特にAlN含有率の高いIII族窒化物単結晶についても基本的には同様であり、サファイア基板上に成長させたIII族窒化物(たとえばAlN)単結晶がIII族極性成長したか否かは、上記耐薬品性の違いを利用して、簡単に判別することができる。すなわち、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ水溶液中に積層体(サファイア基板上にIII族窒化物単結晶層を形成した積層体)を浸漬し、浸漬後の結晶表面の溶解状態を観察するエッチングテストにより簡易的に行うことができる。III族窒化物単結晶層の表面がIII族極性面であれば、アルカリ水溶液に対する耐性が高いため、エッチングされることはない。一方、表面がN極性面の場合は容易にエッチングされる。したがって、このようなテスト前後の表面を観察し、エッチング痕が観察されなければIII族極性成長したと判断することができ、逆に明らかなエッチング痕が観察された場合にはN極性成長したと判断できる。
【0008】
サファイア基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させるに際し、III族極性成長を実現するためには、III族極性成長し易い状況、すなわちIII族原子が過飽和に近い状況を意図的に作り出す必要がある。このような状況を作り出す具体的な方法として、サファイア基板上へIII族窒化物単結晶層を形成する前に、III族原料(例えば、Al原料)のみを供給する方法(例えば非特許文献3参照)、または、III族窒化物単結晶層を成長させる初期の段階において、窒素源ガスを供給しない状態でIII族原料ガス(例えば、Al原料)を断続的に供給する方法(例えば特許文献1)等が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、MOCVD法によりサファイア基板上へAl
XGa
YIn
ZN(但し、X、Y、およびZは、それぞれ、0.9≦X≦1.0、0.0≦Y≦0.1、0.0≦Z≦0.1を満足する有理数であり、X+Y+Z=1.0である)で示される組成を満足するIII族窒化物からなる単結晶層が積層された積層体を製造する方法に関する。
そして、サファイア基板上へ、該III族窒化物単結晶を成長させるための原料ガス(III族原料ガス、および窒素源ガス)と共に、酸素源ガスを供給することにより、酸素を1×10
20cm
−3以上5×10
21cm
−3以下の濃度で含有した前記組成を満足するIII族窒化物からなる初期単結晶層を該サファイア基板上に15nm以上40nm以下の厚みで成長させる第一成長工程、及び
該初期単結晶層上に、酸素源ガスを供給せずに該原料ガスを供給するか、または該原料ガスと共に、酸素源ガスを第一成長工程よりも少ない供給量で供給することにより、初期単結晶層よりも酸素濃度が低減され、かつ表面がIII族極性面である前記組成を満足するIII族窒化物からなる第二のIII族窒化物単結晶層を成長させる第二成長工程
とを含むことを特徴とする。
【0022】
以下、順を追って本発明について詳しく説明する。
【0023】
(MOCVD法、および使用する装置)
本発明の方法では、有機金属気相成長法(MOCVD法)によりIII族窒化物単結晶層を成長させる。このMOCVD法は、III族原料ガス、例えば、トリエチルアルミニウムのような有機金属のガスと、窒素源ガス、例えば、アンモニアガスのような原料ガスを基板上に供給し、該基板上に、III族窒化物単結晶層を成長させるものである。本発明の方法では、このようなMOCVD法を行うことができる装置であれば特に限定されず、公知のMOCVD装置または市販のMOCVD装置を制限無く使用できる。
【0024】
しかしながら、III族窒化物単結晶の形成時に、意図せぬ不純物の混入をできるだけ低減でき、初期単結晶層の酸素濃度の制御が容易となるという観点から、MOCVD装置としては、例えば、基板を加熱している際に、輻射により高温になる基板周辺部材から発生する不純物、特に、基板周辺部材を構成する材質から発生する酸素などの不純物の量を最小限に抑えることができる構造の装置を使用することが好ましい。具体的には、基板からの輻射により1000℃以上に加熱される箇所において、少なくとも原料ガスなどと接する表面部分が、窒化ボロンやAlNなどの高純度セラミックスからなる材質を使用した装置を使用することが好ましい。
【0025】
(III族窒化物単結晶の基本組成)
本発明における初期単結晶層、および第二のIII族窒化物単結晶層は、共に基本的に前記組成式で示されるIII族窒化物単結晶からなるものであればよいが、製造上の容易さ、光透過性および効果の顕著性の観点から、前記組成式におけるX、Y、およびZは、1.0≧X≧0.95、0.05≧Y≧0、0.05≧Z≧0であることが好ましく、特にX=1.0、すなわちAlNであることが特に好ましい。
なお、本発明の方法における初期単結晶層を構成するIII族窒化物単結晶は所定濃度で酸素を含み、また、第二のIII族窒化物単結晶層を構成するIII族窒化物単結晶も初期単結晶層における濃度よりも低い濃度で酸素原子を含むことができる。しかしながら、これら結晶中に含まれる酸素原子の量は微量で、所謂不純物として扱うことが出来るレベルであり、III族窒化物単結晶の分野においては、基本結晶組成は不純物を考慮せずに表すのが一般的である。したがって、本発明においても、酸素の存在によりIII族窒化物単結晶の基本組成式は変わらないものとして扱う。
【0026】
また、初期単結晶層、および第二のIII族窒化物単結晶層を構成するIII族窒化物単結晶の組成式(X,YおよびZの具体的数値の組み合わせ)は同一でも異なっていてもよい。ただし、製造上の容易さ、光透過性の観点から、両者は、同一の組成であることが好ましく、特に、両者共にAlNとなることが好ましい。
【0027】
(第一成長工程)
本発明においては、MOCVD法によりサファイア基板上に前記組成のIII族窒化物単結晶層を成長させるに際し、先ず、第一成長工程を行う。すなわち、第一成長工程では、原料ガスとして、III族原料ガス、窒素源ガスおよび酸素源ガスを用い、これらをサファイア基板上に供給することにより、前記基本組成を有し、且つ酸素濃度が1×10
20cm
−3以上5×10
21cm
−3以下であるIII族窒化物からなる初期単結晶層を15nm以上40nm以下の厚さで成長させる。
このような初期単結晶層を成長させることにより、第二成長工程では、第二のIII族窒化物単結晶層を安定してIII族極性成長により成長できるようにし、該層の表面平滑性を高めると共に結晶性を高めることができる。さらには、該第二のIII族窒化物単結晶層上に半導体デバイスとするために必要なその他のIII族窒化物単結晶層を形成する場合において、これら単結晶層の結晶性を高めることができる。
【0028】
このような効果が得られる機構は必ずしも明確ではないが、本発明者らは次のような機構であると推定している。すなわち、MOCVD法による結晶成長は、その極初期にIII族極性成長の核となる部分(III族極性成長核)と窒素極性成長の核となる部分(窒素極性成長核)が、サファイア基板表面に、それぞれ多数ランダムに付着し、これらの核が競争的に成長すると考えられる。このとき、III族極性成長の成長速度の方が窒素極性成長の成長速度よりも速いため、III族極性成長核の存在密度がある程度以上の値となると、窒素極性成長核が存在しても成長が進むにつれてIII族極性成長が優勢になり、最終的に完全もしくはほぼ完全なIII族極性成長となる。このとき、III族極性成長核の存在密度が高くなりすぎると、各成長核から成長した単結晶ドメインどうしが衝突する際に、ドメイン間のごく僅かな方位のズレなどに起因して転位などの欠陥が発生し易くなり、結晶性が低下してしまう。
【0029】
本発明では、第一成長工程において形成される初期単結晶層中の酸素濃度およびその厚さを制御することにより、III族極性成長核の存在密度を適度に高く制御することが可能になり、結晶性の低下を防止しながらIII族極性成長の優位性を高めることに成功したものと、本発明者等は考えている。より詳しく説明すると、III族極性成長核の存在密度を高くすることに関しては、酸素にはIII族極性成長核の形成(基板表面への付着)を促進する作用があり、核形成時における該核中の酸素ガスの濃度、延いては初期単結晶層中に含まれる酸素濃度を高くすればするほど基板表面への付着率が高くなり、III族極性成長核の存在密度は高くなると考えられる。本発明の方法では、初期単結晶層中に含まれる酸素濃度に所定の上限値を設定することによりIII族極性成長核の存在密度が高くなりすぎることを防止し、結晶性の低下を防止している。ところが、酸素濃度に上限値を設定しても結晶成長が進むにつれて(初期単結晶層の厚さが厚くなるにつれて)、窒素極性成長面上にも新たなIII族極性成長核が形成され、III族極性成長核の存在密度が所期の範囲を越えて高くなり過ぎ、結晶性が低下する傾向があることが判明した。そこで本発明の方法では、初期単結晶層の厚さに上限を設定し、このような結晶性の低下を防止している。そして、このような制御を行って形成された初期単結晶層の表面(最上面)は、結晶性および表面平滑性が良好で、且つIII族極性成長面が大部分を占める状態となっているため、第二成長工程で酸素の供給を止めても安定してIII族極性成長ができるようになったものと考えられる。
以下、第一工程の詳細について説明する。
【0030】
(サファイア基板)
第一工程で使用するサファイア基板は、その表面にIII族窒化物単結晶層が成長できるものであれば、特に制限されるものではなく、公知のサファイア基板を使用できる。サファイア基板としては、III族窒化物単結晶の成長の容易さから、結晶成長面の方位が(0001)面(C面)である基板、または結晶成長面がC面からM軸方向に、0°を越え0.5°以下傾斜させたOFF角付き基板を用いることが好ましい。厚みに関しても、特に限定されるものではないが、製造コストおよび取り扱いの容易さから、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であることが特に好ましい。
【0031】
また、このようなサファイア基板は、下記に詳述する初期単結晶層を形成する前に、MOCVD装置内に設置した後、水素雰囲気中、1200℃以上、さらに好ましくは1250℃以上で加熱することにより、基板表面のクリーニング(サーマルクリーニング)を行うことが好ましい。なお、このサーマルクリーニングの上限温度は、通常、1500℃である。
【0032】
(原料ガス)
第一工程では原料ガスとして、III族原料ガス、窒素源ガスおよび、酸素源ガスを使用する。これら原料ガスは、通常、水素ガス、窒素ガスのようなキャリアガスと共に反応系内(装置内の基板上)に供給される(この点は、後述する第二成長工程においても同様である)。
III族原料ガスおよび窒素源ガスとしては、成長させるIII族窒化物単結晶の組成に応じて、MOCVD法によりIII族窒化物単結晶を成長させるために使用することができるIII族原料ガスおよび窒素源ガスが特に制限なく使用できる。具体的には、III族原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、又はトリメチルインジウムのガスを使用することが好ましい。なお、これらIII族原料は、成長させる初期単結晶層の組成に応じて、その原料の種類、使用割合を適宜決定すればよい。また、窒素源ガスとしては、アンモニアガスを使用することが好ましい。
【0033】
酸素源ガスとしては、初期単結晶層に含まれる酸素の供給源となるガスであり、酸素ガスおよび分子内に酸素を含む化合物のガスを使用することができる。分子内に酸素を含む化合物としては、成長条件においてガス化する化合物であれば使用できるが、取り扱いの容易さから室温液体の炭素数1〜5のアルコール、特にブタノールを使用することが好ましい。
酸素源ガスは他の原料ガスに比べて微量供給されるので、酸素源ガスとしては予めキャリアガスで希釈されたガスを用いることが好ましい。たとえば、室温液体の「分子内に酸素を含む化合物」のガスを使用する場合には、液体の該化合物を室温以上の所定の温度条件下に保持し、水素などのキャリアガスでバブリングすることによって、キャリアガスで希釈された酸素源ガスとして供給することができる。
【0034】
酸素の供給量を精密に制御し易いという観点から、酸素源ガスとしては、窒素または水素などのキャリアガスで希釈した酸素ガスを用いることが好ましい。酸素の希釈方法は、特に制限されるものではなく、あらかじめガスボンベ内で希釈する方法、酸素ガスと、窒素、または水素などのキャリアガスを装置内で混合することにより希釈する方法を採用することができる。
【0035】
(初期単結晶層およびその形成手順および条件)
第一成長工程で形成される初期単結晶層中の酸素濃度は、1×10
20cm
−3以上5×10
21cm
−3以下でなければならない。初期単結晶層中の酸素濃度を上記の範囲内に制御することにより、該初期単結晶層上に成長させる第二のIII族窒化物単結晶層が安定してIII族極性成長するとともに、該第二のIII族窒化物単結晶層中の欠陥密度を低減することができる。第二のIII族窒化物単結晶層を、より安定してIII族極性成長させ、欠陥密度をより低減するためには、初期単結晶層中の酸素濃度は、特に5×10
20cm
−3以上4×10
21cm
−3以下であることが好ましい。ここで、酸素濃度は、単結晶層1cm
3中に含まれる酸素原子数を意味する。
【0036】
初期単結晶層中の酸素濃度が1×10
20cm
−3未満の場合には、初期単結晶層上に成長させる第二のIII族窒化物単結晶層はN極性成長が支配的となり、その状態は酸素濃度の減少に伴って変化する。本発明者らの検討によれは、酸素濃度が10
19cm
−3程度の場合は、III族極性とN極性が混在した状態であり、酸素濃度が10
19cm
−3未満の場合は、ほぼ全面がN極性面となることが分かった。また、いずれの領域においても、III族窒化物単結晶層の表面平滑性は、III族極性成長した場合に比べて悪化する。
【0037】
一方、初期単結晶層中の酸素濃度が5×10
21cm
−3を超える場合には、第二のIII族窒化物単結晶層は安定してIII族極性成長するが、酸素濃度の増加に伴って該第二のIII族窒化物単結晶層中の欠陥密度が増加する。
【0038】
なお、この欠陥密度は、透過電子顕微鏡(TEM)の断面もしくは平面観察により転位欠陥の数をカウントし測定することが出来る。また、別の方法として、X線ロッキングカーブ測定における(002)面または(102)面半値幅から欠陥密度の大小関係を見積もることも可能である。この場合、上記半値幅が小さくなるにつれて欠陥密度が低くなると見積もられる。
【0039】
本発明の方法によれば、第二のIII族窒化物単結晶層は、(102)面の半値幅を好ましくは2500arcsec以下とすることができ、さらに好ましくは1500arcsec以下とすることができる。
【0040】
初期単結晶層形成時の酸素源ガスの供給量およびガス濃度(酸素濃度)は、初期単結晶層中の酸素濃度が前述の範囲に入るように、装置の仕様等に応じて適宜決定すればよい。結晶中への酸素の取り込み量と酸素の供給量は、MOCVD装置の構造やガス導入方法などによって大きく異なることが予想されるため、予め酸素源ガスの供給量と結晶中に取り込まれる酸素濃度との関係を調査し、前述の範囲内に酸素濃度が入るようにガス供給量、および濃度を設定することが好ましい。ただし、通常の工業的な生産を考慮すると、III族原料ガスのIII族原子に対して、酸素源ガスにおける酸素のモル比(酸素原子/III族原子比)を0.1以上10以下の範囲で調整することが好ましい。
【0041】
また、本発明において、酸素源ガスを供給することにより形成された初期単結晶層(酸素濃度が1×10
20cm
−3以上5×10
21cm
−3以下の初期単結晶層)の膜厚は15nm以上40nm以下でなければならない。初期単結晶層の膜厚が15nm未満の場合には、初期単結晶層表面におけるIII族極性面の割合が十分に高くならないため、初期単結晶層上に成長させる第二のIII族窒化物単結晶層はN極性成長が支配的となる。一方、初期単結晶の膜厚が40nmを超える場合には、安定して第二のIII族窒化物単結晶層はIII族極性成長するが、窒素極性成長面上にも新たなIII族極性成長核が形成され、III族極性成長核の存在密度が高くなり過ぎ、該初期単結晶層の膜厚の増加に伴って該III族窒化物単結晶層中の欠陥密度が増加する。そのため、より安定したIII族極性成長を実施し、かつ、結晶品質のよいIII族窒化物単結晶層を形成するためには、初期単結晶層の厚みは、より好ましくは15nm以上30nm以下である。
なお、ここで、初期単結晶層の膜厚は、平均膜厚を意味する。前記したように、初期単結晶層形成段階においてはIII族極性成長とN極性成長が競争的に起り、初期単結晶層にはIII族極性成長した部分とN極性成長した部分とが共存することになる。一般に成長速度はIII族極性成長の方が高いため、初期単結晶層には厚みむらが生じると考えられる。そこで、本発明では、同一条件で別途長時間(上記厚みむらの影響が小さくなるような膜厚になる時間:具体的には約0.2μmの膜厚となる時間)成長を行って、その条件における成長速度を求め、実際の第一成長工程で初期単結晶層を形成するのに要した時間と該成長速度の積から求められる厚さ(平均膜厚)を、初期単結晶層の厚さとした。
【0042】
本発明において、初期単結晶層形成時の原料ガスの供給は、特に制限されるものではないが、III族原料ガスに対する窒素源ガスのモル比(窒素原子/III族原子比)を3000以上8000以下とすることが好ましい。原料ガスの供給比がこの範囲を満足することにより、安定してIII族極性成長が可能になると共に、欠陥密度をより低減することが可能となるため好ましい。また、原料ガスは、酸素源ガスと共ともに供給すればその方法は、特に制限されるものではなく、III族原料及び窒素源ガスを同時に供給する、それぞれを交互に供給する、または何れかの原料ガスを断続的に供給する、など公知の方法により供給することができる。なお、III族原料ガスは、初期単結晶層が上記組成を満足するIII族窒化物から形成されるように、その比を調整すればよい。
【0043】
初期単結晶層の形成温度(初期単結晶層を形成する際のサファイア基板の温度)に関しては、850℃以上1150℃以下であることが好ましく、特に900℃以上1100℃以下であることが好ましい。初期単結晶層の形成温度がこの範囲を満足することにより、第二工程において成長させる第二のIII族窒化物単結晶層のIII族極性成長をより安定的に実現し、かつ該III族窒化物単結晶層中の欠陥密度をより低減することができる。また、初期単結晶層の形成温度を上記範囲とすることにより、初期単結晶層におけるIII族極性成長とN極性成長の混在を少なくすることができる。さらに、初期単結晶層の形成温度を上記範囲とすることにより、結晶性のよい(X線ロッキングカーブ測定における半値幅の狭い)初期単結晶層とすることができる。その結果、該初期単結晶層上に形成する第二のIII族窒化物単結晶層も、表面平滑性、および結晶性の改善されたものとなる。
【0044】
上記のように初期単結晶層に含まれる酸素濃度、および初期単結晶層の膜厚の違いによって、該初期単結晶層上に形成する第二のIII族窒化物結晶層の極性状態、および結晶品質は変化する。この変化は、サファイア基板上の初期単結晶層の極性状態、および結晶品質に影響を受ける。
【0045】
本発明者らの原子間力顕微鏡(AFM)による結晶表面の観察結果によれば、上記で説明したN極性成長が優勢となる成長条件において、初期単結晶層の成長面のIII族極性成長の状態は、島状の状態であり、そして、サファイア基板に対する島状結晶(III族極性の成長部分)は、その被覆率が概ね30%以下であることが分かった。一方、安定的にIII族極性成長するが、欠陥密度が増加してしまう成長条件において、初期単結晶層の成長面のIII族極性成長の状態は、網目状の状態であり、そして、サファイア基板に対する被覆率は90%以上であることが分かった。このような結果は、前記した本発明者等による推定機構を支持するものである。
なお、結晶表面の極性の分析にAFMを用いたのは、初期単結晶層のように40nm以下という非常に薄い膜を成長させた場合には結晶面にIII族極性の部分とN極性の部分が混在する可能性が高く、前記した「簡便的な判別法であるエッチングテスト」では、このような共存状態を評価することができないからである。これに対し、第二工程で形成される第二のIII族窒化物単結晶層の極性を判断する場合には、該第二のIII族窒化物単結晶層は、通常0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上の厚さで形成される。初期単結晶層から通算すると、各結晶核の成長が十分に進行する厚みであるため、第二のIII族窒化物単結晶層表面は、ほぼ完全にIII族極性部分またはN極性部分のどちらかとなっている。このため、第二のIII族窒化物単結晶層表面の極性判断には前記エッチングテストが問題なく使用できる。
【0046】
このような結果から、初期単結晶層の好ましい成長状態としては、サファイア基板上(表面)に、III族極性成長が島状もしくは網目状の状態で成長しており、サファイア基板に対するIII族極性成長した部分の被覆率が30%を超え、90%未満の状態が最も好ましいと考えられる。そして、初期単結晶層におけるこのような成長状態は、酸素濃度、および膜厚が上記範囲を満足する初期単結晶層とすることにより達成できる。特に、初期単結晶層の形成温度を上記好ましい範囲とすることにより、容易に上記成長状態とすることができる。
【0047】
次いで、本発明においては、第二成長工程において、該初期単結晶層上に、第二のIII族窒化物単結晶層を成長させることにより積層体を製造する。この第二成長工程について以下に説明する。
【0048】
(第二成長工程)
第二成長工程では第一成長工程で得た初期単結晶層上に、酸素源ガスを供給せずに該原料ガスを供給するか、または原料ガスと共に、酸素源ガスを第一成長工程よりも少ない供給量で供給することにより、初期単結晶層よりも酸素濃度を低減した第二のIII族窒化物結晶層を成長させて積層体を製造する。このとき、高い光透過性を有し、より高い結晶性を有する第二のIII族窒化物結晶層を得るという観点からは、第二成長工程において酸素源ガスを供給しないことが好ましい。
第二成長工程で成長させる第二のIII族窒化物単結晶層は初期単結晶層表面(III族極性成長した部分の被覆率が好ましくは30%を超え、90%未満である状態の表面)を結晶成長面とするので、該第二のIII族窒化物単結晶層の形成過程において該第二のIII族窒化物単結晶層の表面に占めるIII族極性成長した部分の割合は、次第に増大し、最終的には90%以上、特に100%若しくはそれに近い割合にまで高くすることができる。そして、第二のIII族窒化物単結晶層の形成過程では、主として既に形成されたIII族極性成長核の成長が起り、新たなIII族極性成長核の形成は起こり難いので、膜厚を厚くしても結晶性が低下することが無い。
【0049】
この第二成長工程において、原料ガス、および酸素源ガスは、前記第一成長工程と同様のものを使用することができる。
【0050】
本発明において、前記初期単結晶層上に第二のIII族窒化物単結晶層を成長させる際の条件は、酸素源ガスの供給量を0とするか、第一成長工程よりも酸素源ガスの供給量を低減する以外は、第一成長工程と同様の条件を採用することができる。
すなわち、原料ガスの供給は、特に制限されるものではないが、窒素原子/III族原子比は500以上7000以下の範囲とすればよい。また、原料ガスの供給方法については、特に制限されるものではなく、III族原料及び窒素源ガスを同時に供給する、それぞれを交互に供給する、または何れかの原料ガスを断続的に供給する、など公知の方法により供給することができる。なお、III族原料ガスは、第二のIII族窒化物単結晶層が上記組成を満足するIII族窒化物から形成されるように、その比を調整すればよい。
さらに、III族窒化物単結晶層を形成する際の形成温度は、特に制限されるものではなく、1100℃以上1500℃以下の範囲であればよい。
また、初期単結晶層を形成した後、初期単結晶層形成温度よりも高い温度でIII族窒化物単結晶層を成長させる必要がある場合には、以下の方法を行うことが好ましい。例えば、キャリアガスのみを供給する、もしくはアンモニアガスとキャリアガスのみを供給している間に、基板(初期単結晶層)が所定の温度となるように加熱することが好ましい。
なお、第二のIII族窒化物単結晶層の成長条件を途中で変えることにより、第二のIII族窒化物単結晶層を多層構造とすることもできる。例えば、成長温度(形成温度)、成長時の窒素原子/III族原子比、または原料供給方法などが異なるIII族窒化物単結晶層を積層することにより、欠陥密度を低減させた多層のIII族窒化物単結晶層を形成することもできる。
【0051】
なお、このようにして得られる第二のIII族窒化物単結晶層中に含まれる酸素濃度は、1×10
20cm
−3未満であり、好ましくは1×10
19cm
−3以下であり、さらに好ましくは1×10
18cm
−3以下である。通常、酸素は不純物であるため、積層体に含まれる酸素濃度は低い方が結晶の品質を高めることができる。そのため、この第二成長工程では、酸素を含むガスを供給しない態様が最も好ましい。ただし、下記の実施例に示しているが、酸素を発生しない部材を有する装置を使用し、かつ酸素を含むガスを供給しなくとも、その原因は明らかではないが、極微量の酸素がIII族窒化物単結晶層に含まれる場合がある。その結果、第二のIII族窒化物単結晶層における酸素濃度を検出限界以下とするのは困難である。
【0052】
また、第二のIII族窒化物単結晶層の厚みは、使用する目的に応じて適宜決定すればよい。通常の半導体素子用に使用する場合には0.3μm以上5.0μm以下とすればよい。
【0053】
本発明の方法では、第一成長工程で所定の酸素濃度を有し、且つ所定の厚さを有する初期単結晶層を形成することにより、該初期単結晶層の露出表面の状態を、安定してIII族極性成長を行うのに適した状態、すなわち、表面に占めるIII族極性面の割合が適度に高い表面状態にする。そして、このような面を結晶成長面として第二成長工程を行うことにより、該工程では酸素を含まないIII族窒化物単結晶層を形成しても、安定したIII族極性成長を行うことができ、その結晶性および表面平滑性を高くすることができる。
また、このような本発明の方法により得られる「サファイア基板上に前記初期結晶層および第二のIII族窒化物単結晶層がこの順番で積層された積層体」である本発明の積層体は、第二のIII族窒化物単結晶層の露出表面が優れたIII族極性成長面であるため、その上に紫外発光デバイスを構成する各種単結晶薄膜層を形成するのに適しており、紫外発光デバイス作製用基板として好適に使用することができる。具体的には、第二のIII族窒化物単結晶層上に、必要に応じてバッファ層、n型導電層、活性層、およびp型導電層をこの順に積層した多層構造とすることで発光素子層を形成することができる。以下、本発明の積層体について、詳しく説明する。
【0054】
(本発明の積層体)
本発明の積層体の構成を
図1に示す。本発明の積層体は、サファイア基板1、該基板1上に前記した特定の組成および厚みを有する初期単結晶層2が積層され、該初期単結晶層2上に第二のIII族窒化物単結晶層3が積層されたものである。
【0055】
さらに詳しくは、この積層体は、サファイア基板上に、Al
XGa
YIn
ZN(但し、X、Y、およびZは、それぞれ、0.9≦X≦1.0、0.0≦Y≦0.1、0.0≦Z≦0.1を満足する有理数であり、X+Y+Z=1.0である)で示される組成を有し、酸素濃度が1×10
20〜5×10
21cm
−3であり、厚さが15nm以上40nm以下である初期単結晶層2と、前記組成式で示される組成を有し、初期単結晶層よりも酸素濃度の低い第二のIII族窒化物単結晶層3と、がこの順番で積層された積層体である。そして、好ましくは、この第二のIII族窒化物単結晶層の表面(サファイア基板1側とは反対の面)は、III族極性面である。
【0056】
本発明の積層体においては、第二のIII族窒化物単結晶層3の結晶性が高く、その表面が原子レベルでの平滑性が高くしかもIII族極性面であるものを、本発明の方法により容易に得ることができるという理由から、前記初期単結晶層2および該第二のIII族窒化物単結晶層3を構成するIII族窒化物は、前記組成式におけるX、Y、およびZが、1.0≧X≧0.95、0.05≧Y≧0、0.05≧Z≧0であることが好ましく、特にX=1.0、すなわちAlNであることが特に好ましい。
【0057】
また、初期単結晶層2の酸素濃度は、5×10
20〜4×10
21cm
−3であることが、特に好ましい。また、初期単結晶層2の厚みは、15nm以上30nm以下であることが特に好ましい。
【0058】
第二のIII族窒化物単結晶層3の酸素濃度は、初期単結晶層2の酸素濃度よりも低く、1×10
20cm
−3未満であり、好ましくは1×10
19cm
−3以下である。また、層厚みは、特に制限されるものではないが、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上4.0μm以下であることが特に好ましい。
本発明の積層体は、(a)第二のIII族窒化物単結晶層3の露出表面がIII族極性を有し、(b)該表面の平滑性が高く、(c)第二のIII族窒化物単結晶層3の結晶性が高く、さらに(d)積層体全体として、光、特に深紫外光や紫外光に対する透過率が高い、という優れた特徴を有する。以下、これらの特徴について説明する。
【0059】
(a)第二のIII族窒化物単結晶層3の露出表面の極性について
前記したように、第一工程で形成される初期結晶層の表面状態は、その上に単結晶成長を行う結晶成長面として、安定してIII族極性成長を行うのに適した状態となっている。このため、第二のIII族窒化物単結晶層3の露出表面の極性は、そのほとんど(たとえば90%以上、好ましくは95〜100%)がIII族極性となっている。該表面がIII族極性であることは、前記したエッチングテストにより容易に確認することができる。すなわち、本発明の積層体を水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ水溶液中に浸漬し、浸漬後の結晶表面の溶解状態を観察すればよい。表面がIII族極性面であれば、アルカリ水溶液に対する耐性が高いため、ほぼエッチングされることはない。一方、表面がN極性面の場合は容易にエッチングされる。このエッチングテストの条件、例えば、上記KOH水溶液の濃度、積層体の浸漬時間、および温度は、特に制限されるものではないが、具体的なテスト条件を例示すれば、KOH 10wt%水溶液に室温で1min(1分間)程度積層体を浸漬すればよい。
【0060】
(b)第二のIII族窒化物単結晶層3の露出表面の平滑性について
第二のIII族窒化物単結晶層3は安定したIII族極性成長をするため、該単結晶層は、その表面平滑性が優れる。具体的には、III族窒化物単結晶層3の表面を、算術2乗平均粗さ(RMS)で20nm以下とすることが可能であり、さらに条件を調整すれば、10nm以下とすることもできる。この透過率およびRMSは、公知の透過率測定装置および原子間力顕微鏡(AFM)で測定することができる。
【0061】
(c)第二のIII族窒化物単結晶層3の結晶性について
第二のIII族窒化物単結晶層3の下地結晶成長面となる初期結晶層表面では、III族極性成長核の存在密度が適度に調整されているため、第二工程において欠陥の発生が抑制され、第二のIII族窒化物単結晶層3の結晶性は高くなる。具体的には、結晶性を(102)面の半値幅で評価した場合、該半値幅を2500arcsec以下とすることができ、さらに好ましくは1550arcsec以下、特に1500arcsec以下とすることもできる。特に成長条件を精密に制御することにより、該半値幅を200arcsec程度まで低減することもできる。
【0062】
(d)積層体の光透過性について
本発明の積層体は、ベース基板として光透過性の極めて高いサファイアを使用し、III族原料ガスの先行供給などの光透過性を低下させるような方法を用いることなくIII族極性成長を安定して行う。また、第二のIII族単結晶層は結晶性が高く、その表面平滑性も高いため、本発明の積層体は、特に研磨などの処理を行わなくても高い光透過性を示すことができる。その光透過性は、III族窒化物単結晶層3の厚みにもよるが、220nm〜800nmの範囲の直線透過率において、80%以上とすることができ、(深)紫外発光素子用基板に求められる220nm〜280nmの波長領域の光に対する直線透過率、更には250nmの波長の光に対する直線透過率も80%以上とすることができる。
なお、III族窒化物単結晶をN極性成長させた場合には、N極性面は表面が粗いため上記直線透過率は高々70%程度である。該直線透過率のみに関していえば、表面研磨をして表面平滑性を高くすることにより、本発明の積層体と同程度の光透過率を得ることができるが、N極性成長は結晶成長ウィンドウが狭く結晶成長自体が難しいだけでなく、得られる結晶(面)の耐薬品性や耐熱性が低いという問題がある。
また、III族極性成長を行う従来法である非特許文献3に開示された方法では、III族極性成長を実現させる為にIII族原料ガスの先行供給を行う必要があり、本発明者等の追試結果によれば、このときに紫外領域の光を吸収する極薄いメタリック(Alリッチな層)な層が形成されるためと思われるが、220nm〜280nmの波長領域の光に対する直線透過率および250nmの光に対する直線透過率はともに60%以下と低いものであった。
【0063】
このように、本発明の積層体の好ましい態様として、第二のIII族窒化物単結晶層3が(102)面の半値幅が好ましくは200arcsec以上2500arcsec以下である結晶性を有し、該単結晶層3の表面のRMSが0.2nmを越え20nm以下であり、該表面の90%以上がIII族極性面であり、波長が220nm〜800nmの範囲光に対する積層体の直線透過率が80%以上である態様を含み、更に好ましい態様として、第二のIII族窒化物単結晶層3が(102)面の半値幅が好ましくは250arcsec以上1550arcsec以下である結晶性を有し、該単結晶層3の表面のRMSが0.2nmを越え10nm以下であり、該表面の90%以上がIII族極性面であり、波長が220nm〜800nmの範囲光に対する積層体の直線透過率が85%以上である態様を含む。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例をあげて本発明について詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
(サーマルクリーニング)
サファイア基板は、M軸方向に0.15°傾斜させたC面基板を用いた。これをMOCVD装置内のサセプタ上に設置した後、水素を10slmの流量で流しながら、サファイア基板を1250℃まで加熱し、10分間保持した。なお、このMOCVD装置は、サファイア基板を加熱した際の輻射熱により1000℃以上の温度になる箇所は、その表面部分に窒化ボロン製セラミックス材料で製造された部材を配置した。
【0066】
(第一成長工程)
次いで、サファイア基板の温度を950℃まで降温し、トリメチルアルミニウム流量が6.6μmol/min、アンモニア流量が1slm、酸素流量が0.5sccm、全流量が10slm、圧力が40Torrの条件でAlN初期単結晶層を厚さ20nm形成した(初期単結晶層を形成した)。ここで、酸素源(酸素を含むガス)には、高純度酸素(純度>5N)を用いた。上記高純度酸素を装置内で水素と混合し1.0%の希釈ガスとして、酸素流量が上記量となるように、基板上に供給した。
【0067】
(第二成長工程)
次いで、全流量を10slmに保持し、トリメチルアルミニウムの供給を停止しアンモニアのみを供給した状態でサファイア基板を1200℃まで昇温した。その後、同温度でトリメチルアルミニウム流量が26μmol/min、アンモニア流量が0.5slm、全流量が10slm、圧力が25Torrの条件でAlN単結晶層(第二のIII族窒化物単結晶層)を0.5μm形成し、積層体を製造した。なお、この第二成長工程においては、酸素源を供給しなかった。
【0068】
(積層体の評価)
得られた積層体をMOCVD装置から取り出し、高分解能X線回折装置(スペクトリス社パナリティカル事業部製X‘Pert)により、加速電圧45kV,加速電流40mAの条件で(102)面におけるロッキングカーブ測定を行った。また、原子間力顕微鏡により5μm角の表面形状像を取得しRMSを算出した。その後、積層体を8mm角程度の大きさに切断し、任意の切断済みサンプルの一つについては、セシウムイオンを1次イオンに用いた2次イオン質量分析法により酸素の定量分析を行った。AlN層(初期単結晶層、および第二のIII族窒化物単結晶層)中の酸素濃度は、AlN標準試料に基づき定量した。その結果を表1に示した。さらに、紫外可視分光光度計(島津製作所製)を用いて波長が220nm〜800nmの波長領域の光、および波長250nmの光に対する積層体の直線透過率を測定した結果、共に87〜97%であった。
【0069】
上記とは別の切断済みサンプル(積層体)をKOH水溶液(10wt%)に1min間浸漬した後、微分干渉顕微鏡により表面状態を観察し、エッチングの有無からAlN層(第二のIII族窒化物単結晶層)の極性を判別した。これら評価結果を表1に示した。また、(102)面のロッキングカーブ測定結果および極性判別の結果を、2次イオン質量分析法により得られた酸素濃度に対してプロットしたものを
図2に示した。
【0070】
実施例2
実施例1で得られた積層体における初期単結晶層中の酸素濃度をより正確に分析するため、実施例1で使用した酸素ガスを99.9atm%の安定同位体酸素(質量数18)に変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1に示した。
【0071】
実施例3
実施例1の第一成長工程において、酸素流量を1.0sccmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0072】
実施例4
実施例1の第一成長工程において、酸素流量を0.3sccmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0073】
実施例5
実施例1の第一成長工程において、AlN初期結晶層の厚さを30nmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0074】
比較例1
実施例1の第一成長工程において、酸素流量を0.1sccmに変えた以外は、同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0075】
比較例2
実施例1の第一成長工程において、酸素源を供給しない以外は、同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0076】
比較例3
実施例1の第一成長工程において、酸素流量を2.0sccmに変えた以外は、同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0077】
比較例4
実施例1の第一成長工程における初期結晶層の膜厚を50nmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0078】
比較例5
実施例1の第一成長工程における初期結晶層の膜厚を10nmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を製造した。得られた結果を表1および
図2に示した。
【0079】
【表1】