特許第5743950号(P5743950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743950
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/28 20060101AFI20150611BHJP
   H01J 37/295 20060101ALI20150611BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20150611BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   H01J37/28 C
   H01J37/295
   H01J37/09 A
   H01J37/244
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-102000(P2012-102000)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-229267(P2013-229267A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年2月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】小柏 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貢
(72)【発明者】
【氏名】今野 充
【審査官】 桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−116260(JP,A)
【文献】 特開昭61−19046(JP,A)
【文献】 特開平6−36729(JP,A)
【文献】 特開2001−27619(JP,A)
【文献】 特開2007−109509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01J 37/09
H01J 37/244
H01J 37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子源と、
前記電子線で前記試料上を走査するように偏向する偏向器と、
前記試料上に前記電子線を集束する対物レンズと、
前記試料を透過した走査透過電子を検出する検出器と、
前記試料と前記検出器の間に配置され前記走査透過電子の検出角を制御する絞りと、を備え、
前記電子線は所定の開き角で試料に入射し、
前記試料上でビーム径が最小となるような第一の開き角より大きい第二の開き角で格子像を取得することを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記第二の開き角はブラッグ角θBの2倍の角度より大きいことを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記第一の開き角はブラッグ角θBの2倍の角度より小さいことを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記電子線の最大加速電圧は30kV以下であることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記検出器は前記走査透過電子に含まれる散乱電子と非散乱電子との干渉により生じる干渉縞に起因する信号量を検出するものであって、前記電子線を前記試料上で走査することで前記信号量の強度変化を検出し、当該強度変化から前記試料の結晶格子間隔を求める計算部を有することを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記格子像を取得するときの条件として、前記第二の開き角と、前記検出角と、前記対物レンズのフォーカス値を前記試料ごとに記憶しておく記憶部を備えることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1または5に記載の走査透過電子顕微鏡において、
前記格子像から前記試料の結晶格子間隔を求め、前記結晶格子間隔に基づいて倍率校正を行うことを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡に関するものである。特に走査透過電子を検出する手段を有する走査電子顕微鏡、および走査透過電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、電子銃より放出された一次電子ビームを磁界レンズによって試料上にフォーカスし、さらに磁界式または電界式の偏向器によって一次電子ビームを試料上で走査し、試料からの二次荷電粒子(例えば二次電子や走査透過電子)を検出して、試料の拡大像を得る装置である。この試料の拡大像の観察倍率は、試料面上における一次電子ビームの走査幅と、走査したエリアから得られる二次荷電粒子によって形成された拡大像の表示幅との比率で定義される。一次電子ビームの試料における走査幅は、前記偏向器によって任意に変更することが可能である。従って、拡大像の表示幅が一定の場合、試料上における一次電子ビームの走査領域を広くすれば観察倍率は小さくなり、走査領域を狭くすれば観察倍率は大きくなる。以降、簡便のために、本明細書で表す倍率値は、拡大像の表示幅が世間通例で使用されている値に近い100mmで定義したものとして説明する。このとき、倍率1万倍とは、100mm幅の拡大像に10μmの領域の試料像が表示されている状態を指す。
【0003】
近年、走査電子顕微鏡で観察される試料は微細化が進んでおり、従来ではほとんど使用されなかった100万倍以上(試料の表示領域:100nm以下)での観察が必要とされている。さらに試料構造の寸法を測定するために、この倍率領域において高精度で信頼性の高い寸法校正(倍率校正)が要求されている。寸法校正では観察時の倍率より高い倍率での高精度な寸法測定が必要である。
【0004】
従来、高精度の寸法校正を実施する際は、寸法が既知のマイクロスケールを使用し、それらの複数ピッチの寸法を測定し、その値を真値として利用していた。さらに、二次荷電粒子が走査透過電子の場合、特許文献1のように、結晶構造(格子面間隔)が既知の単結晶薄膜試料を用いて結晶格子像を取得し、それを用いて寸法校正を実施していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4464857号公報(米国特許第7375330号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
寸法が既知のマイクロスケールを用いて走査電子顕微鏡の寸法校正する場合、マイクロスケールは1ピッチの最小値が100nm程度であり、さらに複数の寸法を複数回測定しなければ測定精度が出ないため、100万倍以上の倍率を持った試料像に対しては、十分な寸法ピッチを持っておらず、寸法校正に適用できなかった。またマイクロスケールの寸法ピッチを小さくする加工は難しく、寸法ピッチが小さくなるほど校正の信頼性は低下してしまう。
【0007】
特許文献1による、結晶構造が既知の単結晶薄膜試料を用いて寸法校正を実施する場合、加速電圧が100kV以上の透過電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡では、通常の高分解能観察条件において、高分解能の走査透過像および結晶格子像(以下、格子像)が取得できるため、通常の高分解能観察条件が設定されていれば、結晶構造の観察が可能となる。しかし、一般的な商用走査電子顕微鏡による走査透過像観察では、例えば設定可能な加速電圧の最大値が30kVというように設定可能な最大の加速電圧が低く、加速電圧が100kV以上の透過電子顕微鏡等に比べて分解能が低い。したがって通常の高分解能観察条件で観察可能な結晶薄膜試料は、格子面間隔dが大きい試料(例えばd=1.0nm前後)に限定される。従って、実際のアプリケーションに対するメリットが小さく、観察を試みられてこなかった。
【0008】
本発明は、汎用の走査電子顕微鏡においても、結晶構造が既知の格子像を走査透過像にて取得し、それを用いて高精度な寸法校正(倍率校正)が可能な走査電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、電子線を発生する電子源と、前記電子線で前記試料上を走査するように偏向する偏向器と、前記試料上に前記電子線を集束する対物レンズと、前記試料を透過した走査透過電子を検出する検出器と、前記試料と前記検出器の間に配置され前記走査透過電子の検出角を制御する絞りと、を備え、前記電子線は所定の開き角で試料に入射し、前記試料上でビーム径が最小となるような第一の開き角より大きい第二の開き角で格子像を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、汎用の走査電子顕微鏡においても、結晶構造が既知の格子像を走査透過像にて取得し、それを用いて高精度な寸法校正(倍率校正)が可能な走査電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例の概略図である。
図2】ビーム開き角αi、検出角βiの説明図である。
図3】本実施例の処理ステップである。
図4】設定画面の一例である。
図5】試料に一次電子ビーム入射したときの挙動を示す図である。
図6】ブラッグ角θBよりビーム開き角αiが小さい状態(αi<θB)の図である。
図7】ビーム開き角αiがθB<αi≦2θBの範囲に有る場合の図である。
図8】ビーム開き角αiが2θB<αiの範囲に有る場合の図である。
図9】格子像が得られる過程を示した図である。
図10】電子ビーム走査位置に対する格子像信号の変化を示した図である。
図11】一次電子ビーム開き角に対する像コントラストの変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例の概略図である走査電子顕微鏡である。なお、本実施例において走査と電子顕微鏡とは走査透過電子を検出する手段を有する走査電子顕微鏡であり、走査透過電子顕微鏡と呼ばれることもある。
【0014】
陰極1と第一陽極2に印加される電圧V1によって陰極1から放出された一次電子ビーム3は、第二陽極4に印加される電圧Vaccに加速されて、後段の電磁レンズ系に進行する。ここで、この加速電圧VaccおよびV1は、高電圧制御回路22で制御されている。一次電子ビーム3は第一収束レンズ制御回路23で制御された第一収束レンズ5で収束される。さらに一次電子ビーム3は、対物絞り6で不要な領域が除去された後、第二収束レンズ制御回路24で制御される第二収束レンズ7で再び収束され、対物レンズ制御回路26によって制御される対物レンズ12によって試料13に細く絞られ、さらに偏向制御回路25が接続された上段偏向コイル8および下段偏向コイル10で試料13上を二次元的に走査される。試料13は走査透過電子を取得するために薄膜である必要がある。また、寸法校正に用いるため結晶格子間隔が既知のものである必要がある。試料13は、試料微動制御回路27によって制御される試料微動装置14上にある。試料13の一次電子ビーム照射点から発生する信号のうち、試料表面の情報を持つ二次電子16は、対物レンズ12の磁場によって巻き上げられて、対物レンズ上部に配置された直交電磁界(EXB)装置17によって一次電子ビーム3と分離されて検出器20に検出され、増幅器21で増幅される。また、一次電子ビーム3が試料13を透過することによって得られる走査透過電子41は、試料13の下方に設置された検出器42に検出され、増幅器43で増幅される。なお、走査透過電子41には後述する散乱電子及び非散乱電子が含まれる。このとき、走査透過電子41は、対物レンズ12と検出器42との間に設置された絞り44によって、検出角度が制限される。増幅器21と増幅器43は、信号制御回路28によって制御されている。各種制御回路22〜28は、装置全体を制御するコンピュータ30によって制御される。増幅された二次電子および透過電子の信号は、表示装置31の画面に試料の拡大像として表示される。コンピュータ30には、他に該表示装置31上に表示された観察画像を画像情報として取得するための画像取得部32と、これら観察画像に対して種々の画像処理を行う画像処理部33と、この画像処理の結果からパラメータを計算したり、その他種々の計算をしたりするための計算部34と、観察画像や計算結果を保存するための内部メモリ等の記憶部35と、観察条件などを入力するための入力部36が接続されている。画像取得部32は表示装置31を経由せず、撮像した画像を直接取得することも可能である。なお、画像取得部32、画像処理部33、計算部34、記憶部35、はコンピュータ30の機能として実装されていても良いし、コンピュータ30において実行されるプログラムによって実現されてもよい。また、画像処理部33が計算部34の機能を兼ねていても良いし、その逆でも良い。また入力部36は、表示装置31がタッチパネルであって表示装置31に表示される画面と兼用されてもよい。
【0015】
図2は、一次電子ビーム3に対するビーム開き角αi、および走査透過電子41に対する検出角βiについての説明図である。ビーム開き角αiは、一次電子ビーム3が試料13に入射するときの拡がりを半角で表したものである。ビーム開き角αiは、対物絞り6の孔径と、第二収束レンズ7による一次電子ビームのクロスオーバ位置45の変化により設定される。また検出角βiは、試料13の一次電子ビームの照射点から検出器42の検出面を見込んだ角である。検出角βiは、絞り44の孔径を変化させることによって設定される。
【0016】
試料13の実体像を観察するときには、通常、一次電子ビーム径を最小とするように試料へのビーム照射開き半角(以下、ビーム開き角)αiを調整する。この場合に得られる画像のコントラストが最もよくなるからである。これを通常の高分解能観察条件と称する。
【0017】
本実施例における処理の詳細を、図3を用いて説明する。
【0018】
STEP1
この処理では、走査電子顕微鏡が通常の高分解能観察条件になるように、一次電子ビーム3の開き角αiやフォーカスFを設定する。本ステップでの条件設定は入力部36からの指示に従って行われてもよいし、後述する図4のようなGUIによって自動的に設定されても良い。これにより、ユーザは高分解能の二次電子像や走査透過電子像を表示装置31上にて観察することができる。ここでビーム開き角αiは、一次電子ビーム3のフォーカス位置で決まる対物レンズ12の球面収差と色収差、および加速電圧Vaccで決まる回折現象が最小になるときの値で与えられ、またフォーカスFは、対物レンズ12と試料との距離(ワーキングディスタンス:WD)と対物レンズ12の励磁との関係によって設定される。
【0019】
なお、STEP1は、本実施例のいずれのステップと順序を入れ替えて行われてもよいし、必ずしも実行されなくても良い。
【0020】
STEP2
この処理では、観察したい薄膜結晶試料の格子面間隔dを設定する。dの値は、それぞれの結晶試料によって既知の値であり、例えば珪素(シリコン;Si)の(111)結晶面間隔は0.314nmである。格子面間隔dの設定の方法の例を図4に示す。ここでは、走査透過像の種類を選択できるGUI51を、表示装置31に表示する。ユーザは観察方法選択部分52において、高分解能走査透過電子像観察「UHR STEM」および格子像観察「Lattice Image」を、入力部36を用いて選択できる。「UHR STEM」が選択されているときは、図4(a)に示した表示となり、前記STEP1で示した条件が設定される。一方、「Lattice Image」が選択されたときは、図4(b)に示した表示となり、加えて走査透過像での観察対象とする薄膜結晶試料リスト53が表示される。ユーザはこの薄膜結晶試料リスト53から、現在観察している薄膜結晶試料を選択する。試料が選択されると、それに対応した条件がSTEP3以降に設定される。
【0021】
STEP3
この処理では、STEP2で決定された試料の格子面間隔dを持った格子像を取得するために、最適な電子ビーム開き角αi、透過電子の検出角βi、およびSTEP1の試料観察で設定されたフォーカスFからのフォーカス変化量ΔFを設定する。ここで格子像とは、薄膜試料を透過した電子の干渉によって得られるコントラスト(位相コントラスト)によって得られる像である。
【0022】
ここで、αiおよびβiの決定方法について、図5図10を用いて説明する。
【0023】
図5に示すように、格子面間隔dを持った試料13に一次電子ビーム3が入射すると、薄膜結晶試料の原子に散乱されずに薄膜結晶試料を透過する非散乱電子61と、膜結晶試料の原子に散乱された散乱電子62が試料を透過する。ここで散乱電子は、ブラッグの法則よりブラッグ角θBの2倍の角度(2θB)で散乱される。ここで、
θB=λ/2d
であり、λは電子の波長で、加速電圧Vaccを用いて
λ=√(1.5/Vacc) (nm)
で求められる。
【0024】
以下、図6から図8はブラッグ角θBとビーム開き角αiとの関係に応じた電子波の干渉状態を説明する図である。図6から図8は、簡単のため、光軸を含む試料垂直断面での図を示している。したがって、以下で説明する散乱電子の電子波は実際にはドーナツ状に一定の散乱角を持って散乱されているものである。
【0025】
STEP1の条件の場合には、図6(a)に示したような状態となり、ブラッグ角θBよりビーム開き角αiが小さい状態(αi<θB)となる。このとき、非散乱電子61と散乱電子62とは重ならない。従って、信号検出面64においては図6(b)のような信号形態となる。なお、信号検出面64とは検出器42の検出面のことである。
【0026】
次に、図7(a)に示すように、αi図6(a)の状態(STEP1の条件)から拡大させ、θB<αi≦2θBの範囲に有る場合について述べる。このときは、散乱電子62の片側と非散乱電子61の電子波2波が重なるため、信号検出面64における2波の重なった部分の領域では、図7(b)に示すように電子波の干渉縞65が現れる。
【0027】
さらに、図8(a)に示すように、αi図7(a)の状態からさらに拡大させ、αi>2θBの範囲に有る場合について述べる。このときは、両方の散乱電子と非散乱電子の電子波3波が重なり、信号検出面64において、図8(b)に示すように非散乱電子の中央に干渉縞66が現れる。この中央にできた干渉縞に対して、図9(a)に示すように絞り44によって形成される検出角βiの検出範囲67で走査透過電子の信号として検出する。さらに、一次電子ビーム3を試料13上で走査することにより、図9(b)のように干渉縞65および66がシフトする。
【0028】
図10は横軸を試料13の走査位置として、縦軸を検出角βiの範囲で検出された走査透過電子の総量としたグラフである。一次電子ビーム3を試料13上で走査することにより干渉縞65および66がシフトして、図10に示すように、走査透過電子像内では強弱を持った格子像信号68が現れる。この格子像信号68の強度変化を検出器42で検出し、増幅器43で増幅して、信号制御回路28およびコンピュータ30を介して、表示装置31に格子像として出力される。
【0029】
以上より、少なくともαiは2θBよりも大きい角度を設定する必要があるが、加速電圧30kV以下で格子像を観察するためには、さらに適切なビーム開き角(αi1とする)を設定する必要がある。これを図11で説明する。図11は所定の格子面間隔d、所定の加速電圧Vaccのときの、ビーム開き角と像コントラストとの関係を示したものである。
【0030】
通常の二次電子像や走査透過像は、二次電子/走査透過像コントラスト70のようにSTEP1でのビーム開き角(αi0とする)でビーム径が最小になり、そこで像のコントラストも最大となる。加速電圧が100kV以上の走査透過電子顕微鏡では、ビーム径最小でのビーム開き角αi0より2θBの方が小さいので、走査透過像のコントラストが最大の条件(ビーム径最小でのビーム開き角αi0)で格子像が可視化される。このため格子間隔に応じてビーム開き角αiを厳密に調整する必要はない。一方、最大加速電圧が30kV以下の汎用走査電子顕微鏡では、ビーム径が最小となるような条件であるビーム開き角αi0は2θBより小さいので、ビーム開き角αi0の条件では格子像を得ることができない。
【0031】
前述のように格子像観察のためにビーム開き角αiをαi0からさらに増大させると、対物レンズ12の収差による一次電子ビーム径の拡大とともに像コントラストが低下する。また、前述のようにビーム開き角αiが2θBよりも大きい値でないと、格子像は現れない。
【0032】
ここからさらにビーム開き角を増大させてαi>2θBとすると格子像が得られる。ここで、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡では、ビーム径が拡大しているため、図11に示すように、格子面間隔dおよび加速電圧に対して、設定するビーム開き角αiの最適範囲が加速電圧100kV〜200kVの走査透過電子顕微鏡と比較して非常に限定されている。従って、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡において結晶薄膜試料を用いた寸法校正を実施する場合は、常に安定して格子像を取得するための最適条件に設定することが望ましい。格子像のコントラストは、格子像が観察できるビーム開き角(αi>2θB)に対して、図11の格子像コントラスト71のように、ビーム開き角αi1でコントラストが最大となる。よって、格子像観察のためにはビーム開き角をαi1に設定する。αi1は、
αi1=2θB+Δαi
の値で定義される。θBは上記の計算式より決定され、またΔαiは、検出角βiとともに、あらかじめ取得された実験結果にもとづき決定される。Δαiは、格子面間隔d、加速電圧Vacc、検出角βi、対物レンズのワーキングディスタンス(WD)に依存する量である。ここで格子面間隔d、加速電圧Vacc図4でのユーザの入力から決定され、検出角βiおよびワーキングディスタンス(WD)は格子像を取得するときの装置の状態から決まる。よって、予め格子面間隔d、加速電圧Vacc、検出角βi、対物レンズのワーキングディスタンス(WD)に対して最適なΔαiを求めて記憶部35に記憶しておけば、格子像取得時に最適なΔαiを読み出して設定することができる。
【0033】
次に、フォーカス変化量ΔFの設定について説明する。STEP1で設定された通常の高分解能観察条件でのフォーカスFに対し、格子像を観察するためのフォーカスF′は、対象となる薄膜結晶試料の格子間隔dによって変化する。従って、フォーカスFとF′の間にはずれがあるため、ΔF=F−F′の量だけ、フォーカス設定をずらす必要がある。ここで、100kV以上の走査透過電子顕微鏡の場合、格子像観察時のビーム開き角αi′が大きくないため、フォーカス変化ΔFのずれが大きな画像変化とはならない。従って、通常はフォーカス変化ΔFを与えることなく格子像を観察している。しかし、加速電圧30kV以下の走査電子顕微鏡の場合、格子像を観察するためには、上述のようにαiを大きくする必要があるため、フォーカス変化ΔFのずれが大きな画像変化となって現れる。従って、30kV以下で格子像を観察するときは、フォーカスを調整する必要がある。フォーカスはユーザがその都度調整しても良いが、最適なフォーカスに設定することに熟練を要するため、試料の格子間隔dに応じて格子像を観察するための最適なフォーカス条件F′(またはフォーカス条件Fからの変化ΔF)を装置側で設定することが必要となる。このフォーカス条件F′は、ブラッグ角θBの関数で与えられるため、上記式のように加速電圧と格子間隔dを用いて決定される。
【0034】
また、検出角βについても最適値が存在する。図2で説明したように、検出角βは絞り44の穴径によって決まっているので、これを調整することでβの最適値を選択できる。例えば多段階または連続的に穴径を切り替えられるように絞り44の穴径を可変とするとよい。また別の例としては絞り44自体を別の穴径を持つ絞りと交換可能としてもよい。複数の穴径すなわち複数の検出角に対してそれぞれ開き角をαi1、フォーカス条件F′として格子像の取得を試み、最も鮮明な格子像が取得できる条件を選択しておく。
【0035】
なお、最適検出角βi、デフォーカス量ΔFについても、図11で示した開き角αiに対するコントラストの関係と同様に、最適範囲が非常に限定されているので、上記と同様に、格子像を得るために最適な検出角βi、デフォーカス量ΔFを予め求めておき、記憶部35に記憶しておくのがよい。この際、最適な開き角αi1(または最適なΔαi)、最適な検出角βi、最適なフォーカス条件F′(または最適なΔF)をセットにして記憶しておくとよい。以上より決定された、格子像観察のためのビーム開き角αi、検出角βi、フォーカスFからのフォーカス変化量ΔFに関する情報は、あらかじめ薄膜結晶試料ごとに記憶部35に記憶され、STEP2で設定された薄膜結晶試料(または格子面間隔d)に応じて、記憶部35より呼び出され、計算部34およびコンピュータ30を介して設定される。
【0036】
STEP4
STEP3で設定した条件の下で得られた格子像を画像取得部32によって取得する。この格子像は表示装置31上に表示されてもよい。また、画像処理部33により、取得した格子像に対するフーリエ変換(FT)を行い、フーリエ変換パターン(FT情報)を取得する。これにより、所望の格子間隔dが得られているかを確認することができる。所望の格子間隔dが得られている場合には以下に説明する倍率校正は不要であると判断できる。もし所望の格子間隔dが得られていない場合は、その旨を警告するメッセージGUI上に表示することで、測定の信頼性を向上することも可能である。
【0037】
STEP5
STEP4で得られた格子像のFT情報から、計算部34によって画像の1画素に対応する寸法を計算し、その結果をもとにSTEP4で得られた格子像の実際の倍率値M′を計算する。
【0038】
STEP6
STEP5の結果から、STEP4においてコンピュータ30によって設定されている倍率値Mと、実際の倍率M′との誤差率εを、次式で計算する。
ε=(M−M′)/M′
【0039】
STEP7
STEP6で求めた倍率誤差εがゼロになるように、コンピュータ30から偏向制御回路25を通して、上段偏向コイル8および下段偏向コイル10に流れる電流を変更することにより、走査電子顕微鏡の電子ビーム走査幅を校正する。
【0040】
このように、本実施例によれば、薄膜結晶試料の格子像を用いた信頼性の高い寸法校正が可能となる。
【0041】
特に、加速電圧が低い走査電子顕微鏡においても、薄膜結晶試料の格子像を容易に観察することが可能になるので、既知の面間隔dにより高倍率での倍率校正が可能になる。従って、従来は不可能であった100万倍以上の高倍率での寸法測定に対して、信頼性の高い走査電子顕微鏡を提供できる。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 陰極
2 第一陽極
3 一次電子ビーム
4 第二陽極
5 第一収束レンズ
6 対物絞り
7 第二収束レンズ
8 上段偏向コイル
10 下段偏向コイル
12 対物レンズ
13 試料
14 試料微動装置
16 二次電子
17 直交電磁界(EXB)装置
20、42 検出器
21、43 増幅器
22 高電圧制御回路
23 第一収束レンズ制御回路
24 第二収束レンズ制御回路
25 偏向制御回路
26 対物レンズ制御回路
27 試料微動制御回路
28 信号制御回路
30 コンピュータ
31 表示装置
32 画像取得部
33 画像処理部
34 計算部
35 記憶部
36 入力部
41 走査透過電子
44 絞り
45 クロスオーバ位置
51 GUI
52 観察方法選択部分
53 薄膜結晶試料リスト
61 非散乱電子
62 散乱電子
64 信号検出面
65、66 干渉縞
67 検出範囲
68 格子像信号
70 二次電子/走査透過電子像コントラスト
71 格子像コントラスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11