特許第5747821号(P5747821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5747821金属銅膜及びその製造方法、金属銅パターン及びそれを用いた導体配線、金属銅バンプ、熱伝導路、接合材、並びに液状組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747821
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】金属銅膜及びその製造方法、金属銅パターン及びそれを用いた導体配線、金属銅バンプ、熱伝導路、接合材、並びに液状組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 20/02 20060101AFI20150625BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20150625BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20150625BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150625BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20150625BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C23C20/02
   B22F1/02 A
   H01B1/20 Z
   H01B13/00 Z
   H01B5/14 B
   H05K1/09 A
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-531915(P2011-531915)
(86)(22)【出願日】2010年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2010065698
(87)【国際公開番号】WO2011034016
(87)【国際公開日】20110324
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-215003(P2009-215003)
(32)【優先日】2009年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中子 偉夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】神代 恭
(72)【発明者】
【氏名】横澤 舜哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 克之
(72)【発明者】
【氏名】江尻 芳則
(72)【発明者】
【氏名】稲田 麻希
(72)【発明者】
【氏名】黒田 杏子
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−255695(JP,A)
【文献】 特開2009−196249(JP,A)
【文献】 特表2003−533880(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/078448(WO,A1)
【文献】 特開2007−314866(JP,A)
【文献】 特開2005−063979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08,
24/00−30/00
B22F 1/00− 1/02,
H01B 1/20, 5/14,
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる、少なくとも1層の銅系粒子堆積層を、120℃以上に加熱したガス状のギ酸により処理してなる金属銅膜であって、
前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、又は該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とする金属銅膜
【請求項2】
前記銅酸化物が酸化第一銅及び/又は酸化第二銅であることを特徴とする請求項1に記載の金属銅膜。
【請求項3】
前記銅酸化物、及び前記金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体として、コア部が該遷移金属又は合金であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項4】
前記金属状の遷移金属が、銅系粒子堆積層の一部を還元した金属銅であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の金属銅膜。
【請求項5】
前記銅系粒子堆積層の一部を還元する手法が、(1)ホットワイヤ法原子状水素処理、(2)表面波プラズマ処理、(3)RFプラズマ処理、(4)水素下での加熱、(5)一つの溶液中に銅酸化物をイオン化又は錯体化する薬剤と、銅イオン又は銅錯体を還元し金属銅にする還元剤とを共に含み、かつ銅イオンを含まない処理液を用いた処理、及び(6)紫外線照射によリ発生した原子状水素処理のうちのいずれかであることを特徴とする請求項に記載の金属銅膜。
【請求項6】
前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子と銅酸化物粒子とを任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項7】
前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子と、コア部が該金属であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子と、銅酸化物粒子とを任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項8】
前記銅系粒子堆積層が複数の層からなり、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子が堆積してなる層上に、該層に接して銅酸化物粒子を含む層を1層以上堆積してなる層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項9】
前記銅系粒子堆積層が複数の層からなり、銅酸化物粒子を含む層を1層以上積層してなる層上に金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体を含む層を積層してなる層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項10】
前記銅系粒子堆積層が複数の層からなり、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体を含む膜上に銅酸化物粒子を含む層を1層以上積層してなる層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属銅膜。
【請求項11】
銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層を、120℃以上に加熱したガス状のギ酸により処理してなる金属銅膜の製造方法であって、
前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、又は該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とする金属銅膜の製造方法。
【請求項12】
銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層が印刷によりパターニングされており、該パターニングされた層を120℃以上に加熱したガス状のギ酸に接触させる処理法で処理して得られるパターニングされた金属銅パターンであって、
前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、又は該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とするパターニングされた金属銅パターン。
【請求項13】
前記銅系粒子堆積層のパターニングに用いられる印刷法が、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、及びグラビアコータからなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項12に記載のパターニングされた金属銅パターン。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の金属銅パターンを用いた導体配線。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の金属銅パターンを用いた金属銅バンプ。
【請求項16】
請求項12又は13に記載の金属銅パターンを用いた熱伝導路。
【請求項17】
請求項12又は13に記載の金属銅パターンを用いた接合材。
【請求項18】
銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体と、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満である溶剤とを含み、前記銅酸化物、及び前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体のいずれも粒子状で存在し、その平均分散粒径が500nm以下かつ最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、前記銅酸化物の含有量が、前記銅酸化物、金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体、及び溶剤の合計量100体積部に対して1〜80体積部である液状組成物であって、
前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、又は該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とする液状組成物。
【請求項19】
前記銅酸化物、及び前記金属状の遷移金属若しくは合金、又は遷移金属元素を含む遷移金属錯体として、コア部が該遷移金属又は合金であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子を含むことを特徴とする請求項18に記載の液状組成物。
【請求項20】
前記金属元素を含む錯体が前記溶剤の溶液をなしており、該錯体の含有量が該錯体中の金属原子の重量が銅酸化物を含む粒子の重量を100としたときに1〜100であることを特徴とする請求項18に記載の液状組成物。
【請求項21】
前記金属、該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体が粒子状であり、その最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、該粒子の表面積が銅酸化物を含む粒子の重量1gに対し0.4m以上になるように含むことを特徴とする請求項18に記載の液状組成物。
【請求項22】
25℃における動的粘度が100mPa・s以下であることを特徴とする請求項1821のいずれか1項に記載の液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸又はホルムアルデヒドのガス処理により得られる金属銅膜及びその製造方法、金属銅パターン及びそれを用いた導体配線、金属銅バンプ、熱伝導路、接合材、並びに金属銅膜を形成するための液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅は高い電気伝導性と熱伝導性を有し、導体配線材料、熱伝達材料、熱交換材料、放熱材料として広く用いられている。
一方、インクジェット、ジェットディスペンサ、ニードルディスペンサ、ディスペンサ、有版印刷はフォトレジスト工程を用いることなく任意の形状に材料を液状の材料を塗布できるため、オンデマンド生産、省力化、省材料化、低コスト化の点から注目されている。特に、非接触で成形可能なインクジェット、ジェットディスペンサでは、段差や曲面、小面積への印刷が可能であり、有版印刷では不可能なパターン形成が可能である。
【0003】
このような印刷により金属銅パターンを形成する印刷インクとしては、金属銅ナノ粒子(例えば、特許文献1参照)の分散液や金属錯体(例えば、特許文献2参照)の溶液あるいは分散液が提案されている。しかし、銅は室温で酸化状態が安定であり必ず酸化状態の銅原子を含むため、金属銅として導体、導熱性を発現するには酸化状態の銅原子を還元し、さらに金属銅の連続体とする必要がある。
【0004】
また、金属銅ナノ粒子を用いた印刷インクでは、使用前に分散剤を含む場合には分散剤の除去を行った上で、銅酸化物を還元し金属銅粒子同士を焼結・融合して連続体にする必要がある。このような分散剤の除去及び/又は還元焼結手法としては、(a) RFプラズマ(例えば、特許文献3参照)やホットワイヤ法(例えば、特許文献4参照)により水素を活性化して用いる、(b) 水素雰囲気でのキセノンフラッシュ照射、(c)3価以上の多価アルコールと加熱する(例えば、特許文献5参照)、(d) 水素ガス中での加熱、等が挙げられる。
しかし、このような印刷インクと還元焼結手法の組み合わせでは、低接着性および処理印刷層の剥離、高体積抵抗率、深部還元性に問題があり、当該印刷インクを導体配線材料、熱伝達材料、熱交換材料、放熱材料に適用できなかった。
【0005】
低接着性および処理印刷層の剥離、高体積抵抗率の原因は、印刷インク中の金属元素含有粒子を還元加熱して焼結して、粒子間をつなぎ合わせた多孔質な焼結体であるためである。金属の融点よりはるかに低い温度での金属ナノ粒子の焼結では、粉体粒子の持つ大きな表面エネルギーと外部より加えられるエネルギーを駆動力として表面積を縮小するように粒子内で金属原子が移動し、粒子間の接合・融着が進行する(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ある程度粒子間の接合・融着が進行し比表面積が縮小すると、融着の進行は減速・停止する。その結果、スポンジ状の焼結体となる。金属原子はあくまで紛体粒子内で動き、積極的に基板表面に析出することはないため導体層と基板の間に空隙が残り接着性が得られないためである。このような課題に対し、従来は下地樹脂にポリイミドの前駆体の上に導体インクを印刷する(例えば、特許文献6参照)、あるいは半硬化のエポキシ樹脂上に導体インクを印刷し(特願2008−267400号)、下地となる樹脂に流動性を持たせて導体層に追従させ接着性を得る方法が提案されているが、下地樹脂材料や製造方法に制約が生じる。
同様の理由により、金属の融点よりはるかに低い温度での金属ナノ粒子の焼結では、焼結の進行に伴い比表面積がある程度低下した時点で粒子間の融着は停止し、多孔質なスポンジ状の導体層になる。これにより、200℃以下の導体化処理では体積抵抗率はバルク銅の10倍以下にはならないのが問題である。
【0006】
また、(a)の水素を活性化して用いる手法では、同じ手法が油膜の除去やフォトレジスト樹脂の除去に効果があることが報告されている(RFプラズマおよび表面波プラズマ: 特許文献7参照、ホットワイヤ法原子状水素処理: 非特許文献2参照)。このように、水素を活性化して用いる手法では、活性化した水素により樹脂基板がダメージを受けることも問題である。
【0007】
また、発明者らの検討において、RFプラズマあるいは表面波プラズマによる活性化水素処理では2μm以上の深部処理性が得られず、深部の処理性も課題である。
【0008】
一方、その他の還元手法として、ギ酸ガスを用いた還元手法が知られている。ギ酸ガスを用いた還元手法としてギ酸リフロー炉が、銅およびハンダ表面の酸化皮膜の除去に効果があることが報告されている(例えば、特許文献8参照)。このギ酸リフロー炉は、所定の温度の加熱下において、銅酸化物にギ酸ガスを付与してギ酸銅を生成し、生成したギ酸銅を還元して金属銅を生成するものであり、印刷インクの還元・金属化にも効果があると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4155821号公報
【特許文献2】特開2004−162110号公報
【特許文献3】特開2004−119686号公報
【特許文献4】国際公開第2009/054343号
【特許文献5】特開2007−87735号公報
【特許文献6】特開2008−200557号公報
【特許文献7】国際公開第2005/055305号
【特許文献8】特許第3373499号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hwang, K. S. and R. S. German;“Sintering and Heterogeneous Catalysis,”35, Plenum Press(1983)
【非特許文献2】A. Izumi, H. Matsumura, Jpn. J. Appl. Phys. 41, (2002) 4639−4641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者らの検討によると、銅酸化物の印刷インクのギ酸ガス処理では、印刷部に金属銅が析出すると同時に、塗布部の周囲の基板上にも銅が多量に析出することが分かった。一方、ギ酸銅(II)を塗布し窒素下で160℃に加熱した場合にもギ酸銅塗布部が金属銅になると同時に、ギ酸銅(II)の塗布部周囲にも金属銅の析出が見られることが分かった。以上のことから、印刷インクのギ酸ガス処理では、銅酸化物とギ酸ガスが反応してギ酸銅が生成した後、ギ酸銅の熱分解・還元により金属銅が析出するが、それ以外に昇華して印刷インク塗布部以外に達するギ酸銅もあり、そのようなギ酸銅がその場で分解し金属銅となって析出するものと推察される。以上のような金属銅が析出するという問題点を解消できれば、ギ酸ガスを用いた還元手法は、金属銅の形成における既述の諸問題を解決することができ、有用である。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、基板密着性、低体積抵抗率、深部金属性の良好な金属銅膜、及び該金属銅膜を基板のダメージなく深部まで還元して製造し得る金属銅膜の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、基板密着性に優れ、低体積抵抗率で、基板ダメージなく印刷形成した金属銅パターン、及びそれを用いた導体配線、金属バンプ、熱伝導路、接合材を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、印刷形成可能で、基板密着性、低体積抵抗率、深部金属性の良好な金属銅膜や金属銅パターンを形成し得る液状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、ギ酸銅が昇華により塗布部周辺に拡散するよりも前に、ギ酸銅が分解し金属銅が析出すれば塗布部以外への銅の析出は抑えられると考えて触媒の検討を行い、金属状の遷移金属若しくは合金、又はその前駆体となる金属錯体を触媒として銅系粒子堆積層に共存させることで、120℃以上の温度で金属銅が析出し、その際、銅系粒子堆積層以外への金属銅の析出が大幅に抑えられることを見出し本発明に到った。すなわち本発明によると、金属銅膜の形成に際し、金属銅膜を形成したい部位に、前記遷移金属等を含む銅系粒子堆積層を形成し、ギ酸ガスの存在する雰囲気で加熱することで銅系粒子堆積部のみに選択的に金属銅膜を形成することができる 。
【0014】
また検討の結果、当該手法では基板面付近に緻密な金属銅膜の析出が見られ、金属元素を含むナノ粒子を用いたインクで懸念される基板との接着性に優れるという特徴がある。本発明に係る導体化処理では、昇華性を有するギ酸銅を経由することから、昇華により銅原子は粒子外にも拡散でき、触媒金属上や基板上から金属銅が析出したと考える。このことから、基板側に追随性を持たせた樹脂基板を用いることなく基板と金属銅膜との優れた密着性を得ることができる。
【0015】
すなわち、前記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層を、120℃以上に加熱したガス状のギ酸及び/又はホルムアルデヒドにより処理してなることを特徴とする金属銅膜。
【0016】
(2)前記銅酸化物が酸化第一銅及び/又は酸化第二銅であることを特徴とする前記(1)に記載の金属銅膜。
【0017】
(3)前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、又は該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の金属銅膜。
【0018】
(4)前記銅酸化物、及び前記金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体として、コア部が該遷移金属又は合金であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0019】
(5)前記金属状の遷移金属が、銅系粒子堆積層の一部を還元した金属銅であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0020】
(6)前記銅系粒子堆積層の一部を還元する手法が、(1)ホットワイヤ法原子状水素処理、(2)表面波プラズマ処理、(3)RFプラズマ処理、(4)水素下での加熱、(5)一つの溶液中に銅酸化物をイオン化又は錯体化する薬剤と、銅イオン又は銅錯体を還元し金属銅にする還元剤とを共に含み、かつ銅イオンを含まない処理液を用いた処理、及び(6)紫外線照射によリ発生した原子状水素処理のうちのいずれかであることを特徴とする前記(5)に記載の金属銅膜。
【0021】
(7)前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子と銅酸化物粒子とを任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0022】
(8)前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子と、コア部が該金属であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子と、銅酸化物粒子とを任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0023】
(9)前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体からなる粒子が堆積してなる層上に、該層に接して銅酸化物粒子を含む層を1層以上堆積してなる層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0024】
(10)前記銅系粒子堆積層が、銅酸化物粒子を含む層を1層以上積層してなる層上に金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体を含む層を積層してなる層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0025】
(11)前記銅系粒子堆積層が、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体を含む膜上に銅酸化物粒子を含む層を1層以上積層してなる層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属銅膜。
【0026】
(12)銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層を、120℃以上に加熱したガス状のギ酸及び/又はホルムアルデヒドにより処理してなることを特徴とする金属銅膜の製造方法。
【0027】
(13)銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層が印刷によりパターニングされており、該パターニングされた層を120℃以上に加熱したガス状のギ酸及び/又はホルムアルデヒドに接触させる処理法で処理して得られることを特徴とするパターニングされた金属銅パターン。
【0028】
(14)前記銅系粒子堆積層のパターニングに用いられる印刷法が、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、及びグラビアコータからなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする前記(13)に記載のパターニングされた金属銅パターン。
【0029】
(15)前記(13)又は(14)に記載の金属銅パターンを用いた導体配線。
【0030】
(16)前記(13)又は(14)に記載の金属銅パターンを用いた金属銅バンプ。
【0031】
(17)前記(13)又は(14)に記載の金属銅パターンを用いた熱伝導路。
【0032】
(18)前記(13)又は(14)に記載の金属銅パターンを用いた接合材。
【0033】
(19)銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体と、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満である溶剤とを含み、その平均分散粒径が500nm以下かつ最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、前記銅酸化物の含有量が、前記銅酸化物、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体、及び溶剤の合計量100体積部に対して1〜80体積部であることを特徴とする液状組成物。
【0034】
(20)前記遷移金属、合金、又は遷移金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体であることを特徴とする前記(19)に記載の液状組成物。
【0035】
(21)前記銅酸化物、及び前記金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体として、コア部が該遷移金属又は合金であり、シェル部が該銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子を含むことを特徴とする前記(19)又は(20)に記載の液状組成物。
【0036】
(22)前記金属元素を含む錯体が前記溶剤の溶液をなしており、該錯体の含有量が該錯体中の金属原子の重量が銅酸化物を含む粒子の重量を100としたときに1〜100であることを特徴とする前記(19)又は(20)に記載の液状組成物。
【0037】
(23)前記金属、該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体が粒子状であり、その最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、該粒子の表面積が銅酸化物を含む粒子の重量1gに対し0.4m以上になるように含むことを特徴とする前記(19)又は(20)に記載の液状組成物。
【0038】
(24)25℃における動的粘度が100mPa・s以下であることを特徴とする前記(19)〜(23)のいずれかに記載の液状組成物。
【0039】
本願の開示は、2009年9月16日に日本国において出願された特願2009−215003に記載の主題と関連しており、それらの開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、基板密着性、低体積抵抗率、深部金属性の良好な金属銅膜、及び該金属銅膜を基板のダメージなく深部まで還元して製造し得る金属銅膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、基板密着性に優れ、低体積抵抗率で、基板ダメージなく印刷形成した金属銅パターン、及びそれを用いた導体配線、金属バンプ、熱伝導路、接合材を提供することができる。
さらに、本発明によれば、印刷形成可能で、基板密着性、低体積抵抗率、深部金属性の良好な金属銅膜や金属銅パターンを形成し得る液状組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の金属銅膜の生成過程を概念的に示した模式図である。
図2】銅酸化物と触媒活性金属成分の構成を示す概略図である。
図3】実施例1で作製した金属銅膜のFIB加工断面のSEM像(傾斜45°)を示す図面代用写真である。
図4】比較例1で作製した金属銅膜のFIB加工断面のSEM像(傾斜45°)を示す図面代用写真である。
図5】実施例13で作製した金属銅膜を、(A)表面から、(B)裏面(ガラス基板側)から観察した状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の金属銅膜は、銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層を、120℃以上に加熱したガス状のギ酸及び/又はホルムアルデヒドにより処理してなることを特徴としている。
以下に本発明の金属銅膜及びその製造方法、および該金属銅膜を用いた導体配線、バンプ、熱伝導路、接合材について、それぞれを交えて説明する。
【0043】
本発明の金属銅膜は、従来の銅系ナノ粒子の還元・焼結では得られない、太さ1μm以上の金属銅構造あるいは緻密な銅膜を有し、その結果、低抵抗、高接着性を有するが、まずその原理について説明する。
図1は、本発明の銅系粒子堆積層をギ酸ガスにより処理し金属銅膜が作製されるまでの過程を概念的に示している。図1において、符号50は銅系粒子堆積層を示し、符号51は金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体を示し、符号52はギ酸ガスを示し、符号54はギ酸銅が分解して生成した水及び二酸化炭素を示し、符号56は金属銅膜を示す。図1に示すように、銅系粒子堆積層50中の銅酸化物はギ酸ガス52と反応しギ酸銅を生じる。生じたギ酸銅は昇華しガスとして拡散するか、120℃以上の温度で金属銅、水、二酸化炭素に熱分解する。また、ギ酸銅の分解に対し、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体が、ガスとして拡散したギ酸銅と接した場合、あるいは隣接する銅酸化物がギ酸銅となった場合、ギ酸銅を速やかに金属銅、水、二酸化炭素に分解する。これは、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体が、ギ酸銅を分解する触媒作用を有するためと考えられる。その触媒作用により、銅系粒子堆積層中の銅酸化物の金属銅への転換速度を上げると同時に、銅系粒子堆積層外に拡散するギ酸銅量を減らし銅系粒子堆積層以外への銅の析出をほとんどなくすことができる。この方法では、昇華したギ酸銅が比較的長距離を移動することができ、金属成分と銅酸化物成分の割合にもよるが、粒子間を銅酸化物由来の銅で埋めることができる。このようにして形成された銅膜は太さ1μm以上の金属銅構造あるいは緻密な構造となり、バルクの銅に近い性質を示すことになる。なお、ホルムアルデヒドにより処理する場合であっても、酸化されることでギ酸を生じるため、上記ギ酸についての議論がそのまま当てはまる。
【0044】
これに対して、従来の銅系ナノ粒子200℃以下の還元・焼結では、表面エネルギーにより高いエネルギー状態にある粒子表面の銅原子のみが融着してネッキングし、粒子間の隙間はそのまま残ることとなり、低抵抗とするには限度がある。
また、銅酸化物のみからなる粒子堆積層に対し、本発明に係るギ酸ガス処理をした場合、塗布した銅酸化物粒子堆積層以外への金属銅の析出が生じ、金属銅のパターニングはできず、また、生成した金属銅膜にも膜厚斑を生じることとなる。
以下、本発明の各構成要素について説明する。
【0045】
[銅系粒子堆積層]
銅系粒子堆積層は、銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる層であり、本発明においては、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドにより処理する前に形成される層である。金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体は、上述の通り、ギ酸銅の分解に対し触媒活性を有する金属成分と考えられる。このことから、以下において「金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体」を、総称して「触媒活性金属成分」と呼ぶ場合がある。
【0046】
(銅酸化物)
銅酸化物成分は、酸化第一銅及び/又は酸化第二銅が挙げられ、銅系粒子堆積層中において、該銅酸化物を成分として含む粒子(以下、銅酸化物粒子と呼ぶ。)として用いる態様と、触媒活性金属の表面を銅酸化物が被覆する粒子、すなわちコア部が触媒活性金属で、シェル部が銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子(以下、「コア/シェル粒子」と呼ぶ。)として用いる態様とがある。
【0047】
(金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体)
触媒活性金属成分、すなわち金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体としては、具体的には前記遷移金属、合金、又は金属錯体が、それぞれ、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属、これらの金属を含む合金、またはこれらの金属元素を含む遷移金属錯体を用いることができる。当該触媒活性金属成分は、ギ酸銅の分解とそれに伴う金属銅の析出に対する触媒として機能し、銅酸化物をギ酸処理して生成したギ酸銅を分解・還元し、還元により生じた銅元素を金属としてその表面に析出させる。なお、該遷移金属錯体を用いる場合には、ギ酸処理の前あるいはギ酸処理の初期に該遷移金属錯体が熱及び/又はギ酸の作用により分解することで、ギ酸銅の分解に対し触媒活性金属成分が生成する場合と、該遷移金属錯体自体がギ酸銅の分解に対し触媒として働く場合とがある。
【0048】
前記遷移金属錯体としては、Cu、Pd、Pt、Ni、Ag、Au、及びRhからなる群より選択される金属元素を中心金属とし、酸素、カルボン酸、アルコキシド、水、エーテル、アンモニア、アミン、アミド、ニトリル、シアン、炭酸、一酸化炭素、三価リン化合物、一酸化窒素、イソシアニド、アルケン、芳香環、ハロゲン、硝酸等を配位子とするものが挙げられ、具体的には、ギ酸銅(I)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、シアン化銅(I)、オレイン酸銅(II)、銅(II)アンミン錯体、チオシアン化銅、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、アセチルアセトナトパラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、酢酸白金、塩化白金酸、塩化白金、ジクロロエチレンジアミン白金、炭酸ニッケル、ニッケルアンミン錯体、酢酸ニッケル、ギ酸ニッケル、ブロモトリフェニルホスフィン銀、ヨードトリフェニルホスフィン銀、酢酸銀、硝酸銀、酸化銀、酸化金、シアン化金、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、ロジウムノルボルナジエンクロライド、塩化ロジウム等が挙げられる。
【0049】
本発明においては、触媒活性金属成分は、粒子として用いる態様、膜を形成して用いる態様、印刷インク中に遷移金属錯体の溶液として混合する態様とがある。各態様についての詳細は後述する。
【0050】
銅系粒子堆積層において、前述の銅酸化物と触媒活性金属成分とは、図2に示すように構成できる。具体的には、
(a)銅酸化物、及び触媒活性金属成分が、コア部が触媒活性金属であり、シェル部が銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子の状態で存在する態様、すなわち図2(A)に示すように、触媒活性金属成分12の周りに銅酸化物成分13が存在する粒子を用いた態様であり、より具体的には、表面を積極的に修飾して銅酸化物シェルを持たせたものや、粒子の複合化技術を用いて触媒活性金属粒子の周りに銅酸化物を持たせたもの、意図せず表面が酸化されてできた酸化物皮膜を有する粒子が使用できる。
【0051】
(b)触媒活性金属成分を含んでなる粒子と、銅酸化物を成分とする粒子とを任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層とする態様、すなわち図2(B)に示すように、触媒活性金属成分を含んでなる粒子14と銅酸化物成分を含んでなる粒子15とを混ぜて層を形成した態様である。触媒活性金属成分を含んでなる粒子は、触媒活性を有する金属あるいは合金粒子および活性を有する金属元素を含む遷移金属錯体の粒子を使用できる。
【0052】
(c)触媒活性金属成分を含んでなる粒子が堆積してなる層上に、該層に接して銅酸化物粒子を含む層を1層以上堆積してなる層とする態様、すなわち図2(C)に示すように、基板16上に触媒活性金属成分からなる粒子層17を一層設けその上に銅酸化物成分からなる粒子堆積層18を設けた態様である。なお、本態様においては、粒子層17と、粒子堆積層18とで銅系粒子堆積層をなす。
【0053】
(d)銅酸化物からなる粒子を含む層を1層以上堆積してなる層上に、該層に接して触媒活性金属成分を含んでなる粒子が堆積してなる層とする態様、すなわち図2(D)に示すように、基板19上に銅酸化物成分からなる粒子からなる堆積層20を設け、その上に触媒活性金属成分からなる粒子層21を設けた態様である。より具体的には、銅酸化物からなる粒子を含む層を形成した上に、触媒活性金属成分を含んでなる粒子を印刷、塗布、噴霧により付着させる以外に、銅酸化物からなる粒子を含む層の一部を還元処理により金属銅にして触媒活性金属成分からなる粒子層とすることができる。なお、本態様においては、堆積層20と、粒子層21とで銅系粒子堆積層をなす。
【0054】
(e)触媒活性金属成分を含む膜上に銅酸化物からなる粒子を含む層を1層以上堆積してなる層とする態様、すなわち図2(E)に示すように、基板22上に触媒活性金属成分の膜23を設け、その上に銅酸化物成分からなる粒子堆積層24を設けた態様である。なお、本態様においては、膜23と、粒子堆積層24とで銅系粒子堆積層をなす。
【0055】
さらには、(a)、(b)、(c)及び(d)のそれぞれを組み合わせた構成でもよい。例えば、(a)及び(b)を組み合わせた態様(「(f)の態様」と呼ぶ。)、すなわち、触媒活性金属成分からなる粒子、コア部が触媒活性金属成分であり、シェル部が銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子、及び銅酸化物粒子を任意の比率で混合した混合粒子を堆積した層とする態様が挙げられる。
【0056】
以下に、上記(a)〜(f)の各態様における銅系粒子堆積層の形成方法について説明する。
【0057】
[(a)の態様]
前記(a)の態様の銅系粒子堆積層は、以下のようにして得られるコア/シェル構造を有する粒子を含む分散液を調製し、該分散液を塗布液として基板上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0058】
〜コア/シェル構造を有する粒子〜
コア部が触媒活性金属成分で、シェル部が銅酸化物であるコア/シェル構造を有する粒子は、触媒活性金属成分からなる粒子と銅酸化物粒子の複合化、触媒活性金属粒子上に銅酸化物を析出させる、触媒活性金属粒子上に銅を析出させた後に銅層を酸化する、金属銅粒子を作成後その表面を除酸化して銅酸化物のシェルを形成させることにより作製することができる。
特に、コア部の触媒活性金属が銅である場合、すなわちコア部及びシェル部の双方に銅が含まれる場合には、例えば、不活性ガス中のプラズマ炎に原料銅化合物を導入し、冷却用不活性ガスで急冷して製造することもできる。
なお、本発明において使用されるコア/シェル構造を有する粒子は分散性、分散安定性、金属状の遷移金属又は合金の耐酸化性を向上させる目的で表面処理剤により被覆されていてもよい。
本発明において使用されるコア/シェル構造を有する粒子は、一次粒子の数平均粒子径が1〜1、000nmであることが好ましく、1〜500nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。
【0059】
前記分散液中のコア/シェル構造を有する粒子の濃度は、塗布あるいは印刷手法に使用できる粘度、分散性から主に制約を受け、5〜80重量%とすることが好ましく、10〜60重量%とすることがより好ましく、10〜50重量%とすることがさらに好ましい。
【0060】
分散は、超音波分散機、ビーズミルなどのメディア分散機、ホモミキサーやシルバーソン攪拌機などのキャビテーション攪拌装置、アルテマイザーなどの対向衝突法、クレアSS5などの超薄膜高速回転式分散機、自転公転式ミキサなどを用いて行うことができる。
【0061】
[(b)の態様]
前記(b)の態様の銅系粒子堆積層は、金属状の遷移金属又は合金、あるいは遷移金属原子を含む遷移金属錯体を成分とする粒子と、銅酸化物を成分とする粒子とを任意の比率で混合した分散液を調製し、該分散液を塗布液として基板上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0062】
触媒活性金属成分からなる粒子の触媒活性はその表面積に応じて変化する。そのため、銅酸化物を成分とする粒子(X)に対する触媒活性金属成分からなる粒子の表面積は、ギ酸銅の分解とギ酸銅拡散の兼ね合いから、銅酸化物の重量1gに対して触媒活性金属成分からなる粒子の表面積が0.4m以上がより好ましく、0.8m以上がさらに好ましい。
【0063】
触媒活性金属成分は、本態様のように粒子として使用する場合、触媒活性を有する表面積が大きい方が好ましいことから、その数平均一次粒子径は、1〜1000nmとすることが好ましく、1〜100nmとすることがより好ましい。
なお、本発明において使用される銅酸化物を成分とする粒子およびギ酸銅の分解に対し触媒活性を有する金属状の遷移金属又は合金、あるいは遷移金属原子を含む遷移金属錯体を成分とする粒子はいずれも分散性、分散安定性、金属状の遷移金属又は合金の耐酸化性を向上させる目的で表面処理剤により被覆されていてもよい。
【0064】
[(c)の態様]
前記(c)の態様の銅系粒子堆積層を形成するには、まず、触媒活性金属成分からなる粒子が堆積してなる層を形成するが、この層を形成する手法としては、例えば、触媒活性金属成分からなる粒子分散液の塗布、噴霧や印刷、酸性Pdシーダー処理、アルカリPdシーダー処理、金属粒子の静電的吸着等が挙げられる。
【0065】
ギ酸銅の分解に対し触媒活性を有する成分とする粒子分散液を塗布して層形成する場合、該分散液中の触媒活性金属成分からなる粒子の濃度は、0.01〜50重量%とすることが好ましく、0.05〜10重量%とすることがより好ましく、0.1〜5重量%とすることがさらに好ましい。
当該分散液の分散媒としては、ギ酸銅の分解に対し触媒活性を有する成分とする粒子の数平均粒子径は前記(b)において示した数値と同様である。また、当該堆積層の層厚(乾燥後)は、1〜500nmとすることが好ましい。
【0066】
次いで、形成したギ酸銅の分解に対し触媒活性を有する成分とする粒子による堆積層上に、銅酸化物の粒子を分散させた分散液を塗布液として塗布し、乾燥することで得られる堆積層を1層以上積層する。当該堆積層を2層以上形成するには、塗布液の塗布・乾燥を繰り返し行えばよい。当該堆積層は、1〜10層積層することが好ましい。
前記分散中の銅酸化物粒子の濃度は、塗布あるいは印刷手法に使用できる粘度、分散性から主に制約を受け、5〜80重量%とすることが好ましく、10〜60重量%とすることがより好ましく、10〜50重量%とすることがさらに好ましい。当該分散液の分散媒としては、前記(a)において示した分散媒と同様である。
【0067】
[(d)の態様]
前記(d)の態様の銅系粒子堆積層を形成するには、まず既述の(c)において示した銅酸化物の粒子を分散させた分散液を塗布液として塗布し、乾燥することで得られる堆積層を1層以上積層し、その上に触媒活性金属成分を有する層を形成する。触媒活性金属成分を有する層の形成手法は既述の(c)において示した手法以外に、銅系粒子堆積層の上部(一部)を還元し触媒活性金属成分、すなわち金属状の遷移金属たる金属銅とすることでも実現できる。
【0068】
銅酸化物粒子堆積層の上部を還元する手法としては、水素やアンモニアガスを導入した(1)ホットワイヤ法原子状水素処理、(2)表面波プラズマ処理、(3)RFプラズマ処理、(4)水素下での加熱処理、(5)一つの溶液中に銅酸化物をイオン化又は錯体化する薬剤と、銅イオン又は銅錯体を還元し金属銅にする還元剤とを共に含み、かつ銅イオンを含まない処理液を用いた処理、(6)紫外線照射による原子状水素処理、を用いることができる。
なお、銅酸化物の粒子を分散させた分散液としては、前記(c)で説明した分散液と同様である。
【0069】
前記(f)の態様の銅系粒子堆積層は、既述の触媒活性金属を成分とする粒子と、銅酸化物を成分とする粒子と、コア/シェル粒子とを任意の比率で混合した分散液を調製し、該分散液を塗布液として基板上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。当該分散液の分散媒としては、前記(a)において示した分散媒と同様である。
【0070】
触媒活性金属を成分とする粒子(x)、銅酸化物を成分とする粒子(y)の混合比率(x:y)としては、1:1〜1:100000が好ましく、1:1〜1:100000がより好ましく、1:10〜1:10000 がさらに好ましい。銅酸化物を成分とする粒子(y)、及びコア/シェル粒子(z)の混合比率(y:z)としては、100:1〜1:100が好ましく、50:1〜1:10がより好ましく、20:1〜1:1がさらに好ましい。
【0071】
(基板)
本発明の銅導体膜は、基板上に形成されることが好ましく、当該基板の材料としては、具体的には、ポリイミド、ポリエチレンナフレタート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、繊維強化樹脂、無機粒子充填樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、架橋ポリビニル樹脂、ガラス、セラミックス等からなるフィルム、シート、板が挙げられる。
なお、本発明においては、比較的低温での焼結を可能としているため、耐熱性が低い基板を使用することができるなど、使用する基板の制約が少ない。
【0072】
(ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理)
[ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス]
処理ガスとしてはギ酸及び/又はホルムアルデヒドを用いることができる。ホルムアルデヒドは酸化されることでギ酸となり、ギ酸と同様の作用を示す。同様に、メタノールも酸化されるとホルムアルデヒドを経てギ酸となるため、ホルムアルデヒドと同様にメタノールも使用可能であると推察される。
液状のギ酸を沸点である100℃以上に加熱、あるいは減圧してガス状にした後、被処理物に導くことが好ましい。また、液状のギ酸が被処理物に付着すると被処理物の温度はギ酸の沸点である100℃に下がり導体化が進行せず、銅酸化物の一部はギ酸銅に溶け出し銅(I or II)元素含有インクの流失や塗布部位外への銅の析出が起こるため、液状のギ酸が被処理物に付かないようにすることが好ましい。
【0073】
ギ酸ガス及び/又はホルムアルデヒド以外のガス成分は、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドと反応しないものであれば特に制約はなく、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス以外のガス成分を含まなくてもよい。酸素を含む場合にはギ酸との加熱により爆発の危険があるため、酸素とギ酸ガス及び/又はホルムアルデヒドの比率が爆発範囲外であることが好ましい。ギ酸の場合の比率は空気に混ぜた場合、18vol%以下あるいは51vol%以上である。ホルムアルデヒドの場合の比率は空気に混ぜた場合、7vol%以下あるいは73vol%以上である。
【0074】
[処理条件]
ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガスによる処理温度は、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理により金属銅が析出する温度である120℃以上とし、反応速度の点から140℃以上が好ましい。処理温度の上限は基板の耐熱温度により規定される。
処理圧力は、特に制約無く大気圧、減圧、加圧いずれの条件でもよい。
【0075】
(ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理の後処理)
処理に用いたギ酸が金属銅表面に残存すると金属銅の腐食の原因となることから、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理後にギ酸の除去工程を設けてもよい。ギ酸及び/又はホルムアルデヒドの除去方法としては、無酸素ガス気流下での加熱、減圧下での加熱、あるいは水洗を用いることができる。
【0076】
無酸素ガス気流下での加熱としては、ギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理槽内でギ酸及び/又はホルムアルデヒドガスを含まない無酸素ガスを供給しての加熱、無酸素ガスオーブン、無酸素ガス気流での熱源による加熱を用いることができる。減圧下での加熱としては、減圧槽内でギ酸及び/又はホルムアルデヒドガス処理した場合にはギ酸及び/又はホルムアルデヒドガスの供給を停止しての減圧加熱、減圧オーブンを用いることができる。
【0077】
<パターニングされた金属銅パターン>
本発明のパターニングされた金属銅パターンは、銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体とを共に含有してなる銅系粒子堆積層が印刷によりパターニングされており、該パターニングされた層を120℃以上に加熱したガス状のギ酸及び/又はホルムアルデヒドに接触させる処理法で処理して得られることを特徴としている。
すなわち、本発明のパターニングされた金属銅パターンは、本発明の金属銅膜において説明した銅系粒子堆積層の形成に際し、銅系粒子堆積層形成用の塗布液を配線パターン様に基板上に印刷して配線パターンとなる層を形成し、その配線パターンに対し、ギ酸ガスと熱を用いて処理し金属化するのである。
【0078】
前記銅系粒子堆積層のパターニングに用いる印刷法は銅系粒子堆積層を任意の場所に付着させられる手法であればよく、このような手法として、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ジェットディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、グラビアコータ、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、ソフトリソグラフ、ディップペンリソグラフ、粒子堆積法、スプレーコータ、スピンコータ、ディップコータ、電着塗装を用いることができ、中でも、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、及びグラビアコータからなる群より選択されるいずれか1種が好ましい。
【0079】
以上のようにして銅系粒子堆積層パターンを描画した後は、既述の本発明の製造方法と同様に処理をする。すなわち、必要に応じて乾燥させた後、形成された銅系粒子堆積層パターンに対し、既述のギ酸ガスと熱による処理を施す。すると、既述の金属銅膜の製造方法と同様に、銅系粒子堆積層において金属銅が析出し金属銅の連続層となり、しかも、粒子間や層の深部においても金属銅が析出するため、緻密な銅の金属銅パターンが得られる。
従って、本発明の金属銅パターンを用いた導体配線、金属銅バンプ、熱伝導路、接合材は、基板密着性に優れ、低体積抵抗率で、基板ダメージなく印刷形成し得る。ここで、接合材とは、金属・金属間を接着剤やロウ付けのように力学的に接着するものである。
【0080】
<液状組成物>
本発明の液状組成物は、銅酸化物と、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体と、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満である溶剤とを含み、その平均分散粒径が500nm以下かつ最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、前記銅酸化物の含有量が、前記銅酸化物、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体、及び溶剤の合計量100体積部に対して1〜80体積部であることを特徴としている。
本発明の液状組成物は、既述の本発明の金属銅パターンの作製の際に形成する銅系粒子堆積膜の形成に使用する塗布液に適している。従って、本発明の液状組成物における銅酸化物及び金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体は、既述の本発明の金属銅膜においての説明がそのまま妥当する。
【0081】
(溶剤)
溶剤としては、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満、好ましくは、1.0×10Pa・s未満である溶剤を用いる。
このような溶剤としては、例えば以下に示すものが挙げられる。すなわち、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;エチルベンゼン、アニソール、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、フェニルアセトニトリル、フェニルシクロヘキサン、ベンゾニトリル、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、グリコールスルファイト、乳酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒;1−ブタノール、シクロヘキサノール、α−テルピネオール、グリセリンなどのアルコ−ル系溶媒;シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、1,3−ジオキソラン−2−オン、1,5,5-トリメチルシクロヘキセン-3-オン等のケトン系溶媒;ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコール系溶媒;ジヘキシルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、マロノニトリルなどのニトリル系溶媒が例示できる。中でも、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、グリコールスルファイト、プロピレンカーボネートが好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0082】
また、本発明の液状組成物においては、その平均分散粒径が500nm以下かつ最大分散粒径が2μm以下となるように分散している。平均分散粒径が500nmを超えると、印刷性や抵抗の発現安定性が十分でなくなる。例えば、インクジェット印刷法で吐出する際に、インクジェットヘッドノズルの目詰まり等が発生し、安定して印刷することができなくなる。また、オフセット印刷法などに液状組成物を使用したときに、印刷物にかすれ等が発生する。印刷性や抵抗の発現安定性をより改善するため、該粒子の平均分散粒径は300nm以下であることが好ましい。この平均分散粒径は小さいことが好ましいが、通常その下限は5nm程度である。さらに、同様の観点から、該粒子の最大分散粒径は2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
ここで、平均分散粒径及び最大分散粒径は、粒子のブラウン運動による動的光散乱法に基づいて、光子相関法により測定される。平均分散粒径及び最大分散粒径の測定は、例えば、ベックマンコールタ社製「サブミクロン粒子アナライザーN5型」(商品名)を用いて行うことができる。
【0083】
さらに、本発明の液状組成物においては、前記銅酸化物の含有量が、前記銅酸化物、金属状の遷移金属若しくは合金、又は金属元素を含む遷移金属錯体、及び溶剤の合計量100体積部に対して1〜80体積部であり、10〜60体積部とすることが好ましい。80体積部より大きいと、液状組成物の粘度が上昇して印字性が低下するなどの問題が生じる。
【0084】
本発明の液状組成物は、前記金属元素を含む錯体が前記溶剤の溶液をなしており、該錯体の含有量が該錯体中の金属原子の重量が銅酸化物を含む粒子の重量を100としたときに1〜100であることが好ましく、2〜50であることがより好ましい。当該重量範囲を満足することで、十分な量の触媒金属を生成でき、かつ錯体の分解ガスや残渣による悪影響を最小限とできる。
【0085】
本発明の液状組成物は、前記金属、該金属を含む合金、又は該金属元素を含む錯体が粒子状であり、その最大分散粒径が2μm以下となるように分散しており、該粒子の表面積が銅酸化物を含む粒子の重量1gに対し0.4m以上になるように含むことが好ましく、0.8m以上になるように含むことがより好ましい。また、当該数値の上限は250mある。当該表面積の範囲を満足することで、ギ酸銅の分解とギ酸銅拡散の双方が良好に進行する。
【0086】
本発明の液状組成物は、25℃における動的粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましい。当該粘度範囲を満足することで、良好なインクジェット適性が得られる。なお、「25℃における動的粘度」とは、別言すると、測定温度25℃せん断速度10−1でのせん断粘度である。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0088】
[実施例1]
(銅インク(液状組成物)の調製)
銅インクは、CuOナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成)36gと、表面自然酸化Cuナノ粒子(BET比表面積8m/g、日清エンジニアリング)4g(CuO粒子:Cu粒子=90:10)とをポリ瓶に秤量し、固形分40mass%になるようγ−ブチロラクトン(和光純薬工業)を加え、密栓後振り混ぜた後超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6kHz、600W、5分間処理して調製した。CuO粒子:Cu粒子=90:10であることからCuO1gに対するCu粒子の表面積は0.8mである。
なお、25℃における動的粘度((株)Anton Paar、粘弾性測定装置MCR301)は98mPa・s、表面張力(全自動表面張力計CBVP−Z、協和界面科学製)49mN/m、平均分散粒径(レーザー散乱式粒度分布測定装置、ベックマンコールタ製LS13 320)490nm、最大分散粒径1,830nmであった。
【0089】
(銅インク塗布サンプルの作製)
銅箔付きエポキシ基板(E−679F、日立化成工業製)の銅箔をペルオキソ二硫酸アンモニウム(純正化学製)水溶液でエッチングし水洗、乾燥した基板の銅箔面上に前記銅インクを滴下し、ギャップ100μmに調整したベーカーアプリケータ(YBA型、ヨシミツ精機製)により塗布した。その後、100℃に加熱したホットプレート上に置き15分間乾燥し銅系粒子堆積層を形成した銅インク塗布サンプルを得た。
【0090】
(ギ酸ガス処理)
洗気瓶にギ酸を入れ窒素をバブリングしながら110℃のオイルバスで加熱してギ酸ガスの発生装置とした。サンプルはオイルバスで加熱した平底のセパラブルフラスコの底に海砂を敷いた上にセットした。このサンプル表面にクロメルアルメル熱電対をセットしサンプル温度を測定した。このサンプルをセットしたセパラブルフラスコに窒素を流しながら200℃のオイルバスで加熱しサンプルの温度が一定(166℃)になった後、ギ酸ガスの発生装置で発生させたギ酸ガスを含む窒素ガスをこのセパラブルフラスコに通じ、銅系粒子堆積層を20分間処理した。その際、黒色であったサンプルは、ギ酸ガス導入後3分で全体が銅色に変化するのが認められた。処理後、ギ酸ガスの発生装置をはずし、窒素を流しながらセパラブルフラスコを放冷し、サンプルが50℃以下になった後、サンプルを空気中に取り出した。以上のようにして金属銅膜を作製した。
【0091】
(特性評価)
サンプル色は目視で表面とガラス基板側(深部側)を確認した。その結果、表面はつやのない銅色、裏面は金属光沢を有する銅色であった。
該サンプル膜の断面形状はFIB加工装置(FB−2000A、日立製作所製)にてトレンチ加工した断面を45°傾斜させてSEM(XL30、Philips)観察した。当該SEM観察画像を図面代用写真にて図3に示す。図3において、符号32、34、36は、それぞれ、FIB加工保護層(タングステン)、ギ酸ガス処理されたCuOインク層、エポキシ基板である。
該サンプル膜の膜厚は前述の断面のSEM像から計測した。体積抵抗率は四探針法低抵抗率計(ロレスタ−GP、三菱化学製)を用いて測定した表面抵抗に膜厚を乗算して求め、3.0×10−7Ωmであった。
【0092】
[比較例1]
(銅インクの調製)
銅インクは、CuOナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成製)40gをポリ瓶に秤量し、40mass%になるようγ−ブチロラクトン(和光純薬工業製)60gを加え、密栓後振り混ぜた後超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6kHz、600W、5分間処理して銅インクを調製した。
【0093】
(銅インク塗布サンプルの作製)
銅箔付きエポキシ基板(E−679F、日立化成工業製)の銅箔を過硫酸アンモニウム(純正化学製)水溶液でエッチングし水洗、乾燥した基板の銅箔面上に前記銅インクをギャップ200μmに調整したベーカーアプリケータにより塗布した。その後、100℃に加熱したホットプレート上に置き20分間乾燥し銅インク塗布サンプルを得た。
【0094】
(ホットワイヤ法原子状水素処理)
ホットワイヤ原子状水素処理装置(ユニバーサルシステムズ製)に銅インク印刷サンプルをセットし、水素流量50sccm、槽内圧力10Pa、ホットワイヤ投入電力500Wで10分間処理した。処理後の体積抵抗は2.7×10−6Ω・mであった。
該サンプル膜の断面形状はFIB加工装置(FB−2000A、日立製作所製)にてトレンチ加工した断面を45°傾斜させてSEM(XL30、Philips)観察した。当該SEM観察画像を図面代用写真にて図4に示す。図4において、符号38、40、42、44は、それぞれ、FIB加工保護層(タングステン)、CuOインクの還元焼結層、CuOインクの粒子形状の残った層、エポキシ基板を示す。断面の観察から、焼結が進行しインク中のCuO粒子の形状が見られなくなった層は、表面から2μm程度であった。それより深い層では処理前のCuO粒子堆積層の断面と同じモルフォロジーであった。
【0095】
[実施例2]
オイルバス温度を174℃にしサンプル処理温度152℃で処理した以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例3]
オイルバス温度を157℃にしサンプル処理温度140℃で処理した以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0097】
[比較例2]
オイルバス温度を140℃にしサンプル処理温度110℃で処理した以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例4]
分散剤により金属銅ナノ粒子を分散した銅インク(平均粒径 3〜4 nm(カタログ値),Cu1T、ULVAC製)4.7gを室温で窒素ガスを吹き付けて分散媒のトルエンを蒸発乾燥させた後、CuOナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成)25.7gとγ−ブチロラクトン(和光純薬工業)73g(固形分27mass%)を加え超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6kHz、600W、5分間処理し遠心分離機で1500rpm、4分間処理して粗粒を除いて銅インクを調製した。なお、25℃における動的粘度((株)Anton Paar、粘弾性測定装置MCR301)は10 mPa・s、平均分散粒径(レーザー散乱式粒度分布測定装置、ベックマンコールタ製LS13 320)190nm、最大分散粒径1,046nmであった。
ガラスプレパラートに該銅インクをギャップ200μmにしたベーカーアプリケータにより塗布し、室温2時間放置後100℃に加熱したホットプレート上で15分間乾燥し銅系粒子堆積層を有するサンプルを得た。該サンプルを実施例1と同様にギ酸ガスで処理した。該銅インク塗布サンプルは、金属光沢を有する銅色に変化し、四探針法低抵抗率計を用いて測定した表面抵抗は0.03 Ω/□であった。また、塗布部位外への銅の析出は見られなかった。FIB加工断面のSEM観察から測長した膜厚は8μmであった。その他、評価結果を表2に示す。
【0100】
[実施例5]
(銅インクの調製)
銅インクは、CuOナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成)27gをポリ瓶に秤量し、27mass%になるようγ−ブチロラクトン(和光純薬工業)73gを加え、密栓後振り混ぜた後超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6kHz、600W、5分間処理し、遠心分離機で1500rpm、4分間処理して粗粒を除いて銅インクを調製した。25℃における動的粘度((株)エー・アンド・ディー、小型振動式粘度計SV−10)8mPa・s、表面張力(全自動表面張力計CBVP−Z、協和界面科学製)45mN/m、平均分散粒径(レーザー散乱式粒度分布測定装置、ベックマンコールタ製)70nm、最大分散粒径200nmであり、インクジェット印刷への適用が可能であった。
【0101】
(銅インク印刷サンプルの作製)
ガラスプレパラート上に該インクをインクジェット装置(MJPプリンタ、マイクロジェット製)にて吐出量90ng/滴にて行い、1cm×1cmの面上に印刷して銅インク印刷サンプルを得た。銅インク印刷物の外形をレーザー干渉型表面形状測定装置(MM3000、菱化システム製)にて測定し、印刷部とガラス基板の段差から銅インク印刷部の膜厚を求めたところ1μmであった。
【0102】
(Platinum粒子付与)
Platinum Powder(平均粒径:0.14〜0.45μm(カタログ値)、Sigma-Aldrich Chemistry)0.01gとメチルイソブチルケトン(和光純薬)0.99gとを混合し、超音波洗浄機で20分間分散し沈降する前に、銅インク印刷サンプルの銅インク印刷部に一滴たらし、銅インク印刷部全体に延ばした後、乾燥し、Pt粒子を付与した銅系粒子堆積層を形成した。
【0103】
(ギ酸ガス処理)
Pt粒子を付与した銅系粒子堆積層のギ酸ガス処理は、実施例1と同様に行った。
【0104】
(特性評価)
体積抵抗率は四探針法低抵抗率計(ロレスタ−GP、三菱化学製)を用いて測定した表面抵抗に銅インク印刷部の膜厚1μmを乗算して求めた。
本サンプルはCuOナノ粒子の黒色から還元の進行に伴い、銅色へ変色する。これを目視にて観察した。深部還元性は、ガラス基板側から目視で印刷部の裏面を観察し、銅色に変化した場合を深部還元性ありとした。塗布部位外への銅析出は銅インクが印刷されていないガラス基板部分の目視観察により確認した。ガラス基板上に金属銅が析出した場合、暗緑色から銅色に変色が見られる。
以上の特性評価結果を表2に示す。
【0105】
[実施例6]
Platinum Powderの代わりに、Palladium Powder(平均粒径:1.0〜1.5μm(カタログ値)、ChemPur製)を用いた以外は実施例5と同様に実施した。評価結果を表2に示す。
【0106】
[実施例7]
Platinum Powderの代わりに、Silver Nanopowder(平均粒径<100nm(カタログ値)、Sigma-Aldrich Chemistry製)を用いた以外は実施例5と同様に実施した。評価結果を表2に示す。
【0107】
[実施例8]
Platinum Powderの代わりに、Nickel Nanopowder (平均粒径<100nm(カタログ値)、Sigma-Aldrich Chemistry製)を用いた以外は実施例5と同様に実施した。評価結果を表2に示す。
【0108】
[実施例9]
Platinum Powderのメチルイソブチルケトン分散液の代わりにクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)(和光純薬工業)のテトラヒドロフラン溶液を用いた以外は実施例5と同様に実施した。評価結果を表2に示す。
【0109】
[実施例10]
Platinum Powderのメチルイソブチルケトン分散液の代わりにギ酸銅(II)水和物(Sigma-Aldrich Chemistry製)のγ−ブチロラクトン飽和溶液を用いた以外は実施例5と同様に実施した。ギ酸銅(II)水和物は窒素気流下で処理温度まで昇温する際に分解し金属銅を生成し、この金属銅が触媒となり銅インク塗布部のみに金属銅が生成したと考えた。その他、評価結果を表2に示す。
【0110】
[実施例11]
銅インク印刷膜表面に金属粒子を付与する代わりに、ホットワイヤ法原子状水素により還元し金属銅とし、これを触媒活性金属成分とした銅系粒子堆積層に対してギ酸還元を行った。以下に詳細を記す。
【0111】
(銅インク印刷サンプル作製)
実施例5と同様に銅インク印刷サンプルを作製した。
【0112】
(ホットワイヤ法原子状水素処理)
ホットワイヤ法原子状水素処理は、水素を導入したホットワイヤCVD装置(ユニバーサルシステムズ製)を用い、水素流量20sccm、槽内圧力0.4Pa、タングステンワイヤ投入電力520W、タングステンワイヤ温度1560℃(放射温度計測定)、処理時間10分の条件で処理した。ホットワイヤ法原子状水素処理後のサンプル表面はこげ茶色、ガラス基板側から観察したサンプル裏面は黒色であり、表面のみが還元された。表面抵抗は657Ω/□であった。
【0113】
(ギ酸ガス処理)
ホットワイヤ法原子状水素処理後の銅インク印刷サンプルの銅系粒子堆積層を実施例6と同様にギ酸ガス処理、評価した。表面色はつやのない銅色、ガラス基板面側は金属光沢のある銅色であり、体積抵抗率は8.0×10−8Ω・mであった。その他、評価結果を表2に示す。
【0114】
[実施例12]
実施例1で使用した銅箔付き基板を酸性パラジウムシーダ溶液(日立化成工業(株)製、商品名:PD301 250g/L、日立化成工業(株)製、商品名:HS202B 30mL/L)に室温で10分間浸漬後、1M硫酸水溶液で1分間処理、超純水に浸して洗浄、室温で乾燥して基板表面にパラジウム粒子を播種した基板を得た。
該パラジウム粒子蒔種基板に実施例5の銅インクをギャップ100μmに調整したベーカーアプリケータにより塗布した。その後、100℃に加熱したホットプレート上に置き15分間乾燥して銅系粒子堆積層を形成し銅インク塗布基板を得た。
【0115】
該銅インク塗布基板を実施例5と同様にギ酸ガス処理、評価した。その結果、銅インク塗布基板以外の反応容器には銅の析出はなかった。導体層の表面抵抗率は0.019Ω/□であった。その他、評価結果を表2に示す。
【0116】
[比較例3]
実施例5の銅インク印刷基板にプラチナ粒子を付着せず、実施例5と同様にギ酸ガス処理、評価した。評価結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
[比較例4]
ギ酸銅水和物(Sigma-Aldrich Chemistry製)の5mass%水溶液を、銅箔をエッチングした銅箔付きエポキシ基板(E−679F、日立化成工業製)上に塗布し、110℃のホットプレート上で乾燥して基板上にギ酸銅水和物が結晶粒として付着した基板を得た。該基板を160℃に加熱したホットプレート上に置き、逆さにした漏斗をかぶせ、漏斗のガラス管のほうから窒素を流して窒素雰囲気として20分間処理した。
ギ酸銅塗布部は銅色に変化し、ギ酸銅塗布部の周囲の基板も銅色に変色した。
実施例1と同様に導体層を評価し、処理後のギ酸銅塗布部のFIB加工断面のSEM像から求めた膜厚は6μm、表面抵抗測定から求めた体積抵抗率は4.2×10−6Ω・mであった。
以上のように、ギ酸銅は熱分解し金属銅を生成した。また、ギ酸銅は昇華性を有し、塗布部周囲の基板上にも金属銅が析出した。
【0119】
[比較例5]
処理ガスとしてギ酸の代わりにイソプロパノールを用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。表面抵抗を四探針法低抵抗率計(ロレスタ−GP、三菱化学製)により測定したが、測定限界以上、すなわち導通は見られなかった。表面色を目視観察したが、処理前と同様の黒色でありイソプロパノールガス処理前後で変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0120】
[比較例6]
処理ガスとしてギ酸の代わりにエチレングリコールを用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。比較例5と同様に評価したところ、導通は見られず、表面色は黒色のまま変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0121】
[比較例7]
処理ガスとしてギ酸の代わりに酢酸を用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。比較例5と同様に評価したところ、導通は見られず、表面色は黒色のまま変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0122】
[比較例8]
処理ガスとしてギ酸の代わりに酢酸とエチレングリコールの混合物を用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。比較例5と同様に評価したところ、導通は見られず、表面色は黒色のまま変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0123】
[比較例9]
処理ガスとしてギ酸の代わりにアセトアルデヒドを用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。比較例5と同様に評価したところ、導通は見られず、表面色は黒色のまま変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0124】
[比較例10]
処理ガスとしてギ酸の代わりに酢酸とアセトアルデヒドの混合物を用いた以外は実施例2と同様に行い、処理サンプルを得た。比較例6と同様に評価したところ、導通は見られず、表面色は黒色のまま変化は見られなかった。その他、評価結果を表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】
[実施例13]
銅インク深部の還元性を評価するため、インクを厚く盛り評価を行った。銅インクは、CuOナノ粒子40.5gと表面自然酸化Cuナノ粒子4.5g(CuO粒子:Cu粒子=90:10)をポリ瓶に秤量し、固形分45mass%になるようγ−ブチロラクトン5gを加え、密栓後振り混ぜた後超音波洗浄機(B5510J−MTH、Branson製)により60分間処理してペースト状の銅インクを調製した。
このペースト状の銅インクをキャピラリーシリンジより押し出してガラスプレパラート上に厚さ0.8mmの丘状に付着、乾燥させ銅系粒子堆積層を形成したのち、実施例1と同様にギ酸ガスで処理した。
ガラス基板側からの目視観察においてすべて銅色に変化しており、深部還元性があると判断した。図5にその様子を観察した図面代用写真を示す。図5(B)がガラス基板側から観察したものである。
【0127】
[比較例11]
比較例1と同様にして調製した銅インクをベーカーアプリケータによりガラスプレパラートに塗布し、100℃に加熱したホットプレート上に置き15分間乾燥し銅系粒子堆積層を形成した銅インク塗布サンプルを得た。この銅インク塗布サンプルを実施例1のギ酸ガス処理用の反応容器にセットし、ギ酸ガスを含む窒素ガスを導入して室温から160℃に加熱し、160℃に達した後60分間処理した。その結果、銅インク塗布サンプルが斑のある銅色に変化したが、周辺や反応容器の内壁にも多量の銅が析出した。
【0128】
[実施例14]
(銅インク調製)
銅インクは実施例5と同様に調製した。
(基板作製)
ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(N865、大日本インキ化学工業製)10g、硬化剤(LA3018、大日本インキ化学工業製)7.26g、2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業製)0.017g、表面張力調整剤(307、ビッグケミー製)0.022gを2−アセトキシ−1−メトキシプロパン(和光純薬工業製)24.2gに溶解して樹脂溶液を得た。卓上型表面処理装置 (PL16−110A、セン特殊光源製)でUV/O処理したガラスプレパラート上に、該樹脂溶液を1500 rpm、60secの条件でスピンコートし、100℃のホットプレート上で10分乾燥後、180℃のホットプレート上で30分硬化して樹脂塗布基板を作製した。
【0129】
(銅インク印刷サンプル作製)
該樹脂塗布基板上に、実施例6と同様にして銅インクをインクジェット印刷して銅インク印刷サンプルを得た。
【0130】
(ホットワイヤ法原子状水素処理)
実施例11と同様に銅インク印刷サンプルをホットワイヤ法原子状水素処理し銅系粒子堆積層を形成した。ホットワイヤ法原子状水素処理後のサンプル表面はこげ茶色、ガラス基板側から観察したサンプル裏面は黒色であった。表面抵抗測定において測定限界以上の抵抗で導通は見られなかった。
【0131】
(ギ酸ガス処理)
ホットワイヤ法原子状水素処理した銅インク印刷サンプルのギ酸ガス処理は、実施例1と同様に行った。処理後の体積抵抗率は7.8×10−8Ω・mであった。
【0132】
(基板密着性測定)
ギ酸ガス処理後の銅インク印刷層の基板密着性はSAICASにより剥離強度を測定した。平均剥離強度は0.32kN/mであった。
ギ酸ガス処理した銅インク印刷層の基板密着性は比較例13と比べ2.3倍になり、密着力が向上した。図3に見られる基板に沿った緻密層の存在により接着面積が増加し密着力が向上したと考える。
【0133】
[比較例12]
(銅インク印刷サンプル作製)
実施例14と同様に銅インク印刷サンプルを作製した。
【0134】
(ホットワイヤ法原子状水素処理)
ホットワイヤ法原子状水素処理は、水素を導入したホットワイヤ原子状水素処理装置を用い、水素流量70sccm、槽内圧力0.4Pa、タングステンワイヤ投入電力1030W、タングステンワイヤ温度1800℃(放射温度計測定)、処理時間40分の条件で処理した。処理後のサンプル表面は銅色、ガラス基板側から観察したサンプル裏面はこげ茶色であり、銅インク膜厚1.7μmの裏面まで還元された。体積抵抗率は1.7×10−6Ω・mであった。
【0135】
(基板密着性測定)
実施例14と同様に測定した平均剥離強度は0.14kN/mであった。
【0136】
[実施例15]
ギ酸ガスに替えホルムアルデヒドを用いた導体化処理を行った。以下に詳細を記す。
実施例11と同様にして、銅インク印刷膜表面をホットワイヤ法原子状水素により還元し銅インク印刷槽表面を金属銅としたサンプルを作製した(体積抵抗率6.0×10−6Ω・m)。
100mlナスフラスコにパラホルムアルデヒドを10g入れ摺り付き三方コックをつけ、上のガラス管から20cmの注射針を差し込んでパラフィルムでガラス管との隙間を密閉し、注射針から窒素を流しながらナスフラスコを160℃のオイルバスに浸して加熱し、三方コックの側管からホルムアルデヒドを含んだ窒素ガスを得た。該サンプルをオイルバスで加熱した平底のセパラブルフラスコの底に海砂を敷いた上にセットした。このサンプル表面にクロメルアルメル熱電対をセットしサンプル温度を測定した。このサンプルをセットしたセパラブルフラスコにホルムアルデヒドを含む窒素を流しながら197℃のオイルバスで加熱し、サンプルの温度160℃で、60分間処理した。処理後、ギ酸ガスの発生装置をはずし、窒素を流しながらセパラブルフラスコを放冷し、サンプルが50度以下になった後、サンプルを空気中に取り出した。その結果、サンプルの表面色はこげ茶色から茶色に変色し、ガラス基板側の色は黒色から赤銅色に変色した。体積抵抗率は5.4×10−7Ω・mであった。
【0137】
[実施例16]
実施例1と同様に作製した銅インク塗布サンプルを、実施例15と同様にホルムアルデヒドで処理した。その結果、銅インク表面は黒色からつやのない銅色に変化し、ガラス基板側も黒色からつやのない銅色に変化した。処理前に導通のなかった銅インクは処理後に体積抵抗率9.0×10−7Ω・mで導通が得られた。
【0138】
実施例15および実施例16からホルムアルデヒドガスとともに加熱することによっても銅インクが導体化した。それぞれ、ギ酸ガスで処理した実施例1、実施例11と比較すると、1時間処理したにもかかわらず、処理後の銅インクの色調がやや暗く、体積抵抗率も高くなっており、ホルムアルデヒドではギ酸ガスよりやや効果が低かった。
【符号の説明】
【0139】
12 触媒活性金属成分
13 銅酸化物成分
14 触媒活性成分を含んでなる粒子
15 銅酸化物成分を含んでなる粒子
16 19 基板
17 21 22 触媒活性金属成分からなる粒子層
18 20 銅酸化物成分からなる粒子堆積層
23 触媒活性金属成分の膜
24 銅酸化物成分からなる粒子堆積層
図1
図2
図3
図4
図5