特許第5744980号(P5744980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5744980II−VI族化合物半導体成型体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744980
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】II−VI族化合物半導体成型体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/00 20060101AFI20150618BHJP
   C01G 9/08 20060101ALI20150618BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   B28B3/00 Z
   C01G9/08
   C23C14/34 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-156440(P2013-156440)
(22)【出願日】2013年7月29日
(62)【分割の表示】特願2009-530192(P2009-530192)の分割
【原出願日】2008年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-816(P2014-816A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2007/066994
(32)【優先日】2007年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昌大
(72)【発明者】
【氏名】吉良 章夫
(72)【発明者】
【氏名】白波瀬 雅
(72)【発明者】
【氏名】辻 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−199714(JP,A)
【文献】 特開昭63−044929(JP,A)
【文献】 特開昭63−153202(JP,A)
【文献】 特開平04−254200(JP,A)
【文献】 特公昭40−003010(JP,B1)
【文献】 特開昭59−022648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00−5/12
C01G 9/08
C01G 11/02
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)凸状の突起を有する台座と、(B)台座の凸状の突起に嵌着されて試料装填部を形成する台座補助具と、(C)台座補助具側の中心に、台座の凸状突起の断面積と等しい断面積の非貫通空洞部を有する衝撃受部材とを含んでなる衝撃ターゲットカプセルであって、(A)台座、(B)台座補助具および(C)衝撃受部材は着脱自在に構成された衝撃ターゲットカプセルに試料を装填し、衝撃波を用いて成型することを特徴とするII−VI族化合物半導体成型体の製造方法。
【請求項2】
前記衝撃ターゲットカプセルは、前記(A)台座、(B)台座補助具及び(C)衝撃受部材の外周部に嵌合する保護リングと、前記(C)衝撃受部材と当該保護リングとで保持され、衝撃ターゲットカプセルに衝撃を与えるときに発生する圧力を開放するための圧力開放口および/または圧力開放溝を備える衝撃誘導部材を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該衝撃波が15GPa以上である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該II−VI族化合物半導体が、硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物の混合物である請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記衝撃ターゲットカプセルに15GPa以上の衝撃波を与えることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
II−VI族化合物半導体成型体は、結晶子サイズが250Å以下で、相対密度が0.85以上の硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物の混合物である請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度II−VI族化合物半導体成型体及びその製造方法に関し、より詳しくは、無機EL素子形成用ターゲット材としての硫化亜鉛成型体およびその製造方法に関する。更に詳しくは、成形に衝撃波を用いるII−VI族化合物半導体の成型体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでEL素子の発光層の形成には、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法といった製膜技術が一般的に使用されてきた。そしてこれらの製膜技術によって発光層を形成する際のターゲット材となる硫化亜鉛成型体の製造方法として、硫化亜鉛粉末に発光性元素を混合した硫化亜鉛粉末をホットプレス法にて成型する方法、または冷間プレス法にて成型した後、焼成炉によって焼結させる方法などが開発されてきた。しかしながら、硫化亜鉛粉末は、結晶性が悪く、成型体の相対密度(嵩密度と理論密度との比)を高めることが難しい。例えば単純にホットプレス法で成型するだけの場合や、冷間プレスで予備成型し、単純に焼結するだけの成型方法では、得られる成型体の相対密度が60〜70%程度にしかならない。そのような相対密度の低い成型体を使用して電子ビーム蒸着などの方法で製膜する場合、硫化亜鉛成型体からガスが放出し、真空度の低下のみならず、発光層を構築できないなどの問題があった。
【0003】
そこで、硫化亜鉛と酸化ケイ素を混合し、ホットプレスすることで嵩密度を向上させる方法(特許文献1参照)や、バリウム成分を添加した硫化亜鉛粉末を用いて冷間プレスにより成型し、硫化水素ガス中で焼成成型する方法(特許文献2参照)が改良法として提案されている。更に、冷間プレスした成型体をホットプレスする方法(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、多量の酸化ケイ素を入れて成型するため、相対密度は向上するが、ケイ素が製膜時に混入する、また特許文献2においては、バリウムが混入するという問題が生じる。更に特許文献2では、硫化水素中で焼成成型するため特別な装置が必要になるという問題も生じる。また、特許文献3では、特殊な材質の装置等は必要ないが、2つの装置を使用せねばならず、工数も多く煩雑であるという問題点は解決できていない。また、ホットプレスを使用するため、熱的に不安定な物質の使用や逆に高結晶性で蒸気圧の低いものを用いた場合には、熱還元による内容物のシンタリングが起こり、不均一な成型体として得られたり、逆に成形物が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−324968号公報
【特許文献2】特開平2−59463号公報
【特許文献3】特開平5−310467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、高密度II−VI族化合物半導体成型体及びその製造方法、特に熱的に不安定な金属を含有する材料または高結晶性材料を使用した高密度II−VI族化合物半導体成型体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ね、衝撃波を用いることで、上記目的を達成することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
[1](A)凸状の突起を有する台座と、(B)台座の凸状の突起に嵌着されて試料装填部を形成する台座補助具と、(C)台座補助具側の中心に、台座の凸状突起の断面積と等しい断面積の非貫通空洞部を有する衝撃受部材とを含んでなる衝撃ターゲットカプセルであって、(A)台座、(B)台座補助具および(C)衝撃受部材は着脱自在に構成された衝撃ターゲットカプセルに試料を装填し、衝撃波を用いて成型することを特徴とするII−VI族化合物半導体成型体の製造方法。
[2]さらに、衝撃誘導部材を設けた衝撃ターゲットカプセルを使用する[1]記載の方法。
[3]該衝撃誘導部材が、衝撃を与えるときに発生する圧力を開放するための圧力開放口および/または圧力開放溝を備えた衝撃ターゲットカプセルである[2]2記載の方法。
[4]該衝撃波が15GPa以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]該II−VI族化合物半導体が、硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物の混合物である[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記衝撃ターゲットカプセルに15GPa以上の衝撃波を与えることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]II−VI族化合物半導体成型体は、結晶子サイズが250Å以下で、相対密度が0.85以上の硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物の混合物である[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成型体の製造方法によれば、高密度II−VI族化合物半導体成型体及びその製造方法、特に熱的に不安定な金属を含有する材料または高結晶性材料を使用した高密度II−VI族化合物半導体成型体及びその製造方法が提供される。その製造方法によれば、特に、嵩密度が3.5以上の高い密度を有する硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物からなる混合物の成型体を高い生産性で製造することができる。本発明の成型体の製造方法では、各部材が着脱自在に構成された新規な衝撃ターゲットカプセル内に試料を収容するので高圧力(高衝撃力)とした場合に、そのカプセルを破壊することなく成型体を取り出すことができ、高い相対密度の成型体を高い生産性で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で使用する衝撃ターゲットカプセルの一例を示す概略図である。
図2】本発明で使用する衝撃ターゲットカプセルの他の例を示す概略断面図である。
図3】台座補助具のない衝撃ターゲットカプセルの例を示す概略断面図である。
図4】本発明で使用する衝撃ターゲットカプセルの他の例を示す概略図である。
図5図4の概略断面図である。
図6図5のA−A矢視図である。
図7図5のB−B矢視図である。
図8図5のC−C、及びD−D矢視図である。
図9図8のE−E矢視図である。
【符号の説明】
【0012】
1 台座
2 凸状の突起
3 台座補助具
4 衝撃受部材
5 空洞部
6 モーメンタムトラップ
7 台座
8 衝撃受部材
9 凸状の突起
10 台座補助具
11 保護リング
12 衝撃誘導部材
13 ボルト穴
【好ましい実施形態】
【0013】
本発明で使用するII−VI族化合物半導体としては、特に制限されるものではないが、硫化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウムなどを用いることができる。これらは、II族金属化合物とVI族元素含有化合物を反応させて得られたものをそのまま使用しても構わないし、焼成などの方法で結晶化させたものを使用しても構わない。II−VI族化合物半導体としては硫化亜鉛または硫化亜鉛と他の金属硫化物の混合物が好ましい。
【0014】
他の金属硫化物との混合物を使用する場合には、他の金属の化合物をII−VI族化合物と混合し、焼成など熱的処理を行う方法、例えば、他の金属の硫化物を硫化亜鉛と直接にボールミルなどを用いて混合し、得られた混合物を焼成したものを使用しても構わない。
【0015】
他の金属としては、マンガン、銅、銀、イリジウムなどの遷移金属、アルミニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウム、ストロンチウムなどの典型金属、セリウム、プラセオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウムなどの希土類元素を使用することができる。これらの元素の混合量としては、特に制限されるものではなく、使用する元素の種類によって異なることは言うまでもないが、母体となるII−VI族化合物半導体に対して、通常、1〜500000ppm、経済性、操作性を考慮して、10〜100000ppm、より好ましくは、50〜50000ppmの範囲で混合することができる。
【0016】
本発明では、必要に応じて、結着性を高めるために、融剤を使用することができる。使用される融剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの塩化物、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩を使用することができる。使用する量としては、成形性を改善できる程度で、残留物が成型物の強度に影響を及ぼさない程度、すなわち、II−VI族化合物半導体に対して、0.1〜30重量%、より好ましくは、0.2〜20重量%の範囲で使用される。
【0017】
本発明では、衝撃ターゲットカプセルにII−VI族化合物半導体を封入し、衝撃波を照射する。使用される衝撃ターゲットカプセルとしては特に制限されるものではなく、衝撃波に耐え且つ製造されたII−VI族化合物半導体成形物の形状を維持し、取り出せるものであれば良い。衝撃波を受ける部分は、衝撃波を均一に受け、且つ、変型、破壊により成形物を損なわないために、平滑であることが肝要である。例えば、凸状の突起を有する台座と、凸状の突起に装着されて、試料充填部を形成する台座補助具と、衝撃受部材とを含むような衝撃ターゲットカプセルであれば、成形物を取り出しやすく、また、成型体の破損を防ぐこともでき、好ましい。
【0018】
本発明で使用する衝撃ターゲットカプセルの例を図によって詳細に説明する。図1は本発明で使用する衝撃ターゲットカプセルの一例の概略図であり、本質的に、(A)凸状の突起を有する台座1と、(B)凸状の突起2に隙間なく嵌着されて試料装填部を形成する台座補助具3と、(C)衝撃受部材4とから構成される。これらの形状はとくに限定されるものではないが、円形状のものが作製しやすく実用的であり、強度的にも優れているので円形状のものについて具体的に説明する。
【0019】
本発明の衝撃ターゲットカプセルにおいて、(A)凸状の突起を有する台座、(B)凸状の突起に隙間なく嵌着されて試料装填部を形成する台座補助具及び(C)衝撃受部材は着脱自在に構成される。台座の直径をD1、厚さをL1、突起の直径をD2、突起の高さをL2とした場合、実用的な一段式火薬銃または一段式ガス銃の大きさを考慮すると、通常D1は10〜200mm、L1は2〜20mm、D2は8〜160mm、L2は2〜50mm程度である。
【0020】
台座補助具は、凸状の突起に隙間なく嵌着されて試料装填部を形成するものであり、台座補助具を用いることにより、試料の僅かな成型誤差に対応してターゲットカプセルを組み立てることができる。台座補助具は台座及び衝撃受部材と同じ材質とすることが好ましい。台座補助具の直径をD3、厚さをL3とした場合、D3は9〜190mm程度であるが、D3<D1であることが好ましい。衝撃受部材は、必要に応じて空洞部5を有しており、L4は通常2〜60mm程度である(空洞部5を設ける場合、その厚みL5は通常59mm以下である)。試料を装填するためにはL3>L2であり、試料の厚みはL3−L2によって決められる。
【0021】
台座補助具の厚さL3は、飛翔体によって与えられる衝撃に耐えることができれば、特に制限されるものではないが、厚さがあまり薄すぎると、機械的強度の問題があり、また厚さがあまり厚すぎると、ターゲットカプセルの重量が著しく増加することにより操作性が低下するので、3mm〜50mmの範囲とするのが好ましく、5mm〜30mmの範囲とするのがより好ましい。
【0022】
試料の厚みは、与える衝撃力に依存するので一概には決められないが、あまり厚すぎると試料に均質に衝撃が加わらないため好ましくない。試料の厚みは、通常、衝撃波を与える飛翔体の与衝撃面の厚み程度にするのが好ましく、0.01mm〜20mmの範囲とするのが好ましい。0.02mm〜18mmの範囲がさらに好ましい。
【0023】
試料は、充填する厚みにタブレット化されて装填される。タブレットの成型方法は特に限定されないが、突起部及び台座補助具と密着して装填されるような形状に形成することが必要である。タブレットの底面積は突起部の面積と概略同じであるが、あまり大きいと衝撃波が伝わらない部分が発生し、試料の均質性が損なわれる恐れがあるため、通常は飛翔体の与衝撃面の面積と同程度か、それよりも若干小さくなるように構成するのがよく、飛翔体の与衝撃面の面積の30〜100%とするのが好ましい。40〜90%とするのがより好ましく、試料の均質性を考慮して、50〜80%とするのがさらに好ましい。
【0024】
試料は、突起部や台座補助具と密接に接触した形で装填される。例えば図1に示すように、突起2に嵌着された台座補助具3と衝撃受部材4の間に形成されるリング状の空間(厚みL3−L2)に収めて装填される。図2は台座1、台座補助具2及び衝撃受部材3から構成されたターゲットカプセルの別の例を正面から見た断面図であり、衝撃受部材3は空洞部5を有する。図2では、試料の厚みはL3−L2+L5によって決められる。
【0025】
図3は台座補助具のないターゲットカプセルの例であり、衝撃受部材4に空洞部を有する例である。この場合、試料は台座1の突起2と空洞部5の間に形成される空間部(厚みL5−L2)に装填される。
【0026】
衝撃受部材4の直径をD4、厚みをL4とした場合、D4>L4であることが好ましいが、衝撃受部材4の厚さは、あまり薄すぎると飛翔体の衝突による衝撃に耐えられない恐れがあり、またあまり厚すぎると重量の点で好ましくないので、通常、2mm〜60mmの範囲の範囲に作製される。
【0027】
空洞部を有する衝撃受部材において、厚さL4−L5は飛翔体衝撃面の材質及び厚みに依存するので一概には決められないが、この厚さをあまり厚くすると、衝撃波の拡散が起こりやすく、またあまり薄くすると、衝撃波により破壊されることにより、試料を回収できなくなることがある。衝撃受部材が飛翔体衝撃面の材質と同じ場合は飛翔体衝撃面の厚さと同じか、薄くするのがよい。このような観点から、L4−L5の厚さは飛翔体衝撃面の厚さの20%〜120%とするのが好ましく、40%〜110%とするのがより好ましい。
【0028】
衝撃受部材の材質よりも飛翔体衝撃面の材質が硬い場合は、衝撃により衝撃受部材がより破壊されやすくなるため、厚さL4−L5は飛翔体衝撃面の厚さの50%〜140%とするのが好ましく、60%〜120%とするのがより好ましい。
【0029】
衝撃受部材と台座補助具とは一体化されていても、分離されていてもよい。衝撃受部材の直径D4が、衝撃受部材の断面積が飛翔体の断面積よりも大きくなるようにすることが望ましく、飛翔体断面積の1〜3倍、好ましくは1〜2倍の範囲に設定される。
【0030】
図4は別のターゲットカプセルの例であり、左側から組立て順に解体した概略図である。図4において、6はモーメンタムトラップであり、衝撃圧縮の際に生じた運動量を周囲へ飛散させ、ターゲットカプセルの破壊を防止する役割をする。7は台座であり、8は衝撃受部材であり、図4の態様では台座7及び衝撃受部材8は同じ形状であり、一対の部材を構成している。これら一対の台座及び衝撃受部材と、各台座及び衝撃受部材に設けられた凸状の突起9に嵌着される台座補助具10とで試料装填部を形成する。組み合わされた一対の台座及び衝撃受部材と台座補助具は、さらに保護リング11で嵌合される。保護リングは、衝撃受部材が受けた衝撃により衝撃受部材が横方向に広がり、衝撃波が拡散するのを防ぐ。
【0031】
図5図4の概略断面図であり、図6及び図7は各々図5のA−A矢視図及びB−B矢視図である。図4または図5において、衝撃受部材8は直接飛翔体からの衝撃を受ける。12は衝撃誘導部材であり、火薬または火薬銃もしくは軽ガス銃で発生する衝撃波が通過するときに妨げとなるガスを逃がすためのガス開放口および/またはガス開放溝を備えるのが好ましい。図5図8図9は、衝撃誘導部材の台座側表面に8本の溝を放射状に設けるとともに、それらに平行して、衝撃誘導部材の内側を衝撃波が通過するときに妨げとなる不要なガスを内側から外へ逃がすための貫通口が放射状に設けられた例である。溝や貫通口は衝撃波を開放するために設けられるので形状、大きさにはとくに制限はない。13はボルト穴であるが、モーメンタムトラップに設けられたボルト穴は、一対の台座及び衝撃受部材と台座補助具で構成される試料装填部に試料を装填し、ボルトで緊結した際に飛び出したボルト部分を格納する役目をする。
【0032】
台座の直径、厚さ、突起の直径、突起の高さについては図1で述べたとおりであり、一対の台座及び衝撃受部材と、各台座に設けられた凸状の突起に嵌着される台座補助具とで試料装填部を形成できればとくに制限されない。図4図9は概略を示した図であり、モーメンタムトラップ及び保護リングについてもとくに制限はない。
【0033】
衝撃ターゲットカプセルの材質としては、特に限定されるものではなく、鉄、ニッケル、銅、真鍮、ステンレス、チタン、タングステンなどの材質を使用することができる。材料の加工性、経済性、衝撃波への耐久性を考慮して、鉄の使用が好ましい。
【0034】
衝撃ターゲットカプセルと充填するII−VI族化合物半導体が接触する部分では、接触による金属の混入が予想されるため、直接接触しないように、皮膜を設けることができる。使用される皮膜としては、II−VI族化合物半導体中に混入しても差し支えない金属、例えば、銅、マンガン、アルミニウムおよびその酸化物など金属箔の施用、溶射によって形成される皮膜等が使用できる。また、有機高分子による皮膜も使用できる。使用できる有機高分子としては、特に制限されるものではなく、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリフッ化物、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などである。被覆の形成方法としても、塗布、スプレー、フィルムなどの方式を使用することができる。
【0035】
本発明では、衝撃波をターゲットカプセル内のII−VI族化合物半導体に照射し、成型する。衝撃波の発生方法としては、特に限定されるものではなく、一段式火薬銃、二段式火薬銃などの火薬銃、軽ガス銃などの銃砲式を用いて飛翔体をターゲットカプセルに衝突させて、衝撃波を発生することもできるし、飛翔体上に直接火薬を設置、爆破することで飛翔体をターゲットカプセルに衝突させて、衝撃波を発生する方式を採用してもかまわない。設備の簡便さ、飛翔体の大きさによる量的生産性の観点からは、直接爆破により飛翔体をターゲットカプセルに衝突させる方式を採用することが好ましい。
【0036】
本発明で、II−VI族化合物半導体を成型するに必要な衝撃波としては、使用するII−VI族化合物半導体またはII−VI族化合物半導体を主体とする混合硫化物の種類、結晶化度等に依存するため、特に限定されるものではないが、通常、II−VI族化合物半導体の結晶転移が起こる圧力、すなわち、15GPa以上、高すぎる圧力は、結晶の破壊をもたらすため、100GPa以下、経済性、安全性を考慮して、16GPa以上80GPa以下、より好ましくは、18GPa以上、70GPa以下の圧力であればよい。
【0037】
衝撃波は、飛翔体の材質にもよるが、通常、一段式火薬銃で10〜50GPa、一段式ガス銃で0.01〜15GPa程度発生する。飛翔体の材質としては、例えば、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン、ポリアミド等の高分子材料、鉄、ニッケル、銅、真鍮、ステンレス、チタン、タングステン等の金属材料等が挙げられる。更に高分子材料の表面(衝突部分)に金属材料を張り合わせたものを使用することができる。
【0038】
本発明では、衝撃波照射後、衝撃ターゲットカプセルを解体し、充填されたII−VI族化合物半導体成型体を取り出すことによって、成型物を得ることができる。成型物は、そのまま使用しても良いし、表面を研磨して、不要物を除去して使用することもできる。
【0039】
本発明の成型体の製造方法によれば、結晶径が大きくならなくても成型することができ、得られた成型体は結晶子サイズが250Å以下で、相対密度が0.85以上である。結晶子サイズはX線回折によって求めることができる。
【0040】
本発明において、得られた成型物は、必要に応じて、加熱焼成される。この焼成によって、硫化物結晶化度が向上するが、必要以上の焼成は、成型体が分解することもあるので留意が必要である。加熱の温度は、加熱前の試料の結晶化度にもよるため特定されないことは言うまでもないが、通常500℃〜1200℃の範囲、好ましくは、600℃〜1100℃の範囲で実施する。
【0041】
焼成の時間も特に制限されるものではなく、目的に応じて変化するが、通常0.5〜10時間の範囲、装置の加熱、冷却能力を考慮して、1〜8時間の範囲で実施される。通常、焼成は、不活性雰囲気下または還元雰囲気下で実施されることは言うまでもない。方法としても、バッチ式、連続式何れの方法を採用しても構わない。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
直径110mm、厚さ30mmのモーメンタムトラップ6、直径100mm、厚さ7mmで中心部に直径40mm、高さ5mmの凸状突起9を有する一対の台座7及び衝撃受部材8、外径60mm、内径40mm、高さ10mmの円筒形の台座補助具10、外径110mm、内径100mm、高さ16mmの円筒形の保護リング11、直径100mm、厚さ33mmで、図8及び図9に示すような幅約13mm、長さ約30mmで放射状に設けられた8個の溝と、それらに平行して内側から外へ貫通する放射状に設けられた貫通口を有する衝撃誘導部材から構成される図4図9に示すような鉄製のターゲットカプセルを準備し、一対の台座及び衝撃受部材と、台座及び衝撃受部材に設けられた凸状の突起に嵌着される台座補助具とで構成される試料装填部に、X線回折によって求めた結晶子サイズ201Åの硫化亜鉛30gを2tプレスを使用して、加圧充填した(嵩密度3g/cm)。これらをボルトで締結した後、モーメンタムトラップ上に載置し、保護リング、衝撃誘導部材を順次重ね合わせ、衝撃誘導部材の最上部に、厚さ2mm、42mmφの鉄製飛翔体をステンレステープで固定して設置した。飛翔体上部に、内径40mm、厚さ3mm、高さ15mmの塩ビ製リングに、ペンスリット火薬18g(衝撃波で18GPa相当)、雷管を装着して爆破した。ペンスリット火薬の爆発により、飛翔体はターゲットカプセルに爆着した。爆破終了後、ターゲットカプセルを分解し、内部の硫化亜鉛を取り出したところ、外径40mm、高さ4.8mmの成型体が得られた。成型体の嵩密度は、3.6であり、相対密度(嵩密度と理論密度との比。理論密度として硫化亜鉛本来の密度4.0g/cmを使用した。以下の例において同じ。)は0.90、結晶子サイズは186Åであり、ターゲット材として充分な密度を有した成型体を得ることができた。
【0044】
実施例2
実施例1において、硫化亜鉛に代えて、銅1000ppmを含有するX線回折によって求めた結晶子サイズ221Åの硫化亜鉛30gを使用した以外は、実施例1と同様に行った。その結果、嵩密度3.6、相対密度0.90、結晶子サイズ196Åのターゲット材として充分な密度を有した成型体を得ることができた。
【0045】
実施例3
実施例2において、ペンスリット火薬の量を20gとした(衝撃波で20GPa相当)以外は、実施例1と同様に行った。その結果、嵩密度3.7、相対密度0.93、結晶子サイズ241Åのターゲット材として充分な密度を有した成型体を得ることができた。
【0046】
実施例4
株式会社ジー・エム・エンジニアリング製衝撃波発生装置Type20に、実施例1で使用したものと同様のサンプルを充填した同様のターゲットカプセルを装着し、ポリプロピレン製飛翔体(衝撃面鉄製2mm厚)を800m/秒で衝突させ、16.5GPaの圧力を与えた。得られた成型体の嵩密度は3.40であり、相対密度は0.85、結晶子サイズ181Åであった。
【0047】
実施例5
D1=60mm、D2=20mm、D4=60mm、L1=10mm、L2=7mm、L4=12mm、L5=10mmの図3に示すターゲットカプセルを使用する以外は実施例1と同様に実施した。爆破終了後、ターゲットカプセルを分解し、硫化亜鉛成型体を取り出した。得られた成型体の相対密度は0.86、結晶子サイズ180Åであったが、実施例1で得られた成型体と比較して成型体の外周部に脆い部分があった。
【0048】
比較例1
30mmφのグラファイトモールドに、実施例1で用いた硫化亜鉛12gを入れ、ホットプレス機に充填した。モールド内を130Paまで減圧し、10分間保持、アルゴンにて常圧に解放した。この操作を3回実施し、圧力をアルゴンガスで開放し、900℃まで1時間で昇温した。昇温後圧力を開放し、2時間で室温まで冷却した。モールドから成型体をはずし、30mmφの成型体を得た。得られた成型体の結晶子サイズは286Åであった。
【0049】
比較例2
実施例2の銅1000ppmを含有する硫化亜鉛を用いた以外は比較例1と同様に行った。得られた成型体の結晶子サイズは406Åであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9