(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747008
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】ドハティ増幅装置
(51)【国際特許分類】
H03F 1/07 20060101AFI20150618BHJP
H03F 1/30 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
H03F1/07
H03F1/30 A
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-208418(P2012-208418)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-64185(P2014-64185A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2014年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】宮下 清
【審査官】
緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−124460(JP,A)
【文献】
特開2007−006164(JP,A)
【文献】
特開2010−273018(JP,A)
【文献】
特表2014−511166(JP,A)
【文献】
特開2008−244595(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0111622(US,A1)
【文献】
特開2013−055413(JP,A)
【文献】
特開2010−226249(JP,A)
【文献】
特開2002−124840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/07
H03F 1/30
H03F 3/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することを可能にするドハティ増幅器を備え、
前記ドハティ増幅器が、入力信号を2つの入力信号に分配する分配器と、該分配器からの分配された一方の入力信号が入力されるメイン増幅器と、前記分配器から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器と、該第1の移相器からの信号が入力されるピーク増幅器と、前記メイン増幅器からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器と、前記ピーク増幅器からの信号と第2の移相器からの信号を加算する加算器と、を備えたドハティ増幅装置において、
装置本体の周囲温度を検出する第1の温度センサと、
該温度センサからの出力信号に基づいて、前記メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス調整又は電源電圧調整又は前記分配器の分配比調整を行うための調整信号発生回路と、
該調整信号発生回路からの出力信号に基づいて前記バイアス調整又は前記電源電圧調整又は前記分配比調整を切り替えるスイッチ回路と、
を備えていることを特徴とするドハティ増幅装置。
【請求項2】
前記調整信号発生回路が、前記第1の温度センサからの出力信号と基準電圧部からの基準電圧信号とを比較し、所望の温度範囲内で電力付加効率が一定になるように、前記分配器の分配比、前記メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス又は電源電圧の少なくとも一つを調整する比較器を備えていることを特徴とする請求項1に記載のドハティ増幅装置。
【請求項3】
前記比較器が、前記メイン増幅器の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器がオンする場合、前記分配器の分配比を調整することを特徴とする請求項2に記載のドハティ増幅装置。
【請求項4】
前記比較器が、第1の温度において前記メイン増幅器へ分配する比率を大きくし、前記第1の温度よりも高い第2の温度において前記ピーク増幅器へ分配する比率を大きくすることを特徴とする請求項3に記載のドハティ増幅装置。
【請求項5】
前記比較器が、前記分配器の伝送経路のインピーダンスを変化させることで、前記分配器の分配比を調整することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のドハティ増幅装置。
【請求項6】
前記比較器が、前記分配器の分配比が一定の場合、前記メイン増幅器の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器がオンするように、前記メイン増幅器及びピーク増幅器のバイアスを調整することを特徴とする請求項2に記載のドハティ増幅装置。
【請求項7】
前記比較器が、前記分配器の分配比が一定の場合、前記メイン増幅器の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器がオンするように、前記メイン増幅器及びピーク増幅器の電源電圧を調整することを特徴とする請求項2に記載のドハティ増幅装置。
【請求項8】
前記比較器が、第1の温度において前記ピーク増幅器がB級増幅動作を行うよう前記ピーク増幅器の動作点を低く、前記第1の温度よりも高い第2の温度において前記ピーク増幅器がA級増幅動作を行うように、前記ピーク増幅器の動作点を高くすることを特徴とする請求項6又は7に記載のドハティ増幅装置。
【請求項9】
前記メイン増幅器及びピーク増幅器は、エミッタ接地増幅器であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のドハティ増幅装置。
【請求項10】
前記メイン増幅器の近傍に配置されている第2の温度センサをさらに備え、
前記調整信号発生回路が、前記第2の温度センサからの出力信号とICチップ内部の温度を測定する前記第1の温度センサからの基準電圧信号とを比較し、前記分配器の分配比、前記メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス又は電源電圧の少なくとも一つを調整する差動増幅器を備えていることを特徴とする請求項1に記載のドハティ増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用の電力増幅器としてのドハティ増幅装置に関し、より詳細には、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することが可能なドハティ増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信や無線LAN(Local Area Network)などの進歩は著しく、特に、携帯電話の爆発的な普及と、それに伴うインフラ整備により、携帯端末のみならず基地局にも低消費電力化が要求されてきている。そこで、基地局において送信に使用される増幅器についても、効率及び線形性の向上に対する要求が一層高まってきている。
【0003】
しかしながら、一般的な増幅器では、効率と線形性との間にはトレードオフの関係があり、また、効率は増幅器への入力レベルに比例する。したがって、高い効率は、増幅器の出力が最大出力電力に近づくまで得られないので、増幅器の線形性を実現することは難しい。そこで、ドハティ増幅器(Doherty Amplifier)などのような高効率で信号を増幅する技術と、その低歪化やフィードフォワード等の歪補償技術とを組み合わせることにより、より高効率で低歪な増幅器が開発されている。このドハティ増幅器は、基本的にAB級のキャリア増幅器とC級のピーク増幅器を組み合わせ、これらの増幅器の出力を合成して高効率の増幅を実現するものである。
【0004】
図1は、従来のドハティ増幅器を説明するための回路構成図で、図中符号1は分配器、2はメイン増幅器(キャリア増幅器)、3はピーク増幅器、4,5は90°移相器を示している。この従来のドハティ増幅器は、入力信号を2つの入力信号に分配する分配器1と、この分配器1の出力信号が直接入力されるメイン増幅器2と、分配器1の出力位相を90°遅らせる90°移相器5と、この90°移相器5の出力信号を入力信号とするピーク増幅器3と、メイン増幅器2の出力位相を90°移相させる90°移相器4とで構成されている。
【0005】
つまり、入力信号を分配器1により第1の入力信号と第2の入力信号とに分配し、互いに並列に配置された2つの増幅器2,3を有する。これらの増幅器2,3のうちのメイン増幅器2は、AB級増幅器モードで動作し、ピーク増幅器3は、C級増幅器モードで動作する。これらの増幅器2,3は、これらの入力端で、かつこれらの出力端で90°移相器4,5により分離されている。出力移相器4は、メイン増幅器の最適負荷インピーダンスR
Lに等しくする必要がある特定の特性インピーダンスZ
0を有する。入力信号は2つの増幅器2,3を駆動するように分離され、“インピーダンスインバータ”又は“ドハティ結合器”としての加算回路網は、a)2つの出力信号を合成する、b)2つの出力信号間の位相差を補正する、c)メイン増幅器の出力側から見たインピーダンスに対して反転されたインピーダンスをドハティ増幅器の出力端に生ぜしめるように動作する。
【0006】
図2は、従来のドハティ増幅器における入力電力に対する電力付加効率特性を示す図である。横軸が入力電力(Pin)、縦軸が電力付加効率(Power Added Efficiency;PAE)、Pin(break)はピーク増幅器が動作を開始する入力電力を示す図である。なお、図中に記載の「Back off」とは、Back off領域、Back offの大きさを意味している。
【0007】
ドハティ増幅器は、入力信号が小さい時にはメイン増幅器のみが動作してピーク増幅器はオフ状態であり、入力信号が大きくなるとピーク増幅器がオンするという2つの動作状態を有することを特徴としている。つまり、ドハティ増幅器は、高出力時には2つの増幅器を同時に動作させるが、低出力時にはピーク増幅器の動作を休止して、メイン増幅器だけを動作させることで消費電力を低減できる。
【0008】
このような動作により、ドハティ増幅器は、飽和出力から大きく下がった出力電力のときも高効率に動作できる。つまり、2つの状態を有することで、ピーク増幅器のオン後の広いPin入力範囲においてそのPAEがほぼ一定、かつ高い値を保持するという特色を有している。
従来の電力増幅器は、飽和出力時に最大動作効率を達成するが、出力電力が減少するに従って動作効率が急激に劣化する特性を有している。一方、ドハティ増幅器は、
図2に示すように、飽和出力時に加えて、飽和出力から低い出力電力の時にも最大動作効率を達成できる。しかしながら、ドハティ増幅器は、入力側に電力分配器、出力側にインピーダンス変換器を必要とするため、それらの回路を小型かつ低損失に実現することが困難であった。
【0009】
例えば、特許文献1に記載のものは、移動通信システムで使用される無線通信装置において電力増幅器に関するもので、入力された無線周波信号を分配器で二分岐し、その一方をキャリア増幅器によりそのAB級動作点に従い増幅し、分配器により二分岐された無線周波信号の他方を、移相器で移相したのち、ピーク増幅器によりAB級動作点とB級動作点との間に設定された動作点に従い増幅し、キャリア増幅器により増幅された無線周波信号と、ピーク増幅器により増幅された無線周波信号とをドハティ合成部により合成し、その合成された無線周波信号を出力端子から出力するようにしたものである。
【0010】
また、例えば、特許文献2に記載のものは、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置の利得を所定範囲内に設定することが可能な電力増幅器に関するもので、温度を取得する取得部を備えている。
図3は、上述した特許文献2に記載のドハティ増幅器の回路構成図で、図中符号12はメインアンプ、13はピークアンプ、16は分配器、17は出力部、18は取得部、19は制御部、21はデータテーブルを示している。
【0011】
このドハティ増幅器は、入力信号S1を入力信号S3と入力信号S4とに分配する分配器16と、入力信号S3を増幅するメインアンプ12と、入力信号S1の信号レベルが所定値以上である場合に、入力信号S4を増幅するピークアンプ13と、メインアンプ12から出力された出力信号S5と、ピークアンプ13から出力された出力信号S6とを合成して出力する出力部17と、メインアンプ12及びピークアンプ13の双方のゲートバイアス電圧Vgm,Vgpを略線形関係で制御することによって、ドハティ増幅器の利得を所定範囲内に設定する制御部19とを備えている。特に、取得部18によって取得された温度に基づいてメイン増幅器及びピーク増幅器の双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、各温度において電力増幅器の利得を所定範囲内に設定するものである。
【0012】
一般に、ドハティ増幅器は、入力信号の強度に応じてシステムの状態を変化させる特徴を有するが、上述した特許文献2では、温度変化などで回路特性が変化した場合でも、ドハティ増幅器の利得を一定に保つことを特徴としている。この特許文献2では、データテーブルが必要であることが開示されている。
また、例えば、特許文献3に記載のものは、高周波帯域において変調波信号を増幅するための高出力増幅器に関するもので、特に、バックオフが大きな動作状態においても効率の高い高出力増幅器を実現するドハティ型増幅器に関するものである。
【0013】
近年の移動体通信基地局などで使用される高周波信号については、このピーク電力比の値が11dB以上にも及ぶことがある。このようなピーク電力比の大きな高周波信号を瞬時ピーク時にも飽和させずに増幅するためには、高出力増幅器は実動作時の平均出力電力に比較して十分に大きな飽和電力を有していなければならない。増幅器の飽和電力が不十分であると、増幅器から出力される信号は瞬時電力の大きな部分が切り取られた波形を有するようになり、その結果として隣接するチャンネルへ漏洩する妨害波が大きくなること、送信される信号が劣化すること、および伝送誤りが大きくなること等の弊害が生じる。すなわち、増幅器は実動作時の平均出力電力と飽和電力との差として与えられるバックオフが十分に大きな状態で動作させる必要がある。また、飽和電力が大きく、かつ効率の良い増幅器を構成することは困難であった。言い換えれば、平均出力電力に比較して飽和電力が大きな状態すなわちバックオフが大きな状態では、一般的に増幅器の効率は大きく低下する。
【0014】
図4は、上述した特許文献3に記載のドハティ増幅器の回路構成図で、図中符号31は入力端子、32は出力端子、33はキャリア増幅器(第1の増幅器)、34はピーク増幅器(第2の増幅器)、35は1/4波長線路、36は可変減衰器、37は可変移相器、39は温度センサ、40はROM(記憶手段)、41は制御回路(制御手段)を示している。
【0015】
温度センサ39により周囲温度を検出して、当該検出された温度に対応する可変減衰器36及び可変移相器37の制御に係る設定値をROM40から読み出す。制御回路41は、ROM40から読み出された設定値に応じて可変減衰器36及び可変移相器37を適宜制御する。なお、ROM40には、各温度においてキャリア増幅器33及びピーク増幅器34に係る利得の差及び通過位相量の差を補償するように設定された可変減衰器36及び可変移相器37に係る制御データが記憶されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−226249平号公報
【特許文献2】特開2010−273018平号公報
【特許文献3】特開2002−124840平号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、ドハティ増幅器は、信号の平均電力とピーク電力との比(Peak to Average Ratio;PAR)が大きな場合大きな優位性を発揮する。そのため、周波数変調(FM)などの包絡線一定のシステムに適応されることはない。しかしながら、温度範囲の広い応用領域、例えば、車載用途、宇宙空間での利用、製鉄等のプラントでの利用においては出力が大きく変動する。したがって、本発明では、出力の温度による変動をPARに見立て、ドハティ増幅器を包絡線一定の系に用いることで、高効率且つ温度変動の少ないFM変調用電力増幅器を実現するもので、電力増幅器、特に、温度範囲の広い応用領域に使われる回路を有するドハティ増幅器に関するもので、温度変動に対する出力変動を少なくすること、広い入力範囲にわたって高効率を維持すること、高温・高出力条件下での熱暴走を防止するものである。
【0018】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することが可能なドハティ増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、温度変化に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することを可能にするドハティ増幅器(50)を備え
、前記ドハティ増幅器が、入力信号を2つの入力信号に分配する分配器(51)と、該分配器からの分配された一方の入力信号が入力されるメイン増幅器(52)と、前記分配器から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器(54)と、該第1の移相器からの信号が入力されるピーク増幅器(53)と、前記メイン増幅器からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器(55)と、前記ピーク増幅器からの信号と第2の移相器からの信号を加算する加算器(56)と、を備えたドハティ増幅装置(60)において、装置本体の周囲温度を検出する第1の温度センサ(61)と、該温度センサ(61)からの出力信号に基づいて、前記
メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス調整又は
電源電圧調整又は前記分配器の分配比調整を行うための調整信号発生回路(62)と、該調整信号発生回路(62)からの出力信号に基づいて前記バイアス調整又は
前記電源電圧調整又は前記分配比調整を切り替えるスイッチ回路(63)と
、を備えていることを特徴とする
。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記調整信号発生回路(62)が、前記
第1の温度センサ(61)からの出力信号(Vt)と基準電圧部(162a,162b)からの基準電圧信号(V1,V2)とを比較し、所望の温度範囲内で電力付加効率が一定になるように、前記分配器(51)の分配比、前記メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス又は電源電圧の少なくとも一つを調整する比較器(162)を備えていることを特徴とする
。
【0021】
また、請求項
3に記載の発明は、請求項
2に記載の発明において、前記比較器(162)が、前記メイン増幅器(52)の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器(53)がオンする場合、前記分配器(51)の分配比を調整することを特徴とする
。
また、請求項
4に記載の発明は、請求項
3に記載の発明において、前記比較器(162)が、第1の温度において前記メイン増幅器(52)へ分配する比率を大きくし、前記第1の温度よりも高い第2の温度において前記ピーク増幅器(53)へ分配する比率を大きくすることを特徴とする
。
また、請求項
5に記載の発明は、請求項2乃至
4のいずれかに記載の発明において、前記比較器(162)が、前記分配器(51)の伝送経路のインピーダンスを変化させることで、前記分配器(51)の分配比を調整することを特徴とする
。
【0022】
また、請求項
6に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記比較器(162)が、前記分配器(51)の分配比が一定の場合、前記メイン増幅器(52)の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器(53)がオンするように、前記メイン増幅器(52)及びピーク増幅器(53)のバイア
スを調整することを特徴とする
。
また、請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記比較器(162)が、前記分配器(51)の分配比が一定の場合、前記メイン増幅器(52)の電力付加効率が最大に達した時に前記ピーク増幅器(53)がオンするように、前記メイン増幅器(52)及びピーク増幅器(53)の電源電圧を調整することを特徴とする。
また、請求項8に記載の発明は、請求項
6又は7に記載の発明において、前記比較器(162)が、第1の温度において前記ピーク増幅器(53)がB級増幅動作を行うよう前記ピーク増幅器(53)の動作点を低く、前記第1の温度よりも高い第2の温度において前記ピーク増幅器(53)がA級増幅動作を行うように、前記ピーク増幅器(53)の動作点を高くすることを特徴とする
。
【0023】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の発明において、前記メイン増幅器(52)及びピーク増幅器(53)は、エミッタ接地増幅器であることを特徴とする
。
また、請求項10に記載の発明は、請求項
1に記載の発明において、
前記メイン増幅器(52)の近傍に配置されている第2の温度センサ(57)
をさらに備え、前記調整信号発生回路が、前記第2の温度センサ(57)からの出力信号とICチップ内部の温度を測定する前記第1の温度センサ(61)からの基準電圧信号とを比較し、前記分配器の分配比、前記メイン増幅器又はピーク増幅器のバイアス又は電源電圧の少なくとも一つを調整する差動増幅器(163)を備えていることを特徴とする
。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、温度変動に対する出力変動を少なくし、広い入力範囲にわたって高効率を維持し、高温・高出力条件下での熱暴走を防止することにより、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することが可能なドハティ増幅装置を実現することができる。
また、温度情報を利用して入力分配比を最適化し、使用可能温度を超えた時にはバイアス電流を下げて破壊を防止することができる。バイアス電流の調整を付加することで、高信頼性の用途である車載用途、宇宙空間、製鉄プラントなどの使用に耐えうることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】従来のドハティ増幅器を説明するための回路構成図である。
【
図2】従来のドハティ増幅器における入力電力に対する電力付加効率特性を示す図である。
【
図3】上述した特許文献2に記載のドハティ増幅器の回路構成図である。
【
図4】上述した特許文献3に記載のドハティ増幅器の回路構成図である。
【
図5】電力増幅器の出力の温度ばらつきの例を示す図である。
【
図6】温度変動による効率劣化の例を示す図である。
【
図7】単体の電力付加(PA)とドハティ増幅器との出力電力(Pout)に対する電力付加効率(PAE)との関係を示す図である。
【
図8】ドハティ増幅器の総合効率とメイン増幅器対ピーク増幅器のパワー分配比の説明図である。
【
図9】ドハティ増幅器の総合効率とピーク増幅器がオンする増幅器の入力の大きさとの関係を示す図である。
【
図10】本発明に係るドハティ増幅装置の実施形態を説明するための回路構成図である。
【
図11】本発明に係るドハティ増幅装置の実施例1を説明するための回路構成図である。
【
図12】(a)乃至(e)は、
図11に示した分配比可変型分配器の例を示す図である。
【
図13】(a)乃至(c)は、分配比可変型分配器の更なる具体的な例を示す図である。
【
図14】ClassA,Bと動作点の関係を示す図である。
【
図15】メイン増幅器とピーク増幅器の回路例を示す図である。
【
図16】本発明に係るドハティ増幅装置の実施例2を説明するための回路構成図である。
【
図17】本発明に係るドハティ増幅装置の実施例3を説明するための回路構成図である。
【
図18】本発明に係るドハティ増幅装置の実施例4を説明するための回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明に係るドハティ増幅器の実施例を説明する前に、ドハティ増幅器における温度変動について以下に説明する。
図5は、電力増幅器の出力の温度ばらつきの例を示す図である。横軸が入力電力(Pin)、縦軸が出力電力(Pout)を示している。電力増幅器の一般的な入出力特性を3つの温度状態T2<T1<T0で測定した場合を示している。T0は仕様上の最高温度、T1は仕様上の一般的温度、T2は仕様上の最低温度を意味している。温度T0時の増幅器の出力をPout(min)、温度T2時の増幅器の出力をPout(max)として、Pout(max)−Pout(min)=P(back off)と定義する。
図5からT2<T1<T0の温度状態で温度変化がおきていることがわかっている。そこで、このような温度変化があったとしても、特性をフラットな状態を保ちたいというのが目的である。
【0027】
図6は、温度変動による効率劣化の例を示す図である。横軸が出力電力(Pout)、縦軸が電力付加効率(Power Added Efficiency;PAE)を示している。温度変動と電力付加効率変動は1対1で関連付けることができる。つまり、
図6によって温度による出力変動を通常のドハティ増幅器のバックオッフに見立てる可能性が示唆されたことになる。
【0028】
図7は、単体の電力付加(PA)とドハティ増幅器との出力電力(Pout)に対する電力付加効率(PAE)との関係を示す図である。ドハティ増幅器にバックオッフの概念を導入することで、単体の電力付加(PA)では得られなかった広い出力パワー範囲に渡る高効率領域/状態の実現が可能になることを理解することが出来る。バックオッフ領域での効率を高めるため、また、バックオッフ領域での効率変動を減少させるため、メイン増幅器の効率<ピーク増幅器の効率の条件を満たすことが好ましい。
【0029】
図8は、ドハティ増幅器の総合効率とメイン増幅器対ピーク増幅器のパワー分配比の説明図である。横軸は増幅器の入力をピーク増幅器に分配する割合であるものの高温では出力が低い入力から飽和し始めることから、横軸を温度に置き換えて考えると、左から順番に、温度T0,T1,T2に対応しているとみなすことが出来る。縦軸は、上から順番に、メイン増幅器、ピーク増幅器、ドハティ増幅器の総合効率を示している。メイン増幅器の電力付加効率(PAE)Max達成時にピーク増幅器がオンすると仮定する。
【0030】
ドハティ増幅器のバックオッフ領域で電力付加効率(PAE)を一定に保つには、入力配分比の最適化が必要になることが分かった。この結果を出力振幅が一定であることを要求される(例えば、FM変調)システムに適用した場合。温度変動に起因する出力変動をドハティ増幅器のバックオッフに見立てることで増幅器の電力付加効率(PAE)を最適化できる。
【0031】
その1つの方法は、動作温度条件における電力付加効率(PAE)が平坦になるように、メイン増幅器とピーク増幅器の入力信号比を選ぶことである。ただし、メイン増幅器が電力付加効率(PAEmax)に到達したときにピーク増幅器がオンするようにドハティ増幅器はプリセットされているものと仮定する。
つまり、比較器162は、メイン増幅器52の電力付加効率が最大に達した時にピーク増幅器53がオンする場合、分配器51の分配比を調整する。
【0032】
また、比較器162は、第1の温度においてメイン増幅器52へ分配する比率を大きくし、第1の温度よりも高い第2の温度においてピーク増幅器53へ分配する比率を大きくする。
図9は、ドハティ増幅器の総合効率とピーク増幅器がオンする増幅器の入力の大きさとの関係を示す図で、バックオッフの大きさによるドハティ増幅器の電力付加効率(PAE)変動の様子を示している。横軸はピーク増幅器がオンする増幅器の入力の大きさであるが、こちらも
図8での同様の議論によって、左から順番に、温度T0,T1,T2に対応しているとみなすことが出来る。縦軸は、上から順番に、メイン増幅器、メイン増幅器、ドハティ増幅器の総合効率を示している。
【0033】
メイン増幅器が最高効率に達するPoutの近傍で、ピーク増幅器がオンするように設計することが、ドハティ増幅器の高効率化やドハティ増幅器の高効率領域での効率一定化のために好ましいことが分かった。つまり、メイン増幅器対ピーク増幅器の入力比が一定の場合は、メイン増幅器の電力付加効率(PAE)がMaxになるPoutとピーク増幅器のオンするPoutとを適切に選ぶことでも同様な結果が得られることがわかった。
【0034】
つまり、比較器162は、分配器51の分配比が一定の場合、メイン増幅器52の電力付加効率が最大に達した時にピーク増幅器53がオンするように、メイン増幅器52及びピーク増幅器53のバイアス又は電源電圧を調整する。
また、比較器162は、第1の温度においてピーク増幅器53がB級増幅動作を行うようピーク増幅器53の動作点を低く、第1の温度よりも高い第2の温度においてピーク増幅器53がA級増幅動作を行うようにピーク増幅器53の動作点を高くする。
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図10は、本発明に係るドハティ増幅装置の実施形態を説明するための回路構成図である。図中符号50はドハティ増幅器、51は分配器、52はメイン増幅器、53はピーク増幅器、54は第1の90°移相器、55は第2の90°移相器、56は加算器、60はドハティ増幅装置、61は第1の温度センサ、62は調整信号発生回路、63はスイッチ(SW)を示している。
【0036】
本発明のドハティ増幅装置60は、温度変化に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することを可能にするドハティ増幅器50を備えている。温度センサ61は、装置本体の周囲温度を検出するものである。また、調整信号発生回路62は、温度センサ61からの出力信号に基づいて、ドハティ増幅器50のバイアス調整又は分配比調整を行うためのものである。また、スイッチ回路63は、調整信号発生回路62からの出力信号に基づいてバイアス調整又は分配比調整を切り替えるものである。また、ドハティ増幅器50は、スイッチ回路63によりバイアス調整又は分配比調整を行うものである。
【0037】
つまり、本発明のドハティ増幅装置60は、バイアス調整端子63aと分配比調整端子63bとを有するドハティ増幅器50と、温度センサ61と、この温度センサ61からの温度センサ信号を基に調整信号を発生する調整信号発生回路62と、調整信号を少なくとも一方の調整端子63a,63bに供給するためのスイッチ(SW)63とで構成されている。
【0038】
また、ドハティ増幅器50は、入力信号を2つの入力信号に分配する分配器51と、この分配器51からの分配された一方の入力信号が入力されるメイン増幅器52と、分配器51から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器54と、この第1の移相器54からの信号が入力されるピーク増幅器53と、メイン増幅器52からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器55と、ピーク増幅器53からの信号と第2の移相器55からの信号を加算する加算器56とを備えている。
【0039】
また、本発明に用いられるドハティ増幅器50は、半導体基板上に形成されるGHz以上の信号を取り扱う電力増幅器を想定しており、その温度とPin対Poutの関係を
図5になると考え得る。例えば、調整信号発生回路62が、バイアス調整端子63aと接続された場合、温度が低ければ、ピーク増幅器53の入力が大きくなるまで動作しないように、バイアスをClassBに近付け、温度が高ければ、メイン増幅器52が最大出力に達する入力が低くなるので、ピーク増幅器53も低い入力でオンするように、バイアスをClassA側に動かして動作される。
【0040】
また、調整信号発生回路62が、分配比調整端子63bと接続された場合は、温度が低ければ、ピーク増幅器53の入力が大きくなるまで動作しないように、メイン増幅器52への分配比を大きくし、温度が高ければ、メイン増幅器52が最大出力に達する入力が低くなるので、ピーク増幅器53も低い入力でオンするように、ピーク増幅器53への分配比を大きくする。
【0041】
本発明は、バックオッフの領域で電力付加効率(PAE)がほぼ一定となるドハティ増幅器50の特性を利用することで、温度変動に対する電力付加効率(PAE)が一定になるように、
図8及び
図9に示すいずれかの制御方法を用いることを特徴としている。
【実施例1】
【0042】
図11は、本発明に係るドハティ増幅装置の実施例1を説明するための回路構成図である。図中符号162は比較器、162aは第1の基準電圧部、162bは第2の基準電圧部を示している。なお、
図10と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
調整信号発生回路62は、温度センサ61からの出力信号Vtと基準電圧部162a,162bからの基準電圧信号V1,V2とを比較し、所望の温度範囲内で電力付加効率が一定になるように、分配器51の分配比、メイン増幅器52又はピーク増幅器53のバイアス又は電源電圧の少なくとも一つを調整する比較器162を備えている。
【0043】
つまり、本実施例1は、ドハティ増幅器50と、温度センサ61と、基準電圧部162a,162bと、温度センサ61からの出力信号Vtと基準電圧部162a,162bからの基準電圧信号V1,V2とを比較する比較器162とを備え、この比較器162の出力は、分配器51の出力の設定信号となる。ドハティ増幅器50は、入力信号を2つの経路に分配する分配比可変型分配器51と、メイン増幅器52と、分配比可変型分配器51から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器54と、この第1の移相器54からの信号が入力されるピーク増幅器53と、メイン増幅器52からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器55と、ピーク増幅器53からの信号と第2の移相器55からの信号を加算する加算器56とを備え、分配比可変型分配器51は、比較器162の出力にしたがって、ドハティ増幅器50の入力をメイン増幅器52とピーク増幅器53の2つの増幅器に分配する分配比を可変するという特徴を有する。
【0044】
本実施例1におけるドハティ増幅器50は、
図8に示した原理に基づいて動作する。つまり、本実施例1におけるドハティ増幅器50は、メイン増幅器52の出力が飽和する入力と、ピーク増幅器53がオンする入力とをそろえることである。増幅器の状態は、温度が低い時には、入力が大きくなっても出力が飽和しにくく、温度が高い時には、入力が比較的小さい時も出力が飽和してしまう。従って、温度が低い時には、メイン増幅器への分配比を大きき設定し、温度の高い時には、メイン増幅器への分配比を小さく設定することで、メイン増幅器の飽和点と、ピーク増幅器の動作開始点とを揃えることが出来る。
【0045】
図12(a)乃至(e)は、
図11に示した分配比可変型分配器の例を示す図で、
図12(a)は等分配器、
図12(b)は、
図12(a)に示した等分配器の等価回路、
図12(c)は非(不)等分配器、
図12(d)は、
図12(c)に示した非(不)等分配器の等価回路、
図12(e)は本発明に用いられる非(不)等分配器を示している。
図12(a)に示した等分配器と、
図12(c)に示した非(不)等分配器とを比較することで、分配比は、伝送線路のインピーダンスを変化することで実現できることが理解できる。つまり、
図12(e)には、等分配器にヴァラクタを付加することで実現した回路を示している。λ/4ライン中に等間隔に2つ以上のヴァラクタを配置する。Z0=√L/C⇒Z0’=√L/(C+ΔC) Z0>Z0’ ΔCはヴァラクタ容量である。
図12(e)は、
図12(d)に示したZ1乃至Z5に対応している。
【0046】
P1からP2のパスに対してグランドのヴァラクタを挿入し、その制御端子を全て結合し、分配比制御信号端子とする。制御信号Lの時にヴァラクタはオフ、したがって、
図12(e)は等配分が達成できる。これに対して、制御信号Hの時にヴァラクタはオン、したがって、伝送線路の対接地容量が増加し、特性インピーダンスが低下し、
図12(c)を実現することにより非(不)等配分が達成できる。
【0047】
図12(e)において、ヴァラクタ容量を付加することで等価的に配線幅を太くし、特性インイーダンスを低くすると、等配分が非等配分になる。
伝送線路は、信号伝達方向に沿った、いわゆるシリーズ・インダクタLsと、信号線とグランドの間に存在する、いわゆるシャント・キャパシタンスCpとで表現される。この時、特性インイーダンスZoは、Zo=Sqrt(Ls/Cp) となる事が知られている。信号線を太くする事は、Lsを小・Cpを大に変更することと等価であり、Zo’=Sqrt(Ls−deltaLs)/(Cp+deltaCp))<Zoを得る。
【0048】
図13(a)乃至(c)は、分配比可変型分配器の更なる具体的な例を示す図で、
図13(a)は等分配器の等価回路と、
図13(b)は非(不)等分配器の等価回路で、Pout(P2)=Pout(P3)+3dBの分配器の等価回路、
図13(c)は本発明に用いられる非(不)等分配器を示している。
トレース幅は、所望のインピーダンス中、最も高いインピーダンスになるように設計する。また、λ/4トレースに対して等間隔に2個以上ので、ヴァラクタ間隔<λ/10となるように、対グランドヴァラクタを挿入する。また、制御電圧を変化させることでトレースのインピーダンスを制御する。
【0049】
分配比可変のために実現すべき回路定数を以下の表1に示す。なお、全ての伝送線路の電気長はλ/4とする。
【0050】
【表1】
【0051】
図13(c)において、ヴァラクタオフの時に高インピーダンス状態(*の値)になるように設計する。また、ヴァラクタを伝送線路上に等間隔に配置する。このときの間隔は、λ/10以下(2個以上配置)とする。可能ならばλ/20以下となることが好ましい。また、ヴァラクタオンで低インピーダンス状態を実現する。また、等分配時は、インピーダンス制御2,4,5をオフとし、インピーダンス制御3をオンとする。また、非等分配時は、インピーダンス制御2,4,5をオンとし、インピーダンス制御3をオフとする。このように、インピーダンス制御状態を増やすことで任意の分配比を実現できる。
【0052】
つまり、比較器162は、分配器51の伝送経路のインピーダンスを変化させることで、分配器51の分配比を調整する。
図14は、ClassA,Bと動作点の関係を示す図である。効率は、ClassA<ClassB<ClassCの関係にあり、線形性は、ClassA>ClassB>ClassCの関係にある。
【0053】
図15は、メイン増幅器とピーク増幅器の回路例を示す図である。高利得、低消費電流、位相マッチングなどの観点からコモンエミッタの単一段(single stage)増幅器、つまり、エミッタ接地増幅器が好ましい。利得・効率の要求から、メイン増幅器をA級又はAB級とし、ピーク増幅器をC級の動作点で設計することが多い。この場合、メイン増幅器とピーク増幅器は、同じ回路を用い、VBM(メイン増幅器のバイアス)とVBP(ピーク増幅器のバイアス)のDC動作点を適切に選ぶことで動作Classを使い分けることが上述した位相マッチングの要求から望まれる。つまり、メイン増幅器52及びピーク増幅器53は、エミッタ接地増幅器であることが望ましい。これにより、バイアス電圧の変更で動作点を変えることができる。
【実施例2】
【0054】
図16は、本発明に係るドハティ増幅装置の実施例2を説明するための回路構成図である。
図10と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
本実施例2のドハティ増幅装置60は、ドハティ増幅器50と、温度センサ61と、基準電圧部(162a,162b)と、温度センサ61の出力と基準電圧を入力とする比較器162と、スイッチ(SW)63とで構成されている。比較器162の出力は、メイン増幅器52又はピーク増幅器53の少なくともどちらか一方のバイアス条件を可変する。
【0055】
また、ドハティ増幅器50は、入力信号を2等分する等分配器51と、メイン増幅器52と、分配器51から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器54と、この第1の移相器54からの信号が入力されるピーク増幅器53と、メイン増幅器52からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器55と、ピーク増幅器53からの信号と第2の移相器55からの信号を加算する加算器56とを備えている。本実施例2は、上述した
図9に示したバックオッフ制御で動作する。
【0056】
つまり、本実施例2におけるドハティ増幅器50は、メイン増幅器52の出力が飽和する入力と、ピーク増幅器53がオンする入力とをそろえることである。増幅器の状態は、温度が低い時には、入力が大きくなっても出力が飽和しにくく、温度が高い時には、入力が比較的小さい時も出力が飽和してしまう。従って、温度が低い時には、ピーク増幅器の動作開始入力レベルが大きくなるように、ピーク増幅器の動作バイアスを設定し、温度の高い時には、ピーク増幅器の動作開始入力レベルが小さくなるように、ピーク増幅器の動作バイアスを設定することで、メイン増幅器の飽和点と、ピーク増幅器の動作開始点とを揃えることが出来る
【実施例3】
【0057】
図17は、本発明に係るドハティ増幅装置の実施例3を説明するための回路構成図である。
図10と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
本実施例3のドハティ増幅装置60は、ドハティ増幅器50と、温度センサ61と、基準電圧部(162a,162b)と、温度センサ61の出力と基準電圧を入力とする比較器162と、スイッチ(SW)63とで構成されている。比較器162の出力は、メイン増幅器52のバイアス、電源、ピーク増幅器53のバイアス、電源又はドハティ増幅器50の内部の分配器の分配比のうちの少なくともいずれか1つを可変することで、
図8及び
図9に示した動作にしたがって動作温度による出力変動をバックオッフに見立てたドハティ動作を実現する。
【0058】
また、ドハティ増幅器50は、入力信号を2等分する分配比可変型分配器51と、メイン増幅器52と、分配比可変型分配器51から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器54と、この第1の移相器54からの信号が入力されるピーク増幅器53と、メイン増幅器52からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器55と、ピーク増幅器53からの信号と第2の移相器55からの信号を加算する加算器56とを備えている。
【0059】
本実施例3におけるドハティ増幅器50は、メイン増幅器52の出力が飽和する入力と、ピーク増幅器53がオンする入力とをそろえることである。増幅器の状態は、温度が低い時には、入力が大きくなっても出力が飽和しにくく、温度が高い時には、入力が比較的小さい時も出力が飽和してしまう。従って、温度が低い時には、メイン増幅器への分配比を大きき設定し、温度の高い時には、メイン増幅器への分配比を小さく設定することで、メイン増幅器の飽和点と、ピーク増幅器の動作開始点とを揃えることが出来る。若しくは温度が低い時には、ピーク増幅器の動作開始入力レベルが大きくなるように、ピーク増幅器の動作バイアスを設定し、温度の高い時には、ピーク増幅器の動作開始入力レベルが小さくなるように、ピーク増幅器の動作バイアスを設定することでも、メイン増幅器の飽和点と、ピーク増幅器の動作開始点とを揃えることが出来る。本実施例では、上記2例の制御方法の少なくともいずれか一方を用いて、温度変動をバックオフに見立てたドハティ動作を実現することを特徴とする。もちろん2つの制御方法を同時に用いることで、設計の自由度が上がり、より精度の高い制御が行えるようになる。
【実施例4】
【0060】
図18は、本発明に係るドハティ増幅装置の実施例4を説明するための回路構成図である。図中符号57は第2の温度センサ、163は差動増幅器を示している。なお、
図10と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
本実施例
4のドハティ増幅装置60は、ドハティ増幅器50と、このドハティ増幅器50から遠くのチップ内部の温度を検出する第1の温度センサ61と、ドハティ増幅器50の直近の温度を検出する第2の温度センサ57と、第1の温度センサ61と第2の温度センサ57との出力を入力する差動増幅器163と、この差動増幅器163の出力にしたがって、メイン増幅器52のバイアス、電源、ピーク増幅器53のバイアス、電源の少なくとも1つの状態を制御することで、
図8及び
図9に示した動作電圧による出力変動をバックオッフに見立てたドハティ動作を実現する。
【0061】
また、ドハティ増幅器50は、入力信号を2等分する分配比可変型分配器51と、メイン増幅器52と、このメイン増幅器52の直近に配置された第2の温度センサ57と、分配比可変型分配器51から分配された他方の入力信号の位相を90度遅らせる第1の移相器54と、この第1の移相器54からの信号が入力されるピーク増幅器53と、メイン増幅器52からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器55と、ピーク増幅器53からの信号と第2の移相器55からの信号を加算する加算器56とを備えている。
【0062】
つまり、第2の温度センサ57が、メイン増幅器52の近傍に配置されている。また、上述した基準電圧部162a,162bが、ICチップ内部の温度を測定する第1の温度センサ61である。
以上のように、本実施例1乃至4によれば、温度変動に対する出力変動を少なくし、広い入力範囲にわたって高効率を維持し、高温・高出力条件下での熱暴走を防止することにより、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅器の利得を所定範囲内に設定することが可能なドハティ増幅器を実現することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 分配器
2 メイン増幅器(キャリア増幅器)
3 ピーク増幅器
4,5 90°移相器
12 メインアンプ
13 ピークアンプ
16 分配器
17 出力部
18 取得部
19 制御部
21 データテーブル
31 入力端子
32 出力端子
33 キャリア増幅器(第1の増幅器)
34 ピーク増幅器(第2の増幅器)
35 1/4波長線路
36 可変減衰器
37 可変移相器
39 温度センサ
40 ROM(記憶手段)
41 制御回路(制御手段)
50 ドハティ増幅器
51 分配器
52 メイン増幅器
53 ピーク増幅器
54 第1の90°移相器
55 第2の90°移相器
56 加算器
57 第2の温度センサ
60 ドハティ増幅装置
61 第1の温度センサ
62 調整信号発生回路
63 スイッチ(SW)
162 比較器
162a 第1の基準電圧部
162b 第2の基準電圧部
163 差動増幅器