【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、有機媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物を選択的に固着し、有機媒体からハロゲン化芳香族化合物を除去するあるいは濃縮することにより、ハロゲン化芳香族化合物のみの分解処理を容易にすることを可能とする選択固着剤を提供することを目的とする。また本発明は、かかる選択固着剤を使用して、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物を選択的に捕集し、以ってハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を高い回収率で得る方法を提供する。
【0016】
本発明者らは、水溶性であるシクロデキストリンから生成した、水不溶性の新規な多孔質のシクロデキストリンポリマーを選択固着剤として使用して、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物を選択的に捕集し、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を高い回収率で得ることができることを見いだした。特に、シクロデキストリンポリマーの製造工程を最適化して、より効率的にハロゲン化芳香族化合物を選択的に捕集することができるポリマーを製造できることを発見した。
【0017】
本発明の態様は、以下の通りである:
1.シクロデキストリンを有機溶媒中に分散させ、次いで
有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物含有有機溶媒を滴下して、50〜100℃の温度で反応液を撹拌し、次いで
反応液に、アルコール類、アリールアルコール類、またはフェノール類を滴下して、0〜10℃の温度でエステル化反応させる
ことを含む、多孔質シクロデキストリンポリマーの製造方法。
2.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記1に記載の方法。
3.アルコール類が、炭素数1〜10を有する脂肪族アルコール類から選択され、アリールアルコール類がベンジルアルコールまたは置換ベンジルアルコールから選択され、フェノール類がフェノールまたは置換フェノール類から選択される、上記1または2に記載の方法。
4.シクロデキストリンを分散させる有機溶媒が、ピリジン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、および1−メチルイミダゾールから選択され、有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物を溶解させる有機溶媒が、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、キシレン、ジメチルホルムアミドおよびトルエンから選択される、上記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.上記1〜4のいずれかに記載の方法で製造された、多孔質シクロデキストリンポリマー。
6.シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを、50〜100℃の温度で縮合させたポリマーの末端に、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を、0〜10℃の温度で反応させて得た、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを含有する、有機媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤。
7.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記6に記載の選択固着剤。
8.アルコール類が炭素数1〜10のアルキル基から選択され、アリールアルコール類がベンジルアルコール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたベンジルアルコール類から選択され、フェノール類がフェノール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたフェノールから選択される、上記6または7に記載の選択固着剤。
9.ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーが、固体担体に固定化されている、上記6〜8のいずれかに記載の選択固着剤。
10.ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類、ポリクロロビフェニル類、またはポリクロロベンゼン類である、上記6〜9のいずれかに記載の選択固着剤。
11.有機媒体が、有機液体、絶縁油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物からなる群から選択される、上記6〜10のいずれかに記載の選択固着剤。
12.シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを、50〜100℃の温度で縮合したポリマーの末端に、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を、0〜10℃の温度で反応させて得た、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤と、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体とを接触させ、該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得ることを特徴とする、方法。
13.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記12に記載の方法。
14.アルコール類が炭素数1〜10のアルキル基から選択され、アリールアルコール類がベンジルアルコール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたベンジルアルコール類から選択され、フェノール類がフェノール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたフェノールから選択される、上記12または13に記載の方法。
15.ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーが、固体担体に固定化されていることを特徴とする選択固着剤を使用する、上記12〜14のいずれかに記載の方法。
16.ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類、ポリクロロビフェニル類、またはポリクロロベンゼン類である、上記12〜15のいずれかに記載の方法。
17.有機媒体が、有機液体、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物からなる群から選択される、上記12〜16のいずれかに記載の方法。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
まず、本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーの製造方法を説明する。
本発明は、シクロデキストリンを有機溶媒中に分散させ、次いで有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物含有有機溶媒を滴下して、50〜100℃の温度で反応液を撹拌し、次いで反応液に、アルコール類、アリールアルコール類、またはフェノール類を滴下して、0〜10℃の温度でエステル化反応させることを含む、多孔質シクロデキストリンポリマーの製造方法にかかる。ここでシクロデキストリンとは、6個、7個または8個のグルコースが環状に結合した環状オリゴ糖のことであり、それぞれα−、β−またはγ−シクロデキストリンと称される。
【0020】
有機二塩基酸類とは、例えば、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪酸を含み、本発明においては、シクロデキストリン分子中の−CH2OH基と反応して逐次縮合し、ポリマーを形成しうる化合物のことである。このような有機二塩基酸類として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸が挙げられる。有機二塩基酸ハロゲン化物とは、上記の有機二塩基酸類の酸ハロゲン化物を指す。本発明では特に有機二塩基酸であるテレフタル酸、又は有機二塩基酸ハロゲン化物であるテレフタル酸ジクロライド(二塩化テレフタロイル)を用いることが好適である。シクロデキストリンと有機二塩基酸との反応は、例えば約50〜100℃、好ましくは約60〜90℃で行う。
【0021】
アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類をポリマー末端に反応させる、とは、縮合ポリマーの末端に残る有機二塩基酸由来のカルボキシル基を、特定の置換基でエンドキャップすることを意味する。カルボキシル基をエンドキャップするために、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させ、エステル化することができる。本発明において末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させる、とは、例えば炭素数1〜10のアルコールから選択されるアルコール類、ベンジルアルコールまたは置換ベンジルアルコールから選択されるアリールアルコール類、またはフェノールまたは置換フェノール類から選択されるフェノール類をカルボキシル末端基に反応させて、アルキルエステル、アリールエステルまたはフェニルエステルにする。この際に、反応液にベンジルアルコールまたは置換ベンジルアルコールから選択されるアリールアルコール類、またはフェノールまたは置換フェノール類から選択されるフェノール類を滴下することができる。滴下の際の反応液の温度は、約0〜10℃、好ましくは約3〜5℃とする。引き続きこの温度下で反応液を攪拌する。
【0022】
例えば縮合ポリマーをメタノールと反応させれば末端基はメチルエステル(−COOMe)となり、エタノールと反応させればエチルエステル(−COOEt)となり、ベンジルアルコールと反応させればベンジルエステル(−COOBz)となる。本発明では、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類をポリマー末端に反応させるエステル化反応の際に反応液の温度を下げることに特徴がある。
【0023】
ここで、複数のシクロデキストリンと有機二塩基酸類とが逐次縮合し、この末端をアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類で処理したものであれば、例えばシクロデキストリンと有機二塩基酸類とが合計で数個〜10個程度縮合した、いわゆる一般的には「オリゴマー」と呼ばれるような化合物であっても、本明細書では全て「ポリマー」と総称するものとする。本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーは、分子量の異なる重合体が混合した組成物であってもよい。
【0024】
本発明で用いる多孔質シクロデキストリンポリマーの化学構造式は、例えば以下の式で表されると考えられる:
【0025】
【化1】
【0026】
この式において、シクロデキストリンの部分は、円錐台形で表されており、有機二塩基酸としてテレフタル酸が用いられている。シクロデキストリン中の水酸基と有機二塩基酸とがエステル結合により交互に結合し、網目状の構造を形成している。そしてポリマーの末端は、メタノールと反応させた結果として、メチル基でキャップされている。
【0027】
例えば、γ−シクロデキストリンと、有機二塩基酸ハロゲン化物として二塩化テレフタロイルとを縮合させ、次いで末端にメタノールを反応させた場合、以下のようなスキームで反応が進行し、ポリマーを得ることができる:
【0028】
【化2】
【0029】
二塩化テレフタロイルの一方の酸クロライド基(−COCl)は、γ−シクロデキストリンの−CH2OH基と反応し、エステル結合する。そしてもう一方の酸クロライド基は、別のγ−シクロデキストリンの−CH2OH基と反応する。これを繰り返し、縮合ポリマーが得られる。シクロデキストリンには多数の水酸基が存在するが、縮合に関与する置換基は−CH2OHの部分であり、このような基はα−シクロデキストリンの場合6個、β−シクロデキストリンの場合7個、そしてγ−シクロデキストリンの場合8個分子内に存在する。得られる縮合体は、シクロデキストリンと有機二塩基酸とが交互に縮合したもののほか、架橋構造や3次元網目構造となる場合もある。縮合反応の終了時にメタノールを反応させると、末端の酸クロライド基は−COOCH3となる。このようにして得た多孔質シクロデキストリンポリマーの電子顕微鏡写真を
図1に示す。本発明の製造方法にて製造された多孔質シクロデキストリンポリマーは、数10μmの非常に小さな球状の物質が数多く連なった多孔質構造を構築しており、PCB含有絶縁油と接触できる広い表面積を有している。
【0030】
なお、比較のために、比較合成例1で製造した、γ−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルとを縮合させ、末端をアルコールでエンドキャップしたポリマーの電子顕微鏡写真を
図2に示す。
図2のポリマーは多孔質形状を有しているが、本発明の製造方法にて製造された多孔質シクロデキストリンポリマーと比較して、100〜200μmの大きな球状の物質が数多く連なった多孔質構造を構築しており、PCB含有絶縁油と接触できる面積が小さい。このようなポリマーの微細構造のわずかな違いにより、後に説明する有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤としての性能には大きな違いが見られる。
【0031】
次に本発明の選択固着剤について説明する。本発明は、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを、50〜100℃の温度で縮合させたポリマーの末端に、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を、0〜10℃の温度で反応させて得た、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを含有する、有機媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤に係る。
【0032】
本発明において「ハロゲン化芳香族化合物」とは、芳香族化合物にフッ素、塩素、臭素及びヨウ素が1以上置換した化合物全般を指す。本発明では、例えばポリクロロビフェニル類(PCB)、ダイオキシン類、フロン類、ポリクロロナフタレン類およびポリクロロベンゼン類等を指す。PCBとは、ビフェニル骨格に塩素原子が数個置換した化合物の総称であり、塩素原子の置換位置、置換数により多数の異性体が存在する。またダイオキシン類とは、狭義の意味ではダイオキシン類対策特別措置法で指定される特定の化合物を指すが、本発明では、いわゆる内分泌撹乱物質(環境ホルモン)として疑われるハロゲン化化合物を全て含む。
【0033】
本発明においてハロゲン化芳香族化合物を含有する「有機媒体」とは、広く一般的に有機溶剤のことであり、特にハロゲン化芳香族化合物を良好に溶解する有機溶剤、さらに詳細には、使用の態様から、ハロゲン化芳香族化合物を含有する可能性の高い絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物等を意味する。本発明において「有機媒体」とは、その大部分(例えば6割以上)が前記の有機媒体であればよく、場合によっては水を含むことがあるが、当該ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体全体としての性質は、水溶液でなく、あくまで有機溶液のそれである。
【0034】
また、固体物質(例えば紙、木材、焼却灰、岩石、土壌等)に含有されたハロゲン化芳香族化合物を分解処理するために、これら固体物質に含有されたハロゲン化芳香族化合物を抽出して有機媒体に移行させたものも、本発明の選択固着剤の処理対象となる「ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体」となりうる。
【0035】
本明細書において「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する」とは、上述のハロゲン化芳香族化合物と吸引的に(すなわち、斥力ではないことを意味する)相互作用することを意味し、このような特性を有する化合物を「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物」と総称する。このような化合物は、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する環状部分、置換基、シーケンスなどを有する。本明細書において「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物」のことを、場合により、単に「吸引的相互作用化合物」「相互作用化合物」あるいは「相互作用する化合物」などと省略して記載することがある。
【0036】
本発明において、ハロゲン化芳香族化合物を「選択的に固着」するとは、有機媒体に溶解、分散等により含有されたハロゲン化芳香族化合物のみ、あるいは当該ハロゲン化芳香族化合物を内部に含む有機媒体分子の会合体と相互作用して、これを取り込むあるいは定着させることをいう。本明細書において「固着」とは、化学的結合や接着、ならびに物理的吸着や吸引、あるいは単に引っかかった状態であるものなどを全て含み、必ずしも定常的に接着されていることを意味するものでない。たとえば、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用し、所定の時間ごく近距離に位置した状態となる場合や、吸引的な相互作用により所定の時間接触した状態であれば、広い意味で本明細書にいう「固着」した状態に該当するものとする。すなわち本発明の「選択固着剤」とは、選択固着剤に含有される活性成分が、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物と吸引的に強く相互作用し、ハロゲン化芳香族化合物を活性成分分子構造内にしっかりと取り込むあるいは定着させるような薬剤のほか、かかる活性成分が、ハロゲン化芳香族化合物と少なくとも一時的に接触した状態にあるか、至近距離に位置した状態を維持することができる薬剤を意味する。
【0037】
したがって本発明の選択固着剤は、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用することによりこれらを固着することができる組成物を含む。かかる組成物の活性成分として、シクロデキストリンと有機二塩基酸とを50〜100℃の温度で縮合させたポリマーの末端に、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を0〜10℃の温度で反応させて得た、多孔質シクロデキストリンポリマーが挙げられる。ここに例示するハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物は、分子構造内にハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用することが可能なシクロデキストリンの環状部分を分子内に有する化合物であり、この相互作用化合物は、有機媒体に少なくとも分散させることができる。相互作用化合物分子内に存在する吸引的に相互作用する部分、すなわちシクロデキストリンの環状部分と、ハロゲン化芳香族化合物とが相互作用することにより、ハロゲン化芳香族化合物を当該相互作用部分またはその近傍に固着させる。
【0038】
本発明の選択固着剤は、前記のハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を活性成分として含むほか、必要に応じて担体、基材、希釈剤等の助剤を含むことができる。また活性成分であるハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物は、場合により担体または基材に固定化されていても良い。たとえばシリカゲル、ポリマービーズ、イオン交換樹脂、ガラス、フィルタ、メンブレン、各種網状構造物又は格子状構造物、発泡体、多孔質物質などの固体担体にハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を固定化させることができる。ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物の担体又は基材への固定化は、たとえば共有結合あるいはイオン結合などに代表される比較的強い化学結合の他、疎水性相互作用、ファンデルワールス力などの比較的弱い力での物理的相互作用によっても行うことができる。
【0039】
最後に、本発明の選択固着剤を用いて、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を選択的に除去する方法を説明する。本発明は、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを、50〜100℃の温度で縮合したポリマーの末端に、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を、0〜10℃の温度で反応させて得た、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤と、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体とを接触させ、該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得ることを特徴とする、方法に係る。
【0040】
本発明に使用するハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体は、上述のハロゲン化芳香族化合物を少なくとも1種含有している。ハロゲン化芳香族化合物は、有機媒体中いかなる濃度で溶解していても良いが、特にハロゲン化芳香族化合物の含有量が0.5-1%程度の場合に「極微量」「微量」あるいは「低濃度で」含有していると称される。特にハロゲン化芳香族化合物を低濃度で含有する有機媒体は、処理すべきハロゲン化芳香族化合物は極少量であるのに、有機媒体自体の体積が非常に大きくなり、したがって貯蔵に困難をきたすとともに化学的に処理するには多大な時間を要する。よって、極微量に溶解しているハロゲン化芳香族化合物を有機媒体から濃縮分離して、処理すべきハロゲン化芳香族化合物と、再利用可能な有機媒体とに分けることができれば、ハロゲン化芳香族化合物の処理効率が上がる一方、かかる有機媒体の貯蔵の問題も解決することができる。
【0041】
ハロゲン化芳香族化合物を特に含有しやすい有機媒体は、各種有機液体のほか、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料、インク及びこれらの混合物である。ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を反応容器に入れる。これら有機媒体を貯蔵する貯蔵容器をそのまま反応容器として使用しても良い。ここに、含有されているハロゲン化芳香族化合物に対して10倍−50倍、好ましくは50-200倍(モル基準)のハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を含む本発明の選択固着剤を投入し、よく攪拌する。本発明の選択固着剤中の活性成分であるハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを含む組成物は、有機媒体中に分散し、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物と接触する。ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマー中の吸引的相互作用部分との相互作用によりハロゲン化芳香族化合物が当該吸引的相互作用部分またはその近傍に固着される。処理する有機媒体の量やハロゲン化芳香族化合物の濃度、及び本発明の選択固着剤の量にもよるが、一般的には5時間〜数日間にわたり攪拌等による方法で接触させることができる。固着反応は常温で好適に行うことができ、必要に応じて加熱することもできる。例えば、50〜150℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜100℃の温度にまで加熱することができる。本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーは、特に低温下でもハロゲン化芳香族化合物を固着することができる点が有利である。
【0042】
このようにハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーに有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物が固着された後、ハロゲン化芳香族化合物が固着された当該ポリマー(または当該ポリマーを含む組成物)のみを分離する。分離は既存の固液分離技術を用いて行えばよく、例えば、遠心分離機、加圧濾過機を使用する方法があげられる。分離する際のフィルタは、市販のフィルタ、ガラスフィルタ、メンブレン、脱脂綿、金属、樹脂等を用いて行うことができる。本発明の選択固着剤に含まれる包接化合物類を分離することができる孔径のものであれば、いかなるフィルタ、メンブレンを用いても良いが、一般的な相互作用化合物の粒径を考慮して、孔径約0.1−100μmのものを使用することが好ましい。
【0043】
分離により得たハロゲン化芳香族化合物を固着した多孔質シクロデキストリンポリマーは、必要に応じて固着したハロゲン化芳香族化合物のみを脱離し、吸引的相互作用化合物に固着されたハロゲン化芳香族化合物又は前記脱離操作により得たハロゲン化芳香族化合物を、必要に応じて希釈した後、例えば化学抽出分解法などの化学的処理方法により分解処理を行うことができる。
【0044】
ハロゲン化芳香族化合物を固着した多孔質シクロデキストリンポリマーを分離した後に得られた有機媒体は、ハロゲン化芳香族化合物が実質的に完全に除去されている。したがって、ハロゲン化芳香族化合物が含まれているが故に従来は保管せざるをえなかった有機媒体を、再利用可能なものは再利用し、あるいは通常の方法、例えば焼却処分等により廃棄することができる。
【0045】
本発明の選択固着剤として、活性成分である、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを、たとえばシリカゲル、ポリマービーズ、イオン交換樹脂、発泡体、フィルム、メンブレン、各種格子状構造物及び網状構造物、多孔質物質などの担体に固定化させたものを好適に使用することができる。たとえばシリカゲル、ポリマービーズ又はイオン交換樹脂等の固体担体に本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーを担持させたものをカラム内に積層し、ここにハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を常圧下または加圧下にて流し、当該多孔質シクロデキストリンポリマーと相互作用させ、有機媒体中に含有されたハロゲン化芳香族化合物を効果的に除去することが可能となる。あるいはフィルタ、メンブレンなどの固体担体に本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーを担持させたものを用いて、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を常圧または減圧濾過することにより、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物をメンブレン又はフィルタに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を除去することが可能となる。あるいは発泡体、網状構造物、格子状構造物、多孔質物質などの固体担体に本発明の吸引的相互作用化合物を担持させたものをハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体中に投入して、当該固体担体の網状部分、格子状部分、あるいは孔部分に有機媒体を吸収させ、含有されたハロゲン化芳香族化合物を固着させ、ついで必要に応じて当該固体担体に圧力をかけて(たとえば搾る等の操作を行って)、ハロゲン化芳香族化合物が除かれた有機媒体を得ることができる。
【0046】
このように本発明のハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマーを固体担体に固定化させた組成物は、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体からバッチ処理にてハロゲン化芳香族化合物を除去する方法に用いられる他、連続的に処理する方法にも非常に好適に用いられる。
【0047】
本発明の選択固着剤として、活性成分である、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質シクロデキストリンポリマー自体を、カラムなどに充填し、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を常圧下または加圧下に流すことによって、有機媒体からハロゲン化芳香族化合物を除去することもまた可能である。
【0048】
このように本発明の選択固着剤は、有機媒体中に含有されたハロゲン化芳香族化合物を選択的に固着し、これを有機媒体中から除去することができる。本発明の選択固着剤を使用することにより、微量のハロゲン化芳香族化合物が溶解しているが故に保管せざるを得なかった有機媒体から、厳密な分解処理が必要なハロゲン化芳香族化合物のみを除去、濃縮することができるので、ハロゲン化芳香族化合物の分解処理効率が飛躍的に高まる一方、効率よく回収された安全な有機媒体は通常の方法で処理するか、再利用することが可能となる。本発明の選択固着剤を使用して、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を除去する方法は、有機媒体中に選択固着剤を投入・分散させ、攪拌などによりハロゲン化芳香族化合物を固着させ、これを分離するという比較的容易な方法であり、常温で行うことも可能であるため、ハロゲン化芳香族化合物が大気中に拡散するおそれのない、安全な方法である。本発明の選択固着剤として、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を各種固体担体に固定化させた物質を用いると、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を連続的に除去することが可能となる。