【実施例】
【0027】
実施例を比較例と共に具体的に説明するが、以下の説明は理解し易くするものであり、発明の本質を制限されるものではない。すなわち、発明に含まれる他の態様または変形を含有するものである。
【0028】
(実施例1〜実施例8)
液晶ポリマーフィルムとしては、ジャパンゴアテックス社製のBIAC,BC,50μm、及びクラレ社製のベクスター,CT−Z,50μmを使用した。
この液晶ポリマーフィルム上に、表1に示したガス種、ガス圧、パワー密度の各条件でプラズマ処理を施した。プラズマの強度をパワー密度で表現したが、個々の装置によりターゲットのサイズや電流―電圧特性、処理速度などのプロセス条件が異なるため、一概に印加電圧と処理時間で定義しても無意味なため、ポリイミドフィルムをプラズマ処理する条件を1とした場合のパワー密度として記載した。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:13Pa、ガス種:窒素、パワー密度:4.3。
実施例2は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:13Pa、ガス種:窒素、パワー密度:4.3。
実施例3では、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
実施例4では、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
【0031】
実施例5は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
実施例6は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:酸素、パワー密度:5.3。
実施例7では、液晶ポリマーフィルムとして上記ベクスターを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:酸素、パワー密度:5.3。
実施例8では、液晶ポリマーフィルムとして上記ベクスターを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:5.3。
【0032】
プラズマ処理後の液晶ポリマーフィルムは、その表面形状をVeeco社製のWyco NT1100の表面形状測定器にて120μm×92μmの視野での表面粗さを計測し、算術平均粗さRaと二乗平均平方根粗さRqを求めた。
実施例1〜実施例8の算術平均粗さRaと二乗平均平方根粗さRqは、次の通りであった。また、この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0033】
実施例1:Ra:0.11μm、Rq:0.14μm
実施例2:Ra:0.10μm、Rq:0.14μm
実施例3:Ra:0.12μm、Rq:0.15μm
実施例4:Ra:0.12μm、Rq:0.14μm
実施例5:Ra:0.11μm、Rq:0.15μm
実施例6:Ra:0.12μm、Rq:0.15μm
実施例7:Ra:0.11μm、Rq:0.14μm
実施例8:Ra:0.10μm、Rq:0.14μm
【0034】
プラズマ処理後のフィルムは、スパッタリングにより表1に示すタイコート層と湿式めっきの種層になる銅スパッタ層を200nm形成した。実施例1〜実施例8のタイコート層の条件は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0035】
実施例1:タイコート層:なし、厚み:−
実施例2:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:3nm
実施例3:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:3nm
実施例4:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:7nm
実施例5:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例6:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例7:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例8:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
【0036】
その後、銅スパッタ層上に電解めっきで銅層を18μmまで成長させ、試料を作製した。伝送損失測定にあたり、液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理、タイコート層、銅スパッタ、電解銅めっきと行った。
図1の銅張積層板の概略図は、本実施例の構造を示すものである。
【0037】
各実施例の試料は密着性の評価のため、ピール強度を測定した。ピール強度測定に際し、3mm幅のパターンを塩化銅エッチング液で形成した後、Dage社製のボンドテスター4000を用いてピール強度の測定を行った。
実施例1〜実施例8のピール強度は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0038】
実施例1:0.9kN/m
実施例2:0.9kN/m
実施例3:0.6kN/m
実施例4:0.7kN/m
実施例5:0.8kN/m
実施例6:0.6kN/m
実施例7:0.5kN/m
実施例8:0.5kN/m
【0039】
伝送損失については、特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップ線路を形成し、HP社製のネットワークアナライザーHP8510Cにより透過係数を測定し、各周波数での伝送損失を求めた。なお、銅層は12μmまで電解めっきしたものを測定に供した。実施例1〜実施例8の伝送損失測定の結果は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0040】
実施例1:5GHz:14dB/m、20GHz:36dB/m、40GHz:76dB/m
実施例2:5GHz:15dB/m、20GHz:38dB/m、40GHz:92dB/m
実施例3:5GHz:15dB/m、20GHz:38dB/m、40GHz:92dB/m
実施例4:5GHz:16dB/m、20GHz:40dB/m、40GHz:110dB/m
実施例5:5GHz:17dB/m、20GHz:43dB/m、40GHz:124dB/m
実施例6:5GHz:17dB/m、20GHz:43dB/m、40GHz:124dB/m
実施例7:5GHz:18dB/m、20GHz:45dB/m、40GHz:128dB/m
実施例8:5GHz:18dB/m、20GHz:45dB/m、40GHz:128dB/m
【0041】
上記実施例1〜実施例8については、各種プラズマ条件で処理しても、フィルム表面粗さに殆ど差はなく、ピール強度については、算術平均粗さRaが0.15μm以下、かつ、二乗平均平方根粗さRq0.20μm以下であっても、0.5kN/m以上の値になっており、実用上問題ないレベルを示した。
【0042】
図2にプラズマ処理のパワー密度とピール強度の関係を示す。前記のように、ここでのパワー密度は通常ポリイミドフィルムを処理する際のパワー密度を1と規定しており、液晶ポリマーフィルムについては、各実施例ともに1より大きなパワー密度を掛けている。パワー密度の増大とともにピール強度も大きくなる傾向が見られる。
【0043】
一方、
図3に伝送損失の結果を示す。実施例より、伝送損失は同一タイコートであれば、タイコート厚が薄い程、伝送損失が小さく、同一厚みであれば、導電率の大きなタイコート組成の方が伝送損失を小さくすることがわかる。なお、伝送損失とフィルム表面粗さの関係については、表面粗さに大きな差がないため、説明を省略する。
【0044】
次に、比較例について説明する。
(比較例1)
フィルムにはポリイミドフィルムとして、DuPont社製のカプトンE,50ミクロンを使用し、プラズマのパワー密度を変更した以外は実施例6と同じである。
表1及び
図2に示すように、ポリイミドフィルムの場合、液晶ポリマーと比較して表面粗さが小さい(Ra:0.04μm、Rq:0.06μm)にもかかわらず、ピール強度は高い値(1.0kN/m)が得られた。しかし、伝送損失は液晶ポリマーより大きく(5GHz:27dB/m、65GHz:45dB/m、40GHz:−)、結果としては不良であった。
【0045】
(比較例2)
液晶ポリマーを銅張積層板として使用する際、一般的な方法として熱ラミネーションが行われる。比較例2は、液晶ポリマーとしてBIACを使用し、熱ラミネーションで作製された銅張積層板として、圧延銅箔(JX日鉱日石金属株式会社製 BHY 12ミクロン)を使用した場合の結果である。
圧延銅箔を熱ラミネーションすることで、フィルムの表面粗さは圧延銅箔の表面形状を反映する結果となり、表1に示すように表面粗さは、Ra:0.18μm、Rq:0.23μmと、大きくなった。
【0046】
ピール強度については、比較例2のような銅箔そのものをフィルムに張り合わせる熱ラミネーション法では、適用した液晶ポリマーフィルムにプラズマ処理を施しておらず、銅箔の粗化処理が軟化したフィルムに食い込むアンカー効果が密着力の主体であるが、強固な密着性が得られず、ピール強度は0.3kN/mとなり、実施例と比較し、劣る結果となった。
また、表面粗さが大きいことに起因して、実施例と比較し、伝送損失も5GHz:18dB/m、20GHz:48dB/m、40GHz:137dB/m大きくなった。以上から、比較例2の液晶ポリマーを使用した銅張積層板は、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0047】
(比較例3)
プラズマ処理中にパワーを掛けず、処理ガス(窒素)中を通過させたこと以外、実施例5と同じである。ピール強度については、プラズマ処理をしない液晶ポリマーにタイコート層、銅スパッタ層を形成して、電解めっきで銅層を成長させる際、液晶ポリマーと金属導体層の密着力が不十分(ピール強度は0kN/m)であり、電解めっきをすることができなかった。
【0049】
(比較例5)
プラズマ処理のガス圧2Paとした以外、表1に示すように、実施例6と同じである(プラズマガス:酸素、パワー密度:5.3)。プラズマガス圧を低くすることで、プラズマ放電が不安定になり、処理不可能であった。この結果を同様に、表1に示す。
【0050】
以上の実施例及び比較例に示すように、本発明の実施例1〜実施例8では、いずれも比較例1〜比較例5と比べて、高いピール強度と小さい伝送損失を兼ね備える銅張積層板を提供できる。