【文献】
S. HARUTA et al.,protein crystallization induced by strong photons-molecules coupling fields photochemical reaction,Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry,2011年 6月25日,Volume 221, Issues 2-3,Pages 268-272
【文献】
L. WANG et al.,Shape-Control of Protein Crystals in Patterned Microwells,Journal of the American Chemical Society,2008年,Vol.130, No.7,p.2142-2143
【文献】
D. JI et al.,Improved protein crystallization by vapor diffusion from drops in contact with transparent, self-assembled monolayers on gold-coated glass coverslips,JOURNAL OF CRYSTAL GROWTH,2000年,vol. 218,pages 390 - 398
【文献】
F. HODZHAOGLU et al.,Gold nanoparticles induce protein crystallization,CRYSTAL RESEARCH AND TECHNOLOGY,2008年,vol. 43, no. 6,pages 588 - 593
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(結晶化用容器、及び、結晶化用基板)
本発明の結晶化用容器は、貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造を有することを特徴とする。
また、本発明の結晶化用容器は、生体高分子の結晶化用容器として好適に用いることができる。
本発明の結晶化用基板は、貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造を有することを特徴とする。
また、本発明の結晶化用基板は、生体高分子の結晶化用基板として好適に用いることができる。
本発明の結晶化用容器、及び、本発明の結晶化用基板は、貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造を有することにより、簡便かつ効率的に結晶、好ましくは生体高分子結晶を製造することができる。
【0012】
本発明の結晶化用容器、及び、本発明の結晶化用基板を使用して結晶化させるものとしては、特に制限はなく、無機化合物であっても、有機化合物であっても、高分子化合物であってもよいが、生体高分子であることが好ましい。例えば、本発明の結晶化用容器、及び/又は、本発明の結晶化用基板を生体高分子の結晶化に使用する場合、特許文献1〜3に記載されている方法のように、生体高分子の溶液に強いレーザー光又は紫外光を照射すると、生体高分子が変性してしまう可能性があるため、強いレーザー光又は紫外光を照射することなく、結晶化を誘起させることが好ましい。
生体高分子として具体的には、ポリペプチド、蛋白質、及び、核酸(例えば、DNAなど。)、並びに、それらの誘導体等が例示できる。また、前記生体高分子には、合成ポリペプチドや合成蛋白質等の合成物も含まれる。また、ポリペプチドとしては、大腸菌、酵母、動物細胞における発現によって得た後に慣用的な方法で単離されたポリペプチド、又は、合成ポリペプチドを挙げることができる。前記誘導体には、例えば、糖蛋白質、DNAコンジュゲート等が含まれる。
また、前記生体高分子の(重量平均)分子量が1,000以上であることが好ましく、1,000以上100万以下がより好ましい。
これらの中でも、生体高分子としては、ポリペプチド、蛋白質及びこれらの誘導体が好ましく、蛋白質及びその誘導体(本発明において、単に「蛋白質」ともいう。)がより好ましい。また、蛋白質には、酵素も含まれる。
【0013】
本発明の結晶化用容器は、貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造(以下、単に「貴金属ナノ構造」ともいう。)を、容器表面に直接設けても、容器内に前記構造が設けられた構造体を有していてもよい。また、本発明の結晶化用容器は、前記構造体を有する場合、容器自体と前記構造体とが物理的又は化学的に結合していても、結合していなくともよい。具体的には、例えば、本発明の結晶化用容器中に前記構造体を接着してもよいし、前記構造体を容器中に単に入れるだけでもよい。
【0014】
本発明の結晶化用容器、又は、本発明の結晶化用基板に設けられる構造は、貴金属自体により形成しても、貴金属が被覆された被覆体により形成してもよいが、貴金属自体により形成することが好ましい。すなわち、本発明の結晶化用容器、又は、本発明の結晶化用基板は、貴金属を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造を少なくとも有することが好ましい。
前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造における貴金属としては、金、銀、白金、及び/又は、これらの合金であることが好ましく、金、銀、又は、白金であることがより好ましく、金であることが特に好ましい。
前記貴金属が被覆された被覆体は、その一部が貴金属により被覆されていればよく、設けられている容器又は基板と接する面以外の表面が貴金属により被覆されていることが好ましい。また、前記被覆体の内部は、特に制限はなく、金属であっても、ガラスであっても、被覆する貴金属以外の種類の貴金属であってもよい。
【0015】
本発明の結晶化用容器、又は、本発明の結晶化用基板において、前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体は、少なくとも2つが1〜1,000nmの間隔で配置されており、少なくとも2つが1〜750nmの間隔で配置されていることが好ましく、少なくとも2つが1〜500nmの間隔で配置されていることがより好ましく、少なくとも2つが1〜300nmの間隔で配置されていることが更に好ましい。
【0016】
前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体の形状は、特に制限はなく、任意の形状であればよい。例えば、多角柱状、円柱状、多角錐状、円錐状、粒子状、不定形状などが挙げられるが、多角柱状、円柱状、又は、粒子状であることが好ましく、多角錐状であることがより好ましく、正方体状、又は、直方体状であることが更に好ましい。
前記貴金属及び/又はその合金の高さ(設けられている容器又は基板からの高さ)が、1〜1,000nmであることが好ましく、5〜500nmであることがより好ましく、10〜100nmであることが更に好ましい。
また、前記構造が設けられている容器又は基板の表面に対し、鉛直方向から投影した前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体の投影面積より求めた円相当径(直径)は、1〜500nmであることが好ましく、10〜300nmであることがより好ましく、20〜200nmであることが更に好ましい。
また、前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体の縦及び横(設けられている容器又は基板の表面と平行な面方向における縦及び横)の最大長さはそれぞれ独立に、1〜1,000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましく、50〜300nmであることが更に好ましい。
【0017】
前記貴金属ナノ構造における前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体は、1〜1,000nmの間隔で少なくとも2つが配置されていれば、特に制限はないが、基板上の少なくとも0.1mm×0.1mmの領域内に形成されていることが好ましく、基板上の少なくとも0.5mm×0.5mmの領域内に形成されていることがより好ましく、基板上の少なくとも1mm×1mmの領域内に形成されていることが更に好ましい。
前記貴金属ナノ構造における前記貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体の数は、2以上であり、4〜100,000であることが好ましく、9〜10,000であることがより好ましい。
また、本発明の結晶化用容器、又は、本発明の結晶化用基板は、前記貴金属ナノ構造を1つのみ有していても、2以上有していてもよい。
【0018】
本発明の結晶化用容器の形状は、前記貴金属ナノ構造と、結晶化させるものを含む溶液とを接触させることができる形状の容器であれば、特に制限はなく、所望の形状であればよい。また、本発明の結晶化用基板の形状は、特に制限はなく、平板状であっても、平板状でなくともよく、所望の形状であればよい。
また、本発明の結晶化用容器は、結晶化時における結晶化させるものを含む溶液の蒸発を抑制するため、密閉可能な容器であることが好ましい。
本発明の結晶化用基板における前記貴金属ナノ構造を形成する基板としては、特に制限はないが、結晶生成の確認や光照射を行いやすい点から、透明基板であることが好ましく、ガラス基板であることがより好ましい。
【0019】
本発明の結晶化用容器、及び、本発明の結晶化用基板の具体例としては、
図1及び
図2に示すものが好ましく例示できる。
図1は、本発明の結晶化用基板の一例を示す上面模式図であり、
図2は、
図1の結晶化用基板における貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造の一例を示す上面模式図である。
図1に示す結晶化用基板10は、貴金属を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造(貴金属ナノ構造)12を円形の基板14上の中央部の0.5mm×1.0mmの領域に形成したものである。
図2は、
図1に形成した貴金属ナノ構造12の一部を拡大した上面模式図であり、
図2に示す貴金属ナノ構造12は、貴金属16が100nm×100nm×高さ30nm(不図示)の直方体状に形成されており、各貴金属は縦横それぞれ200nmの間隔で基板14上に形成されている。
【0020】
また、
図3は、本発明における貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造の他の一例を示す上面模式図である。
図3に示す貴金属ナノ構造12は、貴金属16が100nm×50nm×高さ40nm(不図示)の直方体状に形成されており、各貴金属は縦横それぞれ300nmの間隔で基板14上に形成されている。
【0021】
(結晶の製造方法)
本発明の結晶の製造方法は、本発明の結晶化用容器を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう。)、及び、前記構造と被結晶化物質の溶液とを接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう。)、を含む。
また、本発明の結晶の製造方法は、生体高分子結晶の製造方法として好適に用いることができる。また、前記被結晶化物質の溶液は、生体高分子溶液であることが好ましい。
本発明の結晶の製造方法は、結晶生成をより促進させる観点から、被結晶化物質の溶液と接触している前記構造に光を照射する工程(以下、「光照射工程」ともいう。)を更に含むことが好ましい。
また、本発明の結晶の製造方法は、前記接触工程、又は、前記光照射工程の後、前記被結晶化物質の溶液を保管する工程(以下、「保管工程」ともいう。)を更に含むことが好ましい。
【0022】
<準備工程>
本発明の結晶の製造方法は、本発明の結晶化用容器を準備する工程(準備工程)を含む。
前記準備工程における本発明の結晶化用容器は、貴金属ナノ構造を、容器表面に直接設けても、容器内に前記構造が設けられた構造体を有していてもよい。
本発明の結晶化用容器、又は、本発明の結晶化用基板における貴金属ナノ構造の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、公知の半導体微細加工技術により形成することができる。具体的には、基板の表面にレジストをコートして、レジストに、所望の貴金属ナノ構造の形状を電子線で描画し、描画を現像して貴金属ナノ構造の形状に合わせて基板を露出させ、現像面上から貴金属をスパッタリングして貴金属膜を形成して、レジストとともに不要な金属膜を除去することにより形成する方法が例示できる。
前記レジストとしては、公知のものを用いることができる。また、レジストの膜厚は200nm以下とすることが好ましい。また、膜厚を薄くするためにはコートするレジスト溶液の濃度を下げることが好ましい。また、前記描画時における電子線の加速電圧は100〜200kVであることが好ましい。また、露光のドーズレートについては、特に制限はなく、適宜選択すればよい。さらに、描画されたレジストを除去するための現像時間は、レジストを十分除去できる時間であればよく、例えば、前記各条件に応じて適宜決定すればよい。
また、貴金属ナノ構造の形成方法は、特開2007−71667号公報、及び、特開2008−6575号公報等を参照することもできる。
【0023】
<接触工程>
本発明の結晶の製造方法は、本発明の結晶化用容器における貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造と被結晶化物質の溶液とを接触させる工程(接触工程)を含む。
前記接触工程においては、前記構造と被結晶化物質の溶液とを接触させる以外は、特に制限はない。
「被結晶化物質の溶液」とは、被結晶化物質と、前記被結晶化物質を溶解する溶媒とを含む液であればよいが、被結晶化物質が完全に溶解した溶液であることが好ましい。
被結晶化物質の溶液に使用する溶媒は、使用する被結晶化物質に応じてそれぞれ独立に選択でき、水、有機溶媒、又は、水及び水と混合する有機溶媒(水性有機溶媒)の混合物などが例示できる。
この中でも、生体高分子を被結晶化物質として使用する場合、緩衝液であることが好ましく、酢酸緩衝液、CAPS緩衝液、HEPES緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、又は、Tris緩衝液であることがより好ましい。また、両性電解質である生体高分子の場合に、その等電点近傍にpHを調整した生体高分子溶液に光照射することが好ましく、また、このpHを調整した混合液を調製することも好ましい。
【0024】
被結晶化物質の溶液中における被結晶化物質の濃度については、特に制限はなく、例えば、飽和濃度の1〜100%である溶液又は過飽和の溶液が例示できる。飽和濃度の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、飽和濃度であるか、又は、過飽和であることが特に好ましい。
また、溶液濃度を維持するため、溶質である被結晶化物質の補充、温度の低下、及び/又は、沈殿剤の追加等を行ってもよい。
【0025】
また、本発明における被結晶化物質の溶液は、結晶化剤を含有していてもよい。
本発明における「結晶化剤」とは、被結晶化物質、好ましくは生体高分子の溶解度を下げる働きをする化合物を意味し、沈殿剤、pH緩衝剤、その他高分子の結晶化に使用される添加剤等の化合物が挙げられる。
本発明に用いることができる結晶化剤としては、塩類、有機溶媒、水溶性高分子等が例示でき、公知のものを用いることができる。また、使用する結晶化剤の種類は、使用する被結晶化物質に応じて適宜選択すればよい。
塩類としては、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、有機酸塩、及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物などを用いることができ、具体的には、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、及び、クエン酸ナトリウムが例示できる。
有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒を例示できる。具体的には、例えば、2−メチル−2,4−ペンタジオール(MPD)やエタノール、プロパノールジオキサンなどを用いることができる。
水溶性高分子としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどが例示できる。
結晶化剤の添加量は、特に制限はなく、使用する被結晶化物質及び使用する結晶化剤の種類に応じ、適宜設定すればよい。
【0026】
本発明に用いることができる生体高分子は、より容易に結晶を作製することができるため、その純度及び均質性が高いことが好ましい。このため、本発明の生体高分子結晶の製造方法は、結晶の製造に先立って、生体高分子を精製する工程を含むことが好ましい。
結晶化前の生体高分子の精製は、公知の方法により行うことができ、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、慣用のクロマトグラフィー、rpHPLC、FPLC等によって行うことが好ましい。
また、核酸の結晶を製造する場合においては、公知の単離法により単離した後、精製により純度を高めた後に結晶化させることが好ましい。
また、蛋白質においては、公知の方法により純度を高め、等電点電気泳動法又は光散乱法等により純度を確認した後に結晶化させることが好ましい。
【0027】
また、被結晶化物質や溶媒、結晶化剤以外にも、必要に応じて、被結晶化物質の溶液に公知の添加剤を添加してもよい。ただし、保管工程においては、結晶化に影響が出ないよう配慮する必要があることは言うまでもない。
また、添加は1回で行っても、複数回に分けて行ってもよい。
【0028】
<光照射工程>
本発明の結晶の製造方法は、被結晶化物質の溶液と接触している、貴金属及び/又は貴金属が被覆された被覆体を1〜1,000nmの間隔で2以上配置した構造に光を照射する工程(光照射工程)を更に含むことが好ましい。
本発明における「光」とは、紫外光や可視光、赤外光などの電磁波であればよい。
前記光照射工程において照射する光の波長は、特に制限はないが、400nmより長波長であることが好ましく、450〜2,000nmであることがより好ましく、500〜1,500nmであることが更に好ましく、500〜1,200nmであることが特に好ましい。
また、前記光照射工程において照射する光は、少なくとも可視光及び/又は近赤外光を含むことが好ましく、可視光及び/又は近赤外光のみであることがより好ましい。
本発明における可視光は、波長400nm〜780nmであることが好ましい。
本発明における近赤外光は、波長780nmを超え2,500nm以下であることが好ましく、波長780nmを超え2,000nm以下であることがより好ましい。
また、前記光照射工程において照射する光は、単色光でも連続光でもよい。
照射する光の強度は、適宜選択できるが、通常は、数μWないし数100Wの範囲にある強度の光を用いることができる。
光照射は、定常光でもよく、パルス光でもよい。必要に応じて、照射強度、1パルス当たりのエネルギー、パルス間隔等を変化させることもできる。
光照射は、定常光を連続して照射することが好ましいが、間歇的に又は途中中断して行ってもよい。
前記光照射工程における光の照射時間は、特に制限はなく、結晶が生成するまで連続的に又は間歇的に照射してもよい。
【0029】
<静置工程>
本発明の結晶の製造方法は、前記接触工程、又は、前記光照射工程の後、前記被結晶化物質の溶液を保管する工程(保管工程)を更に含むことが好ましい。
また、前記光照射工程と同時に保管工程を行ってもよい。例えば、光照射を行いながら被結晶化物質の溶液を静置して結晶を生成させてもよい。
保管時間は、被結晶化物質の成長が十分に行われる条件の下で適宜選択することができ、例えば、被結晶化物質や結晶化剤、使用した溶媒の種類や、結晶生成の有無、生成した結晶の大きさ等を考慮して、適宜決定すればよい。
保管時の温度は、被結晶化物質の結晶化を妨げる温度でなければ、特に制限はない。また、保管時の温度は、一定温度に保っても、変化してもよいが、温度変化が1℃以内であることが好ましい。
また、保管工程における被結晶化物質の溶液は、密閉容器に入れて保管しても、非密閉容器に入れて保管してもよい。容器内外において、雰囲気中の溶媒量、例えば、湿度は、必要に応じ、適宜設定することができる。また、容器内外の雰囲気は、使用する被結晶化物質の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、大気雰囲気下であっても、窒素雰囲気下であっても、アルゴン雰囲気下であってもよい。
【0030】
また、保管工程では、静置して保管しても、撹拌しながら保管しても、連続的、間歇的又は一時的に振動を与えてもよい。撹拌しながら保管する、及び/又は、振動を与えることにより、大粒の結晶を得られることがある。
保管工程における撹拌の振動数は、10rpm以300rpm以下であることが好ましく、20rpm以上100rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上60rpm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
<判定工程>
本発明の結晶の製造方法は、前記溶液中に生成した結晶の有無を判定する工程を更に含むことが好ましい。
判定工程における結晶の有無を判定する方法としては、特に制限はないが、目視により観察する方法、又は、画像処理や光学的手法を用いたセンサーを使用する方法が好ましく例示できる。
判定工程は、必要に応じ、定期的に行うことが好ましく、例えば、保管開始後、1日後、2日後、3日後、5日後、7日後、30日後、60日後及び90日後にそれぞれ判定工程を行ってもよい。
また、結晶の有無を確認した後、結晶が生じていない場合には、結晶が生成していない前記溶液に対し、更に光照射工程を行ってもよい。また、必要に応じて、結晶が生成するまで前記光照射工程、及び、前記保管工程を何度も繰り返してもよい。
【0032】
本発明の結晶の製造方法において、前記溶液中に生成した結晶は、任意の方法により分離すればよい。具体的には、濾紙やフィルター等を用いて濾過する方法や、ピンセット等により結晶を採取する方法などが例示できる。
得られた結晶は、必要に応じ、洗浄を行ったり、乾燥を行ったり、大きさや形状を加工したり、また、再結晶を行ってもよい。
【0033】
また、本発明の結晶の製造方法における結晶化の形式は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。特に、生体高分子の結晶化を行う場合には、例えば、ハンギングドロップ蒸気拡散法、シッティングドロップ蒸気拡散法、ミクロ透析法、自由界面拡散法、保管バッチ法等の方法を好適に用いることができる。
その他の生体高分子の結晶化を促進する条件は、前掲の日本生化学会編、新生化学実験講座1「蛋白質I−分離・精製・性質−」、高野常弘氏執筆、第14章「結晶化」、及び、A. McPherson著、“Preparation and Analysis of Protein Crystals”(John Wiley & Son, Inc.)を参照することができる。
【0034】
本発明の結晶の製造方法に使用することができる装置としては、特に制限はなく、公知の手段や装置を組み合わせてもよい。
本発明の結晶の製造方法に使用することができる装置は、光を照射する手段、及び、保管手段を備えていることが好ましく、必要に応じて、溶液調製手段や、温度調節手段、湿度調節手段、撹拌手段、振動手段、結晶有無の判定手段、添加剤添加手段など各種の手段を具備させることができる。
また、本発明の結晶の製造方法には、必要な手段を1以上有する装置を2以上組み合わせて使用してもよく、必要な全ての手段が備わった単一の装置を使用してもよい。
【0035】
振動手段としては、公知の振動、撹拌、超音波発生手段等を用いることができる。
振動手段における振動子としては、圧電振動子、吸引力、電磁力など、様々な構成のものが挙げられ、振動を与えられるものであれば特に制限はない。
生体高分子溶液に振動を与える方法としては、例えば、生体高分子が溶解した溶液を入れた容器を振動している振動手段に接触させる方法、生体高分子が溶解した溶液を入れた容器をプレートに固定し、プレート全体を振動させる方法等が挙げられる。
【0036】
また、光照射手段としては、例えば、光源、及び、光を前記溶液まで導くための光学系より構成することができる。光源から照射試料まで光を導く光路に用いられる、レンズ、ミラー等の光学部品が光を効率よく透過あるいは反射するものを用いることが好ましい。
前記光源には、前述した定常点灯光源やレーザー光源を好適に用いることができる。
前記光学系には、適宜、反射鏡、集光レンズ、光フィルター、赤外線遮断フィルター、光ファイバー、導光板、非線形光学素子等の光学部材を使用することができる。
【0037】
温度調節手段としては、公知の加熱手段や冷却手段、及び、これらの組み合わせを例示でき、また、温度の検出は、生体高分子溶液や混合液等の内部温度を検出しても、周囲の外気温を検出してもよい。また、温度調節手段は、必要な温度調節を行うプログラム回路を備えていてもよい。
【0038】
また、本発明の結晶の製造方法に使用することができる装置は、必要に応じて、前記溶液中における結晶核の生成、溶液のpH等を検出し、また、これらを制御するための装置、回路、プログラムを具備していてもよい。結晶条件の検出及び制御のためには、複数の結晶条件検出用セルを1チップ化した装置とすることが好ましい。このような検出チップは、特開2001−213699号公報に記載されているように、半導体装置の一般的な製造プロセスにより製造することができる。
また、本発明の結晶、特に生体高分子結晶の製造方法に使用することができる装置に、特開平6−116098号公報に記載されているような、結晶核の生成又は結晶成長には寄与しないが、結晶核の生成状況を検出するための生体高分子が吸収しない長波のレーザー光を使用する手段を備えることもできる。
【0039】
本発明の結晶の製造方法によって得られた生体高分子結晶は、X線結晶構造解析のための試料に供されるばかりでなく、一般に保存安定性が極めて高いので、予防用又は治療用剤形として医薬組成物に使用することが可能であり、生体高分子が結晶型であることにより特に有利な投与が可能になる。生体高分子結晶は、例えば経口、皮下、皮内、腹腔内、静脈内、筋肉内等の投与に適当である。本発明の結晶の製造方法によって得られた生体高分子結晶は、活性物質として、結晶化された生体高分子の薬理学的有効量、及び、必要に応じて1種又は2種以上の慣用の医薬的に許容される担体からなる医薬組成物に好適に用いることができる。
【0040】
また、本発明の結晶の製造方法によって得られた生体高分子結晶は、原理的に、多くの生体高分子について知られているのと同じ方法で、医薬製剤中に、例えば薬理学的に有効な生体高分子0.001μg/kg体重〜100mg/kg体重の1日用量を投与するためのデポ製剤として使用することができる。したがって、広範囲の様々な生体高分子が本発明によって結晶化された形態で、例えば治療剤デポ製剤、抗原デポ製剤、DNAデポ製剤又は糖デポ製剤として使用できる。結晶中に含有される結晶化補助剤はしかも、アジュバント(ワクチン接種において)として使用される。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に示すカバーガラス(直径22mm、厚さ0.2mm)を用意した。カバーガラスの中央における0.5mm×1.0mmの領域には、金ナノ構造が構築してある。金ナノ構造は、
図2に示すように高さ30nm、一辺が100nmの正方形の直方体構造が間隔200nmを空けてチェッカーボード模様に繰り返し構築してある。
この金ナノ構造を覆うように10マイクロリットルの蛋白質溶液を滴下した。
用いた蛋白質溶液の組成は、15mg/mLニワトリ卵白リゾチーム、0.7M塩化ナトリウムを含むpH4.3の50mM酢酸ナトリウム緩衝溶液からなる。
蛋白質溶液を滴下したカバーガラスをバッチプレート(96穴蒸気拡散用バッチプレート、ハンプトンリサーチ社製DI−038)内に置いた。バッチプレート内には滴下した蛋白質溶液と同じ濃度の塩化ナトリウムを含むリザーバー溶液をカバーガラスの周辺に滴下し、バッチプレートの蓋をして蛋白質溶液の蒸発が起こらないようにした。
光照射は、キセノンランプ光(ウシオ電機(株)製300Wキセノンランプ)を用いた。キセノンランプ光の放射光のうち、赤外光吸収用に水フィルター、紫外光吸収用に400nmのカットフィルターを通した光を照射した。バッチプレート内のカバーガラス上の溶液にキセノンランプ光を30分間照射し、20℃のインキュベーター内で7日間静置した。
静置後、溶液から出現した蛋白質の結晶の数は、約4,000個であった。当該結晶は、ニワトリ卵白リゾチームの正方晶の結晶であった。結果を
図4、及び、
図4の部分拡大図である
図5に示す。
【0043】
(比較例1)
金ナノ構造を有するカバーガラスを金ナノ構造のないカバーガラスに変更し、さらに、キセノンランプ光による光照射を行わなかった以外は、実施例1と同様に行った。
静置後、溶液から出現した蛋白質の結晶の数は、1個であった。当該結晶は、ニワトリ卵白リゾチームの正方晶の結晶であった。結果を
図6に示す。
【0044】
(比較例2)
金ナノ構造を有するカバーガラスを金ナノ構造のないカバーガラスに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
静置後、溶液から出現した蛋白質の結晶の数は、1個であった。当該結晶は、ニワトリ卵白リゾチームの正方晶の結晶であった。結果を
図7に示す。
【0045】
(実施例2)
キセノンランプ光による光照射を行わなかった以外は、実施例1と同様に行った。
静置後、溶液から出現した蛋白質の結晶の数は、20個であった。当該結晶は、ニワトリ卵白リゾチームの正方晶の結晶であった。結果を
図8、及び、
図8の部分拡大図である
図9に示す。
【0046】
(比較例3及び4)
一辺が100nmの正方形の金ナノ構造を一個だけ中央に配置したカバーガラスを2枚用意した。
金ナノ構造以外のカバーガラスの形状は、実施例1で使用したものと同様である。このナノ構造の上にタンパク溶液を滴下し、バッチプレート上に静置した。バッチプレートにはリザーバー溶液を加え、蓋をした。
片方のカバーガラスに、実施例1と同様な方法で、30分間キセノンランプ光を照射した(比較例3)。また、もう片方のカバーガラスは、対照試料として光照射を行わなかった(比較例4)。数日後に観察したところ、どちらの液滴からも結晶は出現しなかった。キセノンランプ光を照射した比較例3の結果を
図10に示し、キセノンランプ光を照射しなかった比較例4の結果を
図11に示す。