特許第5747699号(P5747699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5747699フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び該シランを含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747699
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び該シランを含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20150625BHJP
   C07F 7/21 20060101ALI20150625BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20150625BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20150625BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C07F7/18 Z
   C07F7/21
   C09K3/18 104
   C08G65/336
   C03C17/30 B
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-153966(P2011-153966)
(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公開番号】特開2013-18743(P2013-18743A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2013年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】山根 祐治
(72)【発明者】
【氏名】小池 則之
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−029585(JP,A)
【文献】 特開平11−005797(JP,A)
【文献】 特開平04−183790(JP,A)
【文献】 特開2010−163416(JP,A)
【文献】 特開2003−238577(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/009296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C07F 7/21
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rfは2価のフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、Zは下記式で示される基
【化2】
【化3】
【化4】
から選ばれる2〜6価の基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる加水分解性基であり、aは独立に2〜5の整数、bは独立に2又は3、yは単位毎に独立に1〜5の整数であり、αは1〜5の整数、βは2である。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【請求項2】
前記フルオロオキシアルキレンポリマー残基が、下記一般式
【化5】
(gは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位3〜201個を含むことを特徴とする請求項1記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【請求項3】
前記式(1)のβが2であり、Rf基が下記一般式(5)、(6)及び(7)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【化6】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基であり、dは独立に1〜3の整数、eは2〜6の整数、r、tはそれぞれ0〜200の整数で、r+t+s=3〜200、sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【化7】
(式中、mは3〜200の整数、dは1〜3の整数である。)
【化8】
(式中、Yは独立にF又はCF3基であり、dは1〜3の整数、p、qはそれぞれ0〜200の整数で、p+q=3〜200であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。
【請求項5】
請求項に記載の表面処理剤で処理された物品。
【請求項6】
請求項に記載の表面処理剤で処理された光学物品。
【請求項7】
請求項に記載の表面処理剤で処理されたタッチパネル。
【請求項8】
請求項に記載の表面処理剤で処理された反射防止フイルム。
【請求項9】
請求項に記載の表面処理剤で処理されたSiO2処理ガラス。
【請求項10】
請求項に記載の表面処理剤で処理された強化ガラス。
【請求項11】
請求項に記載の表面処理剤で処理された石英基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランに関し、詳細には、撥水撥油性、耐薬品性に優れた被膜を形成するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン、及び該シランあるいはその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で処理された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のディスプレイをはじめ、画面のタッチパネル化が加速している。しかし、タッチパネルは画面がむき出しのものが多く、指や頬などが直接付着する機会が多く、皮脂等の汚れが付き易いことが問題となっている。そこで、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落とし易くする技術の要求が年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれている。しかし、従来の撥水撥油層は撥水撥油性が高く、汚れ拭取り性に優れるが、使用中に防汚性能が劣化してしまうという問題点があった。防汚性能の劣化原因のひとつとして、耐薬品性が挙げられる。
【0003】
一般に、パーフルオロオキシアルキレン基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、工業的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性であることを意味しており、基材表面に塗布することはできても、その被膜を密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとして、シランカップリング剤が良く知られており、各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基が、空気中の水分などによって自己縮合反応を起こして被膜を形成する。該被膜は、アルコキシシリル基がガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することにより耐久性を有する強固な被膜となる。
【0005】
これらを有するものとして、特許文献1(特開2003−238577号公報)に、下記式で示される直鎖状のパーフルオロオキシアルキレン基を含有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランが提案されている。該パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランで処理したレンズや反射防止膜は、滑り性、離型性、及び耐摩耗性に優れるが、パーフルオロオキシアルキレン基とアルコキシシリル基との連結基として、アリルエーテル基が用いられているため、耐薬品性が十分でない。
【0006】
【化1】
(式中、Rfは2価の直鎖型パーフルオロポリエーテル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、lは0〜2、mは1〜5の整数、aは2又は3である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−238577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐薬品性に優れた撥水撥油層を形成することができるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン、該シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
タッチパネルディスプレイ等の表面に被覆する撥水撥油層は、指紋や洗浄剤等に含まれる酸やアルカリ、塩水に対して耐性を有することが望ましい。
本発明者らは先に、上述したように、両末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを提案している(特開2003−238577号公報:特許文献1)が、該組成物から形成される膜は、耐薬品性が十分でない。
主鎖にフルオロオキシアルキレン構造を有し、分子鎖の片末端又は両末端に加水分解性基を含有するポリマーは、これを表面処理剤として用いた場合に、基材と強固に密着し、布等による耐摩耗性に優れるものとなるが、フルオロオキシアルキレン基とアルコキシシリル基との連結基、例えば、−CF2CH2−O−CH2−のエーテル結合等は、耐薬品性に劣る。
そこで、本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、上記連結基として、−CF2−CONPh−CH2−(Phはフェニル基)を用いたフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを含有する表面処理剤が、耐薬品性に優れた撥水撥油層を形成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び該シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品を提供する。
〔1〕
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rfは2価のフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、Zは下記式で示される基
【化2】
【化3】
【化4】
から選ばれる2〜6価の基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる加水分解性基であり、aは独立に2〜5の整数、bは独立に2又は3、yは単位毎に独立に1〜5の整数であり、αは1〜5の整数、βは2である。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
〔2〕
前記フルオロオキシアルキレンポリマー残基が、下記一般式
【化5】
(gは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位3〜201個を含むことを特徴とする請求項1記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。

前記式(1)のβが2であり、Rf基が下記一般式(5)、(6)及び(7)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【化6】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基であり、dは独立に1〜3の整数、eは2〜6の整数、r、tはそれぞれ0〜200の整数で、r+t+s=3〜200、sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【化7】
(式中、mは3〜200の整数、dは1〜3の整数である。)
【化8】
(式中、Yは独立にF又はCF3基であり、dは1〜3の整数、p、qはそれぞれ0〜200の整数で、p+q=3〜200であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)

請求項1〜のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。

請求項に記載の表面処理剤で処理された物品。

請求項に記載の表面処理剤で処理された光学物品。

請求項に記載の表面処理剤で処理されたタッチパネル。

請求項に記載の表面処理剤で処理された反射防止フイルム。

請求項に記載の表面処理剤で処理されたSiO2処理ガラス。
10
請求項に記載の表面処理剤で処理された強化ガラス。
11
請求項に記載の表面処理剤で処理された石英基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランから形成される被膜は、撥水撥油性が高い。本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤で処理することによって、各種物品に優れた撥水撥油性を付与することができ、薬品に対する耐性が高く、長期に防汚性能を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランは、下記一般式(1)で示されるものである。
【化10】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、Zは独立にシロキサン結合を有してもよい2〜6価の基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に加水分解性基であり、aは独立に2〜5の整数、bは独立に2又は3、yは単位毎に独立に1〜5の整数であり、αは1〜5の整数、βは1又は2である。)
【0013】
本発明のフルオロオキシアルキレンポリマー変性シランは、1価又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基(−Si(R)3-b(X)b)が、連結基−CF2−CONPh−CH2−(Phはフェニル基、以下同じ。)を介して結合した構造であることを特徴としており、上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基(−Si(R)3-b(X)b)が、エーテル結合や、−CF2−CONH−結合、−CF2−CONCH3−Ph−結合等を介して連結している場合に比較して耐薬品性に優れている。
【0014】
前記式中、1価又は2価のフルオロオキシアルキレンポリマー残基(Rf)は、下記一般式で表される繰り返し単位3〜201個、好ましくは6〜101個、より好ましくは25〜81個を含む。なお、各繰り返し単位は互いにgの値が異なっていてよく、好ましくはgが1〜4の整数である。
【化11】
(gは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
【0015】
上記一般式で示される繰り返し単位としては、例えば下記の単位等が挙げられる。なお、上記Rf基は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF32O−
【0016】
上記繰り返し単位を含むRfとして、βが1の場合、下記一般式(2)、(3)及び(4)で示される基から選ばれる1価のフルオロオキシアルキレン基が好ましい。
【0017】
【化12】
(式中、Yは独立にF又はCF3基であり、mは3〜200、好ましくは10〜100の整数、dは1〜3の整数、好ましくは2又は3である。)
【化13】
(式中、mは3〜200、好ましくは10〜100の整数、dは1〜3の整数、好ましくは2又は3である。)
【化14】
(式中、Yは独立にF又はCF3基であり、p、qはそれぞれ0〜200、好ましくは10〜100の整数で、p+q=3〜200、好ましくは10〜100であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。また、dは1〜3の整数、好ましくは1又は2である。)
【0018】
上記繰り返し単位を含むRfとして、βが2の場合、下記一般式(5)、(6)及び(7)で示される基から選ばれる2価のフルオロオキシアルキレン基が好ましい。
【0019】
【化15】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基であり、dは独立に1〜3の整数、好ましくは2又は3、eは2〜6の整数、好ましくは2又は3、r、tはそれぞれ0〜200、好ましくは10〜100の整数で、r+t+s=3〜200、好ましくは10〜100、sは0〜6、好ましくは2〜4の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0020】
【化16】
(式中、mは3〜200、好ましくは10〜100の整数、dは1〜3の整数、好ましくは2又は3である。)
【0021】
【化17】
(式中、Yは独立にF又はCF3基であり、dは1〜3の整数、好ましくは1又は2、p、qはそれぞれ0〜200、好ましくは10〜100の整数で、p+q=3〜200、好ましくは10〜100であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0022】
上記式(1)において、Zは末端に
【化18】
(式中、aは上記と同じである。)
で示される構造を有するRf基とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を含む加水分解性シリルアルキル基(−Cy2y−Si(R)3-b(X)b)との、シロキサン結合を有してもよい2〜6価の連結基であり、エーテル結合等の耐薬品性が悪い連結基は含まれないことが望ましい。分子中にシロキサン結合を有することにより耐摩耗性、耐擦傷性に優れたコーティングを与えることができる。好ましいZとしては、ケイ素原子数が2〜10個、好ましくは2〜9個、特に2〜6個の直鎖状、分岐状又は環状オルガノポリシロキサン残基であり、例えば下記の基が挙げられる。
【0023】
【化19】
【0024】
【化20】
【0025】
【化21】
【0026】
上記式(1)において、Xは互いに異なっていてよい加水分解性基である。このようなXとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0027】
上記式(1)において、Rは、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。aは2〜5の整数、好ましくは2又は3であり、bは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。yは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。
【0028】
上記式(1)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランとしては、下記式で表されるものが例示できる。なお、各式において、フルオロオキシアルキレン基を構成する各繰り返し単位の繰り返し数(又は重合度)は、上記式(2)〜(7)を満足する任意の数をとり得るものである。
【0029】
【化22】
【0030】
【化23】
【0031】
【化24】
【0032】
【化25】
【0033】
上記式(1)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの調製方法としては、例えば下記のような方法が挙げられる。
分子鎖両末端又は片末端に酸フロライド基(−C(=O)−F)を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと、下記式
【化26】
で示されるN−[3−(ビニルジメチルシリル)プロピル]アニリンを酸フロライドと等モル量をフラスコに入れ、トリエチルアミンと溶剤、例えば1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンを混合し、50℃で120分反応させる。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去し、分子鎖両末端又は片末端に脂肪族不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを得る。例えば、パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとして、
【化27】
を使用した場合には、下記構造の末端ビニルジメチルシリル変性のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。
【化28】
【0034】
次に、上記工程で得られた化合物を溶剤、例えば、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンに溶解させ、トリメトキシシラン等の、分子中にSiH基を1個有すると共に、アルコキシ基等の加水分解性基を2個又は3個有するシラン化合物を、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液存在下、80℃で8時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、例えば下記式で示されるような目的の化合物を得ることができる。
【化29】
【0035】
本発明は、更に上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを含有する表面処理剤を提供する。該表面処理剤は、該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0036】
表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、フッ素変性カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫、フッ素変性カルボン酸などが望ましい。
加水分解縮合触媒の添加量は触媒量であり、通常、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0037】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフルオライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0038】
上記溶剤はその2種以上を混合してもよく、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及びその部分加水分解縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶剤に溶解させるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの最適濃度は、処理方法により異なるが溶剤及びフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン(及びその部分加水分解縮合物)の合計100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.05〜5質量部であることが好ましい。
【0039】
本発明の表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。蒸着処理時の加熱方法は、抵抗加熱方式でも、電子ビーム加熱方式のどちらでもよく、特に限定されるものではない。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、刷毛塗りやディッピングで施与した場合は、室温から200℃の範囲が望ましい。硬化湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1〜20nm、特に1〜10nmである。
【0040】
本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は前記基板に撥水撥油性を付与することができる。特に、SiO2処理されたガラスやフイルムの表面処理剤として好適に使用することができる。
【0041】
本発明の表面処理剤で処理される物品としては、カーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品が挙げられる。本発明の表面処理剤は前記物品に指紋及び皮脂が付着するのを防止し、更に傷つき防止性を付与することができるため、特にタッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなどの撥水撥油層として有用である。
【0042】
また、本発明の表面処理剤は、浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の防汚コーティング、自動車、電車、航空機などの窓ガラス又は強化ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング、外壁用建材の撥水撥油コーティング、台所用建材の油汚れ防止用コーティング、電話ボックスの防汚及び貼り紙・落書き防止コーティング、美術品などの指紋付着防止付与のコーティング、コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング、金型用に離型剤あるいは塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性改質剤又は分散性改質剤、テープ、フイルムなどの潤滑性向上剤としても有用である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0044】
参考例1]
反応容器に、下記式(I)
【化30】
で表される化合物100g(2.3×10-2mol)と、下記式(II)
【化31】
で表される化合物2.1g(2.3×10-2mol)をフラスコに入れ、ここに、トリエチルアミン2.5gと1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン10gを混合してフラスコに入れ、50℃で120分反応させた。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去し、下記式(III)
【化32】
で表される末端に不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(III)97.8gを得た。
【0045】
次に、上記工程と同様にして得られた式(III)で表される化合物100g(2.2×10-2mol)、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン20g、トリメトキシシラン3.3g(2.7×10-2mol)、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.05g(Pt単体として1.2×10-2molを含有)を混合し、80℃で8時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去したところ、液状の生成物100.2gを得た。
【0046】
得られた化合物は、NMRにより下記構造であることが確認された。
【化33】
【0047】
参考例2]
参考例1で用いた式(III)で表される化合物30g(6.6×10-3mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン20gに溶解させ、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10-8molを含有)と、テトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)の1:1付加反応物(HM−VMS)2.5g(8.9×10-3mol)を滴下して、90℃で2時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去したところ、液状の生成物30.8gを得た。
【0048】
なお、上記HM−VMSは下記の方法で調製した。
テトラメチルジシロキサン(HM)40g(3.0×10-1mol)とトルエン40gとを混合し、80℃に加熱した。ビニルトリメトキシシラン(VMS)44.2g(3.0×10-1mol)と塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2g(Pt単体として1.1×10-7molを含有)の混合物をゆっくりと滴下した。得られた混合物を蒸留精製し、下記式に示す付加反応物(HM−VMS)84gを得た。
【化34】
【0049】
参考例2で得られた化合物は、NMRにより下記構造であることが確認された。
【化35】
【0050】
参考例3]
参考例1で用いた式(III)で表される化合物30g(6.6×10-3mol)とテトラメチルシクロテトラシロキサン(環状シロキサンH4)8g(3.3×10-2mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン20gに溶解させ、90℃まで加熱した。その後、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10-8molを含有)を滴下して、90℃で2時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去したところ、下記式(IV)で表される液状の生成物30.5gを得た。
【化36】
【0051】
次に、上記工程で得られた式(IV)で表される生成物30g(6.3×10-3mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン20gに溶解させ、ビニルトリメトキシシラン(VMS)3.4g(2.3×10-2mol)と塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.10g(Pt単体として2.5×10-8molを含有)を滴下して、90℃で2時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去したところ、液状の生成物29.5gを得た。
【0052】
参考例3で得られた化合物は、NMRにより下記構造であることが確認された。
【化37】
【0053】
[実施例
反応容器に、下記式(V)
【化38】
で表される化合物100g(9.6×10-3mol)と、参考例1で用いた式(II)で表される化合物4.2g(1.9×10-2mol)をフラスコに入れ、ここに、トリエチルアミン2.5gと1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン10gを混合してフラスコに入れ、50℃で120分反応させた。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去し、下記式(VI)で表される末端に不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー103.5gを得た。
【化39】
(VI)
【0054】
次に、上記工程で得られた式(VI)で表される化合物100g(9.3×10-3mol)、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン20g、トリメトキシシラン2.3g(1.9×10-2mol)、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.05g(Pt単体として1.2×10-2molを含有)を混合し、80℃で8時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去したところ、液状の生成物98.6gを得た。
【0055】
実施例で得られた化合物は、NMRにより下記構造であることが確認された。
【化40】
【0056】
[比較例1〜5]
比較例1〜5の化合物を以下に示す。
【0057】
比較例1:
【化41】
【0058】
比較例2:
【化42】
【0059】
比較例3:
【化43】
(p/q=0.9、p+q≒45)
【0060】
比較例4:
【化44】
(p/q=0.9、p+q≒45)
【0061】
比較例5:
【化45】
【0062】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
実施例1、参考例1〜3及び比較例1〜4のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを、濃度20質量%になるようにNovec 7200(3M社製)に溶解させて表面処理剤を調製した。最表面にSiO2を10nm処理したガラス(コーニング社製 Gorilla)に、各表面処理剤10mgを真空蒸着し(処理条件は、圧力:2.0×10-2Pa、加熱温度:700℃)、50℃、湿度50%の雰囲気下で2時間硬化させて硬化被膜を形成した。
実施例及び比較例5のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製)に溶解させて処理浴を調製した。最表面にSiO2を10nm処理したガラス(コーニング社製 Gorilla)を、処理浴に30秒間浸漬後、150mm/分の速度で引上げ、50℃、湿度50%の雰囲気下で24時間硬化させて硬化被膜を形成した。
【0063】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸に対する接触角(撥油性)を測定した。
【0064】
[マジックインク拭取り性]
処理表面に油性マジック(ゼブラ株式会社製『ハイマッキー』)を塗り、ティッシュペーパー(カミ商事株式会社製エルモア)によるマジックインクの拭取り性を、下記指標を用い、目視により評価した。
◎:1回の拭取り操作で簡単に完全に拭取れる。
○:1回の拭取り操作では少しインクが残る。
△:1回の拭取り操作では半分ほど残る。
×:全く拭きとれない。
【0065】
[耐薬品性の評価]
下記薬品に浸漬後の撥水性の変化を上記と同様に測定した。
1. 耐塩水試験
塩分濃度 :5質量%
浸漬時間 :72時間
2. 耐アルカリ性試験
アルカリ液 :10質量%NaOH水溶液
浸漬時間 :2時間
3. 耐酸性試験
酸液 :10質量%HCl水溶液
浸漬時間 :5時間
【0066】
【表1】
【0067】
上記の結果より、エーテル結合を連結基に有する比較例1、3、4の硬化被膜は耐薬品性に劣る。また、連結基にCONH結合を有する比較例2や、CON(CH3)結合を有する比較例5も耐薬品性に劣る。一方、連結基にCONPh結合を有する実施例は、耐薬品性に優れていた。そのため、実施例の表面処理剤は、撥水撥油性に優れ、且つ耐薬品性に優れており、長期に指紋や皮脂が付着したり、酸やアルカリ洗浄剤が付着したりしても、膜の特性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランは、撥水撥油性、耐薬品性に優れた硬化被膜を与えることができる。このため、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又はその加水分解縮合物を含有する表面処理剤は、特に、タッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなど油脂の付着が想定されるものや、薬液に浸す必要がある部品の撥水撥油層として有用である。