【文献】
Yoshihiro Shintani et al. ,Pb(Zr・Ti)O3 Films by RF Sputtering in PbO Vapour ,Japanese Journal of Applied Physics,日本,1978年 3月,Volume 17, No.3,573-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記防着板は環状にされ、前記基板保持台に保持された前記基板の外周より外側を取り囲むように配置された請求項4又は請求項5のいずれか1項記載の誘電体成膜装置。
【背景技術】
【0002】
現在、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3、PZT)等の強誘電体を用いた圧電素子は、インクジェットヘッドや加速度センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に応用されている。
【0003】
図4は(100)/(001)配向のPZT薄膜と、(111)配向のPZT薄膜の圧電特性を示すグラフである。(100)/(001)配向のPZT薄膜は、(111)配向のPZT薄膜よりも大きい圧電特性を示すことが知られている。
【0004】
図6は従来の誘電体成膜装置110の内部構成図である。
誘電体成膜装置110は、真空槽111と、真空槽111内に配置されたPZTのターゲット121と、ターゲット121と対面する位置に配置され、基板131を保持する基板保持台132と、基板保持台132に保持された基板131を加熱する基板加熱部118と、ターゲット121に電圧を印加するスパッタ電源113と、真空槽111内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入部114と、真空槽111内で、ターゲット121から放出された粒子が付着する位置に配置された第一、第二の防着板134、135とを有している。
【0005】
圧電素子を形成する場合、成膜すべき基板131には、熱酸化膜付きSi基板上に、密着層であるTi薄膜と、下部電極層である貴金属の薄膜とがこの順にあらかじめ積層されたものを使用する。貴金属の薄膜はPt又はIrの薄膜であり、(111)面に優先配向している。
【0006】
基板加熱部118は発熱部材133と加熱用電源117とを有している。発熱部材133は基板保持台132の基板131とは反対側に配置され、加熱用電源117は発熱部材133に電気的に接続されている。
加熱用電源117から発熱部材133に直流電流が流されると、発熱部材133は発熱して、基板保持台132上の基板131が加熱される。
【0007】
図7は従来の誘電体成膜装置110を用いた成膜方法での発熱部材133の温度変化を示している。
先ず発熱部材133を加熱して、成膜時の温度である640℃に昇温保持する。
ターゲット121の基板保持台132とは反対側の裏面にはカソード電極122が密着して固定され、スパッタ電源113はカソード電極122に電気的に接続されている。
【0008】
スパッタガス導入部114から真空槽111内にスパッタガスを導入させ、スパッタ電源113からカソード電極122を介してターゲット121に交流電圧を印加させると、導入されたスパッタガスは電離され、プラズマ化する。プラズマ中のイオンはターゲット121の表面をスパッタし、ターゲット121からPZTの粒子が放出される。
【0009】
ターゲット121から放出されたPZTの粒子の一部は加熱された基板131の表面に入射し、基板131の貴金属の薄膜上にPZTの薄膜が形成される。
所定の膜厚のPZTの薄膜を形成した後、スパッタ電源113からの電圧印加を停止し、スパッタガスの導入を停止する。発熱部材133を成膜時より低い温度である400℃に降温させ、成膜工程を終了する。
【0010】
図8は従来の誘電体成膜装置110を用いてPt薄膜上に形成したPZT薄膜の中央部(Center)と、外縁部(Edge)と、中央部と外縁部との間の中間部(Middle)の3箇所のX線回折パターンを示している。形成されるPZTの薄膜は(111)方向に優先配向していることが分かる。
すなわち、従来の誘電体成膜装置では、(100)/(001)配向した誘電体膜を形成することが困難であるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、(100)/(001)配向した誘電体膜を形成できる誘電体成膜装置及び誘電体成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来の誘電体成膜装置では、PZT薄膜の成膜初期において、Pbが貴金属の薄膜方向へ拡散したり、再蒸発する影響で、PZT薄膜にPb欠損が生じてTiO
2が形成され、TiO
2/貴金属の薄膜上に形成されるPZT薄膜が(111)方向に優先配向していたと推測し、貴金属の薄膜上にPbOのシード層を予め形成することにより上記目的を達成できることを見出した。
【0014】
係る知見に基づいて成された本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された
PbとOとを含む誘電体ターゲットと、前記ターゲットと対面する位置に配置され、基板を保持する基板保持台と、前記基板保持台に保持された前記基板を加熱する基板加熱部と、前記ターゲットに電圧を印加するスパッタ電源と、前記真空槽内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入部と、を有し、前記ターゲットをスパッタして前記基板に
PbとOとを含む誘電体膜を成膜する誘電体成膜装置であって、前記真空槽内に配置され、化学構造中に
PbとOとを含有する金属化合物からなる元素源を保持する元素源保持部と、前記元素源保持部に保持された前記元素源を加熱する元素源加熱部とを有し、前記元素源は加熱されると蒸気を放出するように構成され
、前記元素源加熱部によって前記元素源を加熱して前記基板にPbとOとを含むシード層を形成し、次いで、前記元素源の加熱を停止した後、前記シード層上に前記誘電体膜を形成するように構成された誘電体成膜装置である。
本発明は誘電体成膜装置であって、前記ターゲットはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から
成る誘電体成膜装置である。
本発明は誘電体成膜装置であって、前記元素源は、前記ターゲットから放出された粒子が付着する位置に配置された誘電体成膜装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された
PbとOとを含む誘電体ターゲットと、前記ターゲットと対面する位置に配置され、基板を保持する基板保持台と、前記基板保持台に保持された前記基板を
成膜温度に加熱する基板加熱部と、前記ターゲットに電圧を印加するスパッタ電源と、前記真空槽内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入部と、前記真空槽内で、前記ターゲットから放出された粒子が付着する位置に配置された防着板と、を有し、前記ターゲットをスパッタして前記基板に
PbとOとを含む誘電体膜を成膜する誘電体成膜装置であって、前記防着板を
前記成膜温度よりも高温に加熱する防着板加熱部
を有
し、前記防着板加熱部によって前記防着板を加熱して前記基板にPbとOとを含むシード層を形成し、次いで、前記防着板の加熱を停止した後、前記シード層上に前記誘電体膜を形成するように構成された誘電体成膜装置である。
本発明は誘電体成膜装置であって、前記ターゲットはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から成る誘電体成膜装置である。
本発明は、前記防着板は環状にされ、前記基板保持台に保持された前記基板の外周より外側を取り囲むように配置された誘電体成膜装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置されたターゲットと、前記ターゲットと対面する位置に配置され、基板を保持する基板保持台と、前記基板保持台に保持された前記基板を加熱する基板加熱部と、前記ターゲットに電圧を印加するスパッタ電源と、前記真空槽内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入部と、前記真空槽内で、前記ターゲットから放出された粒子が付着する位置に配置された防着板と、前記防着板を加熱する防着板加熱部とを有する誘電体成膜装置を用いた誘電体成膜方法であって、成膜温度を予め決めておき、前記スパッタガス導入部から前記真空槽内にスパッタガスを導入し、前記防着板を前記成膜温度よりも高い温度に加熱して、前記防着板に付着された薄膜から蒸気を放出させ、前記基板にシード層を形成するシード層形成工程と、前記基板を前記成膜温度にし、前記スパッタ電源から前記ターゲットに電圧を印加して、前記ターゲットをスパッタさせ、前記基板の前記シード層上に誘電体膜を成膜する成膜工程と、を有する誘電体成膜方法である。
【発明の効果】
【0015】
(111)配向したPt又はIrの薄膜上に(100)/(001)配向した誘電体膜を成膜できるので、従来よりも圧電特性の大きい圧電素子を得ることができる。
加熱されると蒸気を放出する元素源がスパッタ粒子の付着する位置に配置されている場合には、成膜を繰り返しても元素源は無くならず、(100)/(001)配向した誘電体膜の成膜を繰り返し行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<誘電体成膜装置の第一例>
本発明の誘電体成膜装置の第一例の構造を説明する。
図1は第一例の誘電体成膜装置10の内部構成図である。
【0018】
誘電体成膜装置10は、真空槽11と、真空槽11内に配置されたターゲット21と、ターゲット21と対面する位置に配置され、基板31を保持する基板保持台32と、基板保持台32に保持された基板31を加熱する基板加熱部18と、ターゲット21に電圧を印加するスパッタ電源13と、真空槽11内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入部14と、真空槽11内で、ターゲット21から放出された粒子が付着する位置に配置された防着板36とを有している。
ターゲット21はここではチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から成る。
【0019】
真空槽11の壁面には、カソード電極22が絶縁部材28を介して取り付けられ、カソード電極22と真空槽11とは電気的に絶縁されている。真空槽11は接地電位におかれている。
カソード電極22の表面は真空槽11内に露出されている。ターゲット21はカソード電極22の表面の中央部に密着して固定され、ターゲット21とカソード電極22とは電気的に接続されている。
【0020】
スパッタ電源13は真空槽11の外側に配置され、カソード電極22に電気的に接続され、カソード電極22を介してターゲット21に交流電圧を印加できるように構成されている。
カソード電極22のターゲット21とは反対側には磁石装置29が配置されている。磁石装置29はターゲット21の表面に磁力線を形成するように構成されている。
【0021】
基板保持台32はここでは炭化ケイ素(SiC)であり、外周は基板31の外周よりも大きく形成され、表面はターゲット21の表面と対面するように向けられている。基板保持台32の表面の中央部は基板31を静電吸着して保持できるように構成されている。
【0022】
基板保持台32の表面の中央部に基板31を静電吸着させると、基板31の裏面は基板保持台32の表面の中央部に密着され、基板31は基板保持台32と熱的に接続されるようになっている。
【0023】
基板加熱部1
8は、第一の発熱部33aと加熱用電源17とを有している。
第一の発熱部33aはここではSiCであり、基板保持台32の基板31とは反対側に配置され、加熱用電源17は第一の発熱部33aに電気的に接続されている。加熱用電源17から第一の発熱部33aに直流電流が流されると、第一の発熱部33aは発熱して、基板保持台32上の基板31が加熱されるようになっている。
【0024】
基板31の裏面は基板保持台32の表面の中央部に密着され、基板31の中央部から外縁部まで均等に伝熱されるようになっている。
スパッタガス導入部14は真空槽11の壁面に接続され、真空槽11内にスパッタガスを導入できるようにされている。
【0025】
防着板36はここでは第一、第二の防着板34、35を有している。第一、第二の防着板34、35の素材は石英、アルミナ等のセラミックスである。
第一の防着板34は、内周が基板31の外周よりも大きい環状にされ、基板保持台32の表面の中央部の外側である外縁部を覆うように配置されている。ターゲット21から放出された粒子は基板保持台32の表面の外縁部に付着しないようにされている。
【0026】
第一の防着板34の裏面は基板保持台32の表面の外縁部に密着され、第一の防着板34は基板保持台32と熱的に接続されている。
基板保持台32の表面の中央部に基板31を載置させると、第一の防着板34は基板31の外周より外側を取り囲むようになっている。
【0027】
第二の防着板35は、内周がターゲット21の外周や基板31の外周よりも大きい筒状にされている。第二の防着板35は、基板保持台32とカソード電極2
2との間に配置され、基板31とターゲット21との間の空間の側方を取り囲むようになっている。ターゲット21から放出された粒子は真空槽11の壁面に付着しないようにされている。
【0028】
基板保持台32の第一の防着板34とは反対側には第二の発熱部33bが配置されている。
第二の発熱部33bはここではSiCであり、加熱用電源17に電気的に接続されている。加熱用電源17から第二の発熱部33bに直流電流が流されると、第二の発熱部33bは発熱して、第一の防着板34が加熱されるようになっている。
【0029】
防着板36を加熱する部分を防着板加熱部1
9と呼ぶと、防着板加熱部1
9はここでは第二の発熱部33bと加熱用電源17とで構成されている。
ここでは第一、第二の発熱部33a、33bは互いに接続され、一個の発熱部材33が構成されている。加熱用電源17から発熱部材33に直流電流が流されると、第一、第二の発熱部33a、33bは一緒に発熱し、基板31と第一の防着板34とは一緒に加熱されるようになっている。
【0030】
本発明は第一、第二の発熱部33a、33bが別個の発熱部材で構成されている場合も含まれる。この場合には、第一、第二の発熱部33a、33bに別個に直流電流が流されて、基板31と第一の防着板34とが別個に加熱されるように構成することができる。
【0031】
発熱部材33の基板保持台32とは反対側には冷却装置38が配置されている。冷却装置38は内部に温度管理された冷却媒体を循環できるように構成され、発熱部材33が発熱しても真空槽11の壁面が加熱されないようになっている。
【0032】
さらに、第二の防着板35の外周側面に発熱部材が配置され、第二の防着板35も加熱されるように構成してもよい。第二の防着板35が加熱されると、第二の防着板35の内周側面に予め付着されたPZTの薄膜からPbOの蒸気が放出される。
【0033】
第一例の誘電体成膜装置10を用いた成膜方法を説明する。
成膜すべき基板31には、ここではSi基板の熱酸化膜(SiO
2)上に、密着層であるTi薄膜と、下部電極層である貴金属の薄膜とがこの順にあらかじめ積層されたものを使用する。貴金属の薄膜はPt又はIrの薄膜であり、(111)面に優先配向している。
PZT薄膜の成膜に適した温度である成膜時の温度(以下、成膜温度と呼ぶ)を試験やシミュレーションにより予め求めておく。
【0034】
真空槽11の壁面に真空排気装置15を接続して、真空槽11内を真空排気する。以後、真空排気を継続して真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
まず、準備工程として、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、本来成膜すべき基板31とは異なるダミー基板を真空槽11内に搬入して、ターゲット21のスパッタを行い、第一、第二の防着板34、35の表面に、あらかじめPZTの薄膜を付着させる。次いで、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながらダミー基板を真空槽11の外側に搬出する。
【0035】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜すべき基板31を搬入し、基板31表面の貴金属の薄膜がターゲット21の表面と対面する向きで、基板保持台32の表面の中央部に保持させる。
冷却装置38に温度管理された冷却媒体を循環させておく。
【0036】
図2は以下のシード層形成工程と成膜工程での発熱部材33の温度変化を示している。
まずシード層形成工程として、スパッタガス導入部14から真空槽11内にスパッタガスを導入する。ここではスパッタガスにArガスを用いる。以後、スパッタガスの導入を継続する。
【0037】
加熱用電源17から発熱部材33に直流電流を流して、発熱部材33を成膜温度よりも高温にする。ここでは785℃に昇温させる。
基板31と第一の防着板34とが加熱され、第一の防着板34に付着したPZTの薄膜からPbOの蒸気が放出される。
【0038】
放出されたPbOの蒸気は、基板31表面の貴金属の薄膜上に付着し、基板31表面の貴金属の薄膜上にPbOのシード層が形成される。
発熱部材33を所定の時間785℃に保持した後、成膜温度まで冷却する。ここではPZTの成膜に適した640℃に冷却する。
【0039】
次いで、成膜工程として、発熱部材33を640℃の温度(成膜温度)に保持し、スパッタガス導入部14からのスパッタガスの導入を継続しながら、スパッタ電源13からカソード電極22に交流電圧を印加すると、真空槽11内に導入されたスパッタガスが電離され、プラズマ化する。プラズマ中のイオンは磁石装置29が形成する磁力線に捕捉されてターゲット21の表面に入射し、ターゲット21からPZTの粒子を弾き飛ばす。
【0040】
ターゲット21から放出されたPZTの粒子の一部は基板31の表面に入射する。基板31表面の貴金属の薄膜上にはPbOのシード層が予め形成されているため、シード層からPbOが供給されてPZT薄膜にPb欠損は生じず、シード層上に(001)/(100)配向した誘電体膜(ここではPZT膜)が形成される。
【0041】
図3は本発明の誘電体成膜装置10でPt薄膜上に形成したPZT薄膜の中央部(Center)と、外縁部(Edge)と、中央部と外縁部との間の中間部(Middle)の3箇所のX線回折パターンを示している。
図3のX線回折パターンから、(100)/(001)方向に優先配向したPZT薄膜が形成されていることが分かる。
【0042】
ターゲット21から放出されたPZTの粒子の一部は第一の防着板34の表面に付着し、次回のシード層形成工程におけるPbOの蒸気の放出源になる。
基板31上に所定の膜厚のPZT薄膜を成膜した後、スパッタ電源13からカソード電極22への電圧印加を停止し、スパッタガス導入部14から真空槽11内へのスパッタガスの導入を停止する。
【0043】
加熱用電源17から発熱部材33への電流の供給を停止して、発熱部材33を、成膜温度よりも低い温度に冷却する。ここでは400℃に降温させる。
基板31が搬送ロボットで搬送できる温度まで冷却された後、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら成膜済みの基板31を真空槽11の外側に搬出し、次いで別の未成膜の基板31を真空槽11内に搬入し、上述のシード層形成工程と成膜工程とを繰り返す。
【0044】
<誘電体成膜装置の第二例>
本発明の誘電体成膜装置の第二例の構造を説明する。
図5は第二例の誘電体成膜装置10’の内部構成図である。第二例の誘電体成膜装置10’の構成のうち、第一例の誘電体成膜装置10の構成と同じ部分には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0045】
第二例の誘電体成膜装置10’は、真空槽11内に配置され、化学構造中にターゲット21に含まれる元素(金属元素)を含有する金属化合物から成る元素源を保持する元素
源保持部39と、元素源保持部39に保持された元素源を加熱する元素源加熱部40とを有している。
【0046】
元素源保持部39はここではるつぼであり、基板31とターゲット21と第一、第二の防着板34、35とで囲まれた空間の内側に配置されている。
ターゲット21をスパッタすると、ターゲット21から放出されたPZTの粒子の一部はるつぼの内側に配置された元素源に付着するようになっている。
【0047】
元素源加熱部40はここでは電熱器であり、元素源保持部39に取り付けられている。元素源加熱部40は加熱用電源17に電気的に接続され、加熱用電源17から直流電流を流されると、元素源加熱部40は発熱して、元素源保持部39に保持された元素源が加熱されるようになっている。
元素源は、ここでは化学構造中にPbとOとを含有し、例えばPZTやPbOが用いられる。元素源は加熱されると、ここではPbOの蒸気を放出するように構成されている。
【0048】
本発明の元素源加熱部40は、元素源保持部39に保持された元素源を加熱できるならば、電熱器に限定されず、赤外線ランプやレーザー等の他の公知の加熱装置も本発明に含まれる。
【0049】
第二例の誘電体成膜装置10’を用いた成膜方法を説明する。
成膜すべき基板31には、ここではSi基板の熱酸化膜(SiO
2)上に、密着層であるTi薄膜と、下部電極層である貴金属の薄膜とがこの順にあらかじめ積層されたものを使用する。貴金属の薄膜はPt又はIrの薄膜であり、(111)面に優先配向している。
PZT薄膜の成膜に適した温度である成膜温度を試験やシミュレーションにより予め求めておく。
【0050】
元素源保持部39に、あらかじめ元素源を保持させておく。ここでは元素源としてPZTを使用する。
真空槽11の壁面に真空排気装置15を接続して、真空槽11内を真空排気する。以後、真空排気を継続して真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0051】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜すべき基板31を搬入し、基板31表面の貴金属の薄膜がターゲット21の表面と対面する向きで、基板保持台32の表面の中央部に保持させる。
冷却装置38に温度管理された冷却媒体を循環させておく。
【0052】
シード層形成工程として、スパッタガス導入部14から真空槽11内にスパッタガスを導入する。ここではスパッタガスにArガスを用いる。以後、スパッタガスの導入を継続する。
【0053】
加熱用電源17から元素源加熱部40に直流電流を流して、元素源保持部39に保持された元素源を加熱させると、元素源であるPZTからPbOの蒸気が放出される。
放出されたPbOの蒸気は、基板31表面の貴金属の薄膜上に付着し、基板31表面の貴金属の薄膜上にPbOのシード層が形成される。
加熱用電源17から元素源加熱部40への電流供給を停止し、元素源の加熱を止める。
【0054】
次いで、成膜工程として、加熱用電源17から第一の発熱部33aに直流電流を流して、第一の発熱部33aを成膜温度まで昇温させる。ここでは640℃に昇温させる。基板保持台32に保持された基板31が加熱される。
【0055】
第一の発熱部33aを640℃の温度(成膜温度)に保持し、スパッタガス導入部14からのスパッタガスの導入を継続しながら、スパッタ電源13からカソード電極22に交流電圧を印加すると、真空槽11内に導入されたスパッタガスが電離され、プラズマ化する。プラズマ中のイオンは磁石装置29が形成する磁力線に捕捉されてターゲット21の表面に入射し、ターゲット21からPZTの粒子を弾き飛ばす。
【0056】
ターゲット21から放出されたPZTの粒子の一部は基板31の表面に入射する。基板31のPt薄膜上にはPbOのシード層が予め形成されているため、シード層からPbOが供給されてPZT薄膜にPb欠損は生じず、シード層上に(001)/(100)配向した誘電体膜(ここではPZT膜)が形成される。
ターゲット21から放出されたPZTの粒子の一部は元素源保持部39に保持された元素源に付着し、次回のシード層形成工程におけるPbOの蒸気の放出源になる。
【0057】
基板31上に所定の膜厚のPZT薄膜を成膜した後、スパッタ電源13からカソード電極22への電圧印加を停止し、スパッタガス導入部14から真空槽11内へのスパッタガスの導入を停止する。加熱用電源17から第一の発熱部33aへの電流の供給を停止して、第一の発熱部33aを成膜温度よりも低い温度に冷却する。ここでは400℃に降温させる。
【0058】
基板31が搬送ロボットで搬送できる温度まで冷却された後、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら成膜済みの基板31を真空槽11の外側に搬出し、次いで別の未成膜の基板31を真空槽11内に搬入し、上述のシード層形成工程と成膜工程とを繰り返す。