【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイ
トと添加物を含むコ−ティング膜
と、当該コーティング膜を形成した基材とを構成要素として含み、
上記コーティング膜に含まれる添加物が、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子であり、その添加量が0超〜80重量%/コーティング膜であり、
コーティング膜の厚さが0.01〜100μmで、基材の厚さが200μm以下であり、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m
2・day以下である特性を有することを特徴とする
水蒸気バリア材。
(2)水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである前記(1)記載の
水蒸気バリア材。
(
3)コーティング膜上に保護膜を有する前記(1)記載の
水蒸気バリア材。
(
4)保護膜が、エチルセルロース、又は水溶性ナイロンである前記(
3)記載の
水蒸気バリア材。
(
5)基材上に、無機バリア層が積層されている前記(
1)記載の
水蒸気バリア材。
(
6)温度40℃、相対湿度90%の雰囲気で、24時間放置後の重量変化が13.5%以下である前記(
1)記載の
水蒸気バリア材。
(
7)
前記(1)又は(2)に記載の水蒸気バリア材を製造する方法であって、
1)粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイ
トと添加物を含むコーティング膜を基材にコーティングした後に、乾燥・熱処理を
行う、2)その際に、上記添加物として、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子を使用し、その添加量を0超〜80重量%/コーティング膜とする、3)コーティング工程の後の乾燥・熱処理の温度条件を100℃以下とすることにより水蒸気バリア性を発現させる、4)上記1)〜3)により、コーティング膜の厚さが0.01〜100μmで、基材の厚さが200μm以下であり、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m2・day以下である特性を有する水蒸気バリア材を製造する、ことを特徴とする
上記水蒸気バリア材の製造方法。
(
8)水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである前記(
7)記載の
水蒸気バリア材の製造方法。
【0024】
本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、水蒸気バリア性向上のために、層間のナトリウムイオンフリー粘土膜を開発することを目標に鋭意研究を重ね、ナトリウムイオンを水素イオンに置換した水素化スメクタイトが、100℃以下の比較的低い熱処理温度で、水蒸気バリア性を発現することを見出した。本発明は、食品、医薬品及びその他製品の包装などに用いられるバリアフィルム、特に、水蒸気バリア性が改善された粘土膜、粘土コーティング膜及びその製造方法を提供するものである。
【0025】
代表的な粘土鉱物であるスメクタイトの結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がる四面体層が、金属酸化物及び/又は水酸化物層である八面体層を挟持した、四面体層−八面体層−四面体層という三層を基本構造とし、厚さ約1nmの単位層から構成されている。スメクタイトは、四面体層、八面体層に生ずる負の層電荷を補償するために、この単位層間には陽イオンが存在している。
【0026】
その構成元素は、酸素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、鉄、リチウム、及び水素などであり、層間イオンは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの交換性陽イオンである。この交換性陽イオンは、水和力があり、水中で膨潤する。このような粘土は、親水性化学物質との親和性に優れ、複合体を作りやすい。本発明者らは、水和力のある層間イオンを除去し、層電荷を補償すれば、吸湿性を改善できるとの考えに立って研究を進めた。
【0027】
本発明で用いる粘土としては、透明性を確保する上で不純物の少ない合成粘土が好ましい。粘土結晶構造及び特性からスメクタイト系が好ましく、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、及びモンモリロナイトのうち一種以上である。スメクタイトは、前述のごとく、層間に、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの交換性陽イオンを含み、水和力があり、水可溶性化学物質との親和性に優れ、複合体を作りやすい。
【0028】
本発明では、成膜性、耐クラック性及びバリア性を向上させるために、アルカリ金属イオンを含まない水可溶性高分子を添加することができる。水可溶性高分子としては、例えば、セルロース系樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、カルボキシルメチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、メトキシメチル化ポリアミド樹脂、メトキシエチレンマレイン酸系樹脂、テトラメチルアンモニウムクロリド樹脂が挙げられる。
【0029】
その他にも、フェノール樹脂、カプロラプタム、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリアミノ樹脂、ポリ乳酸、スルフォン酸ポリマー、ブチルラバー、ポリイソブチレン、ラテックスポリマーなどが挙げられ、このうちの一種以上を使用することができる。その添加量は、60重量%以下である。
【0030】
層間の交換性陽イオンは、イオン濃度にもよるが、一般に、原子価の大きい方が交換侵入力は大きく、同じ原子価であれば、原子量が大きくて、イオン半径の大きい程、陽イオンが層間に挿入(インターカレート)する。原子価が同一のアルカリ、NH
4+については、次のような順列である。
Li
+<Na
+<(K
+,NH
4+)<Rb
+<CS
+
アルカリ土類イオン間では、次のような順列である。
Mg
2+<Ca
2+ <Sr
2+ <Ba
2+
【0031】
水素イオンは、結晶層表面に存在する酸素と水素結合することにより、ヒドロニウムイオン(H
3O
+,通常、H
+と略記)として、層間陽イオン交換に関与する。その交換侵入力は強く、多価陽イオンよりも優先的に結晶層間にインターカレートする(白水晴雄、粘土鉱物学(2000)、朝倉書店、P40)。
【0032】
スメクタイトの層間イオンである、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどを水素イオンに交換する方法は、いくつか考えられ、塩酸や硫酸の水溶液に浸漬処理する方法もあるが、強酸性型のイオン交換樹脂によるカラム法が簡便で作業性もよい。
【0033】
強酸性型のイオン交換樹脂のイオンの選択性は、次の順番になっており、リチウムイオン、水素イオン、ナトリウムイオンの順で、樹脂から解離しやすく、逆の順で、樹脂に吸着する性質を持っている[分析化学ハンドブック(1997年)による]。
Ca
2+>Mg
2+>・・・・>K
+>NH
4+>Na
+>H
+>Li
+
したがって、水素イオンは、粘土の層間に存在するナトリウムイオンやカルシウムイオンなどと比較的容易に交換される。
【0034】
イオン交換には、市販の強酸性型の陽イオン交換樹脂を使用する。一般に、強酸性型の陽イオン交換樹脂は、R−SO
3−(固定イオン)+H
+(対立イオン)のように表わされ、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの層間イオンは、強酸性型の陽イオン交換樹脂と接触させることにより、対立イオンである水素イオンと交換される。
【0035】
具体的には、粘土分散液を、強酸性型樹脂カラムの上部から注入し、粘土分散液の層間陽イオンであるナトリウムイオンなどを水素イオンに置換する。本発明においては、粘土が1〜2重量%の分散液を、1分間に20mLの流量で、粘土分散液を流通させたが、粘土分散液の濃度、流量などの条件は、イオン交換装置の容量、すなわち、カラムの断面積、イオン交換樹脂量、流通溶液の性状などにより決定されるものであり、限定されるものではない。
【0036】
上部から流入した粘土分散液は、自然に流通させても差し支えないが、カラムの流出側を、例えば、ペリスタポンプを用いて減圧し、流速を制御する方法を採ることができる。工業的には、逆に、カラム内を加圧し、流速などを制御することも可能である。一回の処理量は、カラムを流通させた粘土分散液のカルシウムイオン、ナトリウムイオンなどの陽イオン量を、逐次分析し(例えば、ICP発光分析)、その結果から設定できる。
【0037】
水素イオン交換によって、イオン交換樹脂が、粘土のナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンで飽和状態になった場合は、一般的な方法で、比較的簡単に、強酸性型樹脂に再生することができる。イオン交換樹脂は、最初の操作手順に戻って、3N〜6Nの塩酸を、樹脂量の3倍程度流通させ、次に、樹脂量の約10倍の純水洗浄を行うことによって再生され、繰り返し使用することが可能である。
【0038】
水素イオンに交換した粘土分散液は、目的に応じて、成膜性や膜強度を上げるために、前述の添加物を加えて、混合振蕩し、コーティング用粘土分散液を作製する。必要に応じて、水を主成分とする溶媒を調製することにより、所定濃度の粘土分散液を作製することができる。
【0039】
水素イオン交換後の粘土分散液の溶媒は、水を主成分とするものであるが、添加物の溶解促進、乾燥時間を早めるために、水とエタノールなどのアルコール類、水とアセトンなどのケトン類の混合溶媒とすることができる。
【0040】
粘土コーティング膜の製造は、比較的容易に行うことができ、基本的には、粘土分散液を基材にコーティングし、強制送風式オーブンやホットプレ−ト上で、分散媒である水又は水を主成分とする溶媒を、50〜60℃の温度でゆっくりと蒸発させ、更に、100℃以下で粘土分散液の溶媒が完全に乾燥するのに必要な時間で熱処理を行う。熱処理時間は、一般的には、24時間以内で十分である。
【0041】
本発明では、熱処理後の粘土コーティング膜は、XRDパターン(Brucker/MacScience M21X ,Xray:CuKα)によって、d(001)のピークが、Na型スメクタイトに見られる2θ=6°が9°付近にシフトし、層間距離が狭くなっていることを確認した。
【0042】
更に、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscoy)分析によって、測定検出限界内でナトリウムイオンやカルシウムイオンなどが検出されず、構造的に層間イオンが水素に置換された水素型スメクタイトであることを確認した。
【0043】
乾燥後のコーティング膜の厚さは、粘土分散液の濃度、コーティング時の膜厚によって任意に設定できる。例えば、200μmのPETフィルムに、乾燥後のコーティング膜の厚さが2μmのバリア材では、酸素の透過度は、0.1cc/m
2・day・atm(23℃、ドライ酸素)以下であり、また、水蒸気透過率は、1.6g/m
2・day以下であった。
【0044】
水蒸気バリア性の効果は、コーティング膜厚0.01μm以上から出現し、膜厚が厚いほどその効果は大きい。耐湿性は、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気で、24時間放置後の重量変化が13.5%以下であった。コーティング膜の厚さ寸法は、基材の樹脂フィルムの厚さと、バリア材としての使用目的などから決められが、柔軟性、耐クラック性から4μm以下が望ましい。また、コーティング膜の全光線透過率は85%以上を示し、透明性に優れている。
【0045】
基材としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニリデン樹脂(PVD)などの汎用プラスチックフィルムが上げられる。材質は、特に限定されないが、少なくとも耐熱性が100℃以上であることが望ましい。基材の厚みは200μm以下であれば、柔軟性のあるバリア材として、包装・封止材などの用途に適用できる。
【0046】
基材への粘土分散液のコーティング方法は、基材の形状によるが、フィルム状の場合は、バーコーティング、ロールコーティング、ラミナーフローコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティングなどの連続コーティングが可能であり、乾燥、熱処理もトンネル式の乾燥炉を用いることにより、連続的に行うことができ、量産性に優れている。容器などの形状が平面でない基材には、ディップコーティング、スプレーコーティングなどが好適である。
【0047】
コーティング膜の表面に、撥水処理、防水処理、及び/又は補強処理を目的に、保護膜を付与することができる。酸化ケイ素、フッ素系、シリコン系、各種金属蒸着膜などの無機系膜、ポリシロキ酸、フッ素含有オルガノポリシロキ酸、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂などの高分子膜を、コーティング膜の表面に形成する。本発明のコーティング膜においては、エチルセルロースや水溶性ナイロンが好適である。保護膜は、樹脂フィルムに粘土分散液をコーティングし、乾燥・熱処理の前に連続して塗布することも可能である。
【0048】
基材に、アルミニウムなどの金属又は金属化合物、酸化ケイ素や酸化チタンなどの無機酸化物などの無機質を無機バリア層として積層することができる。前述のように、無機バリア層は、ガスバリア性、水蒸気バリア性の向上に一定の効果がある。その上に粘土コーティング膜の層を形成することによって、粘土粒子が無機バリア層の微小クラックをカバーし、バリア性は更に改善される。無機バリア層は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVDなどの一般的な製膜方法で可能である。
【0049】
本発明のバリア材の用途によっては、より接着性を上げるために、本発明の粘土分散液をコーティングする前に、あらかじめ基材に接着剤などのアンカーコートを行うことができる。乾燥条件は、特に限定されるものではないが、強制送風式オーブンやホットプレート上で、工業的には、トンネル式乾燥炉で、30〜120℃の温度条件、好ましくは50℃〜100℃の温度条件で乾燥することができる。乾燥時間は、コーティング膜厚にもよるが、0.1秒〜数十分で十分であり、それにより、密着性に優れたコーティング膜が得られる。