(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した帯電が2次電子の検出量に影響し生じる電位コントラストは、単一材料で構成された試料の表面形状を観察する際には、不要なコントラストである。一方、複数の材料で構成された積層構造を持つ試料を観察する際、表面形状とは異なる情報が画像に重畳されることが経験的に知られている。電位コントラストに反映される電子線照射下での帯電電荷の量は、試料の容量や抵抗などの電気特性に依存する(非特許文献2を参照)。さらには、前記電気特性は埋もれた構造や積層構造の界面を反映している。つまり、当該電位コントラストが抽出できれば、埋もれた構造や積層構造の界面の観察や診断が可能となる。
【0007】
しかしながら、当該帯電による電位コントラストは、観察中に、見えたり、見えなくなったりする。これは、帯電電荷が、時間に依存して、蓄積と緩和を繰り返すからである。従来のパルス電子線を用いた観察方法では、照射時間内に含まれるすべての2次電子信号を検出する。結果、必要な試料情報を持たない2次電子信号をも積算してしまうため、画像のコントラストは弱いものとなってしまうか、不要な試料情報が画像に重畳されてしまい、像解釈が困難となる課題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、画質と試料情報の選択性を向上させるパルス電子線を用いた撮像方法および走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
2次電子信号の時間変化について、埋もれた構造観察を例に説明する。
図1Aは、実験に使用した試料の断面図である。前記試料1は、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。
図1Bは、パルス電子照射下での2次電子信号の過渡応答を取得した結果であり、0.5msのパルス幅を持つパルス電子照射における、領域Aと領域Bの、2次電子信号の時間変化である。
【0010】
2次電子信号は、照射のパルス幅と同じ0.5msのパルス形状を示している。2次電子信号はパルス電子照射中に減衰し、定常となる。2次電子の放出数が、照射電子数より多い場合、試料表面は正に帯電する。この正の帯電によって試料からの2次電子放出が減衰し、結果、照射電子数と2次電子の放出数が等しくなる状態で、定常となる。
図1Bから判るように、照射時間が、0.01ms以下である照射開始直後と、2次電子の信号が定常となる、0.4ms以上では、領域Aと領域B間の2次電子信号の差はほとんどない。
【0011】
一方、0.1msから0.3msの範囲では、領域Aと領域B間の2次電子信号の差が拡大する。つまり、埋もれた構造を反映する画像は、2次電子信号に差が生じる特定の時間領域に現れる。
【0012】
本願発明は、このような2次電子信号の過渡応答に関する研究に基づき、なされてものであって、本発明によるパルス電子線を用いた観察方法は、2次電子検出における検出タイミングと検出時間を制御する工程を含むところにある。この方法によれば、パルス電子照射中の、2次電子信号を検出する時間領域が選択できる。
図1Bに示すように、試料情報は、照射中の特定の時間領域に現れる。2次電子の検出時間領域を選択することで、必要な試料情報を持たない2次電子信号や、不要な情報を含んだ2次電子信号を除することができるので、画質向上が期待できる。
【0013】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、複数のパルス電子を同一箇所に照射する工程と、2次電子を検出するタイミングを複数のパルス電子のうちの少なくとも1つ以上のパルス電子と同期する工程を含むところにある。試料情報は、特定のパルス電子照射数で現れる。この方法によれば、必要な情報を持つパルス電子からの2次電子の信号を選択的に取得できるため、画質に加え、情報の選択性の向上が期待できる。
【0014】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、異なる断続条件で、複数のパルス電子を同一箇所に照射する工程と、2次電子を検出するタイミングを異なる断続条件のうちの少なくとも1つ以上のパルス電子と同期する工程を含むところにある。試料情報は、照射で誘起された状態が緩和する過程で現れる。この方法によれば、状態を誘起する電子照射処理と、画像化に用いる電子照射とを切り分けることができるので、画質向上が期待できる。
【0015】
ここで、異なる断続条件のうち、第一の断続条件が、電子照射で試料を帯電処理する断続条件で、第二の断続条件が、試料の帯電を検出する断続条件であり、検出時に同期する断続条件が、前記第二の断続条件である。この方法によれば、必要な試料情報として、試料の埋もれた構造や界面状態を反映した試料情報を選択できる。
【0016】
ここで、前記第一の断続条件が、電子数100個から10000個を照射する条件で、前記第二の断続条件が、電子数1個から100個を照射する断続条件であり、第一の断続条件と第二の断続条件との間隔が0.001msから1000msである。
【0017】
ここで、前記第二の断続条件が、同一箇所に複数回照射される条件であり、第二の断続条件に同期して得られる2次電子の検出信号を積算し、画像化する工程を含むところにある。この方法によれば、信号積算による画質向上が期待できる。
【0018】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、異なる照射回数とパルス幅とパルス間のインターバル時間をもつ異なる断続条件で、複数のパルスを同一箇所に照射する際、少なくとも2つ以上の断続条件を選択し、2次電子を検出するタイミングを選択した断続条件と同期する工程と、同期検出した2次電子を選択した断続条件毎に画像化する工程を含むところにある。この方法によれば、複数の試料情報を一度のシーケンスで可視化できるので、試料の解析効率向上が期待できる。
【0019】
ここで、第一の断続条件は、表面形態を反映する条件で、第二の断続条件は、試料の帯電を処理する条件で、第三の断続条件は、帯電を制御する条件であり、検出同期する選択した断続条件が、第一と第三の断続条件である。本設定により、試料表面形態と、内部構造を反映した画像が同時に解析できる。
【0020】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、第一の断続条件と第二の断続条件で、パルス電子を同一箇所に照射する場合において、第一から第二の断続条件が実行される間隔を変化させる工程と、前記間隔の変化に同期して、2次電子の検出タイミングを変化させる工程を含むところにある。この方法によれば、第一の断続条件で誘起した状態の緩和過程が、時間分解で観察できる。
ここで、断続的な電子線の入射エネルギは1eVから3000eVである。
【0021】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法において、2次電子の過渡特性に基づきパルス電子の断続条件と、2次電子の検出条件を設定する工程を含むところにある。この方法によれば、好適な観察条件を短時間で設定することができる。
【0022】
本願発明の電子線を用いた走査電子顕微装置は、電子線を放出する手段と、電子線を断続的にパルス照射する手段と、前記電子線の断続条件を制御する手段と、前記電子線の照射位置を位置決めする手段と、前記電子線を試料に集束する手段と、前記試料からの2次電子を検出する手段と、前記2次電子の検出タイミングと検出時間を制御する手段と、前記2次電子の検出信号と前記照射位置から画像を形成する手段と、前記画像を表示する手段とを有するものである。
【0023】
また、本願発明の電子線を用いた走査電子顕微装置は、電子線を放出する手段と、電子線を断続的にパルス照射する手段と、前記電子線の断続条件を制御する手段と、前記電子線の照射位置を位置決めする手段と、前記電子線を試料に集束する手段と、前記試料からの2次電子を検出する手段と、前記2次電子を検出するパルスを選択する手段と、前記2次電子の検出信号と前記照射位置から画像を形成する手段と、前記画像を表示する手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0024】
本願発明によれば、2次電子信号の検出時間領域の制御により、必要な試料情報を持つ信号が選択的に検出できるため、高画質で、情報選択性の高い試料形態の観察や分析ができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では同一箇所への単一パルス照射における撮像方法と装置について述べる。
本実施例における走査電子顕微鏡の構成例を
図2に示す。走査電子顕微鏡10は電子光学系、ステージ機構系、制御系、画像処理系、操作系により構成されている。電子光学系は電子銃11、パルス生成器12、絞り13、偏向器14、対物レンズ15、検出器16により構成されている。ステージ機構系はXYZステージ上の試料ホルダ17、試料18、により構成されている。制御系は電子銃制御部19、パルス制御部20、偏向走査信号制御部21、対物レンズコイル制御部22、検出器制御部23により構成されている。画像処理系は、検出信号処理部24、画像形成部25、画像表示部26により構成されている。操作系は、操作インターフェース27とSEM制御部28により構成されている。本願発明では、別途パルス生成器12を設ける構成としたが、パルスで電子線照射可能な電子銃を用いても実施可能である。この場合、パルス制御部は、電子銃制御部に組み込むことも可能である。
【0028】
図1Bに示したように、0.5msのパルス電子を照射した場合、0.1msから0.3msの範囲で、
図1Aにおける位置Aと位置Bの2次電子信号に差が生じる。よって、位置A、B間でコントラストを得るには、0.1msから0.3msの2次電子信号を積算する必要がある。
【0029】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図3A,Bに示す。
図3AはSEMの画像形成について説明したものである。前記偏向器14により制御された照射位置からの2次電子信号を検出し、画素31の明るさとする。前記照射位置を変えながら、2次電子信号を検出する。前記照射位置の座標と2次電子信号の強度から、画像が形成される。本実施例では同一箇所を同一画素で定義した。
図3Bは同一画素に照射されるパルス電子の断続条件のタイムチャート32と、検出器制御のタイムチャート33と、このとき得られる2次電子の信号波形34との関係について示している。本実施例における断続条件は、パルス幅である。パルス電子は、タイムチャート32に示すように、前記パルス制御部20により、パルス幅T
pで単一画素に断続的に照射される。パルス電子照射中の2次電子は、前記検出器制御のタイムチャート33に示すように、タイミングT
1と検出時間T
2で、検出され、前記2次電子の信号波形34が得られる。
【0030】
図1Aの試料を観察する場合、パルス幅T
pは0.5ms、タイミングT
1は0.1msで、検出時間T
2は0.2msが望ましい。本実施例では、検出器制御部23により、検出タイミングと検出時間を制御する構成としたが、照射時間内に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記時間領域内に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。
【0031】
当該パルス電子線照射下での撮像方法を用いて、
図1Aの試料を、電子線の入射エネルギ300eVで、観察した結果を
図4Bに示す。通常、300eVで可視化できる深さは10nm程度である。
【0032】
なお、本実施例では、電子線の入射エネルギ300eVを用いたが、本発明に係る装置および撮像対象の制約を考慮して、1eVから3000eVの範囲のエネルギを設定することができる。しかしながら、パルス電子照射と2次電子の検出タイミングと検出時間の制御により、
図4Aの2次電子信号プロファイル40、さらには、
図4BのSEM画像41のように、ポリシリコン3が埋もれている領域で明るいコントラストが得られる。観察したポリシリコン3は、本実施例では円柱形状(例えば、半導体素子中のプラグなど)であるので、上面は
図4Bのように円形であり、断面は
図4Aのように矩形形状となっている。
【0033】
このように本実施例を用いれば、必要な試料情報が含まれる時間領域を選択して、2次電子信号が検出できるので、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子を照射する場合における撮像方法について述べる。装置は、
図2と同様の構成を用いた。本実施例で用いた試料を
図5に示す。試料は酸化膜51とポリシリコン膜52の積層構造になっている。酸化膜とポリシリコン膜の界面は、正常界面を持つ領域Aと、荒れた界面53を持つ領域Bに分かれている。前記試料を用いて、2次電子信号とパルス数の関係について調べた。その結果を
図6Bに示す。
【0035】
図6Aは、パルス電子の照射タイムチャートである。電子線の断続条件は、パルス幅T
pは0.05msで、パルス間のインターバルT
1は、0.5msで、照射したパルス数Nは12ショットで設定した。
図6Bは、領域Aと領域Bにおける2次電子信号と照射パルス数の関係を示す図である。図中では、1回目の照射パルスから12回目のパルスに対応して得られた2次電子信号の強度を任意スケールで示している。この2次電子信号は、パルス内に含まれる2次電子信号の平均値とした。領域Aと領域Bともにパルス数の増加に伴い減衰し、定常となる。領域Aと領域Bにおける2次電子信号の強度の差はパルス数N=4で最大となっている。このように、界面の状態を反映した領域Aと領域Bの差は、特定のパルスに現れる。つまり、同一箇所で複数のパルス電子を照射する場合、パルスを選択して2次電子信号を検出する必要がある。
【0036】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図7に示す。タイムチャート70は、電子線の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、パルス幅T
pと、パルス間のインターバルT
iと、パルス数Nの断続条件で制御される。前記断続条件を持つパルス電子は同一箇所に照射される。本実施例では、前記同一箇所を、同一画素で定義し、ここでは、同一画素内に複数のパルスが照射されていればよい。
【0037】
タイムチャート70に示すパルス電子に同期して、タイムチャート71に示すように、検出器制御部23で、検出開始パルスN
1と、検出パルス数N
2が制御される。本実施例では、パルス幅T
pは0.05msで、パルス間のインターバルT
1=0.5ms、照射したパルス数N=12ショット、検出開始パルスN
1=3、検出パルス数N
2=6とした。本実施例では、指定したパルス照射中の2次電子すべてを取得する構成としたが、実施例1に示すように、検出パルスの指定に加え、パルス中の検出タイミング、検出時間を指定しても構わない。当該撮像方法により、界面状態を反映した試料情報を持つパルスのみ検出できるため、高いコントラストで、界面の解析ができる。本実施例では、検出器制御部23により、検出パルスを選択する構成としたが、同一箇所に照射される複数回のパルスに含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記検出パルス内に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。このように本実施例を用いれば、必要な試料情報が含まれるパルスを選択して、2次電子信号が検出できるので、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例3】
【0038】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子条件で照射する場合の撮像方法について述べる。本実施例における走査電子顕微鏡の構成例を
図8に示す。走査電子顕微鏡80は、
図2に示した走査電子顕微鏡10と、パルス生成の方式が異なる。本実施例ではビーム分割器81により、一度電子線を2本に分割し、各電子線で断続条件が設定可能なマルチパルス生成器82により、第一の断続条件を持つパルス電子83と、第二の断続条件を持つパルス電子84が生成される。前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子は対物レンズにより同一箇所に集束される。本実施例では、同一箇所を照射領域の重なりで定義した。ここで、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子の照射領域が一部でも重なっていればよく、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子が同じ照射領域である必要はない。本実施例では電子線を分割して、複数の断続条件を制御する構成としたが、
図2に示す構成であっても、パルス制御部20により、複数の断続条件を組み合わせた制御信号を生成することで、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子が制御できる。
【0039】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図9に示す。タイムチャート90は、ひとつのチャートで、第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバルである。パルス電子は、第一の断続条件であるパルス幅T
p1と、第二の断続条件であるパルス幅T
p2で制御され、第一のパルス電子と第二のパルス電子は、インターバルT
iで同期して照射される。2次電子信号は、タイムチャート91に示すように、第二のパルスに同期して、検出される。
【0040】
本実施例では、
図10に示した埋もれた構造を観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。試料は、
図1Aと同様に、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。第一のパルス電子100により、生成された試料帯電101は、試料の埋もれた形態に応じて蓄積されるため、領域Aと領域Bで差が生じる。さらに、前記試料帯電101は、領域Aと領域Bで、帯電緩和の時定数が異なるため、インターバルT
iで差が拡大する。前記試料帯電に、第二のパルス電子102を照射すると、帯電の保持量に応じて、2次電子の信号パルス103に差が生じる。前記試料帯電101の差を得るため、第一のパルス電子100は、数1000個の電子が照射される条件であることが望ましい。因みに、電子の個数は、照射される電子線から求めた電流量(I)と印加するパルスのパルス幅(t)とを掛け合わせ、その値を素電荷量(q)で除算して求めることができる。
【0041】
第二のパルス電子102は、第一のパルス電子で形成した試料帯電101を壊さない程度である、数10個の電子が照射される条件であることが望ましい。また、インターバルT
iは、誘電緩和の時定数程度である0.001msから1000msの範囲内に設定することが望ましい。ここで、第一のパルス電子100は、前記試料帯電101を形成するためのパルス照射であり、画像には寄与しない。試料帯電101の差を検出する第二のパルス電子102のみ検出することで、埋もれた構造を反映した画像が得られる。本実施例では、検出器制御部23により、第二のパルス条件と同期検出する構成としたが、同一箇所に照射される複数のパルス電子条件に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記第二のパルス条件に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。このように本実施例を用いれば、試料帯電を処理するパルスと、試料帯電を検出するパルスを切り分けて、画像が形成できるため、情報の選択性が高まり、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子条件で照射する場合の撮像方法について述べる。装置は、
図2と同様の構成を用いた。
【0043】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図11に示す。タイムチャート110は、ひとつのチャートで、第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、第一の断続条件であるパルス幅T
p1と、第二の断続条件であるパルス幅T
p2で制御され、第一のパルス電子と第二のパルス電子は、インターバルT
i1で同期して照射される。第二のパルス電子は、インターバルT
i2でN回照射される。このとき第二のパルス電子をN回照射することで、帯電が進行しないよう、インターバルT
i2で調整される。このとき、N回照射される第二のパルス電子の総数が、インターバルT
i2で緩和する電荷数と同等もしくは、差が100個以下であることが望ましい。2次電子信号は、タイムチャート111に示すように、第二のパルスに同期して、検出される。検出されたN−1回の2次電子信号は、検出信号処理部24により積算され、1画素での信号となる。本実施例では、検出器制御部23により、第二のパルス条件と同期検出する構成としたが、同一箇所に照射される複数のパルス電子条件に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記第二のパルス条件に含まれる2次電子信号を抽出し、積算しても構わない。このように本実施例を用いれば、画像を構成するパルスを積算できるため、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例5】
【0044】
本実施例では、同一箇所に複数の断続条件で照射し、試料情報の異なる画像を一度に可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置は、
図2と同様の構成を用いた。複数のパルス電子条件は、パルス制御部20で制御した。本実施例では、画像形成部25に複数のメモリを設置し、検出信号処理部24からの信号を、メモリ選択して書き込むことができる。本装置により、複数の画像を一度に処理することができる。
【0045】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図12に示す。タイムチャート120は、ひとつのチャートで、第一と第二と第三の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、第一のパルス電子121のパルス幅T
p1と、第二のパルス電子122のパルス幅T
p2と、第三のパルス電子123のパルス幅T
p3で制御され、前記第一のパルス電子と前記第二のパルス電子は、インターバルT
i12で、前記第二のパルス電子と前記第三のパルス電子は、インターバルT
i23で同期して照射される。2次電子信号は、タイムチャート124に示すように、第一のパルスに同期して、検出する第一の2次電子信号125第三のパルスに同期して、検出する第二の2次電子信号126が、各々別のメモリに保存される。最終的には、第一の2次電子信号125と第二の2次電子信号126による2種類の画像が形成される。
【0046】
本実施例では、
図13に示した表面形状と埋もれた構造を同時に観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。本実施例で用いた試料を
図13に示す。前記試料は、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。さらに領域Bには表面に段差形状がある。第一のパルス電子は、電子線照射下での帯電が2次電子信号にほとんど影響しない照射条件に設定する。このとき2次電子の信号は表面の形態に依存する。試料の角度変化や、エッジによって2次電子の放出量が異なるため、領域Aと領域Bで、第一の2次電子信号125に差が生じる。その後、前記実施例3と同様に、第二のパルス電子によって、帯電130を形成し、前記帯電を第三のパルス電子で検出する。このとき得られる第二の2次電子信号126は、試料の埋もれた構造を反映している。第一の2次電子信号125と第二の2次電子信号126によって、表面の形状の情報を持つ画像と、埋もれた構造を持つ画像を同時に取得することができる。
【0047】
このように本実施例を用いれば、複数の断続条件を持つ、パルス電子を異なる試料情報に分類して、画像が形成できるため、複数の試料情報を同時に可視化、分析することが可能になる。
【実施例6】
【0048】
本実施例では、同一箇所に複数の断続条件で照射し、試料情報の時間変化を可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置は、
図2と同様の構成を用いた。複数のパルス電子条件は、パルス制御部20で制御した。本実施例では、画像形成部25に複数のメモリを設置し、検出信号処理部24からの信号を、メモリ選択して書き込むことができる。本装置により、複数の画像を一度に処理できる。
【0049】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図14に示す。タイムチャート140は、ひとつのチャートで第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。第一のパルス電子141はパルス幅T
p1で照射され、第二のパルス電子142以降は、パルス幅T
p2でN回、照射される。前記パルス電子間のインターバルは、各パルス間で、インターバルT
i12、インターバルT
i23…と設定できる。
【0050】
本実施例では、
図1Aに示した埋もれた構造を観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。第一のパルス電子で表面に帯電を形成する。このとき第一のパルス電子からのインターバル時間T
i12を変化させながら、第二のパルスを照射すると、
図15に示すように、第一のパルス電子と第二のパルス電子のインターバルT
i12に応じた、2次電子の信号変化が得られる。インターバルの長さに応じて、第一のパルス電子で得られる帯電の緩和量が異なるため、第二のパルス電子で得られる2次電子信号が変化する。前記帯電の緩和量は、試料の埋もれた構造に起因し、
図15に示すように複数の時定数を持つ。前記時定数を解析することで、内部構造を解析できる。インターバル時間の依存性を各画素で取得することで、内部の三次元構造を復元できる。
【0051】
本実施例では、異なるインターバルで取得する、帯電検出用の第二から第Nまでのパルス電子を各メモリに保存し、帯電の時間分解像を取得する。当該時間分解像解析により、三次元構造を構築できる。このように本実施例を用いれば、帯電の時間分解像が取得できるため、三次元構造の解析ができる。
【実施例7】
【0052】
本実施例では、撮像条件の設定方法について述べる。装置構成は
図2と同じ構成である。本実施例における撮像条件の設定方法を示したフローチャートを
図16に示す。
【0053】
条件設定モード(ステップ160)では、2次電子信号の過渡特性から、パルス電子線の断続条件と検出条件を決定する。2次電子信号の過渡特性は、あらかじめ、過渡特性を取得したデータベースから推定する方法と、試料上のランダムな位置で、過渡特性を取得する方法がある。本実施例では、試料上のランダムな位置で、過渡特性を取得する方法を例に説明する。試料上のランダムな位置を自動または、手動で選択し、
図1Bのパルス照射中の2次電子信号変化と、
図14の2次電子信号のパルス間インターバル時間依存性を取得する(ステップ161)。
図1Bと、
図15から、2次電子の信号定常時の照射電子量と、信号緩和の時定数が解析できる(ステップ162)。ランダムな位置から得られた定常時の照射電子量と、緩和時定数を比較し、パルス照射の断続条件を決定する(ステップ163)。たとえば、定常時の照射電子量の差が緩和時定数の差よりも大きい場合、前記実施例1の単一パルスに設定することが望ましく、緩和時定数の差の方が大きい場合、前記実施例2または3に示した複数のパルス電子を照射することが望ましい。前記実施例2の複数のパルス電子を照射する場合を例に説明する。定常時の照射電子量の差から好適なパルス幅を設定し、緩和時定数の差から、好適なパルス間のインターバルおよび照射数を設定する(ステップ164)。検出条件は、必要な情報が得られる時間領域や、画像のSNを鑑みて選択する(ステップ165)。また、たとえば、前記実施例2の
図6に示すようにパルス数と2次電子信号の関係を取得して、検出条件を設定することも可能である。その後、条件設定を終了し、観察に入ることができる(ステップ166)。
【0054】
本実施例における撮像条件の設定のGUIを
図17に示す。撮像条件の設定を選択すると、操作インターフェース27のモニタに、
図17のGUIが表示される。ウィンドウ170は2次電子信号の過渡特性を取得するウィンドウで、パルス照射中の2次電子信号変化や、2次電子信号のパルス間インターバル時間依存性などの過渡特性データが表示される。ウィンドウ171は、前記2次電子信号の過渡特性の結果から解析される特性値が表示される。前記過渡特性データや、前記特性値から、ウィンドウ172でパルス断続方法が選択できる。さらに、断続条件は、ウィンドウ173で、検出条件は、ウィンドウ174により設定できる。このように本実施例を用いれば、撮像条件の設定が容易に実施できるため、画像が短時間で取得できる。
【実施例8】
【0055】
本実施例では、同一箇所に断続的なエネルギ線と、断続的な電子線で試料形態を可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置の構成を、
図18に示す。
図2の装置構成に、断続的なエネルギ線源181と、エネルギ線制御部182が付加されている。本実施例では、断続的なエネルギ源としてパルスレーザを用いた。本発明は、X線、光、赤外線などのエネルギ線を用いることができ、本実施例に限定されるものではない。
【0056】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を
図19に示す。タイムチャート190は、ひとつのチャートで、第一の断続条件と第二の断続条件を表している。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。本実施例では、異なる断続条件である第一のパルス電子と、第二のパルス電子が、同一箇所に照射される。タイムチャート191はパルスレーザの照射タイミングを示している。前記パルスレーザは、前記第一のパルス電子と第二のパルス電子間に照射される。タイムチャート192は、2次電子の検出タイミングを示しており、本実施例では、前記第二のパルス電子と同期することとした。パルスレーザによる誘電分極の応答によって、前記第一のパルスで処理された試料の帯電の緩和特性が変化する。前記緩和特性の変化は、試料の組成や、構造に依存するため、第二のパルス電子による2次電子信号は、試料の組成や構造を反映する。
【0057】
このように本実施例を用いれば、電子線照射で誘起される状態に依存した試料情報だけでない、情報が選択できるようになり、分析可能な試料情報の種類が拡大できる。
【実施例9】
【0058】
本実施例では、試料から放出された2次電子の軌道を制御した状態で、断続的な電子線を特定し、2次電子を検出するパルス電子線を用いた解析方法について述べる。
【0059】
装置の構成を、
図20に示す。
図2の装置構成に加え、試料上部に、試料からの電界を制御する電極201が設置してある。前記電極には、電圧印加部202により試料の電子線照射面付近の電界が制御できる。
図21は、電界の向きと2次電子軌道の関係を表した図である。
図21Aに示すように、試料に対し、正の電圧を電極201に印加した場合、2次電子は、試料と電極間の電界によって加速され、すべてのエネルギの2次電子が試料から放出される。2次電子の放出が、1次電子より多い場合、試料の表面は、正に帯電する。
【0060】
一方、
図21Bに示すように、試料に対し、負の電圧を電極201に印加した場合、2次電子は、試料と電極間の電界によって減衰され、一部のエネルギの2次電子は、試料に戻される。試料に戻される2次電子の量に応じて、試料は負に帯電する。
図21に示すように、電界の向きによって、試料帯電の極性を切り替えることができる。
図22は、本実施例で用いた、埋もれた界面をもつ試料の断面図である。シリコンカーバイト222に、埋もれた界面221が存在している。埋もれた界面221は、シリコンカーバイト結晶内に含まれる積層欠陥である。
図22は、前記電極201に正の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での電子放出信号(
図23A)と、前記電極201に負の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での2次電子放出信号(
図23B)である。正の電圧では、埋もれた界面の無い領域Aと、埋もれた界面が存在する領域Bで、パルス照射中の信号に差は無く、検出タイミングを調整しても、領域A、B間で、2次電子放出信号差を得ることができない。
【0061】
一方、
図23Bに示すように、負の電圧では、埋もれた界面が存在する領域Bで、2次放出電子信号は、過渡的に変化することが判る。前記領域Bの埋もれた界面である積層欠陥は、電子を捕捉しやすい性質がある。領域Aでは、電界によって戻された2次電子は、試料を介して、流れ出る。領域Bでは、戻された2次電子を捕捉し、負に帯電する。負帯電の進行に応じて、2次放出電子信号は、過渡的に変化する。パルス電子照射直後の領域A、B間の2次電子放出信号の差は、小さく、10から30msで、2次電子放出信号の差は最大となる。よって、
図3のパルス電子照射と検出のタイムチャートを用いた場合、本実施例では、10から30msの範囲で、画像化に用いる電子信号を検出することが望ましい。このように本実施例を用いれば、試料に応じて帯電による過渡特性を制御できるため、情報の選択性が高まり、高画質での試料解析が可能になる。