(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素材料と前記金属粉末の結晶粒とによって表面が凹凸状に形成され、表面積が複合前の前記金属粉末の表面積よりも増大されていることを特徴とする請求項1に記載の金属複合材料。
前記金属粉末が、銅、銀、金、アルミニウム及びインジウムからなる群から選択される金属の粉末、又は前記群から選択される少なくとも一種の金属を含む合金の粉末であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属複合材料。
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、フラーレン及びナノダイアモンドから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の金属複合材料。
前記金属粉末が、銅、銀、金、アルミニウム及びインジウムからなる群から選択される金属の粉末、又は前記群から選択される少なくとも一種の金属を含む合金の粉末であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1つに記載の金属複合材料の製造方法。
前記金属複合材料が、前記炭素材料と前記金属粉末の結晶粒とによって表面が凹凸状に形成され、該金属複合材料の表面積が複合前の前記金属粉末の表面積よりも増大されていることを特徴とする請求項11に記載の放熱部品。
前記金属粉末が、銅、銀、金、アルミニウム及びインジウムからなる群から選択される金属の粉末、又は前記群から選択される少なくとも一種の金属を含む合金の粉末であることを特徴とする請求項11又は12に記載の放熱部品。
前記金属粉末が、銅、銀、金、アルミニウム及びインジウムからなる群から選択される金属の粉末、又は前記群から選択される少なくとも一種の金属を含む合金の粉末であることを特徴とする請求項16に記載の放熱部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したような放熱又は熱伝導機能を有する放熱部品では、放熱効率を高めるために、熱伝導度の高い金属(例えば、銅やアルミニウム)が材料として使用されている。また、とくにヒートパイプやベーパチャンバなどでは、細い銅線を編んだウイックや銅粉末の焼結体のウイックを使用することにより、作動流体との接触面積を大きくして放熱効率を向上させている。しかしながら、そのような金属では熱伝導度が決まっているため、材料の面からこれ以上放熱効率を向上させることはできず、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、放熱効率を向上させることのできる金属複合材料の製造方法、金属複合材料、放熱部品の製造方法及び放熱部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、金属複合材料は、
金属粉末と
前記金属粉末よりも熱伝導度の高い炭素材料に対して、前記炭素材料が粉砕され得る強度の機械的衝撃力を加えることにより、
前記炭素材料の一部を粉砕するとともに、前記粉砕後の炭素材料と未粉砕の炭素材料を前記金属粉末表面
に凝着させる凝着工程と、前記凝着工程の後に、前記金属粉末の表面の金属の一部を昇華させることにより、前記凝着された炭素材料を前記金属粉末の表面の一部に露出させる昇華工程と、を有する製造方法によって製造される。
また、前記凝着工程では、前記粉砕後の炭素材料の親水性が前記未粉砕の炭素材料の親水性よりも高くなる。
【0010】
この方法によれば、凝着工程において金属粉末の表面に炭素材料が凝着される。これにより、金属粉末よりも高い熱伝導度を有する炭素材料が表面に露出されることで、金属複合材料の熱伝導度を向上させることができる。
【0011】
また、凝着工程において炭素材料の少なくとも一部が粉砕され、その粉砕によって炭素材料の親水性が向上される。このように親水性の向上した炭素材料が表面に露出されるため、金属複合材料の親水性を向上させることができる。このため、この金属複合材料をヒートパイプやベーパチャンバのウイックに使用することにより、作動流体を狭い空隙にも浸透させることができ、作動流体との接触面積が増大して大きな放熱面積を得ることができる。これにより、放熱効率を向上させることができる。
【0012】
本発明の一観点によれば、金属粉末の母結晶組織と、前記金属粉末の母結晶
よりも微細
な微細結晶組織と、
前記金属粉末よりも熱伝導度の高い炭素材料が前記金属粉末の結晶粒に凝着された凝着層と、を有し、
前記炭素材料は、未粉砕の炭素材料と、粉砕された炭素材料を含み、前記粉砕された炭素材料の親水性は、前記未粉砕の炭素材料の親水性よりも高く、前記炭素材料は最表層に形成された前記凝着層に埋め込まれ、前記
粉砕された炭素材料の一部が前記凝着層の表面の一部に露出されている。
この構成によれば、金属粉末よりも高い熱伝導度を有する炭素材料を表面に露出させることで、金属複合材料の熱伝導度を向上させることができる。また、親水性が付与された炭素材料が表面に露出されるため、金属複合材料の親水性を向上させることができる。このため、この金属複合材料をヒートパイプやベーパチャンバのウイックに使用することにより、作動流体を狭い空隙にも浸透させることができ、作動流体との接触面積が増大して大きな放熱面積を得ることができる。これにより、放熱効率を向上させることができる。
【0013】
本発明の一観点によれば、放熱部品は、
金属粉末と
前記金属粉末よりも熱伝導度の高い炭素材料に対して、前記炭素材料が粉砕され得る強度の機械的衝撃力を加えることにより、
前記炭素材料の一部を粉砕するとともに、前記粉砕後の炭素材料と未粉砕の炭素材料を前記金属粉末表面
に凝着させた金属複合材料を形成する凝着工程と、前記凝着工程の後に、前記金属複合材料の表面の金属の一部を昇華させることにより、前記凝着された炭素材料を前記金属複合材料の表面の一部に露出させる昇華工程と、前記金属複合材料を放熱部品の表面又は内部空間に配置し、前記放熱部品を加熱することにより、前記放熱部品の表面又は内壁面に前記金属複合材料を接着させる焼結工程と、を有する製造方法によって製造される。
また、前記凝着工程では、前記粉砕後の炭素材料の親水性が前記未粉砕の炭素材料の親水性よりも高くなる。
【0014】
この方法によれば、凝着工程において金属粉末の表面に炭素材料が凝着される。これにより、金属粉末よりも高い熱伝導度を有する炭素材料が表面に露出されることで、金属複合材料の熱伝導度を向上させることができる。また、凝着工程において炭素材料の少なくとも一部が粉砕され、その粉砕によって炭素材料の親水性が向上される。このように親水性の向上した炭素材料が表面に露出されるため、金属複合材料の親水性を向上させることができる。そして、焼結工程において、このような金属複合材料が放熱部品の表面又は内壁面に接着されるため、その放熱部品の熱伝導度及び親水性を向上させることができる。
【0015】
本発明の一観点によれば、金属粉末の母結晶組織と、前記金属粉末の母結晶
よりも微細
な微細結晶組織と、
前記金属粉末よりも熱伝導度の高い炭素材料が前記金属粉末の結晶粒に凝着された凝着層と、を有する金属複合材料が表面又は内壁面に接着されてなり、
前記炭素材料は、未粉砕の炭素材料と、粉砕された炭素材料を含み、前記粉砕された炭素材料の親水性は、前記未粉砕の炭素材料の親水性よりも高く、前記炭素材料は前記金属複合材料の最表層に形成された前記凝着層に埋め込まれ、前記
粉砕された炭素材料の一部が前記金属複合材料の表面の一部に露出されている。
【0016】
この構成によれば、金属粉末よりも高い熱伝導度を有する炭素材料を表面に露出させることで、金属複合材料の熱伝導度を向上させることができる。また、親水性が付与された炭素材料が表面に露出されるため、金属複合材料の親水性を向上させることができる。そして、このような金属複合材料が放熱部品の表面又は内壁面に接着されているため、その放熱部品の熱伝導度及び親水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一観点によれば、放熱効率を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、一実施形態を
図1〜
図16に従って説明する。
(金属複合材料)
本実施形態の金属複合材料は、表面が活性化されて親水性が付与された炭素材料が金属粉末に凝着され、その凝着された炭素材料が当該金属複合材料の表面の一部に露出されて構成されるものである。具体的には、金属複合材料は、金属粉末の表面及び表面直下に、機械的エネルギーによって粉砕された炭素材料及び未粉砕の炭素材料が凝着され、それら炭素材料が当該金属複合材料の表面の一部に露出されて構成されるものである。より具体的には、金属複合材料は、その表面が上述した炭素材料と金属粉末の結晶粒とによって凹凸状に形成されて構成されるものである。
【0020】
金属粉末としては、例えば銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)及びインジウム(In)等の金属の粉末又はこれらの金属を少なくとも一種以上含む合金(はんだ等)の粉末を使用することができる。なお、金属粉末は、粒径の異なる同一種類の金属粉末を混合して用いてもよい。熱伝導度の高い金属粉末、例えばCu,Ag,Au,Al等の粉末を使用することにより、熱伝導度のより高い金属複合材料を得ることができる。
【0021】
また、炭素材料としては、アモルファス炭素、炭素繊維又はナノカーボンを使用することができる。ナノカーボンとしては、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト、グラフェン、フラーレン、及びナノダイアモンド等の結晶性を有するカーボン材を使用することができる。なお、これらの炭素材料は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。結晶性の高いナノカーボン、例えばカーボンナノチューブや黒鉛等を使用することにより、熱伝導度のより高い金属複合材料を得ることができる。
【0022】
この炭素材料の含有量は、金属複合材料に対して、例えば0.1質量%〜5質量%である。なお、金属複合材料中の炭素材料の含有量は、超高分解能FE−SEMや透過型電子顕微鏡による形態観察や、元素分析及び「JIS Z 2615 金属材料の炭素定量方法通則」に従って分析することによって測定することができる。
(金属複合材料の製造方法)
次に、このように構成された金属複合材料の製造方法を
図1〜
図6に従って説明する。
【0023】
金属複合材料の製造方法は、
図1に示すように、金属粉末と炭素材料とを混合する混合工程(ステップS1)と、金属粉末に炭素材料を凝着させる凝着工程(ステップS2)と、未凝着の粒子を分級除去する分級工程(ステップS3)と、金属粉末の一部を昇華させて炭素材料の一部を表面に露出させる昇華工程(ステップS4)とを有する。なお、ここでは、金属粉末として銅粉末を使用し、炭素材料としてカーボンナノチューブを使用して金属複合材料を製造する方法を説明する。
(混合工程)
まず、混合工程では、銅粉末とカーボンナノチューブとが混合される(ステップS1)。このとき、銅粉末とカーボンナノチューブとの混合割合は、特に限定されないが、例えば0.1質量%〜5質量%のカーボンナノチューブが混合物中に含まれるようにする。また、銅粉末の粒子形状や粒径は特に限定されないが、例えば40μm〜3mmの粒径の銅粉末を使用する。このような混合割合及び粒径とすることにより、次の凝着工程において好適にカーボンナノチューブを銅粉末に凝着させることができる。
【0024】
上記カーボンナノチューブは、六角網目状のグラファイトシート(グラフェン)が円筒状をなした構造を有している。カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブであってもよいし、多層カーボンナノチューブであってもよい。また、フラーレンを内包したカーボンナノチューブであってもよい。カーボンナノチューブの製法としては、特に限定されず、例えばアーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法等が挙げられる。
(凝着工程)
次に、凝着工程では、銅粉末とカーボンナノチューブとの混合物に機械的衝撃力を加えることによって、銅粉末の表面及び表面直下内部にカーボンナノチューブが凝着される(ステップS2)。このような機械的衝撃力を与える方法としては、例えば
図2に示す高速衝突装置10を用いる方法が挙げられる。ここで、まず、高速衝突装置10の構造について説明する。
【0025】
高速衝突装置10は、円筒状のステータ11とそのステータ11の両端面を塞ぐカバー(図示略)とによって形成される衝撃室12内に、回転軸13によって衝撃室12内を回転可能に軸支された円盤状のロータ14を備えている。このロータ14の盤上には、放射状に周設された複数のブレード15が固着されている。また、高速衝突装置10は、一端がステータ11の内壁の一部に開口し、他端が上記カバーの一部に開口して閉回路を形成する循環管16を備えている。この循環管16には、原料を投入するための原料ホッパー17が、開閉弁18と原料供給用シュート19とを通じて連結されている。また、高速衝突装置10は、ステータ11の一部に設けられた排出弁20によって開閉される排出シュート21を備えている。この排出シュート21には、処理済の粉末を回収する粉末回収器22が連結されている。
【0026】
次に、このように構成された高速衝突装置10を用いた凝着工程の処理方法を説明する。
まず、カーボンナノチューブが酸化燃焼しない雰囲気、例えば不活性ガス(アルゴンガス等)や窒素ガス等を雰囲気として、上記混合工程にて混合された銅粉末及びカーボンナノチューブが原料供給用シュート19を介して衝撃室12に供給される。このとき、開閉弁18及び排出弁20を閉じた状態で、図示しない駆動手段により回転軸13を介してロータ14を、周速度50m/s〜150m/s程度で1分〜3分間回転させる。これにより、銅粉末及びカーボンナノチューブは、衝撃室12内を高速で回転しながら飛散し、その間にステータ11の表面やブレード15に回転しながら衝突する。衝突した銅粉末及びカーボンナノチューブは、ステータ11に開口している循環管16を循環した後、再び衝撃室12に供給される。このようにして、銅粉末及びカーボンナノチューブが、ロータ14の回転にしたがって衝撃室12と循環管16との間を多数回循環される。この間、ステータ11やロータ14への衝突が繰り返されることにより、カーボンナノチューブの表面に強い機械的エネルギーが発生し、カーボンナノチューブの一部が粉砕される。このように粉砕されたカーボンナノチューブでは、粉砕などの機械的エネルギーが化学的なエネルギーの形で表面に蓄えられ、その結果、物理化学的性質の変化が誘起され、表面の活性が高められる(メカノケミカル効果)。そして、このメカノケミカル効果によって、粉砕後のカーボンナノチューブでは親水性が高められる。
【0027】
また、衝撃室12と循環管16とを循環する間、銅粉末及びカーボンナノチューブには、上述したステータ11やブレード15への衝突力に加えて、粒子同士の衝突力が与えられる。このような機械的衝撃力によって、銅粉末の表面にカーボンナノチューブが凝着され、さらに銅粉末同士の衝突によって、銅粉末表面に凝着したカーボンナノチューブが叩かれて、カーボンナノチューブが銅粉末の表面直下に埋め込まれる。すなわち、ロータ14の回転により与えられる機械的衝撃力によって、銅粉末の表面及び表面直下にカーボンナノチューブが凝着される。これにより、
図3及び
図4に示すように、カーボンナノチューブと銅粉末とが複合化された金属複合材料1が形成され、その金属複合材料1の最表層に、銅粉末の結晶粒とカーボンナノチューブとが凝着された凝着層2が形成される。この凝着層2には、
図5に示すように、未粉砕のカーボンナノチューブと粉砕されたカーボンナノチューブとが埋め込まれている。なお、カーボンナノチューブが埋め込まれる表面直下の領域(凝着層2)は、例えば金属複合材料1の表面から5μm〜12μm程度までの範囲である。また、
図3及び
図4に示すように、凝着層2よりも中心側には、上述した機械的衝撃力によって銅粉末の母結晶が微細化された微細結晶組織3が形成されている。さらに、微細結晶組織3よりも中心側には、破壊されていない銅粉末の母結晶組織4が形成されている。
【0028】
そして、所定時間経過後、
図2に示す排出弁20を開くことにより、金属複合材料1を含む処理後の試料が排出シュート21を通じて回収器22にて回収される。
このような凝着工程において、銅粉末にカーボンナノチューブが埋め込まれることによって、銅粉末からのカーボンナノチューブの脱離が抑制され、後工程(昇華工程)で均質な複合材料を得ることができる。
(分級工程)
図1に示すように、次の分級工程では、上記金属複合材料1のみを回収するために、その金属複合材料1以外の試料を分級除去する(ステップS3)。具体的には、未凝着のカーボンナノチューブ、未凝着の銅粉末、及び銅粉末同士が凝着された銅粉末を分級除去する。なお、この分級工程は、例えばエルボージェット型の気流分級装置により行うことができる。
(昇華工程)
次に、昇華工程では、上記分級工程により回収された金属複合材料1を加熱して、金属複合材料1の表面、つまり凝着層2中の銅の一部を昇華させる(ステップS4)。具体的には、カーボンナノチューブが酸化燃焼しない雰囲気(例えば真空、不活性ガスや窒素ガス)下で、銅の昇華条件にて金属複合材料1を加熱して、凝着層2中の銅の一部を昇華させる。より具体的には、例えば真空炉中において、真空度1×10
−3Pa〜1×10
−4Pa及び温度800度〜1100度にて金属複合材料1を加熱して、凝着層2中の銅の一部を昇華させ、凝着層2中のカーボンナノチューブを金属複合材料1の表面の一部(例えば、表面積の1%〜70%程度)に露出させる。なお、昇華時間は、特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブが金属複合材料1の表面の1%〜70%の面に露出されるように設定すればよい。なお、この金属複合材料1中のカーボンナノチューブの露出度合は、例えば超高分解能FE−SEMや電子顕微鏡による組織観察等によって測定することができる。
【0029】
このような昇華工程後によって得られる金属複合材料1Aは、
図6に示すように、その表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成され、その表面積が複合前の銅粉末のそれよりも増大されている。ここで、熱伝導度が銅よりも3倍〜4倍程度高いカーボンナノチューブが表面に露出されるため、金属複合材料1Aの表面を熱が伝わりやすくなり、金属複合材料1Aの熱伝導度を複合前の銅粉末のそれと比べて飛躍的に向上させることができる。また、表面に露出されるカーボンナノチューブには、上述した粉砕後のカーボンナノチューブ、つまり親水性の良いカーボンナノチューブが含まれる。このため、金属複合材料1Aの親水性を複合前の銅粉末のそれと比べて大幅に向上させることができる。さらに、表面が凹凸状に形成されることで表面積が大きくなるため、例えばヒートパイプやベーパチャンバ等に上記金属複合材料1Aを適用した場合に、作動流体との接触面積を大幅に広げることができる。これにより、受熱効率及び放熱効率を向上させることができる。
(適用例)
以上説明した金属複合材料1A(又は金属複合材料1)は、熱伝導度及び親水性に優れているため、ヒートパイプ、ベーパチャンバ、ヒートスプレッダ、ヒートシンクや熱交換器等のように放熱又は熱伝導機能を有する放熱部品に幅広く適用することができる。以下に、このような放熱部品に金属複合材料1Aを適用した場合の具体例を説明する。
(適用例1)
まず、上述した金属複合材料1Aをヒートパイプに適用した場合の例を説明する。
【0030】
ヒートパイプの材料には、代表的に銅が用いられる。
図7に示すように、ヒートパイプ30は、密閉したコンテナ31の内部に、凝縮性の流体(例えば、水やアルコールなど)が作動流体として封入された構造を有している。このヒートパイプ30は、外部からの入熱によって作動流体を蒸発部で蒸発させるとともに、その蒸気を凝縮部に流動させた後、放熱させて凝縮させることにより、作動流体の潜熱として熱を輸送するように構成したものである。このヒートパイプ30では、凝縮部に熱が輸送された後、凝縮した液相の作動流体をウイック32による毛細管圧力によって、蒸発部に環流させている。このウイックは、例えば粉末の焼結体、編組、細線の束やグルーブなどのウイック材により構成されている。以下に、このウイック材に上記金属複合材料1Aを適用する方法を説明する。
(粉末の焼結体)
まず、
図9(a)に示す配置工程(ステップS5)では、上記分級工程(ステップS3)で回収した金属複合材料1を、
図8に示すように一端(例えば、蒸発部側の端部)を封止したコンテナ31の内部空間33に配置する。続いて、
図9(a)に示す焼結工程(ステップS6)では、金属複合材料1が配置されたコンテナ31を、公知の焼結法によって銅の昇華条件にて加熱することにより、金属複合材料1の凝着層2(
図3参照)中の銅の一部を昇華させるとともに、金属複合材料1同士を焼結させる。これにより、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部が金属複合材料1の表面の一部に露出され、表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成された金属複合材料1Aが形成される。さらに、この金属複合材料1Aの表面に露出された銅同士が結合され、金属複合材料1Aの焼結体が形成される。このとき、コンテナ31の内壁面31Aが銅で形成されているため、金属複合材料1Aの焼結体の形成と共に、その焼結体をコンテナ31の内壁面31Aに接着することができる。換言すると、金属複合材料1Aの焼結体からなるウイックをコンテナ31の内壁面31Aに形成することができる。
【0031】
なお、上述した焼結工程は、例えばパルス通電焼結法、ホットプレス法、真空焼結法、ガス圧焼結法や熱間等方加圧焼結法などの公知の焼結法により行うことができる。この焼結工程は、好ましくは真空又は不活性ガスの雰囲気下で行われる。また、焼結温度等の焼結条件は、採用する焼結法、使用する金属粉末の種類や使用する金属粉末の昇華条件(真空度及び温度等)に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
そして、上記焼結工程後、コンテナ31に作動流体を注入し、コンテナ31内を真空引きして凝縮部側の端部を封止することにより、ヒートパイプ30を製造することができる。
(変形例)
上記適用方法では、分級工程(ステップS3)で回収した金属複合材料1をコンテナ31内に配置するようにしたが、
図9(b)に示すように、上記昇華工程(ステップS4)後の金属複合材料1Aをコンテナ31内に配置するようにしてもよい。具体的には、
図9(b)に示す配置工程(ステップS7)では、昇華工程(ステップS4)で得られた金属複合材料1Aを、
図8に示すように一端を封止したコンテナ31の内部空間33に配置する。この場合、その後の焼結工程(ステップS8)において、金属複合材料1Aが配置されたコンテナ31を、公知の焼結法によって加熱することにより、コンテナ31の内壁面31Aに金属複合材料1Aを接着させる。このとき、金属複合材料1Aの表面に露出された銅同士が結合され、金属複合材料1Aの焼結体が形成されるため、コンテナ31の内壁面31Aには金属複合材料1Aの焼結体を接着させることができる。
(編組又は細線の束)
図10に示すように、引抜きダイス40の内面に上記分級工程で回収した金属複合材料1を供給した状態で、純銅線41を引抜き加工により細線化する。これにより、銅線41の表面に金属複合材料1が埋め込まれつつ、銅線が所望の径に細線化される。このとき、上記金属複合材料1は、引抜き加工における固体潤滑剤としても機能する。
【0033】
次に、連続真空炉内において、細線化した銅線41を銅の昇華条件にて加熱することにより、銅線41(具体的には、銅線41に埋め込まれた金属複合材料1の表面)の銅の一部を昇華させる。これにより、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部が銅線41の表面の一部に露出され、銅線41の表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成される。すなわち、金属複合材料1Aが銅線41の表面に形成される。
【0034】
続いて、このように形成された銅線41(細線)をメッシュ状に編むことにより、編組のウイック材を形成することができる。また、上述のように形成された銅線41(細線)を、細線の束のウイック材として使用することもできる。なお、これら編組のウイック材及び細線の束のウイック材は、後述するベーパチャンバのウイック材としても使用することができる。
【0035】
そして、このように製造された編組のウイック材又は細線の束のウイック材を、一端を封止したコンテナ内に配置する。続いて、そのコンテナを加熱することにより、コンテナの内壁面に上記ウイック材を接着する。その後、コンテナに作動流体を注入し、コンテナ内を真空引きして他端を封止することにより、編組のウイック又は細線の束のウイックを有するヒートパイプを製造することができる。
(グルーブ)
図11に示すように、銅管50をダイス51にセットし、グルーブ加工用のプラグ52、つまり外周面に溝及び突条を有するプラグ52を銅管50内に挿入する。続いて、プラグ52と銅管50の内壁50Aとの隙間に上記分級工程で回収した金属複合材料1を供給した状態で、銅管50に対して引抜き加工又は押出し加工を施す。これにより、
図12に示すように、銅管50の内壁に上記プラグ52の溝及び突条に対応したグルーブ(溝)50Gが形成される。同時に、
図11に示すように、そのグルーブ50Gに上記金属複合材料1が擦り込まれる。
【0036】
次に、真空炉内において、銅管50のグルーブ50Gに擦り込まれた金属複合材料1中の銅の表面の一部を昇華させ、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部をグルーブ50Gの表面の一部に露出させる。これにより、銅管50の内壁50Aに、表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成された金属複合材料1Aからなるグルーブのウイックを形成することができる。
【0037】
次いで、上述のように形成された銅管50を所定の長さに切断し、銅管50の一端を封止し、当該銅管50内に作動流体を注入し、銅管50内を真空引きして銅管50の他端を封止する。これにより、金属複合材料1Aからなるグルーブのウイックを有するヒートパイプを製造することができる。
(適用例2)
次に、上述した金属複合材料1Aをベーパチャンバに適用した場合の例を説明する。
【0038】
ベーパチャンバの材料には、代表的に銅が用いられる。ベーパチャンバは、平面型のヒートパイプである。このため、ベーパチャンバは、ヒートパイプと略同様の構造を有し、コンテナ内に封入された作動流体の蒸発及び凝縮の相変化により熱を輸送するものである。そして、ベーパチャンバは、ヒートパイプと同様に、作動流体の環流を促すウイックを有している。以下に、金属複合材料1Aの焼結体からなるウイックを有するベーパチャンバの製造方法を説明する。
【0039】
まず、
図13に示すように、下コンテナ部品60及び上コンテナ部品61(
図14参照、なお
図13では下コンテナ部品60のみを図示)の内部空間に、上記分級工程で回収した金属複合材料1を配置する。続いて、公知の焼結法によって、これら下コンテナ部品60及び上コンテナ部品61を銅の昇華条件にて加熱することにより、金属複合材料1中の銅の一部を昇華させるとともに、金属複合材料1同士を焼結させる(焼結工程)。これにより、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部が金属複合材料1の表面の一部に露出され、
図14に示すように、表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成された金属複合材料1Aが形成される。さらに、この金属複合材料1Aの表面に露出された銅同士が結合され、金属複合材料1Aの焼結体が形成される。このとき、下コンテナ部品60の内壁面60A及び上コンテナ部品61の内壁面61Aが銅で形成されているため、金属複合材料1Aの焼結体の形成と共に、その焼結体を下コンテナ部品60の内壁面60A及び上コンテナ部品61の内壁面61Aに接着させることができる。換言すると、金属複合材料1Aの焼結体からなるウイックを下コンテナ部品60の内壁面60A及び上コンテナ部品61の内壁面61Aに形成することができる。
【0040】
次に、
図14に示すように、作動流体の投入口(図示略)を除く下コンテナ部品60の外周と上コンテナ部品61との外周を、公知の方法により接合してコンテナ62を形成する。続いて、上記投入口を通じてコンテナ62内に、当該コンテナ62内の容積の10%〜50%程度の量の作動流体を注入する。その後、コンテナ62内を真空引きして上記投入口を封止することにより、金属複合材料1Aの焼結体からなるウイックを有するベーパチャンバ63を製造することができる。
(変形例)
上記適用方法では、分級工程(ステップS3)で回収した金属複合材料1をコンテナ部品60,61内に配置するようにしたが、
図9(b)の方法と同様に、上記昇華工程(ステップS4)後の金属複合材料1Aをコンテナ部品60,61内に配置するようにしてもよい。
(適用例3)
次に、上述した金属複合材料1Aをヒートスプレッダに適用した場合の例を説明する。
【0041】
ヒートスプレッダは、半導体素子が動作時に発する熱を大気に放出するための熱拡散板である。ここでは、まず、ヒートスプレッダの構造を説明する。
図15に示すように、ヒートスプレッダ70は、その主要部分が板状に形成された板状部71と、この板状部71の周囲に一体的に形成された側壁部72とからなる構造を有している。これら板状部71と側壁部72とによって凹部73が形成されている。
図16に示すように、このヒートスプレッダ70の凹部73の底面73Aが半導体素子80の外面(非デバイス面)に接するように配置され、側壁部72がパッケージ81上に固定される。このヒートスプレッダ70の板状部71の上面71Aには、例えばベーパチャンバ82が取り付けられ、さらに、そのベーパチャンバ82の上に放熱フィン83Aを有するヒートシンク83が取り付けられる。このようなヒートスプレッダ70の材料には、代表的に銅(Cu)が用いられ、さらにその表面にニッケル(Ni)めっきが施されている。
【0042】
なお、
図16に示した構成はヒートスプレッダ70の使用状態を示す一例であり、例えばベーパチャンバ82を省略して、ヒートスプレッダ70の上面71Aにヒートシンク83を直接取り付けてもよく、またはベーパチャンバ82及びヒートシンク83を省略してもよい。
【0043】
次に、このように構成されたヒートスプレッダ70に金属複合材料1Aを適用する方法を説明する。
まず、
図15に示すように、上記ヒートスプレッダ70の上面71Aに所定のピッチで深さ0.1mm〜1mm程度の溝74を加工する。この溝74に、上記分級工程で回収した金属複合材料1を詰め込む。なお、この工程は、コールドスプレー法によりヒートスプレッダ70の上面71Aに上記金属複合材料1を堆積・皮膜させるようにしてもよい。
【0044】
続いて、摩擦撹拌接合によって上記溝74内を含む上面71Aに金属複合材料1を擦り込み、金属複合材料1を上面71Aに凝着させる。その後、金属複合材料1が凝着されたヒートスプレッダ70を、真空炉内において銅の昇華条件にて加熱することにより、金属複合材料1中の銅の一部を昇華させ、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部をヒートスプレッダ70の上面71Aに露出させる。これにより、表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成された金属複合材料1Aをヒートスプレッダ70の上面71Aに形成することができる。
(適用例4)
次に、金属複合材料1Aを大気放熱用の平板に適用した場合の例を説明する。
【0045】
上述のヒートスプレッダの場合と同様に、銅平板の表面に所定のピッチで深さ0.1mm〜1mm程度の溝を加工し、その溝に金属複合材料1を詰め込む。続いて、摩擦撹拌接合によって銅平板の表面に金属複合材料1を擦り込み、銅平板の表面に金属複合材料1を凝着させる。その後、銅平板に凝着された金属複合材料1中の銅を真空昇華させ、金属複合材料1中のカーボンナノチューブの一部を銅平板の表面の一部に露出させることにより、表面がカーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成された金属複合材料1Aを銅平板の表面に形成する。
【0046】
なお、銅平板の表面に上記金属複合材料1を敷き詰めて真空ホットプレスによって熱圧着させることにより、銅平板の表面に金属複合材料1Aを形成するようにしてもよい。この場合に、例えば加圧状態で高電流を流すことによって銅平板等を加熱するようにしてもよい。これにより、製造効率を向上させることが可能となる。
(その他の適用例)
発熱が製品の寿命や信頼性に大きく影響する製品では、より効率的に冷却・放熱する技術が一般に求められている。例えばLED電球が備える放熱板に上記金属複合材料1,1Aを適用することにより、LED電球を効率良く放熱・冷却することができるようになる。これにより、LED電球の長寿命化を図ることが可能となる。
【0047】
また、従来の小型プロジェクタでは、その製品寿命に影響する放熱を十分に行うことができないため、明るさを抑えて使用されている。これに対し、本実施形態の金属複合材料1,1Aを使用した放熱部品を小型プロジェクタに採用することにより、放熱を十分に行うことができるため、明るさを抑える必要がなくなることが期待できる。
【0048】
また、上記金属複合材料1,1Aを大型化又は平面化に高圧焼結することにより、はんだやインジウム等の金属接合に用いられる接合用金属又は合金においても、熱伝導度や電気伝導度を向上させることができるため、熱伝導度や電気伝導度を向上させた金属間接合部材を製造することも可能となる。
【0049】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)金属複合材料1,1Aでは、熱伝導度が銅よりも3倍〜4倍程度高いカーボンナノチューブが表面に露出される。このため、金属複合材料1,1Aの表面を熱が伝わりやすくなり、金属複合材料1,1Aの熱伝導度を複合前の銅粉末のそれと比べて飛躍的に向上させることができる。
【0050】
(2)表面に露出されるカーボンナノチューブには、粉砕して表面が活性化したカーボンナノチューブ、つまり親水性の良いカーボンナノチューブが含まれる。このため、金属複合材料1,1Aの親水性を複合前の銅粉末のそれと比べて大幅に向上させることができる。これにより、このような金属複合材料1,1Aを例えばヒートパイプやベーパチャンバのウイックに適用した場合に、作動流体を狭い空隙にも浸透させることができ、大きな受熱放熱面積を得ることができる。これにより、受熱効率及び放熱効率を向上させることができる。
【0051】
(3)金属複合材料1Aの表面が、カーボンナノチューブと銅とによって凹凸状に形成されている。これにより、金属複合材料1Aの表面積が大きくなるため、ヒートパイプやベーパチャンバのウイックにその金属複合材料1Aを適用した場合に、作動流体との接触面積を大幅に大きくすることができる。これにより、受熱効率及び放熱効率を向上させることができる。
【0052】
(4)カーボンナノチューブが表面に露出された金属複合材料1,1Aを大気放熱部に敷き詰めることにより、赤外線の放出度が高まり、大気中に容易に熱を逃がすことが可能となる。
【0053】
(5)金属複合材料1,1Aを各種放熱部品に適用することにより、発熱部品を効率的に放熱することができる。このため、発熱部品の高信頼性化や長寿命化に貢献することができる。さらに、放熱部品を小型化することが可能となるため、機器の小型化にも貢献することができる。
【0054】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態における混合工程を省略してもよい。この場合、例えば凝着工程で使用する高速衝突装置10の中で、金属粉末と炭素材料とを混合すればよい。
【0055】
・上記実施形態における分級工程を省略してもよい。
・上記実施形態における昇華工程を省略してもよい。
・上記実施形態における高速衝突装置10のロータ14の回転数は特に制限されない。すなわち、ロータ14の回転数は、炭素材料の一部が粉砕され、且つ炭素材料が金属粉末に凝着される強度の機械的衝撃力を、金属粉末及び炭素材料に与えられる回転数であれば良い。このため、ロータ14の回転数は、使用する金属粉末の種類(硬度など)や炭素材料の種類(硬度など)に応じて適宜設定すればよい。
【0056】
・上記実施形態の凝着工程において使用する装置は、
図2に示す高速衝突装置10に特に制限されない。すなわち、炭素材料の一部が粉砕され、且つ炭素材料が金属粉末に凝着される強度の機械的衝撃力を、金属粉末及び炭素材料に与えられる装置であれば、その構成は特に制限されない。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
平均粒径100μmの銅粉末と、平均繊維径10nm〜25nm及び平均繊維長2μm〜10μmのカーボンナノチューブとを準備し、これら銅粉末とカーボンナノチューブとの混合物中に、カーボンナノチューブが1.0質量%含まれるように秤量した。
図2に示した高速衝突装置10を用いて、アルゴンガス雰囲気下で、ロータ14を周速度70m/sで3分間回転させて、上記混合物に機械的衝撃力を加えた。この凝着工程によって得られた金属複合材料を分級によって回収した。
【0058】
一方、サイズ30×30mm及び板状部の厚み3mmのヒートスプレッダの凹部に、上記回収した金属複合材料を配置した。このヒートスプレッダを真空炉内に入れ、真空度1×10
−3Pa及び温度900度の昇華条件で銅の一部を昇華させ、カーボンナノチューブを表面に50%露出させた。
【0059】
このように製造されたヒートスプレッダについて、水に対する濡れ性を評価した。この結果を
図17に示している。また、上述のように製造されたヒートスプレッダの蒸発潜熱の熱特性を測定した。この結果を
図18に示している。
<濡れ性評価>
大気中において、実施例1のヒートスプレッダの凹部底面に純水20μlを滴下したときの凹部底面の様子を観察した(
図17(a)参照)。この比較例として、大気中において、銅板(
図17(b)参照)、銅粉末の焼結体(
図17(c)参照)及び酸化銅粉末の焼結体(
図17(d)参照)のそれぞれの表面に純水20μlを滴下したときの各表面の様子を観察した。
【0060】
図17(b)〜(d)から明らかなように、比較例では、各表面上で純水がドーム状又は球状になっており、滴下された純水との接触角が大きく、純水に対する濡れ性が悪い。また、比較例では、大気中に晒したことによって、直ぐに酸化膜が形成されてしまい、その酸化膜によって濡れ性がさらに悪化した。
【0061】
これに対し、実施例1では、滴下された純水がヒートスプレッダ内部に直ちに吸い込まれ、純水に対する濡れ性、つまり親水性が向上していることが確認された。これは、凝着工程において粉砕されたカーボンナノチューブの親水性が向上し、そのカーボンナノチューブがヒートスプレッダの凹部底面に露出しているためであると考えられる。さらに、実施例1では、大気中において同様の測定を繰り返し行っても、濡れ性の劣化は確認されなかった。すなわち、実施例1では、ヒートスプレッダが大気中に晒されてもその表面が酸化されなかった。これは、ヒートスプレッダ表面中に存在するカーボンナノチューブによって、メカノケミカル的に酸化が防止されていると考えられる。
<熱特性の測定>
(比較例1)
サイズ30×30mmで板状部の厚みが3mmである銅製のヒートスプレッダを測定に使用した。
(測定方法)
各例のヒートスプレッダの凹部底面を上側に向けて上部を大気中に開放した状態で、室温時に凹部底面に1000μlの純水を滴下した。その後、ヒートスプレッダの凹部底面と反対側の面に接触させたヒータブロックをヒータ(100度)にて加熱し、ヒータブロック内部の温度変化を測定した。
(測定結果)
図18から明らかなように、実施例1では、安定域、つまり滴下された純水を蒸発させている期間(約210s〜450s)の温度が、比較例1の場合のそれと比べて14度〜24度低く、熱特性が向上していることが分かる。また、実施例1では、滴下された純水が完全に蒸発するまでの時間(約450s)が、比較例1の場合のそれと比べて大幅に短縮されており、放熱効率が大幅に向上していることが分かる。