(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、エーテル化度が0.5〜1.0のセルロース半合成高分子化合物を0.1重量部〜5重量部含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池多孔膜用スラリー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。
【0019】
[1.電池多孔膜用スラリー組成物]
本発明の電池多孔膜用スラリー組成物(以下、適宜「本発明のスラリー組成物」という。)は、少なくとも、非導電性粒子と、スルホン酸基を有する水溶性重合体と、非水溶性粒子状重合体と、水とを含む。本発明のスラリー組成物では一部の水溶性重合体は水に溶解しているが、別の一部の水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着することによって、非導電性粒子が水溶性重合体の層(分散安定層)で覆われて、非導電性粒子の水中での分散性が向上している。
【0020】
[1−1.非導電性粒子]
本発明のスラリー組成物は、非導電性粒子を含む。非導電性粒子としては、通常は無機粒子を用いる。無機粒子は分散安定性に優れ、本発明のスラリー組成物において沈降し難く、均一なスラリー状態を長時間維持することができるからである。中でも、非導電性粒子の材料としては、電気化学的に安定であり、また、水溶性重合体及び非水溶性粒子状重合体と混合して本発明のスラリー組成物を調製するのに適した材料が好ましい。このような観点から、非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO
3、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。さらに、非導電性粒子は、1つの粒子の中に、前記の材料のうち1種類を単独で含むものであってもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものであってもよい。また、非導電性粒子は、異なる材料で形成された2種類以上の粒子を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、電解液中での安定性と電位安定性の観点から酸化物粒子が好ましく、中でも吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点から酸化チタン、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムがより好ましく、酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0021】
非導電性粒子の体積平均粒子径D50は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。このような体積平均粒子径D50の非導電性粒子を用いることにより、本発明の二次電池用多孔膜(以下、適宜「本発明の多孔膜」という。)の厚みが薄くても、均一な多孔膜を得ることができるので電池の容量を高くすることができる。なお、前記の体積平均粒子径D50は、レーザー回折法で測定された粒度分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。また、ここで評価されている体積平均粒子径D50の値が、非導電性粒子が凝集せずに単独で存在している場合の粒子(一次粒子)の粒子径(一次粒子径)にどれだけ近いかによって、本発明のスラリー組成物における非導電性粒子の分散性を評価することができる。
【0022】
非導電性粒子のBET比表面積は、例えば0.9m
2/g以上、さらには1.5m
2/g以上であることが好ましい。また、非導電性粒子の凝集を抑制し、本発明のスラリー組成物の流動性を好適化する観点から、BET比表面積は大き過ぎず、例えば150m
2/g以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のスラリー組成物が含む非導電性粒子の量は、本発明のスラリー組成物が水溶性重合体及び非水溶性粒子状重合体を後述する量(重量部)だけ含む場合、通常70重量部以上、好ましくは80重量部以上、より好ましくは85重量部以上であり、通常99重量部以下である。非導電性粒子の量を前記範囲の下限以上にすることにより本発明の多孔膜の耐熱性を良好にすることができ、また、本発明の多孔膜における細孔のサイズを大きくして電解液保持特性及びレート特性の高い多孔膜を実現できる。また、非導電性粒子の量を前記範囲の上限以下にすることにより本発明の多孔膜の強度(特に硬さ)を高くできる。
【0024】
[1−2.水溶性重合体]
本発明のスラリー組成物は、水溶性重合体を含む。ここで水溶性重合体とは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5重量%未満の重合体をいう。一方、非水溶性の重合体とは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上の重合体をいう。
【0025】
本発明のスラリー組成物が水溶性重合体を含むことにより、本発明のスラリー組成物における非導電性粒子の分散性を改善することができる。これは、溶媒である水に溶解した水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着して該表面を覆うことにより、非導電性粒子の凝集が抑制されるためと考えられる。このように非導電性粒子の分散性を改善できるので、本発明のスラリー組成物は経時安定性が改善され、長期間保存しても非導電性粒子の粒子径が大きく変化することが少ない。
【0026】
水溶性重合体としては、スルホン酸基(−SO
3H)を有する重合体を用いる。水溶性重合体が有するスルホン酸基の存在密度が増加すると、非導電性粒子の分散性が向上し、また、通常は本発明のスラリー組成物の粘度は低くなる。したがって、水溶性重合体はスルホン酸基を、本発明の効果が得られるだけ多く有することが好ましい。具体的には、水溶性重合体100重量%中のスルホン酸基の重量割合は、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、4重量%以上が特に好ましい。また、通常は本発明の多孔膜を製造する際に水溶性重合体のスルホン酸基が架橋反応を生じるため、本発明の多孔膜ではスルホン酸基により架橋構造が形成される。この場合、水溶性重合体が十分な量のスルホン酸基を有することにより、架橋構造の数を多くして、得られる本発明の多孔膜の強度(特に硬さ)を強くすることができる。なお、水溶性重合体中のスルホン酸基の重量割合の上限は、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下が特に好ましい。
【0027】
スルホン酸基を有するのであるから、水溶性重合体は、スルホン酸基を有する繰り返し単位(以下、適宜「スルホン酸単位」という。)を有する。スルホン酸単位に対応する単量体の例を挙げると、イソプレン及びブタジエン等のジエン化合物の共役二重結合の1つをスルホン化した単量体、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート等の、スルホン酸基含有単量体またはその塩;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等の、アミド基とスルホン酸基とを含有する単量体またはその塩;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)等の、ヒドロキシル基とスルホン酸基を含有する単量体またはその塩;などが挙げられる。なお、水溶性重合体は、スルホン酸単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0028】
水溶性重合体100重量%が含むスルホン酸単位の量は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上であり、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下である。スルホン酸単位の量をこのような範囲に収めることにより、スルホン酸基の量を前記の好適な範囲に収めて、本発明のスラリー組成物の分散性及び安定性、並びに本発明の多孔膜の強度を良好にできる。
【0029】
また、水溶性重合体は、カルボキシル基(−COOH)を含むことが好ましい。水溶性重合体がカルボキシル基を含むことにより、水溶性重合体の非導電性粒子への吸着を促進して非導電性粒子の分散性をより向上させることができる。
【0030】
水溶性重合体100重量%中のカルボキシル基の重量割合は、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、4重量%以上が特に好ましく、また、60重量%以下が好ましく、50重量%以下が好ましい。カルボキシル基の重量割合が前記範囲の下限以上となることにより水溶性重合体の水への溶解性が向上し、カルボキシル基の静電反発により非導電性粒子の分散性を向上させることができ、上限以下となることにより非導電性粒子への吸着性が向上し非導電性粒子の凝集を防ぐことができる。
【0031】
カルボキシル基を有する場合、水溶性重合体は、カルボキシル基を有する繰り返し単位(以下、適宜「カルボキシル単位」という。)を有する。カルボキシル単位に対応する単量体の例を挙げると、モノカルボン酸及びその誘導体、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにこれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステル;などが挙げられる。なお、水溶性重合体は、カルボキシル単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0032】
水溶性重合体100重量%が含むカルボキシル単位の量は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上であり、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下である。カルボキシル単位の量をこのような範囲に収めることにより、カルボキシル基の量を前記の好適な範囲に収めることができる。
【0033】
水溶性重合体がスルホン酸基及びカルボキシル基の両方を含む場合、スルホン酸基とカルボキシル基とのモル比(スルホン酸基/カルボキシル基)は、通常5/95以上、好ましくは10/90以上であり、通常95/5以下、好ましくは90/10以下である。前記のモル比が前記範囲の下限以上となることによりスルホン酸基が非水溶性粒子重合体と架橋構造を形成し多孔膜の強度を向上させることができ、上限以下となることにより水溶性重合体と非導電性粒子との吸着性が向上し、非導電性粒子の分散性を向上させることができる。
【0034】
水溶性重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、スルホン酸単位及びカルボキシル単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。
また、水溶性重合体が異なる2種類以上の繰り返し単位を含む場合には水溶性重合体は共重合体となる。その場合、水溶性重合体の共重合構造は、例えばランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよく、グラフト共重合体でもよく、これらを組み合わせた構造でもよい。中でも製造が容易であることから、通常はランダム共重合体を用いる。
【0035】
水溶性重合体の重量平均分子量は、通常1000以上、好ましくは1500以上であり、通常15000以下、好ましくは10000以下である。水溶性重合体の重量平均分子量が前記範囲の下限値を下回ると非導電性粒子への水溶性重合体の吸着性が低下し、非導電性粒子の分散性も低下する可能性がある。また、水溶性重合体の重量平均分子量が前記範囲の上限値を上回るとかえって非導電性粒子が凝集し易くなり、本発明のスラリー組成物の安定性が低下する可能性がある。なお、重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、水を展開溶媒としたポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算の値として求めればよい。
【0036】
例えば、水溶性重合体の重量平均分子量が小さすぎると、水溶性重合体の水への溶解性が高くなって運動性も高くなる。このため、水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着しても、水溶性重合体の運動性及び水への溶解性の高さから、非導電性粒子からの脱離を起こしやすい。したがって、非導電性粒子の表面に存在する水溶性重合体の層(分散安定層)が疎な状態になり、その結果、非導電性粒子を安定的に分散させることができない可能性がある。逆に、水溶性重合体の重量平均分子量が大きすぎると、複数の非導電性粒子の間で吸着をし、橋架け凝集が起きて、安定性が低下する可能性がある。また、水溶性重合体の重量平均分子量が大きくなると、本発明のスラリー組成物の粘度が上がり、本発明のスラリー組成物の流動性が低下することがある。その場合には、本発明のスラリー組成物の塗膜の形成時に塗膜表面における表面の平滑化(レベリング)が起こりにくくなり、得られる多孔膜に厚みムラが生じる可能性がある。
【0037】
本発明のスラリー組成物に含まれる水溶性重合体の量は、上述した非導電性粒子の量(100重量部)に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上であり、通常4重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1.5重量部以下、特に好ましくは1重量部以下である。水溶性重合体の量を前記範囲の下限値以上とすることによって非導電性粒子の分散性を安定して良好にでき、また、前記範囲の上限値以下とすることによって相対的に非導電性粒子の量を増やすことができるので、耐熱性を向上させることが可能となる。
【0038】
水溶性重合体の製造方法に制限は無い。また、水溶性重合体にスルホン酸基及び必要に応じてカルボン酸基を導入する方法にも制限は無く、例えば、水溶性重合体の製造時にスルホン酸基又はカルボン酸基を有する単量体を用いたり、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合開始剤を用いて重合を行ったり、これらを組み合わせて行ったりすればよい。さらに、スルホン酸基の含有割合を調整する方法にも制限は無く、例えば、スルホン酸基を有する単量体の種類及び重量割合により調整すればよい。
【0039】
[1−3.非水溶性粒子状重合体]
本発明のスラリー組成物は、非水溶性粒子状重合体を含む。非水溶性粒子状重合体は本発明の多孔膜において結着剤として機能し、本発明の多孔膜の機械的強度を維持する役割を果たす。非水溶性粒子状重合体としては、非水溶性の粒子状の重合体であれば任意の種類の重合体を使用してもよいが、中でも、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む重合体が好ましい。(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む非水溶性粒子状重合体は、酸化還元に安定で、高寿命の電池を得やすい。また、これらの繰り返し単位を含むアクリレートを非水溶性粒子状重合体として用いることで、本発明の多孔膜の柔軟性が向上し、それによりスリット時や捲回時に本発明の多孔膜から非導電性粒子が脱落することを抑制できる。
【0040】
(メタ)アクリロニトリル単量体単位とは、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルに由来する繰り返し単位のことを指す。なお、非水溶性粒子状重合体は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位として、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位だけを含んでいてもよく、メタクリロニトリルに由来する繰り返し単位だけを含んでいてもよく、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位とメタクリロニトリルに由来する繰り返し単位の両方を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルに由来する繰り返し単位のことを指す。(メタ)アクリル酸エステルの例を挙げると、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;などが挙げられる。なお、非水溶性粒子状重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位として、1種類だけを含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0042】
非水溶性粒子状重合体が(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む場合、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は、1/99以上が好ましく、5/95以上がより好ましく、また、30/70以下が好ましく、25/75以下がより好ましい。前記重量比が前記範囲の下限値以上となることにより、本発明の二次電池において非水溶性粒子状重合体が電解液に膨潤することによりイオン伝導性が低下することを防止し、レート特性の低下を抑制できる。また、前記重量比が前記範囲の上限値以下となることにより、非水溶性粒子状重合体の強度低下による本発明の多孔膜の強度低下を防止できる。
【0043】
また、非水溶性粒子状重合体は、架橋性基を有することが好ましい。架橋性基を有することにより、非水溶性粒子状重合体同士を架橋させたり、水溶性重合体と非水溶性粒子状重合体とを架橋させたりできるので、本発明の多孔膜が電解液へ溶解したり膨潤したりすることを抑制でき、強靱で柔軟な多孔膜が実現できる。
【0044】
架橋性基としては、通常は熱により架橋反応を生じる熱架橋性基を用いる。架橋性基の例を挙げると、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキサゾリン基、アリル基などが挙げられ、中でも架橋及び架橋密度の調節が容易であるのでエポキシ基やアリル基が好ましい。なお、架橋性官能基の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0045】
架橋性基は、非水溶性粒子状重合体の製造時に、架橋性基を含有する単量体を共重合することで非水溶性粒子状重合体に導入してもよく、架橋性基を有する化合物(架橋剤)を用いた慣用の変性手段により非水溶性粒子状重合体中に導入してもよい。例えば、熱架橋性の架橋性基は、非水溶性粒子状重合体を製造する際に、(メタ)アクリロニトリル単量体単位を与える単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体を与える単量体と、熱架橋性の架橋基を含有する単量体と、必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体とを共重合することで、非水溶性粒子状重合体中に導入することができる。
【0046】
非水溶性粒子状重合体が架橋性基を有する場合、通常、非水溶性粒子状重合体は架橋性基を有する繰り返し単位(以下、適宜「架橋性単量体単位」という。)を有することになる。非水溶性粒子状重合体が有する架橋性基を有する繰り返し単位の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。架橋性単量体単位に対応する単量体又は架橋剤の例を挙げると、以下のものが挙げられる。
【0047】
エポキシ基を含有する単量体としては、例えば、炭素−炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体、ハロゲン原子及びエポキシ基を含有する単量体、などが挙げられる。
炭素−炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン等のジエン又はポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン等のアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、等の、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;などが挙げられる。
【0048】
ハロゲン原子及びエポキシ基を有する単量体としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン;p−クロロスチレンオキシド;ジブロモフェニルグリシジルエーテル;などが挙げられる。
【0049】
N−メチロールアミド基を含有する単量体としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0050】
オキサゾリン基を含有する単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0051】
アリル基を含有する単量体としては、例えば、アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどが挙げられる。
【0052】
また、架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、熱又は光により効果を発揮する架橋剤、などが用いられる。なお、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱架橋性の架橋性基を含有する点で、有機過酸化物、および熱により効果を発揮する架橋剤が好ましい。
【0053】
有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、α,α′ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類:オクタノイルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;パーオキシジカーボネート等のパーオキシエステル類;などが挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、架橋後の樹脂の性能から、ジアルキルパーオキシドが好ましく、アルキル基の種類は、成形温度によって変えることが好ましい。
【0054】
熱により効果を発揮する架橋剤(硬化剤)は、加熱によって架橋反応させうるものであれば特に限定されないが、例えば、ジアミン、トリアミンまたはそれ以上の脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミンビスアジド、酸無水物、ジオール、多価フェノール、ポリアミド、ジイソシアネート、ポリイソシアネートなどが挙げられる。具体的な例としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン類;ジアミノシクロヘキサン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン;1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、イソホロンジアミンN−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環族ポリアミン類;4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフォン、メタフェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;4,4−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4′−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)−4−メチル−シクロヘキサノン、4,4′−ジアジドジフェニルスルホン、4,4′−ジアジドジフェニルメタン、2,2′−ジアジドスチルベン等のビスアジド類;無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ノルボルネン樹脂等の酸無水物類;1,3′ブタンジオール、1,4′−ブタンジール、ヒドロキノンジヒドロキシジエチルエーテル、トリシクロデカンジメタノール等のジオール類;1,1,1−トリメチロールプロパン等のトリオール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等の多価フェノール類;トリシクロデカンジオール、ジフェニルシランジオール、エチレングリコール及びその誘導体、ジエチレングリコール及びその誘導体、トリエチレングリコール及びその誘導体等の多価アルコール類;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−612、ナイロン−12、ナイロン−46、メトキシメチル化ポリアミド、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド等のポリアミド類;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等のジイソシアネート類;ジイソシアネート類の2量体もしくは3量体、ジオール類もしくはトリオール類へのジイソシアネート類のアダクト物等のポリイソシアネート類;イソシアネート部をブロック剤により保護したブロック化イソシアネート類;などが挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、多孔膜の強度、密着性に優れるなどの理由により、芳香族ポリアミン類、酸無水物類、多価フェノール類、多価アルコール類が好ましく、中でも4,4−ジアミノジフェニルメタン(芳香族ポリアミン類)、無水マレイン酸変性ノルボルネン樹脂(酸無水物)、多価フェノール類などが特に好ましい。
【0055】
光により効果を発揮する架橋剤(硬化剤)は、g線、h線、i線等の紫外線、遠紫外線、x線、電子線等の活性光線の照射により、非水溶性粒子状重合体と反応し、架橋化合物を生成する光反応性物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、芳香族ビスアジド化合物、光アミン発生剤、光酸発生剤などが挙げられる。
【0056】
芳香族ビスアジド化合物の具体例としては、4,4′−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)4−メチルシクロヘキサノン、4,4′−ジアジドジフェニルスルフォン、4,4′−ジアジドベンゾフェノン、4,4′−ジアジドジフェニル、2,7−ジアジドフルオレン、4,4′−ジアジドフェニルメタン等が代表例として挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
光アミン発生剤の具体例としては、芳香族アミンあるいは脂肪族アミンの、o−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート、2,6−ジニトロベンジロキシカルボニルカーバメートあるいはα,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジロキシカルボニルカーバメート体等が挙げられる。より具体的には、例えば、アニリン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等のo−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート体が挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
光酸発生剤とは、活性光線の照射によって解裂して、ブレンステッド酸あるいはルイス酸等の酸を生成する物質である。その例としては、オニウム塩、ハロゲン化有機化合物、キノンジアジド化合物、α,α−ビス(スルホニル)ジアゾメタン系化合物、α−カルボニル−α−スルホニル−ジアゾメタン系化合物、スルホン化合物、有機酸エステル化合物、有機酸アミド化合物、有機酸イミド化合物等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0059】
非水溶性粒子状重合体が架橋性官能基を有する場合、非水溶性粒子状重合体における架橋性単量体単位の存在量は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、また、5重量部以下が好ましく、4重量部以下がより好ましく、3重量部以下が特に好ましい。前記範囲の下限値以上とすることにより、本発明の多孔膜の強度を高くしたり、本発明の多孔膜が電解液で膨潤して本発明の二次電池のレート特性が低下することを防止したりできる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、架橋反応が過度に進行することによる本発明の多孔膜の柔軟性の低下を防止できる。
【0060】
さらに、非水溶性粒子状重合体は、上述した繰り返し単位(すなわち、(メタ)アクリロニトリル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および架橋性基単量体単位)以外にも、その他の任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。前記任意の繰り返し単位に対応する単量体の例を挙げると、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;などが挙げられる。なお、非水溶性粒子状重合体は、前記任意繰り返し単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。ただし、上述したような(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことによる利点を顕著に発揮する観点からは、前記任意の繰り返し単位の量は少ないことが好ましく、前記任意の繰り返し単位を含まないことが特に好ましい。
【0061】
非水溶性粒子状重合体の重量平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上であり、好ましくは500000以下、より好ましくは200000以下である。非水溶性粒子状重合体の重量平均分子量が上記範囲にあると、本発明の多孔膜の強度及び非導電性粒子の分散性を良好にし易い。
【0062】
非水溶性粒子状重合体の体積平均粒子径D50は、0.01μm以上が好ましく、また、0.5μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。非水溶性粒子状重合体の体積平均粒子径D50を前記範囲の下限値以上にすることで、本発明の多孔膜の多孔性を高く維持して多孔膜の抵抗を抑制し、電池物性を良好に保つことができ、また、前記範囲の上限値以下にすることで、非導電性粒子と非水溶性粒子状重合体との接着点を多くして結着性を高くすることができる。
【0063】
非水溶性粒子状重合体のガラス転移温度(Tg)は、20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが特に好ましい。前記ガラス転移温度(Tg)が前記範囲であることにより、本発明の多孔膜の柔軟性が上がり、電極及びセパレーターの耐屈曲性が向上し、本発明の多孔膜が割れることによる不良率を下げることができる。また、本発明の多孔膜、セパレーター及び電極をロールに巻き取る時や捲回時にヒビ、欠け等を抑制することもできる。なお、非水溶性粒子状重合体のガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。非水溶性粒子状重合体のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、−50℃以上とすることができる。
【0064】
本発明のスラリー組成物に含まれる非水溶性粒子状重合体の量は、上述した非導電性粒子の量(重量部)に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは8重量部以下、より好ましくは6重量部以下である。非水溶性粒子状重合体の量を前記範囲の下限値以上とすることによって本発明の多孔膜の強度を高くすることができ、また、前記範囲の上限値以下とすることによって本発明の多孔膜の透気度を抑制して本発明の二次電池のレート特性を良好にすることができる。また、非水溶性粒子状重合体の量を前記の範囲とすることは、非導電性粒子同士の結着性及び、電極合剤層又は有機セパレーターへの結着性と、柔軟性とを維持しながらも、Liの移動を阻害し、本発明の二次電池の抵抗が増大することを抑制することができる点でも意義がある。
【0065】
本発明のスラリー組成物において、水溶性重合体と非水溶性粒子状重合体との重量比(水溶性重合体/非水溶性粒子状重合体)は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、また、1.5以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。前記重量比が前記範囲の下限値以上となることにより非導電性粒子の分散性と多孔膜の強度を向上させることができ、上限値以下となることにより電池多孔膜用スラリーの安定を向上させることができる。
【0066】
非水溶性粒子状重合体の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法も用いることができる。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま本発明のスラリー組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、非水溶性粒子状重合体を製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。分散剤は通常の合成で使用されるものでよく、具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩である。分散剤の量は任意に設定でき、モノマー総量100重量部に対して、通常0.01重量部〜10重量部程度である。
【0067】
[1−4.溶剤]
本発明のスラリー組成物は、溶剤として水を含む。本発明のスラリー組成物においては、このような水の中でも非導電性粒子が凝集し難く、良好に分散する。
【0068】
本発明のスラリー組成物が含む水の量は、通常、本発明の多孔膜を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度を本発明のスラリー組成物が有する範囲で任意に設定すればよい。具体的には、本発明のスラリー組成物の固形分濃度が、通常20重量%〜50重量%となるように水の量を設定すればよい。
【0069】
[1−5.粘度調整剤]
本発明のスラリー組成物は、粘度調整剤を含んでいてもよい。粘度調整剤を含むことにより、本発明のスラリー組成物の粘度を所望の範囲にして、非導電性粒子の分散性を高めたり、本発明のスラリー組成物の塗工性を高めたりすることができる。
粘度調整剤としては、水溶性の多糖類を使用することが好ましい。多糖類としては、例えば、天然高分子化合物、セルロース半合成高分子化合物などが挙げられる。なお、粘度調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
天然高分子化合物として、例えば、植物もしくは動物由来の多糖類及びたんぱく質等が挙げられる。また、場合により微生物等による発酵処理や、熱による処理がされた天然高分子化合物も例示できる。これらの天然高分子化合物は、植物系天然高分子化合物、動物系天然高分子化合物及び微生物系天然高分子化合物等として分類することができる。
【0071】
植物系天然高分子化合物としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンナン、クインスシード(マルメロ)、アルケコロイド(ガッソウエキス)、澱粉(コメ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦等に由来するもの)、グリチルリチン等が挙げられる。また、動物系天然高分子化合物としては、例えば、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等が挙げられる。さらに、微生物系天然高分子化合物としては、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン等が挙げられる。
【0072】
セルロース半合成高分子化合物は、ノニオン性、アニオン性及びカチオン性に分類することができる。
【0073】
ノニオン性セルロース半合成高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;などが挙げられる。
【0074】
アニオン性セルロース半合成高分子化合物としては、上記のノニオン性セルロース半合成高分子化合物を各種誘導基により置換されたアルキルセルロース並びにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩などが挙げられる。具体例を挙げると、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩等が挙げられる。
【0075】
カチオン性セルロース半合成高分子化合物としては、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、カチオン性、アニオン性また両性の特性を取りうることから、セルロース半合成高分子化合物、そのナトリウム塩及びそのアンモニウム塩が好ましい。さらにその中でも、非導電性粒子の分散性の観点から、アニオン性のセルロース半合成高分子化合物が特に好ましい。
【0077】
また、セルロース半合成高分子化合物のエーテル化度は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下である。ここで、エーテル化度とは、セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)の、カルボキシメチル基等への置換体への置換度のことをいう。エーテル化度は、理論的には0〜3の値を取りうる。エーテル化度が上記範囲にある場合は、セルロース半合成高分子化合物が非導電性粒子の表面に吸着しつつ水への相溶性も見られることから分散性に優れ、非導電性粒子を一次粒子レベルまで微分散できる。
【0078】
さらに、粘度調整剤として高分子化合物(重合体を含む)を使用する場合、ウベローデ粘度計より求められる極限粘度から算出される粘度調整剤の平均重合度は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、特に好ましくは1000以上であり、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。粘度調整剤の平均重合度は本発明のスラリー組成物の流動性及び本発明の多孔膜の膜均一性、並びに工程上のプロセスへ影響することがあるが、平均重合度を前記の範囲にすることにより、本発明のスラリー組成物の経時の安定性を向上させて、凝集物がなく厚みムラのない塗工が可能になる。
【0079】
本発明のスラリー組成物が粘度調整剤を含む場合、粘度調整剤の量は、上述した非導電性粒子の量(重量部)に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上であり、通常5重量部以下、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。粘度調整剤の量を前記の範囲にすることにより、本発明のスラリー組成物の粘度を取り扱い易い好適な範囲にすることができる。また、通常は粘度調整剤は本発明の多孔膜にも含まれることになるが、粘度調整剤の量を前記範囲の下限値以上にすることによって本発明の多孔膜の強度を高くすることができ、また、上限値以下にすることによって本発明の多孔膜の柔軟性を良好にすることができる。
【0080】
[1−6.その他の成分]
本発明のスラリー組成物は、上述した成分以外にも、その他の任意の成分を含んでいてもよい。前記任意の成分は、本発明の二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、前記任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0081】
前記任意の成分としては、例えば、分散剤、電解液分散抑制剤等が挙げられる。
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、重合体化合物が例示される。分散剤の具体的な種類は、通常、使用する非導電性粒子に応じて選択される。
【0082】
また、本発明のスラリー組成物は、例えば、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことにより、本発明のスラリー組成物を塗工する時のはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させたりすることができる。界面活性剤の量としては、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、本発明の多孔膜中で10重量%以下となる量が好ましい。
【0083】
また、本発明のスラリー組成物は、例えば、フュームドシリカ、フュームドアルミナなどの体積平均粒子径100nm未満のナノ微粒子を含んでいてもよい。ナノ微粒子を含むことにより、本発明のスラリー組成物のチキソ性を制御することができ、さらにそれに本発明の多孔膜のレベリング性を向上させることができる。
【0084】
さらに、本発明のスラリー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、水以外の溶剤を含んでいてもよい。例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノン等を含んでいてもよい。
【0085】
[1−7.スラリー組成物の物性等]
本発明のスラリー組成物では、非導電性粒子の分散性が高いので、粘度を容易に低くできる。本発明のスラリー組成物の具体的な粘度は、本発明の多孔膜を製造する際の塗工性を良好にする観点からは、10mPa・s〜2000mPa・sが好ましい。なお、前記の粘度は、E型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0086】
[1−8.電池多孔膜用スラリー組成物の製造方法]
本発明のスラリー組成物の製造方法は、特に限定はされないが、通常は、上述した非導電性粒子、水溶性重合体、非水溶性粒子状重合体及び水、並びに、必要に応じて用いられる前記任意の成分を混合して得られる。混合順序には特に制限は無い。また、混合方法にも特に制限は無いが、通常は、非導電性粒子を速やかに分散させるため、混合装置として分散機を用いて混合を行う。
【0087】
分散機は、上記成分を均一に分散及び混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。中でも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0088】
本発明のスラリー組成物は非導電性粒子の分散性が良好であるので、非導電性粒子の凝集を小さいエネルギーで解くことができる。そのため、短い時間で非導電性粒子を分散させることができる。また、大きな力を加えなくても非導電性粒子を分散させることができるので、非導電性粒子に過剰なエネルギーを加えることがなく、非導電性粒子が意図せず解砕して粒子径が変化することも防止できる。
【0089】
[2.二次電池用多孔膜の製造方法]
本発明のスラリー組成物を用いることにより、本発明の多孔膜を製造することができる。通常は、適切な塗布基材の表面に本発明のスラリー組成物の膜(以下、適宜「塗膜」という。)を形成する工程(塗布工程)と、形成した塗膜から水を除去する工程(乾燥工程)とを行うことにより、本発明の多孔膜を得る(本発明の多孔膜の製造方法)。
【0090】
塗布基材は、本発明のスラリー組成物の塗膜を形成する対象となる部材である。塗布基材に制限は無く、例えば剥離フィルムの表面に本発明のスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜から水を除去して本発明の多孔膜を形成し、剥離フィルムから本発明の多孔膜を剥がすようにしてもよい。しかし、通常は、前記のように本発明の多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点から、塗布基材として電池要素を用いる。このような電池要素の具体例としては、電極及び有機セパレーターなどが挙げられる。
【0091】
塗布基材の表面に本発明のスラリー組成物の塗膜を形成する方法に制限は無く、例えば、塗布法、浸漬法などにより行えばよい。中でも、本発明の多孔膜の厚みを制御し易いことから、塗布法が好ましい。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法及びグラビア法が好ましい。
【0092】
塗膜から水を除去する方法にも制限は無いが、通常は乾燥により水を除去する。乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法などが挙げられる。
乾燥温度は、水が気化して塗膜から除去される温度であればよいが、非水溶性粒子状重合体が熱架橋性基を有する場合、当該熱架橋性基が架橋反応を生じる温度以上の高温で乾燥を行うことが好ましい。塗膜からの水の除去と架橋とを同時に行うことにより工程数を減らして製造効率を向上させることができる。通常は40℃〜120℃で乾燥させる。
【0093】
本発明の多孔膜を製造する際には、上述した塗布工程及び乾燥工程に加えて、更に別の工程を行うようにしてもよい。例えば、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理を行ってもよい。これにより、塗布基材と本発明の多孔膜との密着性を向上させることができる。このような加圧処理は、塗布基材として電極又は有機セパレーター等を用いている場合に、特に有用である。ただし、過度に加圧処理を行うと、本発明の多孔膜の空隙率が損なわれる可能性があるため、圧力および加圧時間を適宜に制御することが好ましい。
【0094】
[3.二次電池用多孔膜]
本発明の多孔膜は、本発明のスラリー組成物から、上述した本発明の多孔膜の製造方法によって製造された膜である。本発明の多孔膜の固形分組成は、通常、本発明のスラリー組成物と同様となる。ただし、例えば水溶性重合体と非水溶性粒子状重合体とが架橋すること等によって別種の化合物が生成することがなどにより、本発明のスラリー組成物とは異なる固形分組成を有する場合もありえる。
【0095】
本発明の多孔膜は非導電性粒子及び非水溶性粒子状重合体の間に空隙を有することにより適度な多孔性を有し、電解液を吸液する。なお、本発明の多孔膜では水溶性重合体が非導電性粒子及び非水溶性粒子状重合体の表面を覆うようにして存在すると考えられるが、その水溶性重合体が前記の空隙を全て埋めることは無いので、水溶性重合体によっても本発明の多孔膜の多孔性が損なわれることは無い。このため、本発明の多孔膜中には電解液が浸透できるので、本発明の多孔膜を電極又はセパレーターに設けても電池反応を阻害することはない。
【0096】
また、本発明のスラリー組成物において非導電性粒子の分散性が良好であるので、塗布工程における塗工精度が高い。このため、本発明の多孔膜の厚みムラを非常に小さくしたり、平滑性を向上させたりできる。したがって、本発明の二次電池の安全性を維持でき、また、本発明の多孔膜を用いて捲回セルを作製した際のピン抜け性を改善できる。
【0097】
さらに、解砕等により非導電性粒子の粒子径が意図せず変動し難いので、本発明の多孔膜においても非導電性粒子の粒子径を所望の範囲に安定して収めることができる。そのため、本発明の多孔膜の空隙率を高く維持して、本発明の二次電池のレート特性を高くできる。また、解砕された微粒子によって本発明の多孔膜の比表面積が意図せず上昇することと防止できるので、非導電性粒子に吸着する水分量を少なくでき、本発明の二次電池でのガス発生を少なくできる。
【0098】
本発明の多孔膜の厚みは、特に限定はされず、本発明の多孔膜の用途あるいは適用分野に応じて適宜に設定される。ただし、薄すぎると均一な膜を形成できない可能性があり、厚すぎると電池内での体積(重量)あたりの容量(capacity)が減る可能性があることから、好ましくは1μm〜50μmである。特に、本発明の多孔膜を電極の表面に設ける場合には、その厚みは1μm〜20μmが好ましい。
【0099】
本発明の多孔膜は、通常、二次電池に設けられる。本発明の多孔膜は、空隙率と柔軟性とのバランスに優れ、また非導電性粒子の保持性が高く、電池の製造過程におけるフィラーの脱落が低減されるので、電池要素の保護膜として特に好適である。例えば、本発明の多孔膜は、電極の電極合剤層の表面に設けられることにより、電極合剤層の保護膜あるいはセパレーターとして好ましく用いられる。
本発明の多孔膜を設ける二次電池の種類に制限は無いが、例えば、リチウムイオン二次電池に設けることができる。また、電極としては、正極及び負極の何れに設けてもよい。
【0100】
[4.二次電池用電極]
本発明の二次電池用電極(以下、適宜「本発明の電極」という。)は、集電体と、集電体の表面に設けられた電極合剤層と、電極合剤層の表面に設けられた本発明の多孔膜とを備える。電極合剤層の表面に本発明の多孔膜を設けても、本発明の多孔膜には電解液が浸透できるので、レート特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。また、本発明の多孔膜は適度な柔軟性を有するため、電極合剤層の表面に設けられると電極の保護膜として機能し、電池の製造過程における電極活物質の脱落防止および電池作動時の短絡防止ができる。
【0101】
[4−1.集電体]
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されない。中でも、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。その中でも、非水電解質二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。
【0102】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
集電体は、電極合剤層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
また、電極合剤層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0103】
[4−2.電極合剤層]
(電極活物質)
電極合剤層は、電極活物質を必須成分として含む。なお、以下の説明においては、適宜、電極活物質の中でも特に正極用の電極活物質のことを「正極活物質」と呼び、負極用の電極活物質のことを「負極活物質」と呼ぶ。通常は本発明の電極はリチウム二次電池において使用されるため、特にリチウム二次電池用の電極活物質について説明する。
【0104】
リチウム二次電池用の電極活物質は、電解質中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものであればよく、無機化合物でも有機化合物でも用いることができる。
【0105】
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。一方、有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性重合体を用いることもできる。さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。また、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
なお、これらの正極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0106】
正極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、体積平均粒子径D50が、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。体積平均粒子径D50がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ合剤スラリー(後述する)および電極を製造する際の取扱いが容易である。
【0107】
負極活物質は、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等を使用できる。さらに、電極活物質は、機械的改質法により表面に導電付与材を付着させたものも使用できる。なお、これらの負極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0108】
負極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、体積平均粒子径D50が、通常1μm以上、好ましくは15μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは30μm以下である。
【0109】
(電極合剤層用結着剤)
電極合剤層は、電極活物質の他に、電極合剤層用結着剤を含むことが好ましい。電極合剤層用結着剤を含むことにより、電極中の電極合剤層の結着性が向上し、電極の撒回時等の工程上においてかかる機械的な力に対する強度が上がる。また、電極中の電極合剤層が脱離しにくくなることから、脱離物による短絡等の危険性が小さくなる。
【0110】
電極合剤層用結着剤としては様々な重合体成分を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いることができる。
【0111】
さらに、以下に例示する軟質重合体も電極合剤層用結着剤として使用することができる。すなわち、軟質重合体としては、例えば、
(i)ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;
(ii)ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
(iii)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などジエン系軟質重合体;
(iv)ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
(v)液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
(vi)ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
(vii)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
(viii)フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
(ix)天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性により官能基を導入したものであってもよい。
【0112】
なお、電極合剤層用結着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0113】
電極合剤層における電極合剤層用結着剤の量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。電極合剤層用結着剤の量が前記範囲であることにより、電池反応を阻害せずに、電極から電極活物質が脱落するのを防ぐことができる。
【0114】
電極合剤層用結着剤は、通常は電極を作製するために溶液もしくは分散液として調製される。その時の粘度は、通常1mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上であり、通常300,000mPa・s以下、好ましくは10,000mPa・s以下である。前記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0115】
(電極合剤層に含まれていてもよいその他の成分)
電極合剤層には、電極活物質及び電極合剤層用結着剤以外にも、その他の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電性付与材(導電剤ともいう)、補強材などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類が単独で含まれていてもよく、2種類以上が任意の比率で組み合わせて含まれていてもよい。
【0116】
導電付与材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛などの炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合には放電レート特性を改善できる。
【0117】
補強材としては、例えば、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。
導電性付与材及び補強剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、それぞれ、通常0重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0118】
(合剤スラリー)
通常、電極合剤層は、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて電極合剤層用結着剤及びその他の成分を含むスラリー(以下、適宜「合剤スラリー」という。)を集電体に付着させて製造する。溶媒としては、電極合剤層が電極合剤層用結着剤を含む場合は、電極合剤層用結着剤を溶解または粒子状に分散するものであればよいが、溶解するものが好ましい。電極合剤層用結着剤を溶解する溶媒を用いると、電極合剤層用結着剤が表面に吸着することにより電極活物質などの分散が安定化する。
【0119】
合剤スラリーは、通常は溶媒を含有し、電極活物質、電極合剤層用結着剤及びその他の成分等を溶解又は分散させる。溶媒としては、電極合剤層用結着剤を溶解し得るものを用いると、電極活物質及び導電性付与材の分散性に優れるので好ましい。電極合剤層用結着剤が溶媒に溶解した状態で用いることにより、電極合剤層用結着剤が電極活物質などの表面に吸着してその体積効果により分散を安定化させていると推測される。
【0120】
合剤スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。具体的な溶媒の種類は、乾燥速度及び環境上の観点から適宜選択することが好ましい。
【0121】
合剤スラリーには、さらに例えば増粘剤などの各種の機能を発現する添加剤を含ませてもよい。増粘剤としては、通常は、合剤スラリーに用いる有機溶媒に可溶な重合体が用いられる。その具体例を挙げると、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。
【0122】
さらに、合剤スラリーには、電池の安定性や寿命を高めるため、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−ジオキサスピロ[4,4]ノナン−2,7−ジオン、12−クラウン−4−エーテル等を含ませてもよい。また、これらは後述する電解液に含ませてもよい。
【0123】
合剤スラリーにおける溶媒の量は、電極活物質及び電極合剤層用結着剤などの種類に応じ、塗工に好適な粘度になるように調整して用いる。具体的には、電極活物質、電極合剤層用結着剤および他の成分を合わせた固形分の濃度が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、また、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下となる量に調整して用いられる。
【0124】
合剤スラリーは、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて含まれる電極合剤層用結着剤及びその他の成分を、混合機を用いて混合して得られる。混合は、上記の各成分を一括して混合機に供給し、混合してもよい。また、合剤スラリーの構成成分として、電極活物質、電極合剤層用結着剤、導電性付与材及び増粘剤を用いる場合には、導電性付与材および増粘剤を溶媒中で混合して導電材を微粒子状に分散させ、次いで電極合剤層用結着剤、電極活物質を混合することが、スラリーの分散性が向上するので好ましい。混合機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いることができるが、ボールミルを用いると導電性付与材及び電極活物質の凝集を抑制できるので好ましい。
【0125】
合剤スラリーの粒度は、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下である。スラリーの粒度が上記範囲にあると、導電材の分散性が高く、均質な電極が得られる。
【0126】
(電極合剤層の製造方法)
電極合剤層は、例えば、集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に電極合剤層を層状に結着させることにより製造できる。具体例を挙げると、合剤スラリーを集電体に塗布及び乾燥し、次いで、120℃以上で1時間以上加熱処理して電極合剤層を製造できる。
合剤スラリーを集電体へ塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0127】
その後、例えば金型プレス及びロールプレスなどを用い、電極合剤層に加圧処理を施すことが好ましい。加圧処理を施すことにより、電極合剤層の空隙率を低くすることができる。空隙率は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。空隙率が低すぎると、体積容量が大きくなり難くなったり、電極合剤層が剥がれ易くなって不良を発生し易くなったりする。また、空隙率が高すぎると、充電効率及び放電効率が低くなる可能性がある。
また、電極合剤層用結着剤として硬化性の重合体を用いる場合、合剤スラリーを塗布した後の適切な時期に電極合剤層用結着剤を硬化させることが好ましい。
【0128】
電極合剤層の厚みは、正極及び負極のいずれも、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。
【0129】
[4−3.多孔膜]
本発明の二次電池は、電極合剤層の表面に本発明の多孔膜を備える。これにより、電極合剤層からの電極活物質等の脱離、電極合剤層の剥離、電池の内部短絡等を防止することができる。
【0130】
電極合剤層に本発明の多孔膜を設ける方法としては、例えば、塗布基材として電極合剤層を用いて、本発明の多孔膜の製造方法を行えばよい。具体的な方法の例を挙げると、
1)本発明のスラリー組成物を電極活物質層の表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に電極活物質層を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)本発明のスラリー組成物を、剥離フィルム上に塗布、乾燥して本発明の多孔膜を製造し、得られた本発明の多孔膜を電極活物質層の表面に転写する方法;
などが挙げられる。これらの中でも、前記1)の方法が、本発明の多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。
【0131】
[4−4.その他]
本発明の電極は、本発明の効果を著しく損なわない限り、集電体、電極合剤層及び本発明の多孔膜以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、必要に応じて、電極合剤層と本発明の多孔膜との間に他の層を設けてもよい。この場合、本発明の多孔膜は電極合剤層の表面に間接的に設けられることになる。また、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0132】
[5.二次電池用セパレーター]
本発明の二次電池用セパレーター(以下、適宜「本発明のセパレーター」という。)は、有機セパレーターと、有機セパレーターの表面に設けられた本発明の多孔膜とを備える。セパレーターが本発明の多孔膜を備えていても、本発明の多孔膜には電解液が浸透できるので、レート特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。
【0133】
セパレーターは、電極の短絡を防止するために正極と負極との間に設けられる部材である。このセパレーターとしては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材が用いられ、通常は有機材料からなる多孔性基材(すなわち、有機セパレーター)が用いられる。有機セパレーターの例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。
【0134】
有機セパレーターの厚さは、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また、電池製造時の作業性に優れる。
【0135】
本発明のセパレーターは、有機セパレーターの表面に本発明の多孔膜を備える。有機セパレーターに本発明の多孔膜を設ける方法としては、例えば、塗布基材として有機セパレーターを用いて、本発明の多孔膜の製造方法を行えばよい。具体的な方法の例を挙げると、
1)本発明のスラリー組成物を有機セパレーターの表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に有機セパレーターを浸漬後、これを乾燥する方法;
3)本発明のスラリー組成物を、剥離フィルム上に塗布、乾燥して本発明の多孔膜を製造し、得られた本発明の多孔膜を有機セパレーターの表面に転写する方法;
などが挙げられる。これらの中でも、前記1)の方法が、本発明の多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。
【0136】
本発明の電極は、本発明の効果を著しく損なわない限り、集電体、電極合剤層及び本発明の多孔膜以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、必要に応じて、電極合剤層と本発明の多孔膜との間に他の層を設けてもよい。この場合、本発明の多孔膜は電極合剤層の表面に間接的に設けられることになる。また、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0137】
[6.二次電池]
本発明の二次電池は、少なくとも、正極、負極及び電解液を備える。ただし、本発明の二次電池は、下記の要件(A)及び(B)の一方又は両方を満たす。
(A)正極及び負極の少なくとも一方が、本発明の電極である。
(B)セパレーターとして、本発明のセパレーターを備える。
【0138】
[6−1.電極]
本発明の二次電池は、原則として、正極及び負極の一方又は両方として、本発明の電極を備える。ただし、本発明の二次電池がセパレーターとして本発明のセパレーターを備える場合には、正極及び負極の両方として本発明の電極以外の電極を備えていてもよい。
【0139】
[6−2.セパレーター]
本発明の二次電池は、原則として、セパレーターとして本発明のセパレーターを備える。ただし、本発明の二次電池が正極及び負極の一方又は両方として本発明の電極を備える場合には、セパレーターとして本発明のセパレーター以外のセパレーターを備えていてもよい。また、電極活物質層の表面に設けられた本発明の多孔膜はセパレーターとしての機能を有するので、本発明の電極を備える二次電池においてはセパレーターを省略してもよい。
【0140】
[6−3.電解液]
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0141】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0142】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5モル/L〜2.5モル/Lの濃度で用いられる場合がある。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎても、イオン導電度は低下する傾向にある。通常は電解液の濃度が低いほど電極合剤層用結着剤等の重合体粒子の膨潤度が大きくなるので、電解液の濃度を調整することによりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0143】
さらに、電解液には、必要に応じて、添加剤等を含ませてもよい。
【0144】
[6−4.二次電池の製造方法]
本発明の二次電池の製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。また、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0145】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
【0146】
[評価方法]
〔スラリー組成物の粘度〕
多孔膜用のスラリー組成物の粘度は、JIS Z8803:1991に準じて、円すい−板形回転粘度計(25℃、回転数:6rpm、60rpm、プレートNo:42)により測定し、測定開始60秒後の値を求める。
TI値(チクソトロピックインデックス値)は、回転数6rpm、60秒後の粘度η6と、回転数60rpm、60秒後の粘度η60から、下記式を用いて算出する。
TI値=η6/η60
【0147】
〔非導電性粒子の一次粒子径の測定〕
非導電性粒子の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で非導電性粒子を観察して撮影し、それを印刷した写真から直接測定する。この操作を、無作為に選んだ300個の非導電性粒子について行い、その測定値の平均値を一次粒子径とする。なお、非導電性粒子の一次粒子径の測定は、スラリー組成物を調製する前に行う。
【0148】
〔多孔膜スラリー特性:スラリー組成物の分散性〕
レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−2000:島津製作所社製)を用いて、調整後の多孔膜用のスラリー組成物の非導電性粒子の体積平均粒子径D50を求め、下記の基準でスラリー組成物の分散性を判定する。スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が非導電性粒子の1次粒子径に近いほど、分散性に優れることを示す。
【0149】
A:スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が、非導電性粒子の一次粒子径の1.2倍未満である。
B:スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が、非導電性粒子の一次粒子径の1.2倍以上1.4倍未満である。
C:スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が、非導電性粒子の一次粒子径の1.4倍以上1.6倍未満である。
D:スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が、非導電性粒子の一次粒子径の1.6倍以上1.8倍未満である。
E:スラリー組成物中の非導電性粒子の体積平均粒子径D50が、非導電性粒子の一次粒子径の1.8倍以上である。
【0150】
〔多孔膜スラリー特性:スラリー組成物の保存安定性〕
レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−2000:島津製作所社製)を用いて、調整から1日経過後の多孔膜用のスラリー組成物の非導電性粒子の体積平均粒子径D50(これを「d501」とする)と、調整から5日経過後の体積平均粒子径D50(これを「d505」とする)とを測定する。スラリー組成物中の非導電性粒子の体積粒子径D50の変化率(=d505/d501)を求め、下記の基準によってスラリー組成物の凝集性を判定する。体積平均粒子径D50の変化率が小さいほど、スラリー組成物の保存安定性に優れることを示す。
【0151】
A:体積平均粒子径D50の変化率が1.2倍未満である。
B:体積平均粒子径D50の変化率が1.2倍以上1.4倍未満である。
C:体積平均粒子径D50の変化率が1.4倍以上1.6倍未満である。
D:体積平均粒子径D50の変化率が1.6倍以上1.8倍未満である。
E:体積平均粒子径D50の変化率が1.8倍以上である。
【0152】
〔電極又はセパレーターの粉落ち性〕
電極またはセパレーターを、幅1cm×長さ5cmの矩形に切って試験片とする。試験片の多孔膜側の面を上にして机上に置き、長さ方向の中央(端部から2.5cmの位置)の集電体、または有機セパレーター側の面に、直径1mmのステンレス棒を短手方向に横たえて設置する。このステンレス棒を中心にして、試験片を多孔膜が外側になるように180°折り曲げる。以上の試験を10枚の試験片について行い、各試験片の多孔膜の折り曲げた部分について、ひび割れまたは粉落ちの有無を観察し、下記の基準により判定する。ひび割れ、剥がれ粉落ちが少ないほど、電極合剤層上または有機セパレーター上に形成した多孔膜が粉落ち性に優れることを示す。
【0153】
A:10枚中全てに、ひび割れ及び粉落ちがみられない。
B:10枚中1〜3枚に、ひび割れまたは粉落ちがみられる。
C:10枚中4〜6枚に、ひび割れまたは粉落ちがみられる。
D:10枚中7〜9枚に、ひび割れまたは粉落ちがみられる。
E:10枚中全てに、ひび割れまたは粉落ちがみられる。
【0154】
〔セパレーターのガーレー値の増加率〕
セパレーターをガーレー測定器(熊谷理機工業製 SMOOTH & POROSITY METER(測定径:φ2.9cm))を用いてガーレー値(sec/100cc)を測定する。これにより、多孔膜層を設けることで、元の基材(セパレーター)からガーレー値が増加する割合を求め、下記の基準により判定する。ガーレー値の増加率が低いほどイオンの透過性に優れ、電池でのレート特性に優れることを示す。
【0155】
A:ガーレー値の増加率が4%未満である。
B:ガーレー値の増加率が4%以上8%未満である
C:ガーレー値の増加率が8%以上12%未満である
D:ガーレー値の増加率が12%以上16%未満である。
E:ガーレー値の増加率が16%以上である。
【0156】
〔電池の高温サイクル特性〕
10セルのフルセルコイン型電池を60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を繰り返し放電容量を測定した。10セルの平均値を測定値とし、50サイクル終了時の放電容量と5サイクル終了時の放電容量の比(%)で表される容量保持率を求め、これをサイクル特性の評価基準とする。この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
【0157】
A:容量保持率が80%以上である。
B:容量保持率が70%以上80%未満である。
C:容量保持率が60%以上70%未満である。
D:容量保持率が50%以上60%未満である。
E:容量保持率が40%以上50%未満である。
F:容量保持率が40%未満である。
【0158】
〔電池のレート特性〕
10セルのフルセルコイン型電池を用いて、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルと、5.0Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルをそれぞれ行った。0.1Cにおける放電容量に対する5.0Cにおける放電容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
【0159】
A:充放電レート特性が60%以上である。
B:充放電レート特性が55%以上60%未満である。
C:充放電レート特性が50%以上55%未満である。
D:充放電レート特性が45%以上50%未満である。
E:充放電レート特性が40%以上45%未満である。
F:充放電レート特性が40%未満である。
【0160】
[製造例1.水溶性重合体Aの製造]
攪拌機、還流冷却管および温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、脱塩水を249.0gを予め仕込み、90℃にて攪拌しながら、濃度35%のアクリル酸ナトリウム水溶液286g(固形分100g)と、濃度40%の3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液250g(固形分100g)と、濃度5%の過硫酸アンモニウム水溶液200gとを、それぞれ別々に3.5時間かけて滴下した。全ての滴下終了後、さらに30分間にわたって沸点還流状態を維持して重合を完結させ、共重合体である水溶性重合体Aの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Aの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Aの重量平均分子量は6,000であった。この水溶性重合体Aが含むスルホン酸単位の量は50重量%であり、水溶性重合体A中のスルホン酸基の重量割合は15重量%であった。
【0161】
[製造例2.水溶性重合体Bの製造]
過硫酸アンモニウム水溶液の量を400gにしたこと以外は製造例1と同様にして、共重合体である水溶性重合体Bの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Bの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Bの重量平均分子量は3,000であった。この水溶性重合体Bが含むスルホン酸単位の量は50重量%であり、水溶性重合体B中のスルホン酸基の重量割合は15重量%であった。
【0162】
[製造例3.水溶性重合体Cの製造]
アクリル酸ナトリウム水溶液の量を429g(固形分150g)にし、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液の量を150g(固形分60g)にし、過硫酸アンモニウム水溶液の量を100gにしたこと以外は製造例1と同様にして、共重合体である水溶性重合体Cの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Cの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Cの重量平均分子量は11,500であった。この水溶性重合体Cが含むスルホン酸単位の量は29重量%であり、水溶性重合体C中のスルホン酸基の重量割合は7重量%であった。
【0163】
[製造例4.水溶性重合体Dの製造]
アクリル酸ナトリウム水溶液の量を114g(固形分40g)にし、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液の量を400g(固形分160g)にし、過硫酸アンモニウム水溶液の量を300gにしたこと以外は製造例1と同様にして、共重合体である水溶性重合体Dの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Dの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Dの重量平均分子量は4,000であった。この水溶性重合体Dが含むスルホン酸単位の量は80重量%であり、水溶性重合体D中のスルホン酸基の重量割合は30重量%であった。
【0164】
[製造例5.水溶性重合体Eの製造]
過硫酸アンモニウム水溶液の量を50gにしたこと以外は製造例1と同様にして、共重合体である水溶性重合体Eの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Eの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Eの重量平均分子量は20,000であった。この水溶性重合体Eが含むスルホン酸単位の量は50重量%であり、水溶性重合体E中のスルホン酸基の重量割合は15重量%であった。
【0165】
[製造例6.非水溶性粒子状重合体1の製造]
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、過流酸アンモニウム0.3部、並びに、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマールD−3−D」)0.82部、及び、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、製品名「エマルゲン−120」)0.59部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として2−エチルヘキシルアクリレート78部、アクリロニトリル19.8部、メタクリル酸2部およびアリルメタクリレート(AMA)0.2部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、非水溶性粒子状重合体1を含む水分散液(バインダー分散液)を得た。重合転化率は99%以上であった。
【0166】
得られた非水溶性粒子状重合体1において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は19.8/78であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は0.2重量部である。非水溶性粒子状重合体1の体積平均粒子径は170nmであった。
【0167】
[製造例7.非水溶性粒子状重合体2の製造]
過流酸アンモニウムの量を0.5部に変更したこと、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部を用いたこと、並びに、重合性単量体として、ブチルアクリレート94.8部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、N−メチロールアクリルアミド(NMA)1.2部、およびアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を用いたこと以外は製造例6と同様にして、非水溶性粒子状重合体2を含む水分散液を得た。
【0168】
得られた非水溶性粒子状重合体2において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は2/94.8であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は2.3重量部である。非水溶性粒子状重合体2の体積平均粒子径は370nmであった。
【0169】
[製造例8.非水溶性粒子状重合体3の製造]
アクリロニトリルの量を20.0部にし、アリルメタクリレートを使用しなかったこと以外は製造例6と同様にして、非水溶性粒子状重合体3を含む水分散液を得た。
【0170】
得られた非水溶性粒子状重合体3において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は20/78であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は0.0重量部である。非水溶性粒子状重合体3の体積平均粒子径は170nmであった。
【0171】
[製造例9.非水溶性粒子状重合体4の製造]
2−エチルヘキシルアクリレートの量を74部にし、アクリロニトリルの量を18.5部にし、アリルメタクリレートの量を5.5部にしたこと以外は製造例6と同様にして、非水溶性粒子状重合体4を含む水分散液を得た。
【0172】
得られた非水溶性粒子状重合体4において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は18.5/74であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は5.9重量部である。非水溶性粒子状重合体4の体積平均粒子径は170nmであった。
【0173】
[製造例10.非水溶性粒子状重合体5の製造]
2−エチルヘキシルアクリレートの量を64部にし、アクリロニトリルの量を33.8部にしたこと以外は製造例6と同様にして、非水溶性粒子状重合体5を含む水分散液を得た。
【0174】
得られた非水溶性粒子状重合体5において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は33.8/64であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は0.2重量部である。非水溶性粒子状重合体5の体積平均粒子径は170nmであった。
【0175】
[実施例1]
(試料の用意)
非導電性粒子として、体積平均粒子径D50が0.5μmのアルミナ(住友化学社製、製品名AKP-3000)を用意した。
粘度調整剤として、平均重合度500〜600、エーテル化度0.8〜1.0のカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製、製品名ダイセル1220)を用いた。
【0176】
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
非導電性粒子を94部、水溶性重合体Aを0.5部、非水溶性粒子状重合体1を4部、及び粘度調整剤を1.5部とって混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させ、スラリー組成物1を製造した。
スラリー組成物1について粘度、TI値、分散性及び保存安定性を評価した。結果を表3に示す。
【0177】
(セパレーターの製造)
ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、スラリー組成物1を塗布し、60℃で10分乾燥させた。乾燥の際の加熱により、アリルメタクリレートが有していたアリル基が架橋性基となり、非水溶性粒子状重合体1が分子内架橋を生じた。厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。
得られた多孔膜を備えるセパレーターについて、粉落ち性、並びに、ガーレー値の増加率を評価した。結果を表3に示す。
【0178】
(正極用電極組成物および正極の製造)
正極活物質としてLiCoO
2を95部に、電極合剤層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分量が3部となるように加え、さらに、アセチレンブラック2部、N−メチルピロリドン20部を加えて、プラネタリーミキサーで混合してスラリー状の合剤スラリーを得た。この正極用の合剤スラリーを厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、120℃で30分乾燥した後、ロールプレスして厚さ60μmの正極を得た。
【0179】
(負極用電極組成物および負極の製造)
負極活物質として粒子径20μm、比表面積4.2m
2/gのグラファイトを98部と、電極合剤層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分相当で5部とを混合し、更にN−メチルピロリドン(NMP)を加えてプラネタリーミキサーで混合してスラリー状の合剤スラリーを調製した。この負極用の合剤スラリーを厚さ0.1mmの銅箔の片面に塗布し、110℃で30分乾燥した後、ロールプレスして厚さが70μmの負極を得た。
【0180】
(二次電池の製造)
正極を直径13mmの円形に切り抜いた。また、負極を直径14mmの円形に切り抜いた。また、多孔膜を備えるセパレーターを直径18mmの円形に切り取った。円形の正極の電極合剤層面側に、円形のセパレーター及び円形の負極を順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。円形の負極は、その電極合剤層側の面が、多孔膜を有するセパレーターに接するよう配置した。また、円形の多孔膜を有するセパレーターは、その多孔膜側の面が、負極合剤層に接するよう配置した。この容器中に電解液(溶媒:EC/DEC=1/2、電解質:濃度1MのLiPF
6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。
得られた電池の高温サイクル特性及びレート特性を評価した。結果を表3に示す。
【0181】
[実施例2]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表3に示す。
【0182】
[実施例3]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表3に示す。
【0183】
[実施例4]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表3に示す。
【0184】
[実施例5]
非水溶性粒子状重合体として、非水溶性粒子状重合体1の代わりに非水溶性粒子状重合体3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表3に示す。
【0185】
[実施例6]
非水溶性粒子状重合体として、非水溶性粒子状重合体1の代わりに非水溶性粒子状重合体4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表4に示す。
【0186】
[実施例7]
非水溶性粒子状重合体として、非水溶性粒子状重合体1の代わりに非水溶性粒子状重合体5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表4に示す。
【0187】
[実施例8]
粘度調整剤の量を2.8部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表4に示す。
【0188】
[実施例9]
非導電性粒子として、アルミナの代わりに、体積平均粒子径D50が0.25μmのTiO
2(石原産業社製、製品名CR−EL)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表4に示す。
【0189】
[実施例10]
非水溶性粒子状重合体として、非水溶性粒子状重合体1の代わりに非水溶性粒子状重合体2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表4に示す。なお、実施例10においてはセパレーターの製造工程における乾燥時の加熱により、アリルグリシジルエーテルが有していたアリル基及びエポキシ基が架橋性基となり、水溶性重合体Aと非水溶性粒子状重合体2との間での分子間架橋及び非水溶性粒子状重合体2での分子内架橋が生じた。
【0190】
[実施例11]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Cを0.25部用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表5に示す。
【0191】
[実施例12]
実施例1と同様にして、スラリー組成物1、正極及び負極を製造した。
【0192】
(多孔膜付電極の製造)
スラリー組成物1を、負極の表面に、負極合剤層が完全に覆われるように、乾燥後の厚みが4μmとなるように塗工し、60℃で10分間乾燥し、多孔膜を形成して、多孔膜を備えた負極を得た。
得られた負極について粉落ち性を評価した。結果を表5に示す。
【0193】
(二次電池の製造)
正極を直径13mmの円形に切り抜いた。また、多孔膜を備えた負極を直径14mmの円形に切り抜いた。また、直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製の多孔基材からなるセパレーターを用意した。円形の正極の電極合剤層面側に円形のセパレーター、多孔膜を備えた円形の負極を順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。多孔膜を備えた円形の負極は、その多孔膜側の面が、セパレーターに接するように配置した。この容器中に電解液(溶媒:EC/DEC=1/2、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。
得られた電池の高温サイクル特性及びレート特性を評価した。結果を表5に示す。
【0194】
[実施例13]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Bを用いたこと以外は実施例12と同様にして、スラリー組成物、負極及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表5に示す。
【0195】
[実施例14]
水溶性重合体として、水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Cを用いたこと以外は実施例12と同様にして、スラリー組成物、負極及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表5に示す。
【0196】
[比較例1]
アルミナの量を67部にしたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表6に示す。
【0197】
[比較例2]
水溶性重合体として水溶性重合体Aの代わりに水溶性重合体Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表6に示す。
【0198】
[比較例3]
水溶性重合体を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表6に示す。
【0199】
[比較例4]
水溶性重合体Aの量を5部にしたこと以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、セパレーター及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表6に示す。
【0200】
【表1】
【0201】
【表2】
【0202】
【表3】
【0203】
【表4】
【0204】
【表5】
【0205】
【表6】
【0206】
表3〜6から分かるように、スルホン酸基を有し所定の重量平均分子量を有する水溶性重合体を含むスラリー組成物は分散性及び保存安定性に優れる。また、このスラリー組成物を用いれば、粉落ち性等に優れる多孔膜を実現できる。そして、この多孔膜を電極又はセパレーターに設けることにより、二次電池の高温サイクル特性及びレート特性を改善できる。