(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キャップ層の前記層厚は、少なくとも中心視野点に対応する第1の部分開口に対応する領域の外縁に対応する動径座標までは原点の回りの中心ゾーンにおいて基本的に均一であり、該キャップ層の該層厚は、該中心領域の外側で前記第1の方向に僅かに増大し、前記第2の方向により大きく増大することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学系。
前記キャップ層の前記材料は、該キャップ層とミラー基板の間に配置された中間層の材料の各々の比吸光度よりも大きい波長λの前記放射線に対する比吸光度を有することを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の光学系。
前記キャップ層の前記材料は、シリコン及びモリブデンの少なくとも一方の比吸光度よりも大きい波長λの前記放射線に対する比吸光度を有することを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の光学系。
前記キャップ層の前記材料は、約13nmと14nmの間の波長範囲において0.013よりも大きい減衰係数kによって特徴付けられる比吸光度を有することを特徴とする請求項2から請求項9のいずれか1項に記載の光学系。
前記フィルタ層は、ルテニウム、酸化アルミニウム、炭化珪素、炭化モリブデン、炭素、窒化チタン、二酸化チタン、及びルテニウム、酸化アルミニウム、窒化チタン、又は二酸化チタンの混合物、合金、又は化合物、並びに更に別の物質から成る群から選択された材料から作られることを特徴とする請求項12、請求項13、又は請求項14に記載の光学系。
前記非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素は、条件P(M)<1が満たされる位置に光学系の瞳面から光学的に遠隔に位置決めされ、ここで、
P(M)=D(SA)/(D(SA)+D(CR))
であり、D(SA)は、それぞれの面M上への前記物体面内の視野点から発する光線束の部分開口の直径であり、D(CR)は、該面M上の光学系の基準平面で測定される光学系によって結像される有効物体視野の主光線の最大距離であることを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の光学系。
条件P(M)<0.99が、前記非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素の位置に関して成り立つことを特徴とする請求項17又は請求項18に記載の光学系。
前記非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素は、条件0.99>P(M)>0.95が満たされる位置で光学的に光学系の瞳面と視野面の間の中間領域に位置決めされることを特徴とする請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の光学系。
前記非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素は、条件0<P(M)≦0.93が満たされる視野面に光学的に近いところに位置決めされることを特徴とする請求項17から請求項20のいずれか1項に記載の光学系。
前記非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素は、条件0.98<P(M)≦1が満たされる光学系の瞳面に又はそれに光学的に近いところに位置決めされることを特徴とする請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の光学系。
ミラーの少なくとも1つには、異なる材料の層の多層スタックを含む1次元漸変コーティングとして設計された非回転対称コーティングが設けられ、該層は、該コーティングの前記第1の方向に第1の勾配関数に従って変化しかつ該第1の方向に垂直な前記第2の方向に実質的に一定である幾何学的層厚を有することを特徴とする請求項1から請求項22のいずれか1項に記載の光学系。
前記ミラーは、平均入射角が実質的に線形の関数に従って前記第1の方向に大きく変化し、かつ該平均入射角がそれと垂直な前記第2の方向に実質的に一定であるように配列かつ成形されることを特徴とする請求項23に記載の光学系。
第1の及び少なくとも1つの更に別の補正を行うための第2の非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素を含むことを特徴とする請求項1から請求項24のいずれか1項に記載の光学系。
【背景技術】
【0002】
上述の種類の光学系は、半導体デバイス及び他の種類の微小デバイスを製作するのに用いられる投影露光システムにおける投影対物系として用いることができ、フォトマスク(又はレチクル)上のパターンを感光コーティングを有する物体上に超高分解能で投影するように機能することができる。
一層微細な構造を作成することを可能にするために、投影対物系の分解力を改善する様々な手法が追求されている。投影対物系の像側開口数(NA)を高めることによって分解力を改善することができることは公知である。別の手法は、より短い波長の電磁放射線を用いることである。
【0003】
例えば、193nmにおける深紫外(DUV)リソグラフィは、0.2μm又はそれよりも小さい特徴部を得るために、一般的に、0.75又はそれよりも大きい開口数を有する投影システムを必要とする。このNAでは、焦点深度(DOF)は、十分の数マイクロメートルである。更に、製作及び組み立て公差が、そのような大きいNAを有する光学系を構築するのを困難にしている。
当業技術で公知のように、短波長紫外放射線(約193nmよりも短い)は、本質的なバルク吸収に起因して、多くの屈折レンズ材料には適合しない。光学系内の放射線吸収を低減するために、屈折光学要素の代わりに反射要素を用いることができる。多くの場合に、従来技術のDUVシステムは、屈折レンズ及び反射要素(ミラー)を含む反射屈折光学系を用いる。
【0004】
開口数を高めることによって分解能を改善することは、いくつかの欠点を有する。主な欠点は、開口数が高まる時に取得可能な焦点深度(DOF)が減少することであり、例えば、構造化される基板の最大取得可能平面度及び機械的公差から判断すると、少なくとも1マイクロメートル程度の焦点深度が望ましいとすることができるので、焦点深度(DOF)の減少は不利である。すなわち、中程度の開口数で作動し、極紫外(EUV)スペクトル領域からの短波長電磁放射線を用いることによって分解力を大幅に改善するためのシステムが開発されている。13.5nmの作動波長を用いるEUVフォトリソグラフィの場合には、NA=0.1の開口数において、1μm程度の一般的な焦点深度で0.1μm程度の分解能を理論的に得ることができる。
【0005】
極紫外スペクトル領域からの放射線は、介入する短波長における放射線が長波長では透過的な公知の光学材料によって吸収されるので、屈折光学要素を用いて合焦させることができないことは公知である。すなわち、EUVフォトリソグラフィでは、反射コーティングを有するいくつかの凹及び/又は凸湾曲ミラーを有する純粋ミラーシステム(反射光学系)が用いられる。用いられる反射コーティングは、一般的に、例えば、モリブデンとシリコンの交互層(膜)を有する多層コーティングである。
【0006】
各々が均一な厚みの層を有する反射コーティングを有する4つのミラーを有するEUVフォトリソグラフィにおける使用のための反射投影対物系が米国特許第5,973,826号に開示されている。
別のEUVフォトリソグラフィシステムは、米国特許第5,153,898号に示されている。このシステムは、少なくとも1つが非球面反射面を有する最大で5つのミラーを有する。EUVにおける使用に適する多層反射コーティングのための材料の多くの組合せが説明されている。これらの層(膜)は、全て均一な厚みを有する。
均一な厚みを有する反射コーティングは、堆積させることが比較的単純であるが、利用されるミラーの反射コーティング区域上に入射する放射線の入射角Θが変動する光学系の場合には、これらの層の厚みが、特別に選択された入射角、又は狭い入射角度範囲に対してのみ最適化されるので、通常は高い反射損失を生じる。
【0007】
US6,014,252は、光学要素の反射率を改善することによって放射線収量を改善するように構成されたEUVリソグラフィのための光学系を開示している。光学要素は、可能な限り垂直に近い放射線ビーム入射角を有するように構成されている。均一な厚みの多層を全てのミラーにおいて用いることができるように、均一な反射率を保持し、漸変コーティングの必要性を排除するために、許容入射角度範囲も同様に最小にされている。
【0008】
US5,911,858は、システム全体の光軸に関して回転対称である膜厚勾配を有することを特徴とする漸変反射コーティングを備えたミラーを有する反射EUV結像システムを開示している。漸変反射コーティングを用いることにより、ある一定の入射角度範囲にわたって反射強度のより均一な分布を得ることが可能になる。
US6,927,901は、投影対物系の光軸を定め、かつ反射コーティングを有するいくつかの結像ミラーを物体平面と像平面の間に有するEUV投影対物系を開示している。これらのミラーのうちの少なくとも1つは、投影対物系の光軸に対して離心して配置されたコーティング軸に関して回転対称である膜厚勾配を有する漸変反射コーティングを有する。少なくとも1つの離心漸変反射コーティングを設けることにより、非常に均一な視野照明を高い全体的な伝達度との組合せで可能にする投影対物系を設計することが可能になる。
【0009】
US2006/0076516A1は、EUVリソグラフィにおける光学系に有利な反射光学要素を開示している。この反射光学要素は、複数の層を有する多層構造によって形成された反射コーティングを有する。表面汚染の悪影響及び反射面の劣化を減少させるために、コーティング層システムの少なくとも1つの層がゼロに等しくない勾配を有するように、コーティング層システムの厚みの空間分布のターゲット式選択が用いられている。
US2003/0081722A1は、例えば、EUVリソグラフィのための光学系に用いられる多層ミラーから反射される放射線の波収差を補正する方法を開示している。波収差は、ミラーの多層膜の表面への1つ又はそれよりも多くの層の追加、及び/又はこの表面からの1つ又はそれよりも多くの層の除去によってそれぞれ補正される。
【0010】
半導体構成要素及び他の微細構造構成要素の製造では、基板上に結像されるマスクからのパターンは、通常、生成される構成要素の特定の層を表す線及び他の構造単位によって形成される。半導体構成要素において生成される構造は、一般的に、EUVフォトリソグラフィの場合は100nm又はそれ未満の程度とすることができる臨界寸法(CD)によって特徴付けることができる極小の金属トラック及びシリコントラック、並びに他の構造要素を含む。マスクパターンが、マスクの異なる部分上に所定の臨界寸法を有する構造特徴部を有する場合には、構造化される基板内で可能な限り正確に相対寸法を再現することが望ましい。しかし、リソグラフィ処理に係わる様々な影響により、構造化された基板内に臨界寸法の望ましくない変動(CD変動)が生じる場合があり、それによって構造化された構成要素の性能が悪影響を受ける場合がある。すなわち、一般的に、CD変動、特に露光視野にわたる横方向変動を最小にするようにリソグラフィ機器及び処理を改善することが望ましい。
【0011】
多くの用途において、パターンの線形特徴部は、異なる方向に延びている。ある一定の条件下では、リソグラフィ処理において得られるコントラストは、構造の向きに依存し、それによって一般的に水平−垂直差(H−V差)で表されるものを招き、この差が、構造化された構成要素の性能に悪影響を与える場合があることが認められている。すなわち、H−V差を最小にするようにリソグラフィ機器及び処理を改善することが望ましいとすることができる。
【0012】
フォトリソグラフィ機器又はステッパは、マスクを基板上に投影するための2つの異なる方法、すなわち、「ステップアンドリピート」法及び「ステップアンドスキャン」法を用いる。「ステップアンドリピート」法の場合には、レチクル上に存在するパターン全体を用いて基板の大きい区域が順次露光される。すなわち、「ステップアンドリピート」法に関わる投影光学系は、マスク全体を基板上に結像することを可能にするのに十分大きい像視野を有する。基板は、各露光の後に平行移動され、露光手順が繰り返される。本出願で好ましいステップアンドスキャン法の場合には、マスク上のパターンは可動スリットを通して基板上で走査され、マスクとスリットは、平行な方向に投影対物系の倍率に等しい比を有する速度で同期して平行移動される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の1つの目的は、低レベルの臨界寸法変動でパターンを結像させることができる高開口数で作動可能なEUV投影光学系を提供することである。
本発明の別の目的は、コントラストの僅かな又は低い向き依存性でパターンを結像させることができる高開口数で作動可能なEUV投影光学系を提供することである。
本発明の別の目的は、低レベルの像側テレセントリック性誤差を有する高開口数で作動可能なEUV投影光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記及び他の目的に対する解決法として、本発明は、一構成によると、物体面内の物体視野から像面内の像視野へと波長λの放射線を結像させるように配列された複数の要素を含み、要素が、放射線の経路に位置決めされた反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素を含み、ミラー要素のうちの少なくとも1つが、1つ又はそれよりも多くの位置において最良適合回転対称反射面から約λ又はそれよりも多く偏位する回転非対称反射面を有し、要素が、補正要素を持たない光学系に対して光学系の出射瞳内の空間強度分布を補正するのに有効であるアポディゼーション補正要素を含む光学系を提供する。
【0017】
本発明のこの態様による光学系は、1つ又はそれよりも多くの位置において最良適合回転対称面から約λ又はそれよりも多く偏位する回転非対称反射面を有する少なくとも1つのミラー要素を含む。本出願では、この条件に従う反射面を有する反射要素を「自由形状曲面」で表すことにする。少なくとも1つの自由形状曲面を光学系内で利用することにより、全体透過率、視野照明の均一性、及び他の品質パラメータに関して光学系を最適化する更に別の自由パラメータが与えられる。更に、自由形状曲面は、光学系の選択された反射に対して各反射面上で比較的小さい局所入射角Θ、及び/又は光線の比較的小さい入射角度範囲ΔΘ、及び/又は比較的小さい平均入射角Θ
avgのみが得られ、それによって一般的に大きい入射角に関連する問題が低減されるように成形及び位置決めすることができる。
【0018】
球面又は非球面ミラーとは異なり、自由形状ミラー面は、回転対称軸を持たない。一般的に、自由形状曲面は、最良適合回転対称面(例えば、球面又は非球面表面)から偏位する。自由形状曲面は、例えば、約λ又はそれよりも大きい最良適合球面からの最大偏位を有することができる。自由形状曲面の定義及び表現、並びにEUVリソグラフィ及び他の用途におけるこれらの使用は、本出願人の米国特許出願US2007/0058269A1から引用することができる。この特許出願の開示内容は、本明細書に引用によって組み込まれている。
【0019】
1つ又はそれよりも多くの自由形状曲面を利用することは、例えば、全体透過率に関して有利とすることができるが、回転対称性の欠如に起因して、自由形状曲面によって有意な視野依存アポディゼーション効果が引き起こされる場合があることが見出されている。本出願の場合には、「アポディゼーション」という用語は、物体面内の1つの同じ視野点から発する異なる光線を物体面と像平面の間の伝播時の光線の放射エネルギ損失を特徴付ける全体透過率の異なる値によって特徴付けることができるという事実から生じる効果を特徴付けるように意図している。ある一定の物体視野点から異なる方向に出射する異なる光線は、一般的に、光学系内の様々なミラー上に異なる位置及び/又は異なる入射角で入射し、ミラーの各々は、一般的に、ミラーにおける異なる位置の上に入射し、及び/又は異なる入射角で入射する光線に対して異なる反射率を有するので、光線の各々において有意な透過率変動が発生する場合がある。選択された像視野点(像視野内の視野点)から見ると、アポディゼーションは、光学系の出射瞳内の所定の空間強度分布によって特徴付けることができる。例えば、アポディゼーションが不在の場合には、選択された視野点に対する出射瞳内の空間強度分布は均一とすることができる。しかし、一般的に、視野点の各々に対して不均等な強度分布が出射瞳に存在する。更に、一般的に、出射瞳内の空間強度分布は、像視野点の各々に対して、像視野点の各々が、出射瞳内で異なる空間強度分布を「見る」ように変動する。本出願では、この効果を「視野依存アポディゼーション」で表している。視野依存アポディゼーションは、望ましくないCD変動に寄与する場合があることが見出されている。
【0020】
本発明の上述の態様によると、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して出射瞳内の空間強度分布の視野依存性を減少させるように具体的に設計することができるアポディゼーション補正要素が達成される。その結果、CD変動及び視野依存アポディゼーションを発生源とする他の効果に関して改善された光学系の光学性能を得ることができる。
アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して出射瞳内の空間強度分布の対称性を高めるのに有効であるように設計することができる。
【0021】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して強度分布の回転対称性を改善するのに有効であるように設計することができる。一般的に、構造の向きに伴う構造のコントラスト変動は、出射瞳内の強度分布が、出射瞳の中心に対して回転対称である場合は回避することができる。その一方、回転対称性からの強度分布の有意な偏位は、通常は水平−垂直差(H−V差)で表される構造の向きによる構造のコントラストの有意な依存性を引き起こすか又はこれに寄与する場合がある。
【0022】
出射瞳の中心又はそれに近い空間位置は、低開口光線に対応し、それに対して像空間内の最大開口角に対応する光線は、出射瞳の外縁又はそれに近い位置に対応する。これらの光線は、所定の像側開口数において得られる分解能に関して重要度が高い。特に瞳面の外縁又はそれに近い領域から発する光線に関して、出射瞳内の強度分布の回転対称性又はそこからの偏位を定めることは有利とすることができる。一部の実施形態では、I
MAXが出射瞳の縁部領域内の強度の最大値であり、I
MINが、一般的に最大強度値とは別の方位角(円周)位置で見られる出射瞳の縁部領域内の強度の最小値である場合に、出射瞳内の空間強度分布は、次式に従って出射瞳の縁部領域内の強度の正規化方位角変動を表すアポディゼーションパラメータによって特徴付けられる。
APO=(I
MAX−I
MIN)/(I
MAX+I
MlN)
このアポディゼーションパラメータは、出射瞳の外縁領域内での完全に回転対称な強度分布の場合はゼロに等しく、回転対称性からの偏位が大きくなる程大きくなることは明らかである。好ましい実施形態では、アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない光学系に対して出射瞳の縁部領域の強度の正規化方位角変動を減少させるのに有効である。例えば、上記に定めたアポディゼーションパラメータAPOは、少なくとも1%又はそれよりも大きく、又は少なくとも5%又はそれよりも大きく減少させることができる。
【0023】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して出射瞳内の強度分布の強度重心を出射瞳の中心に向けてシフトさせるのに有効であるように設計することができる。出射瞳内の強度分布の重心が出射瞳の中心から大きく外側に置かれた場合には、テレセントリック性誤差が発生する場合がある。次に、テレセントリック性誤差は、一般的に、望ましくない非合焦を有する像位置のシフトを引き起こす場合がある。像側テレセントリック性誤差に関連する問題は、出射瞳内の強度分布の重心が、出射瞳の中心にあるか、又はそれに近い場合は回避するか又は最小にすることができる。
【0024】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して出射瞳内の強度分布の子午平面に対する鏡面対称性を高めるのに有効であるように設計することができる。
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、アポディゼーション補正要素を持たない同じ光学系と比較して視野依存アポディゼーションを低減するのに有効であるように設計することができる。一般的に、瞳アポディゼーションが全ての視野点に対して基本的に同じである場合には(視野一定瞳アポディゼーション)、テレセントリック性誤差及び向き依存のコントラストのような対応する収差は、全ての視野点に対して基本的に同じになる。これらの場合には、これらの収差の補償は、光学系における修正によって行うことができる。例えば、テレセントリック性誤差が全ての視野点に対して基本的に同じである場合には、そのような誤差は、物体視野上に入射する照明放射線を傾斜させることによって補償することができる。一方、アポディゼーションが視野にわたって大きく変動する場合には、有意な量のCD変動が起こる場合があり、この変動は、補償することが困難であると考えられる。
【0025】
一部の実施形態では、鏡面対称性に関する及び/又は強度重心の位置に関する改善を出射瞳内の強度分布の回転対称性を改善するのと同時に達成することができることが見出されている。
アポディゼーション補正要素は、ミラー要素に加えて設けられたフィルタ要素とすることができ、フィルタ要素の利用区域にわたって空間的に変動する透過率分布を有する。フィルタ要素は、作動波長λにおいて有意な吸収を有する吸収性材料から成る少なくとも1つの層を含むことができる。この層は、透過率及び/又は反射率の空間変動が得られるように、利用区域にわたって変動する幾何学的厚みを有することができる。
【0026】
アポディゼーション補正要素は、異なる材料から成る多層スタックを含む非回転対称漸変コーティングとして設計された反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素であり、これらの層のうちの少なくとも1つは、コーティングの第1の方向に第1の勾配関数に従って、かつ第1の方向に対して垂直な第2の方向に第1の勾配関数とは異なる第2の勾配関数に従って変化する幾何学的層厚を有する。
【0027】
本出願では、反射面にわたって回転非対称反射率を生じる非回転対称漸変反射コーティングを「自由形状コーティング」とも表している。
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、異なる材料から成る多層スタックを含む反射コーティングによって形成された反射面を有するミラー要素であり、これらの層は、ミラー基板から離れる方向に向く放射線入射側のキャップ層を含み、キャップ層は、反射面にわたって回転非対称勾配関数に従って変化する幾何学的層厚を有する。
【0028】
一般的に、極紫外波長範囲内でミラーとして用いられるもののような多層システムは、空気中での保存中に及び長時間の作動において汚染又は酸化を受ける。そのような多層システムには、これらの多層システムの反射率の寿命及び不変性を改善するために、その放射線入射側に保護層を設けることは公知である。本明細書に用いる「キャップ層」という用語は、1つ又は複数のそのような保護層を指すことができる。キャップ層は、ルテニウム、酸化アルミニウム、炭化珪素、炭化モリブデン、炭素、窒化チタン、又は二酸化チタンから作ることができる。代替的に、キャップ層を形成するのに、ルテニウム、酸化アルミニウム、窒化チタン、又は二酸化チタンの混合物、合金、又は化合物、並びに更に別の物質を用いることができる。保護キャップ層を有する多層システム及びその生成法の例は、US6,656,575B2に開示されており、この文献は、本明細書に引用によって組み込まれている。
例えば、キャップ層の幾何学的層厚は、コーティングの第1の方向に第1の勾配関数に従って、かつ第1の方向に対して垂直な第2の方向に第1の勾配関数とは異なる第2の勾配関数に従って変えることができる。
【0029】
一部の実施形態では、キャップ層の幾何学的層厚は、キャップ層の中心領域内にある原点から第1の方向にミラーの縁部に向けて若干増大し、第2の方向では原点と縁部領域の間の増大量は有意に大きい。キャップ層の材料の強度フィルタリング効果を考慮すると、第2の方向の外縁の近くで強い吸収効果を得ることができ、第1の方向の外縁では有意に弱い吸収しか起きないことを達成することができる。
【0030】
一部の実施形態では、キャップ層の層厚は、少なくとも、中心視野点に対応する第1の部分開口に対応する領域の外縁に対応する動径座標に至るまでの原点の回りの中心ゾーン内では基本的に均一であり、中心領域の外側では、第1の方向に若干増大し、第2の方向に大幅に増大する。キャップ層の層厚の空間分布が、ほぼ本教示に従って設計された場合には、アポディゼーション補正要素は、物体視野の中心から発する光線に対しては僅かしか又は全くアポディゼーション変更効果を持たず、それに対して物体視野の縁部又はそれに近い領域から発する光線に対しては、ターゲット方式でアポディゼーションを変更することができ、それによってアポディゼーションの視野依存性を低減することができる。
【0031】
一部の実施形態では、反射コーティングは、キャップ層とミラー基板の間に配列された複数の中間層を含み、複数の中間層の各々は、均一な層厚を有する。中間層は、例えば、モリブデン−シリコン二重層スタックを含むことができる。
キャップ層の幾何学的厚みしか変更されない場合には、多層スタックにおける他の層の幾何学的厚みが空間的に変更されることになる場合に導入されると考えられる実質的にいかなる付加的な干渉効果も発生しない。すなわち、キャップ層の幾何学的厚みの変動に対処するための位相補正は、比較的単純なものとすることができる。
【0032】
一部の実施形態では、キャップ層の材料は、波長λの放射線に対する有意な吸収度、及び用いられる波長に対して1又はそれに近い対応する屈折率を有する。これらの条件の下では、キャップ層は、反射放射線の位相に対して僅かしか又はほぼ全く影響を持たず、それによって結像誤差の補正が容易になる。
一部の実施形態では、キャップ層の材料は、波長λの放射線に対して、中間層の材料の各々の比吸光度よりも大きい吸収度を有する。キャップ層の材料の吸収度は、シリコンの吸収度及び/又はモリブデンの吸収度よりも大きいとすることができる。吸収度差は、例えば、10%又はそれよりも大きい(又は20%又はそれよりも大きく、30%又はそれよりも大きく、又は50%又はそれよりも大きい)とすることができる。
【0033】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、異なる材料の層から成る多層スタックを含む反射コーティングによって形成された反射面を有し、これらの層は、二重層のスタックを形成し、二重層は、第1の屈折率を有する第1の材料、例えば、Siから成る(比較的厚い)層と、第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する第2の材料、例えば、Moから成る(比較的薄い)第2の層とを含み、少なくとも1つの二重層の第1の層の幾何学的厚みと第2の層の幾何学的厚みの間の厚み比は、コーティングの第1の方向に第1の勾配関数に従って変化し、第1の方向に対して垂直な第2の方向に第1の勾配関数とは異なる第2の勾配関数に従って変化する。
【0034】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、キャップ層の放射線入射側の層上に配置された少なくとも1つのフィルタ層を含み、このフィルタ層は、波長λの放射線に対して吸収を行うフィルタ層材料から作られ、空間的に変動する幾何学的厚みを有する。フィルタ層の下のキャップ層を含む層システムは、従来の処理で形成することができ、フィルタ層は、フィルタ層を持たない光学設計に対して評価されたデータに基づいて別々の製造段階において付加することができる。それによって処理の信頼性を維持することができる。
フィルタ層材料は、波長λに対してキャップ層の材料よりも大きい比吸光度を有することができる。この場合、フィルタ層の幾何学的厚みの小さい変更は、アポディゼーション補正要素の反射率の同じ変更度を得るのに十分なものとすることができる。
【0035】
代替的に、フィルタ層材料は、波長λに対してキャップ層の材料よりも小さい比吸光度を有することができる。この場合には、フィルタ層の絶対層厚は、比較的厚いものとすることができ、フィルタ層の幾何学的層厚の適切な変動により、フィルタ層にわたる全体的な吸収効果の望ましい変動を高精度で得ることができる。比較的厚いフィルタ層が用いられる場合には、反射放射線の位相に対するフィルタ層の悪影響を回避するために、1又はそれに近い屈折率を有する材料を用いることが望ましい。
代替的に、フィルタ層材料は、波長λにおいてキャップ層の材料と基本的に同じ比吸光度を有することができる。フィルタ層は、キャップ層材料から作ることができ、それによって空間的に変動する幾何学的層厚を有するキャップ層を形成することが可能になる。
【0036】
フィルタ層は、ルテニウム、酸化アルミニウム、炭化珪素、炭化モリブデン、炭素、窒化チタン、又は二酸化チタンから作ることができ、又はフィルタ層材料は、ルテニウム、酸化アルミニウム、窒化チタン、又は二酸化チタンの混合物、合金、又は化合物、並びに更に別の物質とすることができる。
アポディゼーション補正要素は、物体面と像平面の間の放射線ビーム経路に沿って様々な位置に位置決めすることができる。
【0037】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、光学系の瞳面から光学的に遠隔に位置決めされる。アポディゼーション要素が瞳面から十分遠隔の位置に配置された場合には、アポディゼーションの視野依存変動を補正又は低減することができるように、一般的に、異なる視野点に互いに別々に影響を及ぼすことができる。アポディゼーション補正要素は、P(M)<1が満たされる位置に位置決めされ、ここで、以下の通りである。
P(M)=D(SA)/(D(SA)+D(CR))
ここで、D(SA)は、物体面内の視野点から発する光線束のそれぞれの面M上での部分開口の直径であり、D(CR)は、光学系によって面M上に結像される有効物体視野の主光線の光学系の基準平面内で測定された最大距離であり、この式が成り立つ場合に、基準平面は、光学系の対称平面とすることができる。子午平面を有するシステムでは、基準平面は子午平面とすることができる。部分開口の直径は、視野面でゼロに近づくので、視野面内では、パラメータP(M)=0である。それとは対照的に、主光線の最大距離D(CR)は、瞳面内でゼロに近づく。すなわち、厳密に瞳面内にある位置では、条件P(M)=1が満たされる。一部の実施形態では、瞳面から光学的に遠隔の位置では、条件P(M)<0.99が成り立つ。
【0038】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、光学的に、光学系の瞳面と視野面の間の中間領域に位置決めされる。これらの実施形態では、アポディゼーションの視野依存変動に影響を及ぼすことが望ましい場合には、アポディゼーション補正要素は、瞳面、又は例えば中間像のような視野面のいずれにも厳密に配置されず、瞳面及び視野面の両方から十分に遠隔の位置に配置される。厳密に瞳面に配置されたアポディゼーション補正要素は、異なる視野点に互いに別々に影響を及ぼすことができない。一方、アポディゼーション補正要素が、視野面又はそれに近接して配置された場合には、瞳面内の空間強度分布に有意な影響を及ぼすことができない。
【0039】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、条件0.99>P(M)>0.95が満たされる位置に位置決めされる。この条件の下では、アポディゼーション補正要素は、瞳面又は視野面のいずれにも近接しない。すなわち、異なる視野点から発する光線束の部分開口は、アポディゼーション補正要素の位置で完全には重ね合わされず、それによってアポディゼーション補正要素が、異なる視野点に関するアポディゼーションに別々に影響を及ぼすことが可能になる。更に、アポディゼーション補正要素は、視野面から十分に遠隔にあり、すなわち、アポディゼーション補正要素上のある一定の位置における反射率変動が、出射瞳の異なる位置に対して異なる影響を有することになり、それによって出射瞳内の空間強度分布を変更することができる。
一般的に、アポディゼーション補正要素の適切な位置は、瞳アポディゼーションの視野依存性が有意であるか否か、又は瞳アポディゼーションのある一定の視野依存度を満足できるか否かに依存して選択することができる。
【0040】
一部の実施形態では、アポディゼーション補正要素は、物体面、像面、又は任意的な中間像面のような視野面に光学的に近い例えば0<P(M)≦0.93であるところに位置決めされる。アポディゼーション補正要素が視野面又はそれに光学的に近く位置決めされた場合には、視野にわたる臨界寸法変動(CD変動)を補正することができ、及び/又は視野均一性を改善し、すなわち、像視野内でより均一な強度分布を得ることができる。
【0041】
例えば、瞳アポディゼーションの視野依存性が僅かしか又は実質的に全く存在しない場合には、アポディゼーション補正要素は、光学系の瞳面又はそれに光学的に近く、例えば、0.98<P(M)≦1であるところに位置決めすることができる。アポディゼーション補正要素が、瞳面又はそれに近接して位置決めされた場合には、テレセントリック性誤差及び/又は構造の向きに依存するコントラスト変動(H−V差)への視野一定寄与を補正することができる。
以上の及び他の性質は、特許請求の範囲だけではなく、本明細書及び図面においても見ることができ、個々の特性は、本発明及び他の分野の実施形態として単独又は部分結合のいずれかで用いることができ、有利かつ特許性を有する実施形態を個々に表すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ここで、マイクロリソグラフィツール、例えば、半導体デバイスを製造するための投影露光装置において用いることができる反射投影対物系を例示的に用いて、本発明の実施形態の特定的な態様をより詳細に説明する。
図1を参照すると、一般的に、マイクロリソグラフィツール100は、光源110,照明系120,投影対物系101,及び台130を含む。参照のために直交座標系を示している。光源110は、波長λの放射線を生成し、この放射線のビーム112を照明系120へと誘導する。照明系120は、放射線と相互影響し(例えば、拡大及び均一化)、放射線のビーム122を物体平面103に位置決めされたレチクル140へと誘導する。投影対物系101は、レチクル140から反射された放射線142を像平面102に位置決めされた基板150の面上に結像する。投影対物系101の像側の放射線を光線152として示している。
図1に示しているように、光線は単に例示的であり、例えば、レチクル140に対する放射線の経路を正確に示すことを意図していない。基板150は、台130によって支持され、台130は、投影対物系101が、基板150の異なる部分にレチクル140を結像させるように、投影対物系101に対して基板150を移動する。
【0044】
投影対物系101は、基準軸105を含む。投影対物系が子午断面に関して対称な実施形態では、基準軸105は、物体平面103に対して垂直であり、子午断面内で延びている。
光源110は、ツール100の望ましい作動波長λの放射線を供給するように選択される。一般的に、リソグラフィツールにおける作動に向けて設計された投影対物系では、波長λは、電磁スペクトルの紫外部分、深紫外部分、又は極紫外部分内にある。例えば、λは、約200nm又はそれ未満とすることができ、約2nmよりも長いとすることができる。この実施形態では、光源110は、作動波長約λ=13.5nmで放射線を供給するEUV光源である。
【0045】
照明系120は、均一な強度分布を有する平行な放射線ビームを形成するように配置される。一般的に、照明系120は、ビーム122をレチクル140に誘導するビーム誘導光学系も含む。一部の実施形態では、照明系120は、放射線ビームに望ましい偏光分布を与える構成要素も含む。
像平面103は、物体平面102から、投影対物系101の縦方向寸法又はトラック長とも呼ぶ距離Lだけ分離される。一般的に、この距離は、投影対物系101の特定の設計、及びツール100の作動波長に依存する。一部の実施形態では、EUVリソグラフィに向けて設計されたツール等では、Lは、約1mから約3mの範囲にある。
【0046】
図2に示しているように、光線152は、像平面102にレチクル像を形成する光路の円錐を形成する。光線の円錐角は、投影対物系101の像側開口数(NA)に関連する。像側NAは、n
Oが、基板150の面に隣接する媒体(例えば、空気、窒素、水、又は他の液浸液)の屈折率を表し、θ
maxが、投影対物系101からの像形成光線の最大円錐半角である場合に、NA=n
Osinθ
maxで表すことができる。
【0047】
一般的に、投影対物系101は、約0.1又はそれよりも大きく、例えば、約0.15又はそれよりも大きく、約0.2又はそれよりも大きく、約0.25又はそれよりも大きく、約0.3又はそれよりも大きく、約0.35又はそれよりも大きい像側NAを有することができる。一般的に、瞳アポディゼーションに関連する問題は、像側開口数が大きくなる程、補償することが困難になると考えられる。
【0048】
投影対物系101内のミラーの個数は、様々とすることができる。一般的に、ミラー個数は、望ましい収量(例えば、像平面102内に像を形成する物体からの放射線の強度)、望ましい像側NA、及びそれに関連する像分解能、並びに望ましい最大瞳掩蔽(瞳掩蔽を有するシステムにおいてのみ)のような対物系の光学性能特性に関連する様々な性能のトレードオフに関連する。
一般的に、EUV用途における実施形態は、少なくとも3つ、又は少なくとも4つのミラーを有する。一部の場合には、厳密に6つのミラーが好ましいとすることができる。一般的に、6つを上回らない、7つを上回らない、8つを上回らないミラーが用いられる。対物系の全てのミラーが物体平面と像平面の間に位置決めされるのが望ましい実施形態では、一般的に、対物系101は、偶数個のミラーを有することになる。ある一定の実施形態では、投影対物系の全てのミラーは、物体平面と像平面の間に位置決めされる場合に奇数個のミラーを用いることができる。例えば、1つ又はそれよりも多くのミラーが比較的大きい角度で傾斜される場合には、投影対物系の全てのミラーは、物体平面と像平面の間に位置決めされる場合に、投影対物系は奇数個のミラーを含むことができる。
【0049】
投影対物系101内のミラーのうちの少なくとも1つは、自由形状曲面を有する。球面又は非球面ミラーとは異なり、自由形状ミラー面は、回転対称軸を持たない。一般的に、自由形状曲面は、最良適合回転対称面(例えば、球面又は非球面表面)から偏位する。
最良適合面は、最初にミラー面の表面積を計算し、次に、球面又は非球面表面であるこの面に対する最良適合を最小二乗当て嵌めアルゴリズムを用いて判断することによって計算される。最良適合球面又は非球面表面は、基準軸に対して傾斜又は偏心することができ、偏心及び傾斜は、付加的な当て嵌めパラメータとして用いられる。自由形状曲面は、例えば、最良適合球面から約λ又はそれよりも大きい最大偏位を有することができる。自由形状曲面のより一般的な説明及び自由形状曲面を特徴付ける特徴は、US2007/0058269A1として公開された本出願人の米国特許出願から引用することができ、本出願は、引用によって本明細書に組み込まれている。
【0050】
ある一定の実施形態では、自由形状ミラー面は、次式によって数学的に表すことができる。
【0054】
更に、Zは、Z軸(投影対物系101におけるz軸に対して平行であってもなくてもよい)に対して平行な面のサグであり、cは、頂点の曲率に対応する定数であり、kは、円錐定数であり、Cjは、単項式X
mの係数である。パラメータαは、和において考慮される項の次数を示す整数である。値α=66は、例えば、10次を含む和に対応する。一般的に、c、k、及びC
jの値は、投影対物系101に対するミラーの望ましい光学特性に基づいて判断される。更に、単項式m+nの次数は、必要に応じて変更することができる。一般的に、高次の単項式は、投影対物系設計に高レベルの収差補正を与えることができるが、高次の単項式は、一般的に、判断するのに計算の負荷が大きい。一部の実施形態では、m+nは、10又はそれよりも大きい(例えば、15又はそれよりも大きく、20又はそれよりも大きい)。
自由形状ミラー方程式に対するパラメータは、市販の光学設計ソフトウエアを用いて判断することができる。一部の実施形態では、m+nは、10よりも小さい(例えば、9又はそれ未満、8又はそれ未満、7又はそれ未満、6又はそれ未満、5又はそれ未満、4又はそれ未満、3又はそれ未満)。
【0055】
6つのミラーを含む基準投影対物系を
図3に示す。特に、投影対物系300は、6つの自由形状ミラー310,320,330,340,350,及び360を含む。投影対物系300に関するデータを表3及び3Aに提供している。表3は、光学データを提供しており、それに対して表3Aは、ミラー面の各々に関する自由形状定数を提供している。表3及び表3Aを利用するのに、ミラー名は以下の通りに相関する。ミラー1(M1)は、ミラー310に対応し、ミラー2(M2)は、ミラー320に対応し、ミラー3(M3)は、ミラー330に対応し、ミラー4(M4)は、ミラー340に対応し、ミラー5(M5)は、ミラー350に対応し、ミラー6(M6)は、ミラー360に対応する。表3及びその後の表の「厚み」は、放射線経路において隣接する要素間の距離を意味する。自由形状ミラーにおける単項式の係数Cjをミラーが初期の投影対物系設計から偏心及び回転された量と共に表3Aに提供している。曲率半径Rは、頂点の曲率cの逆数である。偏心は、mmで提供し、回転は、度で提供している。単項式の係数における単位はmm
-j+1である。Nradiusは、無次元のスケール因子である(例えば、「Optical Research Associates」による「CODE V(登録商標)」のマニュアルを参照されたい)。
【0059】
図3では、投影対物系300を子午断面に示す。子午平面は、投影対物系300における対称平面である。子午平面に関する対称性は、ミラーがy軸に対してのみ偏心され、x軸回りに傾斜されることによる。更に、x座標に奇数の次数(例えば、x、x
3,x
5等)を有する自由形状ミラーに関する係数はゼロである。
投影対物系300は、13.5nmの放射線での作動に向けて構成され、0.35という像側NA、及び1,490mmのトラック長Lを有する。結像される放射線の光路長は4,758mmである。すなわち、トラック長に対する光路長の比は、ほぼ3.19である。投影対物系は、4×の縮小率、2nmよりも小さい最大歪曲、0.030λの波面誤差WRMS、及び30nmの視野曲率を有する。投影対物系300の更に別の特性を以下に続く投影対物系101の解説において提供する。
【0060】
物体平面103からの放射線経路における第1のミラーである凹ミラー310は、正の屈折力を有する。ミラー330,340,及び360も凹Pミラーである。凸ミラー320及び350は、(N)負の屈折力を有する。すなわち、投影対物系300内の放射線経路におけるミラーの順序は、PNPPNPである。
投影対物系300におけるミラーでは、最良適合球面からの自由形状曲面の最大偏位は、各ミラーにおいて1マイクロメートルよりも有意に大きい。
【0061】
投影対物系300は、物体平面103からの放射線をミラー360の近くの位置305にある中間像へと結像する。1つ又はそれよりも多くの中間像を有する実施形態は、2つ又はそれよりも多くの瞳平面も含む。一部の実施形態では、これらの瞳平面のうちの少なくとも1つは、開口絞りを実質的に瞳平面に配置するために物理的に接近させることができる。開口絞りは、投影対物系の開口の大きさを定めるのに用いられる。
【0062】
投影対物系100内の各ミラーは、視野面又は瞳面それぞれからの近接性又は距離に関して放射線の経路に沿ったミラーの位置を定めるパラメータによって特徴付けることができる。投影対物系の3つのミラーM1,M2,M3を示している概略的な
図4を参照されたい。物体面OS内の視野点FP1を考える。物体側開口数に比例する開口角を有する光線束RB1(放射線円錐)は、物体視野点FP1で発する。物体面(視野面に対応する)からの光学距離が増大する時に、そのような光線束の直径は増大する。光線束が光学面上に入射するところでは、光線束は、光円錐によって照明される光学面上の区域をx−y平面上に投影したものである光線束の「部分開口」によって特徴付けることができる。物体面内で横方向にオフセットされた異なる視野点FP1及びFP2の部分開口は、視野面に近い領域内では横方向に分離され、それに対して瞳面内では異なる視野点の部分開口が完全に重ね合わされる。視野面内では、部分開口の直径D(SA)はゼロであり、それに対して瞳面内では、異なる視野点に対応する部分開口の直径は、実質的に等しく、部分開口は完全に重ね合わされる。
【0063】
ここで、
図4に示している物体面内の有効物体視野OFの子午断面を考える。有効物体視野は、結像処理において実際に用いられる複数の視野点を含む。例えば、走査システムでは、有効物体視野は、幅(x方向)と高さ(走査方向、すなわち、y方向に測定されたもの)の間に高いアスペクト比を有する矩形又は弓形とすることができる。子午平面内の有効物体視野の直径は、物体面内の主光線の最大距離D(CR)に対応する。
図4では、視野点FP1及びFP2に対応する主光線CR1及びCR2を破線で示している(物体側で基本的にテレセントリックである光学系では、主光線は、名目上は物体平面に対して直交する)。主光線が光学系を通じて伝播する時に、主光線間の距離D(CR)は、視野面とその後の瞳面との間で徐々に低減する。瞳面PSの光学位置は、主光線CR1とCR2が交差する位置として定めることができる。すなわち、主光線間の距離D(CR)は、瞳面の近くでゼロに接近し、瞳面では、条件D(CR)=0が満たされる。これらの考察に基づくと、視野面又は瞳面からの光学面Mの光学近接性又は距離を特徴付ける上で、次式のパラメータP(M)を定めることができる。
P(M):=D(SA)/(D(SA)+D(CR))
特に、光学面が厳密に視野面に位置決めされる場合には、D(SA)=0であり、すなわち、P(M)=0である。その一方、光学面Mが厳密に瞳面内にある場合には、D(CR)=0であり、すなわち、P(M)=1である。
【0064】
表3Bには、投影対物系300内のミラーの各々に対してパラメータD(SA)及びP(M)を提供している。
【0066】
図3の実施形態では、ミラー350(M5、像平面に幾何学的に最も近い、P(M)=0.983)は、瞳面に光学的に近い。物体面に幾何学的に最も近いミラー320(M2)(P(M)=0.989を有する)及びミラー360(M6)(P(M)=0.992を有する)もまた、瞳面に光学的に近い。それとは対照的に、ミラー310(M1)、330(M3)、及び340(M4)(全てP(M)<0.93を有する)は、視野面に光学的により近い。
【0067】
瞳アポディゼーションのある一定の視野変動量を補正することが望ましい場合には、異なる視野点から発する光線束の部分開口が、アポディゼーション補正要素の位置で完全に重ね合わないように、アポディゼーション補正要素を厳密に瞳位置(P(M)=1であるところ)ではなく、P(M)<1である瞳位置からある一定の距離のところに配置することができる。ミラー1から6のうちのいずれも、厳密に瞳面に配置されないので、アポディゼーション補正要素は、ミラー1から6の各々の上に形成することができる。必要に応じて、ミラーのうちの2つ又はそれよりも多くは、組合せで望ましいアポディゼーション補正効果を引き起こすように設計することができる。
【0068】
一般的に、ミラーによって反射されるλの放射線の百分率は、ミラー面上への放射線の入射角の関数として変動する。結像される放射線は、反射投影対物系を通じて多くの異なる経路に沿って伝播するので、各ミラー上での放射線の入射角は変動する場合がある。凹反射面501を含むミラー500の一部分を子午断面内に示している
図5を参照してこの効果を示す。結像放射線は、光線510,520,及び530によって示している経路を含むいくつかの異なる経路に沿って面501上に入射する。光線510,520,及び530は、面501の表面法線が異なる部分の上に入射する。これらの部分において510,520,及び530それぞれに応じる表面法線の方向を線511,521,及び531で示している。光線510,520,及び530は、それぞれθ
510,θ
520,及びθ
530で面501上に入射する。一般的に、角θ
510,θ
520,及びθ
530は、異なるとすることができる。
【0069】
投影対物系101内の各ミラーでは、結像放射線の入射角を様々な手法で特徴付けることができる。
1つの特徴付けは、投影対物系100の子午断面内を延びる光線のミラー上への最大入射角θ
maxである。別の特徴付けは、投影対物系100の子午断面内を延びる光線のミラー上への最小入射角θ
minである。
投影対物系100内の各ミラーは、θ
maxとθ
minの間の差に対応する投影対物系の子午断面内の光線の入射角の最大差Δθによって特徴付けることができる。
投影対物系100内の各ミラーは、投影対物系の中心視野点に対応する主光線のそれぞれのミラー上への入射角によって特徴付けることができる。この入射角を主光線入射角θ
CRで表すことにする。
表3Cは、投影対物系300の全てのミラーに対して上述の値を要約している。
【0071】
この実施形態は、いかなる回転対称性も持たないいくつかの反射自由形状曲面を含む。像視野にわたってアポディゼーションの有意な変動が存在することが見出される。アポディゼーション特性を
図6及び
図7に明示している。
図6及び
図7は、2つの異なる像視野点FP1,FP2に関する投影対物系の円形出射瞳内の空間強度分布の略プロット図を示している。
図6は、投影対物系の対称軸であるy軸上の矩形像視野IFの中心に位置する視野点FP1に関する分布をプロットしており、
図7は、矩形像視野の縁部にある視野点FP2に関する分布をプロットしている。異なる等高線に付随する数字は、それぞれの瞳の位置における強度レベルを投影対物系の入射口における(物体面における)強度の分率として表している。
【0072】
中心視野点FP1に対応する瞳分布は、出射瞳の下側部分における最大値0.092の比較的弱いアポディゼーション、及び上縁に向けて約0.082の最小値まで低減する強度を提供する。強度分布は、投影対物系の対称平面を形成する子午平面に対して基本的に鏡面対称である。一方、縁部視野点FP2に対応する瞳アポディゼーションの量は有意に大きく、瞳中心に近いところでの約0.088から瞳の左縁部に向けてこの左縁部における0.060までの範囲に及ぶ。更に、強度分布は対称ではない。
図6と
図7との比較により、矩形視野の走査方向(y方向)に対して垂直に配向された交差走査方向(x方向)において、視野にわたる瞳アポディゼーションの比較的大きい変動が示されている。
結像の観点からは、瞳面における対称な強度分布が望ましい。例えば、出射瞳内の強度分布が基本的に回転対称である場合には、構造の向きに依存するコントラスト差(H−V差)を回避することができる。
【0073】
出射瞳内の強度分布の対称性レベルは、様々な手法で表すことができる。例えば、空間強度分布は、極座標(r、φ)を用いて表すことができる単位円における完全な正規直交関数系を形成するゼルニケ多項式{Z
n(r、φ)}を用いて表すことができる。ゼルニケ多項式は、回転対称多項式と非回転対称多項式とに再分割することができる。すなわち、円形出射瞳内の完全な回転対称性からの偏位は、非回転ゼルニケ多項式の二乗平均平方根(rms)値を用いて表すことができ、これらの多項式は、完全に回転対称な分布ではゼロであり、回転対称性が望ましい場合は可能な限り小さいものでなければならない。この点から、回転対称性を高めるのに有効なアポディゼーション補正要素を有する実施形態は、光学系内にアポディゼーション補正要素が導入された時に、非回転対称ゼルニケ多項式のrms値が低減するという事実によって識別することができる。
【0074】
出射瞳の回転対称性(又はそこからの偏位)を表し、定量化する別の方式は、出射瞳の外縁(最大開口光線に対応する)における方位角(円周)方向の局所強度分布を考えることである。出射瞳の外縁又はそれに近い瞳座標は、最大開口角で像平面上に入射する光線に対応する。一般的に、これらの光線は、用いられる像側開口数における光学系の分解能限界を定める。出射瞳の局所強度が、出射瞳の外縁又はそれに近い全ての位置においてほぼ同じである場合には、これらの光線は、同等の強度で像形成に寄与することになる。一方、出射瞳の外縁における強度が円周(方位角)方向に大きく異なる場合には、臨界寸法の有意な変動が発生する場合がある。出射瞳の縁部領域内の強度の方位角方向の正規化方位角変動を次式に従って特徴付けるアポディゼーションパラメータAPOを定めることができる。
APO=(I
MAX−I
MIN)/(I
MAX+I
MlN)
【0075】
この式では、I
MAXは、出射瞳の外縁領域内の最大強度であり、I
MINは、この外縁領域内の最小強度値であり、すなわち、アポディゼーションパラメータAPOの非ゼロ値は、出射瞳の外縁領域から発する重要な光線に関する完全な回転対称性からの偏位を示している。
図7に示している縁部視野点FP2に対応する空間強度分布は、最も左の縁部(x方向に)における最小値I
MIN=0.47,及び出射瞳の右下の縁部における最大値I
MAX=0.90、すなわち、APO=0.314によって表すことができる(
図7及び他の対応する図における等高線は、強度分布を準定量的に示し、それに対して上記に提供した解析は、この光学系に対して計算された実際の値に対して行ったものであることに注意されたい)。下記では、適切なアポディゼーション補正要素を設けることにより、特に出射瞳の外縁において回転対称性の改善を得ることができることを明らかにする。
【0076】
反射ミラーの各々の瞳アポディゼーションへの寄与の解析は、視野依存アポディゼーションへの比較的大きい寄与が、像平面に幾何学的に近く、瞳面に光学的に近いミラー350(M5)から発することを示している。上述の表3Cから、主光線入射角θ
CRに加えて、子午断面内の入射角θ
max及び子午断面内の光線の最大差Δθが、ミラー350(ミラーM5)において相対的最高値を有することが分る。
【0077】
ミラー350(M5)は、瞳面に相対的に近く置かれる(P(M)=0.983)。ミラーM5は、相対的に大きい入射角変動を受ける。これを
図3のミラーM5上の平均入射角θ
avgの空間分布に関する概略図を示している
図8に定性的に示す。この図では、利用されるミラー面のほぼ楕円形の形状を同じ平均入射角を有する位置を結ぶ等高線と共に示しており、各等高線に対して平均入射角を示している。平均入射角の分布が子午平面MPに対して対称であることは明らかである。平均入射角における最低値は、下縁(θ
avg<4°)において得られ、それに対して大きい値は、上縁(θ
avg>20°)において得られる。平均入射角は、ミラーの下縁と上縁の間の実質的に第1の方向(子午平面MP内で延びるy方向)に、例えば、10°よりも大きく、又は15°よりも大きく変動する。一方、第1の方向に対して垂直、すなわち、子午平面に対して垂直な第2の方向には、比較的小さい平均入射角変動しか存在しない。例えば、上縁と下縁の間のミラーの中心領域では、平均入射角の絶対値は、約12°と約16°の間にあり、例えば、4°よりも大きく又は3°よりも大きくは変動しない。すなわち、第一近似では、平均入射角は、第1の方向(子午平面MP内のy方向)にほぼ線形の関数に従って大幅に変動し、それに対して平均入射角は、第1の方向に対して垂直な第2の方向に基本的に一定である。
【0078】
下記でより詳細に説明するように、ミラー面にわたる比較的大きい平均入射角変動にも関わらず、ミラーがごく僅かな反射率変動しか持たないようにミラーの反射率に対する入射角変動の悪影響の一部を補償するために、ミラー上に特徴的な平均入射角変動を有する特別に設計された漸変コーティングを付加することができる。特に、下記で説明するように、ミラーM5には、異なる材料の層から成る多層スタックを含む1次元漸変コーティングとして設計された非回転対称コーティングが設けられ、これらの層は、コーティングの第1の方向(子午平面内の)に第1の勾配関数に従って変化し、第1の方向に対して垂直な第2の方向に実質的に一定の幾何学的層厚を有する。この種のコーティングを本出願では「線形傾斜コーティング」と呼ぶ。線形傾斜コーティングの構造及び利点に関しては、2006年12月4日に出願され、開示内容が本明細書に引用によって組み込まれている米国特許仮出願第60/872,503号を参照されたい。
【0079】
ミラーの各々は、異なる材料の層から成る多層スタックを含む反射コーティングで被覆される。そのような多層スタックは、約30又はそれよりも大きく、約40又はそれよりも大きく、又は約50又はそれよりも大きいような約20又はそれよりも大きい層を含むことができる。この実施形態では、約10nmから約15nmの範囲内、特に約13nmと14nmの間のEUV放射線波長に対して有効な反射コーティングを形成するのにモリブデンとシリコンの複数の交互層が用いられる。
【0080】
反射コーティングは、13.5nmにおいてNA=035で作動するEUVリソグラフィシステムに対して最適化される。表3Dに示しているコーティングスタック(多層スタック)を用いて最適化を実施した。
【0082】
表3Dは、底面(基板に近い)から上面(真空と接触状態にある)へのコーティングスタックの層の順序を示している。Siは、シリコンを表し、Moは、モリブデンを表している。MoSiは、モリブデンとシリコンの間の中間層を表し、この層は、実際のコーティングスタックでは、2つの層の間の相互拡散の結果である。相互拡散層は、より物理的に妥当性の高いモデルを得るために導入したものである。計算には、いかなる界面粗度も考慮していなかった。表から明らかなように、多層スタックは、多層スタック内で46回繰り返される比較的厚いシリコン層と比較的薄いモリブデン層との二重層構造を含む。二重層構造と基板の間には、応力防止層(ASL)が位置決めされる。応力防止層は、真空に対する界面から遠隔に位置決めされることからいかなる光学機能も持たない。応力防止層は、反射率に影響を及ぼさないが、反射コーティングの機械的安定性を改善する。
【0083】
ミラーの各々の上では、ルテニウムで作られるキャップ層が用いられる。キャップ層は、ミラー基板から離れる方向に向く反射コーティングの放射線入射側の層である。キャップ層は、組み立てられた系では真空とすることができ、ミラーの製造及び保存中には空気又は他の気体とすることができる環境に隣接する。
図9Aから明らかなように、キャップ層材料であるルテニウムは、約13nmと14nmの間の波長範囲内で0.013よりも大きい減衰係数kを有し、この減衰係数は、約13.4nmから13.6nmまでの波長帯域通過領域内では約0.015又はそれよりも大きい。一方、キャップ層の下で二重層構造を形成するモリブデン及びシリコンは、減衰係数k<0.008によって特徴付けられる有意に小さい比吸光度を有する。9Bから分るように、ルテニウムの屈折率は、同上の波長範囲内で一般的に約0.9と0.88の間にあり、これは、同じ波長範囲のモリブデンの屈折率(約0.925と0.92の間)及びシリコンの屈折率(約1.01と0.99の間)よりも有意に小さい。
【0084】
最適化は、全ての視野点のうちの代表的なサンプルを光線追跡し、これら全ての光線にわたって平均化を行うことによって得られる光学系の全体透過率Tを最大にすることによって実施した。この手法は、各ミラーの空間反射率分布にわたって平均化を行うのと同様である。伝達スペクトルを13.36nmから13.64nmまでの帯域通過にわたる積分値として最適化した。
1つ又はそれよりも多くのミラーは、均一な層厚を有する反射コーティングを有することができる。ミラーのうちの少なくとも1つは、ミラー面の少なくとも1つの方向に反射コーティングの非ゼロ層厚勾配によって特徴付けられる漸変コーティングを有することができる。
【0085】
漸変コーティングの層厚プロフィールは、ミラー面上の局所位置(x、y)に対する幾何学的(物理的)層厚変動として表すことができる。各位置では、層厚は、表面法線に沿って、すなわち、それぞれの位置におけるミラー面に対するタンジェントに対して垂直に測定することができる。次に、実際の(幾何学的)層厚d(x、y)は、公称厚d0と、位置に依存する修正因子fac(x、y)との積として表すことができる。
【0086】
一部の実施形態では、多層スタックの層の局所的な幾何学的膜厚d(x、y)は、次式による勾配関数からλ/100又はそれ未満(又はλ/1000又はそれ未満)だけ偏位する。
【数3】
ここで、次式が成り立つ。
【数4】
ここで、以下の通りである。
【0088】
ここで、yは、第1の方向における座標であり、xは、第2の方向における座標であり、d0は、反射面の局所座標系においてx及びy方向に対して垂直な反射面に対して法線を成すz方向に測定された公称厚である。max()関数を導入することにより、関数d(x、y)がゼロよりも小さい値を得ることが防止される。fac(x、y)に関するこの多項式表現では、勾配プロフィールは、定数値(c0)と、コーティングのy方向の「傾斜」(子午平面内の方向の線形層厚変動に対応する)と、回転対称放物項との重ね合わせとして理解することができる。すなわち、線形勾配関数に従う勾配(傾斜コーティング)では、項c1yは、0から偏位し、放物定数c2=0である。放物コーティングでは、c1y=0かつc2≠0である。c1y≠0かつc2≠0である混合勾配が可能である。
【0089】
EUV放射線を反射するように設計されたミラーでは、一般的に、反射コーティングは、第1の屈折率を有する第1の材料(シリコン等)から成る比較的厚い層と、第1の屈折率よりも大きい第2の屈折率を有する第2の材料(モリブデン等)から成る比較的薄い第2の層とを含むいわゆる二重層のスタックによって形成される。二重層の絶対的な厚みは、ミラー面にわたって漸変コーティング内で変動してもよいが、一般的に、第1の層の厚みと第2の層の厚みとの厚み比(y因子)は、そのような二重層では基本的に一定に維持すべきである。そのような二重層が用いられる場合には、上述の条件も二重層の幾何学的厚みd(x、y)に適用される。
【0090】
パラメータC0、c1y、及びc2における絶対値は、光学系の設計に依存して異なるとすることができる。特に、これらのパラメータは、光学系を通過する光線の入射角及びそれに関連する性質も判断する投影対物系の開口数NAに依存して異なることになる。一部の実施形態では、条件0.90≦c0≦1.2、又は条件0.95≦c0≦1.05、好ましくは0.98≦c0≦1.02が適用される。一部の実施形態では、パラメータc1yの量は、0.1又はそれ未満、例えば、0.01又はそれ未満とすることができる。場合によっては、条件0.001≦c1y≦0.002が適用される。一部の実施形態では、パラメータc2の絶対値は、10
-6又はそれ未満のような10
-5又はそれ未満である。パラメータc2の絶対値は、10
-7又はそれよりも大きいような10
-8又はそれよりも大きいとすることができる。
【0091】
これらの値は、公称厚d0=6.9nmに対して適用され、それぞれの勾配関数に従って漸変コーティングの実際の物理的な厚みを計算することを可能にする。異なる公称厚d0が用いられた場合には、パラメータcx、c1y、及びc2における異なる値の組を用いて漸変コーティングの同じ物理的な厚みが得られることになる。すなわち、d0における異なる値に基づく改造も、これらの例示的パラメータ値によって補われることになる。
変調因子fac(x、y)は、ミラーの局所座標系において定められる。局所座標系の原点は、光学系の基準軸と対応してもしなくてもよく、すなわち、この基準軸を中心とするか又はそこから偏心させることができる。基準軸は、光学系の光軸と対応するとすることができる。一方、いかなる光軸も持たない系を利用することができる。
【0092】
表3Eは、ミラーの各々に対して多層スタックの単層の幾何学的層厚が計算される式(4)のパラメータc0,c1y、及びc2を提供している。更に、ミラーの各々に対して、ミラーにわたって平均化を行うことによって13.36nmから13.64nmの帯域通過幅内の最大反射率R
max[%]が得られる。平均透過率T
AVG=7.33%及び最大透過率T
MAX=8.86が得られる。
【0094】
係数c1yが、y方向(子午平面内の第1の方向)の層厚の増加又は減少を示す線形項を表し、パラメータc2が、放物項を表すことから判断すると、ミラーM1,M2,及びM6の各々は、全ての層で均一な厚みを有する反射コーティングを有することが分る。それとは対照的に、ミラーM3,M4,及びM5の各々は、子午方向に不均一な層厚を有する漸変反射コーティングを有する。特に、ミラーM3及びM4の各々は、放物形状を有する回転対称漸変コーティングを有する。瞳面に光学的に近いミラーM5は、1次元漸変コーティングを有し、層厚は、係数c1yに従って第1の方向(子午断面内の)に沿って線形に増加し、それに対して第1の方向に対して垂直な(
図3の作図面に対して垂直な)第2の方向に沿っては変動しない。
【0095】
図10には、軸x’、y’、及びz’を有するミラーM上の局所ミラー座標系LMCSの概略図を示している。LMCSの原点は、基準軸RAに対してy方向にDECだけ偏心され、光学系の座標系CSの原点から基準軸に沿って距離Dを有する。
図11Aは、基板SUB上の漸変反射コーティングCOATの概略図を示しており、多層スタックの個々の層の幾何学的層厚は、放物関数に従ってz’軸の回りに回転対称で変動する。そのような放物コーティングは、例えば、ミラーM3及びミラーM4に付加することができる。
【0096】
図11Bは、線形勾配関数に従う1次元漸変コーティングCOATの概略図を示している。そのような線形傾斜コーティングの実施形態は、瞳ミラーM5に付加される。
例えば、全体透過率を改善するという観点から有利とすることができるミラーM5上に形成されるような傾斜漸変コーティングは、光学系の回転対称性を破壊する傾向を有し、すなわち、視野依存アポディゼーションを生成することに実質的に寄与する場合があることが見出されている。
【0097】
この分析に基づいて、アポディゼーションの視野依存性を低減するのに有効なアポディゼーション補正要素を含む修正された投影対物系100を設計した。そのようなアポディゼーション補正要素を設計する方法は、以下の段階を含むことができる。
(段階1)像視野にわたって分配された複数の視野点に対して、光学系の出射瞳における空間強度分布によって表される瞳アポディゼーションを計算する。
(段階2)像視野の縁部に近く又は縁部におけるいくつかの視野点、及び像視野の中心に近く又は中心におけるいくつかの視野点を含むいくつかの視野点に対してミラー要素の各々の上の部分開口を計算する。
(段階3)視野の縁部に近く又は縁部における問題を有する視野点の部分開口が、瞳の強度が低減される面が他の視野点の部分開口と重ね合わないように互いに相対的に位置決めされたミラーを複数のミラーから選択する。「自由にアクセス可能な」部分開口が存在する場合には、これらの部分開口の区域内でミラー要素の相対反射率を修正することによって出射瞳内の強度分布を修正することができる。
(段階4)空間強度分布の対称性が出射瞳内で高まるように、重要な視野部分開口の領域内でミラー面の反射率を修正する。
【0098】
多くの用途において、対称性の高い強度分布とみなすことができる出射瞳内の完全に均一な強度分布が望ましいとすることができる。多くの実際の場合において、強度分布及び出射瞳がアポディゼーション補正要素を持たない場合よりも回転対称性が高くなるように対称性を改善することで十分であろう。一部の場合には、第1のアポディゼーション補正要素、及び少なくとも1つの第2のアポディゼーション補正要素を用いることができる。例えば、第1のアポディゼーション補正要素は、瞳アポディゼーションの視野変動を最小にするように最適化することができ、第1のアポディゼーション補正要素に適合された第2のアポディゼーション補正要素は、更に別の補正を行うように用いることができる。例えば、瞳面に近接して又は瞳面に配置されたアポディゼーション補正要素は、視野にわたって基本的に一定の瞳アポディゼーションへの寄与を補正するのに用いることができる。従って、少なくとも2つの互いに適応するアポディゼーション補正要素の組合せを実施形態において用いることができる。
【0099】
全ての視野点の部分開口は、基本的に瞳面内で重ね合わされるので、段階3から、アポディゼーションの視野依存性に影響を及ぼすアポディゼーション補正要素として用いるべきミラー要素を厳密に瞳に位置決めすることができないことが分る。多くの場合に、修正される反射ミラーを厳密に視野面内に又はそれに近接して位置決めすることができず、これは、そうした場合、光線束の全ての光線が1つの共通の入射点に入射することになり、従って、入射点の位置における反射率の変更が出射瞳内の全ての位置に同じ方式で影響し、それによって瞳内の異なる位置における相対強度レベルを修正することが不可能になるからである。
以上の分析により、ミラーがアポディゼーション補正要素を形成するか又は含むように修正するのに、ミラー320(ミラーM2)を用いることができることが明らかになった。表3Cから分るように、ミラー320におけるP(M)=0.989は、ミラーが、瞳面に近いが、十分な光学的距離のところにあることを示している。
【0100】
図6及び
図7に関連して説明した視野依存アポディゼーションは、より一般的には、像視野の左右の短い方の縁部において又はこれらの縁部に近い縁部視野点において瞳強度分布の有意な非対称性が存在し、それに対して像視野の中心、一般的には対称平面の両側の中心領域に沿ってアポディゼーションは、相対的に小さいと説明することができる。
アポディゼーション補正要素として修正されるミラー要素は、重要な縁部視野点(瞳アポディゼーションの有意な非対称性を示す)及びこれらの点に隣接する比較的重要でない隣接点(対称平面により近い)が、ミラーの外縁における自由に影響を及ぼすことができる領域(すなわち、対応する部分開口の重ね合わせが僅かしかないか又はいずれの重ね合わせもない領域)に対応するように選択することができる。
【0101】
図12は、第2のミラーM2上の「フットプリント」を略示しており、ミラーの右縁部に近い比較的幅狭な縁部領域ER(
図12に黒塗りで印している)を瞳アポディゼーションに関して重要な視野点に対応するものとして示している。本明細書に用いる「フットプリント」という用語は、放射線ビームを反射するために実際に用いられるミラー上の領域を表している。一般的に、ミラーの物理的形状及び大きさは、ミラー上に入射する全ての光線が実際にミラーから反射されるように、それぞれのフットプリントに基本的に対応するとすることができる。フットプリントの形状は、丸められた縁部を有する矩形形状で表すことができ、フットプリントのy方向(走査方向)の直径Dyは、交差走査方向(x方向)の直径Dxよりも有意に小さい。この実施形態では、フットプリントのアスペクト比Dy/Dxは、約0.55である。放射線ビームの断面が、厳密に物体面又は像面において高いアスペクト比を有する矩形であり、瞳面内で基本的に円形であることに注意すると、このフットプリントの形状は、ミラーM2が、光学的に最も近接する視野面と瞳面の間に存在することを示している。
【0102】
第2のミラーM2の右縁部に近い幅狭な縁部領域ER(
図12に黒塗りで示している)内の局所反射率Rは、この場合、投影対物系の出射瞳内の空間強度分布に影響を与える上で局所反射率の修正を如何に用いることができるかを定性的に例示するという明示目的で、R=0%(反射なし)まで低減されている。
図13及び
図14は、中心視野点FP1に対して(
図13)、及び縁部視野点FP2に対して(
図14)、出射瞳内のそれぞれの空間強度分布を示している。
図13と
図6の間の比較から、子午平面に対する強度分布の鏡面対称性が変動せずに留まっていることは明らかである。しかし、第2のミラーM2の右縁部における反射損失が、瞳の上側及び下側の部分における対応する部分開口に影響を及ぼすので、瞳の異なる位置における強度の合計量は若干低減されている。それとは対照的に、
図14に示している視野点FP2に対応する瞳の強度分布は、
図7の分布と比較すると大きく変更されている。特に、非反射縁部領域ERの形状が、瞳の右縁部に透過率のないT=0の強度レベルを有するC字形縁部領域内に再現されている。
図12から
図14に関連して説明した効果から、投影対物系の出射瞳内の強度分布に影響を及ぼすように、選択されたミラー(瞳面に近く過ぎない)の反射率が修正された場合には、像視野内の位置に伴う瞳アポディゼーションの変動をターゲット方式で実質的に変更することができることが分る。
【0103】
次に、
図15から
図17に関連して、ターゲット式の反射率空間分布を有するミラー要素によって形成されたアポディゼーション補正要素を含む投影対物系の実施形態を以下に説明する。基本的な光学設計は、
図3の基準システムに対して説明したものと同様であり、唯一の構造の差は、アポディゼーション補正要素を形成するか又は含むように最適化されたミラーM2のレイアウトである。
図15は、第2のミラーM2のそれぞれのフットプリントF2に対応する照明区域上で選択された2つの部分開口SA−FP1及びSA−FP2の位置を略示している。ミラー上の部分開口は、特定の視野点から発する光円錐によって照明されるミラー上の区域である。光学面が厳密に視野面に配置された場合には、全ての対応する部分開口は点状であり、空間的に分離された視野点の全ての部分開口は互いに空間的に分離される。一方、光学面が瞳面に位置決めされた場合には、一般的に、円形とすることができる対応する部分開口は、完全に重ね合わせることができる。ミラーが、瞳面からある一定の距離のところに位置決めされた場合には、視野面内で互いに分離された異なる視野点の部分開口は、完全には重ね合わない。
図15に図示の実施形態では、中心視野点に対応する第1の部分開口SA−FP1は、基本的にミラーを中心として位置し、それに対して視野のx方向の縁部(
図7と比較されたい)における縁部視野点に対応する第2の部分開口SA−FP2は、第1の部分開口に対して横方向のx方向にオフセットされる。第1の部分開口SA−FP1(実線)が、フットプリントF2のx方向の外縁にある縁部領域ER内に延びないのに対して、第2の部分開口SA−FP2(太破線)は、縁部領域ER内に延びている。
【0104】
部分開口の空間分離は、例えば、ミラーの反射率を縁部領域ER内で変更することにより、異なる視野点から発する放射線円錐を別々に互いとは独立して操作することができることを意味し、この変更は、適切な強度フィルタ要素によって達成することができる。部分開口の独立操作が望ましい場合には、フィルタ要素のフィルタリング効果は、SA−FP1とSA−FP2の両方のフットプリントによって覆われる交差領域内に延びてはならない。更に、中心視野点に対応する強度分布の変更が望ましくない場合には、フィルタ要素などによる強度操作は、視野点に対応する第1の部分開口SA−SP1の外部に位置すべきである。
図15には、中心視野点の第1の部分開口SA−FP1に影響を及ぼすことなく、縁部視野点の第2の部分開口SA−FP2に影響を及ぼす縁部領域ER内のフィルタ領域FRの例を細かい破線で示している(
図12と比較されたい)。
【0105】
図6及び
図7に関連して上述したように、基準システムでは、中心視野点において比較的少量の不均等瞳アポディゼーションしか存在せず(
図6)、それに対して縁部視野点FP2では非対称性の高い瞳アポディゼーションが見られる。一般的な傾向として、アポディゼーションの非対称性は、中心視野点FP1から縁部視野点FP2に向けてx方向に沿って高まることが見出されている。この分析から、出射瞳内の強度分布の高い対称性に向けての改善は、フィルタ要素の中心の近くに又は中心においてフィルタリング作用を僅かしか又は全く持たないフィルタリング機能に応じて、更に、フットプリントSA−FP1とSA−FP2が重ね合わされる領域内で基本的にゼロとすることができ、縁部領域ERが位置するx方向の外縁に向けて大きく増大することができるフィルタリング効率に応じて、強度をフィルタリングすることによって得ることができると結論付けられる。
【0106】
図16Aから
図16Cの概略図を用いて、中心視野点の第1の部分開口SA−FP1に影響を及ぼすことなく、縁部視野点の第2の部分開口SA−FP2だけに影響を及ぼす強度フィルタとして設計されたアポディゼーション補正要素の実施形態を更に説明する。この目的のために、
図16Aは、ほぼ長円形状の第2のミラーM2を示しており、
図16Bは、ミラーの原点Oとy方向の外縁との間でミラーを通るz−y平面(子午平面)内の断面(yセグメント)を示しており、
図16Cは、原点から、
図15に示している縁部領域ERが位置するx方向の外縁までのx方向の断面(xセグメント)を示している。
【0107】
例えば、表3Dに関連して上述したように、第2のミラーM2上の反射コーティングは、各々が比較的厚いシリコン層と比較的薄いモリブデン層とを含む多数の二重層によって形成された二重層スタックBSを有する多層スタックMLSを含む。二重層構造は、二重層構造と基板の間に挿入された応力防止層上に形成される(
図16には示していない)。二重層スタックBS上にはルテニウムで作られたキャップ層CLが形成され、放射線入射側の環境に向く反射コーティング界面を形成する。キャップ層は、上記に解説した
図3の基準例では均一な厚みを有する。キャップ層は、二重層を汚染などから保護する保護層を形成する。更に、キャップ層は、キャップ層の幾何学的厚み及びキャップ層材料の吸収係数kに依存して一定量の放射線エネルギを吸収する。キャップ層の幾何学的厚みがミラー面にわたって変動する場合には、キャップ層の吸収効果の空間変動を得ることができることは明らかである。
【0108】
一般的に、キャップ層の幾何学的層厚は、非回転対称勾配関数に従って変化する。
図16Bのyセグメントは、第1の勾配関数によって表すことができる子午平面内で延びる第1の方向(y方向)の厚み変動を略示している。
図16Cは、第2の勾配関数によって表すことができる第2の方向(x方向、交差走査方向)の厚み変動を示している。第1の勾配関数が第2の勾配関数と異なることは明らかである。x軸上の縁部領域ER内でx軸に対して垂直な方向よりも強い吸収効果が得られるように、幾何学的厚みは、第1の方向にはミラーの原点Oから縁部に向けて若干しか増大せず、それに対して第2の方向では、中心と縁部領域の間の増大量は有意に大きい。第1及び第2の勾配関数は、両方共に原点からの異なる半径方向の幾何学的層厚の連続的分布(厚みの段差のない)を示す連続関数である。中心視野点から発する全ての光線がほぼ同じ幾何学的層厚を「見る」ように、一般的に、層厚は、少なくとも、中心視野点に対応する第1の部分開口SA−FP1に対応する領域の外縁に対応する動径座標に至るまでの原点Oの回りの中心ゾーン内で均一であり、又は僅かな変動しか持たず、それによって中心視野点から発する光線に対しては、フィルタリング作用のいかなる有意な変動も得られない。基本的に均一なキャップ層厚を有する中心領域は、原点までの最大半径方向距離の20%よりも大きく、50%よりも大きく、又は70%よりも大きくそれぞれの方向に延びることができる。中心領域の外側では、キャップ層の層厚は、y方向に若干増加し、
図15に示している縁部領域ERに対応するx方向には急激に増大する。
図16B及び
図16Cの概略図は、正確な縮尺のものではない。
【0109】
キャップ層CLは、原点Oに対して非回転対称の幾何学的厚みの空間変動を有する。キャップ層の幾何学的層厚g(x、y)は、次式に従ってx及びyにおける非回転対称多項式を用いて表すことが有用であることが見出されている。
【0111】
この多項式がx座標において非偶数のべき乗を持たず、関数が子午平面(y−z平面に対応する)に関して鏡面対称であることを示していることを見ることができる。言い換えれば、子午平面MPに関してミラーの左半分と右半分が互いに鏡面対称である。更に、この多項式は、y座標に非偶数のべき乗を持たず、これは、キャップ層のフィルタリング作用によって起こされる望ましい強度減衰が、いかなる屈曲点も持たずにミラーの縁部に向けて滑らかな変動を有することを示している。第5のミラーM5上の傾斜コーティングの影響を少なくとも部分的に補償するように最適化された実施形態では、ミラーM2のキャップ層の厚みプロフィールは、以下の係数を用いて表すことができる。
【0113】
この構成では、関数g(x、y)は、ミラーの面にわたるキャップ層の層厚の空間変動を表し、y0は、基板の局所座標系の原点Oに対する層の偏心を表し、係数dy及びb1〜b6は、特定の光学系に対して最適化される自由パラメータとして用いることができる横方向の層厚変動の多項式表現の係数に対応する。
原点Oにおけるキャップ層CLの層厚の絶対値は、この実施形態では、d0’=d0
*1.025によって表すことができ、ここで、d0=6.99nmは、上述の実施形態において多層スタックMLSの層の実際の物理的厚みを計算するために用いた公称厚である。キャップ層CLによって覆われた多層スタックMLSの厚み値は、
図3で説明した基準例におけるものと同じである。
【0114】
次に、
図17A、
図17B、及び
図17Cに関連して、修正されたミラーM2によって形成されたアポディゼーション補正要素による強度フィルタリングの光学効果を以下に説明する。
図6及び
図7と同様に、これらの図は、アポディゼーション特性を明示しており、投影対物系の円形出射瞳内の空間強度分布の略プロット図を提供している。この場合、この強度分布は、各々が矩形像視野のx方向の外縁に位置決めされた3つの異なる像視野点FP2,FP3,及びFP4に対して示したものである。FP2は、この縁部の中央のx軸上に位置し(
図17A)、それに対してFP3は、この縁部の上側コーナに位置し(
図17B)、FP4は、この縁部の下側コーナに位置する(
図17C)。
【0115】
図7に示している補正のないアポディゼーションと比較すると、これらの縁部視野点の各々に対応する瞳内の強度分布は、比較的弱いアポディゼーションしか示さないことは明らかである。一般的に、強度値は、大きい中心領域における約0.085±0.001の最小値と瞳の外縁における0.050未満との間で変動する。
特に顕著なのは、瞳アポディゼーションが、アポディゼーション補正要素を持たない同じ投影対物系に対して、回転対称性に関して大きく改善されていることである。
【0116】
回転対称性における改善を明示するために、ここで、
図7に関連して縁部視野点FP2に対して計算したアポディゼーションパラメータAPOをアポディゼーション補正要素を含むシステムに対して計算する(
図17Aと比較されたい)。アポディゼーション補正は、出射瞳縁部の全ての座標における強度の最小値が発生する出射瞳の左側の縁部において事実上いかなる局所強度変動も存在しないようにするのに有効である。最低強度値I
MIN=0.47は大きく変動しない。しかし、出射瞳の縁部領域内の強度の最大値I
MAXは、
図7の分布で最大が見られた領域内で出射瞳の右下の縁部領域内の値I
MAX=0.83へと低減されている。対応するアポディゼーションパラメータは、APO=0.277であり、これは、アポディゼーションフィルタを持たない基準システムに関するアポディゼーションパラメータ(APO=0.314)よりも約10%少ない。すなわち、特に出射瞳の外縁における回転対称性は、アポディゼーション補正要素の効果によって大きく改善される。
【0117】
出射瞳内の実質的に回転対称な強度分布は、異なる向きを有する構造的特徴を構造の向きとは独立したほぼ同じコントラストで結像することを可能にし、それによってアポディゼーション補正要素を持たない光学系に対してH−V差を低減することができる。
更に、瞳内の強度分布のエネルギ重心は、瞳の中心に近接するようにシフトされ、それによって像側テレセントリック性が改善される。
【0118】
ミラーのみから成る光学系(反射システム)の実施形態は、様々な波長範囲、例えば、約193nm又はそれ未満のDUV波長(例えば、ArF光源で作動する)に向けて設計することができる。一部の実施形態は、EUV波長2nm<λ<20nm、10nm<λ<15nm、及び/又は13nm<λ<14nmに向けて設計される。マイクロリソグラフィ投影露光システムにおける使用が可能な実施形態は、一般的に、例えば、1μmよりも細かい、0.5μmよりも細かい、又は100nmよりも細かい分解能のような高分解能を発生させるように設計される。
【0119】
好ましい実施形態の以上の説明は、一例として提供したものである。当業者は、提供した開示内容から本発明及びそれに伴う利点を理解するだけでなく、開示した構造及び方法に対する明らかな様々な変更及び修正も見出すであろう。従って、全ての変更及び修正は、特許請求の範囲及びその均等物によって定められる本発明の精神及び範囲に含まれることを求めている。
全ての特許請求の内容は、引用によって本明細書に組み込まれている。