(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例の概略図である走査電子顕微鏡である。なお、本実施例において走査と電子顕微鏡とは走査透過電子を検出する手段を有する走査電子顕微鏡であり、走査透過電子顕微鏡と呼ばれることもある。
【0014】
陰極1と第一陽極2に印加される電圧V1によって陰極1から放出された一次電子ビーム3は、第二陽極4に印加される電圧V
accに加速されて、後段の電磁レンズ系に進行する。ここで、この加速電圧V
accおよびV1は、高電圧制御回路22で制御されている。一次電子ビーム3は第一収束レンズ制御回路23で制御された第一収束レンズ5で収束される。さらに一次電子ビーム3は、対物絞り6で不要な領域が除去された後、第二収束レンズ制御回路24で制御される第二収束レンズ7で再び収束され、対物レンズ制御回路26によって制御される対物レンズ12によって試料13に細く絞られ、さらに偏向制御回路25が接続された上段偏向コイル8および下段偏向コイル10で試料13上を二次元的に走査される。試料13は走査透過電子を取得するために薄膜である必要がある。また、寸法校正に用いるため結晶格子間隔が既知のものである必要がある。試料13は、試料微動制御回路27によって制御される試料微動装置14上にある。試料13の一次電子ビーム照射点から発生する信号のうち、試料表面の情報を持つ二次電子16は、対物レンズ12の磁場によって巻き上げられて、対物レンズ上部に配置された直交電磁界(EXB)装置17によって一次電子ビーム3と分離されて検出器20に検出され、増幅器21で増幅される。また、一次電子ビーム3が試料13を透過することによって得られる走査透過電子41は、試料13の下方に設置された検出器42に検出され、増幅器43で増幅される。なお、走査透過電子41には後述する散乱電子及び非散乱電子が含まれる。このとき、走査透過電子41は、対物レンズ12と検出器42との間に設置された絞り44によって、検出角度が制限される。増幅器21と増幅器43は、信号制御回路28によって制御されている。各種制御回路22〜28は、装置全体を制御するコンピュータ30によって制御される。増幅された二次電子および透過電子の信号は、表示装置31の画面に試料の拡大像として表示される。コンピュータ30には、他に該表示装置31上に表示された観察画像を画像情報として取得するための画像取得部32と、これら観察画像に対して種々の画像処理を行う画像処理部33と、この画像処理の結果からパラメータを計算したり、その他種々の計算をしたりするための計算部34と、観察画像や計算結果を保存するための内部メモリ等の記憶部35と、観察条件などを入力するための入力部36が接続されている。画像取得部32は表示装置31を経由せず、撮像した画像を直接取得することも可能である。なお、画像取得部32、画像処理部33、計算部34、記憶部35、はコンピュータ30の機能として実装されていても良いし、コンピュータ30において実行されるプログラムによって実現されてもよい。また、画像処理部33が計算部34の機能を兼ねていても良いし、その逆でも良い。また入力部36は、表示装置31がタッチパネルであって表示装置31に表示される画面と兼用されてもよい。
【0015】
図2は、一次電子ビーム3に対するビーム開き角α
i、および走査透過電子41に対する検出角β
iについての説明図である。ビーム開き角α
iは、一次電子ビーム3が試料13に入射するときの拡がりを半角で表したものである。ビーム開き角α
iは、対物絞り6の孔径と、第二収束レンズ7による一次電子ビームのクロスオーバ位置45の変化により設定される。また検出角β
iは、試料13の一次電子ビームの照射点から検出器42の検出面を見込んだ角である。検出角β
iは、絞り44の孔径を変化させることによって設定される。
【0016】
試料13の実体像を観察するときには、通常、一次電子ビーム径を最小とするように試料へのビーム照射開き半角(以下、ビーム開き角)α
iを調整する。この場合に得られる画像のコントラストが最もよくなるからである。これを通常の高分解能観察条件と称する。
【0017】
本実施例における処理の詳細を、
図3を用いて説明する。
【0018】
STEP1
この処理では、走査電子顕微鏡が通常の高分解能観察条件になるように、一次電子ビーム3の開き角α
iやフォーカスFを設定する。本ステップでの条件設定は入力部36からの指示に従って行われてもよいし、後述する
図4のようなGUIによって自動的に設定されても良い。これにより、ユーザは高分解能の二次電子像や走査透過電子像を表示装置31上にて観察することができる。ここでビーム開き角α
iは、一次電子ビーム3のフォーカス位置で決まる対物レンズ12の球面収差と色収差、および加速電圧V
accで決まる回折現象が最小になるときの値で与えられ、またフォーカスFは、対物レンズ12と試料との距離(ワーキングディスタンス:WD)と対物レンズ12の励磁との関係によって設定される。
【0019】
なお、STEP1は、本実施例のいずれのステップと順序を入れ替えて行われてもよいし、必ずしも実行されなくても良い。
【0020】
STEP2
この処理では、観察したい薄膜結晶試料の格子面間隔dを設定する。dの値は、それぞれの結晶試料によって既知の値であり、例えば珪素(シリコン;Si)の(111)結晶面間隔は0.314nmである。格子面間隔dの設定の方法の例を
図4に示す。ここでは、走査透過像の種類を選択できるGUI51を、表示装置31に表示する。ユーザは観察方法選択部分52において、高分解能走査透過電子像観察「UHR STEM」および格子像観察「Lattice Image」を、入力部36を用いて選択できる。「UHR STEM」が選択されているときは、
図4(a)に示した表示となり、前記STEP1で示した条件が設定される。一方、「Lattice Image」が選択されたときは、
図4(b)に示した表示となり、加えて走査透過像での観察対象とする薄膜結晶試料リスト53が表示される。ユーザはこの薄膜結晶試料リスト53から、現在観察している薄膜結晶試料を選択する。試料が選択されると、それに対応した条件がSTEP3以降に設定される。
【0021】
STEP3
この処理では、STEP2で決定された試料の格子面間隔dを持った格子像を取得するために、最適な電子ビーム開き角α
i、透過電子の検出角β
i、およびSTEP1の試料観察で設定されたフォーカスFからのフォーカス変化量ΔFを設定する。ここで格子像とは、薄膜試料を透過した電子の干渉によって得られるコントラスト(位相コントラスト)によって得られる像である。
【0022】
ここで、α
iおよびβ
iの決定方法について、
図5〜
図10を用いて説明する。
【0023】
図5に示すように、格子面間隔dを持った試料13に一次電子ビーム3が入射すると、薄膜結晶試料の原子に散乱されずに薄膜結晶試料を透過する非散乱電子61と、膜結晶試料の原子に散乱された散乱電子62が試料を透過する。ここで散乱電子は、ブラッグの法則よりブラッグ角θ
Bの2倍の角度(2θ
B)で散乱される。ここで、
θ
B=λ/2d
であり、λは電子の波長で、加速電圧V
accを用いて
λ=√(1.5/V
acc) (nm)
で求められる。
【0024】
以下、
図6から
図8はブラッグ角θ
Bとビーム開き角α
iとの関係に応じた電子波の干渉状態を説明する図である。
図6から
図8は、簡単のため、光軸を含む試料垂直断面での図を示している。したがって、以下で説明する散乱電子の電子波は実際にはドーナツ状に一定の散乱角を持って散乱されているものである。
【0025】
STEP1の条件の場合には、
図6(a)に示したような状態となり、ブラッグ角θ
Bよりビーム開き角α
iが小さい状態(α
i<θ
B)となる。このとき、非散乱電子61と散乱電子62とは重ならない。従って、信号検出面64においては
図6(b)のような信号形態となる。なお、信号検出面64とは検出器42の検出面のことである。
【0026】
次に、
図7(a)に示すように、α
iを
図6(a)の状態(STEP1の条件)から拡大させ、θ
B<α
i≦2θ
Bの範囲に有る場合について述べる。このときは、散乱電子62の片側と非散乱電子61の電子波2波が重なるため、信号検出面64における2波の重なった部分の領域では、
図7(b)に示すように電子波の干渉縞65が現れる。
【0027】
さらに、
図8(a)に示すように、α
iを
図7(a)の状態からさらに拡大させ、α
i>2θ
Bの範囲に有る場合について述べる。このときは、両方の散乱電子と非散乱電子の電子波3波が重なり、信号検出面64において、
図8(b)に示すように非散乱電子の中央に干渉縞66が現れる。この中央にできた干渉縞に対して、
図9(a)に示すように絞り44によって形成される検出角β
iの検出範囲67で走査透過電子の信号として検出する。さらに、一次電子ビーム3を試料13上で走査することにより、
図9(b)のように干渉縞65および66がシフトする。
【0028】
図10は横軸を試料13の走査位置として、縦軸を検出角β
iの範囲で検出された走査透過電子の総量としたグラフである。一次電子ビーム3を試料13上で走査することにより干渉縞65および66がシフトして、
図10に示すように、走査透過電子像内では強弱を持った格子像信号68が現れる。この格子像信号68の強度変化を検出器42で検出し、増幅器43で増幅して、信号制御回路28およびコンピュータ30を介して、表示装置31に格子像として出力される。
【0029】
以上より、少なくともα
iは2θ
Bよりも大きい角度を設定する必要があるが、加速電圧30kV以下で格子像を観察するためには、さらに適切なビーム開き角(α
i1とする)を設定する必要がある。これを
図11で説明する。
図11は所定の格子面間隔d、所定の加速電圧V
accのときの、ビーム開き角と像コントラストとの関係を示したものである。
【0030】
通常の二次電子像や走査透過像は、二次電子/走査透過像コントラスト70のようにSTEP1でのビーム開き角(α
i0とする)でビーム径が最小になり、そこで像のコントラストも最大となる。加速電圧が100kV以上の走査透過電子顕微鏡では、ビーム径最小でのビーム開き角α
i0より2θ
Bの方が小さいので、走査透過像のコントラストが最大の条件(ビーム径最小でのビーム開き角α
i0)で格子像が可視化される。このため格子間隔に応じてビーム開き角α
iを厳密に調整する必要はない。一方、最大加速電圧が30kV以下の汎用走査電子顕微鏡では、ビーム径が最小となるような条件であるビーム開き角α
i0は2θ
Bより小さいので、ビーム開き角α
i0の条件では格子像を得ることができない。
【0031】
前述のように格子像観察のためにビーム開き角α
iをα
i0からさらに増大させると、対物レンズ12の収差による一次電子ビーム径の拡大とともに像コントラストが低下する。また、前述のようにビーム開き角α
iが2θ
Bよりも大きい値でないと、格子像は現れない。
【0032】
ここからさらにビーム開き角を増大させてα
i>2θ
Bとすると格子像が得られる。ここで、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡では、ビーム径が拡大しているため、
図11に示すように、格子面間隔dおよび加速電圧に対して、設定するビーム開き角α
iの最適範囲が加速電圧100kV〜200kVの走査透過電子顕微鏡と比較して非常に限定されている。従って、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡において結晶薄膜試料を用いた寸法校正を実施する場合は、常に安定して格子像を取得するための最適条件に設定することが望ましい。格子像のコントラストは、格子像が観察できるビーム開き角(α
i>2θ
B)に対して、
図11の格子像コントラスト71のように、ビーム開き角α
i1でコントラストが最大となる。よって、格子像観察のためにはビーム開き角をα
i1に設定する。α
i1は、
α
i1=2θ
B+Δα
i
の値で定義される。θ
Bは上記の計算式より決定され、またΔα
iは、検出角β
iとともに、あらかじめ取得された実験結果にもとづき決定される。Δα
iは、格子面間隔d、加速電圧V
acc、検出角β
i、対物レンズのワーキングディスタンス(WD)に依存する量である。ここで格子面間隔d、加速電圧V
accは
図4でのユーザの入力から決定され、検出角β
iおよびワーキングディスタンス(WD)は格子像を取得するときの装置の状態から決まる。よって、予め格子面間隔d、加速電圧V
acc、検出角β
i、対物レンズのワーキングディスタンス(WD)に対して最適なΔα
iを求めて記憶部35に記憶しておけば、格子像取得時に最適なΔα
iを読み出して設定することができる。
【0033】
次に、フォーカス変化量ΔFの設定について説明する。STEP1で設定された通常の高分解能観察条件でのフォーカスFに対し、格子像を観察するためのフォーカスF′は、対象となる薄膜結晶試料の格子間隔dによって変化する。従って、フォーカスFとF′の間にはずれがあるため、ΔF=F−F′の量だけ、フォーカス設定をずらす必要がある。ここで、100kV以上の走査透過電子顕微鏡の場合、格子像観察時のビーム開き角αi′が大きくないため、フォーカス変化ΔFのずれが大きな画像変化とはならない。従って、通常はフォーカス変化ΔFを与えることなく格子像を観察している。しかし、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡の場合、格子像を観察するためには、上述のようにα
iを大きくする必要があるため、フォーカス変化ΔFのずれが大きな画像変化となって現れる。従って、30kV以下で格子像を観察するときは、フォーカスを調整する必要がある。フォーカスはユーザがその都度調整しても良いが、最適なフォーカスに設定することに熟練を要するため、試料の格子間隔dに応じて格子像を観察するための最適なフォーカス条件F′(またはフォーカス条件Fからの変化ΔF)を装置側で設定することが必要となる。このフォーカス条件F′は、ブラッグ角θ
Bの関数で与えられるため、上記式のように加速電圧と格子間隔dを用いて決定される。
【0034】
また、検出角βについても最適値が存在する。
図2で説明したように、検出角βは絞り44の穴径によって決まっているので、これを調整することでβの最適値を選択できる。例えば多段階または連続的に穴径を切り替えられるように絞り44の穴径を可変とするとよい。また別の例としては絞り44自体を別の穴径を持つ絞りと交換可能としてもよい。複数の穴径すなわち複数の検出角に対してそれぞれ開き角をα
i1、フォーカス条件F′として格子像の取得を試み、最も鮮明な格子像が取得できる条件を選択しておく。
【0035】
なお、最適検出角β
i、デフォーカス量ΔFについても、
図11で示した開き角α
iに対するコントラストの関係と同様に、最適範囲が非常に限定されているので、上記と同様に、格子像を得るために最適な検出角β
i、デフォーカス量ΔFを予め求めておき、記憶部35に記憶しておくのがよい。この際、最適な開き角α
i1(または最適なΔα
i)、最適な検出角β
i、最適なフォーカス条件F′(または最適なΔF)をセットにして記憶しておくとよい。以上より決定された、格子像観察のためのビーム開き角α
i、検出角β
i、フォーカスFからのフォーカス変化量ΔFに関する情報は、あらかじめ薄膜結晶試料ごとに記憶部35に記憶され、STEP2で設定された薄膜結晶試料(または格子面間隔d)に応じて、記憶部35より呼び出され、計算部34およびコンピュータ30を介して設定される。
【0036】
STEP4
STEP3で設定した条件の下で得られた格子像を画像取得部32によって取得する。この格子像は表示装置31上に表示されてもよい。また、画像処理部33により、取得した格子像に対するフーリエ変換(FT)を行い、フーリエ変換パターン(FT情報)を取得する。これにより、所望の格子間隔dが得られているかを確認することができる。所望の格子間隔dが得られている場合には以下に説明する倍率校正は不要であると判断できる。もし所望の格子間隔dが得られていない場合は、その旨を警告するメッセージGUI上に表示することで、測定の信頼性を向上することも可能である。
【0037】
STEP5
STEP4で得られた格子像のFT情報から、計算部34によって画像の1画素に対応する寸法を計算し、その結果をもとにSTEP4で得られた格子像の実際の倍率値M′を計算する。
【0038】
STEP6
STEP5の結果から、STEP4においてコンピュータ30によって設定されている倍率値Mと、実際の倍率M′との誤差率εを、次式で計算する。
ε=(M−M′)/M′
【0039】
STEP7
STEP6で求めた倍率誤差εがゼロになるように、コンピュータ30から偏向制御回路25を通して、上段偏向コイル8および下段偏向コイル10に流れる電流を変更することにより、走査電子顕微鏡の電子ビーム走査幅を校正する。
【0040】
このように、本実施例によれば、薄膜結晶試料の格子像を用いた信頼性の高い寸法校正が可能となる。
【0041】
特に、加速電圧が低い走査電子顕微鏡においても、薄膜結晶試料の格子像を容易に観察することが可能になるので、既知の面間隔dにより高倍率での倍率校正が可能になる。従って、従来は不可能であった100万倍以上の高倍率での寸法測定に対して、信頼性の高い走査電子顕微鏡を提供できる。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。