(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該変動範囲設定部では、該電子線像の特性を表すパラメタとリンクした複数の検査結果の時間的推移に基づき、該電子線像の特性を表すパラメタの値を更新することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパターン検査装置。
該変動範囲設定ステップでは、該電子線像の特性を表すパラメタとリンクした複数の検査結果の時間的推移に基づき、該電子線像の特性を表すパラメタの値を更新することを特徴とする請求項10乃至または15のいずれか1項に記載のパターン検査方法。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
以下、本発明に係る第1の実施の形態について、全体構成を説明した後、各処理の内容を順次述べる。
(1−1)全体フロー
始めに、
図2を参照して本発明に係るパターン検査装置の全体構成を説明する。
【0010】
本実施の形態では、検査対象のウェーハ画像を走査電子顕微鏡(SEM)によって取得する。電子光学系100は、電子線を発生させる電子源101と電子線を収束させるコンデンサレンズ102、電子線をXY方向に偏向する偏向器103と、対物レンズ104、XYステージ105からなる。ウェーハ106から発生した二次電子107は検出器108で検出され、A/D変換機109にてアナログ信号からデジタル信号に変換され、画像入力部110に入力され、記憶装置111に蓄積される。
【0011】
電子線の1次元走査とステージの連続移動によって得られる連続画像、あるいは、電子線の2次元走査とステージのステップ移動によって得られる枚葉画像が検査対象の画像となる。
【0012】
検査の一連の処理は、バス114を通して、システム管理部115が行う。検査に先立ち、予め、記憶装置112に設計データを蓄えておき、設計データ演算部113にて設計データのフォーマット変換や必要部分の切り出しなどを行い、画像処理部116にて設計データと上記検査画像の比較により欠陥判定を行う。検査結果は、結果出力部117に出力され、検査結果蓄積部118に蓄積される。
【0013】
全体フローを
図1に示す。
図1(a)は検査前に実施する条件出しのフロー、
図1(b)は検査のフローである。上記のように本実施の形態では、設計データと検査画像の比較により欠陥判定を行うが、より詳しくは、設計データから検査画像を模した模擬SEM像を生成して、これと検査画像(実SEM像)との比較により欠陥を検出する。
【0014】
模擬SEM像を生成するために必要な種々のパラメタの設定は、検査に先立ち、条条件出しの中で行う。まず、設計データを読み込み(S510)、模擬SEM像生成に必要な種々のパラメタ(パターン、背景、エッジの明るさ、エッジのぼけ量など)を算出するのに用いる実SEM像の取得箇所を設計データ上で決定する(S511)。そして、その箇所の実SEM像を取得し(S512)、所定の計算方法で上記のパラメタを算出して条件ファイルに書き込む(S513)。以下、この条件ファイルを区別のため「モデル条件ファイル」と記すことにする。ステップS511とS512の詳細については、あとで詳しく述べる。
【0015】
検査時には、まず、モデル条件ファイルを読み込み(S520)、検査領域に相当する箇所の設計データを読み込む(S521)。そして、実SEM像を取得し(S522)、設計データと実SEM像間の位置ずれ検出を行って(S523)、その結果に基づき設計データの変形と切り出しを行う(S524)。次に、変形切り出し後の設計データに対して、モデル条件ファイルに記載されている模擬SEM像生成パラメタを適用して、模擬SEM像を生成する(S525)。そして得られた模擬SEM像と実SEM像を比較し(S526)、欠陥判定を行い、欠陥部の座標、欠陥サイズなどを出力する(S527)。S521からS527のステップを、検査領域が終了するまで繰り返す。
(1−2)欠陥判定方法
先の
図1(b)の説明と重なる部分もあるが、
図3を参照して欠陥判定のフロー改めて説明する。これは、
図1の画像処理部116で実施されるものである。
【0016】
まず始めに、
図1の記憶装置111に蓄えられたSEM像、および、記憶装置112に蓄えられた設計データを、バス114を介して、画像処理部116に読み込む(S202、S201)。この際、SEM像の画像取得位置ずれを考慮して、SEM像203よりも広い領域の設計データ204を読み込む。
【0017】
次に、両者の位置ずれを検出する(S205)。位置ずれ検出の具体的な方法は(1−3)で述べる。SEM像には電子線の走査歪み、あるいは、ステージの揺れに起因する画像歪みが存在するため、位置ずれ量は、画像内一定ではなく、画像上の各点が異なった位置ずれ量を有すため、出力は、位置ずれマップ206、すなわち、位置(x、y)ごとのずれ量(Δx、Δy)となる。位置ずれマップ206に基づき、設計データを変形させた後、SEM像に対応する領域を切り出す(S207)。そして、切り出した設計データから、SEM像を模擬した模擬SEM像209を生成する(S208)。模擬SEM像の生成方法については(1−4)、(1−5)、(1−6)、(1−7)、(1−8)で述べる。欠陥判定は、模擬SEM像209とSEM像203とを比較により行う(S210)。実SEM像をf(x、y)、模擬SEM像をg(x、y)で表すと、基本的には、(1)式のように、両者の濃淡差が所定のしきい値THを上回る部位を欠陥と判定する。
【0018】
(数1)
|f(x、y)−g(x、y)|>TH (1)
【0019】
本実施の形態によれば、無欠陥の模擬SEM像との比較なので、従来のD2D検査では検出することが困難な、全ダイで共通して発生するような欠陥を検出することができる。また、D2D検査では、検査対象のf(x、y)上に欠陥があるのか、参照画像であるg(x、y)上に欠陥があるのかを区別するための後処理が必要であるが、本実施の形態では、それも不要である。また、濃淡差による欠陥判定であるため、幾何学的な形状変化だけでなく、レジストの膜残りといった、画像上の明るさの違いとして現れるタイプの欠陥の検出が可能という特徴もある。
【0020】
なお、濃淡画像比較の検査性能を向上するための種々の技術、例えば局所領域ごとに位置合わせして欠陥検出を行う方法である局所摂動方式、あるいは、比較する画像間の画素以下の位置ずれに起因する微少な濃淡差を許容する方式、を適用することも可能である。
【0021】
欠陥判定結果としては、欠陥部211の位置座標の他、欠陥サイズ、欠陥部の濃淡値等の特徴量を出力する(S212)。
(1−3)位置ずれ検出と歪み補正
次に、
図1のステップS523ないし
図3のステップS205で行われる、設計データ204と、SEM像203の位置ずれを検出する方法、及び、
図1のステップS524ないし
図3のステップS207で行われる歪み補正・切り出しについて説明する。
【0022】
上述のように、SEM像には電子線の走査歪み、あるいは、ステージの揺れに起因する画像歪みが存在するため、設計データに対する位置ずれ量は、画像内で一定ではなく、画像上の各点で異なる。この位置ずれ量を検出するため、
図4(a)に示すように、画像を細かいメッシュに区切って、各メッシュで位置ずれ量を算出するか、あるいは、
図4(b)のようにパターンの角のような位置ずれ量が一意に決まるようなポイント(図上、四角で囲んだ領域)にて位置ずれ量計算する。
図4(b)における位置ずれ検出ポイントは、検査に先立ち、設計データを用いて、自動選定しておくことが望ましい。
【0023】
SEM像と設計データとの間の位置ずれ量の検出は、SEM像の小領域(
図4(a)の場合は個々のメッシュ、
図4(b)の場合は、小四角で囲んだ領域)に対して、設計データの小領域を相対的に移動させ、両者の差の二乗和が最小となるような移動量を求める。差の二乗和の代わりに、両者間の相関係数が最大となるような移動量を求めても良い。
図4(a)の場合は等間隔に、
図4(b)の場合は非等間隔に位置ずれ量が求まるが、いずれにせよ、位置ずれ量が定義されるのは、画像上の代表座標点においてである。代表座標点における位置ずれ量の補間をすることで、全座標の位置ずれ量を算出する。このようにして求まる、実SEM像の各画素(x、y)に対応する設計データの位置ずれ量(Δx、Δy)を記述したものが、
図3に示した、位置ずれマップ206である。
図3のステップS207では、位置ずれマップに従って、SEM像の各画素に対応する設計データを切り出す。以上のようにすることで、局所的にみても実SEM像と位置のあった(すなわち同じように歪んだ)設計データが得ることができる。
【0024】
本実施の形態によれば、画像を設計データに合うよう歪みを補正する代わりに、画像に合うように設計データを歪ませるので、画像を歪ませることによって生じる、不均一な画質劣化を招くことがないので、欠陥検出に有利という特徴がある。
(1−4)模擬SEM像生成のモデリング
次に、
図1のステップS525ないし、
図3のステップS208で行われる、模擬SEM像の生成について説明する。
図5はSEM像の特徴を模式的に表したものである。
図5(b)はA-B部の断面形状である。これが示すように、第1の実施の形態では、ウェーハ上に形成されたレジストパターンのSEM像を検査対象とする。SEM像は次のような特徴を有する。
(1)エッジ部(303、304、305)が平坦部(301、302)よりも明るい。これは、傾斜角効果、あるいは、エッジ効果によるもので、二次電子像の一般的な特徴である。
(2)パターン部(302)と背景部(301)の明るさは一般に異なる。それぞれの明るさは、材料や撮像条件によって変化する。
(3)エッジ部は、エッジの向きによって明るさが異なる。これは、試料の帯電の影響で、
図5(a)のように、電子線の走査方向に平行なエッジが、走査方向に垂直なエッジよりも暗いことが多い(この例では、電子線の走査方向306は横方向であり、横方向エッジ305の方が縦方向エッジ303よりも暗い。斜めエッジ304は、中間的な明るさとなる)。
【0025】
こうしたSEM像の特徴を反映した模擬SEM像を設計データから生成するため、
図6のようにSEM像をモデリングする。
図3の204に示したような線画(ベクトルデータ)である設計データに対し、310に示すように、エッジ部、背景部、パターン部の信号強度、順に、e、b、pを与える。より詳しくは、上記(3)の特徴を再現するため、縦方向のエッジにはev、横方向のエッジにはehの信号強度を与える。さらに、エッジ幅をwとして与える。310に対して、照射ビームの強度分布に相当するぼけ関数311を畳み込むことによって、実画像と同様のエッジ部のぼけを再現する(312)。ビーム強度分布を表す関数としては、例えば、ガウス関数を用いる。以上述べたモデリングでは、信号強度ev、eh、b、p、エッジ幅w、ビームサイズσという6個のパラメタによってSEM像が模擬される。これらのパラメタは、実際のSEM像に合致するよう、検査に先立ち予め決定しておくことが望ましい。パラメタの具体的な算出方法は(1−5)以降で述べる。
【0026】
なお、模擬SEM像の生成方法としては、レジストパターンの断面形状を入力情報として、モンテカルロシミュレーションを行う方法もあり得るが、膨大な計算時間を有すため、検査領域が広い場合には現実的ではない。以上述べた模擬SEM像の生成方法は簡便で高速な処理が可能なため、ステージの連続移動によって得られる連続画像を対象とした検査においても、画像の入力に同期して模擬SEM像を生成することが可能である。
(1−5)模擬SEM像生成パラメタの算出方法
以上のように、本実施の形態では、模擬SEM像を生成するために必要なパラメタは、信号強度ev、eh、b、p、エッジ幅w、ビームサイズσの6個である。これらの決定方法を順に説明する。
【0027】
エッジ幅wの決定方法を
図7に示す。
図7(a)に示すように、エッジ幅は、値そのもの450をユーザが入力するか、あるいは、膜厚と451とテーパ角452をユーザ入力としてもよい。実SEM像において、エッジ幅が大きく異なる部位があれば、欠陥として検出されることになる。
【0028】
パターンの信号強度pと背景の信号強度bは、実SEM像から算出する。
図8は設計データの一部を示したものである。パターンの信号強度pは、広パターン領域401に相当する実SEM像の明るさの平均値とする。また、背景の信号強度bは、広背景領域402に相当する実SEM像の明るさの平均値とする。
【0029】
エッジ部の信号強度ev、ehもビームサイズσと合わせて、実SEM像から算出する。縦方向の信号強度evの算出には、縦エッジが一定の長さ続き、かつパターンサイズが比較的大きい領域403に相当する実SEM像を、横方向のエッジ強度ehの算出には、横エッジが一定の長さ続き、かつパターンサイズが比較的大きい領域404に相当する実SEM像を用いる。
【0030】
図9にエッジ部の信号強度(evまたはeh)とビームサイズσの求め方を示す。ここでは、pとbの値は既に求まっていることを前提とする。410のようにエッジ部信号強度が異なる(e1〜em)信号波形410と、σ値の異なる(σ1〜σn)ガウス関数411を求めておき、410に対して411を畳み込む。この結果をmodel(x)(412)とする。model(x)は、全部で、m×n個存在する。一方、実SEM像(
図8の領域403に相当する実SEM像413から、実信号波形real(x)を求める。そして、(2)式より求められる、model(x)とreal(x)の差の二乗和が最小になるよう、エッジ部の信号強度とビームサイズを求める(414)。
【0031】
(数2)
Σ{real(x)−model(x)}
2 (2)
【0032】
evは実SEM像として縦エッジを、ehは実SEM像として横エッジ部を用いるが、算出方法は同じである。また、n×m個の組み合わせを総当たりする代わりに、初期値を与えて、最急降下法、ガウス・ニュートン法、あるいは、レーベンバーグ・マルカート法といった手法で再帰的に求めても良い。
【0033】
先に(1−4)で述べたように、実SEM像上では、縦エッジと横エッジとで明るさが異なるので、以上のように、別々にパラメタ値を設けることが重要である。なお、実パターン上には、縦/横だけでなく、斜めエッジも存在するが、これの扱いについては(1−6)で述べる。
(1−6)模擬SEM像生成の画像処理フロー
図10〜
図12を参照して、前項で決定した模擬SEM像生成パラメタ(信号強度ev、eh、b、p、エッジ幅w、ビームサイズσ)を用いて、模擬SEM像を生成する画像処理フローを説明する。
図10の各ステップを順に説明する。
[
図10のステップ]
S601:設計データを入力する。
S602:所定の画素サイズでサンプリングし、パターン部が1、背景部が0の二値画像を作成する(
図11(a))。
S603:2値画像のエッジを検出する(
図11(b))。
S604:各エッジ点の方向を算出する。エッジ方向を算出する具体的な方法を
図12にて説明する。701は、ステップS603のエッジ検出後の画像で、これを拡大すると702のようになる。これに対して横エッジ検出オペレータ703を畳み込むと704のようになる。これをh(x、y)とおく。一方、縦エッジ検出オペレータ705を畳み込むと706のようになる。これをv(x、y)とおく。h(x、y)は横方向のエッジ強度、v(x、y)は縦方向のエッジ強度を表す。各画素のエッジ方向dir(x、y)は、(3)式にて求めることができる。
【0034】
(数3)
dir(x、y)=tan
-1{v(x、y)/h(x、y)} (3)
【0035】
図11(c)はエッジ方向の算出結果を模式的に表したものである。縦エッジは実線で、横エッジは一点破線で、斜めエッジは点線で示した(実際は、縦/横/斜めの三種類とは限らず、各点は実数で表現されるエッジ方向を持つ)。
S605:
図9にて決定した、エッジ部の信号強度(縦・横)を入力する。
S606:S604で算出したエッジ方向と、S605で入力したエッジ部の信号強度(縦方向:ev、横方向:eh)に基づき、エッジ点に諧調値を付与する(
図11(d))。具体的には、エッジ点の階調値をedge(e、y)とすると、edge(e、y)は縦径がev、横径がehであるような楕円上、方向がdir(x、y)のベクトル長とすれば良いので、(4)式と(5)式の連立方式を解いてp、qを求め、これを(6)式に代入することで求める。
【0036】
【数4】
【0037】
【数5】
【0038】
【数6】
【0039】
S607:
図7で決定したエッジ幅wを入力する。
【0040】
S608:画像上でのエッジ幅を膨張させて、幅をwにする。
【0041】
S609:
図8で決定したパターン部の信号強度pと背景部の信号強度bを入力する。
【0042】
S610:画像上のパターン部と背景部に、それぞれp、bの階調値を与える(
図11(e))。
【0043】
S611:
図9で求めたビームサイズ(ガウス関数のσ)を入力する。
【0044】
S612:S610で得られた画像に対して、ガウス関数を畳み込む(
図11(f))。
【0045】
以上が、
図1(b)のステップ526あるいは、
図3のステップS208での処理の内容である。本実施の形態によれば、予め算出しておいた模擬SEM像生成のパラメタを用いて、設計データから、実SEM像の比較対象となる模擬SEM像を生成することができる。
(1−7)模擬SEM像生成パラメタ算出用SEM像の撮像ポイント設定
図13〜
図15を参照して、
図1(a)のステップS510、S511、すなわち、模擬SEM像生成用パラメタ値を算出するための実SEM像の撮像ポイントの設定方法を説明する。
【0046】
図13は、パターン部の信号強度pを算出するためのSEM像の撮像ポイントを設定するためのGUI画面の例である。条件出し用撮像ポイント設定501でマニュアルを選択すると、チップマップ502が表示され、チップマップ上のカーソル位置(503)に相当する設計データ504が画面に表示される。設計データ上で、ポインティングデバイス505を使って、パターン部信号強度の算出に適した、広パターン領域506、507を指定する。指定した領域は、候補として領域リスト508にリストアップされる。リストアップ後、全部または一部を指定し(チェックマークで指定)、チップ番号509を入力し、撮像ポイント情報ファイルとして保存する(510)。この方法によれば、実SEM像を撮像することなく、オフラインで撮像撮像ポイントを決定することができる。
【0047】
図14は、パターン部の信号強度pを算出するためのSEM像の撮像ポイントを設定するためのGUI画面の別の例である。条件出し用撮像ポイント設定520でオートを選択すると、チップマップ521が表示される。このマップ上で、ポインティングデバイス、またはを、数値入力522により、探索領域を設定する。設定された領域に相当する設計データ523が画面上に表示される。パターン部の信号強度の算出には、広いパターン領域画適しているので、パターン横幅の最小値524と、パターン縦幅最小値525を入力し、適用526をクリックすると、522で設定した探索領域内で、縦幅と横幅が524、525よりも大きいパターンが自動で選択されて、画面の設計データ上に表示され(527、528)、領域リスト529に候補としてリストアップされる。リストアップ後、全部または一部を指定し(チェックマークで指定)、チップ番号530を入力し、撮像ポイント情報ファイルとして保存する(531)。パターン部の信号強度を安定に求めるためには、より多くの領域を指定して、これらの平均の明るさを求めた方が有利である。多くの領域を設定するには、
図13に示した方法よりも、
図14に示した方法の方が便利である。
【0048】
図15はエッジ部の信号強度を算出するためのSEM像の撮像ポイントを設定するためのGUI画面の例である。画面構成は
図11と同様であるが、パターン探索条件540が異なる。
図11ではパターンの縦横幅の最小値を入力したが、ここでは、パターン幅の最小値541、パターン間隔の最小値542、エッジ連続長の最小値543を入力する。パターン幅、パターン間隔がより広く、エッジの連続長がより長い方が、(1−5)で述べたパラメタの算出を安定に行うことが可能だからである。
図14と同様、選択された領域は、領域リストにリストアップされる。
(1−8)模擬SEM像生成パラメタ算出用SEM像の撮像
図16を参照して、
図1(a)のステップS512、S513、すなわち、模擬SEM像生成用パラメタを算出するための実SEM像の撮像、この実SEM像を用いたパラメタの算出、その結果の保存という一連の流れを説明する。
【0049】
図16は上記のシーケンスを実行するためのGUI画面の例である。始めに撮像条件を入力する(S550)。ここでは、加速電圧、撮像倍率、ビーム電流、ステージ走査での画像取得/ステージ停止での画像取得の区別、ウェーハに対するステージ移動方向、ビーム走査角度などを入力する。入力した内容は、モデル条件ファイルに書き込まれる。これらの撮像条件が変化すると、SEM像の画質が変化するので、模擬SEM像生成パラメタは、撮像条件とリンクしている必要があり、かつ、検査時(
図1(b))の撮像条件は、S550で入力した撮像条件と同じである必要がある。検査時には、モデル条件ファイルが読み込まれ、同じ撮像条件が適用される。
【0050】
次に、明るさ補正係数を決定する(S551)。明るさ補正係数とは、実SEM像の明るさが適正になるよう、検出器(
図1の108)の出力に対してゲイン調整、オフセット調整を行う係数である。明るさ補正前の信号強度をi、明るさ補正後の強度をj、ゲイン調整係数をgain、オフセット調整係数をoffsetとすると、
【0051】
(数7)
j=gain×i+offset (7)
【0052】
の関係である。撮像実行ボタン552をクリックすると、パターンと背景の両方が含まれる適当な領域にて撮像が行われる。明るさ補正係数算出ボタン553をクリックすると、画像の明るさ最大値と最小値が算出され、これらが適切な値になるよう、gainとoffsetが算出される。明るさ補正係数の算出結果はモデル条件ファイルに書き込まれる。明るさ補正係数が変化すると、SEM像の明るさが変化するので、模擬SEM像生成パラメタは、明るさ補正係数とリンクしている必要があり、かつ、検査時(
図1(b))の明るさ補正係数は、S553で算出した結果と同じである必要がある。検査時には、モデル条件ファイルが読み込まれ、同じ明るさ補正係数が適用される。
【0053】
続いて、模擬SEM像生成パラメタの一つである、パターン部信号強度を算出する(S554)。パターン部信号強度を算出するための実SEM像の撮像ポイントは、
図1のステップS511で既に決定済みなので、この情報が記述された撮像ポイント情報ファイルを555にて指定する。撮像実行ボタン556をクリックすると、撮像ポイント情報ファイルに記述された座標の実SEM像が、S550で入力した撮像条件、SS551で決定した明るさ係数にて取得される。そして、パターン信号強度算出ボタン557をクリックすると、
図8で説明した方法にて、パターン信号強度(
図6の信号波形310におけるpの信号強度)が算出される。算出結果はモデル条件ファイルに書き込まれる。
【0054】
図示しない、他の模擬SEM像生成パラメタも同様にして算出され、それらもモデル条件ファイルに書き込まれる。
【0055】
最後に条件ファイルを保存する(S558)条件ファイル保存ボタン559をクリックすると、所望のファイル名でモデル条件ファイルが保存される。また、画像保存ボタン560をクリックすると、ステップS551、あるいは、ステップS554で用いた画像が保存される。
(1−9)第1の実施の形態の効果
以上述べた第1の実施の形態によれば、実SEM像と模擬SEM像の比較による検査が可能となる。従来のD2D検査では、全ダイで共通に発生する欠陥を検出することができなかったが、本実施の形態によれば検出が可能となる。また、模擬SEM像を生成するには、模擬SEM像生成のためのパラメタを精度良く決定する必要があるが、本実施の形態は、具体的なパラメタの算出方法を提供する。さらに、設計データを用いたパラメタ算出の支援機能も提供する。これにより、検査装置のユーザは、容易、かつ、正確にパラメタを算出することができる。これにより、より実SEM像に近い、模擬SEM像が生成されるので、より高い検査性能を得ることが可能となる。
【実施例2】
【0056】
第2の実施の形態は、別の種類の設計データを用いる場合の実施の形態である。
図17に設計データのバリエーションを示す。
図17(a)は設計インテント、(b)はマスクパターン、(c)はマスクパターンを入力としたリソグラフィシミュレーション結果、(d)はリソグラフィシミュレーション結果に基づく輪郭線である。
【0057】
第1の実施の形態は特に断らなかったが(d)を用いたものである。残りの(a)、(b)、(c)のうち、(c)は多値データでありデータ分量が多く、検査装置ユーザが、検査領域全域のデータが保存しているケースはあまりないので、本第2の実施の形態では、(a)と(b)を用いるケースについて述べる。(d)はウェーハ上の実パターンに近い形状を有すが、(a)、(b)は乖離が大きく、それぞれ、形状を変換する前処理が必要である。
【0058】
始めに、
図18に設計インテント(
図17(a))を用いる場合の前処理を示す。901のように設計インテントは概ね直線で構成されており、90度の角部を有すが、実ウェーハ上のパターンは角が丸くなるため、前処理として、角の丸めを行う必要がある。処理としては、インテントな設計データから角部を検出し(S902)、丸め処理の強度を変えた複数のパターン(903−905)を生成し、これと実パターンとのマッチングにより、丸め強度の最適化を行う。具体的には、実SEM像と処理後画像の相関係数が最大となるものを選択するか、あるいは、目視により決定しても良い。丸め処理を実施するタイミングは、検査に先だってまとめて実施しても良いし、検査と同期して実施しても良い。
【0059】
次に、
図19にマスクパターン(
図17(b))を用いる場合の前処理を示す。マスクパターン上にはOPC(光近接効果補正)が施されており、露光シミュレーションを模した前処理を行う必要がある。まず、ぼかし関数910(ガウス関数等)を畳み込むことで、エッジ部に明るさの傾斜を有す多値画像911を生成する。そして、スライスレベルを変えて2値化した複数のパターン(912−914)を生成し、これと実パターンとが合致するよう、910のぼかしフィルタのサイズと、スライスレベルという2個のパラメタの最適化を行う。丸め処理の場合と同様、実SEM像と処理後画像の相関係数が最大となるものを選択するか、あるいは、目視により決定しても良い(915)。
【0060】
図10に示した、実施例1の模擬SEM像生成フローに相当する、第2の実施の形態における、模擬SEM像生成フローを
図20に示す。設計データ(マスクパターン)と、上記にて決定した簡易露光シミュレーション用パラメタ(ぼかしフィルタサイズと、スライスレベル)を入力として(S920、S921)、簡易露光シミュレーション、すなわち、ぼかしフィルタの畳み込みと指定したスライスレベルでの二値化を行う(S922)。この後の処理は、
図10と同様である。
【0061】
一般に露光シミュレーションには膨大な時間を有すため、検査装置ユーザが、ダイ全面についての露光シミュレーションを実施済みとは限らない。ここで述べた第2の実施の形態によれば、検査装置ユーザが持っている設計データが設計インテントの場合であっても、マスクパターンの場合であってもD2DB検査を実現できるという意味で、適用可能範囲が広がる効果がある。また、設計データのデータ量を比較した場合、データ量は、設計パターンの頂点の数が多いほど大きいので、設計インテント<マスクパターン<リソグラフィシミュレーション、の順である。本実施の形態によれば、よりデータ量の少ない設計データで済むので、データ転送に要する時間、データを蓄積するのに必要なメモリ容量の各観点でも有利である。
【実施例3】
【0062】
第3の実施の形態を
図21に示す。
図21は、第1の実施の形態における
図3のフローに相当するもので、第1の実施の形態と異なるのは、模擬SEM像を複数持つという点である。
【0063】
設計データの読み込み(S230)、SEM像読み込み(S231)、位置ずれ検出(S232)、歪み補正と切り出し(S233)は、第1の実施の形態と同様である。ステップS234で模擬SEM像を生成する際、パターンの幅(図の横軸)及び、エッジ幅(図の縦軸、
図7(b)のw)の異なる複数の模擬SEM像を生成する。画像比較(S235)は、複数の模擬SEM像との間で行い、全ての比較で欠陥ありとなった場合のみ欠陥出力する。言い換えると、1個でも欠陥なしとなった場合は、欠陥出力しない。
【0064】
これは、半導体プロセスの変動を許容する、つまり、半導体プロセスの変動による検査精度のぶれを低減させることが目的である。半導体露光プロセスにおいて、例えば、露光装置の露光量が増減すると、パターン幅が増減する。あるいは、露光装置のフォーカスが変動するとエッジ幅が増減する。模擬SEM像を生成するためのパラメタを算出するのに用いたウェーハと、検査対象のウェーハとで、半導体プロセスの状態が異なっていた場合、模擬SEM像と実SEM像とでは、パターン幅やエッジ幅が異なるので、全面が欠陥となってしまう。線幅やエッジ幅の変化も欠陥として検出するのが目的の場合には、この結果は正しい結果ともいえるが、局所的なパターンの細りや、太りを検出したい場合には不都合である。この問題を回避するのが、本実施の形態の狙いである。
【0065】
本実施の形態によれば、プロセス変動による全面のパターン幅変化や、全面のエッジのダレは欠陥とはならず、局所的な形状変化だけを検出することが可能となる。
【0066】
なお、ここでは、複数の模擬SEM像を生成するパラメタとして、パターン幅とエッジ幅としたが、どちらか一方でも良いし、あるいは、別の形状パラメタ(角の丸みや、パターン先端の後退など)を変化させるようにしても良い。また、パラメタの変動範囲は、プロセス変動の許容量の上限を設けるという意味で、検査に先立ち、ユーザが設定することが望ましい。
【実施例4】
【0067】
第4の実施の形態を
図22に示す。第4の実施の形態も、第3の実施の形態と同様、プロセス変動を許容することを目的とする。
【0068】
本実施の形態では、ステップS240では、複数の模擬SEM像を生成することはせず、1種の模擬SEM像と比較して、欠陥判定を行い(S241、S242)、欠陥と判定された部位について、実SEM像と対応する設計データを保存しておき、欠陥再判定処理(S243)の中で、複数の模擬SEM像との比較を行う。欠陥再判定処理は、検査と同期して行っても良いし、保存されたデータを用いて後で行っても良い。
【0069】
本実施の形態によれば、検査感度をあとから自由に変更できるので、予めプロセス変動の許容量を設定するのが難しい場合に好都合である。あるいは、プロセス変動の許容量を変化させた場合に欠陥の現れ方がどのように変化するかを解析するのにも好都合である。
【実施例5】
【0070】
第5の実施の形態を
図23に示す。第1の実施の形態は、
図6に示すように、レジストパターンを対象としたが、第5の実施の形態では、レジストパターン以外を検査対象とする。
【0071】
図23(a)はシリコンパターンを対象とする場合、
図23(b)シリコントレンチを対象とする場合である。この場合も、モデリングの方法は基本的には
図6と同じで、パターン部、エッジ部、背景部という3種類の信号強度で、SEM像を表現する。
図23(c)は下層にパターンがある場合である。この場合は、背景の信号強度が2種類になるので、合計4種類の信号強度でSEM像を表現する。模擬SEM像生成パラメタの算出は、第1の実施の形態と同じ方法が適用可能である。
【0072】
本実施の形態によれば、レジストパターンだけでなく、ゲートパターン、配線パターン、STIパターンなど、半導体パターニングの各プロセスのシステマティック欠陥検査への適用が可能となる。
【実施例6】
【0073】
第6の実施の形態を
図24に示す。本実施の形態では、第1の実施例におけるSEM像のモデリング(
図6)よりも、詳細なモデリングを行う。
図24(a)はレジストパターンのSEM像を模した図である。レジストをパターニングする露光光の波長が、レジストのパターン幅を下回るようになると、光近接効果の影響で、パターンエッジのテーパ角が一定ではなくなる。
図24(a)では、エッジ部を明るい帯で表しているが、同図が示すように、パターン密度が高いとエッジが切り立ち(画像上ではエッジ幅が減少)、パターン密度が低いとエッジがだれる(画像上ではエッジ幅が増加)傾向となることが多い。本実施の形態では、
図24(b)に示すように、設計データ950を用い、着目点ごとに、隣接パターンまでの距離を計算し(951よりも952の方が距離が長いという結果が得られる)、隣接パターンまでの距離とエッジ幅の関係を表すルックアップテーブル(
図24(c))を参照してエッジ幅を求める。
【0074】
第1の実施の形態では、
図7に示すように、エッジ幅がどこでも等しいとする単純なモデリングであったが、第6の実施の形態では、エッジ幅は隣接パターンとの距離に応じて変化することになる。画像の撮像倍率が低い場合は、事実上、エッジの幅が固定値という単純なモデリングでも事実上問題ないが、撮像倍率が高い場合は、より、高精度な検査を実現するには、本実施例を適用することが望ましい。
【実施例7】
【0075】
第7の実施の形態に係る全体フローを
図25に示す。第1の実施の形態(
図1)では、検査に先立って模擬SEM像生成のためのパラメタを決定したが、第7の実施の形態では、始めに検査領域の画像を撮像し画像を保存しておき、後で、保存した画像と設計データの比較にて検査を行う。
【0076】
図25(a)に画像撮像のフローを示す。まず、設計データを読み込み(S801)、設計データ上で検査領域を指定する(S802)。指定した領域のSEM像を撮像し(S803)、撮像した画像を保存する(S804)。
図1のステップS523と同様にして位置ずれを検出し(S805)、位置ずれマップ(
図3の206と同じ)を算出してこれを保存する(S806)。
【0077】
図25(b)に撮像済みの画像と設計データとの比較による検査のフローを示す。すでに撮像は完了しているので、以下のフローは検査装置上で行っても良いが、検査装置外に設置した計算機で行っても良い。
【0078】
まず保存されたSEM像、位置ずれマップ、及び設計データを読み込む(S811、S812、S813)。そして、撮像済みのSEM像を用いて、模擬SEM像生成用のパラメタを算出する(S814)。方法は、第1野実施の形態のステップS513と同じである。算出されたパラメタを用いて、模擬SEM像を生成し(S815)、検査画像と比較を行って(S816)、欠陥判定および欠陥部の特徴量を算出する(S817)。
【0079】
本実施の形態は、本番の検査画像そのものを使って、パラメタの条件出しを行うので、パラメタの精度の観点では、第1の実施の形態よりも有利である。ただし、検査領域が広い(1ダイの全域を検査するなど)場合は、全画像を保存するのは困難なので、検査領域が狭い場合に有効である。あるいは、
図1のフローにて検査を行って、欠陥部の画像を全て蓄えておき、その画像を対象に、
図25(b)のフローにて再検査を実施しても良い。この場合は、
図1は、欠陥候補領域の算出、
図25(b)欠陥候補領域からの絞り込みを行うという位置づけとなる。
【実施例8】
【0080】
第8の実施の形態に係るフローを
図26に示す。第8の実施の形態が第1の実施の形態と異なるのは、第1実施の形態の検査のフロー(
図1(b))に、明るさ補正のステップS580が加わった点である。
【0081】
検査に先だって実施する条件出しは、
図1(a)に示した、第1の実施の形態と共通である。第1の実施の形態では、
図1(a)のフローで決定した模擬SEM像生成パラメタを適用して生成した模擬SEM像をそのまま比較検査(
図1のステップS526)で使用するが、第8の実施の形態では、画像全体の明るさを補正(S580)した後に、比較検査(S581)を行う。
【0082】
第1の実施例における欠陥判定のフロー(
図3)に相当する、本実施の形態における欠陥判定のフローを
図27に示す。設計データの読み込み(S590)、SEM像の読み込み(S591)、位置ずれ検出(S592)、歪み補正と切り出し(S593)、模擬SEM像の生成(S594)までは、第1の実施の形態と共通である。
【0083】
この後に明るさ補正係数の算出(S595)を行う。実SEM像をf(x、y)、模擬SEM像をg(x、y)とすると、模擬SEM像をa倍して、bを加えた画像と、実SEM像との差の二乗和(式(8))が最小となるよう、係数aとbを決定する(598)。
【0084】
(数8)
Σ{(a×g(x、y)+b)−f(x、y)}
2 (式8)
【0085】
そして、式(9)にて模擬SEM像を変換してg’(x、y)を求め、画像の比較は、変換後の模擬SEM像g’(x、y)と、実SEM像f(x、y)との間で行う。
【0086】
(数9)
g’(x、y)=a×g(x、y)+b (式9)
【0087】
この方法で明るさ補正(S596)を行うと、補正前には、f(x、y)とg(x、y)の間に明るさの乖離があり、599のような散布図(f(x、y)の座標(x、y)の明るさを横軸に、対応するg(x、y)の明るさを縦軸にとってプロットしたもの)だったのを、補正によって、600のよう、y=xを中心に分布したような散布図の状態にすることができる。
【0088】
模擬SEM像生成のためのパラメタを算出する時と、検査をする時とで、装置の状態が変化して、取得される明るさが変化して599のような状況になっている場合、式(1)にてf(x、y)とg(x、y)の画像比較(S597)を行うと、虚報が多発してしまう。本実施の形態によれば、明るさ補正が行われるので、この問題を回避することが可能となる。画像全体として明るさが合致するように補正係数を求めるのであって、局所的な明るさの合わせ込みを行うわけではないので、欠陥部の見逃しを引き起こすようなこともない。
【0089】
なお、ここでは、模擬SEM像に対して変換処理を施したが、実SEM像を変換するようにしても良い。
【0090】
本実施の形態は、上記のように装置状態が変化する場合の他、模擬SEM像を生成するためのパラメタ算出をするのに用いたウェーハと、検査対象のウェーハが異なることで、明るさが全体的に変化するような場合にも有効である。
【実施例9】
【0091】
第9の実施の形態は、第8の実施の形態の付加機能である。第8の実施の形態では、画像ごとに明るさ補正係数を求めたが、本実施の形態では、明るさ補正係数をより安定に求めるため、過去の明るさ補正係数を参照して、今回の明るさ補正係数を求める。
【0092】
図28は、時間tを横軸に、明るさ補正係数aを縦軸にとってプロットしたものである。取得される画像ごとに、含まれるパターンが異なっている等の理由により、画像ごとに算出されるaは、ある程度の誤差を含み、850のようにばらついた状況となる。現時刻tにおける明るさ補正係数をa(t)とすると、本実施の形態では、(式10)にて、過去の明るさ補正係数を利用して、現時刻tで採用する明るさ係数A(t)を決定する。
【0093】
(数10)
A(t)=(a(t)+A(t−1)+A(t−2))/3
={a(t)+(a(t−1)+a(t−2)+a(t−3))/3+(a(t−2)+a(t−3)+a(t−4))/3}/3
(式10)
【0094】
このように、計算することによって得られるA(t)は、851のようになめらかな曲線となる。a(t)ではなく、A(t)を適用することによって、より安定な明るさ補正係数が求まり、結果として、より精度の高い検査が可能となる。例えば、画像内に巨大な欠陥がある場合には、第8の実施の形態で求まる明るさ補正係数は、巨大欠陥の影響を受けてしまうが、第9の実施の形態を適用すれば、この問題を低減することが可能である。
【0095】
なお、単純に(式10)により、明るさ補正係数を求めても良いし、補正係数の飛びを検出して、飛びデータは計算から削除するようにしても良い。ここでは、明るさ補正係数aを例にあげたが、bについても同様の処理を行うことはいうまでもない。
【実施例10】
【0096】
第10の実施の形態に係るフローを
図29に示す。第1の実施の形態は、比較的広い領域の検査を行い、欠陥の在処を探すための検査であるが、第10の実施の形態では、指定領域の検査だけを対象とした定点検査を行う。
【0097】
検査に先だって実施する条件出しは第1の実施の形態(
図1(a))と共通である。
図29は、第1の実施の形態の
図1(b)に相当するフローである。
【0098】
まず、モデル条件ファイルと設計データを読み込み(S880、S881)、設計データ上で定点検査を行う箇所を指定する(S882)。定点観測を行う箇所は、プロセスシミュレーションにより危険箇所と分かっている箇所、あるいは、過去に検査を行って欠陥が多発した箇所なである。続いて、指定した箇所の実SEM像を取得し(S883)、設計データと実SEM像の位置ずれ検出(S884)、位置ずれ検出結果に基づく設計データの変形と切り出し(S885)を行う。続いて、第1の実施の形態と同様にして、ステップS880で読み込んだモデル条件ファイルに記されたパラメタを適用して模擬SEM像を生成する(S886)。次のステップS887の明るさ補正は、第8の実施の形態で示した方法を適用する。そして、明るさ補正後の模擬SEM像と実SEM像との比較により検査を行う(S888)。
【0099】
定点検査における出力例を
図30にしめす。
図30(a)は実SEM像の模式図で、ラインパターンの途中に、凹欠陥(ラインの一部が細くなっている)を有する。これと、模擬SEM像との差をとると、
図17(b)のようになる。図に示したように、実SEM像の明るさ>模擬SEM像の明るさか、あるいは、実SEM像の明るさ<模擬SEM像の明るさかによって、差画像上の明度が異なる。
【0100】
欠陥の出力としては、欠陥部が、設計パターンの内側にあるか、外側にあるかの判定に基づく、凹欠陥/凸欠陥の種別、欠陥の縦横のサイズ、面積、あるいは、欠陥部の明度差がある。
【0101】
本実施の形態によれば、定点検査において、模擬SEM像との比較による検査が可能となる。模擬SEM像との比較を行うことにより、上記のような形状の違いの他、薄い膜残りといった、明るさの違いとして現れるタイプの欠陥についても、定量的な評価を行うことが可能となる。
【実施例11】
【0102】
第11の実施の形態は、欠陥判定を行うためのしきい値設定に関する。第1の実施の形態では、(式1)に示すように、実SEM像と模擬SEM像の濃淡差が一定以上の値ならば欠陥としたが、本実施の形態では、模擬SEM像の明るさg(x、y)に応じたしきい値設定を行う。
【0103】
SEM画像は、明るいほどノイズが増加するという特徴を有す(ショットノイズの特性)。従って、欠陥判定のしきい値は、暗い部位では小さな値に、明るい部位では大きな値にした方が、虚報、見逃しが低減することができる。
【0104】
本実施の形態では、検査に先立って、
図31のように、模擬SEM像の明るさと欠陥判定しきい値の関係を表すルックアップテーブルを作成しておき、検査実行時に、このルックアップテーブルを参照して、欠陥判定を行う。
【0105】
ここでのポイントは、模擬SEM像の明るさに対して、ルックアップテーブルを適用するという点である。実SEM像の明るさに適用した場合、欠陥部においては、欠陥部の明るさに応じてルックアップテーブルが引かれるので、ノイズ特性を利用して検査を実施しようという目論見が台無しになる可能性があるが、本実施の形態では、模擬SEM像の明るさに対してルックアップテーブルを引くので、目論見通りの効果が期待できる。
【0106】
本実施の形態によれば、SEMノイズの影響を最低限に抑えた、より高感度な検査が実施可能となる。
【実施例12】
【0107】
第12の実施の形態は、位置ずれ検出に関する。
【0108】
第1の実施の形態では、
図3に示すように、設計データと実SEM像とを用いて位置ずれ検出を行ったが(S205)、
図32に示すように、第12の実施の形態では、設計データを読み込んで(S1001)、この設計データから模擬SEM像を生成し(S1003、模擬SEM像を生成するためのパラメタは、図示しないモデル条件ファイルから読み込む)、これと、読み込んだ実SEM像(S1002)との間で、位置ずれ検出を行う(S1004)。以降の処理は、第1の実施例と同様である。
【0109】
一般に、画像の性質が似ているもの同士で位置ずれ検出を行った方が、位置ずれ検出の精度は高い。
【0110】
本実施の形態によれば、位置ずれ検出の精度が向上するので、後段の歪み補正と切り出しの精度が高まり、結果として検査性能の向上が期待できる。
【実施例13】
【0111】
第13の実施の形態は、実SEM像の取得に関する。第1の実施の形態の説明で、SEM像の取得方法として、電子線の1次元走査とステージの連続移動によって得られる連続画像、あるいは、電子線の2次元走査とステージのステップ移動によって得られる枚葉画像が検査対象の画像と述べたが、
図33のように、ステージ移動の方向や、ビーム走査の方向に角度をつけても良い。
【0112】
図33(a)は、ウェーハのチップ配列と平行にステージ移動し、ウェーハのチップ配列に対して斜めに電子線走査する方法である。
【0113】
図33(b)は、ウェーハのチップ配列に対して、電子線の横走査、縦走査とも角度をつける方法である。
【0114】
半導体パターンの大部分は、チップ配列に対して、直角、平行なパターンから構成されている。電子線像においては、帯電の影響により、
図5に示したように、電子線の走査方向に対して平行なエッジが不明瞭となることがあるが、本実施の形態によれば、電子線の走査方向と、パターンのエッジ方向が非平行になる部分が増えるため、不明瞭なエッジを少なくすることができる。
【0115】
なお、実SEM像を斜め走査によって取得する場合は、模擬SEM像の方も、同様な画像になるよう、変形させる必要がある。斜め走査の角度は既知(
図16に示したGUIで入力されている)なので、設計データから変形・切り出しを行うステップ(
図1のS523)において、上記既知の角度を用いて、変形させればよい。
【0116】
本実施の形態によれば、不明瞭なエッジが少なくなることで、検査感度向上が期待できる。
【実施例14】
【0117】
第14の実施の形態は、電子光学系に関する。
【0118】
第1の実施の形態は、
図2に示すように、シングルビームの光学系を用いたが、本実施の形態では、
図34に示したような、マルチビーム式の光学系を用いる。
【0119】
マルチビーム式の場合、複数の照射電子線、複数の検出器に個体差がありえるので、模擬SEM像生成のパラメタ算出は、ビームごとに行うようにする。また、第8の実施例で述べた明るさ補正も、ビームごとに行うことが望ましい。
【0120】
本実施の形態によれば、検査のスループット向上が期待できる。
【0121】
以上、14個の実施例を示した。これらの実施の形態の一部、あるいは、全てを組み合わせることも可能である。